産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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みなみ達が校舎へと辿りついた同時刻、


ーーーーダッダッダッ!!!


走る。


ーーーーダッダッダッ!!!


山の中を駆けずり回る。


ーーーーダッダッダッ!!!


「ーーーーチッ!!!」


背後から危険な気配を感じ、足手纏いを背負いながら木の影へと隠れる。


『パラライズブレス』


紫色の煙が、木を腐らせ俺の姿を敵前へと放り出した。

「ーーーーッ!!!」

喉から出かける悪態を飲み込んで、再び山の中を駆けずり回る。

「ーーーーいたぞ、こっちだっ!!!」

「殺せっ!!!」

「捕まえろっ!!!」

背後から来る敵の足音に警戒しながら、ルビー達の元へと向かうルートを考える。


「マナトくん、私の事はいいから早く逃げるんだっ!!!」

「怪我してんだから、黙っててくださいっ!!!」


足手纏い……教授を俵担ぎをして、俺は三時間程走り続けていた。

(だいたい、なんでこのおっさんは危険区域に突っ込んでんだよっ!!!)

教授が『霧』の発生地点の近く、『遺跡』を物色のを発見した。


「喰らえっ、『アングリーロック』ッ!!!」


「ーーーー嘘だろっ!?」


ーーーーガツンッ!!!

「うっ!?」

急いで方向転換をして、ゴツモンの攻撃を避ける。先程まで走っていた方向をみる。

「ーーーーっ、危なかった!?」

地面には1メートル大の大きな岩がめり込んでいた。あのまま進んでいたら、俺はともかく教授はやられていた。


「ーーーーッと、安心してる場合じゃない、なっ!?」


「『パラライズブレス』ッ!!!」

背後から気配を感じ、迫ってくる紫色の煙を避ける。


「ーーーー逃げるなっ!?」


後ろからワラワラと、ガジモンとゴツモンがやってきた。

「……マナトくん、ここは私を置いて」

そんな声が聞こえてきた為、教授の『持ち方』を替え、

「ーーーーさっきからうるせえっ!!!」

ーーーーガンッ!!!

追われてる鬱憤を込めて、膝蹴りする。


「ーーーーうおえっ!?」


そんな悲鳴が聞こえてくるが、気にせず場を離れる。

「……たっく、この後『必要』なんだから、黙っててください」

「…………」

「…………ん?」

なんかやけにぐったりとしている?

さっきよりも重い気がする?

…………そうか!?


「ーーーーよしっ、気絶したなっ!!!」


『ある程度』手加減したから、大丈夫だと思ってはいたが、ついでに気絶させられるなんて『ラッキー』だ。

「こっちから、大きな音が聞こえてきたぞっ!!!」

「人間がいる、探せっ!!!」


「…………ヤバっ!?」

敵の足音が増えた気がする。やっぱり、蹴った音が大きかったのだろうか…………それにしても、


「ーーーーテトの奴、なんの『用事』があるってんだよっ!?」


テトの案内が消えたことによって、俺の『頼んだ事』以外の用事で二時間ぐらい前に姿を消したのだった。

『……こっちは大丈夫そうだね』

『悪いけど、用事ができたから少し離れるよ』

そんな事を言われて、消えてったテトを思い出した。

「くそっ、こっちでの協力者が見つかってないってのに」

(本来であれば、テトに手伝ってもらいながら、『俺』のケモノガミを探す予定だったのにっ!?)

予定が狂い、

「…………っ!?」


目の前に崖が現れたっ!?


(ーーーーこんな時にっ!?)


目の前は崖、背後はデジモン達が包囲網を敷いている……絶体絶命の危機が訪れた。

「ーーーー居たぞっ!!!」

「追い詰めた」

「奴等を供物にっ!!!」


ワラワラと木々の隙間から現れるケモノガミ達……ふと、抱えている『教授』を見る。

(…………俺だけなら逃げられる……が)

教授の身の危険を顧みなければ……正直言って、なんとでもできる。

「へへっ、ついてきてもらうぜ」

敵を撒く事だって、ルビー達と合流する事だって、殴殺する事だって、できる……だけど、

『ーーーーマナト』

『マナトくん』

「…………たっく、なんでこんな時に思い出すのかな?」

一緒に戦った2人の顔が思い浮かび、『それ』を選ぶ(する)事を否定してしまう。

「おいおい、諦めたのかよ」

「いいじゃねえか、ここまで手こずらされたんだからよ……最後ぐらい楽に終わらせてもらったってよ」

ガジモンとゴツモンが目の前に近づいてくる。

ーーーーからん

自身の踵が崖っぷちに追い込まれてしまった。

(…………俺は)


「お(・)い(・)お(・)い(・)、戦(・)う(・)気(・)か(・)?」


俺は教授を地面に寝かせて、両手の拳を胸の前に持ってくる。

「人間が俺達、ケモノガミに敵うわけないだろ」

「あいつ、バカなんじゃねえか?」


「「「ーーーーヒハハハハハハッ!!!」」」


ケモノガミ達の嘲るような視線に、ふと『あの頃』の事を思い出した。


『こいつ、まだ『成長期』のままなんだってよ』

『何ヶ月かかってんだよ』

『俺はいいさ、弱いやつから金を奪うのは楽だからよ』

『こっちは足手纏いはいらないのに』

『成長期……しかも、一体だけとは……それだけでは『この』クエストは受けさせるわけにはいけませんよ』


怒り、侮蔑、呆れ、嫌悪……そして、嘲り。それら全ての感情を向けられて育った『あの』一年間。その頃の逆境が目の前にある。

「……あいにくと、『俺達』は諦めが悪いんだよっ!!!」

俺は走り出した。
後ろの教授に目が行かないように、敵陣へと突っ込んでいくのだ。

「……こいつ、本当に突っ込んで来やがった!?」

ーーーーガンッ!!!

「おべっ!?」

目の前にいるガジモンを気絶させる。

「……一体、目」

ーーーーゴンッ!!!

『デジソウル』で強化していない拳で目の前の敵を殴り飛ばす。

「ーーーーうごがっ!?」

俺を嘲った二体のケモノガミを、瞬殺する。

「ーーーーこいつなかなかやるーーーーぞっ!?」

ーーーーバキンッ!!!

「……三体目」

数メートル先にいたケモノガミを蹴り倒した。

「ーーーーくそっ、リーダー達がやられた!?」

「ーーーーどうするっ!?」

「離れて攻撃しろっ!!!」


『パラライズブレス』

『アングリーロック』

『ポイズンアイビー』


紫色の麻痺毒の煙、大きな岩の砲撃、長く伸びた触手のツル……複数のケモノガミの『必殺技』が飛んでくる。

「ーーーー悪いなっ!!!」

「ーーーーうわっ!?」

煙を避け、岩を砕き、触手を掴んで敵ごと投げ飛ばす。

「くそっ、5体やられたっ!?」

「陣形を組み直せっ!!!」

「敵は2人……しかも、一匹は寝てるんだぞっ、何をやってるんだ!?」

「お前らしっかりしろっ!?」

敵の混乱する様子が見える。


(…………案外、やれるモンだな)


『デジソウル』を使わない戦闘……それが、どこまで戦えるのか不安だった。だけど、思いの外やれていることに、安心感を覚える。

…………そんな時だった。


「奴(・)を(・)出(・)せ(・)」


そんな敵の言葉が聞こえた途端、


ーーーーズシン、ズシン


そんな足音ともに、赤色の影が見えてくる。

「フハハハハッ、こちらにはまだこいつがいるのだよっ!!!」

ガジモンの1体からそんな声が聞こえてきた時、奴は現れた。


「ーーーーギャアアオッ!!!」


3メートルぐらいの赤い巨体に、線の様な黒い模様、ステゴサウルスの様な緑色の板が棘の様に並んでいる……そんな『恐竜』が目の前にやってくる。


「ーーーーこ(・)ん(・)な(・)時(・)に(・)『テ(・)ィ(・)ラ(・)ノ(・)モ(・)ン(・)』か(・)よ(・)ッ(・)!?」


ティラノモン……ガジモン達『成長期』のデジモンとは違い、一つ進化した『成熟期』のデジモン。

「ーーーー先手必勝っ!!!」

俺は奴が攻撃する前に、思いっきり顔面を殴りつける。

ーーーーガキンッ!!!


「……ぎゃお?」


奴はみじろぎひとつする事なく、惚けたような表情でこちらを見た。

(……たったそれだけでこんなに違うのかよ)

『成長期』のガジモン達には効いていた拳が、『成熟期』のティラノモンには全くといって効いていなかった。

「フハハハハッ、貴様程度この『ティラノモン』に勝てるわけがないだろっ!!!」

ティラノモンの後ろで、ゴツモンが嗤っている。

(死ねッ!!!)

「ーーーーひぇっ!?」

殺意を込めた視線で、敵を見据える……どうやら、ティラノモンを従えるに足る『実力』も『根性』もないらしいな。

「……ぷっ」

その様子に、少し笑いが溢れる。

「……貴様……やれ、ティラノモンっ、奴を痛めつけるのだっ!!!」

「ギャアアオッ!!!」

「ーーーーあっ、やべっ!?」

俺が奴の惨めな様子を笑ったことにより、ゴツモンが激昂しやがった。

「心の狭い奴だなっ!!!」

つい、そんな言葉が口に出てしまう。

「ーーーーなんだとっ、ティラノモン!!!」

ティラノモンが口に炎を貯め始める。

「……あっ、お前、ちょっ、待って!?」

急いで敵に背を向けて、教授の元へと走り出した。

『ファイアーブレス』

炎の波がこちらへと向かってくる。

「ーーーー間に合えっ!!!」

急いで教授を抱き抱えて、炎に向かって走り出し…………

「ーーーー奴め、自殺するつもりかっ!?」


ーーーーダンッ!!!

「…………なっ!?」

目(・)の(・)前(・)か(・)ら(・)や(・)っ(・)て(・)く(・)る(・)真(・)紅(・)の(・)炎(・)の(・)上(・)を(・)、俺(・)は(・)思(・)い(・)っ(・)き(・)り(・)跳(・)ん(・)だ(・)の(・)だ(・)。

「フハハハハッ、そうか……空を跳んだのか!?」

ゴツモンがそんな声を上げる。

「バカな奴め、空中では何もできないと言うのに」

(……そうなんだよな、俺はサン◯でもマリ◯でもないから、空中での二段階ジャンプはできないんだよな)

危機的状況は変わっておらず、今後の展開に対して策を巡らすも…………あれ?

「今だお前達集まれっ!!!」

跳んだ方向に、やけに『テンション』の高い声が聞こえてくる。

「今だ貴様等っ、奴を捕まえ…………へっ!?」

「ーーーーあっ!?」

ーーーーバキンッ!!!

「くご、け……貴様……」

指示を出していたゴツモンの頭を踏み潰してしまった。

「やっ、ちゃった?」

たまたま、運良く指示を出している敵を倒すことに成功……だけど、


「副隊長がやられたぞっ!?」

「だが、奴はティラノモンのすぐそばだ」

「ティラノモン、今すぐやれっ!!!」


「まだ、なんにも終わってないんだよねっ!?」

「ギャアアオッ!!!」

背後からそんな声が聞こえてくる。

「…………あはは、バカなのか俺は?」

背後には巨大な影が俺に覆い被さろうとしていた。

赤い腕が俺の体を掴もうと、近づいてくる。


(もう、どうしようもない奴だ)



どう考えても、この現状を打破できる答えはなかった。

(『奥の手』……使うか)

今出すべきではない『奥の手』をひとつ切らざる得ない状況になってしまった。

(…………しょうがない、あいつをーーーー


全てを諦め、『計画』を変えざる得ないと思ったところで、



「ーーーー『弾丸旋風(だんがんせんぷう)』ッ!!!」


白(・)く(・)回(・)転(・)し(・)た(・)何(・)か(・)が(・)テ(・)ィ(・)ラ(・)ノ(・)モ(・)ン(・)の(・)腕(・)を(・)弾(・)き(・)飛(・)ば(・)し(・)た(・)。

「ーーーーギャオアッ!?」

腕を弾き飛ばされたティラノモンが、怪我をした腕を掴んで叫ぶ。

「ーーーーはっ?」

「……えっ?」

敵からそんな声が聞こえてくるが、座り込むように地面に転んでいた俺にはそんなものは目に入らなかった。

…………なぜなら、


「ふう、やっと追いつきました」

「初対面からお世話をかける『ご主人様』ですね」

「それにしてもティラノモン……ですか」

「まっ、私(わたくし)の登場の演出にはなったのでよろしいですが」

「ふふっ、後でしっかりご褒美を貰わないと割にあいませんね」


白くて長い影が俺を見てそんな事を言っていたからだ。

「……お前、が……俺の『ケモノガミ』……なのか?」

まるで、『運命』づけられたような展開に俺は驚いていた。


「ハイ、そうですよ……私がご主人様のケモノガミです!!!」


白くて長い影……『クダモン』がそんな言葉を言った。

「……そ(・)う(・)か(・)…………き(・)ひ(・)ひ(・)っ(・)、な(・)ら(・)っ(・)!!!」

俺はクダモンの隣に立ち上がった。

「……えっ、なにその笑い方……ご主人様ですが、流石にちょっと」

クダモンがなぜか呆気に取られてるけど、どうでもよかった。

「クダモン、やれるな」

「いや、でもご主人様ですし……でもあれは……えっ、なんですか!?」

何か物思いに耽っているが、ようやく戦況を変えられるのだ。

「何をしているティラノモン、奴を倒すのだっ!!!」

「ギャアアオッ!!!」

そんな敵の声が聞こえてくるが、関係なかった。

「クダモン」

俺はクダモンに声をかけながら、足のベルトを開き、『クロスローダー』を取り出す。

「あっ、ハイ!!!」

クダモンは何やら驚いた様子だが、どうでも良かった。

「やるぞ、進化だ」

クロスローダーの中の『超進化』の項目を選び、選択する。

「わかりましたっ…………ご主人様……今、何を!?」

状況についていけていないクダモン……だけど、俺の『決意』はもう決まっていた。

「ギャアアオッ!!!」

ドシン、ドシンと迫ってくるティラノモンを避けて、距離を取る。

「進化だっ!!!」

『超進化』の光が『腕』に纏い始める。アニメのように……再開することができなかったタイキ(あのひと)のような、星のように煌めく光が夕焼けを照らし始める。

「えっ、ご主人様……いったい、なにをっ!?」

クロスローダーに腕の光を重ね、叫ぶ。


「クダモン、『超進化』っ!!!」


「えっ、はっ!?」

クダモンに紫色の光が集まり、球状へと移り変わっていく。


『超(・)進(・)化(・)』


その力と共に、クダモンの姿は移り変わっていった。


[クダモン 進化]


白い蛇のような体は、全長2メートル程の大きな狐へと生まれ変わり、金色の首輪は白と紅のしめ縄へと姿を変えた。

金の光を灯してた瞳は閉じて、朱色の模様が眼(まなこ)を飲み込んだ。

尾には新たな光が芽生え、切先鋭く敵を分(わか)つ為の意思が瞳を生み出した。

胴体には太極が大いなる力を表す。


ーーーーそのデジモンの名は、



「『レッパモン』!!! …………てっ、あれ!?」



『レッパモン』がこの場に『超進化』した。


「…………レッパモン? まあ、いいーーーーさあ、やるぞっ!!!」


頭の中の疑念を追いやり、戦闘へと意識を切り替える。



「えっ、はっ……ハイッ!!!」


そんな間の抜けた返事をしながらも、レッパモンは声に応えてくれる。


「ーーーーギャアアオッ!!!」


そして、ティラノモンは夕焼けに吠えた。



三者三様、夕陽が沈む中の戦いが今、始まったのだ。



第五話 暗闇の校舎 怪しい味方 蜘蛛の巣を辿る手掛かり

 

「────くそっ!!!」

 

 ブイモンが地面を叩く。

 

「…………」

 

 ウチはその姿になにも言えへんかった。

 

 

「ねえ、早くルビーを助けに行こうよ」

 

 

 そんな言葉をギルモンが口にした。

 

「…………ああ、そうだな」

 

 悔しさで手を汚したブイモン……でも、

 

「でも、どうやってルビーを見つける?」

 

 ウチにはどうやって見つければいいかわからんかった……もしかしたら、マナトくんが知っとるかもしれへん、と思ったけど、いらん考えやろか? 

 

 

 使われていない美術室(きょうしつ)。血に染まったヒトが倒れているその中心に、立っていたルビーとマナトくん。マナトくんは狂気に染まった瞳で、ウチらを見る。

 

 

『だ────、ーは──って──……──だ』

 

 

 血濡れた世界で、頭が真っ白になりながらも聞こえてきたその言葉。その様子を見て、ルビーはマナトくんの頬をひっぱたいた。

 

『ーれ──あ──ーは……っ!?』

 

 泣きながら言ったルビーと、マナトくんの驚いたような、『嫌悪』するような表情が目に入ってきた。

 

 

 鏡に映った自分が問う。

 

 

 ……ほんまに、味方だと(そう)思う? 

 

 

「────っ!?」

 

 

 頭をブンブンと振るって、余計なことを考えるのをやめる。

 

(……流石に、被害妄想やな)

 

 一瞬変な考えが頭をよぎる……が、ウチはマナトくんが多くの人を助けてきたことを知っとる。そんな間違った事を考えたらあかんねん。

 

「……なあ、あんたやさり……ルビーが言ってたマナトって奴」

 

 ブイモンがこっちに来た……でも、ちょっと様子がおかしい。

 

 

 

「本(・)当(・)に(・)味(・)方(・)な(・)の(・)か(・)?」

 

 

 

 ────ドキリ、と胸が鳴った。

 

「いややわ、なんで急にそないなこと言うねん」

 

 ウチは自身の心に刺さった疑念に、ブイモンは容赦なく言葉を突っ込んでいく。

 

 

「だって、『ルビー』や『みなみ』をこの世界に連れてきた……いいや、『巻き込んだ』のはマナト」

 

 

「ルビーが連れ去られた場所を指定したのも」

 

 

「ルビーが危険なのに助けに来ないのも」

 

 

「本当はマナトって奴が────

 

 

 

 

「────違(・)う(・)よ(・)」

 

 

 

 不意に空からそんな声が聞こえてくる。

 

「────っ!?」

 

「────っ、誰だっ!?」

 

「────ミナミッ!!!」

 

 ウチが驚き、ブイモンが警戒し、ギルモンが牙を剥く。

 

「タイ……『マナト』は確かに言葉は足らなかったと思うけど……こっちにも『事情』って奴があったから、こっちにはしばらく来れないからね」

 

「…………あれ、は……!?」

 

 ウチを掴んで連れてきた茶色の腕が、そこには浮遊していた。

 

 

「……初めまして、でいいかな」

 

 

「僕の名前は『テト』」

 

 

「マナトの『パートナーデジモン』だ」

 

 

「パ(・)ー(・)ト(・)ナ(・)ー(・)デ(・)ジ(・)モ(・)ン(・)?」

 

 ケモノガミとは何が違うのだろう? 

 

「……そう、君やギルモン、ルビーやブイモンみたいな関係だね」

 

 ギルモンやブイモンと? 

 

「おい、お前っ……マナトがお前のパートナー……なんちゃらって事は、わかった……だけど、ならなんでマナトって奴がここにいないっ!!!」

 

「マナトは今忙しそうだからね。僕が先にこっちに来たんだ」

 

「質問の答えになってないっ……聞けば、ルビーの家族かもしれない奴なんだろっ、だったらルビーの命は大事じゃないのかっ!?」

 

「あいにくだけど、マナトは『今』手が離せない。この程度の『些事』に関わらせる訳にはいかない」

 

 ブイモンとテト2人の問答が聞こえてくる。

 

「…………『些事』、だとっ!!!」

 

 その中で、ブイモンの怒りを買う言葉をテトはいってもうた。

 

「ふざけんな、てめえっ!!!」

 

「『ブイモンヘッド』っ!!!」

 

 空に向かって、ブイモンが思いっきり攻撃しようとする……けれど、

 

 

「────なっ!?」

 

 

 フワリ、とブイモンの攻撃を避けるテト。

 

(……なんや、あいつ)

 

 空気の抵抗がないくらい簡単にブイモンの攻撃を避けて見せたテト。

 

「────ミナミ、下がって」

 

 ギルモンが未だに牙を剥き出しにしながら警戒しとる。その視線はテトへと一切変わらない。

 

 

 

「────あ(・)ま(・)り(・)舐(・)め(・)る(・)な(・)よ(・)」

 

 

 

 歪な声が響き渡る。その声には確かに殺意が込められている。

 

「────っ!?」

 

 

「僕にとって、別に『お前ら』が生きようが死のうがどうでもいいんだ」

 

 

 本当に無関心そうに言うテト。

 

 

「『タイト』が『情』をかけてやってるから、助けてるだけなんだよ」

 

 

 ウチらが生きていようが、死んでいようがどうでもいいと本気で思っているのが、その声だけでもわかってしまう。

 

 

「わざわざタイトを放ってこっちに来てやったのに、なんで攻撃までされなきゃいけないんだ」

 

 

 ため息混じりのその声から出てくる異様な雰囲気にウチ達は飲み込まれていく。

 

 

「…………いいから、僕の話を聞け……雑魚共」

 

 

 この腕から見える歪な瞳に睨まれて、ウチらは本当にこの人を怒らせてはいけないのだと、ようやく理解させられたのだった。

 

 

 

「……で、状況は?」

 

 先程の会話から、五分程経った。蛇に睨まれた蛙のように、ウチらはテトに何ひとつ答えられずにいたところ、そんな言葉がテトの腕から発せられる。

 

「えっと、その……」

 

「早くしろよ、お前の『友達』の命がかかってる」

 

「えっ、あっ、はいっ!!!」

 

 マナトくんの手紙通りにここへと辿り着いた途端、ルビーが何者かに連れ去られた事を伝える。

 

「…………やっぱり、状況を理解してないじゃんタイト」

 

 明らかに落ち込んだ様子のテト……ん、今までとは様子が少しおかしい。なんか、少し可愛く見えてまう。

 

「悪いけど、デジヴァイスのカメラでそこら辺を撮ってもらえる?」

 

「…………?」

 

 テトの言葉に疑問を抱く……なんやねん、突然カメラって……いったい何に────

 

「いいからっ!!!」

 

「────ハイッ!!!」

 

 うわッ!? やっぱ、怖い人やった!? 

 

 ウチは急いでデジヴァイスを取り出して、カメラのアプリを開いた。

 

「周囲を満遍なく写真に撮って見せて」

 

「────ヒェッ!?」

 

 目の端に、テトの火傷跡のようなボロボロの茶色の腕が突然現れて、驚いてしまう。

 

(顔の横に突然現れんといてっ!?)

 

「周囲を、満遍なく、写真に、撮ってっ!!!」

 

「ハイッ!!!」

 

 ……うう、圧をかけられた。ブイモンとギルモンはテトを睨みつけとるけど、

 

 ────ギロリ、

 

 テトの目線で動けないようだ。

 

「────そこ」

 

 カシャリ。

 

「そこと、そこ」

 

 カシャリ、カシャリ。

 

 テトに言われるがまま写真を撮り続ける。

 

(ほんまにこれでええんか?)

 

 ルビーが攫われて10分は経つ。こんなところで、写真を撮っててええのか理解ができなかった。

 

 

 カシャリ、カシャリ。

 

 

 カシャリ、カシャリ。

 

 

 カシャリ、カシャリ。

 

 

 無言で写真を撮り続け…………って、さっきから、何も指示がない事にようやっと気づけた。

 

 

「────ね(・)え(・)、(・)ミ(・)ナ(・)ミ(・)」

 

「────あ(・)れ(・)」

 

 

 そんな時、横でギルモン達がウチの体を引っ張って、カメラの外を見るように促してきた。

 

 

「…………えっ?」

 

 

 校舎の周りに広がる蜘蛛の巣。

 

 校門や校庭の遊具、プール……そして、最も蜘蛛の巣が張られとるのは『体育館』。

 

 巨大な蜘蛛の巣の上に、ウチらは立っておったのだ。

 

 

「────ドクグモンの巣だよ、これ」

 

 

 ギルモンのそんな言葉が聞こえてくる。

 

「…………ドクグモン?」

 

「うん、黄色い顔の大きな蜘蛛のケモノガミ。毒で攻撃してくる厄介なヤツ」

 

「……これだけ巣があるって事は」

 

 

 

「少(・)な(・)く(・)と(・)も(・)1(・)0(・)数(・)体(・)は(・)い(・)る(・)」

 

 

 

「────っ!?」

 

 テトのその言葉に驚いてしまう。

 

「昔、大量発生したドクグモンを殲滅するのを手伝った事がある」

 

「その時は、数百体を相手に『成熟期』だけで挑んだんだけど、味方は弱いし、敵は鬱陶しいしで最悪だったな」

 

「結局、殲滅できたのは五時間後、毒による汚染区域の洗浄とドクグモンの巣の撤去、死んだ味方の後始末……てんやわんやで終わった時には、明け方になってた」

 

 テトの過去を聞き、今からそないな相手と戦わなければいかんのかと、嫌な気持ちになる。

 

 

「……で(・)、(・)今(・)回(・)は(・)お(・)前(・)ら(・)だ(・)け(・)で(・)や(・)ら(・)な(・)い(・)と(・)い(・)け(・)な(・)い(・)け(・)ど(・)、(・)ど(・)う(・)す(・)る(・)?」

 

 

 衝撃の言葉が耳に聞こえてくる。

 

「……えっ、テトさんは手伝ってくれないんか!?」

 

「この姿で助けられると思う?」

 

 腕だけのテトから発せられる言葉が、事実に困惑する。

 

「本体は『絶対』に助けに来ないし、タ……マナトは絶対に遅れる。ルビーはおらず、教授もここにはいない」

 

 

 

「戦(・)え(・)る(・)の(・)は(・)君(・)だ(・)け(・)だ(・)」

 

 

 

 胸に刺さるテトの言葉。その言葉に、ウチは迷ってしまう。

 

「……ウチはどうしたらいい?」

 

「別に逃げたって構わない。僕にとって、既に『彼女』の命に執着はない。マナトだって、最悪切り捨てられる『覚悟』はできてる」

 

 

「────っ!?」

 

 

 ルビーの命が、『今』ウチの手のひらの上に乗っている事に気がついた……きっと、マナトくんは

 

 

「────ルビーの命がどうなってもいいってのかっ!?」

 

 

「どうでもいい」

 

 ブイモンの心からの叫びをテトは冷酷に突っぱねる。

 

「……むしろ、死んでくれた方が嬉しいかな。『僕』にとって価値があるのは『マナト』だけだ。『今後』の予定も考えて、余計な荷物は減らしたい」

 

「────みなみっ!!!」

 

(……ああ、ウチをそんな目で見ないといて)

 

 ブイモンの縋るような視線が、心を悩ませる。

 

 

『おはよう、みなみ』

 

『マナトがさあ、また喧嘩したの』

 

『みなみ、がんばろっ!!!』

 

『ええっ、そんな事があったの!?』

 

『たっく、男子達はご機嫌でいいよね』

 

 

 

『みなみ、行こう!!!』

 

 

 

 …………ウチは、

 

 

「────ミナミ」

 

 

 ギルモンが隣でウチの手を握った。

 

「ギルモンはミナミの思った事をやってほしい」

 

「……ギルモン、なんで?」

 

 ギルモンのウチを

 

 

「だって、ギルモンはミナミの味方だから……ギルモンはミナミの思う通りの事を手伝いたいって思うんだ」

 

 

 そう私の目を見たギルモン。

 

 そのまっすぐな瞳に、ウチは…………

 

 

(うん、『覚悟』が決まった)

 

 

 

「ウ(・)チ(・)は(・)戦(・)う(・)」

 

 

 

「みなみっ!!!」

 

「────へえ」

 

 ブイモンの喜ぶ声と、テトの感心した声が聞こえてくる……テトの腕が近づいてくる。

 

 テトの瞳がウチの顔の真ん前まで来て、ジロジロとウチの顔を見回す。

 

「……で、どうするの? 今の君達でどうやって戦う?」

 

 先程よりも、真剣な声でウチに聞く。

 

 

「敵の目の前に突っ込んで、『ルビー』を助けて逃げる!!!」

 

「逃げた後は?」

 

「んなモン、マナトくんがくるまで、逃げ続けるんや。テトさんならマナトくんを呼んでこれるんやろ?」

 

「マナトが太刀打ちできそうになかったら?」

 

「そんなモン、みんなで戦うんや……みんなで『力』を合わせれば、最悪どうにでもなるやろ」

 

 行き当たりばったり、どうしようもない作戦……でも、時間の無い今のウチにできる最低限の答えや。

 

 

「…………」

 

 

 テトは考えるようにふよふよと、空中に浮かんでいる。

 

 

(……ダメやったか?)

 

 

 どうしようもない作戦やった。それでも、今のウチにできる最大限、頭を悩ませたものやった。

 

(これでダメなら、もう……)

 

 

「────いいよ、手伝う」

 

 

「……えっ?」

 

 

「手伝うって言ったんだ。君の『勇気』に従おう」

 

 テトがもう一度その言葉を続けた。

 

「ほんまか?」

 

 ウチはそれでも信じられへんかった。

 

「うん」

 

「土壇場で裏切るって事はねえよな?」

 

 ブイモンもそれに続く。

 

「そんな事をすると思う? この世界を『救い』たいのはマナトだよ。戦力を余計に減らす事はしないよ」

 

 テトのうんざりとした声が響く。

 

「じゃあ手伝ってくれるんだね」

 

 ギルモンが笑顔で笑った。

 

「……さっきから言ってる。いい加減にしろ」

 

 若干怒りの混ざった声……だけど、ウチらは、

 

 

 

「「「やった────!!!」」」

 

 

 

 その答えを聞けて喜んだのだった。

 

 

「……喜んでる暇があったら、作戦会議をするよ」

 

 

 

 

「体育館、ここに奴等が集中してる」

 

 作戦を立てて、すぐに敵の本拠地まで連れて行かれる。

 

「……ここに」

 

「奴等が」

 

 体育館の大きな扉には、たくさんの蜘蛛の巣が密集しとった。

 

 

「『ブイモンヘッド』!!!」

 

「『ロックブレイカー』ッ!!!」

 

 

 ────ガキ、ガキンッ!!! 

 

 

「────なっ!?」

 

「────えっ!?」

 

 ギルモンとブイモンの同時攻撃にもびくともしない蜘蛛の巣。

 

「……だから、言っただろ。『お前ら程度の力じゃ開けられない』って」

 

 作戦の説明途中でテトが言ったその言葉が証明される。

 

「でも、この先にルビーがっ!?」

 

「早く行かないと、ルビーの命が危ないっ!!!」

 

 ルビーの命に対する焦りと困惑の声……やっぱり、ギルモンもなんだかんだルビーのことを心配してくれとったんやな。

 

「────だから、『僕』がここにいる」

 

 

 

 ────スウッ

 

 

「────っ!?」

 

 そんな音と共に『穴』が空き、人1人が中へと入れるぐらいの大きな穴が開けられた。

 

「これで、ルビー……が」

 

 口から溢れた声と共に、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

(ウチが……ほんまにウチがやらなきゃいけないの?)

 

 

 そんな思いが胸中に巡る。

 

 ガジモンと戦った時、背筋が凍って動けなくなったのを思い出した。そんなウチがルビーを助けるなんて…………

 

 

「嫌(・)な(・)ら(・)、(・)逃(・)げ(・)て(・)も(・)い(・)い(・)よ(・)」

 

 

 ギルモンのそんな声が聞こえてくる。

 少し心配そうな瞳に、ウチの震える手を握ってくれるギルモン……その、姿に、

 

 

「ううん、行こう」

 

 

 ウチはようやっと前を向けた。

 

「────わかった」

 

「ルビーを助ける」

 

「────早く行くぞ」

 

 全員の声が響き渡る。

 

 

 

「さあ、作戦開始だ」

 

 

 闇夜の中、体育館での戦いが今始まる。





「タイトと」

「みなみのっ!」


「「デジモンコーナー(!!!)」」


「今回のデジモンはこれ」


「『ゴツモン』」


「マナトくんが最初に襲われてたデジモンやね」

「見た目はまさに『岩の化け物』。ギリシャ神話に出てくる土人形(ゴーレム)ってところだな」

「本当に心配やったんよ、ウチら」

「……なにが?」

「あの時、マナトくんがたくさんのゴツモンに襲われとったやんか。あれで死んでしもたかもしれへんって、ルビーも怒っとったけど心配しとったんよ」

「……別にあの程度の相手にやられるわけないだろ」

「それは『今』やから言える事……まあええけど」

「……悪い」

「……で、このデジモンにはなにかあるんか?」

「…………うーん、特に話になることは…………あっ!?」

「なにかあるんか!?」

「この『ゴツモン』ってデジモン……進化しても姿が変わらないことがあるんだ」

「えっ、嘘やろ!?」

「それが、これ……『アイスモン』に『インセキモン』」

「うわっ、本当に姿が変わっとらん……でも、色は変わってるっみたい?」

「色だけ……な」

「ギルモンもブイモン派手に変わっとるから、こんなデジモンがおるなんて、驚いたわ」

「驚いてくれたのならなにより」

「他にはあらへんの?」

「特に、イメージはないかな」

「ふーん」

「…………と、いうことで今回のデジモン紹介コーナーは終わりです」

「また次回もよろしくねえ〜」

※緊急アンケート 前書きに作品を書くことについてアンケートを取りたいと思っています。理由は、読み上げ機能を使っている読者様から、『前書きに作品を書くと作品をを読み上げてくれない』という連絡を受けました。次回以降に関連することなので、次回までにアンケートお願いします

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