リアルの方が忙しくなり、なかなか投稿することができませんでした。エタッたと思った方、申し訳ありませんでした。とりあえず1週間から10日程に一回のペースに戻そうとは頑張ってみます。
そして、推しの子✖️デジモン 第四章 『上』 あとがき・補足 続き……を書こうと思ったのですが、書き始めた時に『下』の内容に抵触する可能性を考え、書くのを辞めることにしました。
申し訳ありません。
本編のほうで説明していくので、今後ともよろしくお願いします。
re prologue/第一話 『僕』が見つけた『主人公』
「やあ、ひさしぶりだね……クダモン」
赤い瞳孔に黒い結膜……明らかに今までのタイト氏とは違う存在に、戸惑う。
(……そして)
クダモンに笑いかける『彼』を見て、クダモンが言った言葉。
『
その言葉から察するに、クダモンと奴……いや、アプリドライブから出現したイグドラシルと名乗ってるなにかと知り合いなのだろうか?
「……クダモン」
「…………」
拙者の言葉に反応がない。
イグドラシル(仮)のほうを睨んで動こうとしない。
(……イグドラシルって)
(タイトくんの話に出て来たノルンって人やったよな?)
ルビー殿とみなみ殿が背後で話してる内容が耳に入ってくる。
(ノルン殿は女性の人格であります。あのような男性的な口調ではありませぬぞ)
だから拙者は────
「そうだぞ〜〜っ! 俺は彼女じゃないからなっ!!!」
「……うぇ!?」
タイト氏の声で洒落っ気のある口調が耳に入ってくる。
(ものすごい違和感ですぞ)
「彼女とは別の世界……いわゆる並行世界のイグドラシルってやつだよ。わかりやすく言ったら、ね」
椅子に座り、足を組む。
表情は感じの良い笑顔だが、タイト氏が仲間内ではまったくしない感じの良い顔の為、違和感がさらに募った。
(……クダモンは?)
「…………」
タイト氏(イグドラシル)を睨みつけたまま、先程から一切動こうとしない。イグドラシルの口調から知り合いなのは確定だが、クダモンが全力で警戒しているので、警戒態勢を解くことができない。
「ひさしぶりなのに、ひどいなぁ……まっ、どうでもいいけど」
心底興味がない……といった様子でタイト氏の体を弄るイグドラシル。
「────あなたはっ、なぜっ……なぜ、ここに現れたっ!!!」
その言動によってクダモンがイグドラシルに問うたのですぞ。
(……)
「…………」
当のイグドラシル本人(神?)はクダモンの言葉に本当に『白けた』顔をしていた。
「まっ、君以外の……ルビーちゃん達が話がついていけてないようだから、ちょっと時間を貰おうか」
ルビー殿を指差して……ん?
「…………?」
────ポカーン
口を開いて驚いているルビー殿。
(────ルビーどのっ!?)
「……う、うん、え、あっそうだね。大丈夫だよ?」
明らかについていけてないのですぞ!?
「…………」
クダモンも呆れて物が言えない……と言ったら様子なのですぞ。
「沈黙は肯定と受け取るね……じゃあ、自己紹介をしようか」
そう言って立ち上がり、イグドラシルは胸に手を当てる。
「僕の名前は『イグドラシル』……と言いたいところだけど、正確には違うんだ」
「……違う?」
……やはり。
「そこにいるユイならわかるはずだと思うんだけど……僕はその人格の一部でしかない」
やはりそうでありましたか。
「人格の一部?」
「……ノルン殿のようなものか?」
教授の疑問の声と共に、確認の為に口に出して聞いてみる。
「そうっ! 美樹原ノルンが『イグドラシルの良心』から産まれたように、『僕』もその感情の一部を切り離された存在だ!!!」
イグドラシルは拙者の考えを読み取り喜び声を上げる。
(本当にタイト氏とは全く違う)
同じ顔とまったく違う性格。ここまで戸惑うのは、ひさしぶりであった。
「簡単に言えば」
「
イグドラシルの好奇心?
『好奇心』?
好奇心!?
「好奇心、ってなんでそんな性格がタイト氏に取り憑いてるのでありますか?」
「いやあ、本体が自身の好奇心に赴くまま好き勝手やってたら、思わぬところでしくじっちゃってね。最も強い感情である『好奇心』を急いでデジヴァイスにねじ込んだんだよねぇ」
しくじった……イグドラシルが?
「……、────っ!?」
イグドラシルがっ、神がしくじってしまうような相手が、敵にいるのか!?
(そのような相手、いったいどうやって戦う? いや、それ以上にタイト氏は知っていた? であれば、拙者の知らない物語が? だあああっ、もうわからないっ!!!)
頭が混乱し、どうしようもなくなる。
「相変わらず悪趣味な性格ですね」
「悪趣味なのはどっちもどっちなんじゃない?」
クダモンとイグドラシルの言い合いが聞こえてくる。
(考えたいのは山々ですが、さっきのルビー殿みたいに置いてけぼりになったら、今度こそ終わりなのですぞ!?)
意識を切り替え、イグドラシルの口に耳を澄ますと、
「僕は君がデジタマの頃から知ってるし、わざわざこの世界に送ったのも僕だよ。そりゃあ、よく知ってるさ……自分がこうなったのも、『好奇心』の赴くまま好き勝手やった結果だからね」
そんなことはどうでもいいけど……と、タイト氏の口から付け足した。
「……っと、目的を忘れるとこだった。ちょっとそこの2人こっちに来てくれ」
……目的?
ルビー殿とみなみ殿を手招きするイグドラシル。
「────えっ?」
「……ウチら?」
当然二人は戸惑っているが。
「そう、君達だ。これを持っててくれ」
ルビー殿とみなみ殿になにか投げ渡されて……
「お前もだ」
────ぽいっ!
「────っ、拙者も!?」
夜空色と翡翠色の混じったなにかがこちらへと投げられた。
「……なに、これ?」
「……なにって?」
「『
「────はあっ!?」
「────うぇっ!?」
「────っ!?」
しれっと言われたその一言に驚き、止まってしまう。
「正確には『タイトとして産まれた後の良い記憶』だ」
タイト氏の魂の……良い記憶?
「良い、記憶?」
ルビー殿の言葉共に、イグドラシルは微笑んだ。
「……ことの経緯を話そうか」
メタ的な視点を言えば、ここで語り手を僕、『イグドラシルの好奇心』に変えようと思う。
誰に対して言ってるのかは……わかってるとは思うけどね。
「君達の世界から見たら約20年前」
そう、彼と出会ったのは20年前だ。そして、その話の少し前その頃に僕にはハマっている趣味があった。
「────20年前っ!?」
ルビーちゃんが驚いてくれる。反応があるだけ、おもしろいのはたしかだね。
「そう、20年前」
「僕はとある『趣味』にハマっていた」
「……趣味?」
みなみちゃんが首を傾げてる。人間で言うところの可愛らしいってあんな表情のことをいうのかな?
「『並行世界の傍観』することです」
…………あれ?
「……覚えてたんだ?」
クダモンが付け足してくれてる。君と会ったのは約『13年』ぶりだから忘れてると思っていたよ。
「あんなことがあったのですから当然です!!!」
あんなこと……ああ、あれのことか。
「…………あはは、怒ってるね」
そんな怒ることではないと思うけど。
「まっ、どうでもいいよね」
『なんですって』クダモンが叫んだ。どうでもいいや。
「さあ、続きを話そうか……僕は好奇心の赴くまま『彼ら』の物語を傍観していた」
「勇気を、友情を、愛情を、知識を、誠実を、純真を、希望を、光を……それらが紡ぐ物語を見続けた」
01を。
02を。
テイマーズを。
フロンティアを。
セイバーズを。
……そして、クロスウォーズを。
「……そんななか、ふと思ってしまった」
そう思ってしまったのだ。
「
みんなが肩を揺らして驚いたのが見える。
「『思い立ったら吉日』……いい言葉だよね。僕は都合のいい『並行世界』を探して回った」
ただ、そんなことはどうでもいい。早く『彼』の話がしたい。その気持ちを抑えながら、高揚感が募る気持ちが声に乗ってくる。
「……そして見つけたんだ」
そう、見つけたのだ。
「この『とても都合のいい異世界』を」
この『
「デジモンと人間が対立し、人間を襲うことを計画立てている『ケモノガミ』……衰退した彼らを忘れた『人間』達」
彼らはこのままであれば、いずれ世界は滅ぶのであろう。あの時の無知蒙昧な僕はそう思ったのだ。
「なんて都合のいい世界なんだろう!!! これなら、『並行世界の僕が関わっても問題ないよね!!!』と当時天才的にそう思ったんだよ!!!」
そう思ってたのだ。
現実は違ったのだけれどね。
「……なんて、勝手な」
ミユキちゃんが侮蔑を込めた目でこちらを見てくる。
しかし、タイトに救われた君が言うのか。ルート次第では死ぬ可能性のある君が。
「勝手? それで君の命が救われたんだよ。問題ないじゃないか」
問題ないとは思うのだけどね。結果救われたことに関しては、傍観者である僕に言う価値はないが……
「…………」
反論の一つでも言えばおもしろいと言うのに。パートナーもパートナーだ……僕の言葉に項垂れてる暇があれば、違うとでも言ったらどうなんだ?
「なんだ、黙るのか……つまらないな」
つまらない、タイトがいないとホントにつまらないな。
「僕はいくつも『デジモンと関わりを持った世界』を知っていた。その全霊を持ってこの『デジヴァイスPROT』を作り出した」
話を進めよう。
「……ところが、とある『不愉快ごと』が目に入った」
不愉快だ。
今も思い出すだけで、不愉快なモノがこの世界には存在した。
「……不愉快ごと?」
「僕の物語を『荒らす』ケダモノが生き残ってたんだ」
教授の言葉に僕は肯定する。本当に価値のないケダモノが生きていた。あんなものさえいなければ、タイトをもっと幸せな居場所に送れたというのに……
「……ケダモノ?」
ルビーちゃんが訳がわからないと言う……というか、君達の仕業だろ。あんなモノに目をかけられやがって。
「君もよく知ってるだろ? 君達を転生させた大馬鹿野郎だよ」
「……、────知ってるの!?」
「知ってるさ……なにしろ」
僕が……
「
「「「────っ!?」」」
突然、ユイが怒鳴り声を上げた。
「……ん?」
ユイの怒鳴り声で僕の言葉を遮られてしまった、続きを話さな……んん、ああそっか、そういうことだったね。
ユイに睨まれたことで思い出した。
「……おっと、怒られてしまった。これじゃ、話せないね」
それは都合が悪いよね。君にとっては。
「……ユイ?」
「彼も当然知ってるみたいだね……でも、その様子だとタイトに黙ってるように言われてるのかな?」
あくまで知らないふうに……君達以外知らない方がとかなんだろう?
「あいにくでありますが、言葉を謹んでいただきたい。拙者にも堪忍袋の限界というものがありますゆえ、是非に!!!」
パタパタと翼をはためかせてユイは威嚇する。
「……おもしろいね。ぜひそれにも興味があるよ」
好奇心の赴くまま、それでも良いと思えてしまった。
「…………」
「おや、白けた様子だね。それなら続けさせてもらおう」
ユイの白けた顔を見ながら、話の続きを話し始める。
「せっかく根回しして『扉』を作ったというのに、『せっかく見つけた』いい感じの主人公がこのままではおもちゃにされるっ……って思ったからね。好き勝手させてもらったよ」
そうなんだよ、ちょっとぐらい愚痴を話してもいいと思うんだよね。この件に関しては。
「……
ルビーくんが首を傾げたのを見て、その反応を待っていたと心が高揚感を取り戻していく。
「
好奇心から来る当時の高揚感が、胸の中で懐かしさと共にひろがっていく。
────ギッ
「ほんっとうに、素晴らしかったよ」
────ギリッ
「なんてったって僕の想像通りの主人公が見たかったんだ!!!」
────ギリィ
「さいっこうだよ! 彼なら僕の願いを達成させてくれる唯一の『人間』だっ!!!」
「
────ギリィッ!!!
「ふざけるなっ!!!」
大声でそう言われたことで、心の中の高揚感が萎んでいった。
「……ん、なにか言ったかい、ルビーちゃん?」
そして、僕の高揚感を萎ませた本人に向かって、『せっかく楽しい気持ちだったのに』という諦観を織り交ぜた瞳で睨みつける。
「ふざけるなでと言ったの、イグドラシル……あんたがタイトになんて思っているかなんてわかんない。だけど、それ以上ふざけたことを言うんだったら、私が許さない!」
そう言って、僕を睨みつけるルビーちゃん。
でもさ、それってさ。
「
僕がそうしなきゃ、タイトは産まれてこなかったってことだよね?
「────っ!?」
「タイトがいなかったならどうなってたんだろうね」
タイトが産まれなかったとしたら?
「たとえば、『星野アイ』がストーカーによって殺害されていたとか?」
「たとえば、『星野アクア』が復讐に走って精神に障害をきたしてしまったとか?」
「たとえば、『星野ルビー』がアイドルになれなかった……とか?」
きっとそんなことが起きていたのだろうか?
「……どうなってたんだろうね?」
勇気も友情も育たない、実に『つまらない』妄想だけれどね。
「…………」
呆気にとられたようなルビーちゃんの表情。
「…………つまんないね」
僕は大きくため息を吐いた。
(もう少し『おもしろい』質問がくればいいんだけど)
そうしたら、きっと……
「なあ、一つ聞いてええか?」
そんなことを思ってると、『期待の新生』に声をかけられる。
「なになにっ!?」
僕はこの『白けた』状況がおもしろくなると思って、彼女へと聞く。
「ウチのせいでタイトくんはああなったんか?」
恐る恐ると言った様子で彼女は…………は?
「…………」
「…………」
みなみ殿を黙って見つめる。イグドラシルその視線は予想もつかない質問をされたと呆気に取られてるようだった。
「…………
「…………は?」
「────はぁ!?」
「────っ!?」
みなみ殿とルビー殿の語気は違うが、同じ言葉に驚くと同時に、イグドラシルとタイト氏の意見が同じになったことに、さらに驚きを隠せなくなった。
「
「────っ!?」
むしろ、次の言葉のほうが拙者にとっては驚愕の一言であった。
「タイトの体と魂は既にボロボロだったのさ」
ボロボロ?
まあ、体は弱っていましたが……魂って?
「でも、あんなに元気に動き回ってたやない……ですか!?」
拙者の疑問を口にするように、みなみ殿が口にしたその時────
「……こうしてみればわかりやすいかな?」
イグドラシルがタイト氏の顔に手を当てて、アニメキャラが変装を剥がすように手を顔から離すと────
「「「────っ!?」」」
髪は左側が赤茶色、右側が焦茶に染まり、バラけたように夜空色の髪がメッシュ……は聞こえが良すぎる。年老いた人の白髪のように混ざりあっていた。
「……なんや、あれ」
右眼の瞳孔は翡翠色に染まり、左眼は茶色に染まって、結膜には充血のような亀裂が入ってる。
「なんで、……私はっ!!!」
肌の色は某医療漫画の主人公の『手術痕』ように、小麦色や肌色が透き通るような白い肌にまばらに刻まれている。
「────これが、本来の姿っ!?」
まるで
「星野アイの遺伝子を画像をペーストするみたいに、肉体に貼ってただけだからね。剥がせばこんなモンだよね」
……デジモンそのものだね、とイグドラシルが付け足したのが耳に響き始める。
タイト氏は人間だったのに、
タイト氏はデジモンになった?
誰の?
拙者の?
俺、はどんなことを言えば?
…………、
「……そんな、体で」
口から出たのはそんな言葉だった。
「あっちの僕は気づいてたみたいだけど、言わなかったのかな……んん、まあどうでもいいかな?」
ノルン殿は気づいておられた?
黙っておられた?
悪意?
いいや、善意のはずだ。
絶対にあの御方はそのようなことはしない。
「肉体自体はこうやって元の姿にペーストし直せるし……問題は魂だよね」
イグドラシルが手をかざすと、タイト氏の顔が再び元に戻る。
「
ただ、イグドラシルの手にある『夜空色』の拙者達の手にあるモノ……『タイト氏の魂』と同じ色のそれは、翡翠と夜空の二つの色が混ざり合い、反発し合い……悪く言えば、汚されているように見えてしまった。
やがて、夜空色に完全に染まり、翡翠色は消えてなくなってしまった。
「……その色」
拙者にとっては一番見覚えのある
「そう! 君のお母さんの色さ!」
「…………、ママの、色」
「澄んだ翡翠色だったのに、今やかんっぜんに夜空色に染まりきってる……まあ、これもこれで好きだから問題ないんだけどさ」
調整するのがたいへんだったんだよねぇ……と混ざり合わない二つの色を見ながらイグドラシルが呟く。
「だから、こうやって!!!」
────ミシッ!
「────っ!?」
タイト氏の魂が
「彼になにをっ!?」
────ミシミシミシッ!!!
「まだまだっ!!!」
イグドラシルが力を入れた時、翡翠の線は亀裂のように、夜空色に罅を入っていく。
「……ミナミ、あれタイトの魂? だよね。なにやってるの?」
「────、っ!?」
目を背ける者、イグドラシルの手を掴む者、呆然とただ見守ることしかできない者……それぞれが動くなか拙者は手元を見ながら頭を回す。
(タイト氏の良い記憶?)
ここにあるのはタイト氏の良い記憶で、イグドラシルの手のひらの上にある魂はなんの記憶?
「手を止めろっ!!!」
「それはタイトの魂だろ!!!」
「タイトさんを離してっ!!!」
教授とブイモン、水無瀬ミユキがイグドラシルの手を止めようとしても、
────ミシィッ!!!
「────まだだっ、まだ止めることはできない!!!」
イグドラシルはその手を緩めることはない。
「────くっ!?」
「レナモンっ!!!」
「わかった!」
「だめだっ、ガブモンっ!!!」
「────ああ、わかったよっ!!!」
多くの者がイグドラシルを止めようとするが、
「────これでっ!!!」
────ミシ、ミシミシミシッ!!!
「終わりだっ!!!」
────ミシィッ!!!
────ズドォオオン!!!
「────うっ!?」
「────わっ!?」
「────きゃあっ!?」
最後に大きな音と衝撃波が彼らを襲い、吹き飛ばされる。その中心には、イグドラシルと…………
「ふぅ、こんなもんかな?」
翡翠色の亀裂が全面に入った『タイト氏の記憶?』がそこにあった。
「あんた、なにやって!?」
呆然とただ見ていたルビー殿がようやく現実に戻ってきてたのか、それとも、タイト氏の魂? を助けようと? 他のメンツが壁に叩きつけられ身動きが取れていなかったから反応できなかったのか、イグドラシルのやっていたことについて、質問をした。
「
息を整えながら、イグドラシルは左手に持ったそれを見てそういってのけた。
「────っ!?」
「────、やはりそうでありましたか」
視線の先から響く息を呑む音。それに続いて、思考が再加速する。
「魂の、修復?」
隣から聞こえてくる
「肉体はある程度修復できたんだし、残るは魂だけ……そう言ったはずだよね?」
あの罅はいったいなんなのか?
「…………」
タイト氏が夜空色の魂に影響された?
「…………」
それは違う。
『翡翠色』については、『今世のタイト氏の良い記憶』という結論が出ている。
「…………あ!?」
では、あの『夜空色』はなにを意味している?
「────んぐっ!?」
みなみ殿がようやく復帰してきた。そういうところですぞ、そういうところ。
「……なにその、『今まで忘れてた』みたいな顔……って、全員そうだった」
しょうがないかとイグドラシルは言った。
(……ようやく核心を話すのでありますか?)
「そもそもそこの二人は疑問に思わなかったのかな?」
「……なにが?」
「なんのことや?」
この二人が知ってること?
拙者が知らず、そして、そのことに気づかない二人……ああ、それは────
「……この二人だめだ」
両手で、やれやれとジェスチャーをするイグドラシル。
それには本当に同意ですぞ。
「君らは『タイトの前世』を聞いたんでしょ。それでなんで疑問を抱かないんだい?」
そう、タイト氏とこの二人の唯一の────
「…………?」
「
(
「「────っ!?」」
驚く二人。
そして、明かされる重要な事実。
「……タイト氏の病気?」
「タイトさんが?」
拙者と水無瀬ミユキの声が重なる。
「というか、ルビー、そんな話いつ聞いたんだよ!?」
ブイモンの声がいつの間にやらルビー殿の隣で響く。
いつのまに復帰したこの……って、よく見ると教授が復帰していて、レナモンとガブモンがうめいているのに気がついた。
(こいつらを庇ったのか)
「……ん?」
イグドラシルがルビー達に首を傾げ、呆れ顔が失望した表情へと変わる。
「その様子だと気づいてなかったみたいだね」
ああ、そうか。
(拙者はタイト氏のことをまだ知り得なかったということか)
小声で出たその言葉が少しだけ、暗く染まってしまった。
「タイトには精神に特に異常をきたす病気があった。普通の社会では暮らしていけないほどの精神病だ」
「……普通の社会じゃ」
「暮らしていけない?」
水無瀬ミユキと言葉が被った。ああ、なんでこんなにイラつくのだろう。
「『特定の条件を満たした人間が虫に見える病気だ』」
「「────っ!?」」
『……っ、……実はな、夢で『人型サイズの蛆虫に
(クダモンの時の!?)
メギドラモン戦後のタイト氏の発言がようやく繋がった。
(それじゃあ、あの時の発言は前世────っ!?)
そう考えた時、イグドラシルが嗤ったのが見えた。
「後天的になったが故に、『人を嫌悪』していた」
「だから、僕は彼を主人公にしたんだ」
「この世界と戦う『人』を導く存在として」
「はたまた、『人』が敵対したときの『デジモン』を導くパートナーとして」
「……そして、『世界を救う主人公』としてね」
さて、これを見ている『誰かさん』はどう思うのかな?
いや、メタ的に見ていると信じているのは僕だけか?
でも、思うことはできる。
彼らの手にあるの翡翠色は『今世のタイトの良い記憶』。
僕の手にある夜空色は『前世のタイトの良い記憶』。
じゃあ、
この
『翡翠の罅』
はなん
でしょうか?
(ここはどこだろう?)
夕陽が照らす海、オレンジ色に染まる海岸……血の赤に染まった砂浜。見覚えのある風景、聞き覚えのある悲鳴。赤青黄緑黒の布が血に濡れて空を舞っている。
俺はなぜこんな場所にいるのか思い出せない。
(……どうして、『俺』は)
赤く染まった世界を歩み始める。
「……うっ、ぐっ」
「イヤダァああああ!!!」
「ーーーーあんなやつだと知ってれば戦わなかったのに」
「なんで、私がこんな……目に……」
倒れている少年少女。
気絶している者もいれば、発狂してる者もいる。だけど、その目には俺は映っていない。
(……なぜか、いらだちを感じる?)
彼らの様子を見ていると腹が立ってくる……ただ、
「……っ、なによこれっ!?」
「俺の腕が!?」
「ママっ、ママァッ!?」
(……くだらない)
そう思いながら歩いていくと、大きななにかが見えてきた……そして、
『
夕陽の歌が聞こえてくる。
『今すぐ会いたい その気持ちをお願い伝えてね』
子供のソプラノボイスで響く音程すら合っていないアカペラの歌。その歌が耳に入ってくる
(……)
少しだけ興味を持って歩き出す。
『ひとりぼっちのところに 突然飛び込んできた』
子供の歌と、悲鳴と、血の匂い。
『少し痛かったとこ やさしく包んでくれた』
歪な場所に、歪な世界。
『こんなにホッとすることは初めてだから』
ただ、歌詞だけが胸の中に確かな『郷愁』を広げてくる。
『その温もりをそっとポケットに詰め込んで』
誰かに会いたいと……ただその誰かに会って話がしたいという気持ちが胸の中に広がってくる。
『歩いて行きたい』
悲鳴なんて耳に入ってこなかった。
『ずっとずっと一緒にいるとあの夕陽に約束したから』
あの『人』に会いたい。
夜空色の髪、煌めく瞳、透き通るような肌、全てを魅了するような言動……それら全てをこの身に注いでくれた『誰か』。
『寂しいときも 広がるオレンジを眺めて』
ただ、ただ会いたかった。
『「きっときっと大丈夫だよ」』
『今』会えないことがわかっていても、
『あの夕陽がささやいてくれる』
ただ、ただ、会いたかったんだ。
『今すぐ会いたいその気持ちをお願い伝えてね』
走り続けた先に、一人の子供と巨大な『怪物』が寄り添っている。
「『二人の愛 心を照らしてる』」
『僕』の心はあの人の顔をもう覚えていない。あるのは『地獄』、ただただ進む先に地獄が見えていた。