『明日があるから』
少年少女達がラスボスに向かって言った言葉。
……でも、それって本当にそうなのかな?
こんな人達がいるのにね。
「なんだよっ、あの女っ!!!」
背の高い少年が拳でテーブルを思いっきり叩きつけた。
「ーーーーっ!?
周囲の視線を感じる。
喫茶店で大声を上げた少年を大人達が睨みつけているのが、見えた。
「……ーーくん、やめてください。見られてます」
坊主頭の少年が諌める。
「……」
だけど、その顔は怒りに打ち震えている。
「ーーーーっ、だってよぉっ! あそこは保育所じゃねえんだろっ!? なんであの女はっ、あんな言葉を言えんだよっ!!!」
「ーーーーそれは、同意ですがっ、それをこの場所で怒鳴り散らかしたところで、他の人達に迷惑ですっ!!!」
二人は喧嘩をし始める。
三人がこんな様子なのには理由があって……その原因は明白であった。
つい、数時間前に遡る。
三人の少年達は『こどもセンター』……という発達障害を患った子供とその親を対象にする施設のボランティアにやって来た。
少年達が頼まれたのは、こどもセンターにやってきた子供達と遊ぶこと。職員が親と話している間に、子供達の相手をするのが今回のボランティアの主目的であった。
もちろん子供達にもメリットがある。
体を動かしたり、小道具をつくったり、本を読んだり……なにかしら、少年達と一緒に遊ぶことで、ストレスの発散やコミュニケーション能力の向上、人との接触への不安を軽減させるのが目的であった。
少年達はいつもどおり、マジックをやったり、サッカーで遊んだり、かわるがわる相談に来る子供達の遊び相手になっていた。
子供達も笑顔で『また、遊ぼうね!』と男の子が帰っていく。
『マジック楽しかった』と喜んで手を振って帰っていく女の子。
『お姉ちゃん(男だが)また来てくれる?』と常連らしき小学生。
みんながみんな楽しそうにして帰っていく。
連れてきた親も相談ができて、ホッとした顔で帰っていく。
そんな時であった。
「はー、なんで休日にこんなところにこなきゃ行けないのよ」
煌びやかな服装にどこかしらのブランドのバッグを身につけた『頭のの悪そうな』金髪の母親。
「ねえ、ママ」
反転して、手を引っ張られる見窄らしい程、筋肉・脂肪がついていない『やつれきった』俯きがちな黒髪の子供。
「うっさいわね、早く着いてきなさいっ!!!」
「痛いっ!?」
母親は無理矢理手を引っ張り、職員のいるカウンターまでやってくる。
「ねぇ、この子預かってくれるんでしょ?」
厚顔無恥にもそう笑う母親。
「ええっ、預かってくれないの!?」
そう言って怒る母親。
子供はただ俯いている。
職員の説明のもと、子供は母親に連れられ、相談室へとやってくる。しかし、母親は座ってスマホを弄り始めた。
「あの、相談の内容なのですが……」
「…………」
職員はその母親の様子から相談する内容などはなく、ただ子供を預けたかっただけなのだと、理解する。
「ねえ、ママ」
職員が話しかけているのに子供は気がつき、袖を引っ張る。
「…………」
だが、母親はスマホから目を離さない。
「……ママ、ママ」
子供は袖を引っ張り続ける。
「……しい」
母親に反応があった。
「ーーーーはっ!」
笑顔に変わる子供。
だが、現場の大人と少年達は『嫌な予感』を感じ取っていた。
「
「ーーーーぶっ!?」
母親に思いっきりぶたれる子供。
「……は?」
動きが止まる痩躯の少年。
「ーーーーなっ!?」
驚愕に染まる坊主頭の少年。
「ーーーーっ!?」
その場にいた職員は母親の常軌を逸した行動に動けずにいる。
「おい、あんたっ……いい加減にしろよっ!!!」
女顔の少年は倒れる子供を蹴り飛ばそうとした母親と子供の間に入っていた。
「なにすんのよっ!?」
少年に平手打ちをした母親。
「……ふざけんな」
母親の手首を掴んで、『少し』力む。
「いたっ!? ……ちょっと、職員っ!? 止めなさいよっ!!!」
母親は職員に助けを求める。
「止まんのはアンタだろうがっ!!!」
「子供に手を挙げるなんてっ……どうかしてますよっ!!!」
だけどその声は届かず、痩躯と坊主頭の少年達が母親を捕まえる。
「ーーーーっ、痴漢っ、痴漢よっーーーー警察呼んでっ!!!」
掴まれたことで発狂する母親。
「警察呼んでって言ってるでしょっ!!!」
「早く警察を呼びなさいよっ!!!」
「助けてっ!!!」
「誰かっ、助けてよっ!!!」
「痴漢っ、痴漢よっ!!!」
もちろん、母親と子供はこどもセンターから追い出された。
だが、少年達も追い出されてしまった。
ボランティア中のトラブル。
いくらおかしな相手だったとしても、少年達の対応は『そういう人』を相手にする『こどもセンター』としては不利益な行動を起こしてしまったのだ。
つまり、『お客様』を追い出さざる得ない行動をしてしまった少年達をこの場に置き続けることはできないという判断のもと、ボランティアを中止せざるえなかったのだ。
「ーーーーっ、っ!!!」
痩躯の少年は大きく舌打ちをして座り込む。そして、
「『ーーー』、お前はどうなんだよ」
そう問いかけた。
「……『ーーー』くん」
どちらも苛立ちと怒りと、……やるせなさを抱え、
「……」
「……」
口を閉じ、逡巡し、
「ーーーー
ようやく口にした言葉は『そんな』言葉であった。
「……は?」
「ーーーーなにを」
「この先、子供はさらに少なくなっていく」
「あんな
『若い人が子供を産まない』という内容のグラフが表示される。
「子供一人、まともに育てられないのかよ」
その声には失望が混じっている。
「明日……
悔しさが滲んでいる。
「なんのために、……なにをもって俺は」
そう
ねえ、本当にそう思ったのか?
あんなのを見て。
本当に?
今まで忘れていて。
本当に、『美しい』ことなのか?
(…う…がない)
夢を見る。
体が消え去っていく。
霧のように、蒸気のように、雲のように世界へと溶けていく……違和感は突然襲ってきた。
『もういい』*1
……これは?
『もう嫌だ』
タイトくんの声?
『帰りたい』
どこに?
『帰らせてくれ』
どこに帰りたいんや?
『頼むから』
誰に頼んで……
『
そう、その
(────は?)
見とる世界が移り変わった。
夜の青に染まる白の巨城。
「…………」
窓辺に座る少年……タイトくんが星を見ていた。
(……ここって?)
ホテルのような綺麗なベッドに、教科書やみっしりと書き込まれたルーズリーフが積まれた勉強机。本棚にはたくさんの本が並べられており、タンスの上には『金髪の少年と奇抜な髪型の少女』と一緒に写った写真が立てかけられとった。
(……タイトくんの部屋?)
そのことに気がついて、胸が高鳴るのを感じる。初めての男の子の部屋。しかも、大好きな片思いの相手となれば胸が高鳴るのは当然やった。
────ギィ
扉が開いた。
(……小さな、黒い、恐竜?)
小さな恐竜のデジモン……どこかで見た気がする。
「……来たよ」
どこだったか……と考えとる最中、デジモンはタイトくんに向けて、笑って扉を閉めた。
「……テトか」
ドアの閉まる音を聞いて、タイトくんはそう言いデジモンの方を……
(……テトなんかっ!?)
思っていた姿とのギャップに驚く。
『ギョロ目の付いた腕だけのデジモン』
それが、ウチの見たテトの姿だった。
その腕のデジモンが、小さな恐竜の姿をしとるもんだから、驚いて動けんくなってもうた。
「タイト、どうしたの?」
ただ、タイトくんは
「…………」
テトはタイトくんの傍らに近づき、そっと隣に寄り添った。
「……タイト、どうしたの?」
今度は顔を見てもう一度タイトくんに話を聞く。
「…………」
「…………」
テトは話さないタイトくんの手のひらを掴んで、じっとと目を見つめとる。
テトはタイトくんが自分から話してくれるのを、静かに待っとった。
「……、っ」
タイトくんは少しだけ戸惑い、
「……」
迷い、
「
ようやく口に出した言葉は、
「…………?」
(…………?)
テトもウチも理解できとらんかった。
「テトに会えて、シンと会えて、ユイに会えて」
無理な笑顔でそう言って、
「俺は幸せだよ」
幸せだと笑って、
「……そうだね。僕も幸せだ」
テトはタイトくんのその言葉を肯定する。
「…………」
ただ、
「…………」
ただ、タイトくんは、
「……『時間が貰えたんだ』」
ウチにはわからへん言葉を、ただそう言ってのけた。
「悩める時間が、迷う時間が、考える時間が……今までなかったことだ」
「…………」
「
「…………」
「
「…………」
「
「…………」
「
「…………」
「
「…………」
「
「
「…………」
タイトくんの声の裏に、本当の
(……、うん)
きっと、これ全部がタイトくんのホンマの気持ちなんやと思う。本当はこの世界に戻りたくなくて、あの世界で笑っていたくて……でも、ルビーちゃんやルビーちゃんのお母さんと会いたいから、逃げられへんのやと思う。
「タイト」
テトは、
「
「────っ!?」
真剣にそう言った。
そして、その言葉で明らかにタイトくんの顔つきが変わった。
「……テト」
「なに?」
(……もしも、もしもウチが、テトみたいに相談されたのやったら)
「
「
「わかった、タイトが決めたんだったら僕もついていくよ」
(……ウチは、テトみたいに────
『なんで、あんなことを言ってしまったんだろう』
(────っ!?)
突然世界に響き渡った声と共に、場所は日本のお城の中のような和室へと変わる。
(なんや、これはっ!?)
急に世界が切り替わったことに驚いた……そのとき、
『『目が覚めた』……なんて、本当は曇ってるだけだった』
次は管が繋がった老人達が眠る部屋、その次は子供達が遊ぶ大きな体育館。
『この世界ではきっと『幸せ』で溢れてると信じていた』
大きなベッドに横たわる少年とその傍で泣き叫ぶ少女、豪華絢爛なホテルの部屋で
『『平和』であると思っていた』
EDEN? の……ごちゃごちゃした公園みたいな場所。
『……それは、間違いだった』
そして、最後は……
『これは
散々と雨が降る音が響く曇天の空。
『
電気が消え、暗く……そして
『聞くに耐えない悲鳴と嫌な匂い薄汚れた床』
二人の少年は血を流して床に倒れている。悲鳴と恐怖で蹲る少女の下からは
『なにが間違ってたんだろう?』
呆然とこちらを見る服が破れ、胸元が見えているピンク色の髪の少女。
『
頭の中に映像が流れる。
少女に膝をつき、
『俺は俺の産まれた世界が救うに足る世界であるか、問い続けると……今ここに誓います!!!』
玉座に座る少女、テトやピンク色のデジモン、ユイ、高校生ぐらいの男の子二人、そのパートナーらしき二人のデジモン、刀の生えた馬に乗ったサムライ、大天使、ピンクの妖精……そして、多くのデジモンに囲まれながら歓声が上がる
そして、『ゴーグル』が黒く染まる世界にポツンと残った。
『ゴーグル、勇気の証だろ?』
その言葉を最後に『
「…………」
「…………」
会話はない。
ミユキちゃんとレナモン、ギルモンとウチは地図通り……因縁のある場所に辿り着いていた。
(…………)
ダムの下水路。
ギルモンがメギドラモンに進化した場所や。
「────グルルルルッ!!!」
下水道の入り口、ギルモンが突如牙を剥き、唸り声を上げる。
「…………」
「「────っ!?」」
レナモンとミユキちゃんは驚いとる。
「……ギルモン、どした?」
「前に来たときより、変な気配、強くなってる」
目を見開き下水道……いや、その下の地下をギルモンは警戒しとる。
(……ふぅん)
『主』が封印される前はこないな反応はせえへんかった。だけど、今は違う。こんなに警戒するんやったら……たぶん、
(さらに強い相手っちゅうことか)
この世界を包んどる『主』の気配が薄なったことで、ギルモンは強いデジモンの気配を感じ取れるようになったてことだと思った。
「……進むで」
「グルル」
ウチとギルモンは下水道の中へと入っていく。
「えっ、あっ……はいっ!!!」
「────待て、ミユキっ……ああ、もうっ!?」
その後ろを二人がついて来た。
下水路を歩く。
「…………」
レナモンは後ろで警戒してくれてて、
「────ル」
ギルモンは私達の前を先導してくれる。
……そして、
「…………」
「…………」
みなみさんは暗い顔で歩いている。ルビーさんも同じように暗い顔だった。
(昨日の、いぐどらしる……の言葉が原因なのでしょうか?)
『君たちにとってデジモンってなに?』
いぐどらしるが言った質問……その後から、顔は暗い感じでしたが……、
(そのような様子ではございませんでした)
たしかに暗い顔をしていた気がしますが、ここまで暗く……
「……ミユキちゃん、なんかようか?」
「────っ!?」
突然、声をかけられる。
「さっきから、ごっつウチの顔を見てソワソワしとるみたいやったから気になっとったんやけど……なんのようや?」
少し棘のある口調。いらだってるのは、当たっている様子だ。
「いえ、気になることがあったので……」
そう聞かれたのであれば、誤魔化す必要もない。みなみさんに直接…………っ!?
「
昨日、一昨日に見た表情とはまるで違う。
暗くて、辛そうな顔から、なにかしらについて悩んでいるようなそのような気配を感じ取った。
「はい……昨日、いぐどらしるが言ってた『君たちにとってデジモンってなに?』……という質問、みなみさんはどんなふうに思っているのかなって……」
その顔を見て、本当に聞くべきなのか……と、迷い本命である『みなみさんが暗い表情をしてる理由』について聞くのが憚られた。
「…………っ!?」
少しだけ、表情に動きが見えた。
(……これが、悩んでいる理由……なのかな?)
そんなふうに思っていると、
「……ミユキちゃんはどうなんや?」
私がどう思ってるかについて聞かれた。
「……私は」
私にとって、……ですか?
「私は『友達』です。
レナモンは私のことをずっと守ってくれましたし、どうしようもないときも、そばにいてくれました。だから最も信頼できる『友』だと思ってます」
それだけは間違いなく言える。
長い間、『主』から守り続けてくれたレナモンだからこそ、私は信用できるし、命だって預けられる。そんな大事な友達……って、レナモンっ!? 背後で大きくガッツポーズをとらないでっ、恥ずかしいでしょ!!!
「……そ、か」
みなみさんは少しだけ意外そうに……それでも、少し緊張が抜けたような感じで私の方を見る。
(……ここはっ!)
「みなみさんはどう思ってますか?」
気の緩んだご様子。
畳み掛けるなら今しかないっ、と思い、先程の質問を再び繰り返し、聞いてみる。
「…………」
だけど、みなみさんは……
「…………」
なんどもなんども悩んでるご様子で、
(……これは、聞かない方がよかったのでしょうか?)
そんなことを思ったその時でした。
「……ウチは」
みなみさんの口が開き、
「
そんな言葉が耳に入ってきた。
「────っ、どうしてですか!?」
私は納得ができなかった。
(なんでっ、なんでそう────
「
「────えっ!?」
みなみさんは理由を話し始める。
「ガジモンはウチらはなんにも知らへんのに『贄』だなんだで襲われてとても怖かった」
ゴツモン? ガジモン?
「ドクグモンはルビーちゃんを捕まえて殺すつもりやったし、ファングモンには正面から負けてもうた」
……それは、そうですけど!?
「アルケニモンは『罠』仕掛けられて、酷い目にあった。ピエモンもそう」
でも、でもっ、ギルモンはっ!!!
「…………」
そこから先はみなみさんは口を閉じている。
(────ならっ)
「……ギルモンは? ギルモンはどうなんですか!?」
みなみさんを守ってくれる相棒のデジモン。
今まで、なんども、なんどもみなみさんの危機を振り払い、進化し、共に戦ってきたデジモン。
(このデジモン、な……ら?)
「…………」
みなみさんは悲しそうな表情をしていた。
「────
「────っ!?」
そして、一言……ただ悲しそうにそう言ってしまった。
「どうしてっ、どうしてそう思────
「────グルルルルッ!!!」
ギルモンが巨大な唸り声をあげて、目の前の壁を睨みつける。
(……私、まだっ!?)
ギルモンの姿を見て驚いてしまった。
「……ここにいる」
ギルモンの口から血が出ている。
それほどまでの強敵なのだと、私は理解、して、しまった。
「……行こか」
「…………はい」
私達は階段を降り、下にある空間を目指していった。
ミナミの言葉が聞こえてきた。/ギルモンの肩が大きく揺れたのが見える。
『わからへん』なんて言ってほしくなかった。/デジモンはどうしても怖い生き物にしか見えへんかったはずなのに、こうも気持ちが揺さぶられるのはどうしてやろか?
ミナミの気持ちがわかんない/きっと『
ミナミはギルモンのことどう思ってるの?/デジモンが怖い……けど、人間はもっと怖い。
ギルモンはどうすればいいかわかんない。/信じられるのは自分とタイトくんだけ……のはずなのに。
「ーーーーグルルルルッ!!!」
ここから強い気配を感じる。/どうすればいいのかわからへんのや。
「ここにいる」
この先に敵がいる。/敵……このままで勝てるんやろうか?
そうして、進んだ先にいたのは。
蒼色の仮面と巨大な角。
水色の蛇のような長細く……そして、とてつもなく巨大な胴体。
全身を結んでいる鎖。
空を飛ぶ為に生えたいくつもの巨大な羽根。
「
チンロンモンは巨体を揺らし、飛びながらギルモン達/ウチ達を睨みつける。
「この封印を守る為、貴様らを倒させてもらう!!!」
チンロンモンとの戦いが始まった。
デジタルワールドを守護する四聖獣デジモンの1体であり、東方を守護し強烈な雷撃を放つ。他の四聖獣デジモンと同じく伝説の存在であり、その強さは神にも匹敵すると言われている。またチンロンモンはホーリードラモン、ゴッドドラモン、メギドラモンと共に四大竜デジモンの1体としても数えられており、もっとも神格化された存在である。しかし、神のような存在とはいえ、簡単に人間や弱者に協力をするようなものではなく、よほどの事が無い限り味方にすることはできないだろう。必殺技は天空より激しい雷を落とす、神の怒り『蒼雷(そうらい)』。