産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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「…………」/「…………」


紅き鳥……、いや、スーツェーモン*1が大きく羽を広げたとき、2体のデジモンがその羽根から飛び降りた。


黄色の仮面。/青の鎧。

金色の錫杖。/火を吹く翼。

怪しげな雰囲気を纏う女の姿をした狐。/地を踏むのは絡繰りの兵器へと変わる獣。


サクヤモンだ/メタルガルルモンだ。


「レナモン?」/「……ガブモン?」

「…………」/「…………」


私の声が聞こえてないのかな。いつもとなにか様子が違ーーーー?/私に反応しない。……様子がおかしい。


「「…………っ」」


「……あっ」/「……へ?」

サクヤモンが錫杖を振るうのが見えて……/メタルガルルモンの口に光が……


「ーーーーちぃっ!!!」/「教授、危ないっ!?」

……は?/メタルガルルモンっ!?


「『飯綱(いづな)』」/「『コキュートスブレス』」


私のいた場所に、三体の狐が降り注ぐ。/全てを凍らせる息吹が私の帽子を粉々に砕いてしまった。



「……危なかった」

サクヤモンとメタルガルルモンの攻撃が少女達の横を通り過ぎた。
ルビーががミユキを、みなみが教授を助けなければ二人とも死んでいた威力でありました。

「「ーーーーっ!?」」

二人はようやく状況を認識できたのか、驚愕し身を固めていた。

(……問題は)

私は問題のデジモンのほうへと視線を向ける。


「……ほう、避けたか」


大きく翼を広げた『スーツェーモン』。

(あいかわらず、攻撃的な性格ですわねっ!?)

スーツェーモンはサクヤモンとメタルガルルモンを引き連れていきなり私達を攻撃していた。

「サクヤモン、なんでっ!?」/「ーーーーくっ、メタルガルルモンっ!?」

教授とミユキの二人があの様子だ。私がサクヤモン達と安心して戦える場が今はない。

「はやく、逃げるでっ!!!」

そう言いながら、みなみは初代デジヴァイスを取り出して、ギルモンへと光を向ける。

[ギルモン ワープ進化……」

宵の光がギルモンを包み、

包み、……包んで……、それで……


「カオスデュークモン……、っ!?」


()()()()()()()()()()()()()()()


「迷ってる場合じゃ、ないよねっ!!!」

ルビーも同時に初代デジヴァイスをブイモンへと向ける。

[ブイモン ワープ進化ぁ……」

紅色の光は、……光は、ひかりは……?


「デュナスモン……って、あれっ!?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ギルモンなにやっとるんやっ!?」/「ブイモン、進化できないのっ!?」

「ミナミ、ごめん」

「怪我は治ってるけど、さっきまで戦ってたから進化できるほど体力が戻ってないみたいだっ!?」


(……やはりっ!?)

イグドラシルが事前に2体の怪我をデジヴァイスPROTを使用し、治していたが、究極体に進化できるほどの体力はまだ戻っていない。

だから、ブイモンとギルモンはしんかできない。

(しょうがありませんわね!!!)

私は『忌み嫌う姿』への進化へと覚悟を決める。


「ーーーーっ、下がっててくださいましっ!!!」

[クダモン ワープ進化]


赤く、紅く、赫く……、そして大きな鎧を纏う。

覚悟を決める以外の手段はなく、血のように紅いその鎧は忌まわしきあの神を彷彿とさせる。

左手の聖弩を、右手に聖盾を。

揃ひて二つ、力が呼び起こるのを感じ、私は目の前の敵へと弓を向けた。


「スレイプモンっ!!!」


主人なき聖騎士が今ここに見参した。


「スレイプ、モン?」

「クダモン、究極体に進化できたんだっ!?」


背後から、二人の少女の声が聞こえてくる。

(…………っ!?)

状況がまだ飲み込めていないようだ。はやく逃げてもらわねば、全力で戦うことすらできない。

「御託はいいので下がってくださいましっ、ここは私がやりますわっ!!!」

わかった……、そう言って背中を向ける少女達。

(……これは、失敗したかもしれませんね)

私は目の前の敵を見ながら先程のことを思い出し、少しだけ……、ほんの少しだけの後悔をしました。


『ご主人様を守るのは私ですわっ!!!』

『いーや、拙者ですぞっ!!!』

家庭科室にて、クダモンとユイは口論をしていた。
突如、デジモンがタイト復活の最終調整をしているイグドラシルを襲ってくるかもしれない。そう考え、どちらがタイトのそばに残るか、タイトの肉体を守るのはどちらか言い争っていたのである。

『緊急事態なんだから、はやく決めたほうが……、ジャンケンで勝ったほうが残ったらいいんじゃない?』

イグドラシルのその言葉を聞き、


『……』/『いいでしょう』

『最初はグー、ジャンケンッ!!!』


『……まさか、私が負けるとは』

『イェーイ、拙者の勝ちですぞっ!!!』


勝者はユイであった。

『ちくしょーっ!!!』

『まっ、なにかあったら駆けつけるのであります』

『クソドリなんかいなくても、私一体でなんとかなりますよっ!!!』

『そりゃ、いいでありますな』

『目にものを見せてやりますわっ!!!』


そんなことがあり、ユイはタイトを守る為に家庭科室に残り、クダモン……、いや、スレイプモンがルビー達と一緒に体育館へとやってきたのである。

(あんなことを言わずについてきてもらったほうが、今回は得策でしたわね)

ご主人様の復活を多少遅らせても、ユイと一緒に来て、2体で戦えば、スーツェーモンと暴走した2体を相手に、楽に勝つことができたのだ。それを考慮せずに、こんな場所に立っていることを自身の浅慮さに後悔していたが。

「ほう、なかなか強そうなケモノだな……、貴様何者だ?」

…………、たかだか『四聖獣』という肩書きすら知らぬケモノごときに……、いらだちが募り始める。

「他人のケモノ(デジモン)を操るような奴に名乗る名はございませんわ」

ああ、この姿はやはり嫌いだ。
ご主人様が言ったように、はやく『ウェヌスモン』へと進化して、イグドラシル(あの神)の僕としての姿を消し去ってしまいたくなる。

「……、そうか……ならばっ!!!」

スーツェーモンが再び大きく羽を広げた。


「やれ、ケモノ達よっ!!!」

「「…………っ!!!」」


その声に従うように、サクヤモンとメタルガルルモンが私に向かって走り始める。スーツェーモンも戦闘態勢へと姿勢を変える。

(究極体、3体……そのうちの1体は四聖獣)

敵の戦力の確認。
今できる全力を考え、最悪の対策も視野に入れて、全力で立ち回る方法を模索していく。


「こちらも本気で行かせていただきますわっ!!!」


その宣言と共に、私も地面を駆けていくのであった。

*1
レベル:究極体 タイプ:聖鳥型 属性:ウィルス種 必殺技:『紅焔(こうえん)
デジタルワールドを守護する四聖獣デジモンの1匹であり、南方を守護し灼熱の火焔を操る。神話の時代より君臨し続け、その存在は伝説化されており、見つけ出す事は非常に困難を極める。また、並みの究極体のパワーでは倒すことは難しく、その強さはデジモンの中でも最高峰に位置しており、まさに神そのものである。スーツェーモンは四聖獣デジモンの中でも特に気性が荒く、意味無く近づくものは全て焼き尽くすほどである。必殺技は太陽から大爆発とともに噴出されるプロミネンスに匹敵する炎の渦『紅焔(こうえん)』。




第十六話 消えたケモノ達 最後の四聖獣……そして、

 

 

「はやく逃げてくださいましっ!!!」

 

 地面を駆けながら大声で背後にいる彼女達へと指示を出す。

 

 

「────わかった、っ!?」

 

「そう簡単に逃すわけなかろう?」

 

 

 教授の声が聞こえてくると同時に、火炎がこの結界内を壁に這うように展開される。

 

「────火がっ!?」

 

「出口を塞いだっ!?」

 

 スーツェーモンが炎を出して、防空壕の出入り口を完全に塞いだのだ。

 

「────チッ」

 

 背後にいる彼女達(お邪魔虫)を守らなければならなくなり、自身の技の余波を考え、威力を落とすことを検討しはじめる。

 

 

「ルビーっ!!!」「ミナミ下がってっ!!!」

 

 

 ……が、そんなときに背後からブイモンとギルモンの声が聞こえてきた。

 

 

「『ブンブンパンチ』ッ!!!」/「『ロックブレイカー』ッ!!!」

 

 

 地面へと振り押される貧弱な一撃。しかし、その一撃で、地面が少しだけ削れはじめる。

 

「そうか、地面に攻撃を!!!」

 

(おもしろいことを考えますわね)

 

 地面を掘って、炎を潜り抜ければ少なくとも防空壕からは抜け出せる。ブイモンとギルモンは最適解を選んでいた。

 

 

「無駄だ」

 

「────っ!?」

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

「チンロンモンと戦っとった時は、カオスデュークモンの光で壊せとったのにっ!?」

 

 地面は表面上は削れているように見えたが、2体の必殺技をもってしても、赤土や黒土など、地層が見える気配がない。

 

「この結界内は我が領域。我よりも弱いケモノに壊せる通りなど微塵もない」

 

 スーツェーモンが言うとおり、成長期の力では傷一つつけることはできない。

 

 

「────っ、まだ、ギルモンやれる!!!」

 

「そうだな、ギルモンっ!!!」

 

「『ブイモンヘッド』!!!」/「『ロックブレイカー』ッ!!!」

 

 

 2体の踏ん張りが聞こえる。

 

 

「サクヤモンっ、サクヤモン!!!」

 

「姉さん、危ないっ!?」

 

「でも、サクヤモンがっ!?」

 

 

 少女と老人の声が聞こえる。

 

 

「ニンゲン風情がっ、我が軍門に降ったケモノに触れるなぁっ!!!」

 

 

 そして、スーツェーモンの怒鳴りと共に、

 

 

「『コキュートスブレス』」/「『飯綱(いづな)』」

 

「『ビフロスト』っ、『オーディンズブレス』ッ!!!」

 

 

 発動した2体の必殺の『技』は、スレイプモンの『技』によってかき消された。

 

 

 

「────なにっ!?」

 

 スーツェーモンは目の前の存在に驚愕していた。

 

「相殺、させていただきました」

 

 メタルガルルモンの全てを凍てつくす息吹である『コキュートスブレス』は、左手に掲げられた聖弩(せいど)『ムスペルヘイム』から放たれる強力な灼熱の矢『ビフロスト』によって、かき消される。

 

 サクヤモンの錫杖から放たれる三体の強力な呪いの炎『』は、右手に定められた聖盾(せいじゅん)『ニフルヘイム』が気候をあやつり、呪いの炎が掻き消えるほどの低温の風『オーディンズブレス』によって消滅した。

 

 ……とん、

 

 

「ミユキさま」

 

「────っ!?」

 

 

 スーツェーモンはさらに驚愕する。

 先程までメタルガルルモン達の眼前にいたスレイプモンが、自身の認識するよりもはやく泣き喚く少女の隣へと移動したからだ。

 

「……」

 

 少女は俯いたまま、サクヤモンを見て泣いている。

 

「もう一度言います。下がっていてくださいまし」

 

 スーツェーモンは再び動こうとするが、スレイプモンの目が光る。

 

(動いたらどうなるかわかっているのでしょう?)

 

 スレイプモンの目はそう言って、我ら三体ののケモノへと意識を外していたかった。

 

(……小癪な)

 

 怒りはある。

 

 憎しみもある。

 

 だが、目の前の敵に手出しすらできなかった。

 

「────っ、でも、サクヤモンとメタルガルルモンがっ!?」

 

 そうだ、我にはこの2体が────、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「────えっ!?」

 

(────なにいっ!?)

 

 

「イグドラシルの見ていた並行世界の資料にこんなことがあります。『デジモンに強く影響を受けた人間』や『人間の影響を受け過ぎてしまったデジモン』のデータ」

 

「そんなことが、本当に……っ!?」

 

「彼らはスーツェーモンの怒りに影響を受け過ぎてしまっただけなのです。だから、下がっていてくださいまし」

 

 

「私の戦いの邪魔です」

 

 

「────っ!?」

 

「姉さん、下がるよ」

 

「うっ、うん」

 

「…………」

 

 横文字の名は確かだが、自身の怒りに同調したケモノのことを言い当てられる。

 

「…………」

 

 こちらへと警戒しつつ、小娘達を落ち着かせ、自身の攻撃の余波が出る範囲から遠ざける。

 

「…………」

 

 その姿を見て、強敵であると感じると同時に、

 

 

「……甘いな」

 

 

()()()()()()()()()()!!! 

 

 

「『飯綱(いづな)』」

 

「『グレイスクロスフリーザー』」

 

 

 2体の必殺の一撃が小娘達を襲い始める。

 

 

「────、姉さんっ!?」

 

「────っ!?」

 

 

 そのことにようやく気がついたのか、老人の声と小娘の悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「『()()()()()()()()()』」

 

 

 冷気の壁が全ての技を凍らせる。

 

「……甘い? これは余裕と言うのですよ」

 

 スレイプモンは笑ってこちらを見る。

 

「そんな小さな火で私の『オーディンズブレス』を防げると思っていますか? ……舐められたものですね」

 

「……貴様っ!?」

 

 カツン、カツンとスレイプモンが前に出る。

 

「そもそもあの2体に影響を与えられない時点で能力がお察しなのですよ。老害はさっさと隠居して、そのまま消えてなくなったほうがいいのではありませんか?」

 

 近づくにつれて、怒りが向けられるのを感じる。

 

「黙れ、小娘……っ、我らの領域に土足で踏み入れ、あまつさえ他のケモノを倒しただけの凡夫風情が、我が力を思い知るがいいっ!!!」

 

 だが、我の怒りは限界を超えている。

 怒りに同調し、ケモノどもも全力で技を放とうとしている。

 

 

「『 紅焔(こうえん)』っ!!!」/「『金剛界曼荼羅(こんごうかいまんだら)』」/「『ガルルトマホーク』」

 

 

 灼熱の翼が、

 

 聖なる光が、

 

 凍てつく鉄の弾頭が、たった1体……、目の前の敵へと殺意を向けて狙いが向かっていく。

 

 

「────『オーディンズブレス』」

 

 

 冷気の……、いいや『凍結した世界』が奴の一言で生まれ、我らの一撃を葬り去った。

 

「……思い知る? それはこちらのセリフです」

 

 怒りと憎しみ、それを織り交ぜた視線が我らへと向けられる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 

 その一言で、『形勢は逆転』した。

 

 

 

「……すごい」

 

「あの、3体と渡り合っとる」

 

 私達はスレイプモンの戦いを見ていた。

 

 

「『金剛界曼荼羅(こんごうかいまんだら)』」

 

「『オーディンズブレス』」

 

 

 光の結界ごと、氷の檻に閉じ込められるサクヤモン。

 

 

「『グレイスクロスフリーザー』」

 

「『ビフロスト』」

 

 

 一本の灼熱の矢で全ての銃弾を砕かれ、灼熱でで身を封じられるメタルガルルモン。

 

 

「────、うっ、あっ」

 

「────っ、みゆ、き?」

 

 

 2体は成長期まで一気に退化して、倒れてしまう。

 

「封殺、完了ですわね」

 

 その声と共に、

 

 

「『オーディンズブレス』」

 

「ぐがぁあああああああ────っっ!?」

 

 

 その2体のそばにいたスーツェーモンが、氷の息吹によってその後方の壁へと押し除けられる。

 

「────やったっ!!!」

 

 スーツェーモンは壁に叩きつけられた……だけど、

 

「早く行きなさいっ!!!」

 

 みゆきちゃん達に向かって、スレイプモンはそう言った。

 

「レナモンっ!?」/「ガブモンっ!!!」

 

 急いで、2体を拾って戻ってくる二人。

 

(ああ、そっか)

 

 スレイプモンはスーツェーモンを圧倒している。

 

(タイトのデジモン達はこんなにも強いんだ)

 

 そんなことをただ、ただ目の前にいるデジモンから実感したのだった。

 

「……きっ、さまっっ!!!」

 

 潰れたカエルのように地に這いつくばっていたスーツェーモン。それが、立ち上がりながらスレイプモンを睨む。

 

「力を思い知るのは……、誰でしたっけ?」

 

「舐めるなっ!」

 

「舐めているのはそちらでしょう!」

 

 煽り合いの末、お互いが必殺の一撃の為に力を貯め始める。

 

 灼熱の矢が弓に装填され、

 

 豪炎の羽が翼を煌めく。

 

 

「『ビフロスト』」/「『 紅焔(こうえん)』」

 

 

 互いの炎/焔がぶつかりあい、弾け飛ぶ。

 

「────っ、たっ!?」

 

 火花が頬に当たる。

 その痛みが、目の前にある灼熱地獄を本物なのだとわかってしまう。

 

 [スレイプモン 究極体 聖騎士型デジモン]

 

 そんな機械の声が聞こえてくる。

 

「……みなみ?」

 

「静かに」

 

 

 [デジタルワールドの守護者「ロイヤルナイツ」の一員である聖騎士型デジモン。人型デジモンが多い「ロイヤルナイツ」において、異形とも言える獣型のシルエットを持っている。大きな防御力を誇る「レッドデジゾイド」の鎧を全身にまとっており、究極体デジモンといえどもスレイプモンにダメージを与えるのは容易ではないだろう。6本の脚は優れた機動力を持ち、大柄な体格から想像もつかないほどの瞬間高速移動を行うことが可能である。スレイプモンはデジタルワールドの北極付近の分厚い氷の下に眠る超古代遺跡の警護を行っており、この遺跡にはデジモンの創生にかかわる重要なプログラムデータが封印されていると言われている。必殺技は、左手の聖弩(せいど)「ムスペルヘイム」から放たれる灼熱の光矢『ビフロスト』と、右手の聖盾(せいじゅん)「ニフルヘイム」を使って気候を操り極低温のブリザードを発生させる『オーディンズブレス』。]

 

 

 御伽話のような図鑑の説明。

 それを聞いて、目の前に起こっているのが、御伽話ではないのに、現実ではないような、悪夢のような変な違和感を感じさせた。

 

「これが、クダモンの本当の実力」

 

「今の俺達に勝てるのか?」

 

「……ウチとブイモンが越えなきゃいけない相手」

 

「…………」

 

 私達はそれぞれがその図鑑の説明を見て、戸惑い、迷いながらスレイプモンとスーツェーモンの戦いをただ、ただ見ていることしかできない。

 

「……くっ!?」

 

「所詮はこの程度、……イグドラシルの予想も違っていましたわね。あのシェンウーモン(かめモドキ)のほうがマシなレベルです」

 

 スーツェーモンの頭にかけられた聖弩『ムスペルヘイム』。スレイプモンは確実にとどめを刺すつもりだ。

 

「…………」

 

 スーツェーモンは睨むことしかできない。

 

「睨む余裕があるのなら抗う算段でも立てればいいのに……、そこららへんはやはり『(ケモノ)』。我ら『電脳の存在(デジモン)』とはだいぶ定義が違いますわね」 

 

『ムスペルヘイム』に矢が装填される。

 

 

「これで終わらせてあげましょう」

 

 

 その一言、

 

 その一言をスレイプモンが言い放ったとき、

 

 

 

 

()()()!!! 

 

 

 

 

 そんな大きな音が鳴り、防空壕の天井が崩落していく。

 

「────、っ!?」

 

 天蓋は壊れ、スーツェーモンとスレイプモンの2体の間に大きな岩が落ちてくる。

 

「どうやら我に天が味方したようだなっ!!!」

 

 スーツェーモンの羽に焔が弾ける。

 

「『 紅焔(こうえん)』っ!!!」

 

「『ビフロスト』っ!!!」

 

 咄嗟に2体の攻撃が交わった……、────そのときっ!? 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「────、あれって!?」/「……でも、あの色は」

 

 

 私とみなみの声が重なる。

 

 私達は知っていた。

 この世界を塗りつぶせる程の光の正体を。

 

 私達は知らなかった。

 この世界を塗りつぶせる程の『悪意』が滲む彼の闇夜を。

 

 私達は知るべきであった。

 彼の心を塗り潰した『闇夜色』を。

 

 今思えば、

 

 そんな時間などないことは『私』は知っていたはずなのに、

 

 いくらでも時間はあったはずなのに、

 

 

「タイト?」/「マナトくん?」

 

 

 世界を塗り潰している『闇夜色』の光の中、唯一輝く彼の姿を見たのはこれが『最後』であった。

 





夢を見た。

悪夢のような夢を。

夢を見た。

邪悪な現実を。

夢を見た。

失ったものを。



「……そして、夢を見ていた、気がする」

でも、もう思い出せないし、思い出せないことはどうでもいい……今、重要なのは、

「……なんだ、貴様は?」

今目の前にいる『羽虫』。

「…………」

『記憶』に残っている最後の相手を思い出し、この場が緊急事態であると完全に理解した。

「人間でありながら、我が『 紅焔(こうえん)』を防いだことは褒めてやろう……しかし、」

『羽虫』がなにか言っている……、どうでもいい。もう既に、この世界で死ぬ覚悟は決まってるのだから。

「我が目的の為、貴様には死んでもらう」

今は本当に『気分が悪い』。
あの怪我からの復活のせいで、体はガタガタだし、思い出せない夢の内容も体の負荷がかかるぐらい悪かった……そして、なにより、

「この世界に棲むケモノの為」

()()()()()()()()()

「彼の世界にケモノらの安寧を手にする為」

近くにいたはずの『仲間』と連絡する手段がない。これは、俺達が『負けた』のだと理解せざる得なかった。

「我を裏切ったニンゲン共を駆逐し、『主』を滅ぼす為」

俺に突き刺さる殺意は、あの『虫ケラ』にも劣るレベル……、だが、その油断のせいで、思わぬ深傷を負ったのも事実だ。そして、『俺一人』この場に残されているのも、奴らによって『仲間』と離れ離れになってしまったのだと理解するのも必然だった。

「貴様には死んでもらう」

だから、今度は油断はしない。


「『 紅焔(こうえん)』」

「答えろ」


闇夜色の煌めきが手から噴き出し、世界を包み込むほどの火焔を掻き消した。



()()()()()()()()()()()()?」



早く、助けに行かないと。俺は焦燥感に駆られながら、目の前の『バグラ軍のスーツェーモン』に向かい、宣戦布告を行った。
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