「…………」
家庭科室の真ん中、災害時用の毛布をかけられた彼は静かに寝息を立てている。
ーーーーすぅ、すぅ。
深い眠りと浅い呼吸……まるで、死んでいるようにさえ思えてくるような、普段とは違う彼の様子に少しだけ戸惑う自分がいた。
「……」
ユイが彼の側から離れ、私達の方へと向いた。
「だいたい、『応急処置』は終えた。『細胞アンプル』も打ち込んだし、このまま安静にしていれば、しばらくすれば起きれるぐらいにはなると思う……、であります」
昨日出会ったときからずっと使ってるユイの特徴的な口調を……最後にユイは付け足した。たぶん、『本来のユイは『拙者』や『であります』など、使わないデジモンなのだ』となんとなくだけど思ってしまった。
「…………」
そして、そんなユイがふざけた口調を使うことができないぐらい、タイトの体調が良くないことを理解させられた。
「ーーーーご主人様はどうなったのですかっ!?」
クダモンの質問に首を振った。
「起きてくれさえすれば肉体『は』問題ない」
ユイのその言葉に少しだけ驚く。
ギルモンの進化した姿というとても強いデジモンを倒した後、不意もなく倒れた彼の肉体がその程度の怪我で済んだことが
「……『
……は?
肉体、は?
『肉体は』……そうだ、たしかに、ユイはそう言っていた。自分はその言葉に気が付かなかった。
本当にタイトが大丈夫なのかわからなくなってしまった。
「…………」
クダモンに指摘され、少しだけユイの体が揺れる。
「ーーーー黙っていてはわかりませんっ!!! 早く答えなさいっ!!!」
クダモンの怒号。目の前にいる倒れた主人の姿に激昂する。
「…………っ、あっ」
ただ、その怒号の後に、声を出そうとするけど、口をすぐに閉じて、覚悟を決めるように大きく息を吐いた。
「
「……魂?」
ユイの口から出た言葉に頭がこんがらがり、繰り返し同じことを言ってしまう。
「もともと、マナっ……タイト氏は、数年前にとあるデジモンと戦った時に、『魂』に多大な負荷をかかる手段で戦った」
『魂』。
魂? ……っ!?
3歳の頃、ママがストーカーに襲われた時のことを思い出した。タイトの体から、たしかギルモンと戦った時に出ていた夜空色のなにかを使っていた気がする。
「ーーーーそれって、タイトの体から出ていたあの『夜空色』の光のこと?」
ユイは首を振る。
「あれは『デジソウル』といって、『魂を実体化させて、強大なエネルギーとして扱う手段』でしかありませぬ」
魂を実体化……どんどん話が難しくなる。とりあえず、あの夜空色の光は特に関係ないってことでいいのかなぁ?
「……じゃあ、どんな手段を使ったの?」
私はそこがわからなくてユイに聞いた。
「さっきも言ったように、『デジソウル』は強力なエネルギーであります」
ユイがデジソウルについて話した。……じゃあ、関係あるのか。
「そのデジソウルを大幅に使い、デジモンを多大に強化し、進化させる『バーストチャージ』と呼ばれる『常人』なら死にかねない手段をタイト氏は用いました」
死にかねない!?
「……そのせいで」
死んだの、と言おうとした時、ユイは再び首を振る。
「違いますぞ、タイト氏は『常人』ではないので、それには耐えられたのです」
……まあ、あんなテカテカした光を出すような人間が常人なわけがない、よね。
「テト殿とシン殿が『バーストチャージ』して進化した姿でも倒せなかったその敵を、タイト氏は『バーストチャージ』のエネルギーを維持したままのデジソウルで戦い、『死にかけ』にするまで至りました。
しかし、敵の咄嗟の逆転によって不意を突かれ、槍で貫かれ、約十八箇所の『穴』を開けられたのです」
…………は?
「ーーーーじゅうはっかっ!?」
クダモンの口から出たように、タイトの受けた傷が酷すぎて、頭が完全にフリーズしてしまう。
「その古傷がこれ」
タイトの右腕には体育の授業では見えなかった傷跡が、タイトを苦しめるように浮き出ていた
「ーーーーっ!?」
……いや、光のようなものが少しずつタイトの体から離れ、浮き出ているように見える。
「最も刺された回数が多い右腕だけでも四箇所……デジソウルを使った状態で四肢に腹を貫かれ、生きることと言葉を話す為に使用する器官を除く全ての臓器が傷ついてしまっていた」
「それは……普通に死んでいるのではないのか?」
教授の言葉に大きく心臓が鳴り響いた。
「肉体の治療は『これ』のおかげでなんとかなった」
ユイはさっき、下水道の中で使用していた『注射』を取り出した。注射には『明石タギル』と名前が書かれている。
(……人の名前?)
注射器の中身はまるで血のように赤黒かった。もしかして中に入っていたのは……
「『とある人間達』の細胞のデータ……です、ぞ」
やっぱり!?
「……細胞?」
もしかしてとは思っていたけど、本当に人間の細胞が入って……データ?
「移植手術を知っていますかな?」
前世でよく聞いた言葉が再び出てくる。病院に入院していたから、移植手術についての話はよく知っている。
「心臓移植とかそういう奴?」
その代表的なものを声に出して聞いてみる。
「詳しいですな。その通りですぞ」
「でも、それってその人に合った臓器を使用しなきゃいけないんじゃないの?」
拒絶反応の説明も、『私』自身耳がタコになるほど聞かされていたことなので、少しだけ違和感が増してしまう。
「『理由は伏せます』が、タイト氏に適合した細胞のデータが、このクロスローダーの中に封印されていたのです」
「……封印?」
理由を伏せます?
封印?
いくつもの不安になるような言葉が、ユイの口から垂れ流されていく。私自身納得ができなくなってきた。
「こうなることを予期していたのか……それとも、知っていたのかはわかりませぬ。それほど『謎』が深いものをタイト氏は使い、そして命を助けられた」
ユイの言葉は不安を煽っていく。
「ただ、『魂』の傷は治らない」
「タイト氏の肉体は、もともとタイト氏の兄上似の男の子らしい体でした」
小さな頃は『アクア』に似ていた。
「それが今では、このような『少女』みたいな容姿になり、夜空色の髪は明るい茶髪に、背丈も平均的な男子中学生よりも遥かに小さくなってしまわれた」
だけど、今は『茶髪』になったママだ……そして、ついさっきの治療で、髪の色が『赤色』に少しだけ近づいていたのに気がついた。
「……だから、タイトは再開したときに、『ママ』に似ていたんだね」
ーーーーコクリと、ユイが頷いた。
「タイト氏はこれまでに数度、デジソウルを使用する実験を行ったのですぞ」
(……実験?)
あくまでもそういうかたちでのタイトの体を調べる行為だったのはわかる。だけど、それが安全であったのかどうか今の自分は信じられなかった。
「……それって、大丈夫だったの?」
私の声は震えていた。
「大丈夫じゃありませぬ」
首を振りながらユイは言った。
「使用するたびに負荷がかかり、一度に使える出力や威力の低下、残機であるアンプルの消費……得られた結果もありますが、それ以上にタイト氏に負荷をかけてしまったのですぞ」
得られた結果……という言葉に希望を見出す。
「………でも、得られたものもあったんだよね」
優しげに……でも、心の中では縋りついていた。あんなに元気だったタイトが、ボロボロだったなんて信じたくない……
「……そうですな、『必ず『6分』使用したら気絶する』ことと、『アンプルは一度使ったら戻らない』ことを拙者達は学びました」
から、?
アルプルが完全になくなる?
6分で倒れる?
「ーーーーそれって!?」
「ほぼなにも得ていないことと同義ですぞ」
「量産はできなかったの?」
救いを求めて、聞いてみる。
「そのようなことができていたなら、今タイト氏は倒れてるわけはありませぬぞ」
…………っ!?
「…………」
口が動かない。
ユイの諦めている表情から、本当に今の状況が危険なのだと再認識してしまう。
「……たい、と?」
ーーーーすぅ、すぅ。
そう寝息を立てている姿に、少しずつ現実味がおびてくる。
(あんなに元気だったのに……)
タイトがみんなと一緒になって、ボランティアをやっていたのを思い出した。
(あんなに楽しそうにしてたのに……)
(私はなにをやっていた?)
生死の淵になんども行くような人間を、甘く見ていたの?
(……タイトっ!?)
ママに合わせたい。
絶対に家族に戻って来てほしい。
こんな戦いから逃げて、私達と一緒に暮らせばいい。
そんな考えが頭に浮かんでは消える……だって、タイトはそんなことを絶対にしないから。
「…………」
「…………私、は?」
どうすればいいのかわからなくなった。
「残りのアンプルは『1つ』……それを使う状況にならないように戦うしかないのですぞ」
ユイが持つ『新見ハル』と書かれた注射器。あれが最後のひとつなのだと、理解してしまった。
「ーーーータイト?」
私の口から悲鳴にすらならない声が出る。
「ーーーーっ!?」
私
「
ああ、そっかタイトをここまで追い込んだのはみなみのギルモンが進化したからだよね。
「ごめん、ごめんなさい」
謝って済む問題じゃない。
タイトの未来が……タイトが死んじゃってたかもしれないのに、謝るだけじゃなくて
「……みな」
「
「ーーーーっ!?」
ユイの言葉に頭が真っ白になる。
(みなみの、せい……じゃない?)
なんで、なんでそういうことを言うの?
「でもっ、でもウチがっ!?」
泣きながら戸惑うみなみと同じように戸惑う私。
「タイト氏なら気にしないのであります」
そう呆れたように、諦めたようにいうユイ。
「でも、ギルモンをあんな姿に進化させたのはっ、ウチでっ!!!」
「『暗黒進化』程度、タイト氏はなんども繰り返し進化させているので問題ありませぬ」
「ーーーーえっ?」
……暗黒、進化?
「テト殿は『暗黒進化』を多用されております。今回はたまたま『暴走』という結果に繋がっただけであります」
テト……コロちゃんのあの姿は、たしかにギルモンが進化した姿と同じように、悪者のような姿をしていた。
……だからって、今のみなみをっ、
「だから、タイト氏なら、『タイミングが悪かっただけ、たまたま『暴走』してしまっただけ』って言うと思われるのであります」
…………?
「……でもっ!?」
…………ああ。
「気に病むな……とは言わないであります。ただ、あなたの横にいるデジモンを気にかけてあげてほしいのであります。どのような形であれ、あなたを『守る為に進化した』のでありますから」
たしかに、タイトなら許すだろう。たとえあの進化になったとしても、タイトはきっと許すのだから。
「……ギルモンっ」
寝ているギルモンに縋り付くみなみ。
「ギルモン、ごめんね」
私は、あんなふうにできるのだろうか?
「…………」
寝ているブイモンのそばにいられるのだろうか?
「ギルモンのほうはただ疲れて気絶してるだけであります。このまま療養すれば、明日の朝までには元に戻るので、安静にしてあげてください」
「……うっ、ん゛!」
喜ぶみなみと疲れた様子のユイ……
「…………ご主人様」
ただ茫然とタイトを見つめるクダモンが、そこにいて…………倒れているタイトを見て、私はどうすればいいのかわからなくなった。
『────判決、死刑』
『いやぁああああああっ!!!』
『助けてよっ……誰か助けてよっ!!!』
ゆ だ、そうこれは めなんだ
『私はやらなきゃいけないのっ! 世界を変えるのっ! 私が認められる世界にするの!!!』
認めたくない。これが
『あの方が言ったの……この世界を帰るのは『君』だってっ、全てを捧げれば……より良い世界になるって!」
醜い…………こんなものが…………こんな
『だって、そうでしょ?』
『私はあなたに『必要』よね』
なんども、なんども、なんどもなんども……なんっども聞かされた呪いの言葉。
『あなたは私達の為に産まれてきたの』
反吐が出るような媚びた声と縋るような眼差しに、目の奥がチカチカと点灯し始める。
『ママは悪くないわよね。そうよね、わかるでしょ!!!』
…………ああそうだ、認めてやるよ。
『ママがすっごく頑張って『たくさん』頑張ったもんね』
これは夢じゃないって。
『…………』
これは俺の『
『私は悪くない』
自身に言い聞かせるように
『ママは悪くないのよ……貴方がっ、貴方が悪いの!!!』
その囀りは、真夏の蝉の声のように
『なんで貴方はそこにいるの?』
『ねえ、なんでって……なんでって聞いてるでしょ!!!』
うるさいっ……もう、『
『────
そのとき初めて『
『死ねっ、死んでしまえっ!!!』
口から出るのは怨嗟の声だ。
『お前も、お前も、お前もっ……みんな、みんな死んでしまえっ!!!』
憎み、呪い、憤怒を撒き散らし……それでも絶えぬ程の『渇望』を叫ぶ。
『もうたくさんだ!!!』
『僕』は
『幸せ』などいらないのだと。
顔面を殴った時に感じるのは、カブトムシの幼虫のような感覚だった。
『信じる』こと価値がないのだと。
肌はブヨブヨでうぶ毛が気持ち悪く感じる。
『望む』ことなど意味がないのだと。
虫の潰れたときのような、気持ち悪い悲鳴と手に残る感触に、嫌悪感がさらに募る。
『夢見る』ことは『不幸』なのだと。
自身の『夢』は叶わないのだと、蛆虫を殴るたびに実感していく。
『────やめてくださいっ!?』
警察が近づいて来る。
『
『
触られたところから『
『気持ち悪い、気持ち悪い!!!』
『
その『
『消えないんだ、とれないんだ……あの臭い匂いがっ、あの産まれてくる熱がっ!!!』
『僕』に『
『
……そう笑顔で言われた時、吐き気がするほど蛆虫共に嫌悪感が湧いた。抱いた時に感じる熱と『
『……いやだっ、俺にもう触んなぁっ!!!』
触れられたくなかった。
助けてほしかった。
望まれてほしかった。
信じたかった。
……もう、もう嫌だ。
もう嫌なんだ。
そう、僕の中にいる僕が叫んでいる気がした。
「────はっ!?」
「────ご主人様っ!?」
白い『蛆』が目の前にいる。
「────大丈夫ですかっ!?」
『蛆』が『僕』に触れようとしてくる。
やめろ、近づくな……『僕』に、
「────『僕』に触れるなっ!!!」
「────ひえっ!?」
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「……あの、ご主人様?」
「……ん?」
(まだ、『蛆』が……ん?)
俺はなにを言っている?
目の前にいるのは、『あいつら』じゃないだろ?
「私、ご主人様になにかしてしまったのでしょうか?」
そう、目の前にいるのは、
「…………クダモン?」
泣く寸前のクダモンだった。
「すごい悲鳴っ、クダモンがなにかしたのでありますかっ!?」
「なになに、どうしたんや!?」
「突然、大声がって、なにしてんのタイトっ!?」
「敵襲かっ……って、なにをやってる?」
「レナモン、早く走り過ぎ……老体に少し響く……あれ、タイトくん起きたのかっ!?」
次々とみんなが部屋に入ってくる。
「びゃあぁあああっ、びゃああああああっ!!!」
…………あっ、泣いた。
「……で、タイトはクダモンになにを言ったの?」
怒ったルビーに正座させられている。
(……うん、ある程度は正直に話すべきだな)
「……っ、……実はな、夢で『人型サイズの蛆虫に
過去であることは『人目がある状態で』は話したくないし……夢であることはたしかなので、少しだけ脚色して言う。
「へえ、それでクダモンを泣かせたの〜」
笑顔が怖い。それに圧をかけるようにルビーの顔が近づいて来て…………
────ズキンっ!!!
「…………っ!?」
胸が大きく振動した。
「────それってっ」
「悪いけど、ルビーも寿も少し下がっててくれ」
ルビーに離れるように、声をかける。少し離れている寿、にもだ。
「ひどく……ん?」
「……へ?」
呆けている二人。
「悪いけど、五メートルぐらい離れてほしい」
だけど、俺は少しずつ背後の壁に近づきながら、そう言い続ける。
「…………」
「…………わかった」
二人とも文句を言いたげだけど、下がってはくれてる。
「…………」
落ち着け……あれは、『
『俺』は『僕』じゃない。
『俺』は『タイト』だ。
『
大丈夫、大丈夫。
「悪い、ちょっと落ち着いた」
「……えっと、どうしたの?」
寿が心配そうに聞いてくる。
「…………少しだけ、夢見が悪かっただけだ」
そう、夢見が悪かっただけ、そういうことにしている。
「……と、そんなことより、ユイ」
俺は隅の方で俺を睨んでいるユイに声をかける。
「なんでありますか?」
俺に近づいてくるユイ。
「
明日のこと、ちゃんと決めておかないといけない。
「────、ちょうどよかったであります。拙者もタイト氏に話があったところです」
ユイも少しだけ驚いたように、それでも俺に並んで教室の外に出ていった。
「悪いけど、別室に行く……少ししたら、会議をやるから待っててほしい」
この場にいる全員に声をかけてから、部屋の外にでる。
「────えっ、あうん。わかった」
「…………」
どういうことでありますか、いったいっ!!!
あなたそれを本気で言っているのですか!!!
もう少し自分に気を遣ってくだされ!!!
俺が……拙者がどれだけ心配したと思っているのでありますか!!!
こんな作戦認められないっ!!!
あなたの体調をよく考えて行動してください!!!
ちゃんとっ、目を見て話してくれよ!!!
なんでっ、なんでそんなに無茶をするんだよ!!!
……なに、これ?
こんなの渡されたって納得いかないんだよっ!!!
答えろよっ、答えてくれよ!!!
どうしてだって聞いてんだよ、マナト殿!!!
「────はいっ、ただいま」
できるだけ元気よく戻ってくる俺と、仏頂面だけど目が赤くなったユイ。
「「「…………」」」
そして、みんなは戸惑ったようにこちらを見た。
(大声だったし、聞かれてたかな?)
そんなことを思いつつ、『時間が惜しい』ので、
「それじゃあ、会議始めようか?」
みんなにそう声をかけた。
「…………と、こんなとこか?」
作戦は説明できたし、質問もひと通り聞き終えた。みんなもこれで納得できてると思う。
「だいたい、これで理解できたと思う」
言葉に出して、みんなにそれとなく確認する。
「…………」
誰一人文句がないのは、うん、そういうことだろう……それと、
「あと、寿とルビー」
この二人だな。
「────えっ、あっはい!?」
「…………うん」
ルビーが驚き、寿が少し間を開けて頷く。
「この後話がある」
寿にはフォローをいれなきゃいけないし、ルビーには……うん『今、話す』べきだ。
「寿は飯を食ってから、ルビーは寿の話が終わってから、ユイに呼んできてもらえるように頼む」
寿が先だ。ルビーは話が長くなる。
「だから、寝ないでくれよ?」
「ウチに話ってなに?」
タイトくんに呼ばれ、屋上までやってくる。たぶん聞かれるのは、今日のことやろう。
「────今日のこと、気にしてんだろ?」
うん、やっぱり……言われるんかな?
「…………」
少しだけ、いつもと違うタイトくんに戸惑う。
「ほら、こっちにすわれ」
タイトくんが自分の座ってる場所の右側をぽんぽんと叩いた。
「…………」
天の川が見える中、好きな男の子からそう呼ばれるのは、少しだけロマンチックだなと場違いなことを思いながら、タイトくんの隣に座った。
「…………」
そして、
「…………、ごめんなさい」
覚悟を決めて、謝罪する。
「なにが?」
彼はキョトン、とした顔でこちらを見る。
(……ユイの言っとるように気にしとらんのかな?)
昼間言われたように、彼は私のことを気にしてないように笑ってみせた。
(……でも)
「ウチのせいで、みんなに……タイトくんに迷惑かけた」
ウチがルビーにあんなことを思わなければ、こうはならなかったかもしれへん。
「…………」
ウチがあんなことを思ってしまったから、ギルモンはあないな姿になってもうたんや。それだけははっきり伝えなきゃいかん。
……だから、
「ウチが余計なこと考えさえしなければ、こんなことには────っ!?」
────むにっ!
「ならへん……かった?」
ほっぺに、なにか……!?
「────むへっ!?」
タイトくんがウチのほっぺをムニムニしとるっ!?
「はい、黙った」
顔がっ、顔が近いっ!? ……って、えっ!?
ウチが黙った途端、夜空を見上げた。
「
「天の川だって見えるし、夏の大三角だって見える……授業で習ったとおりだ」
…………ん?
「……?」
全く意味がわからへんかった。
タイトくんがなにを言いたいのか理解できず、戸惑ってしまう。そんななか、急にタイトくんの顔が暗くなった。
「俺は、さ……初めて『暗黒進化』させたとき、他人に死ねって思ったんだ」
『暗黒進化』……ユイが昼間に言った言葉。きっと、ギルモンを……メギドラモンに進化させたときのことを指した言葉やろう。
「仲間が殺されて、命が奪われて、相手を憎んで、やり場のない怒りがどうしようもなくて……でも、それは自分自身の実力が足りなかったりや判断が悪かった結果なんだよ」
タイトくんにもそないなことがあって……でも、ウチとはまったく違う理由で……少しだけそれに『嫉妬』してしまう。
「だから、自分を許してやってくれ」
許して……か、ギルモンが許してくれるんやろか?
『────うるさいっ!!!』
心配して声をかけてくれたギルモンに対して、ウチが言ってしもうた言葉。あんな醜いウチをまた、信じてくれるんやろうか?
「怒ったり、泣いたりしても始まんないし……なんなら、俺は『すげえ』って思ったよ」
…………えっ?
「……、────えっ!?」
ウチはその言葉に驚く。
「だってさ、『暗黒進化』したとはいえ、たった数日で究極体にまで進化できたんだ……それって結構すごいことなんだぜ」
意気揚々とそう言ってのける……から、理解が追いつかない。
「ウチがすごい?」
タイトくんに確認する。
(まさか、こんなに醜いウチがすごい……なんていうはずあらへん)
「
タイトくんは意気揚々にそう言ってのけた。
「…………ウチが、すごい?」
醜い、ウチが?
嫉妬まみれのウチが?
ウチが、すごい?
────ぽろり、と涙が落ちた。
「……ひぐっ」
涙が溢れてしまう。
「…………どうした?」
少しだけ、少しだけ的外れだけど、それでもその言葉があったかくて、涙が出てしまう。
だけど、
「ウチがすごいわけやない」
ウチはタイトくんにはっきり言わなきゃあかん。
「ギルモンにあんなことさせてもうた。タイトくんの体がボロボロになったのも、ピエモン達を倒せなかったのも、作戦が失敗したのもウチのせいや」
言わなあかんねん。
「……そっか」
タイトくんはウチの手に手を重ねてくれる。
「ウチはっ、……ウチはルビーに嫉妬しとったんやっ!」
そうや、ずっと嫉妬しとった。
「タイトくんとずっと一緒におって、タイトくんがずっと気にしとって……ずっと、ずっと羨ましかった」
初めて会ったときも、
一緒にボランティアに参加しとったときも、
遊びに行ったときも、
勉強したときも、
……そして、この世界にやって来た後もずっとずっと嫉妬しとった。
「だから、今日……ギルモンが……ルビーを真っ先に攻撃したのだって、ウチの思いに答えたからなんや」
ウチの嫉妬した心をきっと読み取ったんや……だから、ルビーとアルケニモンの近くを狙って、ギルモンは攻撃したんや。
「だからっ……だからなっ……ウチ、な」
ウチ、な。
「
ずっと、ずっと好きやったんや。
「ウチを助けてくれた時から、少しずつ気になっとって……いつのまにか好きになってた」
最初は助けてくれたときのかっこよさと不思議と、親近感が湧いたあの泣き顔が気になったんや。
その後は、はちゃめちゃやけど、子供っぽい拗ねかたをしたり、人を進んで助けとったり……実は、トラブルだって好きじゃないのに、頑張ったりするところも、少しずつ惹かれてったんや。
春には全部好きで、好きでたまらんかった。
でも、こないなことをしてもうた。失敗したと思ったんや。
「だから、だから……こないなことしたウチの気持ちは受け取ってもらえへんやろうけど」
「────ウチは君のことが好きなんや!!!」
涙で赤く腫れた顔。
ここまで追い詰められなきゃ、絶対に言えへんかったこの言葉が、ようやく、ようやく言えたのだ。
ギルモンを放ってなにをやってるんやろう、と思わなくもなかった。やけど、このタイミングでしかないって思うた。
だから、だから……全力で今告白したんや。
「…………」
最初は驚きやった。
「…………」
次は戸惑いに変わった。
「…………」
最後は、不安そうな泣きそうな顔にタイトくんの顔は変化した。
(ああ、これは)
その顔だけで、きっとわかってしまったのだ。
「
「……そっか」
悔しいっ……悔しくて、悔しくて、後悔して、なんであんなことをやったんやろうと後悔して、それでも真摯に答えてくれたことに感謝してぐちゃぐちゃにになって…………そして、
「そうやな、ウチの気持ちなんて……受け取ってもらえへんよな」
そんな言葉が口に出てもうた。
「…………」
そのとき、少しだけタイトくんが驚いた表情をした。
「……それは違う」
次に出た言葉が否定やった。
「────えっ!?」
どういうことや?
「
諦めたように、そういう彼に、不思議と今までの感情が消えてなくなってもうた。
「問題なんて気にならんよっ!!!」
ウチは今が言うべきだと確信した。ここで詰めれば、きっとモノにできると思った。
「将来気にするかもしれない。俺の事が嫌いになるかもしれないし、俺が『今』気にしたいんだ」
気にしたい?
それって、そこまで考えてくれたってこと!?
「まず、確認なんだけどいいかな?」
真剣な表情でそう言われて、胸がドキッと高鳴る。
「う、うん」
ここは譲れへん。これだけは失敗したらあかん。セーブデータのないことが気がかりになるぐらいウチはテンパってもうてる。
だけど、ここはウチも真摯に答えるべきやと思った。
「俺は普通の食べ物は食べられない」
「そないなこと、別に構わんよ」
「俺はカミシロに所属してるから、君が思うよりも非道なことをたくさんしてるし、するかもしれない」
「気にせんって言いたいけど、怒るときは怒るから問題あらへん!!!」
「命だって狙われるかもしれない」
「ギルモンがいるから大丈夫!!!」
「俺は『第二次性徴』が来てないから、子供が産めないし、◯起だってしない。セッ◯スだってできない」
「子供なんていらへんっ、ギルモンやみんながおれば別にええ!!!」
「俺はこんな体だからいつ死ぬかわからない。それでもいいのか?」
「だったら、今からウチと一緒にたくさん思い出を作ってくれればええ。楽しいこといっぱいしよっ!!!」
「俺は歳をとらないかもしれない。君だけが歳を重ね、老けていくことに耐えられる?」
「いつまでも若い男の子を侍らせとる女の人ってかっこええやん。そこは愛でカバーや!!!」
(なにを言うとるんや、ウチは? )
ギルモンに誤ってすらいない、未来のことはわからへん、家族のことだってある……それなのに衝動的にそないなことを言うてもうてる。
テンパって、変なことを言って、どうしようもなくて……言葉に食いついたことに後悔して。
なにやってんやろ……と思ってしもうた。
「……そっか」
タイトくんば少しだけはにかむように笑ってみせる。
(……っ、恥ずかしい!?)
思春期の男子中学生みたいな感じで、自分の想いに任せて突き進んでしまったことに後悔してしまった。
でも、全部ウチの言葉で伝えられた。
「なあ、これで…………」
「
「本当にだめなんか?」
ズキンと胸が傷んだ。
結局、ウチではだめだったのだと、思ってしもうた。
「
「────っ!?」
顔が真っ赤になる。その言葉だけで、頭が沸騰してどうしようもなくなる。
「
────ぽすん!
タイトくんは、急にウチ体を左に倒して……えっ!?
「えっ、あっ……これって、どういうっ……ええんか、これっ!?」
膝枕みたいな形になっとる……みたいなやない!? 膝枕や!!!
「
「────えっ!?」
そないなことを急に言われましてもっ、心の準備と言うものが!!!
「……ユイ」
…………へ?
「…………」
赤いペンギンの腹が目の前に現れる。
(もしかして、さっきの話、全部聞かれとったん!?)
ユイが目の前に現れて、頭が混乱してしまう。
「悪いけど、ルビーを呼んできてくれ」
「……わかったのですぞ」
…………は?
ルビー、を呼んでくる?
…………は?
「それと、ごめんな」
「────ふんっ!」
笑顔で話すその様子に、とある一言を思い出した。
『寿は飯を食ってから、ルビーは寿の話が終わってから、ユイに呼んできてもらえるように頼む』
『
ウチの後にはルビー、おったな。
「…………やっぱり、ルビーにも聴かせるんか?」
膝枕をしている寿にそう言われる。
「…………」
うん、ようやく覚悟が……ううん自分の気持ちがわかったからね。
「大事な『前世の話』だからね」
ずっと、ずっと、彼女に聞いてほしかった。
「ルビーに……聞いてほしかったんだ」
ーーーートントントン。
足音を聞く。
膝にかかる熱に、『
ーーーーたん!
屋上の扉の前で誰かが止まった音が聞こえる。
『彼女』のたぬき寝入りだったとしても、『
ーーーーがちゃり
扉が開く。
彼女の心音が大きく響く。だけど、その音は『
「ーーーーねえ」
彼女はやって来た。
「ーーーー話してくれるよね」
「ああ」