産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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タン、タン、タン

ーーーー足が重い。
タイトはいったいどんな思いで、この階段を登っていたんだろう。

タン、タン、タン

私は、どんな思いでこの階段を歩けばいいんだろう?

タン、タン、タン

自身の無力さ? みなみへの怒り? タイトへの困惑?

タン、タン、タン

階段を登るたび、足がどんどん重くなる。

タン、タン、タン

『この後話がある』

そう、タイトは言った。

タン、タン、タン

まるで、死期を悟った猫のように、

タン、タン、タン

まるで、死ぬ間際に、形見分けをするように、

タン、タン、タン

彼は『笑顔』でそう言った。

タン、タン……トン

階段が終わり、屋上への扉が目の前に見える。

覚悟は未だ決まったかどうかわかんない。でも前に進まなきゃ行けない。

トン、トン……トン

扉の前でドアノブに手をかける。


(……私、は)


この先にタイトがいる。

この先にいるタイトが話をする。

進む覚悟ができない。

進む覚悟をしなくちゃいけない。

「ーーーーごくり」

思わず唾を飲み込んだ。
緊張と焦りと好奇心……いろいろな感情が混ざり合って……それでも、踏み出すことに恐怖している。

ーーーーぐっ

ドアノブを掴む手に力を入れる。

(……私は、私はっ!)

どうすればいいんだろう?
誰かに聞くことではなく、自分自身で今選ばなきゃいけない。


()()()()()()()()()()()()()


背後から急に声をかけられた。

「ーーーーっ!?」

急いで後ろを振り返ると……そこにはユイがいた。

「……あんたっ、なんでここにいるの?」

心臓が止まるかと思った。
ユイの昨日出会ったときとは全く違う、暗く陰気な雰囲気……それが、夜の暗い校舎にマッチして、ホラー映画みたいな恐怖を感じてしまった。

「タイト氏の体調を管理するのは拙者の役目……無茶しないように目をかけているのであります」

「…………そっ、か」

ユイの言い分に納得した。
タイトを治療したのも、タイトの治療できるのもユイしかいない人それならば、しょうがないのだと思ってしまった。


「早く行くであります」


ユイに真剣な表情で急かされる。

「なんで、あんたにそんなこと言われなきゃ行けないの?」

少しだけ、イラっとした。
ユイに急かされる理由などないからだ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「……選んだ? 私を?」

タイトが選んだ? なんで? なにを? どうして?

「拙者ではだめだった。クダモンでもだめであります……ルビー殿、他でもないあなただからこそ、タイト氏は選んだんですぞ」

テト殿やシン殿ではあるいは…………その言葉が耳の外で通り過ぎる。

「…………」

私は、今ここでなにをして、いる?

「早く行ってくだされ……タイト氏が待っているのであります」

手にかかる重圧……それでも、この言葉を聞いたのであれば、私は前を向かなくちゃいけない。

「…………」

一歩踏み出す……その勇気(かくご)ができた。

「……わかった」

手をひねる。

ーーーーがちゃり

その音が、手に重くのしかかる。

「……?」

重くのしかかった扉を開くと、


「…………」



昨日とは違う彼の姿が見えた。

「……」

茶髪に赤色が混ざり、赤茶色……とでも言うべきか、そのような髪の毛が印象に残っている。よく見れば、隣に誰かいる。

「…………」

一歩、また一歩と近づき、最後に背後に立つ。

「……ねえ、」

口に出ていたその言葉……私は、少しだけ戸惑い……そして、


「話してくれるよね?」


彼の言葉を待った。



第二十一話 タイトの思い ルビーの想い

 

「……なんで、みなみを膝枕してんの?」

 

 ルビーは俺の左側に膝を抱えるように座る。

 

「話を聞いて、少し泣き疲れたみたいだ……本人も今日あったことが衝撃だったみたいだし、疲れるのもしょうがないだろ?」

 

 嘘をつくようで悪いけど、こいつにも話を聞かせてやりたい。

 

「…………」

 

 ルビーは訝しむようにこちらを見る。

 

(……バレたか?)

 

 嘘がバレたかと思い、少しだけ体を硬くするが…………

 

 

()()()()()()()()()()?」 

 

 

 聞かれた事は……別にどうでもいいことだった。

 

「許す、許さないじゃないだろ……こいつはただ失敗しただけだ?」

 

 俺はさっきみなみに言ったように、ルビーを諭す。

 

「あんたはそれでいいの?」

 

 ルビーは少し口元を尖らせて言う。

 

(…………?)

 

 意図はできないが、怒ってるらしい。

 

「別に友達が失敗しただけだろ。そんなに怒ることでもない」

 

 怒ることでもない……とは俺は思っている。それが、正しいのだと思っているのだけれど、

 

「……ふーん、そう」

 

 ルビーにツンケンされてしまう。

 

(……わかんねえ)

 

 テトとシンの時も思ったけど、相手の感情を読み取るのが苦手なんだよ……前世では激情をぶつけられることしかされてないし、相手の気持ちを察することなんかできねぇよ。

 

「……まっ、それでいいならいいんだけどさ」

 

 ルビーはつーん、と明後日の方を見始めた。少しだけ頬が赤くなってるから……恥ずかしがってるのか? 

 

(…………これは心配されている、のか?)

 

 理解ができないから、どうしようもない。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 少しだけ気まずくなってしまう。

 

(どう切り出したらいいものか?)

 

 そう思いながら、ルビーの横顔を見る。相変わらず母さんに似て、整ってる顔立ちだなって感じる。

 

 

「……で、私を呼んだ用事ってなんなの?」

 

 

 ムスッとした顔でルビーが切り出してきた。

 

「────ごめん、どう言えばいいかわからなかったんだ」

 

 ウジウジしてる俺に、怒ってても聞いてくれるルビー。そんなルビーに心の中で感謝しつつ、話を進める。

 

「……なにを話したいの?」

 

 怒りながらも、それでも目だけは真剣なのはわかった。そのおかげで、少し、救われた気分になった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そして、いざ話そうとするとうまく言葉に出ない。

 

「私の、一番?」

 

 一番、という言葉にルビーは首を傾げる。

 

「言ってただろ、『どうしてママに会ってくれないの?』ってさ」

 

「でも、その理由って」

 

「言ったよ」

 

 なんども、なんども言われた言葉。

 ようやく理解できたその意味を、ようやく勇気を持って話すことができる。

 

「……でも、あれが『一番』じゃなかったことに気がつけた」

 

「…………っ!?」

 

「じゃあ、その理由ってなに!?」

 

 

 

 

「『()()()()()()()()()()』」

 

 

 

 そう、これが『俺』の理由だ。

 

「……え?」

 

 ルビーの驚く声が聞こえる。

 

「俺は母さんに会いたくないんだよ」

 

 そんなルビーに俺はもう一回言ってやった。

 

「……っ、どうして、どうしてそんなふうに思ったの?」

 

 ぎりぎり怒鳴る寸前で声を止め、怒りと疑念が混ぜこぜになった声で言われる。

 

「怒ると思うけど聞いてくれるか?」

 

 たぶん、この理由は怒られると思う。

 だけど、この子にだけは絶対に言わなくちゃいけないって思ったのだ。

 

「…………」

 

 無言で肯定してくれた……なら、言えるな。

 

「前世の話だ」

 

「ルビーにとって前世の両親ってどんなどんな存在だ?」

 

 俺の前世を話す前に、ルビーの前世について聞いてみる。

 

「……前世のお父さんとお母さん?」

 

「────そう」

 

 ルビーは少しだけ頭を傾けながら、思い出すように話し始めた。

 

 

「お父さんのことはあまり覚えてない。病院に面会にだって来てくれなかったし、そもそも会ってすらくれなかった……たぶん、嫌いなんじゃないかな。私のこと」

 

 前世の父親のことを話すルビー。その様子は淡々としていて、まるで普通のことを話すかのように言ってのけた。

 

「…………」

 

 だけど、ここで話が詰まった。

 顔を見ると、苦い表情で言うかどうか黙っているように見えた。

 

「お母さん……は、どうなんだろ?」

 

 その様子に耐えかね、俺はルビーの前世の母親のことを聞いてみる。

 

 

「お母さんは体の症状が酷くなるまで、病院に会いにきてくれた。お母さんは自分の夢だって話してくれた」

 

 

 そういえば、ルビーの前世の少女は重大な病気にかかって、なんども手術を行い、最終的に病死したことを思い出した。

 

「『さりな』はお母さんの『夢』を叶えたいって思っていた」

 

『夢』……か。

 

 

「────でも、さりなは死んだ」

 

 

 そう、さりな(ルビー)は病死した。

 

 

「さりなは『ルビー』になった」

 

 

 そして、ルビーとして生まれ変わった。

 

「…………」

 

 ルビーが黙る。

 

「…………」

 

 さっきと同じ、苦しむような表情で俯いている。

 

「…………それで?」

 

 だけど、それでも俺はルビーの前世について話してもらいたかった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………」

 

 先の展開が読めた。

 

 

「お母さん、酷いんだよ」

 

 

 酷いな。

 

 

「お母さんにはルビーよりも大きな子供が二人いて」

 

 

 苦しいよな。

 

 

「お母さんはそれを嬉しそうにしてて」

 

 

 辛いよな。

 

 

「あんな顔、『私』の前じゃしてくれなかったのにっ!」

 

 

 ごめん、ルビー。

 

 

「あの子達の前でそんな顔をしててっ!!!」

 

 

 そんなことを話させて悪かった。

 

 

「ずるいよっ、ずるいっ……ずるい!!!」

 

 

 その気持ちはわかるよ。

 

 

「だから、私はっ!!!」

 

 

「だから、ルビー(わたし)は『さりな(お母さんの子供)』じゃないって気づけたの」

 

 

 怒りに任せていた言葉が突然、勢いをなくす…………全部、思っていたことを全部話せたんだな。

 

「…………」

 

 無気力そうに項垂れるルビー。

 

「…………」

 

 その様子を見て、話はそこで終わったことに気づいた。

 

 

「『僕』の父さんは国会議員だった」

 

 

 だから、今度は俺の番だと思った。

 

「『僕』はとある地方の上流家庭に産まれた子供だった。

 後ろ盾のない国会議員の父親と、その地域にある程度顔と権力を持った地主の娘の母親の一人息子として『僕』は産まれた」

 

 敢えて、あの時見た過去(ゆめ)のように前世の口調を使って話していく。

 

「父さんは不器用ながら愛情を注いでくれた」

 

 前世の父親は不器用な人だった。

 

「忙しくても時間を見つけて『僕』に会いに来てくれて、ホントはやっちゃいけないけど、地方のイベントに参加させてくれたり、選挙の様子を見せる為に、仕事場に連れてってくれた」

 

 無愛想で寡黙だけれど、それでも愛情を注いでくれた。

 

「父親がとある日の帰りに、『カブトムシ』を二匹タッパーの中に入れて持って帰って来てくれてさ……買って来たって言ってるのに、スーツが汚れてるの」

 

 小学三年生ぐらいの頃だったと思う。夏休みに入る前、たまたま会えた父親に、クラスメイトとの会話を世間話のつもりで話しただけだった。

 

「その日のイベントで子供と一緒にカブトムシを捕まえるイベントがあるって言ってたのに、『買って来た』って言ってんだよ……笑えるだろ」

 

 絶対にその場で、現地の人に捕まえるノウハウを聞いて、家に帰る前に一生懸命土の中を掘って捕まえて来たのが、小学生でもわかったんだ。それでも、父さんは強がってそう言ったんだ。

 

「私立の同じ学校に通ってる子は、海外のカブトムシとかクワガタとか持ってんのに、俺は日本のカブトムシだった」

 

 それだけは悔しかった……だけど、

 

 

「…………嬉しかったな」

 

 父さんが本当に俺のことが好きだとわかって、嬉しかったんだ。

 

「カブトムシだって俺が世話してたんだ。幼虫だってたくさん育てたんだ。でも、父さんは触れなくってさ……本当に笑えるよ」

 

 結局、高校三年生までカブトムシの世話は続けていた。たくさん死んだし、たくさん育てた。大事に大事に育ててたんだ。

 

 父さんから初めて『手渡し』でもらったプレゼントだったから。

 

「でも、あの人といる時間だけは幸せだったかな」

 

 父さんといる時間だけが『救い』だった。あのときだけが、『僕』が人間でいられる時間だったんだ。

 

「…………」

 

 言葉に詰まった。

 

「…………」

 

 なにを言えばいいのかわからない。

 

「…………」

 

 ルビーの話せなかった気持ちが、ほんの少しだけ理解できた。

 

「…………」

 

 これは、しゃべるのが難しいな。

 

「…………」

 

 ああ、安易にあんなことを言わなきゃ良かったかな。

 

「…………ねえ」

 

 ルビーがようやくこちらを向いた。俺の話を聞いてくれるみたいだ。

 

「母親は、どうなの?」

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 その言葉に思わず口に出てしまった。

 

「見栄っ張りでごうつくばり、人にいいように見られたがりで、その点自身では手を汚したくない……という最悪な女だった」

 

 今思い出しても気持ち悪い蛆虫(ははおや)だ。

 

「承認欲求の塊のような女でさ、いつも父さんの横で笑っているようで、父さんに『嫉妬』してた」

 

 5歳のとき、無理矢理連れてこられた父さんの仕事場で、俺の手を痛いぐらい強く握りしめていたことを今でも思い出せる。

 

「父さんと母上は政略結婚でさ……父は後ろ盾を、母は更なる政治的権力を得るために、祖父母によってあてがわれ……そのうえでできたのが『僕』だった」

 

 祖父母に対しての記憶はあまりない……が、気持ち悪いぐらいよくしてもらったのを覚えている。そして、それは『男の子』だからだと、成長してから気づくことになった。

 

「母上って呼ばれたいから、呼び方まで強要された」

 

 強要されたものは多い。

 

「学校だって普通の……公立の小学校に通えばいいのに、見栄張って私立の学校になんどもなんども受験させて、入学させられた」

 

 食べ物だって、スポーツだって。

 

「一番じゃなきゃ他の奴らに自慢できないって、勉強だって、運動だって強要された。だから、小学校のうちは一番だってとれるぐらい勉強ができたんだ」

 

 勉強だって、友達だって、よりよいものをよりよい環境に……そして、そのうえで自分が育てたという『アクセサリー』として、『僕』を見ていた。

 

「祖父母が亡くなった後、親類縁者がいなかった母上は莫大な富を得た」

 

 祖父母には『戦争』で親類縁者がいなかった。だから、死んだ後に俺の元に財産がやって来た。それを管理する為に、母親が遺産の管理人になった。

 

 それが、

 

 

「…………それが、それがいけなかったんだ」

 

 

 間違いだった。

 

「ある日、父さんが国会議員のツテを増やす為に、とある『宗教団体』に接触した」

 

 ああ、思い出したくもない。

 

「……宗教団体?」

 

 心ここに在らずだったルビーが首を傾げる…………今朝、話したと思うんだけどな。まあ、話すか。

 

「宗教団体……って言っても、謂わば『女性の権利』や『LGBTQ』を主張して、金を稼ぐ小汚い団体でしかなかったんだよ。あの頃は」

 

 あの頃の小汚さならあんなに被害は出なかったんだろう。

 

 

 

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 蛆虫(ははうえ)さえ関わりがなかったら。

 

「母上は宗教と接触後、祖父母の遺産を資金として援助し、幹部へとすぐに登り詰めた……いや、その宗教を乗っ取ったといっても過言じゃなかった」

 

 俺の遺産を使い、好き勝手なことをやり始めた。

 

「母上は教祖と裏社会と結託し、当時世界的に流行っていた『LGBTQ』のお題目を利用して、『女性が望む社会の実現』を基に、多くの子供に『性的搾取』を行った」

 

 わざと……子供にはわからないであろう言葉でオブラートに包み込んだ。

 

「……性的、搾取?」

 

 それでも、ルビーは聞いて来たんだ。

 

 

「強◯したんだよ」

 

 

 思ったよりもあっさりということができた。

 

「────っ!?」

 

「たくさんの子供が『性病』で死に、たくさんの子供が海外に売られた」

 

『性病』の治療を受けられたのはごく一部の子ども……そして、

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

『僕』は最初だったから、幹部の子供だったから、長生きさせられた。

 

「…………っ!?」

 

「ある日、『僕』の家に母上と醜く肥え太った女が現れた」

 

 普通の感性の子供なら、デブだとかブスだとか言うぐらいどうしようもない女性。そいつと初めて会ったのは……

 

「当時、10歳だった『僕』は、他の子供より成長期が早く、声変わりも早くて……それで、……うん、できたんだ」

 

 社会的倫理で守られるはずだった子供のときだった。

 

「……それってっ!?」

 

 ルビーはこれだけの説明で理解してくれた。

 

「言わなくていいよ。当然、性知識がない子供にそういう行為を強要するのは犯罪だ。だけど、『僕』は強要された」

 

「なんども、なんども、なんども」

 

 この『なんども』にはどれだけの思いをこめればいいんだろう。

 

『もう忘れてしまった想い』

 

 赤の他人になってしまった自分に、少しだけ罪悪感が湧いて出て来た。

 

 

「正直に言おう、『僕』は嬉しかった」

 

 ただ、ルビーには真実を知ってもらいたかった。

 

「…………」

 

 ルビーはこちらを睨みつける。

 

(…………? ────っ!?)

 

 冷たい目でこちらのことを見られたことで、なんとなくルビーの思っていたことに察しがついた。

 

「言い方が悪かった……母上に『必要』とされて嬉しかったんだ」

 

 これが、『僕』の本当の思いだった。

 

「必要と、されて?」

 

 ルビーにはわかるだろ? 

 

「子供である『僕』に対して、母上はとにかく『アクセサリー』以上の価値を求めなかった。そんな女に産まれて初めて『褒めて』もらったんだ」

 

 子供にとって、母親に褒められるのはどれだけ嬉しいことか……君にはわかるはずだ。

 

「────っ!?」

 

 どうやら、わかってくれたようだ。

 

「たとえ『犯罪』だって理解できても、子供の倫理観じゃどうしようもない……むしろ、母親に認められていった事でエスカレートしていった」

 

 不細工な相手だったとしても、気持ち良くて、母親に褒められる……それだけで、子供には嬉しいことだった、と思う。

 

「もっと褒められたい、もっと認められたい、もっと愛されたい……そして」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 これが、『前世(あのころ)』の俺の本当の想いだ。

 

「家族で旅行に行きたかった」

 

 夏休みが終わった後に友達が言うんだ。

 温泉に行っただの、海外に行っただの……それが、とてつもなくうらやましかった。

 

「遊園地だって行きたかった」

 

 メリーゴーランドにジェットコースター、ウォータースプラッシュにバイキング、ちょっと変わったものだと有名なキャラクターのテーマパークまで……みんな季節を問わず行っていて、うらやましかった。

 

「学校じゃないプールで泳ぎたかった」

 

 流れるプールにウォータースライダー、波が起きるプール……家族と行ったり、友達と行ったり、とても楽しそうだった。

 

「みんな、みんな行けてたんだ」

 

 みんな『家族』と行けて楽しそうだった。

 

「私立の小学校だから、ほとんどの友達が裕福な家庭でさ……裕福じゃないやつもそれなりに愛されててさ」

 

 どんな形でもいい。

 家族全員で一緒に過ごせる時間がうらやましかった。

 

()()()()()()()()()()

 

 だから、あいつらにはない『行為』で、あいつらにはできない『行為』で褒められたことは嬉しかった。優越感に浸った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そんなに甘くなかった。

 

「犯罪だって理解したのは11歳の時だった」

 

 今でも、あのときの苦しみは『客観的』に見て酷いものだったと理解している。

 

「たくさんの女性に犯されて、汚されて……穢れていく。それなのに高揚感があった」

 

 友達にはない行為、友達には話すことは『できない』行為……それだけで、背徳感があった。

 

「自分よりも一回りも二回りも3回りも歳を食った女性が、『僕』にいいようにされている……それだけで、優越感があった」

 

 演技だったとしても、大人の女性がいいようにいいようにやられているのは見ていて面白いのは、大人でもそうだろう。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「…………罪?」

 

 ルビーの聞きたいような聞きたくないような……そんな表情が見える。だけれど、俺は躊躇はできなくなっていた。

 

「初日に来た女性が少し痩せた状態で『僕』に会いに来たんだ」

 

 太った女性が少しだけ痩せていて、変な気持ちになったのを覚えている。

 

「その女性の腕には赤子が抱かれていて、『僕』に近づいた途端赤子に」

 

 

 

 

「『()()()()()()』」

 

 

 

 

「って、言ったんだ」

 

「────っ!?」

 

 怖気が走るような感覚。

 ルビーも、寝ているフリをしている寿も大きく震えたのを見てとれた。

 

「ヤることヤってんだから当たり前なんだけど、『性知識』がない子供にそれを言ったんだ」

 

 当然だから……なんて、口が裂けても当時の自分には言えない。

 

「気持ち悪くて仕方なかった。もうどうしていいかわからなかった……でも、その後に」

 

 ……だって、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「教祖は売人を使ってその赤子を海外に売り飛ばした」

 

 目の前にある命を。

 

「臓器売買だけじゃなく、ある程度育った子供も売り出していた」

 

 ある程度育った命を。

 

「ある程度しつけされた日本人の子供ってだけで、価値があるんだよ。たまにニュースでやるだろ? 『海外のとある国に拉致された日本人を、国が他国に対して解放しろ』ってニュースが」

 

 一年になん回か見るニュース、それが現実になって、

 

「日本という『海外にはない安全圏で育て、躾られた』ってメリットが、どうしようもなく欲しいって人間はたくさんいるんだよ……たくさん、な」

 

 なんども、なんども共犯者に成り下がったんだ(させられたんだ)

 

「「────っ!?」」

 

 ルビーも寿も驚きのあまり顔がこわばっている。

 

「…………背筋が凍ったか?」

 

「…………」

 

 無言……でも、なにも言えないようなので追撃を入れる。

 

「……バレなかったのは、『国』がある程度認めてたからだ」

 

「……国、がっ!?」

 

「宗教に関して政治家の汚れた奴等は容認してたし、宗教を利用していた父さんも同罪だ。恩恵を得ていた『僕』に文句を言う資格はないよ」

 

『僕』には絶対にいう資格はない。どんなことをされようとも、その恩恵を須く手に入れていた『僕』には、な。

 

「────でもっ!?」

 

「それでも、だよ」

 

 ルビーが俺の腕を掴み、否定しようとしてくれるけど、それは間違いだ。

 

「『僕』にとって、『世界』は気持ち悪く、吐き気がするようなモノしか存在しなかった…………それでも、それでも誰かが救ってくれると信じて、8年待った」

 

『なにもしない』癖に助けを望んでいたんだ。

 

『なにもしない』奴が。

 

 ふざけてるだろ? 

 

 

「18歳のある日、事件が発覚した」

 

 

 あの冬の終わりを今でも思い出せる。

 

「高校卒業1週間前のことだった。いつもどおり学校へ通い、いつもどおり勉強し、いつもどおり女にもみくちゃにされる……そんな毎日に終止符が撃たれた」

 

『僕』が救われた日。

 

「それって!?」

 

『僕』が終わった日だ。

 

 

「宗教施設に家宅捜査が入った」

 

 

『僕』の目の前に『なんでもない』警察官がやって来て、抱きしめてくれたのを今でも思い出せる。

 

「すぐに宗教は潰され、関係者は全員逮捕。主犯である教祖を中心とした幹部連中、人身売買を行っていた売人を含め、主要人物のほぼ全てが『死刑』を言い渡された」

 

 その後、世論の波に呑まれ、当時の政治の不安定さをなんとかする為に、『政治的干渉』があり、民意を得るために速攻で裁判が終わらせられた。

 

「…………それじゃあ」

 

 …………そう、ルビーの考えてる通り、

 

「『僕』の母上も含めて、だ」

 

 前世の蛆虫(ハハウエ)は死刑だった。

 

「最悪なのはこれからだった」

 

『僕』の最悪はここから始まった。

 

「裁判が始まり、どうやって家宅捜査の礼状が取られたのも知ることができた」

 

『僕』は知ってしまった。

 

「…………?」

 

 ルビーの疑問の顔が、どんなふうに変わるのか知りたくなり、より凄惨になるように言葉を選び、答えてみる。

 

「父親が『僕』が女性の警察関係者達によって輪◯される動画を、週刊誌に垂れ流したからだ」

 

 事実が一番『凄惨』だった。

 

「────っ!?」

 

 

「父さんは三年以上前から計画していて、『僕』を救う手段を探していた。だけど、警察にも政治家にも、法的機関にも宗教の手が及んでいて手が出せなかった。だから、身を削る思いで動画を売り渡したんだ」

 

 国が後ろにいる以上、生半可な相手はできない。だから、三年……いや、真実を知ったのも含めれば五年もの計画を立てていたらしい。用意周到な男だ。

 

「世間は大混乱し、国は荒れて、宗教と女性に対する差別が広まってしまった」

 

 女性の権利を主張することは差別の対象になった。

 

 宗教はもっと酷かった。

 キリスト系列……というだけで排他され、気持ち悪いもので見られるようになった。別? 

 

 別に彼らが悪いことをしたわけじゃない。

 だけど、それ以上に蛆虫(ハハウエ)達がやりすぎてしまったのが原因だった。

 

 日本での差別は『本当の差別』に変わったのだ。

 

「父は肉を切らせて骨を断つことで『僕』を救ってみせた。もちろん政治家は引退することになったが、友人のツテで一部大企業に務めることができた」

 

「母上は死刑を言い渡され、牢屋の中……死刑になる前に、こっちに来たからどうなったのか……まではわからない」

 

「そんな父親に引き取られた『僕』だけど後遺症が残った」

 

 その後の末路はこんな感じだ。

 くだらない……本当にくだらない終わりかただった。

 

「……後遺症?」

 

「生きた人、特に目に見えて第二次性徴を迎えた後の女性が『虫』に見えること」

 

 そのせいでクダモンに酷いことを言ってしまった。

 

「────っ!?」

 

 ルビーの驚愕の表情……たぶん、夕方に俺がクダモンにやってしまった行為のことを思い出したのだろう。

 

「これがひどくってさ、外に出歩けば母親なんてそこらにいるわけだから、家から出られないでやんの。女性恐怖症もここに極まれりってところでさ」

 

 だから、軽い感じで言ってやる。

 

 

「本当に辛かったよ」

 

 

 ただ、その言葉だけがつい口から漏れて出てしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 その後のこと……アレは言わなくちゃいけないな。

 

「父親に失望し、母親を見限った……そんな『僕』に残されたものなんてなくてさ……辛いなんてモンじゃなかった」

 

 おもちゃ会社に勤めていた父親が持って来たもの。

 

「そんなとき、父さんが一つのアニメを持ってきた……名前は」

 

『僕』を一番救ってくれたもの。

 

 その、名前は、

 

 

 

「『()()()()()()()()()()()』」

 

 

 

 少年少女の『勇気』の物語だ。

 

「……、────えっ!?」

 

 ルビーが……って、みなみ、俺の太ももを強く掴むなっ! バレるだろ!? 

 

「デジモンって、あのデジモン!?」

 

「そう、そのデジモン」

 

 俺は平静を装いながら、そう言った。

 

「最初はこんなモン見せてどんな気だよ、狂ってんのか? ……と思っていた」

 

 失望されたことへの機嫌取りかと思っていた。

 

「だけど、物語を見ていくに連れ……少しずつ少しずつ引き込まれていって、最後には『こんなふうになりたい』って思うようになった」

 

 たとえフィクションでも、たとえ成人を過ぎた大人だったとしてもその思いだけは変えられなかった。

 

「そこから、成人年齢を過ぎたって言うのに父さんに頼んで、アニメやマンガ、ゲームなんて持って来てもらってさ。産まれて初めて、『勇気』をもらえたんだ」

 

『前世』での『唯一』感傷に浸れる程の強い感情が残っている記憶だ。

 

「そんなときだったよ、この世界にやって来たのは」

 

 変な夢を見たら、この世界に飛んでいた。

 

「最初はね、星野アイなんて知らない……『僕』と同じで気持ち悪い、そんな女だと思っていた」

 

 前世の俺のような子供のことを考えず突っ走るバカな女だと思っていた。

 

 どうせ、おもちゃ感覚で産んで、数年後には飽きられるのが目に見えていた。

 

 愛されるなんて、愛せるなんて微塵も思っていなかった。

 

 

「でも、ルビーとアクアが連れてってくれた『あの』ライブで変わったんだ」

 

 

 あのライブが全てを変えてくれたんだ。

 

「あのってことは、私達がオタ芸をしたあのライブ?」

 

「そうそう、そのおかげで星野アイの表情を引き出せたんだよ……って、ことはそれにも感謝しなくちゃいけないよな」

 

 そう、俺はあの言葉を言うために彼女と話すと決めたんだ。

 

「ルビー達がオタ芸をやってくれたおかげで、俺は星野 アイ(かあさん)の本当の顔を知ることができた。そこからだ、俺が『星野 アイ』を人間だと認識できるようになったのは」

 

「…………それは、ひどくない?」

 

 ルビーが冷や汗をかきながら母さんのフォローをするが……絶対に思ってないだろ。

 

「ひどいって思うなら、母さんに言ったら? 十五の身空で子供を産むような女だろ」

 

 その内心は見透かしているので、煽るようにそう言ってやった。

 

「…………それは言えてる、かも?」

 

 ルビーもそれは同意している。

 

(……けど、否定したくないヲタクゴコロが存在するな)

 

「かもじゃないだろ? 絶対にそうだ」

 

「……ぐぬぬ」

 

「きひっ、なんて顔してんだよっ!?」

 

「笑ったな!?」

 

「笑うってっ!!!」

 

 ルビーとの会話にひさびさのコメディを感じる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………でも、そのおかげで救われたんだ」

 

 そう、救われたんだ。

 

「俺にとって、そのおかげで『母親』という存在をフラットな目で見ることができた」

 

 前世の差別感に基づいた考えじゃなくて、ようやく星野アイの息子としての考えに行き着くことができた。

 

「だったら、会いなさいよ」

 

「だから、会いたくないんだよ」

 

 俺の、会いたくない理由。

 

 

「…………俺は『母さんの本当の子供じゃないからな』」

 

 

 母さんの子供じゃないから……という、くだらない理由だ。

 

「────っ!?」

 

 ルビーの驚きに、追撃を入れる。

 

「本来三つ子は帝王切開でなければ産まれることすらできない」

 

「……でも、私達は三つ子だよ?」

 

 実際に、記録上『存在してる』限りな。

 

 

「『産まれた時は三つ子じゃなかった』って話だよ」

 

 

「…………なんで?」

 

 ルビーは案の定気がついていない、が、

 

「アクアはわかってたんじゃないかって思ってる」

 

 俺達という存在の異常に、前世で産科医という立ち位置にいたアクアが気づかない訳ないのだ。

 

「……アクアが?」

 

 ルビーはアクアに対して訝しむような表情をする。ただ、俺はその事実を指摘してやる。

 

「だって、お前とアクアは二卵性双生児だろ?」

 

「……それが?」

 

「なら、『俺』はどこからくるんだ?」

 

「だから、アクアと同じ卵子からって……、そういえばどこからくるの?」

 

 …………ようやく気が付いたか。

 

「アクアとタイトが一卵性双生児で、私とアクアが二卵性双生児で、3人とも前世の記憶があって…………いったい、どんな確率!?」

 

 確率なんて、俺達の転生させた奴らならどうにでもなる。だけど、人体の構造上あり得ないことはできないのである。

 

 まっ、こいつはそれを理解していないけど……それがルビーらしいし、それでいいや。

 

「そういうこと……俺は『星野アイの子供じゃない』」

 

「なら、誰の子供なの?」

 

 そういう反応になるよなぁ。

 

「星野アクアのチェンジ……お前にもわかるように言えば、『クローン』だ」

 

 古臭い物語よりもSFチックのほうが伝わりやすいだろ。

 

「……クローンって、SFででてくる、あの?」

 

「そう、SFででてくるアレだ」

 

「…………」

 

 ルビーの顔に不満がありありと現れた。そんなに信用できないのか……俺は? 

 

「不満そうだから、言ってやるよ。俺は俺の『神』から『星野アイの息子じゃないこと』を保証されている」

 

 ノルンのことは説明したからわかるよな。

 

「そして、俺を生み出したなにものかが、赤子だったアクアのクローンを作り、時間を操作し、世界の認識を変え、俺の魂を植え付け、俺が星野アイの息子であることを誤認させた」

 

 うん、自分で言ってても信じられない。

 

「────それって、ほぼSFじゃない!!!」

 

 そりゃ、信じられないしな……だけど、

 

「デジモンなんている世界で、それをいうか……普通?」

 

 これには返せないだろ? 

 

「────ぐぬぬ!」

 

「言い返せないようだなっ!!!」

 

「ぐぬぬぅ!!!」

 

 ああ、ホント笑えるよ……お前らと話してる時は。

 

「……だから、これを知られたくないから俺は星野アイ(かあさん)に会いたくないんだ」

 

 母さんに知られるのが怖いんだ。

 

「……ママに知られるのが、怖いの?」

 

 そりゃ、

 

「怖いさ、とんでもなく」

 

 むしろ、今世で一番怖いまである。

 

「ママなら受け入れてくれると思うよ?」

 

 受け入れてくれる……ねえ、あの母さんが? 

 

 無理だろ。

 

「そういうお前は前世のこと話せたのかよ?」

 

 そういうんだったら、お前はどうなんだよ。

 

「……話せてないけど」

 

 話せてねぇじゃん。

 

「なら、ちょっとおかしいけど、普通の子供だった……って、認識させてあげられれば幸せじゃないか」

 

「それは騙すってこと?」

 

「アイドルにとって『嘘はとびきりの愛』……なんだろ?」

 

 アイの言った言葉だろ? 

 

「…………ぐぬぅ、もういいっ!!!」

 

 あら、怒りましたか? 

 

「…………」

 

「…………むすぅ!」

 

 ルビーが怒ってそっぽを向く。

 

「…………」

 

 ああ、そうだ……絶対にこれだけは言わないと。

 

 

「ルビー、ありがとう」

 

 

 たった一人の姉に対する感謝の言葉だけは言わなきゃいけない。

 

「……、なによっ!?」

 

 ルビーはムスッとほっぺを膨らませてるけど、こっちを見ながら聞いてくる。

 

「……なにって、感謝?」

 

「感謝をされるようなことをした覚えはないけどっ!?」

 

 怒りながら、そんなことを言う。

 

 でも、俺にはあるんだ。

 

 

「さりなが『星野瑠美衣』として産まれてきたことに対しての感謝だよ」

 

「────っ!?」

 

 俺の心の底からの思いだ。

 

「『僕』は君が『星野(ホシノ) 瑠美衣(ルビー)』として生まれて来てくれたことに、感謝してる」

 

 星野 アイ(かあさん)のファンが転生してくれてよかったと思ってる。

 

「君達が……ううん、君がいなければ俺は旅立てなかった。ここまで旅を続けられなかったと思う」

 

 だって、君達は星野 アイ(かあさん)を守ってくれるだろ。

 

「だから、きみが産まれて来てくれたから、『俺』は旅立つ事ができた」

 

 危険な場所から遠ざけてくれるだろ。

 

「君がここにいてくれたから、『俺』は安心できた」

 

 こんな危険がたくさんあるような世界で、君達が星野 アイ(かあさん)を守ってくれたからこそ、俺は安心できたんだ。

 

「君がここまでがんばってくれたから、『俺』は戦うことができる」

 

 だから、俺は戦えるんだ。

 

「全部君のおかげだ」

 

 君が産まれてきてくれたとおかげだ。

 

 

「君が『星野 瑠美衣』でよかった」

 

 

 言い終わったと思ったら────ストン、と体が左に倒れる。

 

(ああ、もう限界か)

 

 体が少しずつだけど衰えていくのを感じる。

 

(もう少し、もう少しだけ話したかったけど)

 

 

 全部話せたからもういいや。

 

 





『ーーーーごめん』

私の『一生』の告白が消えた.

『どうして?』

私は兄が好きだった。

『前世も今世も『僕』が送れる言葉はこれだけだよ』

前世で『好きな人』だった兄。

『産科医として血の色濃く繋がった相手……特に『三つ子の兄妹』なんて認められない』

生まれ変わっても気持ちが変わらなかった兄。

『ヲタクとして、これから『ファン』になるアイドルに、『僕』は絶対に手を出すことはない』



『…………そして、兄として、家族として』


『アイにこれ以上精神の負担になるような『家族の問題』を増やしたくない』

『…………そっか』

『そっか』

その日私は、最愛の人から振られた。



「僕は君が『星野(ホシノ) 瑠美衣(ルビー)』として生まれて来てくれたことに、感謝してる」

なんだろう?

「きみが産まれて来てくれたから、『俺』は旅立つ事ができた」

なんだろうこの気持ちは?

「君がここにいてくれたから、『俺』は安心できた」

もう、止まったはずなのに

「君がここまでがんばってくれたから、『俺』は戦うことができる」

もう消えたと思ったのに

()()()()()()()()

なんでこんなにはやく鳴り響くのだろう?

「君が『星野 瑠美衣』でよかった」




ーーーーすう、すう


彼は私の肩に体重をかけて寝ている。

「…………軽い」

私よりも低い背丈。

私よりも華奢な体。

私よりも軽い体重。

「ーーーーこんなにも、軽かったんだ」

こんな弱々しい体で前に出て戦ってくれた。

こんなに小さい体で守ってくれた。

こんなに傷だらけの体で立ち向かってくれた。


「…………」


眠る彼の顔から目が話せない。

「…………そっか」

私はまた『姉弟(血のつながった相手)』を好きになったんだ。

「……そっか、そっか」

後悔と納得で胸が高鳴る。

「こんな気持ち、知りたくなかったな」

嫌な運命だと思った。
私はなんどでも、血を繋がった相手を好きになる。

ママも、お兄ちゃんも、タイトも、


私は好きなのだ。


「…………ルビー?」


みなみ、起きてたの知ってたよ。タイトが話してるとき、ずっと体がビクビク震えてたもん。

「なに、みなみ?」

「ぜったい、負けへんから」

みなみに、いつもとは違う真っ向から勝負を挑まれ、その答えをどうするかと考え、一つの答えが出た。


「ーーーーうん、私も負けない」


その答えをみなみの目を見て言うことができた。
















ーーーーさらさら、さらさら……砂の粒が落ちるようなそんな音が、タイトの腕から出ているとも気づかずに。
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