「タァ〜・イィ〜・トォ〜・氏ィ〜!」
俺の目の前に鬼…………いや、怒った『ペンギン』がいる。
「いったい、これはどうなってんであります!?」
家庭科室の真ん中で俺はユイに怒られていた。
「食事はタイト氏が作る、警邏もタイト氏がやる、情報収集も、作戦立案も、戦闘も……あんたバカじゃないでありますか!?」
今までやってきたことをユイに怒られている。
(山から戻る道中、ルビーや寿から話を聞いていたのはそういうことだったのか!)
背後から来る謎の怒りの視線は感じていたが、まさかユイのモノだとは思っていなかった。
「……余裕のある奴がやればいいと思って」
こんな場所に連れてこられていきなり戦え……と言われたって、この場にいる全員が混乱するだけだ。
(そう、みんな混乱してたんだし、ある程度余裕がある俺がやるのは当ぜ
「それがダメだって言ってるんですぞ!!!」
頭で考えていることが読み取られたみたいに、俺はユイに思いっきり激怒される。
「タイト氏が倒れたら、この娘達を誰が導くんですか? そこのパートナーがいない爺さんなんて当てになりませぬぞ!!!」
「……じいさん」
教授の悲しそうな声が聞こえてくる。
(まだ、50代の人にそれを言うのは酷なんじゃないのかなぁ!?)
そんなことを思いつつも、ユイの怒鳴り声は続いていく。
「第一、『衣』・『食』・『住』揃って、初めて人もデジモンも安心して戦闘行為に移れるのですぞっ! それを……これを見たらシン殿がなんと言うかわかりますか!?」
ここ数年で義理の姉からオカン……と呼ばれるようになったシンを、ここで引き合いに出すのか。
「『まず、年頃の娘がいるんすから、風呂ぐらい作ったらどうなんすか』……と、言うはずですですぞ!!!」
(…………ん、それはおかしいよな?)
「……いや、ネネはそんなこと言わなかったし」
レジスタンスにいた頃、ネネそんなことを一度も言ったことはなかったはずだ。それならルビー達も……
「歴戦の旅人であるネネ殿と、一般人であるそこのお二人を一緒にしないでくだされ!!!」
正論でぶん殴られた。
「……はい」
そう言われたら、俺には言い返すことができない。
「そんなんだから配慮が足りないって言われてるんですぞ!!!」
横を見ればうんうんと頷くルビーと寿が見える……ここに俺の仲間はいないのか。
テトだったら、俺を助けてくれるのになぁ。
シンだったら、比較的早めに説教を切り上げてくれるのになぁ。
(ああ、誰か助けてくれないかなぁ?)
「ーーーー
(助け舟がいたぁっ!?)
そんなとき、俺の後ろから白い狐が現れた。
クダモンである。
「……貴殿は?」
「私は新たにご主人様の僕になったクダモンですわ」
思えば、山頂で初めて会って以来、詳しく話をしていない2体である。
(いったい、どんな会話をするんだ?)
2体の性格上、そこまで相性がいい……というわけではなさそうだけど……
「……新たに……ふむ、では我々の本来のあり方に苦言を呈さないでほしいですね」
「……ハァ? ご主人様を跪かせ、説教を垂れるのが
(はいっ、思った通り仲が悪い!!!)
なぜか、デジャブを感じる。
「ここにはいないテト殿とシン殿の役目を、御二方の後輩たる拙者が請け負わねば、タイト氏はこのまま暴走し続け、倒れてしまうのですぞ!!!」
『シン』のように俺の今後を考え、心配し、配慮するべきだというユイ。
「それがおかしいと言っているのです。ここにはいない『テト』なる者やら、『シン』なる者達のことを言ってなにになるのですか!!!」
『テト』のように現状を考え、俺の思いを叶える為に後先ではなく今のことを話すクダモン。
「タイト氏は目をかけていないと、こうやって無茶をしてしまうのです……だから、拙者が……」
「第一、私が仲間となった今、古い方々には引退してもらって、私とご主人様だけでなんとかするつもりだったのです……それを、後々から出て来てぐちぐち言われる筋合いはありません!!!」
その会話はどこかひどくいやな懐かしさを感じさせていく。
「ーーーー『古い方々』だぁっ……言わせておけば、好き勝手言いおってっ! テト殿とシン殿の栄光を知らぬ愚者にそれを言われる筋合いはありませぬぞ!!!」
俺とテトとシンを崇拝するユイの逆鱗を踏んだクダモン。ユイはその言葉に激怒する。
「この世界でご主人様を守ってきたのは私です! ロートルは黙って消えてくださいっ!!!
俺のことが独占したいぐらい好きなクダモンは、他のデジモンの話をされたくないと、憤怒する。
(……ああ、これって)
「名前を賜るという栄誉を持たぬ未熟者に、命令される言われはないっ!!!」
(この2体……仲が悪かった頃のテトとシンの雰囲気に似てるんだ!?)
俺の考えが一番重要で、それを叶えるのが重要だと思ってるのがテトとクダモン。
俺を律しようと考えるシンとユイ。
相性は最悪であった。
そして、ユイの明らかな煽りによって、
「なんですってっ!!!」
「なんですとぉっ!!!」
言い合いは殴り合いへと移り変わってしまう。
ドカッ、バキッ、ボコッ、ズカッ、ニギッ、メキッ、グイーッ、バンッ!!!
拳で殴り、平手で叩き、蹴りを入れ、皮膚をつかみ、頰を引っ張りあう。家庭科室内に響き渡る両者の喧嘩の音。
……その姿を見て、気まずくなってしまう。
「……悪い、こんなうるさくて」
とりあえず、この場にいるみんなに謝った。
「……別に、いいよ」
ルビーは呆気に取られ、
「……賑やかになってええやん」
寿は苦笑いをし、
「……じいさん……じいさん」
教授は途方に暮れていた。
「お前ぇっ!!!」
「ですぞぉっ!!!」
見た感じ、しばらく終わりそうにない。
(経験上、手を出すのはよくないと知った)
こういうのは経験者じゃない限り、放っておくのが吉だ。
「……ユイに言われた通り、風呂でも作ってくるよ」
俺はこの部屋を出る為に立ち上がった。
「ウチは、今朝出た食器を洗ってきますぅ」
寿も巻き込まれないように俺についてくる。
「私は缶詰の在庫確認をしてくる」
ルビーは教授の手を引っ張って教室の外に出た。
「……じいさん」
教授は……じいさんと呼ばれたショックが続いているようだった。
「なあ、ギルモン?」
「……ん?」
「俺達はどうする?」
「ギルモン、タイトの手伝いしに行く!」
「……そうだなっ、俺もついていく!!!」
そう言って、俺についてくるブイモン達。
「バカっ!」
「アホっ!」
「デブッ!!」
「ヒョロガリっ!!」
「私情で私のご主人様との大事なラブラブ時間を削ってうっとうしいんだよ、クソドリィッ!!!」
「神聖なるタイト氏に邪な視線をぶつけて気持ち悪いんですぞっ、女狐ぇっ!!!
罵倒と殴り合いは皆が帰ってくるまで続いた。
各々の目的を終え、陽が傾き始める頃、いつもよりくたびれた少年が、家庭科室の『テーブル』の前にたちそう言った。
「……じゃあ、明日の作戦会議を開始する」
いつもよりテンションが低いのは、きっと『拙者』のせいであろうと思いながら、少年の横へと歩み始める。
「────開始するってなにっ!? ……というか、今日はやけに早くない!? 昨日とか食後にやってたのに、今、夕方の5時だよ……ってか、その半分料理に意識向けながら説明しようとするのやめろっ!!!」
……と、ルビー殿にタイト氏が怒鳴られてしまった。それもそのはず、タイト氏の右手には包丁が、左手には次々と食材が切られていく。
だけど、今回の主役は彼ではない。
「────
『脇役』たる『拙者』の役目だ。
「……えっと」
戸惑うルビー殿……それもそのはず、目の前いきなり太っちょのペンギンが現れたのだから、戸惑うしかないのだろう。
「『
『拙者』は元気よくルビー殿に挨拶をする。新入りにタイト氏のパートナーであることを強調する。
「……チッ」
おおっ、嫉妬してる。嫉妬してる。
そうやってもう少し、立場を弁えたほうが良いのではないかと思いもするが、この話のほうが先決だ。
「……よろしく……てか、タイトが私達の質問に答えてくれる時間なんじゃないの? ……それが、なんで……?」
戸惑うルビー殿。
「作戦会議なんかに?」
彼女が呑み込んだ言葉をわざわざ口に出して言ってみる。
「────っ!?」
ルビー殿は驚いたみたいだ……だけど、これぐらいやらないと『拙者』の溜飲が下がらないのだ。
(タイト氏に対してだいぶ好き勝手やってくれたみたいだから、これぐらいは許されるのですぞ)
テト殿であれば死んでもおかしくないことをしてると気づいてほしい。
「でも、それはタイト氏の負担の軽減の為であります」
彼女達が気づいていないことをわざわざ指摘してやる。
「「「────っ!?」」」
驚いてるみたいですが、突然の環境の変化に視界が狭まっていたのか、それとも単純に言うことを聞いていただけなのか……どちらでもいいが、タイト氏の仲間として、意趣返しだけはさせてもらおう。
「拙者は、タイト氏のこの数日間の話を貴殿らから聞きました。
タイト氏に甘えてることをはっきりと伝える。
「いくらタイト氏とは言え、日々あのような生活を続けていれば、肉体にも負担がかかるのですぞ。それをご理解いただく為に、業務の分担も含めて、早めに話をさせていただいたのであります」
そして、タイト氏が無理をしていることを伝えることで、甘えていることを自覚させるのだ。
(これなら、もし、『万が一』タイト氏が動けない事態になったとしても、分担してやるぐらいの思考はできるはず)
そんなことを考えていると、
「…………」
「…………そう、やね」
「…………」
人間信長3人が少しだけ落ち込んでいるようであった。
(……それなら、話を続けるべきだ)
「……では、明日の作戦についてですが……タイト氏、『明日がもしかしたら最終決戦になるかも』……というのはホントですか?」
拙者はタイト氏に事前に確認をとったことを再び聞いてみる。他の面子はと言えば……
「────っ!?」
タイト氏に向かってかなり驚いている様子。
(……この人は)
他の人になんにも教えていなかったのだろう。
「ああ」
さらに『拙者』の発言を肯定することで……
「────っ、ハァっ!?」
「……っ!?」
「……?」
「最終決戦って……ウチらそないに強くないんやけど!?」
(驚くのは当たり前なんですぞ)
相変わらず会話が足りない……と思いながら、タイト氏の方を見れば、
「だいたい、昨日のうちに『どう戦うか』というのは準備してある」
……と軽く言ってみせた。
(……あはは、言ってるよ)
半分諦めているが……実際問題、時間が足りないというのも事実である。そこはある程度許容範囲であろう。
……しかし、
「それは、いったいどう────、……っ!?」
「それでどう戦うんだ────、……っ!?」
(わかりますぞ、教授とレナモンも焦ら気持ちは)
日々のタイト氏の発言に振り回される側からすれば、その様子には懐かしさすら感じてしまう。
「教授もレナモンもせっかちだな……全員、昨日撮ったの写真を見てくれ」
タイト氏は『拙者』から完全に主導権を奪い取り、
「
…………は?
「────っ!?」
「なんだとっ!?」
「嘘やろっ!?」
「……ん、どれのこと?」
「…………っ!?」
「…………」
「────っ、そうか」
『拙者』の耳にすら入って来なかった情報に、頭の中が一瞬バグってしまった。
(……っ、いかん、このままではっ!?)
「タァ〜・イィ〜・トォ〜・氏ぃ〜っ! そんな大事なことなんで話さなかったんすかっ!!!」
「いや、だって言う時間なかったし」
「あなたは本当に『報・連・相』をしない人でありますなっ……拙者が話す前の5分ぐらい時間が空いていたでしょう!!!」
「早く始めろって言ったのはユイだろ? それに俺はさっさと終わらせて、こっちに集中したいんだよ」
タイト氏は包丁を目に見えるように振りながらそう言った……ん!?
────きらきら、きらきらっ!
今、目に入った
「……なに、作ってるんであります?」
もはや、それは確認であった。
タイト氏の隣にあるダンボールの中に入ってるものの確認ですらあった。
「こっちはルビーや寿達、お前用の飯で…………」
そう言ってダンボールの『中身』を持ち上げ、
────ズドンっ!!!
虹色に光輝く『巨大な肉』を目にしてしまった。
「
「……え」
「……これは」
「肉が光っとる」
「…………はっ」
「…………は?」
「
再び止まった思考を再加速させる。
「────へ?」
「これだけ巨大な『ミラクル肉』……拙者、見たことないのですぞ!?」
「そりゃあ、五キロあるからな」
事も投げに言わないでください!?
「拙者の時はたった300グラムぐらいだったのに……うらやまっ……それに、こんな巨大な肉でいったいなにを作るのでありますか!?」
『拙者』はあのとき以来食えていないのに、『あの』後輩が食うだとっ……しかも、こんな巨大な肉を!?
納得できない!?
「ビーフシチューにカツレツに、ステーキ、ハンバーグにロールキャベツ……あとは、明日の弁当でも持っていけるようにカツサンドでも作るかだ」
全部うまそう!?
「ちょっと、拙者も味見を……」
「だめだ」
「────チッ!!!」
思わず溢れる大きな舌打ち。
(……ああ、うまそうなのであります)
「……あの、ご主人様……これをまさか、……?」
後輩がおずおずと手を挙げる……これは、まさか?
「ああ、今日の夜から明日の昼までに全部食べてもらう」
「────ひえっ!?」
「……これ、を?」
「やった────っ!!!」
悲鳴、困惑、ハッピーな声が次々上がる。
(タイト氏……後輩食えなさそうですぞ)
真っ先に悲鳴をあげた後輩が、積み上がる肉の塔に恐れをなしている。
「……なんで、あの肉を食べさせる必要があるんや?」
そして、パートナー側にも説明をするべきです。
「
「あれを食べるだけで、デジモンという存在がより強大になる手段の一つとして、あの『ミラクル肉』が挙げられるのです」
タイト氏曰く、『才能』・『素質』……なんて呼ばれるものらしいですが、『拙者』に関して言えば、具体的な実感はなかった。
「あんな肉食って本当に強くなれるのか?」
困惑するブイモン、気持ちはわかる。
「拙者は……いちおう、身をもって体験したので、そこは大丈夫であります……というか、『それ』を買うのにいったいどれほどの『YEN』を使ったのでありますか?」
……そして、最も聞きたいその値段は、
「……だいたい、五千万YEN……ぐらいかな?」
「…………、────ハアッ!?」
「五千万? 五千万YENって言った!?」
一般庶民達が悲鳴をあげた。
「────まあ、それぐらいするかなぁ?」
(……この人は)
カミシロの仲間になってから、金銭感覚が壊れてしまった……昔はこんなに金を使うような人ではなかったはずだ。
それでも、過去のタイト氏がデジモンと戦って稼いだ金の雀の涙程度なのが、問題を加速させている。
「だいたい、ミラクル肉の切り落としが100グラム100万YENするので……まあ、それぐらいするでありますね」
驚きのあまり悲鳴が上がる。
「……ミナミ、そんなにすごいの?」
「……ウチ、そんなお金見たことない」
「……これが、カミシロの秘蔵っ子の立場」
各々の評価が変わっていく。
(タイト氏……こういうところですぞ)
今後の交友関係にヒビが入りそうで怖いのである……そして、
「神城関係なく集めたタイト氏お金であるのがおかしいのであります」
金を好きなだけ使える『立場』を持ってしまった事が、この人に取っての一番の問題ではないかと思えてしまう。
「これって、調理すると才能の上がり幅が大幅に減るのが難点なんだよなぁ」
そう言いながら肉を揚げるのをやめていただきたい。カツレツが山になっています。
顔が青ざめていく後輩。ここはフォローを入れておくべきですね。
「それでもこの量は流石に多いと思うのであります」
ここで、量を指摘する。
だいたい、他のパートナー同様に我らの食が太いのが問題だと思わなかったのですか?
「……あまる……か?」
思わなかったんですね……なら、今ならいけるか?
「なら、拙者に食べさせてほしいのであります」
「だ・め⭐︎」
だめだった⭐︎
「ンノォオオオオオッ!!!」
「……なんか、楽しそうやな」
「いつものタイトとは違うよね」
「……ご主人様……っ、あんのクソドリィィ!!!」
「……あはは」
『拙者』達の内輪ノリに外野が驚いている……というより、後輩。せっかくフォローしてやったんだから、こっちに感謝の念ぐらい送ってください。
やる気がなくなります。
「……ごっほんっ!」
という内輪ノリをやめ、本来の話に戻る。
「……で、話を戻します」
「質問いいかな?」
「『主』というのは、この黒い龍……ということで合ってるかな?」
教授がそう言いながら写真を見せてきました……『拙者』は結局この写真を見れていないのですぞ〜。いったいなにが映って……っ!?
「黒い龍……ファンロンモンじゃありませぬかっ!?」
前線基地を狙われたトラウマが蘇ってくる。
「タイト氏、流石にこれは勝てるのでありますかっ!?」
元凶に件の問題について即座に聞く。
「いや、勝てるだろ」
────即答っ!?
「話を聞いた限り、この3体は成熟期でレナモンは未確定……相手は究極体の中でも強いデジモン……本当に勝てるのでありますかっ!?」
(絶対に勝てないのでありますっ!?)
「────えっ、そないな相手と戦うんかっ!?」
みなみ殿もこうやって驚いている。確かに、この相手と戦うにはミラクル肉は必須…………ですがっ────
「
今、タイト氏の口から恐ろしい言葉が聞こえて来たような……聞き間違い、ですかね?
「…………へ?」
「は?」
「……ん?」
「────えっ!?」
「……ゆ、い?」
「ユイも完全体に進化できるし、テトもだいたいそれぐらいの実力の頃にファンロンモンを倒してるし、問題ないだろ」
(ンノォオオオオオオッ!)
聞き間違いじゃなかった!?
「もん、だいっ……大アリでありますっ!!!」
「あの最強無敵のテト殿がタイト氏のバフありきで『
全盛期のタイト氏がいてようやく勝てた相手を、『拙者』に任せるのですか!?
「なら、お前が進化すればいい」
無茶振りを言われる。
「ンノォオオオオッ!? そんな無茶を言わないでくだされっ!!!」
進化なんてそう容易くできると思わないでください。
テト殿やシン殿みたいな化け物と一緒にしないでください。心が壊れます。
「…………」
(……えっ!?)
タイト氏の頬が吊り上がった。
「……まあ、冗談だ」
……冗、談ですか?
「実際には、『水無瀬ミユキの魂を取り戻す』ことが主目的になる。目的を達成できたら、ブイモン達が究極体になるまで籠城戦をするだけだ」
……籠、城?
相手にしなくていいのですか?
「────ミユキを救いに行くのかっ!?」
レナモンが喜色に塗れた声を上げる。
「…………?」
実際にあの様子の主人を見れば……それも、理解できますなあ。
「うん、水無瀬ミユキを救いに行く」
「……そうか、そうかっ!」
「レナモン、姉さんを元に戻せるな」
「そうだな、ハルっ!」
タイト氏の肯定に喜ぶ1人と1体。
「タイト氏」
だけど、伝えなくてはならない事があります。
「……わかってるって」
そして、汚れ役は『拙者』の役目ですぞ。
「……レナモンには重要事項を任せたいのであります」
喜ぶ彼らの前に、神妙に言葉を選ぶ。
「……なんだ」
「本来、水無瀬ミユキは主によって魂の半分が奪われてる……って話をしたと聞いているのですぞ」
タイト氏から聞いた言葉……『魂』が奪われ、歳をとることができなくなった少女。それが、水無瀬ミユキ。
「……そうだ、あの主によって、ミユキは……こんな状態にっ!!!」
言葉を聞き烈火の如く怒りを露わにするレナモン。
「落ち着くのであります」
ですが、話が進まないので落ち着くことを促した。
「…………」
もちろんそれはレナモンも理解しているので、『拙者』の言葉に耳を傾けてくれる。
(……うん、これなら話すことができるのですぞ)
タイト氏に事前に聞いていたこと、我らで話し合ったことをまとめ……
問題を話出す。
「問題は『どうやってミユキ殿の魂を取り戻すか?』というのが主題になります」
「……そうだな……だが、解決方法はあるのだろう!」
レナモン自身は希望を持っている……だけど、『拙者』達は伝えねばならない。
「それに関しては……実際問題、ミユキ殿と、レナモン次第……と言ったところなのであります」
それは貴殿ら次第だと。
「ミユキと……私、次第だと?」
驚くレナモン。
落ち着くまで……いや、話を聞く覚悟はできているのか、静かに『拙者』の言葉を待ってくれている。
話が早くて助かります。
「レナモンには初代デジヴァイスが渡されていますな」
「……これのことか?」
「そう、それであります」
タイト氏から渡された『初代デジヴァイス』。それがレナモンが持っているということだけで、安心できた。
(これで、話すことができる)
覚悟が決まり、レナモンに話す。
「
無茶を言ってるんだろうなぁ、『拙者』。これもタイト氏の作戦なんですけど。
「……それは、本気で言っているのか?」
言葉に少し怒気が混じっている。これは怒っていますね。
「本気であります」
「────ミユキをっ、奴らに引き渡せって言うのか!?」
やっぱり、激怒されますよね。
(……でも)
「半分、賭けでありますが……勝算はかなり高いのであります」
勝算が高いのは事実だ。
タイト氏曰く、本編では乗っ取られた本人が、レナモンや周囲の反応から自力で意識を取り戻す……というムネアツな展開だと聞いているのですが、流石にそれよりかは可能性があると思うのです。
「その初代デジヴァイスを扱っていた者達は、実際に洗脳されたデジモンや悪性の存在に乗っ取られた者を解放して見せたのであります……そして、その効果は実際にご覧になられたのではありませぬか?」
効果の実験は『あちら』でも『こちら』でも成功している。『こちら』のの話は又聞きですが、タイト氏意外にもルビー殿から聞いているので、実証済みなのは確かだ。
「それに、ウチ達もその聖なる……初代デジヴァイスの力は知っとるよ。聖なる光……かどうかはわからんけど、主の霧を弾いてくれる結界だって作れたんや……信じてみてもええと思う」
みなみ殿も援護してくれる。
(────これなら!)
「…………」
だけど、レナモンの顔はまだ渋い。
(くっ、だめでありますか!?)
「私からも頼みたい……姉さんを……姉を救う手立てがあるのであれば、試してみるべきだ」
(教授殿もありがとうございます!!!)
教授殿も援護してくれる。
(でも、レナモンの顔は渋いまま、ですぞ)
渋いのはやはり……
レナモンの隣にボーッと座る少女。自身の今後について話しているのに、反応が一切ない。
(心配でありますよな)
自身のパートナーがこんな姿であったのなら、自身も同意できるかはわからなかった。
「実際に敵の本拠地の場所までわかってるし、やるべきだよなぁ〜」
そんなとき、油物を扱っているタイト氏のそのような言葉が聞こえてきた。
「タ・イ・ト・氏!!!」
余計なことを言わないでくだされ!!!
「……ごめんって」
軽く謝ってくるタイト氏。
(……まったく)
あなたはいつもそうですね。
「本拠地?」
だが、タイト氏の言葉にレナモンが反応した。
「……わかったのか!?」
……順序立てて話すことはできなさそうですね。
「……あとで、話すつもりでしたが」
説明をしながら、タイト氏が作ったと思われる資料に目を通し、状況の把握に務める。
「実はファンロンモンというのは……『四聖獣』と呼ばれる究極体デジモンのグループに属しているデジモンでしてな。モチーフ……と言ったら語弊になると思うのでありますが、『四神』と言えばわかりやすいのではありませぬか?」
結構有名だから、知っている人物がいるのでは────
「────四神だとっ!?」
教授殿が反応した。
「────教授、知ってるのっ!?」
「東西南北を守護する神。朱雀・玄武・白虎・青龍の四種の神に別れ、古来中国の伝説から伝わって来た存在のことだ」
「……それって、奈良の奴? ウチのオカンがそんなこと言っとったよーなきぃする」
「……そんなに有名なの?」
「歴史的建造物の中に『朱雀門』って言うのがあってな、子供はある年齢になったらみんな見に行くんよ」
「へー、そうなんだ!」
ルビー殿やギルモンの疑問に、教授殿やみなみ殿が補足する。こうやって勝手に話してくれると楽でいいですね。
「……で、話を続けると、さっき教授が説明してくださったように、『東西南北』が重要なのであります」
すぐに本題に入れました。
「今日、タイト氏が写真に撮った『遺跡』を中心に、この校舎がどの位置にあるのか見ていただきたい」
そう言って、タイト氏が数時間前に撮ったこの『島』の写真を見せる。
「……南?」
教授殿がすぐに反応した。
「そう、南であります」
「このように『主』の影響下にない場所が複数あると考えて……同じぐらいの場所になにがあるのか見ていただきたい」
このヒントで理解していただけるとありがたいのですが……
「北には……遊園地かな、これ?」
「東はなにもないな」
「西は……ミナミ、なにこれっ!?」
「ダムとトンネル、やな……でも、なんで海の方に向かってるんや?」
「……というか、ここ島だったの!?」
「……ルビー、気づくの遅いって」
それぞれが意見を出して話し合ってくれる。それだけで、話がまとまっていく……『拙者』の仲間うちでは発生しない状況に感動すら感じていく。
「……で、これがなんだって言うのですか?」
そんな『拙者』を冷ややかな目で見る後輩。
(……少しは感傷に浸っても良いのでは!?)
そのようなことを考えながらでも、話を続けるようにする。
「……と、言うように、この『島』には『遺跡』を中心に東西南北……一部例外はあるのですが、その空間に『霧』が発生しないと拙者とタイト氏は考えております」
全員が『霧』が発生しない……ということに疑問を抱いている。そこに、補足が必要ですね。
「なぜそう思うのかと言えば、タイト氏が初日に走り回ったのが……ここ、東のあたりであります。その空間には『霧』が発生せず、デジモン達もタイト氏を追って走り回っておられました。
このことから、『霧』が発生するには条件があると思われます」
タイト氏が敵から逃げ回ってくれたおかげで、その状況を理解することができた。
「『遺跡』の東西南北の場所には『霧』が発生しない」
「先程の説明にでた四聖獣が『遺跡』に描かれていないことから、『ファンロンモン』が『主』であることは明白……ではその四聖獣はどこに行ったのか……というものですが」
『四聖獣』………… について、触れる。だが、これは確認目的だ。全員が悩み出す前に、答えを言ってしまおう。
「東西南北……ちょうど『四つ』でありますな」
「────っ!?」
「────、そういうことかっ!?」
教授殿とレナモンがすぐに理解した。やはり、頭が回る面子がいると楽ですな。
「……待って、なんで『四聖獣』なのに『ファンロンモン』がいるの? 神は四つじゃないの?」
……頭の回らない面子もいるみたいですが。
「四神の考え方には朱雀・玄武・白虎・青龍の四柱の神の考え方があるが……それに加えて、中心に『黄竜』と呼ばれる一柱の神がおられる」
即座に教授殿がルビー殿の質問に答える。
「そうですな、黄竜……それが、ファンロンモンのの立ち位置であったと覚えております」
それに補足するように、『拙者』が回答する。うむ、これは楽でいいです。
(脳筋が集まった『拙者』の先輩がたも見習ってもらいたいですな)
そんなことを思っていると、ルビー殿の脳に電流が走ったようですな。
「……てことはっ!?」
「
「────っ!!!」
「更に、デジモン達がどこからやってくるのか……それを推測したところ」
森や山には『霧』が発生しやすい。
それならば、敵方のデジモン達にも過ごしやすい環境ではないということ……そして、唯一『霧』が発生してもデジモン達が安心できる場所がある。
「────ここ、水路の先にある『島』を発見したのですぞ!!!」
タイト氏が最後に撮った全体像以外の写真。そこには水路の先にあるこの島とは別のもう一つの『島』を指差した。
「……それって?」
「つまり、『主』は四聖獣によって封じられている『遺跡』よりも、封印されている場所よりも遠い『島』に拠点を置いている事が発覚したのであります」
「「「なっ……なんだって────っ!!!」」」
想定通りの反応……これは、楽しいですな。
「……よくやるな」
そこっ、ボソッと言わないでください!!!
「……と、いうことで、レナモン」
レナモンに近づく。レナモンの雰囲気は先程よりかはだいぶ印象が良く、希望を持ててる様子だ。
「────ああっ!?」
返事もいい……これなら、
「水無瀬ミユキ殿の護衛と我らが奴らを追跡できると判断したとき、奴らへの一時的な『受け渡し』を頼んでもいいでありますか?」
再度頼み込んでみる。これでだめなら、別の方法を考えてみるしかない。
「……それで、本当に救えるんだな」
レナモンがそう言った。その答えをレナモンの目を見て話そうとした時────
「大丈夫、救ってみせる」
タイト氏がレナモンの目を見て、真摯に答えてくれた。
(……たっく、タイト氏は)
これだから、タイト氏はまったく。
「……わかった。委細承知した」
その言葉にレナモンが満足したようで、笑顔で了承してくださった。
「……っと、もうそろそろできるな」
タイト氏のそのような声が聞こえてくる。
「それじゃあ、飯の時間にしようか」
その日の夕食は『カツ丼』であった。
同時刻、とある……いや、タイト達がいる島とは別の島の祭壇にて、
「……それで、アルケニモン。お前は主様に捧げる子供……つまり、贄から逃げたわけだな」
司祭を中心に敗走したアルケニモンとガルルモンを睨みつけるケモノ達がそこにいた。
「はい、そうです」
「…………」
アルケニモンは肯定し、ガルルモンはなにかを思案している。
「ーーーーっ、で……ですがっ、奴らには更なる切り札が……新たなケモノを使い、私の部下を一掃したのですっ! それはもう、とても強いケモノでしたっ! こうやって逃げ帰るのがやっと……と言ったところで……」
「…………」
アルケニモンの必死の弁明に、司祭はなにも応えない。
「ーーーーアルケニモン、オレカワル。主サマの為戦ウ」
「ノロマは黙ってなさい!!!」
「はっ、逃げて来た奴が良く言う」
「お前こそ、見逃されて逃げ出した癖にっ!!!」
「……違うっ! 俺は見逃されたわけではないっ!!!」
ケモノ達は自身の
「ーーーー黙れっ、主様の御前だ!!!」
見苦しく争うケモノ達に司祭が一喝する。
「…………」
「…………」
「…………」
「……と、言っても……奴らの中には不可解な者がいることも事実……これから、どうすべきだろうか」
司祭は悩む。
『主』さえも困惑させる程の、不穏分子が贄の側に立っていること……そして、その不穏分子をどう排除するのかを。
「それは、私が再び罠を張り、必ず贄として捧げます!!!」
「オレガ倒ス」
「ーーーーふんっ、結局お前も思いつかないんだな」
ケモノ達がうるさく騒ぐ。
だが、ガルルモンの言う通り、排除するすべを司祭が思いつかないのも事実であった。
ーーーーが 。
そのとき、司祭の頭の中に『啓示』が降りた。
「ーーーー待てっ!!!」
未だに騒ぐケモノを沈め、司祭は意識を集中する。
「ーーーーっ!?」
『 』
その言葉に司祭は冷や汗をかいた。
その啓示は司祭にとって、チャンスでもあり、危機でもあったからだ。
「今、主様から啓示が来た」
だが、司祭は事のあらましをケモノに伝えんがため、啓示について明かす。
「ーーーーなっ、主様からっ!?」
「ソレ、イッタイドンナ?」
「…………」
誰しもが耳を傾け、司祭の言葉を待つ。
「
「「「ーーーーっ!?」」」
司祭が思い悩んだ言葉に、ケモノ達は驚き、戸惑う。
「ソレハ、ホントウカッ!?」
ケモノが叫んだ。
「主様の啓示は絶対……今まではこのようなことは起こらなかったのだがな」
本来であるならば、頻繁……どころか滅多に来ない啓示がこの贄が来てから頻繁に降っている……それは、
「アルケニモンやガルルモンの言うように、今度の贄は主様でも警戒するような危険な相手……ということだろう」
ケモノと同様に、司祭自身も驚き、警戒している。
「……それで、奴らはどうここを攻めるつもりなのですか?」
「水路を渡るようだ」
アルケニモンの問いに答え、そこにどのケモノがいたか思い出す。
「……メガシードラモンの縄張りですね」
アルケニモンが言うようにメガシードラモンの縄張りであった。
(主の命であればメガシードラモンもとても喜ぶのだが……)
勝てる見込みがない。
ドクグモンを殲滅し、ファングモンを打ち倒し、アルケニモンを撤退させたニンゲンの成長速度に、司祭は自身が出るべきか悩み始める。
「…………」
数分、悩み抜き一つの答えにたどり着いた。
「着いてこいアルケニモン、ガルルモン……今度は私が出る」
司祭は自身が出ることに決めた。
「司祭様自らですかっ!?」
アルケニモンどころか、周囲のケモノがざわめき出す。
「ああ」
それに肯定するように司祭はローブを脱いだ。
「不穏因子は次で摘み取らねばならぬ。絶対にだ」
剣を手に取り、掲げる。
その姿にケモノ達は同意するように雄叫びを上げるのであった。