産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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事実(ゆめ)を見る。

悲惨(ゆめ)を見る。

過去(ゆめ)を見る。


悪夢(げんじつ)が始まる。



ーーーータラタッタタ

ーーーータタラッタラ

ーーーータッタッタ、ララララ、タララララ


サンタが鳴らすベルとトナカイの引きずるソリの音、軽快なBGMが鳴り響く『冬』の街。


「……寒い」


雪の中、街の路地裏で一人の小さな男の子()とーーーーが座り込んでいた。

「……大丈夫?」

ーーーーが心配そうに……いや、本当に心配して聞く。

「大丈夫だよ」

男の子()の声はか細く、弱々しく、ーーーーの言葉にそう答える。

ただの強がりだ。
男の子(自分)だからわかる……いや、誰が見てもそうわかってしまうだろう。
雪の降る街、真冬の季節に雪に濡れた毛布にくるまりながら、震える手をなんども、なんども擦り合わせる男の子(自分)の姿を見れば、誰だって強がりだって理解してしまう。

「…………」

ーーーーが俯き、

「……そうだねっ、『ーーー』なら大丈夫だよねっ!!!」

笑顔(つくりわらい)男の子()の胸に飛び込んだ。少しでも体が温まるように、少しでも寒さに震える体が癒えるように身を寄せたのだ。


……そんななか、夜がやって来た。


「ねえ、お姉ちゃん、いい子にしてたからサンタさんが来るかな?」

「きっと来るよっ! あんたはいい子にしてたから、とびっきりいいプレゼントがもらえるわ!!!」


「エンジェモンっ! あのイルミネーションが綺麗だね!!!」

「はい、とても綺麗だと思います……行きにはありませんでしたから、きっと誰かが準備してくれたのでしょう」


「これ、うまい」

「おい、デビドラモンっ、それは今日の夜のパーティーで食う為のフライドチキンだ! 食べるんじゃない!!!」


「ピコデビモンっ、早く喫茶店に行こっ! この街の期間限定のケーキを制覇するんでしょっ!!!」

「そんなに急がなくても問題ないぜ。予約してあるんだから、もう少しゆっくり歩いて行こう、なぁ?」


小学生ぐらいの男の子が、中学生ぐらいの姉にサンタが来るかどうか話している。

中学生ぐらいの少女が、イルミネーションを指して、感動している。

パーティー用のフライドチキンをつまみ食いをしているデビドラモンを怒る、高校生ぐらいの少年。

ケーキを食べ尽くそうとする少女を、呆れながらついていくピコデビモン。

街中は『喧騒』に溢れ、幸せそうな空気が流れる…………ただ、


「……」

「……」

「……」

「……」


彼等は男の子()を一瞬だけ『一瞥』した後、『素知らぬ顔』で通り過ぎる。

サンタを望む小学生ぐらいの弟も、微笑む中学生ぐらいの姉も、

イルミネーションに見惚れる中学生ぐらいの少女も、そのパートナーのエンジェモンも、

怒る高校生ぐらいの男児も、フライドチキンを食べるデビドラモンも、

喫茶店へと走る少女も呆れるピコデビモンも、



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



(……)

心が揺れる。

自分とはわかっていても、寒さに震える小さな男の子(こども)を無視する◾️◾️◾️◾️(ニンゲン)を見て、冷静にはいられない。

(……)

()()()()()()()()()()()()()

握りしめた手に力が籠る。
許せないと思って、許したくないと思って、怒りに打ち震える腕を振り下ろそうとした。


「ーーーーッ!!!」


ただ、それを超える程の『怒り』を持つ者が、


()()()()()


ーーーーがいた。


「なにが、サンタだ」


ーーーーは呪う。
自身よりも小さな子供()を無視した悪魔のような『少年』と『少女』を。


「なにがきれいだ」


ーーーーは憎む。
自身よりも幼い子供()を鼻で笑った醜い『少女』と『天使』を。


「なにがパーティーだ」


ーーーーは睨む。
自身よりも脆い子供()に手を差し伸べない腐った『少年』と『竜』を。


「なにがクリスマスだ」


ーーーーは吐き捨てる。
自身よりも薄弱な子供()を見捨てた『少女』と『悪魔』を。



「ふざけるなっ!!!」


(……これは)

ーーーーの言葉の一言、一言に(おも)いが乗る。

『ーーー』が愛した世界は暖かかった。

『ーーー』の見せた世界は美しかった。

『ーーー』がくれた世界は満たされていた。


だから、『ーーー』は世界を救おうと決意したのだ。



()()()()()()()()()()


『ーーー』(弱い者)を見捨て、

『ーーー』(劣った者)を嘲り、

『ーーー』(小さな者)を排他する。


こんなにも、『世界』は醜いのかと、ーーーーは叫んだ。


ーーーーは世界(ヒトとデジモン)を憎んだ。

ーーーーは世界(ヒトとデジモン)を呪った。

ーーーーは世界(ヒトとデジモン)を見捨てた。


ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは、ーーーーは……


「……は、……で、弱い」


……ーーーーは、『ーーーー(自分)』の無力さを呪った。


涙が子供()の手のひらに落ちる。


「……ごめん」


『ーーー』は身勝手な自分を呪った。

『ーーー』が願ったから、こんなことにーーーーを付き合わせているのだと理解していたからだ。

世界を救いたいなんて願わなければよかった。

他人を助けたいなんて考えなきゃよかった。

家族を守りたいだなんて思わなきゃよかった。

そのせいでーーーーがこんな苦しくて、悲しくて、痛い思いを、しないといけなくなった。

ーーーーと自分のことだけを大切にすればよかった。

本当に願わなければよかったのだ。

……本当に。


第四話 足らないものが多すぎる……だからこそ、神である『僕』が問うべきこと

 

 夢を見た。

 

 御伽話に出てくるような白の巨城。

 

 物語に出てくるどんな城よりも大きく、どんな城よりも綺麗で、どんな城よりも『価値がある』と思えてしまう程、荘厳で、雅で、煌めいているそんな城。

 

 そこに一人の少年がおった。

 

 

「おーい、料理ができたぞっ!!!」

 

 

 窓の外、中庭に向けて、大声で『三人のデジモン』に向かって笑顔で叫ぶ。

 

「────わかったっ!!!」

 

「────今、行くっすっ!!!」 

 

 競い合うように、元気よく走り出す黒とピンクの二人のデジモン。

 

「……待って、くだされぇ〜〜」

 

 ノロノロという音が聞こえてくる程、二人を追いかける見たことのある赤色のデジモン。

 

「ゆっくりで、いいからなぁ〜〜!!!」

 

 その姿を見て、笑っとる『少年』。

 

「わぁっ!?」

 

「えぇっ!?」

 

「おぉ〜〜っ!!!」

 

 三人の目の前には、大きなテーブルがあった。

 

 テーブルの上には多くの料理が並べられていた。

 それぞれの座る椅子の目の前には、揚げられたポテトの山に、ドロドロに溶けたチーズフォンデュの鍋、ニンジンやほうれん草、カボチャなど様々な野菜で彩られたトマトベースのスープに、赤や黄、緑など様々な色味で溢れるサラダが入ったボウル。

 それらの料理の中心にはローストされた鶏肉や豚肉が鎮座しており、三人は目を輝かせながら、椅子に座り、食べ物に手を取ろうとする。

 

 

「────待った!!!」

 

「「「────っ!?」」」

 

 

 少年が三人を止め、自身の腕時計を叩く。

 

 

「メリーィ……クリスマスッ!!!」

 

 

 一人の少女と二人の少年、武士に天使に、機械の竜、その他大勢のデジモンが大きな会場で、三人を迎えた。

 

「……クリスマス?」

 

 赤色が首を傾げる。

 

「リアルワールドのくだらない行事だよ」

 

 黒色が怒りながら吐き捨てる。

 

「いもしない神を崇める祭りっすよ。タイトっち、なんで今年はやるんすか? 去年はやらなかったじゃないっすか?」

 

 ピンク色は不満顔で料理を見つめる。

 

「それは、あなた達と楽しい思い出を作る為ですよ。タイトが一生懸命考えた行事です。テトも、いくら嫌な過去があったからと言って、そんなことを言ったらタイトが悲しみますよ」

 

 白の少女が笑って説明していた。

 

「…………はーい」

 

「「……?」」

 

 少年は二人の少年と話しながら、笑ってジュースを飲んでいる。

 

「それでは、こちらも食べましょうか?」

 

 黒色が肉にかぶりつき、ピンク色がチーズを掬い、赤色が芋を頬張る。

 

(…………)

 

『ウチ』は思った。

 

 ここにおるみんな笑顔で楽しんどる。

 食べ物を食べたり、飲み物を飲んだり、酒をあおったり、ふざけあったり、ここにおるタイトくんは『心から』笑っとる。

 

 ウチの知るタイトくんは『笑顔』をつくることはあっても、『笑う』ことは少なかった。

 

 ルビーと一緒におっても、

 

 妹尾くんや平田くんと一緒におっても、

 

 ボランティアをしとっても、

 

 人助けをしとっても、

 

 ウチと一緒におっても、笑うことはなかった。

 

 

「────ケーキ入場!!!」

 

 

 大きなケーキがやってくる。

 

 巨城を模したケーキがやってくる。

 

 タイトくんが押してやってくる。

 

 みんながケーキに見惚れとる。

 

 タイトくんが笑ってケーキにナイフを入れる。

 

 タイトくんがみんなに『笑顔』でケーキを切り分ける。

 

 みんな、笑顔で……ケーキを食べとる。

 

 

(……ああ、そうやな)

 

 

(タイトくんの居場所はここで)

 

 

(タイトくんが『笑顔』になれる場所はここで)

 

 

(ウチのそばではないんやな)

 

 

 そこで、ウチの『夢』は()めたのだ。

 

 

 

 

「────行け、グラウモンっ!!!」

 

「────行って、ブイドラモン!!!」

 

 2体のデジモンが校庭を駆ける。それぞれに接近し、互いに互いを睨みつけながら、戦闘を開始した。

 

 

「────ギャアオッ!!!」

 

「────グルァアッ!!!」

 

 

 両者の声が重なった。

 

 ────ガギィン!!! 

 

 紅の尻尾と青の腕が交差し、ぶつかり合う。

 

(接近した)

 

 射程範囲にブイドラモンがいることを確認。

 

「うらぁっ!」

 

 ────バシンッ!!! 

 

 ブイドラモンの拳によって、グラウモンの尻尾が弾かれた。ずさささ・と音をたてながら下がり始めるブイドラモン。

 

「よく見るんやっ!!!」

 

 そして、グラウモンに事前に立てていた作戦の指示をする。

 

「『エキゾーストフレイム』」

 

 ウチの声と共にグラウモンの放った『エキゾーストフレイム』が、ブイドラモンに『近づく』。

 

「────避けてっ!!!」

 

「────ッ!?」

 

 ブイドラモンはルビーの声に反応する。ブイドラモンもルビーの掛け声に合わせて、『エキゾーストフレイム』を『当たらなかった』……が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────『今』やっ!!!」 

 

 ウチ達の『(さくせん)』の勝利や。

 

 

「『プラズマブレイド』ッ!!!」

 

 

 ────ズササササササッ!!! 

 

 

 グラウモンの『プラズマブレイド』は地面を削り、大きな音を立てながら、ブイドラモンの『顔』目掛けて砂を弾きながら接近していく。

 

「そんなの聞くわけないだろっ!!!」

 

 ブイドラモンが大きく後ろに飛んで避けた。

 

「────っ、うわっ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────ブイドラモンっ!?」

 

(……決まった!!!)

 

 ブイドラモンの悲鳴を聞き、作戦が決まったことに確信を得る。

 

「そのまま突撃やっ!!!」

 

 グラウモンとブイドラモンの戦闘の様子を確認する為、砂煙の外側を走りながら、追撃の指示を出す。

 

「ブイドラモン、逃げてっ!!!」

 

 ウチの指示に遅れて、ルビーが指示を出す。だけど、もう遅い。

 

「わかったっ、うらぁっ!!!」

 

 砂煙の先で、グラウモンの突進が見える。その先にいるのは、目を抑えたブイドラモン。

 

「わかっ────うぐあっ!?」

 

 ────ドオンっ!!! 

 

「────ブイドラモンっ!?」

 

 ルビーの指示に応えようと、目を擦りながら避けようとするが、その前にグラウモンの体当たりでブイドラモンは倒れてしまう。

 

「追撃やっ!!!」

 

「まだ、まだっ!!!」

 

 グラウモンはブイドラモンに馬乗りになり、顔を殴り始める。

 

「げほっ、がはっ……へぼっ!?」

 

「ブイドラモン、攻撃……必殺技を使って!!!」

 

 ルビーの指示が聞こえてくる。

 

(だけど、それは無理や)

 

 ブイドラモンの口は『光』を溜めようとするが、

 

「────げほっ!?」

 

 グラウモンの拳で止められてしまう。

 

(うまくいっとる)

 

 作戦通りの動きに納得と悦びを感じる。

 

「ブイドラモンっ!?」

 

 指示が通らない事に気がついて、ルビーはブイドラモンに向かって走り出す。

 

「だめ、っルビー、やめっ」

 

 ブイドラモンの悲鳴が聞こえる。

 

「────トドメや」

 

 勝利を確信して、グラウモンに指示を出した。

 

 ────キィイイインっ! 

 

 グラウモンの腕が『雷』で光り輝く。

 

「やめてっ!?」

 

 ルビーの声が聞こえてくる。

 

「やって」

 

 ルビーの言葉とは真逆の言葉を口にする。

 

 

「『プラズマブレイド』」

 

 

 グラウモンの腕がブイドラモンの首を切り落とさんと迫っているその時やった。

 

 

()()()()

 

 

 短く、そして鋭いその一言が、校庭に響き渡ったのやった。

 

 

 

「いやあ、よく頑張ったね。2人とも」

 

 僕は『寿みなみ(かのじょ)』を見ながら接近する。

 

「『試合』は終わった。グラウモン……ブイドラモンからどくんだ」

 

「グルルルル」

 

 倒れたブイドラモンから一切離れようとしないグラウモン。

 

(困ったね)

 

 きっと彼女以外の言葉を聞くつもりは毛頭ないのだろう。

 

「グラウモン」

 

 そんなことを思案していると、みなみちゃんがグラウモンに指示を出した。

 

「わかった」

 

 その指示を聞いて、『プラズマブレイド』を納め、静かにどくグラウモン。

 

「…………うっ」

 

 グラウモンがどいたことによりきがぬけたのか、ブイドラモンは倒れた姿勢のまま小さく……いや、ブイモンに退化してしまった。

 

「────ブイモンっ!?」

 

 ブイモンに抱きつくルビーちゃん。

 

「ごめん、ルビー……負けちゃった」

 

「ううん、がんばった……がんばったよ」

 

 支えながら優しく微笑んだ後、静かに気絶したブイモン。

 

「────ブイモン!?」

 

「大丈夫だよ、気絶してるだけだ」

 

 ブイモンを揺すろうとするルビーちゃんを止める。

 

「…………」

 

 ルビーちゃんは黙って頷いて、もう一度強くブイモンを抱きしめる。

 

(よかった)

 

 そう思いながら、少しだけ気を引き締める。これから『問題児』の相手をするからだ。

 

(…………)

 

 ブイモンを痛めつけた張本人達……みなみちゃんといつのまにか退化しているギルモンの方を向いて、立ち上がる。

 

「……ところで、みなみちゃんとギルモン」

 

 できるかぎり優しく、それでいて慎重に言葉を選ぶ。

 

「…………」

 

 彼らは黙ってこちらを見るだけだ。

 

 

「どこまでが『作戦』だったのかな?」

 

 

 戦いを見ていて思ったことを聞いてみる.

 

「────っ!?」

 

 ルビーちゃんは驚いたように僕のほうを見る。

 

「…………」

 

 ギルモンは僕に視線すら合わさず、みなみちゃんのほうをじっと見ている。

 

「最初からや」

 

 そして、みなみちゃんが答えた。

 

「────っ!?」

 

「……やはり、か」

 

 ルビーちゃんは驚き、僕は納得する。

 側から見ていればわかることだけど、最初の動きから最後の止めまでの流れが手に取るようにわかってしまった。

 

 ルビーちゃんとブイモンは出たとこ勝負で突っ込み、逆にみなみちゃんとギルモンは作戦を立てていたことで結果が見えたのだと思う。

 

「ブイドラモンはワクチン種で、グラウモンはウィルス種……戦うには相性の差があった。だから、相性(それ)を覆す為に、作戦を考えたんや」

 

 種族の相性については……そう言えば、タイトが説明していたね……それにしても、

 

「タイトの言葉をよく覚えていたね。相性が正しく反映された戦いなんてほとんど見てなかったっていうのに」

 

 彼女とギルモンが実際に戦ったデジモンは相性差を覆すデジモンが多かった。ドクグモンとの戦いも、ファングモンとの戦いも、もんざえモンとの戦いも……全部相性ではなく、戦闘中の判断で戦い、戦闘能力差で勝利した結果が反映されていた。

 

 ルビーちゃんの戦いもそうだ。ブイモンが倒したファングモンもメガシードラモンも進化と性能のゴリ押しで勝利をおさめていた。

 

 唯一彼女らが見ていたのは、途中で横槍が入ってしまったカラテンモン対ピエモン戦ぐらいだろう。それでも、みなみちゃんが全部見ている余裕はなかったに等しい。

 

「タイトくんが嘘言うわけないやろ?」

 

 純粋に、ただ純粋に『恋』した男の言葉を盲目に信じている。それが、本当に歪に見えた。

 

「ブイドラモンの必殺技は口から発射するビーム『ブイブレスアロー』。グラウモンがこれを喰らえばひとたまりもあらへん。やから、試合開始時にわざと近づいて殴り合いをするように指示をした」

 

 みなみちゃんが先程の戦闘についての説明を始める。

 

「次にブイドラモンがグラウモンから離れた時に、『エキゾーストフレイム』が避けられる前提で地面に当たるように指示を出した」

 

「それは、砂煙をあげてグラウモンの動きを誤魔化すためだね」

 

「……そうや。それによって、視界から得られる情報は大きい。やから、次の『作戦』を理解させへんように、砂煙をあげたんや」

 

『なにをわかりきったことを』……という視線を向けられる。僕としても理解はできているけど、ついていけない人がここにいるから、その人がわかるように質問し続ける。

 

「『プラズマブレイド』は隙をつくる為に、地面を削ったんだよね」

 

「目に入ったのは『運』やった。顔にさえあたれば、生き物なら動きを止めるとわかっとったから、顔にあたってびっくりしたところに、突撃して体を倒すのが目的やったんや」

 

 しれっと、みなみちゃんはそう言ってのける。

 

(知能差でここまで戦闘に差が出るとは、思ってなかったな)

 

 小さくそう呟きながら、さっきの試合を思い返す。

 終始優勢だったみなみちゃんに対して、指示が遅れていたルビーちゃん。明確に作戦を立てていたみなみちゃんに対して、その場の勢いでブイドラモンに任せていたルビーちゃん。

 

(たぶん、力任せでも運良く勝てていた側と、負けたり、暴走していろいろと経験を積んだ側の差なのかもしれない)

 

 そう思い、最後に俯いている彼女へと質問する。

 

「顔を攻撃したのは……ルビーちゃん、わかるかな?」

 

 ルビーちゃんは俯いて、ただブイモンを見続けている。

 

「……『ブイブレスアロー』を使わせない為、だよね」

 

 だけど、ぽつり、とそう小さな声でそう言った。

 

「…………」

 

 僕はなにも言わない。

 

「……あっとるで」

 

 みなみちゃんは、ルビーに対してそう『吐き捨てた』。

 

「ねえ、みなみ」

 

 ルビーちゃんはブイモンを抱きながら聞く。

 

「なんで、止めなかったの?」

 

 その腕は震えていて、ブイモンの体が揺れているように見えた。

 

「…………」

 

 ただ、みなみちゃんは答えない。その様子を見て、ルビーちゃんはブイモンを校庭に寝かせて立ち上がる。

 

「『なんで、止めてくれなかったの?』って聞いてるでしょっ!!!」

 

 ルビーちゃんは怒って、みなみちゃんの胸ぐらを掴み上げる。

 

「ブイモンは仲間だよっ!? 四聖獣だっている。『主』だって倒せてない。タイトだって助けられてない。なのに、なんでブイモンを倒そうとしたのっ、答えてよ、みなみ!!!」

 

 ルビーちゃんの言ってることは『正しい』。

 

(……だけど、それじゃ)

 

 みなみちゃんの目を見る。ルビーちゃんを見ていない目だ。ギルモンはただ、じっと二人の様子を見ているだけだ。

 

 

「答えてって、言ってるでしょ!!!」

 

 

 そう、再び怒鳴るルビーちゃん。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 みなみちゃんの理由が耳に入る。

 

「…………ほしい、もの?」

 

 耳に届いたのか、頭で理解しようとしてるのか、はたまた怒りで動けないのか、ゆっくり咀嚼するように彼女はそう言った。

 

 

「なにを犠牲にしてでも、なにを対価にしてでも……ウチにはほしいものがあるんや!!!」

 

 

 テンションが下がっていくルビーちゃんとは逆に、みなみちゃんは内に秘めた欲望のままに力強く、そう叫ぶ。

 

「……そんなっ、……ううん、ほしいものってなに?」

 

 怒りではなく、憎しみではなく……ただの疑問だった。ルビーちゃんの腕はいつのまにか力が抜けて、みなみちゃんの首から手をどけていた。

 

「ルビーにはわからへん」

 

 だけど、みなみちゃんは首を振る。

 

「わからへん……って、教えてくれないとわかんないじゃん!!!」

 

「あんたにはわからへん。あんたにはわからへんよっ!!!」

 

「わかんないって……答えてよ、それじゃあわかるわけないよっ!!!」

 

「その為に力がいるんやっ、実績がいるんや、自信がほしいんや。それだけじゃ足りないんやっ……もっと、もっと力がっ!!!」

 

 

 ────パンって、音が鳴った。

 

 

「そこまで」

 

 

 僕が手を鳴らしたのだ。

 

「────っ!?」

 

「────っ!?」

 

 二人がこちらを見ていた。

 

「ルビーちゃんもみなみちゃんも落ち着いて」

 

 ただ、少しだけ思う。

 このままでいいのか、このままではだめではないのか……と、二人を見ていてそう感じてしまった。

 

「……わかった」

 

「…………」

 

 ルビーちゃんは頷くが、みなみちゃんの目は一向にルビーちゃんを睨んだままだ。

 

(……むしろ、それが普通だ)

 

 思春期の、それも恋した相手が執着している恋敵相手に躊躇う余地などありはしない。

 

 でも、それだけでは『手に入らない』のも僕は知っている。

 

 

「みなみちゃんも、そのままだと『ほしいもの』は手に入らないよ」

 

 

 だから、少しだけサービスをしてあげよう。

 

「────っ!?」

 

 みなみちゃんが睨む。

 

「あんたに、なにがっ!!!」

 

 わかるわけない……そんな陳腐な言葉が聞こえてくる。

 

「みなみちゃんは性急に考えすぎてる。なにがあったかは……なんとなくわかるけど、少しは『今』の自分を省みたらどうかな?」

 

『今』の彼女じゃ、タイトは絶対に振り向いてくれないだろう。それぐらいは理解しろよ……と、エールを送ろう。

 

 

「────あ゛っ、────っ、…………っ!?」

 

 

 みなみちゃんの表情が次々変わる。

 

(怒り、理解、悔恨……かな?)

 

 その様子を見て、少しだけ胸が空く思いだ。せっかく渡した『特別』なアイテムを無駄にはされたくはないからね。しょうがないさ。

 

「────みなみ?」

 

 あんなことまでされたのに、ルビーちゃんはみなみちゃんを心配してるみたいだ。ちょっとだけ呆れるかな? 

 

(……っと、本題がまだだったね)

 

 先程の試合を見て思ったことを口にする。

 

「2人とも聞いてくれないかな?」

 

 ただ、そう感じたことを口にするのだ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 この二人になんどもなんども繰り返そう。このまま戦うには必要なことだからね。

 

「「「────っ!?」」」

 

 ルビーちゃん、みなみちゃん、ギルモンが驚いてこっちを見る。

 

「なんでっ、そんなことがわかるんやっ!!!」

 

 みなみちゃんが怒鳴る。

 

(うーん、君がそれを理解してないのか)

 

 この子を見放したくなるが……、『それ』が一番危険だ。

 

「そんなこと、わざわざ言わないといけないかな?」

 

 丁寧に、悟られないように、理解されないように言葉を選ぶ。

 

(……唾をつけたほうがよかった……ううん、『理解しない』ほうが大切だ)

 

 内心を悟られないように、真剣な顔でそう聞いた。

 

「…………」

 

 黙ってしまった。

 

(……さすがに理解はできてるのかな?)

 

 戦い方から、態度から、ルビーちゃんに向ける感情から……なにもかもが歪なことに、本人は気づいているみたいだ。

 

(思春期だから、しょうがないけど)

 

 そう考えながらも、試合を見て思っていたことを、

 

 

「……話を戻すけど、『今』の二人……いや、ルビーちゃんとブイモン、みなみちゃんとギルモンはタイトがいた頃よりも、間違いなく『弱い』よ」

 

 

 彼女達の状態をそのまま告げる。

 

「────っ!?」

 

「…………」

 

 ルビーちゃんは驚き、みなみちゃんは俯いている。

 

(これぐらいのほうが、『僕』としてはいいんだけどさ)

 

 そうは思っていても、今は『タイト』のことがある。背に腹は変えられないのだ。

 

「たった一つ、心に留めておいてほしいことがある。これは、『とある』四人の子供に、『別の世界のイグドラシル』が聞いた質問だ」

 

 彼女達にとって、彼等にとって一番必要なのはこれだと思う。

 

 

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()?』」

 

 

 タイトを育てた彼女の言葉だ。これが、うまく言って────

 

「────そんなのっ!!!」

 

 そう言おうとしたみなみちゃんの言葉を制する。

 

 

「『今』の君の答えはいらない。そんな状況で答えてほしい言葉じゃない」

 

 

「────なっ!?」

 

「イグドラシル?」

 

 驚く二人……でも、わかるでしょう? 

 

 君達には足りないものが多すぎる。そう言ったはずだ。

 

「ルビーちゃん、みなみちゃん……そして、ギルモンにブイモン。全員に考えてほしいんだ。自分にとって、相手にとって、どういう存在なのか。これからどうしていくべきなのか。それを問い続けて欲しい」

 

 問い続けること、それはタイトが考えて、考えて、考え続けて……時間がなくても、辿り着こうとした答え。それはきっと自分自身の『進化』につながるのだ。

 

「みなみちゃん……それが、君の願いにもつながるよ」

 

「…………」

 

 みなみちゃんは……考えてるみたいだ。ちゃんと、答えを出してくれるといいんだろうけど……出さなくても問題ないか。

 

「それじゃあ、修行は終わりだ。明日からは四聖獣に会う為に、東西南北の封印まで出かけてもらう」

 

 僕から言いたいことは終わった。後は、彼女ら・彼ら次第だ。

 

「ちゃんと、胸に留めておくように」

 

 そう言って校舎に戻る。

 タイトの代わりに夕食を作らなければいけないからね。

 




「ルビーと」

「みなみの!」


「「デジモン紹介コーナー』!!!」」


「本番ではギスギスしてる二人。番外編で仲良くしてるのを見て違和感を感じている解説のイグドラシルです」

「……それ、前回と同じセリフじゃない?」

「天丼は受けへんよ?」

「……じゃあ、デジモン紹介に行こうか」

「ーーーーむっ、話を逸らされた!? まだ・話は終わってないですよ〜〜!!!」

「今回は『デビドラモン』だね」

「だめや、話聞いとらん」

「というかぁ、前々回も思ってたんですけどぉ、本編の私達が知らない回想に出てきたデジモンを紹介するのはいかがなものかと思いますぅ」

「本編でデジモンが出ないからしょうがない。それじゃあ、解説いこうか」

「ーーーーむすぅ」

「むすっとしてても、この神無視するから意味あらへんよ」

「だってぇ」

「デビドラモンは見た通り、悪役がよく使うデジモンだね。アニメでも悪役が乗って登場する……っていうのは定番中の定番だ」

「……本当に無視した」

「まあまあ、それで、デビドラモンはどんなデジモンなん?」

「登場する割には不遇なデジモンかな?」

「……不遇?」

「デビドラモン専用の進化先や進化前がいないからさ」

「進化前っていうと、グラウモンに対してのギルモンみたいな?」

「ブイドラモンに対してのエアロブイドラモンみたいな感じかな?」

「そんな感じだね」

「でも、それはウチらのパートナーが主人公御用達のデジモンだから用意されとるってことじゃないんか?」

「……それもあるけど、アルケニモンに対してのドクグモン、コドクグモンみたいに、悪役にも基本用意されてるもんさ」

「ところが、このデジモンにはない……と」

「そうだね。アニメには出てるけど、不遇なのはたしかだ」

「…………でも、アニメやゲームに出られるだけよくない?」

「アニメにもゲームにも漫画にも出られへんデジモンって、たしかおったよな?」

「…………」

「それは、本編で回収するということで…………本日の『デジモン紹介コーナー》はここまでっ……またねっ!!!」

「……余計なこと言うたかな?」

「別にいいんじゃない……それじゃあ、またねぇ」
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