ーーーーン
暑い。
ーーーーォン!
茹だるような暑さだ。なにも考えたくない……けど、走り続けなきゃ行けない。
ーーーードオン!
痛い。
ーーーードオン!!!
苦しい。
ーーーーズドォオオン!!!
ああ、そうだここは……
「ーーーー早く走れっ!!!」
「ごめん、足がやられた!!!」
「ーーーーくっ、早くこの手を……っ、うわぁっ!?」
ーーーーズドォオオン!!!
「…………」
「…………」
「…………あれ?」
「
数体のデジモン達を背に
「ーーーーっ、大丈夫です!!!」
「……なら、下がってくれ」
「ありがとうございます!!!」
「……『ーー』、『ーー』」
「なに、『ーーー』」
「『ーーーーー』、なんすか?」
「やれ」
「わかった」
「了解!」
竜と獅子が暴れ回る。
敵を蹴散らし、滅殺していく。
その姿を見て懐かしさを覚えながらも……、
(……思い出せない)
俺は彼らの顔も姿も思い出せなかった。
えんぴつで黒く塗りつぶされたように、面影や姿は書き消えて、見た目も声も判別できずにいる。
「……あっ、ありがとうございます!」
感謝を告げるブラックテイルモン。その背後にいるのは、バーガモンとプロットモンだ。
「別にいいよ、『ーー』の攻撃に巻き込まれる前に早く逃げろ」
目の前にいる竜が敵味方関係なしに、縦横無尽に暴れ回る。獅子が味方が巻き込まれないように注意をしながら、避難の誘導をしている。
「『ーーー』っ! 大丈夫か!?」
「『ーーー』くん、ようやく追いついたっ!」
金髪の少年と奇抜な髪の少女が空から降りてくる。
「こっちは大丈夫だ!」
そう口に出た言葉は、ただの強がりだとそう感じ取れてしまった。
(なんでか知らないけど吐き気が押し寄せてくる)
途方もない吐き気が口から漏れ出そうになるが、自身の体はなぜだか知らないけど吐き気を無理矢理飲み込んで、敵を一点に見据えていた。
(……大丈夫じゃねえよ)
少年も少女も……やはり、黒く塗りつぶされていて、どんな姿なのか、どんな関係なのか思い出せるほどの情報がなくなっていた。
「ーーーーわかった、行くぞ『メタルグレイモン』」
「さあ、貴方達もスパロウモンに乗って……逃げるわよ」
少年は機竜に、少女は背後にいたデジモン達を連れて逃げようとする。
ーーーードオン!!!
ーーーードオン!!!
ーーーードオン!!!
(どうなってんだよ!)
自分がなんでここにいるのかも、自分がなんで戦争に参加してるのかも思い出せない。だけど、とてつもなく嫌な予感だけは耳に残っている。
「ーーーーまずいっすっ!?」
そんな声が自分の目の前から聞こえてくる。
「死ねぇええええええっ!!!」
巨大な恐竜型デジモンが腕を振り上げて攻撃してきた。
(ーーーー危ないっ!!!)
自身に向かう攻撃。
「ーーーーっ!?」
一瞥し動かない自分。
「『ーーー』くんっ!?」
「メタルグレイモン!!!」
少年と少女の危機を察知した声が聞こえてくるが、もう間に合わない。
「ーーーー『ーーー』さまっ!!!」
ーーーーズドン!!!
「ーーーーうきゃあっ!?」
目の前の白い『なにか』が吹き飛んでいくのが見えた。
「……えっ?」
(……は?)
「『ジガ・ストーム』ッ!!!」
目の前に雷の嵐が吹き荒んでいく。
「ギャアアアアアアアアアアッ!!!」
ーーーーズドォオオン!!!
敵は嵐の中に消えてなくなり、そこには倒れたプロットモンと
「ーーーー大丈夫、『ーーー』ッ!?」
『ーー』の声が聞こえる。
だけど、俺の目には彼は映らない。映っていたのは……
「……なんで?」
(……なんで?)
「なんで庇ったっ!!!」
(なんで逃げなかったっ……え?)
「俺は『ーーーーー』があるから大丈夫なのに、お前はなんで庇ったんだ!?」
俺の口から発せられる言葉に『違和感』がある。まるで、自身の身は守れるみたいじゃないか。そんなこと、できるはずがないのに。
「……守ってくれたから」
笑顔でそう言ったプロットモン。
「僕らのこと、守ってくれたから」
ーーーーバリィン
そう言って、消えたプロットモン。
「……うそ?」
背後から声が聞こえてくる。
振り返るとプロットモン達を連れて逃げようとしてくれた少女がいた。
「プロットモン?」
「プロットモン……なぜっ!?」
ブラックテイルモンとバーガモンが少女の背後に立っていた。
「…………っ、」
(…………っ、)
だけど、
『オ は テイ ー 家 になりた 』
ただ、記憶の隅にある『なにか』にプロットモンの姿が被って見えてしまった。
「ーーーーお゛う゛…う゛ぇええええええっ!!!」
(ーーーーお゛う゛…う゛ぇええええええっ!!!)
口から吐瀉物が零れ落ちる。
「ーーーーって、『ーーー』くん大丈夫!?」
「ーーーーっ、逃げるぞっ!!!」
少女が俺を介抱し、少年が俺を連れていく。だけど、俺は身動き一つ取れなかった。
(…………い)
モヤのように記憶も自我も揺らいでいくなか、たった一つの感情だけが口に出た。
────音が聞こえない。
ふん、ふふーん、ふんふん。
家庭科室に響いていた少年に似つかわしくない、ソプラノボイスの鼻歌。
トントントン。
包丁で食材を切る音。
カラ、カラカラカラ……ポチャン。
鍋の中に野菜が落ちる音。
ジュワー。
フライパンで肉が焼かれる音。
ここに来てから、毎朝聞いていたあの歌が聞こえない。
誰もいないはずの家庭科室の扉の前に立ち、私は昨日のことを思い出した。
……ん? この翡翠色の線はなんだって?
彼の『今世での絶望の記憶』だよ
苦しくて、辛くて、悲しくて、痛々しくて、目を背けたい事実がこの『翡翠の傷』として刻まれてるんだ
希望は君達が持ってるだろ?
絶望は僕が『隠していた』
苦しくて、辛くて、思い出したくもない記憶を一年かけて、ゆぅ……っくり、タイトが気づかないように記憶から感情を削り取って『封印』したんだよ
とある事件で漏れ出ちゃったけどさ
まっ、結果的には強くなれたんだし、コントロールもできたんだし問題なよねっ!
強くなったのなら、こんなことになってないって?
『デジソウルによって魂は物質化する』って聞いてたはずだよね?
ふーん、詳しく聞いてなかったんだ……まあ、いっか
物質化したからには、『魂が現実に存在してしまうんだ』
だから、許容を超えた負荷がかかると壊れてしまうんだよねぇ
幸か不幸かは別にしてさ
しょうがないよね、タイトが望んだんだから
でも、タイトには生きていてもらわなきゃいけない
この『翡翠の傷』がタイトを本来の『魂』の形へと導いてくれる……君達がやることは応急手当てぐらいに考えていてほしい
ルビーちゃんに渡したのは『幼少期』の記憶
みなみちゃんに渡したのは『中学生』の記憶
ユイに渡したのは『デジタルワールド』での記憶
君達は少なからずタイトと過ごし、絆を紡いできた
君達の想いが、タイトとの日常の記憶が、タイト自身がタイト自身を確固たる存在として認識できる基準となるはずだ
難しく考えることはない
ただ君達が寄り添い、想い、共に歩き続けるだけで、タイトは次第に戻って来てくれる
……それじゃあ、僕は眠らせてもらうね
スリープモードじゃないと魂の修復に集中できないしね
タイトの魂の修復に時間をかけないといけないし……それじゃあ、おやすみ!
「……なんて言ってたけど」
手元にある『タイトの良い記憶』を見ながら、昨日のイグドラシルの話を思い返し、嫌な気分になっていた。
「結局のところ、タイトはすぐに目覚めないってことじゃん」
ユイの言ってた神様……それが、あんな奴だとは思っても見なかった。話してることは理解できるし、納得もできる。でも、『嫌な奴』ってことだけは変わんない。
「…………」
時間は朝の6時。
いつもならタイトが朝食の準備ができている時間帯だ。だけど、タイトは今そんな状況じゃない。
「────ハァ」
私は大きくため息を吐いた。
「みんなもまだ寝てるし、非常食の乾パンでもつまんでよっかなあ」
そう言いながら扉を開けた……
「
────バタンッ!!!
私は急いで扉を閉めた。
(……なにか見えた?)
顔を洗ってきたばかりで、眠気がまだ取りきれてない頭が変なものを見せたのだろうか?
料理を作りながら、熱唱している少年の姿が見えた。
(……見間違い、だよね?)
見間違いや聞き間違いが起きたのだと……そう思いながら、3分程頭を悩ませる。
(うん、見間違いだよ。私の直感がそう言ってる)
私の『嫌な方向』に向かいつつある直感を信じず、もう一度扉を開けた……その時だった。
「
「────っ!!!」
瞬間、私は走り出した.
「通じ合ってるか────
「なにやってるんじゃぁああああああっっ!!!」
「────ふべらっ!?」
私はイグドラシルの後頭部に向かって、履いていたスリッパを叩きつけたのだった。
「……いたい」
「タイトの魂を治すって言って寝たくせに、タイトの体を使って好き勝手やってるから、悪いんでしょ」
「……さすがに、タイトの肉体の栄養補給ぐらいはさせてくれないかな」
「……ふんっ!」
「……ハァ」
「ところで……っ、このパスタ、タイトのクロスローダー? から出したんだよね。私達が頻繁に食べてもいい物なの?」
「…………?」
「タイトは『現実の食べ物が食えなくなるから、あんまり食べないほうがいい』って言ってたけど、そこんとこどうなのって聞いてるのっ!!!」
「…………ああっ!」
「そこらへんば大丈夫だよ。『タイトだけ、そうなるように肉体を造った』ってだけだし、君達に毒性や影響があるわけじゃない」
「────はっ?」
『そうなるように』?
『造った』?
まるで、物のように言う彼の姿に本当にムカついた。
「
────いらっ!
「でも、旅立ってすぐにそんな状況になるって────
────バシンッ!!!
「────ぼふっ!?」
今度は横っ面を思いっきり叩いてやった。
…………とまあ、僕とルビーちゃんとのやりとりはそんな感じに終わって、一時間も経つ頃にはみんな集まって食事を始めたんだけど、
「だ〜〜〜か〜〜〜ら〜〜〜っ! ここは四聖獣を探すべきだって!!!」
「い──やっ! 籠城するんやっ!!!」
ことの発端は、食事中に出た話題の一つ『今後の方針について』の話し合いだった。
『ウチはタイトくんが言うてたように籠城すべきやと思う』
みなみちゃんは一番最初にそう言った。
どんな意図でそう言ったのかは聞いていない。ただルビーちゃんは『それは違うな』って思ったのだ。
『私は『四聖獣』を探したほうがいいと思うな』
そして、その言葉に否定するようにルビーちゃんはそう言ったんだっけ?
『……それは、タイトくんの意思に反することやろ。安定して戦うんやったら、タイトくんの回復を待ったほうがええと思う』
『でも、イグドラシルが言ってることが正しいかどうかはわかんないじゃん。回復するかわかんないタイトやホントに来るかどうかもわからないテトを待つより、私達が私達でできることを、すべきことをしたほうがいいと私は思うな』
みなみちゃんの意見も一理あったし、ルビーちゃんの意見も正しかった。だから、ルビーちゃんはタイトの手紙にあったように、『四聖獣』ってやつを探すべきだって思った。
ただ、それがいけなかった。
「ウチは、成功率の高い方法を選んだだけやっ……ルビーはなにかっ、タイトくんの言うことが間違っとるとでも言うつもりなんか!!!」
「そんなことは言ってないって!!! ただ、私達でもできることはなにかあるんじゃないかなって、言っただけ……四聖獣の居場所もわかってる。どういう相手なのかはユイに聞けばいい……それなら、対策が取れるし、『主』と戦うべきって思ったから言ったんだよ!!!」
「四聖獣が協力してくれるかはわからへん! だったら、タイトくんの回復を待ちながら、修行でもして究極体を目指すべきや! そしたら、『主』相手に戦うこともできるんや。
それにテトが来てくれれば、勝てるんやろ? だったら動くべきやないってウチは確実な方を選んだ方がええ!!!」
「ユイはこの世界に来てから究極体になったんだよっ!!! 修行したら究極体になれるわけじゃないじゃん! もう少し冷静に考えてよ!!!」
「イグドラシルがおる! デジタルワールドの神様なんやろ? だったら、最短で究極体になれる方法を聞けばええんや!!! 『主』の手下を見たやろ? あんな硬い相手が無限に復活してきたら、今のままじゃ勝てへんやろ? 本当に冷静になるのはどっちかわからへんのか?」
(うん、こんな言い争いをずっと続けてるね)
たしかに、僕の言ったこと、クダモンの言葉だって信用におけないし、タイトの回復を待つのも『悪手』だ。ルビーちゃんはいい『勘』してるね。
みなみちゃんも冷静に自分の意見を言えてるけど……少しだけ、楽観しすぎてるかな?
ルビーちゃんのほうは、もう少し自身の振り返ったほうがいいかな? どれだけタイトが頑張ってたか知らないからね。
「────うぐっ!」
ルビーちゃんのさっきの発言で胸を押さえているどっかの『赤いペンギン』がいる。痛いところをつかれたのかな?
「大丈夫?」
ミユキちゃんが優しく
「ううっ、水無瀬殿の心が暖かいのですぞ」
いつの間にやら、仲良くなってるし……いいなぁ、僕も優しくしてくれる誰かがいないかなぁ?
ちらっ、ちらっ……ううっ、誰も反応してくれないや。
「まあ、二人とも落ち着いて」
あっ、教授が仲裁に入った。
感情的になった女子連中に割り込むなんてやっちゃいけないよ。
「落ち着いてる/落ち着いとるっ!!!」
「────っ!?」
あちゃー、やっぱりそうなったか。
教授、びっくりして固まっちゃったよ……あれ、失策じゃない?
「教授はどう思うとるん? ウチの意見が正しいか、ルビーの意見が正しいか?」
「私のほうが正しいよね、教授?」
案の定、標的が双方から教授にうつった。
女子が言い争ってる時に突入するから、問題が大きくなるんだよ……懐かしいな。マグナモンとデュナスモンもこうやって言い争ってたっけ。その時は……
「……私はもう少しこの世界を調べたほうが────」
…………あっ!?
「ギルモンに聞くべきやったか」
「ブイモンなら正しい意見がわかるよね?」
教授が3択目を用意しようとしたから、二人の標的が自身のパートナーへとうつってしまった。
(2択から選んでほしいのに、3択目を準備しちゃいけないでしょ)
固まる教授を横目に、質問された二人の方を見れば…………
「えっ、えっ!?」
「…………っ!?」
2人とも困惑してるし、これはだめかな?
「ギルモンどう思う? /ブイモンわかってるよね?」
質問をしている二人はさらに質問された側に圧をかけた。
(ああ、これはもうだめだ)
質問側は自身を肯定してくれる相手に答えを求めてるし、質問された側も質問者に対してそれほど長い間連れ添ってるわけじゃないから自身の意見が言えない。
「────
────どんっ! と、私達の間に置かれる『鍋』。
「「────っ!?」」
私達に向けられたその言葉と共に、熱々の美味しそうな湯気が私達の鼻腔をくすぐっていく。
「────、邪魔しないでよっ!!!」
「そうや、邪魔せんといてっ!!!」
でも、私もみなみもそれじゃあ怒りは収まらなかった。
「自分達のデジモンを見なよ。どんな顔してるかよく考えてみたら……はい、ブイモン」
イグドラシルはそう言って、お椀にスープをよそっていく。
「あっ、ありがとう」
ブイモンは戸惑ったようにお椀を受け取ってる。ただその表情は…………
(なんか、ホッとしてる?)
なぜか安心してるように見えて、私は少しだけ……ほんの少しだけ、なんでそんな表情になったのか考えた。
「さっきも言ったようによく見たほうがいいよ」
テトもシンもこうやって争って、タイトを困らせてたからね。
イグドラシルのその一言が、頭を冷静にさせた。
『ブイモンなら正しい意見がわかるよね?』
『ブイモンわかってるよね?』
さっきの自分の言葉を思い出して、私の失敗に気がついたのだ。
「…………」
「…………」
それは、みなみもおんなじようで、ギルモンを見る目がブイモンを見る私とおんなじ目をしていた。
「先程の話だけど」
「
「────っ!?」
私は認められたことで嬉しくなった。
「────なんでやっ!!!」
逆にみなみは不動明王のような怒りを発する。
「……君達はもう少し旅路を思い出したほうがいいんじゃないかな?」
イグドラシルは私達にそんなことを言った。
「……旅路?」
「今まであったこと……なにかあるんか?」
今まであったことを思い出す。
タイトにこの世界に連れてこられて、ブイモンと出会って、ドクグモンと戦ってのをきっかけに、たくさんのデジモンと戦って、強くなって……『主』をやっつけた。
「「うーん」」
でも、これがなんだって言うんだろう.イグドラシルの言葉の意味がわかんない。
そんなこんなで頭を悩ませるが……その様子だと、無理みたいだね……とみなみの様子を見たイグドラシルは呆れたように笑ってみせる。
「じゃあ、ハッキリ言おう『みなみちゃんの考えは叶えられない』」
イグドラシルはタイトの一番の意見を否定した。
「────っ、どうして!?」
(……えっ!?)
みなみの声が聞こえてくるけど、イグドラシルの目は変わらない。ただ、確信があるように私達を見続けている。
「証拠から話そうか」
手元にあるお椀のコンソメスープを一口飲んだ後、一息ついて話し始める。
「『主』と『メガシードラモン』はなんて言ってたかな?」
主とメガシードラモン?
イグドラシルの質問に違和感を感じる。どこかで聞かれたような質問……いったいどこだった────
『我らの住む世界は少しずつ狭くなってきておる。外側から少しずつ削られるように少しずつ、少しずつ、な』
『『妄想』? 勘違イモ甚ダシイ。封印ニヨリ『
そうだ、『主』の言葉だ……そして、
「……この世界は滅びに向かってる」
「────そう、正解だね」
たしか『主』はそう言って…………
「
「「「────っ!?」」」
イグドラシルの言葉が私の……いや、私達の根底を揺るがした。
私達が、世界の滅びを加速させた?
じゃあ、この世界はもうすぐ滅ぶってこと?
ママやアクアにもう会えないってこと?
ブイモン達が消えちゃうってこと?
私達の身は?
タイトはどうなるの!?
「それはどういうことですかっ!?」
水無瀬ちゃんの言葉が家庭科室内に響き渡る。
「……人に例えようか。
この世界が身体で、『主』が脳や神経……まあ、身体の主要機関のトップって考えよう。デジモンは存在してることに意味があるから、肉とか血とか骨とかの一種だと考えよう……それじゃあ、『主』の
笑顔で、それでいて真剣に聞くイグドラシル。
「…………、その質問に意味があるんか?」
みなみのドスが聞いた声で怒るみなみ。その姿にイグドラシルは大きくため息を吐いた。
「もういいよ、答えを言ってあげるよ」
呆れたように手をひらひらさせ、笑っている。だけど私にはそれが恐ろしく感じた。なにか、このあと恐ろしいことを言われるような、そんな前兆のような気がした。
「
イグドラシルが言った言葉は意外なものだった。
「白血球?」
「あの、体の中に悪い菌が発生したら殺す奴か?」
あれが、白血球?
あの紫色の化け物が?
私にはそうは見えなかった。
「君達は中学二年生だからわかんないと思ったからその例えにしただけだよ」
正確に言えば『キラーT細胞』や『NK細胞』みたいなものだけどね……まっそこららへんは元の世界に帰ってから調べたらいいんじゃないかなあと付け加え、笑って見せた。
「外部からの害悪のある侵入者を『殺す役割』って考えたら妥当だと思うけどね」
「……それってウチらのことか?」
外部からの……みなみのドスの聞いた声でハッとさせられる。
(たしかに、侵入者だけどさ)
でも、『主』も私達を養分にしてたような……そんな話を聞いた覚えが…………
「うん、そうだね……あっ、怒るのはなしだよ。話が進まないからね」
「まぁ、困ったことにさ。この
タイトの言っていたように、イグドラシルもそう言ってのける.
「…………」
「今回の戦いで『
(あっ、四聖獣の封印)
私達が水無瀬ちゃんの心を完全に取り戻したことで、封印が完全になったことを思い出した。
「…………、あっ、『主』の封印が強まったから、戦えない……ということで、あってますか」
教授が敬語でイグドラシルにそう聞いた。
(別に敬語なんて使わなくてもいいのに)
タイトをこんなんにした神だよ? と思いつつも、イグドラシルは笑って教授を見た。
「教授、さすがわかってるね」
それだけじゃないけどさ……とイグドラシルは付け加える。
「困ったことに、今回の戦いで『主』側のデジモンをほとんど倒しちゃっただろ? それで『主』達は君達と戦う手段がなくなっちゃったんだよねぇ」
『主』は手下を使えない。
デジモンの部下もみんな倒しちゃった。
…………それって、
「それなら、籠城してもええやないかっ! むしろ、タイトくんが安全に回復できるってわかったんや。籠城してしかるべきやろ!!!」
みなみの案のほうが正しい気がした。
「
「────っ!?」
だめ……なんで?
「……もしかして、最初の話にあった。『世界が滅ぶ』って」
水無瀬ちゃんのその言葉に、耳を疑った。でも、『主』が封印されてるだけで、生きているはずなのに……
「
イグドラシルは笑ってそう言った。
「栄養の入手源を断たれた世界は次第に滅びに向かってる。『主』が完全に封印された今、『主』のテリトリー外戦うことどころか、なにもすることができない。『主』は本当に四肢を捥がれた状態になってしまったんだ」
なにもできない、ならいいじゃ────
「
(……問題?)
「『主』は恨みを果たすためとはいえ、この世界の存続に貢献し続けていた。それが今では、それすらも手を出すことができない」
「
世界を体に例える。
肉体が動かない。
栄養も取れない。
体だったらどうなる。
人だったら……死ぬ。
人だったら死ぬ、じゃあ例えられた世界はどうなる。
世界は…………
「
横にいたみなみが答えを言ってしまった。
「せいかーいっ!!! さすが、ルビーちゃんよりも頭がいいことだけはあるんだね!!!」
正解……ってことは世界は滅びに────
(……って、今なんて言った?)
ルビーちゃんよりも頭がいい?
ルビーちゃんより頭がいい。
ルビーちゃんはバカ?
「……それ、今言う必要ある?」
「あるさっ! 僕が楽しい!!!」
(────こいつ!!!)
「────っ!?」
私は立ち上がってイグドラシルに向かって────体が動かない。なんで!?
「だめだ、ルビーっ、まだこいつから話を聞いてないよ!!!」
ブイモンの青い体が私を掴んで離さない。
離せ、離せっ、離せっ!!!
「────、────っ、……、…………わかった」
怒りのままに体を動かそうとしても、ブイモンが体を離してくれないので、『いったん』は諦める。
「────ふぅ」
ブイモンが頭から出た冷や汗をぬぐって、一息ついた。嫌味かこいつは!!!
「それじゃ、ルビーの作戦が正しいって言うんか?」
不貞腐れたようなみなみの声が聞こえ、やっと私の話が────
「
認められたのを……
「────は?」
「────えっ!?」
認められてない…………ってか、間違ってるの!?
「
そして、この言葉である。
────ブチィッ!!!
「────ハァッ! やってみなきゃわかんないじゃん!!!」
「────そうだぜ、俺達ならやれるっ!!!」
「
イグドラシルはタイトの……いや、何十倍も濃くしたような冷ややかな目でこちらを見てくる。
「「「────っ!?」」」
それが事実だとその目を見てわかってしまった。
「たしかに、ルビーちゃんの意見は正しいよ……力さえ持ってれば、だけどね」
『力さえ持ってれば』……という言葉に、少しだけ納得する。
「……修行でもすればいいの?」
みなみの言ってたように修行をすればいいんだ。完全体には簡単になれた。なら、究極体にだって────
「修行なんかで究極体になれるのなんて、極、極、極一部だよっ……どんなにデジモンが優秀な君達でも、『人間がこれじゃあ無理だよ』」
『人間が、これじゃあ……無理だよ』?
それって、どういう?
「おまえっ、ミナミのことをバカにしたっ!!!」
「バカにするさ」
「ルビーのどこが悪いんだ!!!」
ギルモンがうなり、ブイモンが激怒し、イグドラシルにさっきを向ける。
「
「「────!?」」
ただ、その一言が二人を硬直させた。
あっ、そこの2人と2体は別だけどね……と教授とミユキちゃん、ガブモンとレナモンを見ながら微笑んでそう言言った。
「共に過ごした時間も、卓越した才覚も、自身よりも格上の相手と戦った戦闘経験も、逆境に対するひらめきも、なにもかもが足りない」
それが、私達には足りない……でも、
「……、それでもっ!!!」
「ちなみに、タイトは初めて究極体に到達させたのに『半年』かけたよ」
「「「────っ!?」」」
イグドラシルの言葉が私達を黙らせた。
(タイトは、究極体に進化させるのに半年もかけた?)
その一言はなによりも重く、私達の胸に重くのしかかり
「
そして、次の言葉はなによりも私達の『想像』を超えていた。
「「……はっ?」」
私が主人公じゃない?
私が?
それだからブイモンを進化させられないの?
「主人公、補正?」
「俺の相棒がっ、ルビーが主役たれないって言いたいのか!!!」
ギルモンの疑問とブイモンの怒声が聞こえてくる。だけど、私達は動けずにいた。
「言うさ。なんなら、ルビーちゃんは別の方に才能がある」
私に、別の才能?
……それは
「ルビーちゃんには、『ヒロイン』としての資格があると見たね。誰よりも輝き、誰よりも魅了する才能さ」
…………ヒロイン。
(────ヒロインっ!?)
イグドラシルの言葉に驚き、飛び上がる。
(ヒロインって、私が? 相手は先生……は振られたし、じゃあタイト!? それなら納得だけど……うんそれはそれで────
「なんだったら、『暗黒進化』の才能だってみなみちゃんより上だ」
(私は『暗黒進化の才能も……えっ!?)
「…………えっ!?」
暗黒進化ってみなみに才能があるってタイトが言ってたやつだよね。なんで私のほうが才能が上なの?
「みなみちゃんを見てみろ。平凡、凡庸、凡才、モブ……デジモンとの相性がたまたまよかっただけで、『煌めき』なんてなにもない」
「…………」
イグドラシルの罵声が家庭科室内に響き渡った。
(みなみは、才能がない?)
唯一究極体に進化させられたのに?
それが、才能がない?
才能が私にあって、みなみにない。
それを否定すべきなのはわかってた。
だけど、私が言って────
「────ミナミはそんなことないっ!!!」
ギルモンがイグドラシルに向かって、必殺技を出す勢いで唸り上げた。
「そんなことあるから言ってる」
ただ、イグドラシルは冷静にそう言って……『証拠』を口にした
「
(…………は?)
その無神経な一言で場が凍りついた。
「────っ!?」
みなみが大きく揺れる。
「────え?」
嘘だよね?
ギルモンは場の空気に当てられ、怒りの行き場を失っている。
「みなみさん、嘘ですよね?」
「……流石に、それは」
可哀想なものを見る目でみなみを見る水無瀬姉弟。
(────やめてあげて!!!)
私も、私も気持ちはわかるから……っ、やめてあげてほしい。
「だって、ルビーとタイトくんの血が繋がっとるなんて知らなかったし、お互いなんか意識しあっとったし」
「だから、『負けヒロイン』にも劣るって言ってんだよ、このバカ」
「────っ!?」
イグドラシルの罵声に、みなみの目から大きな涙の粒が零れ落ちた。私は急いでみなみの肩を抱いて、体を支えてあげる。
「────っ、傷心の女の子にそんなこと言うっ!?」
「言うさ、本当に愛してるなら……本当に隣の相手に勝ちたいなら全力を尽くすべきだ」
だからって、こんなに追い詰めなくても……今、なんてった?
「……隣の、相手?」
みなみの口から、その答えが零れ落ちた。
「お前のライバルだろ?」
ライバル?
ライバル。
なんの?
────恋のライバル?
(────っ!?)
こいつ、こいつ言いやがった!!!
「────えっ!?」
「実の弟にっ!?」
「…………」
「ルビー、タイトが好きなのかっ!?」
「本当にそうなんですかっ!?」
「一応、法律には許されてるとはいえ、結婚できないが……どう、なんだろうか?」
みんなに好奇の目線を向けられ、その後に質問攻めに合う。
「…………、ああっもう私のことはいいでしょっ! みなみのことよ、みなみのっ!!!」
私は急いで話を戻した。
「そうだね、その通りだ」
イグドラシルがそう言ったことで、イグドラシルのほうに視線が向いた。
(……ふう、助かった)
「みなみちゃん……なにも僕は君を否定してるわけじゃない」
優しげにイグドラシルは……はぁ?
あんたなにを────
「『
その言葉に思考が止まった。
『勇気』
それは、タイトに言われた言葉だ。
私が踏み出すきっかけの言葉だ。
それが、みなみにない。
嘘……だって、みなみがドクグモンから私を助けてくれなきゃ、私はすでにここには────
「これは、ルビーちゃんにも言えることだけどね。『勇気』は才能だよ」
私にも『勇気』がない?
「「…………」」
その言葉に私達は旅の中で奮い立たせて来たものはなんだったのかと、途方に暮れてしまう。
「君達には明確に『
「告白するのも、辞めるのもどちらも『勇気』だ。でも、それは妥協で決めていいことじゃない」
「言ってあげよう、君達の『勇気』は凡人以下だ」
一言一言が胸に刺さった。
私は『妥協』していたのか?
先生がだめなら、タイト『でいい』って?
いいや、そんなことはない。
あの恋はあそこで終わったんだ。そして、私達は踏み出して来た。今までも、そしてこれからも、
「私達に『勇気』がないなんてそんなことはない」
「でも、ウチらは今まで頑張って戦ってきました。それのなにが『勇気』がないって言うんですか?」
今まで私達は戦ってきた。
ガジモンを倒す為、ファングモンに抗う為、メガシードラモンと戦う為、『必要』にかられて『勇気』を出して踏み出して来たんだ。だから、私達には『勇気』がないなんて、そんなことは────
「
『勇気』が……ある。
「「────っ!?」」
その言葉はイグドラシルによって否定された。
「君達はそれが足りない。時間も才能も経験も……そしてなによりも、パートナーと育むべき『絆』が育ってないから」
私達に足りないものを指摘され続ける。
時間、出会ってから1週間も経ってない。
才能、否定された。
経験、半年も戦い続けたタイトに比べて圧倒的に少ない。
そして、なによりも…………
「「…………っ」」
隣にいるパートナーとの『絆』はタイトに比べて、少ないって思ってしまった。
「ギルモンは……」
「たしかに、まだ会ってから1週間もたってないし……でも、絆は時間じゃ……そうじゃない、か」
ブイモンもギルモンも否定できていない。
「……ううっ」
「…………そうやな」
それはもう事実でしかなかった。
「まっ、それでどうにかなる程、『究極体』は甘くないけどね」
追い打ちをかけるように、イグドラシルの言葉が聞こえてきた。
「…………」
「…………」
私もみなみも立ち上がる力が抜け落ちている。
これからどうすればいいのかわかんなかった。
どうしようも、ない……か。
「……ん? なぜ落ち込んでるんだい?」
イグドラシルの楽観的な声が聞こえてくる。
(落ち込ませた元凶が……いや、違うか)
「タイトが起きるのを待つ時間もない、究極体になれない……私達にできることがないじゃん」
怒りに一瞬飲まれかけるが、それでも拳は奮い立たず力が抜け落ちる。
「……ルビー」
「ウチらじゃどうしようもあらへん……教授達は頑張れば究極体に進化できるんやろ? だったら、ウチらいらへんやん」
そうだ、みなみの言う通りだ。
教授達は『特別』だから、すぐにでも究極体に進化できるんだ。
「……ミナミ」
私達は落ち込み、疲れ果てる。
もう放っておいてほしかった。
立ち上がる『勇気』……は奮い立たせられないのだから。
「なんのために『
そのとき、イグドラシルの手元が光った。
「────
────
「────えっ!?」
────
「────なんやっ!?」
「
『白の光』が私とブイモンの前に現れる。
「
『紫の光』がみなみとギルモンを照らし出す。
「────うんっ、君達らしくていいんじゃないかな」
あれほど、胸糞が悪かったイグドラシルの声が、『希望』の光に変わっていく。
「それが君達を『究極体』に導いてくれる」
これが、究極体に?
手のひらサイズの光に手を伸ばす。
「……『忠義の、決意』?」
「『揺るがぬ、闘志』?」
私達の『デジヴァイス』に吸い込まれるように、二つの光は消えてなくなった。
「だから、君達はそれに見合うように戦い、そして逆境を乗り越えるんだ」
超えうる手段が手に入った。
見合うべき友が隣にいる。
あとは、戦うだけだ。
「タイトと同じように」
かつてのタイトとおんなじように。
「ルビーと」
「みなみの!」
「「デジモン紹介コーナー』!!!」」
「なんかひさびさの紹介コーナーやな」
「まるで、2ヶ月以上出番がなかったみたいだね」
「メタ発言はそこまでにしてくれないかな?」
「おっと、タイトくんがおらへんから、代理を頼んどったんやった」
「そうだねっ! 今回からの解説はこの人!!!」
「どうも、本編ではヘイト役をかってでている『イグドラシル』です」
「イグドラシルさんです!!!」
「解説役がいないから、頑張らせてもらうよ」
「それじゃあ、さっそく今回のデジモンはこれっ!!!」
「「「『プロットモン』!!!」」」
「……って、えっ!? 私達会ってないんですけど!?」
「本編ではなく、タイトの……これ以上はだめだね。ネタバレになる」
「まあ、どっかで登場しとるかもしれへんし、話させて貰おうやないか」
「ええっと、プロットモンはどんなデジモンなんですか?」
「図鑑は読んでますね?」
「えっ、あっ、うん……そうやな、かわいらしいデジモンさんやなぁ」
「ホーリーリングってのをつけてると、強いデジモンになるとなんか増える謎のリングをつけてるってタイトが言ってたよ!!!」
「……まあ、確かに合ってるね。あってるけど、これでいいのか?」
「このデジモンはどないなデジモンなんや?」
「簡単に言えば『天使の子供』ですね」
「天使の?」
「子供?」
「そう、この子と他の2体が天使になる資質が最も高いデジモンとも言える」
「へえ、こんな犬みたいなデジモンが天使になるんかぁ」
「究極体にまで到達すれば、『メギドラモン』にさえ劣らない存在となって、悪いデジモン達をやっつける存在になるんだ」
「ーーーーメギドラモンにっ!?」
「そりゃ、すごい!!!」
「だから、この子はすごいデジモンなんだよね」
「…………」
「…………」
「ちなみに、デジモンアドベンチャーの(:)がついてるほうで、この子の究極体がものすっごく活躍するから、見たほうがいいよ」
「今すぐ帰って見なきゃあかんな!」
「うん、すぐに帰るよ!」
二人の走る音が遠くなる。
「パーソナリティの二人がいなくなったので、今回のコーナーは終了させてもらうね」
「ばいばーい!」