産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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「それじゃあ、質疑応答を始める」

教壇に立っとるマナトくん。ウチ、教授、クダマン、ブイモン、ギルモン……そして、ルビーの顔をそれぞれじっと見つめてくる。

(なんやろ、ちょっと緊張する)

値踏みするようなその視線には、ウチに異様な緊張感を与えた。

「じゃあ、最初の質問をーーーー

マナトくんがそう話そうとした、その時ーーーー



「ちょーっと、待ったーーーーっ!!!」



ルビーが立ち上がって、そう言った。

「……なに?」

訝しげにルビーを見るマナトくん。

「『……なに』、じゃなーーーーい! 質問は一回なんでしょ? ぜんっぜん質問の内容を決めてないし、ちょっと時間ちょーだい!!!」

ルビーに止められたマナトくん。

(……あっ、そうや……ルビーは寝とったもんなぁ)

マナトくんが料理を作っている間、爆睡しとったルビー。そこから眠い目をこすりながら、食事をとってたんなら考える暇はあらへんかっただろうけど。

(マナトくんが許すかなぁ?)

普通、許さへんと思うんやけど、


「……わかった。時間を作るからちょっと待ってろ」


(えっ、許すんや!?)

普段の不良に対して、なんの躊躇いもなく殴ったり、喧嘩売る様子を知っとる身からすれば意外やった。

そんなマナトくんは、おもちゃのようなデジヴァイスを取り出して……


「……えっ?」

「は?」

「……っ!?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「じゃあ俺がメシを食ってる間に決めてくれ」

そう言いながら、教壇にハンバーガーとコーラ、ポテトを置くマナトくん……ってあれ、バーガークイーンやん!?

「いやいやいや、ちょっと待って?」

ルビーも冷静になって止めとる。

「……ん、まだなにか?」

「『まだ、なにか?』……じゃなーーーーい! あんた、それっ!?」

ハンバーガーを指差すルビー。

(わかる、わかるで)

デジヴァイスから出た変なもんに対して、なんの躊躇いもなく質問してくれるルビーにウチは感謝しとった。

「……ん、ああこれ……便利だろ?」

そう言いながら、ドヤ顔で『バーガークイーン』のロゴの入った包み紙を開き、ハンバーガーを開けるマナトくん。

ーーーーズテン!?

マナトくんがそう言ったときに、すっ転ぶルビーとウチ。

(いや、そうやないんよ!?)

その得体の知れないデジヴァイスについて聞きたいんであって、食べ物の機能の凄さに驚いてるわけやないんよ!?

「『便利だろ?』じゃなくて……それって、いったいなんなのよ!?」

うんうん、ルビー……そうや、その通りやっ。

「『クロスローダー』の中の『デジモンの餌』の機能から作り出したんだよ……俺、これしか食えないからさ」

(『食えないからさ』?)

その言葉になにか頭に引っ掛かる物があった……って、言うてる間に、ハムッと、ハンバーガーを食べとる……って、

「まさか、さっきの食事は……っ!?」

嫌な考えが頭に浮かんだ。そして、その言葉がつい口に出てしまう。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 
今日何度目かわからん衝撃発言。

「タイト、あんた!?」

「…………ッ!?」

「……やっぱ、そうなんかぁ」

ルビーはマナトくんの胸ぐらを掴み、教授は頭の整理が追いつかないのか固まっとる。ウチは嫌な考えが的中して、呆気に取られた。

(なんかもう、話についていけへん》

状況が状況だけに頭が真っ白になってもうた。


「そんな得体の知れないものを私達の口の中に入れたのっ!?」

「……別に、問題が……、ない、訳じゃないけれど、そんなに頻繁に食わせる訳じゃないから大丈夫だよ」

言い淀みながらそう言ったマナトくん。

「ちょっと、目を逸らしながら話してんじゃないわよっ!? あんたのその様子、絶対に命に関わってるなにかが怒ったでしょ!?」

「いや、さっきも言ったけど、頻繁摂取しなければ『命に関わらない』と思うぞ……俺は他の物が食えなくなったけど」

今、なんかボソッと言わんかった!?

「『他の物が食えなくなった』ってどう言うこと!?」

「いやあ、5年ぐらい『デジタルワールド』での食事を食い続けたらこうなってた。本当に面倒だよなぁ、まったく」

面倒くさそうに話すマナトくん。いや、ウチらにとっては死活問題なんやけど!?

(と言うか、さっきの『()()()()()()()』ってそうゆうこと!?)

あのデジヴァイスから生産された物しか食べられへんから、昨日気絶したんか!?

「『本当に面倒だよなぁ、まったく』って……だから、あのとき倒れたって……ばっかじゃないの!?」

(ルビーも気づいとった!?)

「バカとはなんだ、バカとは……それしか食えなかったんだから、しょうがないだろ。俺だって好きで食ってた訳じゃない。家から出て半年ぐらいは、現地のデジモンや人間に迫害されて、食べ物どころか寝床すら怪しい生活だったんだよ」

マナトくんの発言に、ルビーの胸ぐらを掴む手が緩む……というか、

(…………えっ、どうゆうことや?)

マナトくんの言葉の端々から感じられる不穏な気配、そして聞きとうなかったぐらい闇深いセリフ。その言葉に頭が再び真っ白になった。

「……っ、あっ……それでも、私達にそれを食べさせて、私達までデジモンの餌? しか食べられなくなったらどうすんのっ!?」

一瞬呆気に取られたルビー。でもウチらが聞きたいことはちゃんと聞いてくれとる……だけど、

(手を離したのはなんでや?)

胸ぐらを掴んだ手は引っ込んでいる。まるで、『マナトくんの過去を知っとったと言わんばかりに力が抜けとる。

「その懸念は解決済みだ。
人間の全身の細胞が入れ替わるのが4〜7年。でも、デジタルワールドでのシュミレーション結果、1割でも人間の世界(リアルワールド)で生成された細胞が肉体に残っていたら、すぐに元に戻る」

「でも、タイトの体は!?」

「俺は子供の体で、『四年間連続』でデジタルワールドの食事を食べ続けた結果だから、自業自得だ」

「……それに、ここにいる全員は俺が『普通の食べ物』を摂取したら倒れることを知ってるだろ?」

(……やっぱりそうなんか……って、えっ!?)


「……は、いや私は知らないが?」


教授とは今日初めてあったんちゃうん?

「いや、俺はあんたのおかげで、人間世界(リアルワールド)の飲食物を摂取できないことを知ったんだぞ……って、あれ?」

教授に向かってそう言ったマナトくん。

「ーーーーえっ!?」

「ーーーーは?」

驚いて言葉が出ない2人……うっわ、ぜんぜん頭がついていけへん。


()()()()()()()()()()?」


その言葉を言ったのが、マナトくん。

「いや、君みたいな子供に出会ったことは……」

教授はわからへんっていった様子。

「だから、三年前にあっただろ……水無瀬村で」

それでも、はっきりと教授に会ったことがあるというマナトくん……どっちの言葉があっとるんや!?


「……『水無瀬村』で……『三年前』……『マナト』……っ!?」


頭を抑えて考え込む教授……なにか思い出したんやろか?

「まさか、君は『美樹原愛人(マナト)』くんか?」

(……美樹原?)

タイト、マナト、星野、美樹原、末堂……いろんなマナトくんの呼び方に頭を抱えてしまう。

(いったい、どれがほんまのマナトくんなんや!?)


「……ようやく、思い出したのか」


しかも、あっとった!?

「いや、だって……あの頃の君とは、まるで容姿も体型も……いったいどういうことだっ!?」

教授からさらに不穏な言葉が出とる!?

「…………いろいろあったんだよ」

哀愁を感じ取れる表情……ホンマに、あんたの身にいったいなにがあったんや!?


「教授、マナトくんと会ったことがあるんですか!?」

とりあえず、今疑問に思ったことだけ教授に聞き取り調査を行う。

「えっ、いや三年前にコーラを渡したというか、介抱したというか……コーラ、そういうことかっ!!!」


「タイト、容姿が変わったってどういうこと!?」

ルビーのほうも、マナトくんに詰め寄っとる。そっちも聞いといてくれ!!!

「いや、だからいろいろあったって言ってんだろ!!!」


「ふむ、でもしかしな……」

「……あかん、また妄想の世界に入ってもうた」


「だから、それを聞いてるの!!!」

「三年前に母さんに置き手紙しただろっ、その時だよ!!!」




そんななか、それを遠目に見る3体のデジモン。

「……ねえ、ブイモン」

「なんだよ」

ぼーっと見ていたギルモンが、ブイモンに話しかける。

「話についていけないね」

「そうだな」


「……ムキーっ、あの女……あんなにご主人様に近づいて、いったいなんなんですの!?」


タイトに詰め寄るルビーの様子を見て、どこから取り出したのかわからないハンカチを、噛み締めるクダモン。

「隣も元気そうだね」

「……そうだな」

2体は遠巻きにそれを見ているのだった。



第八話 答えられる質問とタイトの目的

 

 

 ────もぐもぐ、……ごっくん。

 

 

 ハンバーガーを食べ切り、時間を見る。時間は22:00……ったく、無駄に時間を使っちまった。

 

 

「……で、考えは纏まったか?」

 

 

 ────コクリ、と頷くルビー。

 

「なら質疑応答を開始する」

 

 どんどん睡眠時間が削られている。本当なら、早く終わらせて明日の方針と準備に入りたいところだが────

 

「…………」

 

 ルビーの期待と不安の混じった表情から、無理なことが理解できる。

 

(俺としては、疲れ切った体を早く休めてほしいんだよな)

 

 見知らぬ土地で体力を消費するような行動は、思った以上に疲労を溜めやすい。安心して寝泊まりできる場所を確保できたので、体力回復に専念してほしいというのが、俺の本音だ。

 

 

「……ねえ、早く始めてよ」

 

 

 物思いに耽っていると、ルビーに急かされてしまった。

 

(いかんいかん、俺の考えと行動が真逆になってる)

 

「……それじゃあ、始める。一番最初に聞きたいことのある奴はいるか?」

 

「────ハイっ!!!」

 

 案の定、ルビーが手を挙げた……だけどなぁ。

 

「もう一度言う、『ルビー以外で聞きたいことのある奴はいるか?』」

 

「ちょっと、待って!? なんで私を無視するの!?」

 

 ルビーの質問を無視しようと思ったら、本人からツッコミを受けてしまった。

 

「いやだって、お前の質問は……たぶん話が長くなりそうだし。話が簡単に済ませられる奴から、質問を進めた方がいいじゃん」

 

 俺は、早くお前らを寝かしたいんだよ。

 

「ハァ!? 話が長くなりそうって、どう言うことよ!?」

 

 でも、その意図に気が付かず、苛立ちを向けられた。

 

「お前なぁ、『タイトはなんでママと会ってくれないの?』とか、『なんでウチに帰って来なかったの?』とか、『今まであった事を全部話せ』だとか……絶対に話が長くなりそうな質問をするだろ?」

 

「…………」

 

「……図星かよ。夜が遅いんだし、そんな質問には答えられねえよ」

 

「いや、ひとつだけ答えるって言ったじゃん!!!」

 

「ただでさえ、命が関わってくるような環境にいるのに、そんな悠長なことができるか。明日に備える方が百倍大事だ」

 

 ルビーと言い争いに発展するけど、俺の伝えたいことはしっかりと伝える……そうしたら、

 

「……」

 

 ルビーには伝わったみたいだ。でも、むすっとした顔で、こちらを睨まれる……が、通常通り先に進める。

 

「それでルビーは最後にするとして、他に質問したい奴────

 

「はーい!!!」

 

 ギルモンが手を挙げた。

 

「ん、最初はギルモンか……どんなことが知りたい?」

 

「うーんと、ギルモンは『自己紹介してほしい』」

 

 その質問に訝しむ。

 

「……どうして?」

 

「ミナミが言うように『マナトくん』だとか、ルビーが言うように『タイト』だとか……いろんなマナトには名前が会って、頭がぐるぐるってなっちゃう。だから、本当の名前を教えてほしい」

 

(案外普通の理由だった)

 

「……わかった」

 

「俺の名前は『星野(ほしの) 他亜平愛人(ターフェアイト)』。訳あって、『美樹原(みきはら) 愛人(まなと)』・『末堂(すえどう) 愛人(まなと)』っていう偽名を使っている」

 

 俺は本名と偽名の両方伝える。

 

「……偽名?」

 

 ギルモンは素直にそう聞いて来た。ちょっと話しやすい。

 

「そうだ、偽名だ。現代の日本の法律では、七年以上行方不明になった人間は、死んだ物として扱われる。そんな人間が現代に突然現れてみろ、大変なことになる。俺は訳あって、目立ちたくない。だから偽の戸籍と偽名を使わせてもらっている」

 

「……やっぱり」

 

 ルビーは軽蔑するような目で俺を見てくる。

 

(俺はなにもやってないんだけど!?)

 

「ちなみに、美樹原と末堂って苗字は俺の事情を理解してもらい、そのうえで預かってもらっている身元保証人の苗字だ」

 

 美樹原はイグドラシル、末堂は父さんだった。

 

「マナトはわかるけど、ターフェアイトなのにタイト?」

 

「ターフェアイトだと名前が長いだろ。だから『タイト』って愛称で呼んでもらってるんだよ」

 

「……だから、『タイト』なんかぁ」

 

「タイトでもマナトでもどっちで呼んでも構わない」

 

「────えっ、いいの?」

 

「五年以上その愛称で呼ばれてるから、もう慣れてんだよ。『仲間』以外から、『タイト』って呼ばれるのは慣れてないんだ」

 

 テトやシン、ユイ、ノルン、ツルギさんやユウさん、『NEXT世界』のデジモン達……俺が偽名を使っても、理解してくれた存在。それ以外に言われると、どうしてもむず痒くなってしまう。

 

「……ふーん、そっか」

 

「……それで、次は────

 

 

「はいっ、はいっ、はーい!!!」

 

 

 クダモンが俺の言葉を待たずに、大きく手を挙げた。

 

「……んじゃ、クダモン」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 

「────ぶっ!?」

 

「……ハァッ!?」

 

「……えっ!?」

 

 俺、ルビー、寿の順で声が出る。

 

(……なに言ってんだ、この堕ぎつねっ!?)

 

「おっ、おまえ……なに言ってんだよっ!?」

 

「……『なに』って、『ご主人様の好きな女性のタイプ』を聞いただけですわ?」

 

「いや、普通は、『今後の方針』とか『俺の武器について』とか、そういうのを聞くだろ。まだ今日会って間もないのに、なんでそんな踏み込んだことを聞くのかよ」

 

「自己紹介が良いなら、構わないと思いますがっ!!!」

 

 はやくっ、はやくっ……と視線で訴えかけにくるクダモン……めんどくさいのがパートナーになったのだと理解させられる。

 

「……わかった」

 

「やった────っ!!!」

 

「…………それでええんか」

 

「私、めっちゃ気まずいんだけど」

 

(俺のほうが気まずいって)

 

「……俺の好きな女のタイプ……だっけ」

 

「そうですわ」

 

「好きな女のタイプは『背中を預けられる奴』」

 

 ……あと、『俺の言うことをちゃんと聞いてくれたり』、『無茶言っても、なんだかんだ許してくれたり』、『本当に間違ってる時には『駄目だ』って止めてくれる奴』。

 

 うっすら、黒色とピンク色の2色が頭に浮かんできた気がする。

 

「よっしっ!!!」

 

「嫌いなタイプは『依存心の高い女』」

 

 絶対にルビーの前では言えないけど、『母親面する女』が嫌い。あと、『押し付けがましい女』、『性に対しての強要する女』、『宗教系』は絶対に無理。というか、結婚どころか性行為に対して忌避感があるってのに、好きな女のタイプとか考えられるか。

 

 

「ガーンッ!!!」

 

 

(……あっ、なんかショック受けてる)

 

 勝手に質問して、勝手に舞い上がって、勝手にショック受けるクダモン。

 

「……ヨヨヨ」

 

 あっ、泣き始めた。

 

(……まあ、いいか)

 

「次の質問は」

 

 

 

「……あれ、ええんか?」

 

「流石に男として、どうなんだろ?」

 

 …………時間がないって言ってんだろ。

 

 

「ゴッホン……次の質問は」

 

 

 大きく咳き込んで、質問を促す。

 

「……んっ!」

 

 青い手が、上に突き出た。

 

(……ブイモンか)

 

 俺に対してかなりの警戒心を抱いているケモノガミ。

 

 

「……『あんたの目的はなんだ』」

 

 

 後で話すことを質問されたな……後回しにしよう。

 

「…………やっぱり、おまえはルビーの質問の後、な」

 

「…………わかった」

 

 しぶしぶといった様子で、ブイモンが頷いた。ブイモンは納得してくれた……かな。

 

「次は……」

 

「はいっ!」

 

「……で、寿はなんだ?」

 

「ウチは『ルビーとマナトくんの関係が知りたい』」

 

「たぶん、わかってると思うけど、姉弟(きょうだい)の関係だ……三つ子のな」

 

 最後だけ、嘘。

 

「本当に姉弟(きょうだい)やったんかぁ……って三つ子?」

 

「星野アクアマリンと星野ルビー、星野ターフェアイト……三人兄姉弟(きょうだい)の三つ子だ」

 

「なんか、キラキラしとんなぁ」

 

「俺も思ってる」

 

「ママのネーミングセンスに文句があるってんのぉ!?」

 

「お前は、いいよなぁ……ルビーなんて比較的キラキラしてない奴でよぉ。俺とアクアは『それだけは』不満だって言ってんだよ」

 

「……むう」

 

「それじゃ、次」

 

「それでは私だな」

 

「私が聞きたいのは、『どうしてケモノガミのことを『デジモン』と呼ぶんだい?』」

 

「それっ、ウチも気になっとった!!!」

 

「そういえば、ルビーが俺達のことを『デジモン』って呼んでたな」

 

「……ん?」

 

「……ああ、言ってなかったっけ?」

 

「……じゃあ、復習といこう。ルビー、デジモンってなんだっけ?」

 

「えっ、私!?」

 

「グルスガンマモンから聞いてるだろ。デジモンのことは最低限でいいから、教えておいてくれって頼んだはずだ」

 

「……グルスガンマモンって誰?」

 

「……黒くて顔に紫色の線が入ってる人型の────」

 

 

()()()()()()()()()()()!?」

 

 

「……ぐーちゃっ……誰それ?」

 

「だから、ぐーちゃんのことでしょ。黒い人型に青いマント、鬼みたいな1本角のデジモン」

 

(あいつ、そんな呼ばれ方をされてたのか)

 

 哀れみを感じる。

 あんなに強かったグルスガンマモンが、ゆるキャラみたいな可愛らしい個体名で日常的に呼ばれ、種族名を忘れ去られているなんて、可哀相にも程があった。

 

 ……でも、話は続けないといけない。

 

「……それで、そのぐーちゃんから『デジモンについて』なにか聞いてないか?」

 

「『デジモンについて』ぇ、そんなの聞いた覚えがあったかなぁ?」

 

 ルビーの記憶力の無さが悪いのか、グルスガンマモンが伝えてないのが悪いのか……たぶん、ルビーが忘れているだけだな。

 

「……デジモンの正式名称は?」

 

「……デジモンじゃないの?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ルビーはなにも覚えていないって言った様子で、睨まれる。

 

「……ハァ、わかった。最初から説明する」

 

 俺は呆れて、説明を始めた。

 

「俺達の言う『デジモン』……正式名称は『デジタルモンスター』」

 

「デジタルぅ?」

 

「モンスター?」

 

 ギルモンとブイモンが首を傾げる。

 

 

「そう、デジタルモンスター」

 

 

「デジタルってことは、『EDEN』となにか関係があるのかね」

 

「関係は……あるけど、そこらへんは置いといていいです。電脳世界に似た『異世界』に住む生き物ってことだけ、意識してくれれば問題ないと思います」

 

 もともと持っていた知識も擦り合わせて、必要ない部分は説明から外す。

 

「……でも、それがなんで『ケモノガミ』と関係があるんや?」

 

「『ケモノガミ』の姿が『デジモン』と全く同じ見た目で、同じ生態で、同じ技を放ち、同じように『人間』を求めているから関係は大有りなんだよ」

 

「……でも、ケモノガミのほうが昔から存在しているはずだ。『遺跡』がそれを証明している」

 

 俺と教授の議論が続く。だけど、決定的な証拠は他にもある。

 

 

「俺達の住む世界以外では、基本的には『デジモン』か『デジタルモンスター』で統一されている。この世界が異常なだけだ」

 

 

 俺は自身の経験と原作(メタ)知識から証拠について説明する。

 

「……俺達の住む世界?」

 

「俺は11歳まで、『別の世界のデジタルワールド』を巡る旅に出ていた。その全てで『デジタルモンスター』って単語が使われている。そして、『ケモノガミ』という単語は聞いたことがない。それが理由だ」

 

「だけど、お前が巡った世界が特別だって可能性があるだろ? 俺達の住む生き物が異常ってわけじゃない」

 

 ブイモンが噛み付いてくるが、その答えは既に準備できているを

 

「俺が巡った世界は3つ……そして、俺達が住む世界にも『デジタルモンスター』を名乗る存在が現れ始めた。『EDEN』のハッキングプログラムとしてな」

 

 俺は朝に妹尾と平田に説明したように、『EDEN』にいるデジモンについて伝える。

 

「『EDEN』内に!?」

 

「それが関わってるって言ってたことか!?」

 

「……そういえば、今朝妹尾くん達と話してた会話に、そないなことを言っとったきぃする」

 

 3人が驚きの声を上げる中、興味深い言葉が聞こえてくる。言葉が朝会話してたとこを覚えてるみたいで、驚いた。

 

「……そう、俺達の世界は『デジモン』に侵食されつつある。それを証明する方法も無きにしも非ず……なんだけど」

 

 

()()()()()()()()

 

 

 俺とノルンで何年もかけて考えた仮説。それがあることを目の前の人物に伝える。

 

「……仮説、それを教えてもらう訳にはいかないかな?」

 

 教授に聞かれる。でも、話が長くなりそうなんで、答えられないんだよな。

 

「流石に、この世界を巡って情報に確信を得ないとそれは難しいと思います……それに、八、九割当たってると思うんだよですよね、その仮説」

 

 現実世界(リアルワールド)でその証拠は見つけてある。後はこの世界と俺の原作(メタ)知識が正しいかどうか確認するだけだ。

 

「……そうか」

 

「だから、また明日よろしくお願いしますよ。確信を得られるまで」

 

「……わかった。及ばずながら手伝わせて貰おう」

 

 教授は力を貸してくれるみたいだ……そして、

 

 

「ようやく、私の番だね」

 

 

 問題児の番がやってきた。自身ありげな瞳に、頰をほころばせた笑顔で、ルビーはこちらを見る。

 

(いったい、なにを質問してくるんだ?)

 

 なにを考えているかわからないから異様に緊張するし、答えられない質問ばっかり聞いてきそうで怖い。

 

「じゃあ、質問」

 

 

「『今までのこと全部教えて』」

 

「だめ」

 

「『なにがあったか知りたい』」

 

「むり」

 

「『八年間どうしてたの?』」

 

「教えない」

 

 

「むぅうううううっ!!!」

 

 頰を膨らませて怒り出すルビー……やっぱり、答えるだけの時間が足りない質問を何度もされた。

 

「ルビーな、流石にその質問は無理やとウチは思うんよ」

 

「だって、だってぇ!!!」

 

 寿に諭されても、ルビーは子供のように膨れっ面で駄々を捏ね始める。

 

「だって、ママがあれだけ心配してるって言うのに、あいつはのうのうと偽名を使って、偽の戸籍まで作って、金持ちの家に住んで、遊んで暮らしてたんだよっ、納得できる訳ないじゃん!!!」

 

 その瞬間、頭が真っ赤に染まった。

 

「好きでやってるないだろ」

 

 お前に俺のなにが……と小声で言いかけたところで、頭が冷静になった。

 

「────っ、聞こえたか今の?」

 

「……なんか言った?」

 

「……とりあえず、その質問は却下だ。別のにしろ」

 

 舌打ちをしたい気持ちを抑えて、質問を促す。

 

(ああっもう、クソがっ!!!)

 

 怒りと苛立ちで頭が染まりそうになるも、自身に非があるのでなんとか気持ちを抑える。

 

「……ご主人様」

 

「……マナトくん?」

 

 なんか聞こえた気がするけど、ルビーの方を向いた。

 

「……で、早くしろ」

 

「……たっく、なんなのよ」

 

 ルビーは不機嫌そうにこちらを見る。

 

(本当に早くしてくれよ)

 

 ブイモンの質問のほうが、今の俺にとっては重要だ。そちらを早く片付けたい。

 

「……じゃあ、『なんで家に帰って来ないの?』」

 

 ルビーは本当に聞きたい質問を我慢するように、俺に不機嫌そうに聞いた。

 

 

「まず、さっきも理由として話したように、『目立ちたくないから』」

 

 

 さっき言った理由を話してみる。

 

「……そんなりゆ────

 

「次に、『今の立場のほうが動きやすいから』、三番目に『俺の事情を知っている人がいるから』……他にもいろいろ理由がある」

 

 ルビーの言葉を遮って、話を進める。

 

 

 デジヴァイスの中にある大量の資金を、自由に使っても言い訳のできる立場。

 

 リエさんに保証された立場があれば、ただの一般人とは比べ物にならないぐらいの権力を扱える。

 

 テトの実力を知っている人物なら、ある程度俺に対しての動きの牽制にもなる。

 

 政治や金の動向を、俯瞰的に判断できる立場。

 

 ……そして、俺達のことを知っている者達を監視しやすい。それだけのことができる居場所を、『今』手放す訳にはいかない。

 

 

「……まあ、理由はそれだけだ」

 

 他にも大事な理由はあるが、ルビーに伝えられるのはこれだけだ。

 

「……じゃあ、最低限ママに会ってくれてもいいんじゃないの?」

 

 ルビーの不満そうな一言に、少し悩む。

 

(言ってもいいのかな? ……まあ、ブイモンがいるしいいや)

 

 

「俺は監視されてんだよ。

 ただでさえ、『四宮』や『四条』に喧嘩売ってるんだ。『弱み』を見せるなんて好き勝手なこと、できるわけがないだろ」

 

 

 金髪に許嫁、ハニートラップ……俺としては、面倒なことこの上ないんだけどなぁ。

 

 

「────四宮っ!?」

 

「────四条っ!?」

 

「……あんた、なんてところに喧嘩売ってんのよっ!?」

 

 

 寿と教授が驚き、ルビーが怒鳴ってくる。なんか、パターン化して来たな。

 

「いや、別に驚くところじゃないだろ。今の俺は『末堂アケミ』の息子だ。カミシロ・エンタープライズ社の研究を……『EDEN』の根幹の研究を成立させた人物の、な」

 

「……そうか、だから君は『末堂』って名乗ったのか」

 

「俺はカミシロの力をより強大なものにする為、『四宮』と『四条』の権力を削ぎに削ぎまくった。もともと、金と権力でのさばってた財閥関係者を淘汰し、半年前、『カミシロ』が完全に国を裏であや……国の補助的な立ち位置になることができた」

 

 やばい、一回口を滑らした。

 

「────今、操るって言った!?」

 

「……言ってない」

 

「いや、言ったって!!!」

 

 ルビーとの問答が続きそうになったので、早くブイモンの質問へと移る。

 

「……まあ、そんなことで、今の立ち位置のほうが『目的』を果たしやすいんだよ」

 

「……目的?」

 

「……そう、ブイモンの質問に答える番だ」

 

「……ようやくか」

 

 待っていたとの様子で、こちらを見るブイモン。それを見て、俺はブイモンに向かって話し出す。

 

「俺の目的は四つ」

 

「1つ目は、『この世界を救うこと』」

 

「……それって、(ヌシ)を倒すってこと?」

 

「そう、主を倒すことが目的だな」

 

 俺の目的は説明しづらいから、簡単に説明することだけにとどめる。そして、その後に、2つ目の質問へと話の内容をすり替える。

 

「2つ目は、『ルビーのパートナーデジモンの獲得と、レベルアップ』だ」

 

「────えっ、私(俺)っ!?」

 

「ルビーはあっちに戻ったら、『力』が必要だろう?」

 

 世界の危機の対策として、『強いデジモン』は必須なのだ。それについて伝えたつもりなんだけど……

 

「えっ、ええと……それって、どういう意味?」

 

(こいつ、本当に忘れてやがるな)

 

 グルスガンマモンは自分の事情は必ず話すはずだから、ルビーが本気で忘れてるんだと再確認する。

 

「……ハァ、とりあえずブイモン」

 

 呆れ半分、次のことを考える半分で、ブイモンに声をかける。

 

「ん、ああ!?」

 

 こっちを向いて、ブイモンは驚いた。

 

「ルビーを守ってやってくれ。俺からはそれだけだ」

 

 できる限り真摯に向き合って、ルビーのことを頼んだ。

 

「……言われなくてもそうするさっ!!!」

 

 ブイモンの反応を見て、安心する。土壇場で裏切るような奴ではない感じがしたからだ。

 

「……で、3つ目は……っ」

 

 3つ目の話をしながら気配を探る。

 

「えっと、どうしたん?」

 

「まだ、話の最中だぞ」

 

 俺を心配する声と非難する声が聞こえてくるが、さらに集中力を高めながら、ショップ機能を使用。

 

 ぽちぽち────ドロン。

 

「いったい、どうしたの?」

 

 購入したのは『アルテマロープγ』……それを、手元に召喚する。

 

「おっ、おい!?」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……()()()!!!」

 

 

 俺のロープが天井へと向かって、とてつもない勢いで飛んでいく。そして、天井を貫き、

 

 ────ズドン!!! 

 

 

 

()()()()()!?」

 

 

 

1()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────へ?」

 

「は?」

 

「うっそ!?」

 

 小さな子供である。

 

「……と、こんなところか」

 

 アルテマロープγで拘束された少年は、身動きが取れないようで踠き苦しんでいる。

 

「早くこの縄を剥がせ!!!」

 

 俺に向かって叫ぶ『1体』の少年。俺はその言葉を無視する。

 

「これが、俺の『3つ目の目的』だ」

 

 俺は天井から落ちて来た『少年』を見据え、次の行動をどうするか考える。

 

「……こんな子供が天井にいたのかっ!?」

 

(にしても、効果が現れるのが遅いな)

 

 アルテマロープγは、『完全体までのデジモンの力』をどんなに強くても封じることができる。

 

()()()()()()()()()()()

 

「子供じゃないぞ」

 

「……うっ、ぐっ!?」

 

 少しずつ煙が剥がれるように、人の姿から人型の獣へと姿が変わっていく少年。

 

「────なあ、レナモン*1

 

「…………っ」

 

 黄色いケモノガミ……レナモンがそこに、横たわっていた。

 

「デジモンに変わった!?」

 

「……うっ!?」

 

「なんや、どうゆうこと!?」

 

「ルビーっ!?」

 

「ミナミっ!?」

 

「……ご主人様?」

 

 俺とクダモン以外の全員が、レナモンを見て警戒する。

 

(そんなことは無駄だってわかんないかな?)

 

 アルテマロープγを外さない限り、逃亡はできないし、他者に外してもらわない限り、そのロープは外れることはない。

 

「……おい、行くぞ」

 

 そう言って、『黒板の横の扉』を開く。

 

「……あっ、タイト!?」

 

「……マ……タイトくんについていかんと」

 

 ルビー達が気が付いたのを感じ、俺はさらに歩みを進める。

 

「────っ、おい待て……そこはっ!?」

 

 レナモンの言葉を聞かずに『家庭科準備室』に入る……そこには、

 

 

 

「…………?」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「見つけた」

 

 俺はわざと聞こえるようにそう言った。

 

「……えっ!?」

 

 俺はその少女に近づく。

 

「『ミユキ』に近づくなっ!!!」

 

()()()()()()()()()

 

 レナモンの言葉から、この子が『あの子』だと確信した。

 

「俺の目的は」

 

 少女の目の前に立ち、跪く。

 

「『水無瀬ミユキ』さん」

 

「…………?」

 

 俺が声をかけても、首を傾げるだけ……本当に魂がそこにはないんだな。

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 彼女の瞳を見ながら、俺はそう言った。

*1
レベル:成長期 タイプ:獣人型 属性:データ種 『必殺技狐変虚』 『狐葉楔』

 金色狐の姿をした獣人型デジモン。レナモンは人間との関係がストレートに表れるデジモンで、幼年期の頃の育て方によっては、特に知能が高いレナモンに進化できると言われている。常に冷静沈着で、あらゆる状況下でもその冷静さを失わないほど訓練されている。細身で長身の姿は他の成長期と比べても抜きに出ており、パワーバトルと言うよりは、スピードを利用した多彩な術で敵を翻弄する。得意技は相手の姿をコピーして自身のテクスチャを貼り替える変化の術『狐変虚(こへんきょ)』。必殺技は鋭利な木葉を敵に投げる『狐葉楔(こようせつ)』。





時間を巻き戻して、夕方の6時。
みなみとギルモン、ルビーとブイモンが昼間にガジモンと戦った場所にて、

ーーーーザッ

紅い影が倒れているガジモンを睨みつける。

「ーーーーおい」

紅い影は右の前足で思いっきり、ガジモンを蹴り飛ばした。

「ーーーーがはっ!?」

木の幹に叩きつけられ、蹲るガジモン。

「ーーーーげほっ、がはっ、ごほっ……っ!?」

顔を上げると、血のように紅く染まった毛並みのケモノが、ガジモンを睨みつけている。

「お前、人間をどこにやった?」

「ーーーーひえっ!?」

ーーーーガンッ!!!

蹲るガジモンに向かって、左の前足で思いっきり踏みつけた紅いケモノ。

「ーーーーがはっ!?」

ボキッと大きな音が鳴り響き、腹を押さえるガジモン。

「もう一度言う、人間はどこに行った?」

そんなガジモンにその大きな『顔』を近づけて、睨みつけるようにそう言った紅いケモノ。


「……げほっ、げほッ……倒されて、気絶していました。わかりません」


その姿に怯えながらも、自身の経緯を告げるガジモン。

「……そうか、ならーーーー




ーーーーガバッ!!!




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ーーーーぐしゃり


それがガジモンの見た最後の光景だった。


バキボキ、ぐしゃり……そんな大きな音が、森の中に鳴り響く。

「爺さんが遺跡のほうに向かったのを見ましたぜ」

その影に向かって、先程倒れたガジモンとは別のガジモンが、人間の痕跡を報告する。

ーーーーゴクン

「……そうか」

灰色の影が煙に変わる中、紅い影は立ち上がる。


「しばらく、『あの方』の遺跡を張る……ついてこい」


そう言った紅い影の口は真っ赤に染まっており、牙には灰色の毛がいくつもついている。

ーーーーガキン!!!

その口が完全に閉じた時、血と毛は紫色の煙となって消えてなくなった。
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