産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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ーーーーそれは、しんしんと降る雪の日だった。


『この子を養子にしたい』


ぽつり、ぽつりと降る雪の中、冷え切った手のひらを男が握りしめている。それがどこか温かくて、それが『訳のわからない頭』でも理解できた唯一の『現実』であった。

玄関の先で女が怒る。
オレンジ色の髪をした男との言い争いは、寒く冷える冬の夜をいっそう身を凍えさせた。

『この子はっ、娘の……、デジモンについての手掛かりになりうるっ! 記憶を失っていても、この子の存在は我々の利益になりうるんだっ!!!』

ヒートアップする会話の熱量は、声の力を強くするが、……それでいて力を込めないように優しく包む手の温かさに、男は『私』を大事に扱っていることが少しずつわかってきた。

『それならばしかるべき研究機関に頼むのがスジというものでしょうっ! わざわざ、私達で面倒を見る必要はないはずですっ!!!』

しかし、『私』を見る女の目は冷たく、それでいて憐憫を重ねる姿に……、心の底から『ドス黒いなにか』が競り上がっていくのを感じている。

『お父さん、お母さん、もうやめてっ!!!』

オレンジ色の髪の少女は、男と女を止めようとしていた。しかし、最後には、男は『私』を連れて遠くへと消える。

消える。

消える。

消える。

消えーーーー、


カン、コーンッ! カン、コーンッ!


時計の針が朝の5時を指し示していた。

「……んっ!」

背筋を伸ばし、体を起こす。まだ、眠気が残る体を引きずりながら洗面所へと向かい、顔を洗って身支度を整える。

「ーーーーよしっ!」

目が覚めたら次は料理を作り始める。
冷蔵庫からベーコンと卵、サラダ用のレタスにトマト、きゅうりを取り出して、その後に昨晩炊いた炊飯器の中身の確認を終えた。

自分よりも少し背の高いキッチンに手が届くように踏み台に乗り、そこから見えるリビングの時計を見れば、時刻は起きてから30分ほど経っていた。

(そういえばっ!?)

私は急いで鰹節のパックを水を張った鍋に投入して、味噌汁の準備を始める。水の色が変わるまでの間に、きゅうりとトマトを切り分けてサラダを完成させ、味噌汁の具材は……豆腐とほうれん草が余っていたことを思い出して、鍋の中へと入れる。

「……むっ!?」

ガタゴトと洗面所の方から音が鳴ってきたことを確認。時刻は日の出る15分前ほど……、『旦那様』が起きてき始める時間帯だ。フライパンの上に目玉焼きとベーコンを敷き、味噌汁に味噌を溶いていく。

「……すまないっ、陸っ!」

「おはようございます」

ネクタイが曲がった旦那様が洗面所から起きてきた。

「旦那様、今日は確か東京大学での講義がありましたね。起床時間が間に合ってよかったです」

「いつもすまない……っ、暖かい食事を準備してもらって、ありがとうっ!」

「いえ、これが私の日常なので」

旦那様……、『武之内春彦』の居候。
『記憶喪失』である私、『武之内陸』の日常は、いつもこうやって始まっている。


そうこうやって始まるのだった。


ーーーーかちゃん、と、ボールチェーンの先の緑色のオモチャが揺れる音がした。



if √ バッドエンドの黒の騎士 起

 

 

 2002/11/7 PM02:45

 

 

「りーくーくん、遊びにいこっ!」

 

 

 小学校の授業が終わって、クラスメイトにそう声をかけられる。

 

「ごめん、私は用事があるんだ」

 

 いつも誘ってくれる可愛らしい小学2年生の女の子。しかし、私には君と遊んでいる余裕はない。

 

「ええ────っ、いっつもそうじゃんっ! 遊ぼうよ────っ!!!」

 

 彼女に机の上に置いてあるランドセルを掴まれて揺らされる。しかし、私は荷造りを終えて、彼女から離れる。

 

「ねえって」

 

「おい」

 

 

 

『あいつとはいつも遊べないんだから、いい加減誘うのやめろよ』

 

『でも、クラスで仲間外れは良くないって、ママが言ってたよっ!』

 

『あんな変な奴が遊びにこられてもつまんないんだよ』

 

『確かに、男の子なのに『わたし』だなんて変な子だって思うけどさ……でも、仲間外れは良くないよ』

 

『じゃあ、お前は来んなよっ!』

 

『そうは言ってないじゃんっ!』

 

『いつものメンバーで遊ぼうぜ!』

 

 

 2年1組と書かれた教室から出て靴箱まで歩いていく。

 

(子供と関わるのは疲れるな)

 

 自分よりも何倍も背が高い上級生ですら話にならないというのに、小学校低学年の子供と一緒に勉強するのは疲れる。授業中だというのに騒ぐ子や親がいないと泣き喚く子、お菓子やゲームをこっそりと持ち歩き、遊び始める子供までいる。

 

(勉強に集中させてくれ)

 

 いっそのこと障害者の特別クラスに行った方が楽だと思えてしまった。

 周囲の子供や教員から差別される環境だとはいっても、少なくともうるさい音源は10人単位から2、3人に減る環境を特別クラスの教室の外の廊下でうらやましく……、なんて言うのはそのクラスでしか勉強できない子達に失礼だな。

 

「……にしても」

 

(記憶喪失になる前の自分はギフテッドだったのだろうか?)

 

 あまりにも思考が同年代と比べて大人に近過ぎた。だが、ギフテッドというにはそれほど頭が良くはない気がする。

 

(それなら神童って奴だったのか?)

 

 小学校の勉強はもう簡単に解けるレベルだ。今は中学の勉強を旦那様に教えていただいているところだ。

 

(十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人……、そう言われる程度の才能でしかない気がする)

 

 記憶喪失する前の自分には悪いが、私はあまりにも凡雑な人間だ。

 

(日々こうやって料理を作り、家事を行い、勉強をして、旦那様の補助を行う……自分にはそれぐらいしかできない)

 

 同年代の子供達のように遊ぶなど……、

 

 

『陸さん、貴方はあくまでも引き取られた子供なのですから、武之内家の男児らしく過ごしなさい』

 

 

 同年代の子供らしく生きるなどできようはずもないのだ。

 

 

 2年前の12月31日の夜、ポツポツと降る雪の中で旦那様に拾われた。私はボロボロの体で武之内家の家の前に倒れていたらしい。

 

 記憶が曖昧であった私を旦那様……、武之内春彦様は強引に自身の職場がある京都まで引っ張っていき、自身の子供だといって育ててくださった。

 

(その恩を返さなければならない)

 

 2年経った今でも記憶は戻らない。

 しかし、旦那様はて私の記憶が戻ることは自身の研究の成果に繋がると考えておられるようだ。

 

 ────カチャン! 

 

 旦那様からお借りしている鍵についたボールチェーンが揺れる。

 緑色と黒色の軽いボディに右側に寄った紫色のボタン。子供が遊ぶような小さな100円ショップのゲーム機を思わせるような形だが、記憶喪失(なくなって)からこれは動いていないと思う。

 

(デジヴァイス……ね)

 

 旦那様の研究、……そして、お嬢様とそのご友人達が持つ『デジヴァイス』。それに酷似していると私が記憶を失う前から持っている『コレ』についてお嬢様や旦那様から聞かされていた。

 

(デジタルモンスター……か)

 

 デジタルモンスター……、通称デジモン。

 ここ近年、人間の子供達とパートナーを組み、戦い、虫のように進化(すがたをかえる)する別世界(デジモンワールド)の生き物。

 

(それと私になんの関係がある?)

 

 お徳用と書かれた豚の細切れ肉のパックを見ながら、私は考えていた。

 

(3年前、お嬢様が関わったデジモン達とこの世界の事件。そしてその背後にいる存在の手がかりになるのが私だ)

 

 デジモン達との戦い。

 それに巻き込まれたお嬢様とその仲間達は、戦いの中で、なぜ自分達が『選ばれし子供』と呼ばれるようになったのかを知ることとなった。

 

(しかし、その背後にいるデジモンの神らしき存在。それに繋がる話はいっさいわからずじまいであった)

 

 たびたび、デジモンワールドに呼ばれているお嬢様だが、その話によく出てくる『ゲンナイ』なる人物にお世話になったと旦那様は仰っていた。

 

(信用していい存在なのか?)

 

 別世界の……、それも倫理観の違う人間に酷似した姿をとる怪しげな人物。旦那様がお嬢様から聞いた話によれば、十分に信用に足る人物だと思えるのだが……、

 

(それとこれとは話は別)

 

 豚のパックをカゴの中に入れ、目当ての商品を手当たり次第カートの中に放り込んでいく。

 

(……考えても、しかたがない……か)

 

 2年も時間があったのに、少しも記憶が思い出せない自分を卑下しながら、旦那様から預かっている財布を取り出して会計を行う。

 

(昔の私は……、いったい何者なんだろうか?)

 

 そんなことを考えながら、帰路に着き……いつも通りの家事をしていく。

 

 

「……あの話、考えなおしてくれたか?」

 

 夕食の最中、旦那様から突然話を切り出された。

 

(あの話……、ああ)

 

 ここの家に来てから、ずっとずっと言われているあの話だろう。

 

 

「お断りします」

 

 

 旦那様には悪いが断らせていただこう。

 

「……なんでかな?」

 

「私は貴方の子供ではないからです」

 

 何度も何度も聞かれたように、何度も何度もそう応え返す。

 

「妻に何を言われたかはわからないが、私は息子のつもりで君を引き取ったんだっ! そんなことは言わないでくれっ!!!」

 

 居候の身の上、そのようなお言葉までいただけるなんて、私にはもったいない……本当にもったいないのだけれど、

 

『────お父さんっ!』

 

 私を拾い上げ、職場まで連れて行こうとする旦那様の背中に向かって、そう叫んだお嬢様の声を思い出して、踏みとどまった。

 

「お嬢様に申し訳ありませんから」

 

「────ッ!?」

 

「私はあくまでも武之内家に引き取られただけの、ただの居候です。記憶が戻り次第、ここを出ていかなければなりません」

 

「陸、私は────っ!」

 

「それでは、失礼致します」

 

 

 

 

 2002/11/8 AM05:45

 

 

「…………」

 

 昨日の件がもどかしく、私は朝餉を早々に支度し終え、旦那様が起床する前に家を出た。その後、公園で時間を潰していたのだが……、

 

(旦那様に申し訳ないことをしてしまった)

 

 罪悪感が拭えず、ブランコに1人座り込んでいた。

 

(……ははは)

 

 昨日の話を思い出して、私は自嘲して笑ってしまう。

 

(記憶もまだ戻っていないというのに、戻った時のことを考えるとは……)

 

 笑えない話だ。

 記憶を失います、何年かけても思い出せず……それなのに記憶を取り戻したあとのことを考え、育ててくれた恩人の言葉を否定する。

 

(愚かですね、私も)

 

 あまりの自身の愚かさに、少しばかり涙がこぼれそうになった。

 

(……ああ、そうか)

 

 学校の始まる時間までまだ時間がある。少しでも教科書を見直そうと、隣のブランコに乗せたランドセルを手に取って、膝の上に置いた。

 

「さて、今日の授業は……、ん?」

 

 予習と復習……、昨晩はあまりできなかったことを思い出して、授業ではちゃんと答えられるようにと、ランドセルを開けようとしたその時だった。

 

 

 ────斬……、と、目の前の鉄棒が斜めに『刈り取られた』。

 

 

「……は?」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 次の獲物を視線に収め、バケモノは『私』に向かって叫んでいた。

 

「なん、でっ!?」

 

 ランドセルを背負って、公園の外へと走り出す。

 

(なんだっ、なんだあのバケモノはっ!?)

 

 ピンク色の体に青色の髪、全身がアフリカの先住民族のような赤色の模様が描かれている巨大なイタチのようなバケモノ。そして目を引くのは両腕の代わりにある『巨大な鎌』。

 

(そんな、まるで昔話に出てくる『鎌鼬』のような風貌のバケモノがこの世に存在していいはず────)

 

 背後から大きな音が鳴った。

 

 ────、ガン、ガシャンッ! 

 

 鎖と板のような物が落ちるような音……、ブランコが切り落とされた音に違いないっ!? 

 

(もしかしてアレはお嬢様の話に出てきた……、デジタルモンスターっ!? でもなんで京都にっ!?)

 

 なんで、なんで、と巡る頭で隠れる場所の多い路地裏を走り回る。背後から何かが切り落とされるような『スパンッ!』や『ザンッ!』と音が鳴り響くが、そんなことを気にしてられるほど、今の私には余裕がなかった。

 

(……というより)

 

 

「キシャァアアア────ッ!!!」

 

(なんで私を狙っているっ!?)

 

 

 雄叫びを上げながら、私を狙う推定デジタルモンスター。

 

(とりあえず逃げましょうっ!?)

 

 周囲を切りさきながら私を追う彼を撒く為に、私はより人通りが少なく、より隠れる場所の多い路地裏を走り回る。

 

「はっ、はっ、はっっ!」

 

 小学生の低学年の中ではかなり早く走れる私も、そこらの大人に比べたら走る速度は割と遅めだ。明らかに奴は俺を狩ることを楽しんでいる。怒りで振り向いた

 

(ふざけ──ー)

 

 その時だった。

 

 

「『()()()』」

 

 

 奴の額にある十字模様から突然、赤、青、黄の菱形の光が俺の周囲を破壊していく。

 

「────っ、……くっ!?」

 

 驚いて声をあげそうになるが、周囲を見て隠れる場所を探す。

 

(どこか、どこか逃げられる場所はないのかっ!?)

 

 周りのダンボールや空いた酒瓶を入れる専用通箱は次々と破壊されていく。

 

(バリケードが破壊されたっ!?)

 

 物が破壊され、大きな音が鳴り響くことで、なんだなんだと周囲の人が集まってきはじめ、推定デジタルモンスターはニヤリと俺に向けて嗤いかけた。

 

「シェ、ルル、ルッ!」

 

「ねえ、君どーした……の?」

 

 私の背後に……、自転車に乗ってるセーラー服を着たお姉さんがいた。路地裏の先から私に向かって声をかけてしまった。

 

(……まさかっ!?)

 

 その嗤い方の意味を私は理解してしまった。奴はもう『(おもちゃ)』の代わりを、次の『犠牲者(オモチャ)』を決めてしまった。

 

 

「────逃げてっ!!!」

 

「────ひっ!?」

 

 

 私は大きな声をあげて、お姉さんに向かって叫んだ。お姉さんは私の声に押されるように自転車を漕ぎ出した。

 

(私はっ、……私は、まだっ!)

 

 鎌がイヤな光を放ち始める。

 私はお姉さんが走り去った跡を見つめながら、私は記憶に少ない過去を思い馳せる。

 

 傷だらけで、何もわからないまま旦那様に拾われたあの日。

 

 初めてやってきて、やけに体に馴染んだ家事をやったあの日。

 

 小学校に初めて通ったあの日。

 

 大学の講義の時間を空けてまで、やってきてくれた運動会や授業参観。

 

 自身の過去を思い返して……覚悟を決める。私は、私は・胸の中にある恩を返すまでは、

 

(死ねないんだっ!)

 

 鎌の動きを予想して、路地裏の入り組んだ道へと入り込んだ。

 

 

「『ブレイドツイスター』ッ!」

 

「────ッ!?」

 

 

 過ぎ去るのは斬撃の『風』。

 突風のようにあらゆる物を切り裂き、破壊しながら突き進む小さな台風に、路地裏を走りながら、後ろをたびたび振り返りながら逃げ切ることを考える。

 

(早く、早く逃げないとっ!?)

 

 ピンク色の影は見えない。だが、俺を追ってきていないはずがないと、そう自分に強く、強く自戒して、走って、走って、走り続ける。

 路地裏、交差点、信号、広い道、細い道関係なく、人通りの多い少ないそんなことは気にしてられるほど今の私には余裕がなかった。

 

(走れ、走れ……走るんだよっ!)

 

 走って、できうる限り全力で走って、逃げ延びて……、

 

(そうしないと、……そうしなければっ!?)

 

 私は────、

 

 

 

「────『()()()』ッ!!!」

 

 

 暗い路地裏、廃ビルの壁にかけられた巨大な看板が私の目の前に降り注いだ。

 

「────なっ!?」

 

 赤と青と黄の光が目の前の看板を粉々に砕いて、隙間一つなく私の逃げ道を塞いでいく。

 

(道が、道が塞がれたっ!?)

 

 驚きのあまり固まる体。

 少し前に、逃げ道があったはずだと振り返ると……、

 

 

「……ショェァァッ」

 

「……ははは」

 

 

 ピンクのバケモノがそこに立ち塞がっていた。

 

 

(もう、ここまでなのか?)

 

 

 ピンクのバケモノが楽しそうに鎌を振っている。

 

 

「シェァ、シェァァッ、シェ、シェアッ!」

 

 

 子供のように振るその姿が、大きな犬のようにかわいらしくもあり、巨体で武器を振るうその姿は、熊のように不気味であった。

 

(笑われて死ぬ、のか?)

 

 涎を飛び散らせながら笑うバケモノ。

 

 

「シェァァ」

 

 

 そのバケモノが鎌を……いや、鎌に反射した恐怖で固まる私の姿を見て楽しそうに嗤っている。

 

 

(こんな、こんなバケモノに)

 

 

 鎌に光が灯り始める。

 あの光は、急いで路地裏に逃げた時に放った風の斬撃を台風のようにして撃つ攻撃だ。

 

 

「シッ、シッ、シッ!」

 

 

 楽しげに踊るバケモノ。

 

 

(いやだ)

 

 

 壁に向かって後ずさる私。

 

 

「シェルルルッ!」

 

 

 その姿を見て、さらに楽しげに嗤うバケモノ。

 

 

(いやだ、いやだ、いやだっ!)

 

 

 何度も何度も壁に背を当てながら、何度も何度も繰り返して壁が壊れないか叩く私。

 

 

「────」

 

 

 バケモノは大きく息を吸い込んだ。

 

 

(こんなところで死んでたまるかっ!)

 

 

 その姿を見て、どこか逃げれないかと隙を探し回る。

 

 

「────ッ」

 

 

 ない、ない、ないない、ない、ない、ない、ないない、ない、ない、ない、ない、ないない、ない、ない、ない、ないない、ない、ない、……ないっ!? 

 

 

(こんなところで、記憶も取り戻さずに死んで────)

 

 

 私は死にたくない。

 

 私はまだ死ねない。

 

 恩を返すまで死んでたまるものかっ! 

 

 私は、私は……私は────、

 

 

「『ブレイドツイスター』ッ!」

 

 

 わたしはっ!!! 

 

 

「自分が何者なのか、わからないまま死んでたまるものかっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────、『()()()()()()()()()()』ッッ!!!」

 

 

 瞬間、漆黒の光が私の目の前に降り立った。

 

「────ッッ!?」

 

 灰色のドラゴンを思わせる兜に金色の髪、黒を思わせる装甲に、それらを体を縫い付ける黄色のパイプが機械のような存在感をひしめかせている。

 

「…………」

 

 ピンク色のバケモノは赤い球体のような光に飲み込まれて消えてしまった。目の前のデジモン? が助けてくれたのだろう。

 

「おい」

 

 視線をこちらに向けるデジモン。

 助けてくれた。助けてくれたはずなのに……、驚きのあまり思うように言葉が出ない。思うように言葉が出ないなか、必死になって頭を回して、言葉を紡いで、そうやって考え抜いて出た言葉は────、

 

「……あんたは、何者だ?」

 

 そんな感謝とは言い切れないほど……、どうしようもない疑問の言葉であった。

 

「────フンッ!」

 

 しかし、その言葉に満足したのか、デジモンは私を一瞥し歩き始め────、

 

 

「助けてやったぞ。あとは好きに────」

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ────ざ、

 

 ────ざざ、

 

 ────ざざざざざっ! 

 

 

 頭の中がノイズに呑まれていく。

 

 

『……か?』

 

『ああ』

 

 

 墓の前に誰かと立っている? 

 

 

『お前は、……なんでもない』

 

 

 黒く塗りつぶされた誰か? 

 

 

『返してっ、返してよっ! ……を、お願いだから、返しなさいよっ!!!』

 

 

 泣いているのは赤色の少女。

 

 

『殺す、殺す、コロスゥッ!!!』

 

 

 血の池に沈んだ2人と、誰かに抱き抱えられて……? 

 

 

『……◯◯、本当  かっ の?』

 

『◯◯が言うなら問題ない』

 

 

 上手く聞こえない。

 

 

『ねえ、『   』はいなくならないよね?』

 

 

 嫌悪感だけが滲んでいて……、

 

 

 

お前なんかいらない

 

 

 

 白く塗りつぶされる。

 

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ────、あ?」

 





パチパチ、パチパチと音が鳴る。嗅ぎ慣れない濃い緑の匂いに少しずつ目が覚めていく。

「……ん?」

ここはどこだ?

起きる前のことを思い出す。

(確か、あのときキュウキモン*1に襲われて……)

大きな黒い影に助けられたような気がーーーー、

「……起きたか」

「……、『ブラック、ウォーグレイモン』*2?」

「ほう、俺の名を知っているとはな……、奴らの仲間か、あるいは……」

竜の兜に金色の髪、八神太一の相棒であるウォーグレイモンと瓜二つであるにも関わらず、反転したような黒と金の出で立ち間違いなくぶらっく、うぉ……ん?

「……なんで、知っている?」

「……何を驚いている? 貴様は俺のことを知ってーーーー、」

「『ブラックウォーグレイモン』。究極体、ウィルス種……、必殺技は『暗黒のガイアフォース』……あっ、」

頭の中で情報が濁流のように押し寄せてくる。

「…………っ!?」

ブラックウォーグレイモンはデジモン    

             02では、
    おいか             アルケニモン


  究極体


                ストー    進化


       
            亡      封     た


「貴様、何をっ……っ!?」

記憶が切り取られ、ツギハギのような情報がノイズ混じりに押し寄せては、脳の中で情報が整理されないまま浮かんでは消えていく。

「いや、そういえば貴様はあのとき……?」

目の前のデジモン、ブラックウォーグレイモンが武器を下ろし、驚いている。しかし、それ以上に……、もしかして、ううん……きっと、そうだ。



()()()()()()()()()?」



『僕』の中にある記憶が戻り始めていた。










ーーーー、シリと、壊れたランドセルの横で緑色のオモチャが音を立てていた。

*1
レベル:完全体 タイプ:妖獣型 属性:ウィルス種 必殺技:『ブレイドツイスター』『三連星』
伝説上の妖怪“カマイタチ”のような姿をした妖獣型デジモン。体中の体毛が鋭い刃で周りのものを見境なく切り裂き、まさに凶器の様な剣獣だ。スピードも速く、つむじ風が起きたと同時に体中を切り裂かれてしまう。必殺技は、敵を中心に竜巻を起こし、真空の刃で切り刻む『ブレイドツイスター』と、額から菱形の印を撃つ『三連星』。

*2
レベル:究極体 タイプ:竜人型 属性:ウィルス種 必殺技:『暗黒のガイアフォース』
“漆黒の竜戦士”として恐れられる、ウィルス種のウォーグレイモン。ウィルスバスターズのウォーグレイモンとは信条も主義も全て正反対であるが、彼なりの“正義”のために存在している。卑怯や卑劣なことを嫌い、同じウィルス種でも低俗なデジモンは仲間だとは思っていない。どういった経緯でウィルス化してしまったのかは謎で、背中に装備している“ブレイブシールド”には勇気の紋章が刻まれていない。必殺技はウォーグレイモンと同じ『ガイアフォース』だが、この世に存在する“負の念”を一点に集中させて放つ『暗黒のガイアフォース』である。

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