ムカムカする。
腹の中が煮え繰り返るような苛立ちが、ウチの心の中で弾けて混ざる。
昨夜は、ご飯は豪華やったし、ひさしぶりにお風呂に……それもタイトくんが中庭に作ってくれた『露天風呂』にも入れて気持ちよかった。
それなのに心の奥底で煮え繰り返る言葉にできない『
ーーーー
こんなにも『
ウチは醜いなぁ。
「ーーーーでは、諸君……」
「ユイ、やれるなっ!」
「いつでもいけるのであります!!!」
タイトくん達が敵に立ち向かいに行くのが見えた。その姿を見て、ウチはタイトくんのとある言葉を思い出した。
『デジモンは外的要因で進化する』
『外的要因』……つまり、なんらかの干渉を受けて、初めて進化するんや。
「……ミナミ?」
戦う為の力が
「ミナミ、だめだよ」
いや、絶対になる。
「……ミナミっ!?」
ウチは初代デジヴァイスを握り締め、強く掲げる。
「ーーーーミナミっ!?」
さっきよりも、深く暗く輝く初代デジヴァイスの光がギルモンを
「もっとっ……もっと力をっ!」
力が可視化されていくのが見える。
(……もっとや!)
だけど、これじゃタイトくんと戦っとる『あの』デジモンは倒せへん。タイトくんを助けられへん。
「……だめ、だよ……ミナミ」
『グラウモン』に進化したギルモンが言った。
(……うるさいっ!)
ウチの中に唸る思い……目の前にある『
「ーーーーもっと、もっとやっ……進化するんやっ!!!」
でも、後悔はない。
だって、『あいつ』にはこのどうしようもない『
「……だっ、めっ」
新たな『
「ーーーーギルモン、進化するんや!!!」
[『 』
「あはっ、あはははははっ!!!」
力強く輝き、ギルモンを
「ーーーー寿?」
この力なら、この力があれば……っ、タイトくんは『ウチ』を見てくれるはずっ!!!
ルビーみたいに気にかけてもらえる。
ミユキちゃんみたいに助けてもらえる。
クダモンみたいに構ってもらえる。
ユイみたいに馴れ馴れしくできる。
……この力さえあればっ!!!
「ーーーー
……この、力さえ……あれ、ば?
「……ギル、もん?」
一夜明けて、全員でダム付近の水路までやってくる。
「ここからは、陣形を組んで行く」
「……うん」
「わかった」
ファングモンが『主』に取り込まれた後に組んだ陣形……つまり、いつでも聖なる光で結界が組めるような態勢へと変わった。
前衛はルビーと寿、後そのパートナー達……とクダモン。
真ん中は護衛対象である水無瀬ミユキとその護衛のレナモン。
後衛は非戦闘員である教授と戦闘能力の高い俺とユイ……という陣形で水路……いや、ダムの下水道を歩き出す。
「うへえ、汚ねえ」
「コラッ、そういうことは言わないの!」
ブイモンはここを嫌がり、ルビーが咎める。
「ここが嫌なら、早く進んでくれ」
本来なら、俺と……もう一人と1体の歴戦のデジモンとパートナーがいれば、教授を真ん中に入れて、ルビーと寿もどちらかが前衛、どちらかが後衛になるように陣形が組めたんだけどな。
(こんなときに、キリハかネネがいてくれたらなぁ)
そんなことを思わずにいられないが、いないものはしょうがないと諦める。
「ほらっ、ご主人様がそう言ってます……早く行きますよっ!」
クダモンは不機嫌そうにブイモンに声をかける。
(……そんなに俺と離れるのがいやか)
明らかにユイに向けて嫉妬の視線が向けられている。どれだけユイに敵愾心を負けるのだろうか?
(……懐かしさも感じるが、少しだけ嫌な雰囲気だ)
その後は、幻覚で仲間割れを測るも『ある1人』を除いて失敗し……その後の『鬱展開』になっていくんだけどな。
「────タイト氏っ!」
ユイが突然声を上げる……周りを見れば、壁の隅から煙のようなものが出始めていた。
「……えっ、なに!?」
「敵か!?」
「ミナミ、下がって!!!」
「えっ、あ、うん!?」
状況に慣れていない前衛達が陣形を崩し始めてしまう。
(────まずいっ!?)
レナモン……は、水無瀬ミユキを抱きしめ、動かずにいてくれる。教授は、自身のデジモンがいないので動かないでくれた。
(……ならっ!)
「────陣形を崩すなっ!!!」
怒鳴り声で前衛に命令するだけでいい。
「────はっ、ハイっ!!!」
寿が真っ先に反応した……しかし、他の連中は戦闘態勢になったままだ。
「ギルモン、落ち着いて……ルビー達もこっちに戻ってっ!!!」
「うん」
「…………」
「……わかった」
だけど、寿の言葉によって陣形が戻る。
(……これは、訓練不足だな)
これが、テトやシン、ユイなら
レナモンは護衛としての役目をしっかり認識している。
教授は力がないから、判断はこちらに任せてくれている。
(……となると、問題は)
前衛の個々がリーダーを履き違えていることだろう。
ブイモンはルビーを、ギルモンは寿を、クダモンは俺を主軸に考え、個々が思うように勝手に動いてしまう。
前衛で唯一動かなかったクダモンでさえ、『俺の指示』だったからそうなのだ。
(……しょうがない、けど)
「全員レナモンを守る為にもう少し集まってくれっ!!!」
俺は大声でそう言った。
「……えっ、これ以上集まるのっ!?」
ルビーのそんな声が聞こえてくる。
そんな意見が出るのは当然だ。前衛から後衛まで、陣形の直径は5メートルもない。だけど、陣形を崩され、『霧』が入るのが一番だめなのだ。
「従ってくれっ……それとクダモンはこっちに戻って来てくれ」
「はーい」
「……わかった」
「────はいっ!!!」
ルビーとブイモンはしぶしぶ、クダモンは俺のそばに来れるのが嬉しいのか、喜び勇み足で陣形を変える。
「ユイは中央に」
「わかったのですぞ」
レナモンの護衛の強化を行い、外敵から水無瀬ミユキを守れるよう態勢を立て直した。
「……ぶう!」
むくれるルビー。
「タイトくんの言うこと聞かなあかんよ、ルビー……ギルモンもありがとね」
「────うん!」
寿はルビーに気をかけてくれているお陰で、なんとか陣形を崩すことはなかった。
「────って、光が!?」
それぞれが腕に持っていた初代デジヴァイス(俺の場合はクロスローダーだが)が光を放ち、結界を生み出した。
(……やはり、この『霧』は『主』由来のものなのか)
悪意のある力に反応し、光を放つデジヴァイス。いつのまにか膝丈まで上がっていた『霧』を弾いて俺達を包み込んだ。
「……これがっ!?」
レナモンはこの結界を見るのが初めてなので驚いているが、特にこちらへと聞く様子はない。
陣形を崩されるようなこともないので、意識を周囲に集中する。
(……周囲の気配は)
耳を澄ませ、目を見開き、勘と経験に基づき、敵がいるかどうか気配を探る。
────チッ!
ここから10メートルと少し先の分岐点から、知っている気配が小声で舌打ちをした。たぶん、
(……ここで、精神を抉ってくる予定だったんだろうな)
アルケニモンの策を破ったのはでかい。
(だって、こんなぎゅうぎゅうづめだったら、ブイモンが戦うことができないんだよっ!)
(まあまあ、落ち着いて……タイトくんのことやし、なんかあったんやと思うよ)
(……ぶぅ)
小声でそう話すルビー達。
(ルビーの機嫌程度で陣形を守れるのであれば、別に問題ない)
わざわざ不満を取り除く必要がないと判断して、警戒しつつ先へと進む。
「……あれ、なんや!?」
5分程を歩いて行くと、寿がなにかに反応した。
「全員でゆっくり近づいてくれ」
『霧』は未だ晴れないので、なにかを見つけたとしても警戒して動くように指示する。
全員が頷いたのを確認した後、寿が見たなにかに近づき、拾い上げた。
「……えっ!?」
『霧』の中ではっきりと見えなかった物が、形となって現れる。
「……これ、帽子?」
ピンク色のハートの柄とウサギのワッペンが特徴のニット帽が寿の手の中に存在した。
(そういや、そんなイベントがあったな)
その後の『闇堕ち』イベントで頭からすっかり抜けていた。
『登場人物の所縁のある物が幻影として現れる』……という
(寿は持ってる当人がわかってる様子はないし、教授も首を傾げてる……いったい誰がっ!?)
「……
(ルビーが反応したってことは、ルビーに関わるものか)
ルビーは『なんでここにあるの』って言うような驚きの顔で、ニット帽を見ている。
「ルビー、これがなにかわかるのか?」
ブイモンがルビーにニット帽を渡す。
「私の……前世被ってた帽子」
(……さりなの頃の物か)
脳の病気だったらしいし、頭を回せば思いつけたかもしれない話だったな。
「前世って、なんで!?」
寿が驚いている……あっ!?
「寿、よく見てみろ」
ルビーの手のひらを指差して、寿やみんなに見るように促した。
「────なっ!?」
「────うぇっ!?」
「……えっ、あれ!? どこに言ってもうたの!?」
寿が皆の心を代弁するかのように周囲を見回す……だけど、ニット帽は周りにはない。
「たぶん、敵の幻覚の一種だ。俺達にゆかりのあるものを見せて動揺を誘ってるんだろう」
俺は
「でも、なんであいつらが私の前世のことを知ってるの!?」
……約一名、落ち着いてないみたいだが、
「知らなくても、ルビーの『特に印象に残ってる物』を幻覚として見せてるだけだ。前世を知ってるなら、前世の親しかった人間を出すはずた。それが出ないということは、人格までは真似できないということだ」
ルビーの頭にはハテナマークが浮かんだ……補足しないといけないか。
「……つまり、なにが言いたいかと言えば『幻覚』だと理解して、落ち着いて行動してくれ」
「……そんなのっ!?」
俺の言葉に納得できてない様子……だけど、ここで止まってるわけにはいかない。
「わかってるんだよ無茶なことを言ってるってことは……でも、それはルビーだけじゃない。寿や教授、俺にだって例外じゃない」
ルビーだけじゃなく、俺達も同様なのだと真摯に伝える。
「敵が狙ってるのは俺達
そうすれば、ルビーが少しは静かにしてくれることを知っているからだ。
「…………むぅ」
ルビーは案の定むくれっつらになるが、これはどうしようもない。俺に彼女からの信用はそこまで高くないことを知っている。
「ルビーくん」
「なに、教授」
そんなとき、教授がルビーに近づいている。その手にはなにかを持っていた。
(…………?)
まるで写真のようなそれは、現行のものよりも古いもので撮られたみたいだ。色褪せているのが見えた。
「実はね、私もこんなのを見つけた」
そう言って、ルビーに写真を見せる。
「これって!?」
「────っ!?」
「ああ、私の孫達の写真だ」
俺やルビーと同年代の黒髪の長い髪の少女と、白髪ショートカットの女性が卒業式と書かれた看板の前で写真を撮っている。
(……この少女、どこかで?)
モデルか女優か、アイドルか……リエさんからの指名で会ったような、なかったような……?
(うーむ、思い出せん)
そんなことを言っていると、教授が頬に手を当ててくねくねしだした。
(────キモッ!?)
「目に入れても大丈夫なぐらい可愛い孫でね。次女は……君らと同年代ぐらいか」
孫自慢がしたいのか、あんたは?
「そんなぐらいの子供に無理をさせてすまない……私も戦えたらよかったんだけどね」
と思ったら、すぐに真剣な顔に……ああこの人は、
「ううんっ、別に教授はっ!?」
「そう言って貰えるとありがたい……っと、消えてしまったね」
ルビーの気を紛らわせてくれたんだ。
(……教授、ありがとうございます)
(いや、なに……たまには、年長者として頑張らせてくれたまえ)
俺は教授に礼を言ったが、教授はそこまで……レナモンがなんか感慨深そうに、写真があった場所を見ている。
「……ハルも孫を持つ年齢になったのだな」
自身の子供が成長したような目線で教授を見るレナモン。
(レナモン、黄昏てるね)
(……ん? うん!)
それを見て寿が小声でギルモンに話すが、話の内容がやかわかっていないのか、ギルモンは元気に返事をするだけだった。
「……あれは、なんだ!?」
レナモンがなにかを見つけたらしい。ブイモンが近づいていくと、
「……これって?」
「ミナミの健康手帳?」
ブイモンとギルモンが拾い上げたモノの題名を読んだ。
(────あっ!?)
「わーっ、わーっ!?」
寿が大きな声をあげて、健康手帳をギルモンから奪い取る。
「────えっ、ミナミっ!?」
ギルモンがそのことについて驚いたが、
「ちょっと、男子ぃ……下がってもらえますかぁ。デリカシーがないんですけどぉ!」
「そうでありますぞっ! か弱き乙女の秘密を探ろうなど言語道断っ……さて、ルビー殿、みなみ殿……そちらを────っ」
クダモンとユイが仲良く、ギルモン達を俺達のところまで追いやっていく。
(……てかユイ、お前は)
「あんたは、あっち側っ!!!」
「ぎゃひんっ!?」
ルビーに蹴られて、こっちに蹴り飛ばされる。
(……やっぱり)
臀部をさする
「痛いのですぞっ!!!」
(……本人にはその気はなさそうだな)
当の本人はたぶん善意で行動したと思うから、デリカシーがないだけだったんだよなぁ。
「なんで、体重まで書かれとるんやっ!?」
「こんなとこまで書かれてるの!?」
「……ミナミ、大丈夫?」
「……ううっ、大丈夫やない」
女子どもがきゃー、きゃー言ってる間に、ノートは消えてなくなってしまった。
「…………はあ」
「…………これ、なんだっ、箱?」
ブイモンが足元にあるなにかを拾ったみたいだ。
「中に入ってるのはガム、の袋? 美術の授業で見たことあるようなないような絵が描かれとるけど……?」
「これって『聖母マリア』の絵だよね……でも、なんで『逆十字』?」
なんか不穏そうな会話が聞こえてくる。
「────なんてものを持ってるんだっ!?」
そして、いきなり教授が声を張り上げた!?
(……教授が怒鳴り声をあげた? いったい何を持って……ん?)
ブイモンが持っているのは見たことあるシルエットの箱。
寿とルビーが持っているビニルでできたパッケージの表面には大きな◯が浮き出ている。
(…………)
前世の記憶にHIT。
(…………もしかして、あれって)
やばい、あれはやばい!?
「────っ!?」
一気に顔が真っ赤になり、急いでそれを回収する。
「
俺は回収したそれを地面に叩きつけた。
「────タイト、知ってるの?」
ルビーに聞かれる。
(……今度は俺の番か)
公開処刑されるような気持ちで、口を開いた。
「……『コン◯ーム』」
できる限りボソッと聞こえないように言った。
「────えっ、なんて?」
寿が耳に手を当てて、もう一度聞き直してくる。
(…………わかったよっ!!!)
俺の内心はボロボロだった。
「『コ◯ドーム』ッ!!!」
そして、ヤケクソになった。
「…………うぇっ!?」
「ちょっと、あんたっ……女の子の前でなに言ってんの!?」
女子からは驚きと羞恥の目で見られるものの、
「…………」
教授からは同情の視線を向けられた。
「……だから、小声で言ったのに」
思ったよりも卑屈な声が出る。
「……しかも、なんで『これ』なんだよ。もっと印象深いものがあるだろ……普通。これなら妊娠検査薬とか、ピルののほうがマシだった……ってか、なんで最初期の奴? きしょいんだけど……」
ほんっと気持ち悪い。
思い出したくもない記憶を思い出させられたうえ、こんな羞恥プレイをさせられるなんて……全部『主』とかいう奴のせいだ。
「……これ、は、君はよく知ってるのかな?」
教授に聞かれる。
(ああもう、やけだ!!!)
「前世にあった『犯罪宗教』の最初期に作られたものですよ」
前世のクソみたいな記憶を掘り起こす。
「……犯罪宗教?」
教授が首を傾げる。
「正確に言えば、『LGBTQ』を利用して女性の権利の優遇を主張、男性を卑下し、『女性による女性だけの女性最高の社会を目指す』ことを謳った宗教だよ」
このまま全員巻き込んでやる。
「……うえ」
教授の口がポカンと開いてる。
「悪魔リリスと聖母マリアの二神を主軸に、詐欺や恫喝、自分たちよりも弱い幼少期の子供への性的暴行、人身売買……果ては政治干渉まで行った日本史上最低最悪の宗教だよ……しかも、最後まで『私は悪くないっ!!!』って、宗教関係者全員が裁判所内で罪の押し付け合いまでするようなゴミみたいな宗教だ」
話すのすら嫌な、前世の記憶……もう十年ぐらいは思い出してすらいなかったっていうのに!!!
「……げっ、そんな宗教があったの!?」
「…………は?」
女子2人からドン引きというような、視線を向けられる。
(お前らが話せって言ったんだろうが!!!)
そんなふうに不満に思いながらも、ルビーの気持ちがわかってしまった自分に腹が立った。
「おかげで、嫌なこと思い出した────クソがっ!!!」
思いっきり壁を叩く。
「……タイト氏」
「……ご主人様、大丈夫ですか?」
味方はユイとクダモンだけだ。
「悪いな、ユイ、クダモン……ルビーに言ったのに冷静じゃいられなくなった。さっさと進んで、敵を倒すぞ」
そう言いながらも、苛立ちは募っていく。
「────殺す、絶対に殺してやるっ!!!」
こんな目に合わせた奴を絶対に許さねぇっ!!!
「……あれほど怒ってるご主人様は見たことがありません」
「あれは……ダークナイトモン戦以来ですな。少しだけ注意いたしますか」
2体にドン引きされた気がする。
(…………タイト氏)
(なに?)
ユイが小声で声をかけてきた。
(『禁じ手』は使ってはだめなのですぞ!)
……また、その確認かよ。
(大丈夫、わかってる)
『命の危険』があることぐらいわかってるし、テトには『俺が死んだら世界を滅ぼす』宣言されてんだよ。そんなこと今更やるわけないだろ。
(……悪いな、心配かけて)
と、思いつつも心配してくれたことには感謝する。
(いえ、こちらこそ……差し出がましいお願いでした)
(……ユイ、ありがと────)
────っ!?
この先から『強い気配』を感じる。
「……タイト氏」
「わかってる」
いつのまにか『霧』が消え、道の先が開けているのが見える。
(……あんなのに気を取られてる場合じゃなかったな)
「全員、警戒態勢」
たったその指示だけで、この場にいる全員が持ち場を替える。
ルビーと寿はブイモンとギルモンの側に、レナモンと……しぶしぶだけどクダモンは教授と水無瀬ミユキを守るような位置付けになった。
……そして、俺とユイは先頭に立つ。
「……この先、『究極体デジモン』が待ち構えている」
全員に聞こえるように言う。それだけ強い相手がいることを認識させるのは、一番大事だ。
「────っ!?」
それぞれから驚くような、息を呑むような音が聞こえてくるが、大声を上げるものはいない。
今までの戦いの経験が生きてきている。
「ユイ、相手を頼んでいいか?」
完全体のユイなら、そこらへんの究極体相手には負けないのでユイに頼んだ。
「大丈夫ですぞ」
ユイも快く受けてくれる。
「……みんな、覚悟はいいか?」
全員が頷いたのを確認したら、
「じゃあ、行くぞ!」
掛け声をあげて、前に進み始める。
道の先は大きく広がった……まるで広間のような場所が現れる。
「ようこそ、
赤いローブを纏ったデジモンがそこにいる。
『究極体』だ……気配でわかる。
「……お前は?」
(
「偉大なる主様の第一の
赤いローブを剥ぎ、その姿を表す。
金色の王冠に、左右白黒に塗り分けられた
「……ピエモン*1」
だいぶ厄介な奴が現れた。
「他にもいるんだろ、出てこいよ」
「チッ、相変わらず気に食わないガキね」
「アルケニモンっ!?」
「フンっ、それに関しては同感だぜ」
「ガブモン!?」
物陰から次々とデジモン達が現れ始める。
「……ようやく思い出したんだな、アキハル……って、おまえっ、今の俺は『ガルルモン』だっ!!!」
……あいつ、あんなキャラだっけ?
「……茶番の中登場したくはないんだがな」
大きな角をつけたネッシーみたいなデジモンが現れる。
「……メガシードラモン*2」
究極体1体に完全体3体……それと、
────シュルルっ!
────ニュルルルっ!
────シャァアアアッ!!!
シードラモン*3が10体。
「総力戦か」
状況を見て、そう判断した。
「……ふむ、どうしてそう思ったのかね?」
その言葉にピエモンが反応する。
「まずこの世界で『究極体』である存在はお前しか見たことがない」
俺は少しでも時間を稼いで作戦を練るために、頭を回しながら説明する。
「……ふむ」
「次は、アルケニモン達がお前が姿を表すまで出番を控えていたことだ」
「少年よ、それがなんの証明になるのだ?」
「一騎打ちが好きそうなガルルモンや人間を罠に誘い、痛めつけ、恐怖させることが好きなアルケニモンがわざわざ控えていた……それ以上に、理由が不要か?」
「……でも、それだけでは確定と呼ぶには、まだ線が薄いのではないかね」
「他にもある」
「
「…………」
「滅多に見ない究極体が現れた。それも、成熟期デジモンがやられ、完全体が敗走した後に、だ。『主』を崇拝する存在であれば、これ以上の失態は許さないはずだ……相手にも、自分にも」
「だから、わざわざ主の一番の
俺は、説明を終えた。
「そうか、貴様が『不穏分子』か」
相手も臨戦態勢にうつった。ただ、異様な言葉が耳に入って来た。
(……『不穏分子』?)
{こっちで言うところの
ユイのフォローで納得する。
妙に厨二臭いセリフに驚いただけであった。
「それなら話が早い」
俺はクロスローダーを取り出し、
「────では、諸君……」
ピエモンはトランプソード二振りを両手に持ち、
「ユイ、やれるなっ!」
「いつでもいけるのであります!!!」
クロスローダーを掲げて、ムーチョモンを指定、
「超進化だっ!!!」
腕が夜空色に光ったのを見て、クロスローダーに合わせる。
[ムーチョモン 『超』進化]
紅の鶏冠は俺の馴染みの夜空色に変わり、白い羽毛は、黒く輝く。
巨体は人間サイズに引き締まり、力が集約されていく。
模様は剣と鎧へ、翼は背中へと移動し、両腕が生える。
修練の先にできた進化を、今ここで現世にユイは晒す。
「────『カラテンモン*4』っ!!!」
そこに、修験者がここに飛び立った。
「あの者どもを葬り去れっ!!!」
────ガキンッ!!!
「ルビー達は戦闘態勢! レナモンとクダモンは作戦通りにっ!!!」
アルケニモン達が動き出す前に、全員に指示を出す。
「わかったっ!!!」
「ああっ!!!」
「わかりましたわっ!!!」
次々と声が上がるが、
(…………んっ!?)
寿の返事がない……もしかして、伏兵にやられたか!?
────ぞくり
背後からの強烈な殺意に、背筋に寒気が走る。
ひさしぶりの脅威判定に、ついピエモン達から戦闘態勢を背後に向けてしまう。
(……しまっ────っ!?)
失敗したっ……と、思ったが、ここにいる全員が身動きをとっていない。
(……いったい、なに……がっ!?)
ピエモンよりもはるかに強力な気配。俺は視線の先に『脅威』を理解してしまった。
「
四帝の竜がそこに現れていた。
「────グギャアアアアアアッ!!!」
変わり果てたギルモンを見て、ウチは思う。
『間違ってしまった』のだと。
違うというにはウチの心は汚れていて、嘘だというにはウチの想いは醜かった。
(こんな、こんなはずじゃなかった)
赤く、紅く、血のように染まったその瞳には、かつての純粋で優しげな面影は一切感じさせなかった。
「────ッ!?」
ギルモンの口の中に『焔』が一瞬だけ見えた。
「────ルビー、避けてっ!!!」
ああ、醜いなぁ。
あんなにもルビーに『嫉妬』してたって言うのに、生きてほしいなんて思っている自分が、本当に気持ち悪く思えてまう。
「────っ!?」
「────ルビーっ!?」
ブイドラモンが急いでルビーを抱えて走り出す。
「────ギャアアアアアッ!!!」
『
グラウモンとは比べ物にならない程、とてつもない大きさの『炎弾』が、ルビーを抱えたブイドラモンとメガシードラモンの間に命中する。
「……ギルモンっ、どうしたんだよっ!?」
「────なんなんだよ、こいつっ!?」
もはや、ギルモンには敵と味方は関係ないんや。
「────グルルルルッ!!!」
目の前に動くもの全てが壊すだけの対象にしか見えておらんのや。
「────っ!?」
「……えっ?」
ギルモンにウチの初代デジヴァイスとは違う黒い『霧』が纏わりつき始める。
「────まさかっ!?」
ギルモンの体に近づく。
『霧』の粒ひとつひとつが、ギルモンに侵食していっとる。
「主様の思し召しだ!」
「新たなる、我らの仲間の再誕だ!!!」
「早く、その小娘を贄に……早くっ、殺してくだされっ!!!」
(……ギルモン、が?)
思い出すのは、ファングモンを飲み込んだ黒くて醜い蛙のような生き物。
(ギルモンがああなるなんて嫌やっ!!!)
「ギルモン、だめや……戻ってきぃっ!!!」
上のジャージを脱いで、闘牛の赤いマントのようにはためかせながら、急いで『霧』を吹き飛ばす。
(いやや、ギルモンがああなるなんて……こうなったのはウチのせいや。ウチがなるなら自業自得で割り切れるっ……けど、ギルモンは違うやろがっ!!!)
『霧』は濃く広がり、いくら吹き飛ばしても寄ってくる……だけどっ、
(諦めへんっ!!!)
ギルモンはいつもウチを救ってくれた。
無茶な考えでもついて来てくれた。
そんなギルモンをウチはこないな姿にしてもうた。
……だから、だからっ!!!
「
「────
「……え?」
ウチの目の前に向かっとるギルモンの巨大な腕。ただ、目の前のうっとうしいものを排除せんが為に振るわれたその腕が、ウチに迫ってきとる。
(……ああ、もうだめなんや)
あの巨大な腕に弾かれたらウチの体は吹き飛ぶやろう。
(あんなことを思ってしもうたのが、間違いやった)
全てはそないなことを思ってしもうたウチの責任やった。
(……ルビー……ギルモン、ごめんね)
最後に恨んでしまった
(……でも、もしもう一度があるなら)
最後に思い浮かぶのは1人だけ、
(後悔だけはしたくあらへんなぁ)
紅い巨大な腕が顔の近くまで来た。
走馬灯もこれで終わりだ。
後は、ウチを貫いて終わりや。
目を閉じて、歯を食いしばる。
きっと痛くて痛くて堪らんのやろなぁ。
いやや……なんて、言う権利はないのはわかっとる。
でも、いい加減遅ないか?
────
なにかが滴る音が聞こえる。
────ガシリ、と身体が捕ま……いや、『抱きしめられてる』のに気がついた。
「────
絶対に聞こえるはずのない声が聞こえてくる。
「
ウチを片腕で抱きしめる『
「
誰に向けての声だったのかはわからへん。だけど、ウチを助けたことによって出たその言葉は、どうしようもなく嬉しそうやった。
(……もしかして、やけど)
『彼』は絶対にここにはいないと思っていても、こないなことをしないってわかっていても、『目を開かざる得なかった』。
「
夢やと思った。
「……なん、で?」
不思議やった。
こないなことをしてもうたウチを、
「……はっ? 『なんで』って、そりゃあ……」
「
あのバケモンと化したギルモンの腕を『掴んで』、ことも投げにそう言ってのけた。
「────っ!?」
大きく心臓が揺れる。
『友達だろ』という……たったそれだけの為に、命をかけてくれた『
「無条件で助けるなんて当たり前だろうが」
「……グ、ギギ……っ!」
ギルモンの腕は動かない。
『夜空色』に光る彼の腕によって拘束されて動くことはない。
「…………ははは、かなわへんなぁ」
「……だろ?」
自慢げにそう言う彼に、本当にかなわへんと思ってしもうた。
「じゃあ、さっさと片付けてくるから、そこで待っててくれ」
そう言って、彼はギルモンと対峙する。
「────すぐに、終わらせる」
『夜空色』が爆発した。
奇抜な姿と神出鬼没な、全てが謎に包まれている魔人型デジモン。魔人型のデジモンは謎の部分が多く、悪魔系や、アンデット系とはまったく別次元的な存在で、正体はまったくの不明である。何の為に出現したのか、その存在目的も不明であり、それを解明する手段も現時点では無い。しかし、その力は強力無比であり、ピエモンと出会ってしまった場合は、己の運命を呪うしかないだろう。必殺技は背中の「マジックボックス」に突き立てた4本の剣をテレポートさせ、次の瞬間には敵を串刺しする脱出不可能な技『トランプ・ソード』。
フォルダ大陸周辺の過酷な環境を生き延びたシードラモン種が、弱肉強食のデジタルワールドを生き抜くために進化した形態。体も一回り大きくなり、頭部を覆う外殻も硬度を増し、頭頂部にイナズマ型のブレードが生えている。シードラモン種より知性が発達しており、追尾型魚雷のようにしつこく敵を追い回し、確実に仕留める。必殺技は頭頂部のブレードから発する強力な雷撃『サンダージャベリン』。頭部の外殻は、この必殺技を可能にするための発電装置が仕込まれている。
大蛇のような長い体を持った水棲型デジモン。この長い体を使い、襲い来る敵に体を巻きつけ、敵が息絶えるまで締め上げる。元来、知性というものを持ち合わせておらず、本能の赴くままネットの海を泳ぎ回っている。必殺技は口から絶対零度の息を吐き出し、水を瞬時に凍らせて敵に放つ『アイスアロー』。
修験者のような姿をした魔人型デジモン。大天狗デジモンの配下であり、その顔はカラスそのものである。修験道に長けており、験力(げんりき)を自在に操る。カラテンモンの持つ2本の剣は「伊由太加の剣(いらたかのけん)」と呼ばれており、強力な呪力を封じ込めてある。得意技の『悟り(さとり)』は相手の心を読みとって先回りし攻撃する技。必殺技は漆黒の翼を羽ばたかせ、衝撃波と共に羽を相手に打ち込む『衝撃羽(しょうげきは)』。
目の前に急に現れたメギドラモン*1。しかも、『霧』に覆われ始めた。
「ーーーータイト氏っ!?」
ユイから指示の要請……たぶん、『メギドラモン』をどうするかについてだ。
「わかってる!!!」
本当ならユイに任せるべきだ。だが……。
「ーーーーおおっ!? 新たなる主様の
「これは、珍しいものをっ!?」
「ーーーー祭壇が発生しただとっ!?」
奴ら……特に、ピエモンの相手をする奴がいなくなる。
「ーーーータイトっ、みなみがっ!!!」
「タイトくん、どうするべきかねっ!?」
ルビー達から動揺が伝わってくる。
(幸い、奴らはメギドラモンと『主』の手下に夢中で、行動不能になってる……それならっ)
「ルビー達はメガシードラモンを頼む」
「……、わかった!!!」
「ーーーーおうっ!」
迷っているみたいだけど、ルビーが請け負ってくれたおかげで、だいぶ先が見えたっ!!!
「レナモンとクダモンは二人を守ってくれ!!!」
「わかりましたわっ!!!」
「……しょうがない、私も本気でやる!!!」
クダモンとレナモンはすぐに態勢をを戻す。そのおかげで、指示が出しやすい……問題は、ユイっ!!!
「ユイはピエモンと他の完全体を頼んだ!!!」
無茶振りをしたから『気づかないでくれ』!!!
「任せっーーーータイト氏っ!?」
……っ、だめか!?
「タイト氏はどうするのでありますか!?」
ユイからの質問……ここは素直に答える!!!
「
なら、気絶させれば問題ないはずだ。
「タイト氏止めるであります!!!」
『
「さっきも言ったはずですぞっ、禁じ手はーーーー
「ーーーー主様への邪魔立てはさせんっ!!!」
「ーーーーくっ!?」
ーーーーガキンっ!!!
ピエモンがこちらへの攻撃にうつった。どうやら、他の連中も動き出している。
「なんのためにお前がここにいると思ってるっ……ユイは他の奴を相手してろっ!!!」
ユイにその言葉を残し、俺は寿のところまで走り出す。
「ーーーールビー、避けてっ!!!」
メギドラモンが『メギドフレイム』でルビーとアルケニモンに向かって攻撃した。
「くっ!? タイト氏っ、たい……っ、マナト殿っ!!!」
爆風で動きが止まる。
とてつもない熱気が襲ってくるが、それでも走り抜ける。
「ーーーー走れっ!!!」
寿がメギドラモンの様子に気がついたみたいだ。急いで走らなければ……いけない……だって、
『オ は 『テイ ー 家 になりた 』』
あんなことにはさせないと、あのとき誓ったんだ。
(あともう少しっ!!!)
デジソウルはまだ使えない……奴にできる限り近づいてからだ。あと、5メートルもない。
(これならまにあーーーーっ!?)
「ーーーーぐッ……ギャアアッ!!!」
メギドラモンが縋り付く寿を弾き飛ばそうと、巨大な腕を振り上げた。
「ーーーーくそっ!!!」
体を全力で強化する。
出力が足りない。
もっと力が出るはずなのに。
急げっ!!!
もっと早くっ!!!
ーーーーもっとっ!!!
ーーーーもっとだ!!!
「ーーーーよかった、間に合った」
竜型デジモンの中では最凶であり、最も邪悪なデジモン。チンロンモン、ゴッドドラモン、ホーリードラモンと並ぶ四大竜デジモンの1体ではあるが、その性格は他の3体とは似ても似つかぬほど凶悪である。現存しているのかどうかもわからないほどの希少種であり、その存在自体が"デジタルハザード"であるが、そのパワーは何らかの“力”により封印されている。しかし、そのパワーが覚醒したときにはデジタル世界に対して多大なる被害を及ぼすと言われている。クロンデジゾイド製のボディを持っている。一説によるとメギドラモンとカオスデュークモンは同一の存在であり、その恐怖の波動が見るものによっては暗黒騎士であったり、暗黒竜として映るのではないかとまで言われている。得意技は「地獄の咆哮」と言われる強力な衝撃波『ヘル・ハウリング』。必殺技はあらゆる物体をも灰と化してしまう『メギドフレイム』。