ーーーー5分前
『どうするんだい……タイトくんの言う通りなら、ここを突破しないとルビーくん達のところには行けないみたいだが?』
目の前には多数の虫のようなデジモン達の群れ。タイトくんに言わせれば、この先にルビーくん達がいるらしい。
『……レッパモン、お前はここで教授を守っててくれ』
タイトくんはレッパモンにそう頼んだ。
(タイトくんのことだから、なにかしら作戦があるんだろうけど……)
クダモンの顔には『ものすっごく心配でございます』と、でかでかに書かれているように見える顔でタイトくんを睨んでいる。
『それはどういう意味ですか?』
『俺は大丈夫だって言ってんだよ。教授のことを頼んだ』
心配そうにするクダモンに対して、タイトくんは楽そうに『大丈夫だ』と言ってみせる。
(……やはり、なにかしらの作戦があるんだろう)
タイトくんは今まで『デジモンを無力化できるロープ』や『銃』、『爆弾』など、様々な武器を使って、デジモンを制圧してきた。今回もそのような武器があるのだろう。
『……わかりました』
不満そうにそう言うクダモン。
『でも、絶対に絶対に無傷で帰って来てください』
『……わかったよ』
クダモンの要求にめんどくさいというような顔で、頷いたタイトくん。それは顔に出過ぎではないのだろうか?
『本当ですか?』
『もーまんたい』
『……それ、本気で言ってますか?』
適当に話すタイトくんに若干、怒りが混じった声で聞くクダモン。
(……こうして見ると、普通の子供に見えるんだけどね)
その様子を見て微笑ましく思っていると……
『じゃあ、言ってくる!』
話を逸らすようにタイトくんがデジモン達の間をすり抜けて行ってしまった。
『ちょっと……ちょっと、待ってくださいご主人様っ!!!』
追いかけようとするものの、私達はデジモン達に囲まれてしまい……今の状態に至る……といったところだ。
「……水無瀬教授、後ろに下がっててくださいまし」
私はレッパモンの後ろに下がり、青色のケモノと対峙する。
(……なんだ、この違和感は?)
この青色のケモノガミ……いや、デジモンには、なぜだか懐かしさ……のようなものを感じてしまう。
「よおっ、ひさしぶりだな」
私を睨みつけ、笑うデジモン。
「……ひさしぶり?」
「お知り合いですの?」
聞いてくるレッパモンに首を振る。
「懐かしさ……みたいなものは感じるが、特段思い出せる……といったことはない」
「…………っ!?」
驚愕といった様子で目を見開き……そして、怒りに塗れたように激怒した青いデジモン。
「おいおい、人間は歳をくっちまえば耄碌するって本当みたいだな、アキハル……相棒の顔を忘れたって言うのかよ!!!」
忘れられたことに対する怒り……いや、悲しみのような感情を感じ、違和感が増していく。
「……相棒? 君はなぜ私の名を知っているんだ!?」
「……忘れた癖に俺に言わせるつもりかよ」
小声だが噛み締めるような力が滲んだその声は、静かな森の中でははっきりと聞こえてしまった。
「私が忘れたのなら謝る。だがーーーー」
「うるさいっ、お前の言うことなんてもう信じられないっ!!!」
彼の怒った姿が、なにか小さな頃の思い出せない誰かと重なる……昔、彼とは出会っていたという確信が持てた。
(もう一度踏み込んでっ!?)
まるで熊蜂が警戒するような大きな音を、青いデジモンの横にいるデジモン達が羽ばたかせ、鳴らし続ける。
(ーーーーこれはっ!?)
「お前らはもう包囲されている。この軍団を前にお前らはなすすべなく倒されるだろう」
デジモン達からの警告。
ーーーーウォオオオン!!!
そして、青いデジモンが獣のように吠えた時、虫のデジモン達が襲いかかって来た。
「行けっ、お前ら! あの狐はどうなっても構わん……あの男を生捕りにしろっ!!!」
「シャアッ!」
「シャッンッ!」
ーーーーブオンッ!
ーーーーカサカサカサ
様々なデジモン達が私達を狙い、突撃してくる。
ーーーーズドンッ!!!
「……君は、いったい」
「……あら、わかりませんか?」
『何者だ』……と聞こうとした時、聞き覚えのあるソプラノボイスがその赤い影から聞こえてくる。
「まあ、わからなくて当然ですね」
私を見て不満そうにそう言う姿が、先程、タイトくんに不満そうにしているクダモンに似通っていることに気がついた。
「……まさか、レッパモンなのかい?」
「……ようやく、というよりも『なんで気づかれるようなことを言ってしまったのか』……という感情のほうが強いですね。ほんっとうに、この姿は嫌な事ばかり引き起こします!」
自身の赤い姿を見て、嫌そうにしているのに気がついた。
「……その姿になるのは嫌なのかな?」
「ええ、ええっ……だってこの姿は『ご主人様の為に捧げる為の姿』ではないんですよっ、酷くありませんかっ!!!」
「わざわざ『あいつら』と同じ姿になるなんて、ほんっとうに、ふざけてやがりますっ!!!」
「こんな姿、ご主人様に見られようものなら、私っ、首吊ってなくなりますからねっ!!!」
彼女の言い分に少し疑問を抱きつつも、タイトくんに見られるのだけは絶対に嫌なことは伝わってきた。
(それなら、この胸の内に……っ!?)
ーーーーゾクリ、と背筋が冷える。これは間違いなく恐怖であった。
「……ですが、ご主人様に見られていない今なら、少しだけ使ってもいい気分ですの」
レッパモンから放たれる圧倒的な殺意によって、獅子に睨まれたウサギのように私は動けなくなる。
「シャァっ!?」
周囲をよく見ると、襲いかかって来ていたデジモン達が身動き一つ取れていない……むしろ、『取ることすら躊躇っている』ことに気がついた。
(……まさか!?)
私はすぐに気が付かなかったが、デジモン達は恐怖しているのだ。目の前の強くなったレッパモンの姿に。
「なん、なんだお前はっ!?」
青いデジモンが震えながらも気丈にレッパモンに立ち向かった。。
「……へえ、『今』の私に質問できる度胸があることは認めましょう」
「ーーーーひっ!?」
「ですが、貴様のような仕えるべき
「ーーーーやめろっ!?」
彼女が持っ『 』から光が充満していく。
「『ーーーー』っ!!!」
ーーーーズドォオオン!!!
姿を変えたレッパモンの一撃……たった一撃の『余波』だけで、そこにいるデジモン達の姿が悲鳴すら上げることなく塵のように消えていく。
「……うぐっ」
そして、青いデジモンはたった1人になってしまった。
「……くっ、これはーーーーお前ぇっ! ……っ!?」
私のような素人から見ても『手加減』されたというのがハッキリとわかる。
「終わりです」
デジモンの顔に『 』を突きつけるレッパモン。
「……くっ!」
「最後に一つ聞きましょう……『貴方は教授とどうなりたいんですか?』」
「……黙れ」
「もう一度聞きます……『貴方は教授とどうなりたいんですか?』」
「……俺は俺を置いていったそいつが……のうのうと生きていることが俺は許せない」
「…………」
「自分の人間に置いて行かれたことのないお前に、俺のなにがわかるっ!!!」
「わかりませんし、わかりたくもないありませんね」
「ーーーーなっ!?」
「私にとって『ご主人様』はたった一人……どんなに裏切られようと、どんなに忘れられようと、たった一人のご主人様なのです」
「 れ」
「あなたには理解できないでしょう? たった一人の『本当の主人』を持つ私の気持ちが」
「……黙れ」
「あなたにはわからないでしょう。ご老体になってまで、健やかに過ごせる主人がいるというこれ以上ない幸せが」
「黙れ」
「あなたにはわからないでしょう。自分の預かり知らぬ場所で、ご主人様が苦しんでるのに、なんにもできない恐怖が」
「ーーーー黙れっ!!!」
「よかったですね……幸せな夢の中で死なせてあげますよ」
ーーーーガチャリ
『 』の鋒がデジモンの額に押し付けられる。
「これで終わりです」
「大丈夫か?」
俺は目の前にいるデジモン達に『スタンライフル』を命中させ、行動不能に追い込んだ。どう見たって、近場にいる限り動けるような奴らはここにはいない。
その確認が取れたので、背後にあるロープウェイに向かう。
「……タイ、ト?」
若干の苛立ちと怒りを覚えながら、ルビー達に向かって歩いていく。
「……で、なにやってんのお前ら?」
ロープウェイを蹴る。
「……うわ、わわわ!?」
ロープウェイが大きく揺れて、ルビーがびっくりしたようにわー、わー言っている。蜘蛛の巣で固められていてもロープウェイの命綱は縄と蜘蛛の巣だけだからしょうがない。
「……いや、あの……その、ね?」
寿に聞いても反応がよくない。
(……これは)
あまり聞かれたくない理由なのだと判断をつける。
「……また、後で話を聞く……問題は」
背後にいるデジモン達を見た。
「おやおや、1人でやってくるなんて馬鹿な人間もいたものねぇ」
スナイモンにドクグモン、クワガーモンにカブテリモン……フライモンとあれは、ヤンマモンだっけ、それともニセヤンマモンだっけ?
色味なんて覚えてねえから微妙だな。
「…………」
にしても、アルケニモン以外は数分間、行動不能に追い詰めてるし、これなら『あいつ』を出せばどうにでもなるか。
「あんたが主様が言っていた。人ならざる力を持つ子供だねっ!」
アルケニモンは……あのレベルなら『蹂躙』可能だな。
「いくら力を持っているからといっても、そんな油断のせいでやられるとは思っていないだろうねぇ……出て来なさい、お前達っ!!!」
────ギシャァッ!!!
────シャァアアアッ!!!
────シャアッ!!!
「……おお〜」
ドクグモンがたくさん現れた。ひぃ、ふぅ、みぃ……うん、数えるのはあとにした方がいいかな?
「どうだいっ、20体のドクグモンだ! これだけの数があれば、あんたをメチャクチャにするには十分だろう?」
相手が慢心しているのが、見えた。
「やっておしまいっ!!!」
────シャァっ!
────シュアッ!!!
────シシャァッ!!!
ドクグモン達が一斉に糸で攻撃してくる。
「『
手元にクロスローダーを取り出し、
「────タイトッ!?」
「────タイトくんッ!?」
「────
最も信頼できる仲間を……
「ぎょおええええっ!?」
…………は?
目の前にいる『ユイ』が左手には骨つき肉を、右手にはTVのチャンネルのリモコンを持ち、ドクグモンの糸でぐるぐる巻きになっていた。
「なんだい、なんだい……いったいなにが!?」
目の前で糸でぐるぐる巻きになっているユイ。
(……こいつはバカなのか?)
テトならそもそも糸をくらわない。
シンなら状況を瞬時に判断し、糸の縄から脱出してみせる。
…………ユイは、
「いったい、いったいなにが怒ってるのですか!? また、テト殿やシン殿が無茶なことを言って拙者を連れ出させた!? いったい、なにが……」
状況が理解できず混乱し、喚き散らしている。
(……だいたいわかった。こいつ)
修行サボってやがる。
「おい」
「おおっ、タイト氏……拙者はなぜだか、糸でぐるぐる巻きに……あれ? たしか、この1週間はタイト氏は林間学校に行ってていないはず……いったいどういう…………?」
……状況が飲み込めていないようで、未だに混乱している。これは、俺から指示を与えた方がよさそうだな。
「いいから、さっさと糸を切れ、戻ってきて以来の実戦だ。早く戦え!!!」
デジタルワールドでの戦闘以降、こいつには実践をやらせていなかった。なら、チュートリアルとしてはちょうどいいしな。
「……へ?」
呆けてる場合じゃないだろ。
「いいから、行けっ!!!」
「まさか、戦えとおっしゃるのですか、タイト氏は!?」
……もしかして、ようやく気づいたのか?
ユイは糸に絡まれながら、『驚愕っ!?』といった表情で俺を見る。
(……三年間、なんのためにテトやシンの元で修行してきたんだ?)
「拙者は休みの最中ですぞっ。せっかく今年、四週目に到達した神アニメの……ひえっ!?」
こいつ、テトとシンがいないのをいいことに、アニメを見直してやがった!?
(ちゃんと修行してろって言われてたはずなんだけどなぁ)
「休みだぁ……そんな話は俺は聞いてないけどなぁ? というか、またクロスローダー内に変な機能持ち込んだろ!」
「お助け……そこの捕まってる……たしか、ルビー殿!? 助けてくだされ!?」
こいつ、直接会ったことのないルビーに助けを求めやがった!?
「……えっ、私っ!?」
糸でぶらんぶらんしながら、ルビーに助けを求め始める。
「もう、ブラックな環境は嫌でございますぅっ!? 拙者は脇役として陰ながらテト殿とシン殿の活躍が見たいだけで……というか、御二方は?」
ブラックって……ちゃんと休憩時間はくれてやってるし、飯だって俺が作ってる。やらせてることは、『俺の家族の監視』だったり、『俺の行動の後始末』だったり、『修行』……は、テトもシンも休憩時間にやってるし問題ない。
……というか、今テト達に助けを求めたのか?
「残念だが、今は別の仕事を頼んである。だから、ここには俺とお前しかいねぇよ」
テトとシンには別のことを頼んであるから、お前を連れて来たんだよ。
「ひえっ、そんなぁ!!!」
「だから、お前が『俺』を守るんだよ」
「……そんなぁ!?」
2回言うな、2回……というか、お前が怯えてる理由って、俺が怪我した時のテトの反応に怯えてるだけだろ。
(ねえ、あれがタイトが自信満々に呼び出したデジモン? なんだかまるまる太ってて弱そうなんだけど?)
(言っちゃあ悪いが、テトって奴よりかなり弱そうだぞ。第一、テトって奴も俺達が危険になったらすぐに逃げ出したし)
(うーん、ちょっと心配)
(コラッ、それは言っちゃあかんやろ。せっかくタイトくんが、満を持して呼び出したんや、きっとこの状況を……なんとか、なんとか? してくれるはずや!)
そんな会話が背後から聞こえてくる……勝手に出ていって、勝手に捕まってるこいつらは……っ。
「────そこっ、聞こえてるぞ!!!」
背後を指差して、聞こえていると言ってやる。
「すんません!!!」
……謝ったのは寿だけか。まあ、いい……アルケニモンのほうを見てみる。
「……はぁ、どうやらソイツが奥の手って訳かい。ヒヤヒヤして損したよ。ドクグモン程度の糸を抜けないようなデブ鳥を最後の切り札に持ってくるなんて
……だいぶ、節穴みたいでたいっへん、喜ばしいことだ。このまま舐めている間にこいつだけでも、倒せれば今後は楽に……
「────ハァ?」
ユイの頭に青筋が立っている。
(……あれ、ユイのほうが怒ってないか?)
「今、なんで言ったのですか?」
やっぱり、怒ってる!?
「だから、『
そうそう、それぐらい舐めてくれると、隙をつきやすくてありがたいんだけど……
「……ハァ、貴殿はなにもわかってないのですぞ」
うん、やっぱり怒ってるね。
「なんだい?」
ユイの発言にいらだっているアルケニモン……これはもうだめだね。
「わかってない、わかってない……貴殿らはなに一つこの御仁のことを理解してすらいない」
ユイの怒りによって揺れる体。その羽毛の中に、骨付き肉やリモコンをしまいつつ、糸が絡みついた体を
「なぜ拙者が呼ばれたか……それは」
「
アルケニモンに思いっきり啖呵を切って見せる。
(いや、お前の実践と究極体に向けての修行が一番の目的だけど)
……どうやら、俺の思考とユイの思いがうまく噛み合ってないらしい。
「なにを馬鹿なことをっ!?」
「馬鹿? 愚か? ……くだらない。たしかに拙者はあの方々に比べ、未熟で、弱虫で、みっともないただの『脇役』」
「ですが、貴殿のような『なにも間抜け』にタイト氏のことを言われる筋合いはない」
(……ユイ)
よし、そこまで言えるのであれば、帰ってからの修行の時間を増やしてあげよう。それならきっと、もっと強くなれて喜ぶはずだ。
「……タイト氏」
「なんだ?」
今、考えたことがバレたのだろうか?
「進化の許可を」
(…………?)
「────ああ、成熟期までな」
よかった、バレてなかった。
「それで充分!」
クロスローダーの力もなしにムーチョモンの体が光り輝いていく。
(……本来なら、デジヴァイスなんていらないんだよな)
この世界にとってふさわしい進化を、この世界とは別の世界からやって来たデジモンが至ったことを感慨深く感じる。
[ムーチョモン 進化]
光が収束し、赤と白に染まった姿が現れる。
空に突き刺す赤い鶏冠。
赤かった全身の羽毛は、白くたなびき光を反射する。
羽は短い代わりに、強靭な足を持つ。
紅く輝く必殺の瞳。
「『
雄雄しく広げるその翼。体躯には見合わないが、その姿は間違いなくトリデジモン中のトリデジモンの1体だ。
「……アカ、トリモン?」
背後からルビーの声が聞こえてくる。
(……そうだろ、すごいだろ)
誰にだって負けない俺の自慢のデジモンの1体だ。あんなかっこ悪いデジモンが、こんなにかっこよくなるなんて絶対に思ってなかっただろ。
「なんだい、トリの癖によく見たら翼が小さいじゃないか。そんな翼じゃ空一つ飛べやしないじゃないか。よくそれで、私達を────っ!?」
それでも嘲るアルケニモン。
(……でも、それは間違いだ)
「『スカーレッドアイ』」
────キッ
────キシ
────シッ、ア
「────なっ!?」
ユイの目から出る必殺の光線『スカーレッドアイ』で、一瞬で石化する昆虫型デジモン達。
(これで20体近くいたデジモンの半分は倒したな)
ユイはスナイモンにカブテリモン、クワガーモンなど、飛行できるデジモンを優先して石化させた。
────キシ、シャアッ!?
取り逃がしたやつも、羽が石化して蜘蛛の巣に囚われている。
「別にこの程度の相手なら、動かずとも倒せますし」
────ミチミチミチッ!!!
「それに、こんな糸屑ならすぐ破けますぞ?」
「……お前っ!?」
ユイは力任せにドクグモンの糸を引きちぎって見せる。
「そしてこのように」
『スカーレッドアイ』
「巣を石化してしまえば、充分な足場になるので、拙者に有利な空間には違いないのですぞ」
ユイの目から放たれる『スカーレッドアイ』は、一瞬で蜘蛛の巣を石でできたアートに作り変えてしまった。
「……なら、そっちのニンゲンを狙わせてもらうっ!!!」
ユイの戦闘力に驚き、狙いを俺へと変更するアルケニモン。
「…………」
無駄なことをやるモンだ。
自動車も顔負けなスピードでドクグモン達は俺に向かって接近してくる。
「タイトっ、すぐにこの糸を剥がしてっ!?」
「それなら俺達も増援に向かえる!!!」
「ギルモン、戦うっ!!!」
「タイトくん、お願いや!!!」
大丈夫だと思うのに、背後にいる奴らは自身も戦うと言ってくる。
(ユイならこの程度問題ないはずだ)
そして、その思いに答えるように、
「
────キッシ
────シ、ア
────アッ
ユイはドクグモン達を一瞬で石化させる。
「このように石化させてしまえば、問題はありませぬぞ」
ユイはさも簡単なように、後ろのロープウェイに囚われている奴らができそうにもないことをやってのける。
ユイだって、伊達に『テトとシン』に鍛えられていないのだ。
「さあ、今度はそちらがどうするのか、『説明』してほしいですな?」
最後の1体になったアルケニモン。
「……くっ!?」
蜘蛛の巣の外で、一歩後ずさってしまう。
……そのとき、
────ズドォオオン!!!
────ギシッ、ギシギシィ
アルケニモンの背後の森で大きな音が鳴り響き、蜘蛛の巣全体が大きく揺れ始める。
「……どうやら、あっちも終わったみたいだな」
ちょうどレッパモン達が戦っていた場所だ。たぶん、レッパモンがトドメを刺したところだろう。
「……ふっ!」
そのとき、追い詰められていたアルケニモンの雰囲気に異様な光が見えた。
(まるで、地獄の底で蜘蛛の糸を見つけたときのような反応だ)
アルケニモンの動向に警戒をさせようとユイに言おうとしたそのとき、
「……ふぅん、なかなかやるじゃない。でも、私からしてみれば、まだまだ、ね」
「『スパイダースレッド』ッ!!!」
────スパン!
「────っ、マズイッ!?」
俺はユイに捕まり、『次に起こること』への備えを始めた。
「こいつ、自分の巣の接着部を切り離したのですぞっ!?」
蜘蛛の巣の糸が削られ、ロープウェイから切り離されていく。そうして、蜘蛛の巣の中心に程近い俺達だけ被害が出るんだ。
「ユイっ、あいつを追えっ!!!」
(あいつは『
その考えでせせら笑うアルケニモンを俺は追うように指示をする。
「タイト氏っ、それは無理ですぞっ!?」
ただ、その指示の答えは否定であった。
「なんっ
「────
背後に響く女の叫声……ルビーの声だった。
(……そういうことかよっ!?)
背後を見れば、ロープウェイに全力でしがみついているルビー達が見えた。
「……くっ!?」
俺は指でユイにロープウェイの中にいる奴らを救うように指示をする。
「やってくれ」
「わかったのですぞ」
「『スカーレッドアイ』」
ロープウェイの扉を石化、その後すぐに突撃して石化した扉を破壊する。
「タイト、ありがとう」
ルビーにそう言われるが、
「御託はいい、早く乗れ!」
全員がユイに急いで捕まる。
「……これならっ!!!」
俺は早く……っ!?
「地面が、蜘蛛の巣が割れてまう!?」
地面が崩落していく。
アルケニモンの攻撃が終わったのだ。
「────ユイっ!!!」
「わかってますぞ!!!」
ユイは俺の声に従うまでもなく思いっきり跳躍。本当に空を飛ぶように崖の端まで一気に跳んてみせた。
…………しかし、
「必ず、必ずあんた達の命を奪いに来るからね……覚悟してなさい!!!」
アルケニモンは既に俺達には追いつけない場所に逃走済みだ。
「アルケニモンっ、待てっ!!!」
俺は叫ぶ。
「────待てぇええええええっ!!!」
しかし、その声は虚しく響き渡るだけだった。
「……くそっ」
俺は逃した魚の大きさについ、そんな声が出てしまう。
(あいつを、あいつを倒せさえしていれば今後はもっと楽に対処ができたはずだった。足手纏いさえいなければ……いや、違う)
ルビー達を足手纏いだと判断すること自体が間違いだ。俺がわざと連れて来たルビーと巻き込まれた寿にそんなことを思うなんて間違っている。
これから先、アルケニモンの罠に対処する方法を考えなければならない。少しだけ気苦労が残るが、問題はないはずだった。
「……次は」
どうするか考えようとした時だった。
「……ごめん」
ユイから降りて来たルビーに謝られる。
(……いったいどのことを言われてるんだ?)
今日俺に毒を持ったことか、アルケニモンの罠にハマったことか、それとも、アルケニモンを倒せなかったことか……どれにしても、本人に聞く時間は今はないことに気がついた。
「別にいいさ……頂上についてから、話を……」
「こいつが聞く」
ムーチョモンに戻ったユイを持ち上げ、ルビーの前に出す。
「────拙者ですか!?」
ユイは両手に持ったフライドチキンを振り回しながら、俺に驚いた声をあげる。
「もうすぐ昼だ。夕方には学校……いや、拠点まで戻る必要がある」
そう、もう昼の11時。
これから教授と合流し、山の上に登って、山を降って、学校に戻って……戻ってからもやるべきことはたくさんあるんだから、ルビーの言い分を聞いている暇はない。
「だとしても、帰ってから聞けば良いのではないですか!?」
「帰ったら帰ったでやることがあんだよ。だから、お前に任せる」
「ンノォオオオオ────ッ!?」
無茶なことを言う俺に同意するテト、助け舟を出すか追い打ちをかけるかわからないシンに、貧乏くじを引くユイ。
「……きひっ!」
いつものやりとり、テトとシンがいないことが少しだけ寂しいけど、なんとなくいつも通りに戻れた気がする。
「……仲いいんやね」
今度は寿がやってくる。
「当たり前だ。寝食を共にし、背中を預け合った仲間だからな!」
俺は笑顔で寿にそう言った。
「…………」
それに対しての返答はない。
(……なんで、無言なんだ?)
むしろ、少しだけ羨ましそうな視線を感じるが、時間がないことを思い出した。
「……ほら、行くぞ」
そう言って寿の手を引っ張る。
「────うん!」
なぜか、喜んでる寿に疑問を抱きつつも、教授達を迎えに行った。
2本の脚が巨大に発達した巨鳥型デジモン。地上での生活を長く続けていたため、空を飛ぶ事ができず、地上に適した体に進化した。そのために体も巨大になり、脚力も凄まじく発達した。羽の部分は完全に退化しており、戦闘の際に尻尾と共に大きく広げて敵を威嚇する。大きな体を動かすには見た目以上にエネルギーを消費するため、はげしいバトルはニガテらしい。必殺技は、赤い目でにらんだ敵を石化して壊す「スカーレッドアイ」。
「遺跡を中心に学校と用水路の一部区画と遊園地……あと、なにもないあそこを含めれば……だいたい予想は的中か」
「用水路の先にある『島』……『四方の封印』から逸脱しているから……そういうことか!?」
「……だから、アレは……逸脱してって、おかしいと思ってたんだよな」
ご主人様は調べ物をしているご様子。
「貴殿らはもう少し落ち着きなされっ! 拙者達がなんとか間に合ったからいいものの、あのままでは死んでいたのですぞ!!!」
ーーーーもぐもぐ
ーーーーバリバリ
ーーーームシャァッ!!!
(……いつまで、この話が続くのかな?)
(……さあ、というか説教中に肉を食べないでくれよ。こっちは腹が減ってるんだ)
(ルビー、ブイモン……相手がどんな相手でも、心配させたんやから甘んじて聞くべきやよ)
(ねえミナミ、あれって美味しいのかな?)
未だ私にさえあのご主人様に貰えてすらいない、全幅の信頼を与えられている糞鳥……いえ、口が汚くなってしまいましたね。
ユイ様はルビー様達を説教しているみたいですが、いまいち迫力にかけるご様子……というかっ、説教してる間ぐらい食べるのはやめるべきなのではっ!?
「そこっ、聞いているのですか!?」
口からものすごい勢いで涎を垂らすギルモンに、手に持っている骨つき肉を向けて批難するユイ。
「ーーーーじゅるり」
(……あっ、これは)
(ギルモンダメや!?)
ーーーーガブリっ!
「ちょっと、なにをするのですかっ!?」
「ギルモン、お腹空いたっ!!!」
「だめだよ、ギルモンっ!?」
「ルビー、今のうちに食っていいか?」
「いいんじゃない?」
「ルビーも止めてって、なにやってるんや!?」
「拙者の、拙者の肉がーーーーっ!?」
あちらでは、ギルモンがユイの持っている骨つき肉に噛み付いて……っと、私のところにもお客様が来られたようですね。
「……やあ!」
教授が元気そうに私に声をかけて来た。
(…………)
いろいろと思うところはありますが、
「……本当によかったのですか?」
「……あの終わりについてだね」
『待ってくれ!』
私の攻撃の前に躍り出る教授。
『なんのようですか?』
半分の期待……半分の失望……どちらも、教授に向けたものではなく、その後ろにいる犬っころに向けたものだ。
『このデジモンを……私の相棒を見逃してくれっ!!!』
『……アキハル、俺をっ!?』
教授が犬っころに対しての命乞いをし、犬っころが驚く。
(……教授が背後から攻撃されれば、今の私でもどうしようもありませんが)
『……君は私の相棒なのだろう?』
『……くっ、俺はもうお前の相棒なんかじゃないっ!!!』
私をそっちのけでやられる、夫婦? 漫才に少し苛立ちを感じるが、その様子がないことに安堵もした。
『俺はっ、俺は情けをかけられたとは思ってないからなっ!!!』
そして、逃げる犬……気持ちはわからなくもありませんが、まだ『射程内』ですよ。
『ーーーー待ってくれっ!!!』
『よく覚えておけ、ここで生かしておいたことを後悔させてやるっ! ーーーー絶対に、絶対になっ!!!』
その一言を残し消えた犬。そして、叫ぶ教授を連れて私は、ご主人様の方へと向かったのでした。
「捕虜として捕えることもできました。他にも、トドメを刺して仕舞えば、あなたも積極的に命を狙われる危険が減ったと思いますが?」
「……あれで、いいんだよ」
「…………」
「道を違えたのなら、何度だって声をかければいい。何度だって話し合えばいい……それが、あの子の相棒である私の結論だ」
随分と甘い結論だ。
(……でも)
ご主人様が、『もし』私がああなってしまっていたとき、教授とおなじように声をかけられたのであれば……
(嬉しく思うはずでしょう)
「……理解できませんね。そんな無駄な時間があるなら、目の前の一番大切な物を守る力を身につければいい……と、私は思います」
言葉だけの否定ですが、こう言っておいたほうがこの先、奴に命を狙われた時にすぐに動けるはずです。
「ふっ、生憎と1番大事なものはこの世界にはないのだよ」
「あなたはようやく見つかった姉が大切ではないのですか?」
「こう見えても所帯持ちでね。あちらの世界には、目に入れても痛くないほど、可愛い孫が2人いるんだ。今更何十年も会っていない姉など、あの子達に比べれば大した価値もないよ」
ネクタイを締めてカッコつけてるところ悪いですが、だいぶ最低な惚気を言ってますからね、あなた。
「……ふーん、そうですか」
でも、彼にも帰るべき理由があることに、先程命を守ったことは無意味ではないと感じ、少しだけうれしく思えてしまう。
……あっ、でもこれだけは言わなきゃいけませんね。
「でも、忘れないでくださいね。あの姿のことは、ぜーったい、ご主人様に言ったらいけませんよっ!」
最後にもう一度釘を刺す。
「大丈夫だよ。これでも命を守ってもらった身だ……約束ぐらいは守らせてもらうさ」
本当に守ってもらえるかわかりませんが、そう言われた以上信用するしかございませんね。
「おーいっ!」
私のマイラブリーハートなご主人様の声が耳に聞こえてくる!!!
「ーーーーご主人様っ!!!」
「調べ物は終わった。早く学校に戻るぞっ!」
「はいっ、わっかりましたっ、すぐにそちらへと馳せ参じますぅ!!!」
ご主人様に呼ばれて急いで走っていく……隣には、誰もいませんね。
「とう、ちゃーくっ!!!」
ご主人様の隣に陣取る私……誰が見ても、お・に・あ・いっ♡
「おいっ、女狐! タイト氏の隣はテト殿とシン殿専用の場所ですぞっ!!! そこにつけ入ろうなど、言語道断であります!!!」
「うるさい糞鳥ですねっ、テト? シン? それはいったい誰なの出すかぁ? 今いない者達など、ご主人様を守れもしないどうしようもないやからでしょう? それなら、私が陣取ったほうが良いに決まっております!!!」
「こんっのっ……拙者だけじゃ飽き足らず、テト殿とシン殿の悪口まで言うとは……っ、もう許さない、もう許せないっ、絶対に排除してみせますぞ!!!」
「……やれやれ」
私と糞鳥の間で呆れ果てるご主人様。
「むしゃ、むしゃ……ミナミ、おいしいね!」
「口元、汚れてる……ちょっと、口出しい」
「ギルモン……ちょっとぐらいわけてくれても」
「ブイモン……ダーメっ!」
「ルビーっ!?」
そんな会話が聞こえながら、山を降りていく。時間は昼時を過ぎたぐらいですね。