少しずつ陽が傾き、夕方に近づく時間が近づいてくる。夕方の5時ごろだろうか。気絶した敵が全員目覚めたのは。
「……ねぇ、こいつらはどうするの?」
ルビーは赤いロープで縛り上げられたファングモンに指を差す。
「……殺すなら、殺せ」
ファングモンは俺を見つめながら、不貞腐れた『ように』そう言った。
「…………」
俺はその言葉を無視をする。
「……貴様、誰に対して口を聞いているのですか?」
クダモンはファングモンを睨みつけ、
「ーーーーフンッ!」
ーーーースパンっ!!!
「ーーーーがはっ!?」
クダモンがファングモンの頰を、尻尾で思いっきりひっぱたいた。
「「「ーーーーっ!?」」」
それを見たガジモン達に緊張がはしる。
「貴様らの生殺与奪の権利は全て我が偉大なる主人の手のひらの上ですか。それを踏まえてもう一度考えてください」
「……うっせえよ」
ーーーースパァン!!!
「あぎっ、あっ!?」
「「「ーーーーっ!?」」」
「もう一度言います、『無い頭で態度を改めろ』」
クダモンは再びファングモンに警告する。
「ーーーーハッ!」
ファングモンは鼻で笑った。
ーーーースパンッ!!!
「……うぐっ!?」
先程と同様にひっぱたかれるファングモン。
「ファングモン様、やめましょうよ?」
「これ以上殴られたら体に響きます」
「主様が助けてくれるはずです」
ガジモン達がファングモンを説得しようとするも、ファングモンは俺に嘲るような視線を向けるだけで、なにも話そうとしない。
(…………心の奥底に『焦り』が感じられる)
嘲るようなニヤケ顔をしているファングモン信長瞳の中に、『なにか』に対する恐れや恐怖を感じられた。
なんどもなんどもクダモンはファングモンはいたぶる。
「なあ、もうそろそろ山にしたほくがええんやないか?」
寿にそう言われるが、俺は周囲の『警戒』を怠ることはない。
(……もう少しだ)
遺跡の周囲にある森から三十キロメートル程先、物凄い勢いで嫌な気配がやってくるのを感じる。
「タイトくん、君が警戒する夜がもう時期やってくる。この者たちを連れて早く山を降りた方がいいのではないだろうか?」
教授の言葉……それに対する言葉は俺にはない。
(まだ、まだだ)
表情を変えず、警戒をとかず。
「ねえ、みなみも教授もこう言ってることだし、早くこいつらをどうにかしようよ」
俺の警戒に気が付いていないのか、『クダモン』以外の全員が『俺』に対して話しかけてくる。
「ミナミ、なにか嫌な気配がする」
「「「ーーーーっ!?」」」
嫌な気配が10キロメートルぐらいに差し掛かる頃、ようやくギルモンが警戒をし始める。
「……えっ、なに言うとるんや? 敵はもうこんなふう、にーーーーっ」
少しずつ顔が青ざめていく獣達。
「そこの、お前!?」
ガジモンの1体が悲鳴のような声で、ギルモンに声をかける。
「グルルッ」
ギルモンは目を血走らせ、ガジモンに警戒する。
「……本当に、来るのか?」
『本当のことか信じられない・信じたくない』と言うように、、青褪めた顔でギルモンに聞く『ファングモン』。
「もう時期来る」
ギルモンのその一言に、
「「「ーーーーっ!?」」」
ぶるぶる、ぶるぶると震え始める獣達。
「
「
「
「
「
「
ガジモン達が騒ぎ出したのだ。
「私どもはまだやれます。戦えます……なので、どうか、どうかっ!!!」
不敵な笑みを浮かべていたファングモンも、泣きそうになりながら怯え、『なにか』に訴えかけている。
「……なによ、これ?」
ルビーの驚愕の声が響き渡る。
「ギルモンの言葉を聞いて、命乞いをし始めた……いったい誰に?」
教授は驚きつつも、目の前のファングモン達を見て、考え始める。
「ここをっ、ここを逃げた方がええんやないかっ!?」
ファングモン達の暴走に同調し、寿は恐怖を煽られてしまう。
「もうすぐ、だな……教授はこちらを」
俺は『聖なるデヴァイスtype proto』を取り出して、教授に渡す。
「タイトくん……これは、ルビーくん達と同じ……?」
教授に手渡しした後、指示出しをする為に二人の方を向く。
「ルビーも寿も『聖なるデヴァイス』を掲げろ」
「ーーーーっ、うん、わかった!」
「こう、でええんか?」
俺の指示に従い、二人は『聖なるデヴァイスtype proto』を掲げてくれる。
(……教授の方は?)
「……?」
まだ状況をよくわかっておらず、周囲を見回している。
「……教授もお願いします」
俺は教授にも同様の指示を出した。
「わっ、わかった?」
その俺の言葉に従い、教授はルビー達と同じように『聖なるデヴァイスtype proto』を掲げてくれる。
(みんなは状況はわかって内容だけど、俺の指示に従ってくれる)
「全員、背中を合わせて四方にそれぞれが向くように展開、『聖なるデヴァイス』の光が俺たち全員を囲めるように配置につけ」
俺は来るべき『アレ』に備える。
「……」
「わかった」
「あっ、ああ」
全員俺の言葉に従い、俺達は背中合わせになってそれぞれの方向に、『聖なるデヴァイスtype proto』を掲げる。
「デジモン達は俺達のそばに……密着できるぐらい近くにいろ」
「ハイっ、ご主人様っ!!!」
「グルルルルッ!」
「……ああっ!」
クダモンは物凄い笑顔で俺の首に巻きつき、ギルモンは寿の前に立ち、ブイモンはルビーの右手を掴んだ……ただし、
ーーーーギロリ
クダモンの目は森の外を睨みつけ、
「グルルルルッ」
ギルモンは牙を剥き、
「大丈夫」
ブイモンはルビーをいつでも守れるように、手を強く握りしめている。
(3体とも警戒体制に入ったようだな)
(……だけど)
気配は五キロメートル地点を突破、ものすごい勢いでこちらまで広がってくる。
「なっ、なあ……これはいったい?」
「なんなのよ、タイトっ!?」
「タイトくんこれは、どういうことだ?」
人間三人は気がつけていないらしい。
(先が……思いやられる、が)
訓練されていない人間だからしょうがない、と諦める。
「嫌だ、ここから出せっ!?」
「そこに、そこに行けば助かるのか……早く俺を助けろっ!!!」
「助けて……助けてください、お願いします!!!」
「なんでもする、なんでもするから……死にたくないっ!!!」
「くそっ、くそぉ……もうだめだ!?」
ガジモン達の焦りは頂点に達していた。
「ねえ、タイト……ファングモン達を助けた方……
ルビーがそんな言葉を発しているのが聞こえてくる。
(……その言葉を発するのが『1分』遅かったな)
視界の先に『霧』が見えた。
「ーーーー来る」
俺がその一言を告げた時、『聖なるデヴァイスtype proto』は輝き、『霧』は『ファングモン達』を包み込んだ。
「ぎぃやああああああああああっ!!!」
「いやだ、いやだぁああああっ!?」
「はなせっ、はなせぇっ!!!」
『霧』の中から発生した『黒い影』がファングモン達を襲っていた。
「「「ーーーーっ!?」」」
(聖なる光で包み込まれている)
俺達の体は聖なる光によって包み込まれ、『黒い影』の侵入の一切を防ぎ切っている。
(……やっぱり、か)
『主』の力は闇や負のエネルギーが源になっており、俺達を包み込む光と反発し合っている。
『聖なるデヴァイスtype proto』はその侵食を完全に防ぎ切っていた。
「なに、これ?」
ルビーの言った一言が聞こえてくる。
「この世界の『主』の手下だよ」
俺何その質問に答えるとともに、黒い影の……いや、夕陽に照らされ、霧の中でもその姿が目に入ってくる。
紫色のつるつるとした肌。
蛙のように丸い指さき。
なにもない窪みから出る目のような光。
そして、
「大山椒魚のような大きな口」
バキバキバギィッ!!!
次々とガジモン達が喰われていき、
「ぎいゃ、あ?」
「「「ーーーーっ!?」」」
最後の……ファングモンが生き絶えた。
「……うっ、ぷ」
寿が『聖なるデヴァイスtype proto』を持っていないほうの腕で、口を押さえたのに気がついた。
(……ここで、嘔吐されると面倒だな)
この結界?が崩れる要因になりかねないと思い、片手で腰のポーチの中からビニール袋を取り出し、
「この中に吐け」
寿に急いでビニール袋を渡してやる。
「……おう、え、え゛ぇ゛えええっ!!!」
寿は大きな嗚咽を出しながら、ビニール袋の中に吐瀉物を吐き出していく。
「…………」
「ミナミ!?」
(……そういえば、自覚して『殺させた』のは初めてだったな)
見殺しとは言え、自覚して自我のある生き物を『殺させた』のは、寿達は初めてだったことを思い出した。
「みなみ、大丈夫?」
寿の背を撫でながら、ルビーは彼女の心配をしている。
「おうえ、う゛ぅ゛えっ、ああっ!!!」
寿はそれでも涙を流しながら、吐き続ける。
(実感がなかったんだろうな)
そんな彼女を見ながら、俺はふとそんなことを感じていた。
「ルビー、ごめっ……お゛っ!」
彼女はドクグモンを殺している。
きっとドクグモン戦の後は、グラウモンを進化させた事による高揚感と、ルビーを助けたことによる達成感によって、実感が湧かなかったのだろうか?
(……それとも)
生き物とはいえ、『虫』……感傷を持てない『生き物』を殺す事に躊躇いはない……ということなのだろうか?
ただただ疑問に思えてしまう。
「大丈夫だから落ち着いて」
「ルビー、ありがっ、ぐっ、う゛ぇ……お゛う゛ぇええええええええええっ!!!」
ルビーが寿の手を支えながら、ビニール袋を持ってあげてるのが見える。
(……ルビーは、変化なし、か)
以前、ガジモン達と戦ったと言っていたが、たぶんあの様子だと『トドメ』を刺していなかっただろう。
(ルビーの方は寿の動揺の方が激しくて、うまく表面に出ていないだけ、か)
そんなことを思いながら、俺自身にもそんな頃があったのをふと思い出した。
(最初の『実感』、最初の『死』が『仲間』じゃないだけマシか)
「ーーーーハッ」
『遊び半分で過ごしていた自身の過去』と比べ、自重した笑みが口からこぼれ落ちた。
「タイトくん、これは……どうやって逃げればいいんだ?」
ーーーーガサっ、ガサガサッ!!!
ーーーーガンガン、ガンッ!!!
ーーーージュワーーーーッ!!!
『影』は茂みの中から大量に現れ、俺達のほうへと突っ込んでくるが、『聖なる光』によって泥のように溶けると言った行為を繰り返している。
「おうぇっ、ウエッ!!!」
「ゆっくり、ゆっくり吐いてね」
寿は未だ吐き続けているし、ルビーは看病をし続けている。
「……ミナミぃ」
「ルビー、俺はなにをすればいい?」
ギルモンとブイモンは主人達の様子から、どうすればいいのかわからないといった様子だ……クダモンは、
「ふふーん!」
俺の顔に頬擦りしてやがる。
「…………」
ため息を吐きそうになるけど、俺は教授の方を向き、
「とりあえず、寿が落ち着いたらこの状態のまま進みましょうか?」
そんなふうに提案した。
「……わかった」
教授が頷いたのを見て、再び寿を見る。
「……うえっ、おえっ……ぐすっ」
嘔吐しながら、涙をこぼす彼女。彼女が産まれた世界はきっと優しくて、『甘い』、幸せな世界だったのだろう。
『アイ? 、アイっ……アイ────っ!!!』
地獄を見て、
『ああ、あの人なら亡くなったよ』
地獄を聞いて、
『人間なんて救う価値がない』
地獄を知って、
『カネッ、金だっ! 金をよこせっ!!!』
地獄を感じて、
『もういいや』
地獄に生きている俺にはわからない感覚だった。
(優しい世界もあるんだろうな、とは思える)
思えるだけだ。
(俺はあまりにも『俺が産まれた世界』のことを知らない)
ドクグモンを殺した彼女。その姿を見て、
『……どんな生き物だって自由に生きる権利を持っているーーーー』
ふと、『アニメ』の世界の彼の言った言葉を思い出してしまう。
(俺が出会った『彼』は、その言葉を『魔王』に言ったのだろうか?)
そう思いながら、彼女らが落ち着くのを待つのだった。
「…………」
「…………」
「…………」
カチカチと食器の音が鳴る食卓。ただ会話は一切なく、ただ静けさだけが残っていた。
(……前もこんなことなかったっけ?)
そんなことを思いながら、食事を進める。
「……ねえ、タイト」
ルビーが下を向いたまま声を上げる。
「……なんで、あんなのを見せたの?」
ルビーの発言を少し考える。
(『あんなの』……さっきのファングモンの末路のことか)
ただ、食事中に話していいものかと、寿の方を見る。
「……」
食はあまり進んでいないものの食べれている様子だった……コクリ、と教授が頷いたのが、視界の端で見える。
「…………」
「…………」
ブイモンとギルモンはそれぞれのパートナーのことを、ただ心配そうに見ているだけ……ついてこなかった一人と1体のほうは、
「……ほら、お姉ちゃん。口を開けてくれ」
「…………」
今回の探索についてこなかった『ハル』の姿をしているレナモンが、ルビーの言葉に反応せずに、水無瀬ミユキに食事を与えている。
(……なら、いいか)
この場の全員が話が耳に入って来ても問題がないという姿勢が見てとれた。だから、ルビーのほうを見る。
「必要だと思ったからだ」
俺はルビーに向かって答える。
「……必要、なんで?」
ルビー手が怒りで震えている。
(きっと、寿のことを思って怒ってるんだろうけど)
実際に必要だから、はっきりと告げる。
「敵を殺し、命を奪い、その結果、敵はどうなるのか……そして、負けたらどうなるのかを、ルビーや寿、教授に見せたかった」
────ダンッ!!!
ガシャン、と音を立て食器を鳴った。
「なんで、それを見せる必要があったかを聞いてるの!!!」
ルビーの怒りが爆発した。それでも、勤めて冷静に俺は答える。
「必要だったさ。あの『黒い影』を見て、お前は……寿や教授だって、敵はどんな存在か理解できただろう?」
どんなことになろうとも、あの『影』、この世界の『主』の手先の姿を見せる必要があった。
「理解はできたけど納得はできない! わざわざ、あんな場面を見せる必要も戦う必要もなかったと思う。あの化け物が襲って来たときに説明してくれるだけで、あんな気持ち悪い思いをする必要はなかった!!!」
「……うっ!?」
ルビーの言葉に反応して、さっきの光景を思い出したのだろう。寿は顔色を青くする。
「────ミナミっ!?」
ギルモンはその様子にすぐに気がつき、自身の食事をやめて寿に近づく。
「あっ、みなみ……ごめん!?」
ルビーもギルモンの様子に気が付いたのか、寿に謝った。
「ええよ、気にしとらん」
俺とルビーを見て、寿は微笑んだ。
(やっぱりこの世界に来るべき人物ではなかった)
巻き込んだ側とはいえ、彼女のその優しい性格から、この世界に来る人物ではないと思えてしまう。
(……原作でもそう言う人物は居たけどな)
そんなことを思い出しながら、先程のルビーの答えに対して頭を回して口を開く。
「悪いけど、その意見には反対だ」
「…………理由は?」
不貞腐れた顔でルビーは俺にそう聞いた。
「理由は3つある」
「一つ目は、『あんなふうにやられたくない・死にたくない』という気持ちが強まる」
「────うっ!?」
ルビーは図星を突かれた様子だ。
(追い打ちをかけよう)
「実際に思っただろ……『あんなふうにはなりたくない』。『あんな死に方だけはごめんだ』と」
あの様子なら絶対に思っていたはずだ。ルビーはファングモン達のあの惨めな最後が自分になるのは嫌だと考えた筈だ。
「────それでもっ!」
食い下がろうとするルビーに、俺は追い込みをかける。
「その『それでも』が通じない、そういう世界なんだよ、ここは……二つ目は、『実際に敵を殺した』という実感が芽生える」
一つ目の理由の話題をわざと切り上げ、より『インパクト』のある理由に挿げ替える。
「……は?」
ルビーは本当に理解ができないと言った様子だ……なら、
「理解ができないか? なら言ってやるよ」
「お前らは既に『ドクグモンを殺している』」
「────なっ!?」
「……え?」
ルビーは驚愕、寿は……おどけたような顔、だった。
(……やっぱり、か)
やはり、言うしかないと覚悟を決めた。
「だけど、お前らはそのことをまるで気にしていない」
「それがどうしたって言うのよっ、なにか問題があるの!?」
ルビーは逆ギレのように大声を上げる。
(…………彼らの常識と俺の常識ではだいぶ差異があるようだ)
俺に取っては逆ギレされたと感じることでも、彼女に取ってはそんなことはないらしい。
(……なら、最後の理由まで言おう)
思い出したくもない過去を思い出しながら、答える決意をした。
「問題は大アリだ」
ルビーを睨みつけ、大問題だと伝える。
「敵から命を奪い、淘汰する実感。それに伴う感情はなんでもいい」
興奮でも愉悦でも、虚無でも……達成感でもなんでもいい。
「ただ、『現実』として受け入れられないのは、問題なんだよ」
(……そう、俺みたいにな)
本当の問題点を伝える。
「……それのなにが問題なの?」
「これは三つ目の理由にも関わってくるが、『後悔』するからだ」
実際に『現実』だと『認識してしまった』経験するよりも、その前に体験しておいたいいと俺は判断した。
「後悔……どうして?」
それを、言いづらいけれど、伝える。
「……理由は……三つ目は」
「
言った……言ってしまった。
「────っ!?」
「おいっ!?」
「タイトくん、君はどうして!?」
「…………あーん」
「…………」
「…………は?」
「ミナミ、大丈夫!?」
ルビーは驚き、ブイモンは俺の言葉に対して睨みを効かせ、教授は疑問を抱き、レナモンは気になりつつもパートナーを優先、水無瀬ミユキはレナモンに言われるまま食事を摂り、寿は固まり、ギルモンはそんな寿を心配する。
「
そんななか、唯一沈黙を続けていたクダモンが俺に質問をした。
「……ああ」
「初めての『実感』は、『仲間の死』だったよ」
「「「────っ!?」」」
俺の言葉に、この場にいる全員が固まった。
「……そうですか。不躾な質問をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「別にいいさ、過去のことだし……どうせ話すつもりだった」
クダモンの謝罪に、再び俺は覚悟を決める。
「最悪の世界だった」
今思い出しても苦痛だった。
「親元から離れ、初めて辿り着いた世界……そこで俺と『クロアグモン』は迫害にあった」
「…………っ!?」
ルビーが目を見開いた。
(そんなに驚くことだっただろうか?)
そんなふうに思いながら、話し続ける。
「半年間、まともに寝る場所さえなく、雨の日だろうが雪の日だろうが関係なく、風邪をひこうが病に倒れようが助けてくれる者は誰一人としていなかった」
逆にスられたり、蹴られたり、恐喝にあったことはあってもな。
「そんなとき、仲間ができた」
最高の気分だった。
「その仲間と共に、今までの恨みを晴らすように世界を凱旋し、圧倒的な『個』の力によって、『自分達は世界で一番になったのだ』と、『自分達はこの世界で無二の存在になったのだ』、と勘違いをしていた」
いい気分だった。
いい気分になっていた。
「
『最悪』の気分になった。
『最悪』の状態ということにすら気づいていなかった。
「『ゲーム感覚』だったんだろうな。『どんな相手が来ても勝てる』だなんて思い上がっていたのは……本当にバカだよ」
妥協して生きていた。『今』を生きていなかった。
「……本当に、バカだったんだよ。俺は」
『先』を……遠くを見過ぎていて、『今』……足元を見ていなかった。
「でっ、でも今ここにいるのは生き残れたってことやろ……だったら────
「仲間が1体死んで、それでよかったなんてことはない。俺達に取って唯一の……初めてできた『対等な仲間』だったんだよ!!!」
寿の無神経な言葉についに怒鳴り声が出てしまう。
「それを『ゲーム感覚』で殺した事のないお前らにはわからないだろう!」
そう『ゲーム感覚』だった。
「使える手を出し惜しみ、手段を選び、力不足にも関わらず『最強である』と誤認し、仲間が死んだ! その、感覚を!! 理解できるわけがないだろうがっ!!!」
理解してほしくなかった。
本当に守りたい人達には。
「ご主人様、その方の死に様は……?」
クダモンが驚きながらも、死に際について聞いてくる。
「奴は俺を守って死んだ。俺の腕の中でゆっくりと、確実に肉体が冷えていく感覚を今でも憶えている。遺言まできっちりと覚えている。それなのにっ、俺は!!!」
俺はなにをやっていたんだろう。
『あのとき』……初めて出会ったあの日に戻ることさえできればっ。
「……ご主人様」
その悔恨を読み取られたのか、クダモンに哀れみの視線が向けられてしまう。
「じゃあ、どうやってそれを回避したって言うの!?」
ルビーはそれでも俺の言葉に突っ込んでくる。苛立ち……いや、突っ込んでくれるだけ、哀れみの視線を向けられないだけマシだった。
「言っただろう? 『圧倒的な個の力』だって……単純に『進化』させただけだ」
テトを……ミレニアモンに進化させただけ。そうそれだけしかできなかったんだ。
「…………」
ルビーは俺の言葉に力なく座り込んだ。
「……わかったか? こうならない為にも、お前らは理解している必要があった」
俺自身も力なくそう言った。
「だから、『今回』は情報を精査し、手段を可能な限り選ばず、慎重に戦っている」
だけど今回は違う、と力強く言う。それだけで士気が上がることをあいつらから学んだんだ。
「その『聖なる…………ああもうめんどくせぇ!!! その初代デジヴァイスだってそうだ。お前らを守る為の手段にすぎない。わかったな!!!」
(めんどくさいから、初代のデジヴァイスで統一!)
やけになってしまい、そんなことを考える。typeだとかprotoだとかめんどくさいのはノルンの目の前だけで十分なんだと思っていた。
(こいつらにその意味を伝える必要はないしな!)
そんなことを考えてると、ボケっとしたレナモンと目が合った。
「…………」
(────そうだった!?)
俺はポケットを弄り、渡したいものを取り出す。
「おい、レナモン」
呆けているレナモンに『それ』を投げる。
「…………これはっ!?」
『聖な────『初代デジヴァイス』だ。
「それを持ってろ……『『主』に対する切り札』だ。最後の一つだから注意しろよ」
俺とルビー、教授……そして水無瀬ミユキに渡されるはずだったもの……寿に一つ渡ってしまったから、俺の分をレナモンに渡したのだ。
「…………いいのか?」
俺にそう聞くレナモン。
「問題ない」
本来あるべき人物の元へと行っただけだと思った。そういうことにした。
「……わかった」
レナモンはそう静かに頷く。
「じゃあ、食事が終わり次第黒板を使う。時間は……昨日よりはだいぶマシだな」
俺はそう仕切り直して、全員に向かってそう言った。
「全員、考えといてくれ」
そう言って、食事を切り上げたのだった。
「全員、考えたか?」
全員コクリと頷いたのを確認したのを見て、時間を見る。
「夜の7時30分……時間にして、後三時間は話せるな」
時間からして昨日よりはだいぶある。これなら長い話ぐらいできるはずだ。
「今日の成果を話したいところだけど……込み入った事情だ。それぞれの質問を優先する」
成果についてはまた次回話すとしよう。今はこいつらの信用を得るのが先だった。
「ただし、俺にも時間を使う質問と使うべきではない質問があるから、ここにいる奴のことをよく考えて質問をしてくれ」
全員が顔を見合わせて、頷いたのを確認。
「じゃあ、この中で最初に────
「ハイっ!!!」
(デジャブかな?)
クダモンは昨日と同じように挙手をした。
「質問したいのは、クダモンだな」
(嫌な予感がする)
また無駄な質問で時間を取られる気がした。
「ご主人様、『人間……特に『女性』の人間に近い姿のデジモンはいるのでしょうか?」
(…………)
「……それ、今聴くこと、か?」
俺には疑問だった。
今、この場にいる人間の時間を割いてまで、その質問をする意図が。
「今、特に、最重要、ですが?」
神妙にそんなことを言われてしまう。
「…………」
「…………」
「…………」
(…………この、脳内ピンクがっ!!!)
前回も似たような質問をされた気がする。
「さあ、早く答えてください。さあ、さあ、さあっ!!!」
興奮気味に尻尾で机を叩くクダモン。
(バカじゃねえの?)
この脳内ピンク色の中身が自分のパートナーであることに、頭を悩ませる。
他のみんなに助けを求める視線を送ってみるが、
「ヒュー、ヒュー?」
ルビーは口笛を吹きながら、目線を逸らし、
「────っ!?」
寿はブンブンと首を振っている。
「…………」
────ふいっ。
(目を逸らさないでくれ、教授!?)
ブイモンはルビーと同じく、ギルモンは状況がわからないというような感じだ。
「レナ……」
レナモンは目をキラキラさせていた。
(『その手があったか!?』みたいな顔をしないでくれ)
誰も助けてくれないこの状況。
「さあ、早く」
バシンっ、バシンッ!!!
そんな音を立てて……いや、机にヒビが入ってる。
(このままだと、机が壊れる!?)
「さあ、早く、ご主人様の、好きな姿を、さあっ!!!」
(質問の意図が変わってるよね!?)
「さあっ!!!」
「…………わかった」
「そうですかっ!」
満面の笑みを浮かべるクダモン。
(…………ハァ)
疲れる、と思いながら、デジモンの知識を思い返す。
「まず、天使型のデジモン達だな」
「ほお、例えば?」
「エンジェモンなんかは、人間の男の人にそっくりだし」
「男の、話は、どうでも、いいです!!!」
「……はい」
────シュン、とレナモンが落ち込んでいるのが見える。
(……ごめん)
ご主人様、大好きだもんなお前。
「……うーんと、候補を上げるとすれば2体だけだな」
「……2体、だけですか?」
「完全な人型に近いのは2体だけだ」
(本当はもっと多いだろうけど、こいつが求めてるのは『そういうこと』も含めての形態だもんなあ)
嫌だけど、話すって確約しちゃったからなぁと思いながら、話し始める。
「一体目、『リリスモン』」
「リリスモン?」
「最強格のデジモンの1体。魔王型デジモンの最高クラス『七大魔王』とされ、伝説にもなっているデジモンの1体だ」
「まあ、それは!?」
「……ただし、簡単に慣れるとは言っていない」
ゲームではかなり金と時間をつぎ込んで、更に『デジモンサイバースルゥース』の原作では、ダウンロードコンテンツをクリアしなければ進化できないデジモンだった。
その条件とは、
『その一、規定の依頼をとある人物から受ける』
『そのニ、並行世界の主人公(ゲーム主人公)に出会う』
『その三、ゲーム主人公と共に、進化させたい規定の七大魔王(今回であれば、リリスモン)を打倒する』
(現実で七大魔王……しかも、クロスウォーズみたいな弱体化してない世界の七大魔王なんて相手にしてたまるか!!!)
クロスウォーズ世界のリリスモンでさえあんな化け物なのに、相手にしてたら、どれだけの被害が被るかわかりたくもない。
「その世界に住んでいる魔王を倒さなきゃいけないし、会いに行くことだって難しいし、そもそも、どこにいるのかわからないだろ?」
「…………」
悲しそうな表情をするクダモン。
「正直に言って、諦めた方がいい」
俺は諭すようにそんなことを言った。
「……そんなぁ」
(よしっ、これで────)
2体目の話を逸らせた……と思った瞬間、
「…………っ!?」
クダモンが目を光らせた。
「でも、でも2体目がいます!!!」
(なんでだよっ!?)
思わず机を叩きたくなった。
気づいてほしくないところに、気づかれてしまったからだ。
「それで、2体目はっ、2体目はいったいどんなデジモンなんですか!?」
目を輝かせながら聞くクダモン。
(あっ、これは無理だわ)
目をキラッ、キラッ輝かせてるクダモン。
(言うしかない、言うしかない……けど)
言いたくねえ、今後戦力になれるデジモンに対して、言うのは嫌だ。
「……『ウェヌスモン』」
小さく、ボソッと、聞こえないように言ってみる。
(聞こえていないでくれ、聞こえていないでくれ)
もし聞こえてなかったら、聞いてなかったお前の方が悪いと言って、話を先延ばしにするつもりなんだ。聞こえて────
「
(聞こえてた────っ!!!)
「────ぴくっ!?」
視界の端でビクッと少女達が動いた気がするけど、そんなことは気にする余裕はない。
────にゅる!
「────うわっ!?」
クダモンが突然首に巻きついてくる。
「それで、その『ウェヌスモン』に、進化する為にはいったいどのような方法で、進化すればよろしいのですか?」
(笑顔が、笑顔が怖い!?)
顔と顔がぶつかりそうな距離で、『笑顔』で質問してくるクダモン。
(まさか、ボソッと言った理由の意図に気づかれてる!?)
「さあ、早く答えてください。先程のような声で話されては聞こえないので、こうやって近づいて来たのですよ」
(気づかれてる!?)
笑顔で脅してくるクダモン。
(ああ、こんなときにテトがいれば)
身近で俺のことを多少強引でも、過保護に守ってくれていたテトの存在が懐かしい……そんなことを思いながら、情報を明かす。
「……進化方法はわからない」
「わからない?」
「わからない……が、進化前のデジモンは知っている」
「どのようなデジモンで!?」
「…………エンジェウーモン」
「わかりました!!!」
しゅるっと首から離れるクダモン。その姿は質問前よりもキラキラとしていた。
「ふふんっ、では私は『エンジェウーモン』なるものを目指しますわ!!!」
それに引き換え、俺の体はかなり疲れている。
「……俺の目的を達成したらな」
その言葉が思ったよりも力なく発せられたことに、俺の気力が思ったよりも削がれていて、驚いてしまう。
「ええ、わかりましたわ!!!」
そう、はっきりと言われてしまったことに、俺はなにも言い返すことができなかった。
(未来が怖い)
初めて、自分の未来のことで怖い事が増えた瞬間だった。
「……っと、現実逃避してる場合じゃない。次の質問は……って、なんで全員で集まってるんだ?」
いつのまにか俺とクダモンを除いた全員で集まっていた。
「────うん、これで行こう」
そう教授の声が聞こえてくる。
(もしかして、クダモンとつるんで相談の時間を作っていたのか?)
「ふん、ふふん、ふふーん!」
クダモンの様子からして、それはないことに気がついた。
「────はい!」
ルビーが元気よく手を挙げる。ルビーが代表として質問をするみたいだ。
「どうぞ」
俺は教授を含め全員の意見が一致した質問がくることを悟り、覚悟を決める。
「『
────ニヤリ、と俺の頰が動いた気がした。
「タイトと」
「みなみの」
「「デジモン紹介コーナー」」
「さあ、今回からあとがきコーナーとして、確約されることとなったこのコーナー」
「今回のデジモンはこれや」
「「『レッパモン』」」
「タイトくんがケモノガミの世界で出会ったパートナーデジモンが進化した姿やな」
「……ああ」
(こいつには言いたいことがたくさんあるんだけど)
「なにか思うところがあるん?」
「いや、『こいつの進化ってどうなってるんだ』って思ってな」
「進化? なんか変なことでもあるんか?」
「そりゃ、変だろ」
「変?」
「変」
「うーん、ウチにはどれもおんなじようにしか思えへんけど……」
「いやだって……ああそうか」
(こいつら、まだ『超進化』を体験してないよな)
「……なんか納得したみたいやな。教えてくれへん?」
「…………おいおい、な」
「ふーん、わかったわ」
(寿でよかった……今のがルビーだと、追求されてめんどうくさかったからな)
「ほな、他のこと話そか?」
「…………?」
「いや、そういうコーナーやし」
「いや、別にただのレッパモンだぞ?」
「いや、それをウチらは知らんから説明しぃって言うとるんや!!!」
「別に話すことないし」
(あかん、この人なんも考えとらへん!?)
「あのな、本格的にコーナー化したんやから一発目からこんなぐだぐだやっとったらあかんのっ、なにか説明できるものは説明しぃ!!!」
「……それにしてもなぁ」
(ブイモンやギルモン以上話すことないしな、こいつ)
「この作品の裏設定でもええから、答えてぇな!!!」
「…………」
「…………」
「…………こいつの裏設定?」
(…………うん言えない)
「じゃ、今回の『デジモン紹介コーナー』は終わりということで」
「おい、そんなぐだぐだ許さへんで」
「また、次の話で!」
ーーーーぶちん!