産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

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ーーーー気配が消えた?

ーーーー戦いが終わった?

ーーーー迎えに行ける。

ーーーー迎えに行こう。

ーーーー敵はもうすぐそこにいる。



After story 夕陽の歌が鳴り響いた

 

 

 ────ズドォォオオオンッ!!! 

 

 

 ファンロンモンルインモード……いや、金色の巨体の龍が倒れる音が鳴り響いた。

 

「…………」

 

「…………」 

 

「…………」

 

 紫色だったルインモードが解けて、ただのファンロンモンに戻った龍。その横には、灰を落とすように魔槍を振るうメディーバルデュークモンが立っていた。

 

「……終わっ、たの?」

 

「これで、終わりなんか?」

 

 メディーバルデュークモンがこちらへと近づいてくるときに────

 

 

 ────ポンッ! 

 

 

「────は?」/「────なっ!?」

 

 

 大きな音を鳴らして、2つの小さなまん丸が地面へと落ちた。

 

 

「────いってぇ!?」/「────いったいっ!?」

 

 

 蒼と紅のまん丸が2つ。

 大きな声で叫んだ後、私とみなみへと小さな体を使って走って近づいてくる。

 

「……チビ、モン?」/「……ギギモン、なんか?」

 

 2人は首を振った。

 

「俺の名前は『チコモン』*1!」/「『ジャリモン』*2だよ、ミナミっ!」

 

 蒼色のまん丸……『チコモン』と紅色のまん丸……『ジャリモン』が自己アピールというように大きく跳ねる。

 

「……2体とも幼年期Iに退化しちゃったのか」

 

 タイトがそんなことを言ったのが聞こえてきた。

 

「……退化、幼年期に戻っちゃったんか」

 

「メディーバルデュークモン、とっても疲れる。力をめいいっぱい使っちゃうから、ギルモンだとお腹がものすごく減っちゃう。だから、ジャリモンにまで退化した!」

 

「のわっ!? って、意外と軽いんやな」

 

 ジャリモンがミナミの頭の上に乗っかった。

 

(……じゃああの進化は)

 

「とっても負荷がかかる進化だったっちゅうわけか」

 

 私の心の声とみなみの言葉が重なる。

 

「進化じゃなくて……合体、な」

 

 …………むぅっ! 

 

「どっちでもいいよ。それよりもさっきの────

 

 

 ガシャン、と大きな音が鳴った。

 

「……えっ!?」

 

 そこにいたのは黒髪の子供だった。

 

 

「キサマラァアアアアアアアアアアアアアアア────ッッ!!!」

 

 

 メディーバルデュークモンがいた位置から、人間の怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「────なにっ!?」

 

「なんや、あの子供っ!?」

 

「……」

 

 黒髪の子供が『主』の瓦礫の上で立ち上がる。

 

「無体なることよ! 貴様ら、我が(しもべ)たるファンロンモンを討ち果たし、我が宿願を打ち滅ぼしたか……!」

 

「許しがたし……決して許しはせぬぞッ!!!」

 

 子供の答えを聞き、その下にある『主』の瓦礫から、一つだけ子供の正体が頭の中に思い浮かんだ。

 

「…………まさか、アイツが『主』の正体っ!?」

 

 初代デジヴァイスを構える……だけど、

 

「なら、早く進化……って、疲れて、力が出ない」

 

「ジャリモンもはやくっ!!!」

 

「ごめん、ミナミ……力がでないよぉ」

 

 チコモンもジャリモンもさっき戦ったばっかで力が出ない。

 

(────どうしようっ!?)

 

 頭の中で考える。

 目の前で動き始めた敵。それに戦う力は私達にはない。どうすれば戦えるか考えていると、

 

 

「シネェエエエエエエエエエエエ────ッッ!!!」

 

 

『主』が走り……、

 

 

「────それはお前だろ?」

 

「ふごへぇっ!?」

 

 

 タイトが『主』を地面に叩きつけた。

 

「『主』をっ!?」

 

「殴ったっ!?」

 

『主』は……いや、子供は地面に蹲って……って、タイトがお腹を踏みつけたっ!? 

 

「ごめん、ちょっと待ってて」

 

 笑顔でこっちを向いてそう言ってるけど……、すっごく怖い光景に見える。

 見た目が茶髪の少女が微笑みながら、黒髪の子供の腹を踏みつけて、私達に向かって微笑んでいるんだ。子供が私達を睨んで、怒ってる。こんな光景、知らない人に見られたら、まるで悪役だって言われるんじゃないかって思う。

 

「貴様、貴様のせいで────っ」

 

 ────ダンっ! 

 

「────かはっ!?」

 

 タイトがもう一度踏み込むように、お腹を足で踏んだ。

 

(ひえっ!?)

 

 タイトが手を抜いてるのはなんとなくわかった。けど、『主』の……子供が踏みつけられるたびに顔を歪ませている。本当に痛そうで、それにタイトの表情がかなり怖い。

 私達に向けていた微笑みとは違い、本当に怖い顔で子供を睨みつけている。

 

「ただの自業自得だろ?」

 

「なん、だと?」

 

「お前はこの世界に自ら望んできたんだろ?」

 

「望んでなどおらぬわッ! 我は姉上の命に従い、渋々この世界へと赴いただけに過ぎぬ──ーっ、どぼえっ!?」

 

 タイトは股間を蹴飛ばした。

 

 

「「────ひえっ!?」」

 

 

 男の子のチン◯ンを思いっきり蹴飛ばしたのを見て、私とみなみの声が重なる。

 

(あれって、アニメや漫画で痛いって言ってたあそこやろ?)

 

(なんで躊躇なく蹴ることができるのっ!?)

 

 

「ははは、痛いんじゃないか?」

 

「…………、────っ!?」

 

 

 蹲って頭に悶える子供をタイトは嘲笑う。

 

 

「お前さ、『自分で選んでこの世界に来た』んだろ? なにふざけたこと抜かしてやがる?」

 

「……っう、そんなこと……、ぉえっ!!!」

 

「『姉に言われたから』……、そう言って、この世界に来て、多くのケモノや人を殺してきたのはお前だ」

 

「そんなの知っ────、べぼっ!!!」

 

「知らないなんて言わせない」

 

「お前のせいでどれぐらいの『デジモン(ケモノ)達が怯えて暮らした?」

 

「どれぐらいの人とその相棒が贄として喰われた?」

 

「贄なんてものではなく、幸せに暮らせた人もいるだろう。相棒とともに世界を変えることができた可能性もあるだろう。お前はその未来を摘み取り、自身の力に変えて、千年以上の長い時を生きながらえてきたただの『寄生虫』だ」

 

「────ちがっ、ごへっ!? 我はっ、────ぼえっ、私はこの世界の『主』でっ────ずぼへっ!?」

 

 

 何度も何度も子供の体を蹴り上げるタイト。そこに情けや容赦など存在はしない。怒りや憎しみなんてものじゃない。それはタイトが私達に向かって『仲間が死んだ』時のことを思い出すかのように、憂さ晴らしをするかのように、痛みが長く続くように、手加減して蹴り続けている。

 

(なあ、流石にあれは?)

 

(止めなあかんよなぁ)

 

 私とみなみはタイトへと近づく。

 

「……ねえ、そんなに蹴らなくても」

 

「子供なんだろ? 少しは手加減ぐらい……」

 

 私達がタイトの肩を掴んだその時だった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()、『()()()()()()()()

 

 

 

 タイトが本気で叫んでいた。

 

「……タイ、ト?」

 

 タイトは私達が手を伸ばした時から、蹴るのはやめている。だけど、さっきの叫びは、今までタイトが言ってきたどんな言葉よりも実感が伴ってて、虚しさを感じる叫びだった。

 

「なにがっ、なにが望みだっ!」

 

 子供がタイトの足を掴んで叫んだ。

 

「この世界にいる羽虫(ケモノ)どもか?」

 

 タイトの表情が変わる。

 

「それともあちらの世界の権力……いや、世界そのものか?」

 

『主』が話す言葉はたぶん命乞いなんだろう。

 

「我が世界を手にした時、貴様にそれをくれてやろうっ!」

 

 その言葉を並べるたびに、表情が『怒り』、『憎しみ』、『悲しみ』、『虚しさ』、たくさんの表情に変わって……、

 

「だから、私をこれ以上……っ!!!」

 

 子供がその姿を見て、縋っていたからこそタイトの表情が見えない……だから、

 

 

「俺の望みはただ一つだけだ」  

 

「────はっ!」

 

 

 タイトの顔が、

 

「……えっ?」

 

 失望に染まっていることに気づかなかった。

 

 

「お前みたいな生きる価値のない人間(ムシケラ)を二度とこの世に復活できないように、さっさと終わらせてやることだよ」

 

 

 今度はタイトの足が『闇夜色』に侵食し(ひかって)ていく。たぶん、今のタイトの『感情』が籠った一撃だ。

 

「やめろ、やめてくれっ!!!」

 

 命乞いをする子供。

 私もみなみもその顔を見てから動くことができない。なんでそんな顔をするのか、なんでそんなことができるのかわかんない。

 

「────死ねッっ!!!」

 

 そして、タイトは足を振り下ろし────

 

 

「────()()()()()()()っ!!!」

 

 

 子供とタイトとの間に、黒髪の女性が入った。

 

「……姉、上?」

 

 姉、上? 

『主』らしき子供が女性に向かってそう言った。……ということは、女性は『主』の姉っ!? 

 

 

「これ以上、弟を傷つけないでください」

 

「…………」

 

 

 女性はタイトへと縋ってそう言った。

 

 

「我が弟の暴走も、また、我が不始末も、重々承知しております。我が浅慮により弟を強行に走らせ、その果てに多くの者を傷つけたことも、心得ております……されど」

 

「……されど?」

 

「されど、これなるは、まさしく我が不始末にございます。これ以上、弟を傷つけることは……」

 

「……知るか」

 

「────っ!?」

 

 タイトは構わず女性を蹴り上げようと力を込める。……ううん、そうじゃない。今度こそ、私が止めないとっ!!! 

 

 

「タイト、それ以上は────

 

「…………」

 

「────えっ!?」

 

 

 タイトの足が止まって、女性と子供の前に立ち尽くしている。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 タイトの力のない声が響き渡る。

 

「何度見逃しても、何回助けても、お前らはその行為を、その行動を、置かれている立場を不満に思って、俺の大事なものを傷つける」

 

 タイトは項垂れながら、そう言った。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 たぶん、タイトは何度も何度も誰かを信用してきたんだろう。でも、そのほとんどを裏切られてきた。だから、もう二度と敵に容赦はしなくなった。

 

「…………、しかし、私はっ!!!」

 

「知ったことか」

 

 タイトの気持ちがわかってしまった。私には止めることなんてできなかった。だって、『許せない』って気持ちは、その気持ちは痛いほどに理解できたから……、手を出せなかった。

 

「────逃げっ」

 

「死ね」

 

 

 

 

 

 

「────っ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「駄目ですぞ」

 

「……ユイ?」

 

 ユイがタイトの手を阻んだ。女性と子供を守るように立っていた。

 

「ユイ、そこをどいてくれ。そいつらを今から殺す」

 

 ユイが首を振った。

 

「────っ、なんでだっ!!!」

 

 怒りに任せたタイトの言葉。その言葉に、ユイは首を振ってタイトの手を取る。

 

 

()()()殿()()()()()()()()()()()()()

 

 

 タイキ殿……また、私の知らない人の名前だ。

 

「……っ」

 

 タイトの握りしめた拳から痛いほどに音が鳴って、

 

「────っ!」

 

 タイトは手の力を力を緩めて、

 

「……わかった」

 

「ありがとうございますなのですぞ」

 

 2人を許していた。

 

 

「……助けられたのですか?」

 

「あねうえ?」

 

 タイトは女性の横を通り過ぎて、倒れているファンロンモンを……

 

 

 ────ズガンッ!!! 

 

 

「……は?」

 

「────えっ!?」

 

「────ファンロンモンっ!?」

 

 

 思いっきり、蹴っ飛ばした。

 ファンロンモンが十メートルぐらい空を飛んでいるのが見えた。さっきのって、どれくらい手を抜いてたんだろ……空を舞うファンロンモンを見て、そんなことを考えてしまう。

 

 

「起きろ、ファンロンモン」

 

「────なに奴っ!?」

 

「……貴様はっ!?」

 

「お前の『主』と話がついた。この世界の権限を全て水瀬ミユキに譲渡して、隠居しろ」

 

「────っ、それはっ!?」

 

「────やれよ」

 

「やれ」

 

「……承知した」

 

 

 うん、脅迫だよね、あれ。

 ファンロンモンと『主』から、『主』の力を奪い取って、腹いせするつもりだ。うん、まだ怒ってる。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………っ」

 

 

「……タイト」/「タイトくん?」

 

「悪い、教授達を起こしてきてくれ」

 

「話を戻そうか」

 

 

 

「さあ、受け取れ。……水瀬の巫女よ」

 

「……はい、承りました」

 

 ファンロンモンから水瀬ミユキとレナモンに力の譲渡が行われた。

 

「姉さん、終わったかい?」

 

「終わりました。

 今の私はこの世界の『主』になったみたいです」

 

 これで本当にデジモンサヴァイブの物語が終わったのだと実感が湧いた。『主』の権限さえ奪ってしまえば、あの子供(ムシ)……水瀬ハルチカもただのガキだ。

 現実世界(リアルワールド)を襲う手段はなくなる。

 

「私もミユキの相棒として、この世界の『主』の立場を得た。今ならこんなふうにっ!」

 

 レナモンの足元から白い狐が現れる。

 

「化け物……、いや、眷属か。眷属を生み出すこともできる」

 

 眷属を生み出す能力を手に入れたのか……、この力はあっちで使うことはできるのだろうか? 

 

「……そうか。少し複雑だけど、ハルやミユキが守られるのであれば、俺に不満はないよ」

 

「私も不満はない。……ただ」

 

「教授?」

 

 レナモンとガブモンが話してるなか、教授がこちらを向いたことに気がつく。

 

「よかったのかい? この世界限定とはいえ、世界を統べる力を手にすることができる力だったんだろう? それを私達みたいな……、何もしていない人間が貰っても本当によかったのかい?」

 

 …………? 

 何を言ってるんだこの人は? 

 

「いいんですよ。どのみち俺達には管理する時間なんてものはないし、この世界に出入りする術もない……こともないが、やるにはめんどうだ」

 

「テト殿なら来れるでしょうが、ただでさえ足りない人員をこちらに回す余裕はないのであります」

 

「本音を言えば、ご主人様に世界を統べる力はある……というよりも、世界を支配していただきたい……と、私個人は思いますが、ご主人様が『いらない』と言うのであれば、私はご主人様に私は従いますわ」

 

 俺達はそもそもこんな力はいらないし、なんなら別の世界に逃げ出すことだってできる。正直言って、あっちと繋がってるこの世界をもらったところで、いらないとしか俺には思えない。

 

「そうやなぁ、ウチもいらんからなぁ」

 

「ジャリモン、よくわかんないから、ミナミがそう言うんだったらそれでいい」

 

 寿もジャリモンもいらないみたいだし、

 

「……俺は」

 

「私もいらないし、チコモンもいらないよね」

 

「……ルビーがいらないって言うなら、俺もいらないな」

 

 ルビー達も首を振った。

 

「ほらな、『主』の力なんてみんないらないんだよ。『主』の血縁の教授達が貰ってくれた方が嬉しいのさ」

 

「……そうか、すまない」

 

「別にいいですよ」

 

 …………ふう、これで全部────っ!? 

 

 

「ねえ、タイト」/「なぁ、タイトくん?」

 

 

 背筋に寒気が走る。

 

「……なんだよ」

 

 ルビーと寿の目が爛々と光っている。

 なんか怖いんだけどっ!? 

 

 

「「それよりも、さっき言ってた『なんでも』言うこと聞いてくれるんだよね(やろ)っ!!!」」

 

 

 ……なんでも? ああ、そうだなぁ。

 

「……できる範囲でな」

 

「それ、言ってた?」/「そんなこと言っとったか?」

 

 こいつら忘れてやがる。

 俺はポケットの中に入れたカミシロ製の『デジヴァイス』を取り出して、ポチッと、

 

 

「『俺のできる範囲でこいつらの願いを叶えてやるっ!!!』」

 

 

 ────ピッ! 

 

 録音機能を動かした。

 

「なっ、言っただろ?」

 

 そう、俺は確かに言った。

 

 

『俺のできる範囲でこいつらの願いを叶えてやるっ!!!』

 

 

 ……と、

 

 

「…………」/「…………」

 

 

 ……あれ? 

 

「タイト氏、抜け目ないのであります」

 

「……ご主人様、それは流石に」

 

「俺達、頑張ったのに」

 

「……タイト、ひどい」

 

 いつのまにかデジモンから総スカンを喰らっている。俺は何か変なことをしたのか? 

 

 いや、でもなぁ? 

 

「あくまで『俺のできる範囲でなんでも』だからな。『子作りしてくれ』とか、『カミシロを乗っ取って』とか言われても、俺には無理だ」

 

 無理なことを頼まれても正直言ってできないからな。

 

「前者ともかく、タイト氏とテト殿なら後者は簡単にできるのであります」

 

 余計なことを言うな。

 

「……俺はやらないからな」

 

「わかっておりますとも」

 

 ユイわかってんのか? 本当に肝が冷えるんだぞ!!! ……っと、そうじゃなかった。

 

「それで、どうするんだ?」

 

 俺は早くこの話を切り上げたいので、願いを聞くことにする。

 

「私は────」

 

「寿、教授、水瀬ミユキさん、ルビーの順番で書いていくからな」

 

 ルビーが先立って話そうとするのを大声でそう言ってかき消した。

 

「────むぅ」

 

 おい、ルビー……何お前が一番最初に話そうとしてんだよ。お前が一番めんどくさいんだから、当たり前だろ。膨れっ面になりたいのはこっちだよ!!! 

 

「私達もいいんですかっ!?」

 

「いいよ、この世界を救ってくれた一助になった人の願いは叶えるつもりだったし」

 

 俺の思惑通り、俺の手に頼らず『主』を倒すことができたのなら、ルビー達の願いを叶えるつもりだった。それが現実になって、俺の思惑通りに進んでいるだけだ。

 

「決まったでっ!」

 

 寿が手を上げるのが見えた。

 

 

「ウチは『タイトくんの仕事を手伝いたい』」

 

 

 …………、一瞬だけ頭の中の情報が止まっていた。

 

「……そんなんでいいのか?」

 

『恋人になりたい』とか、『付き合ってくれ』とか言われるモンだと思っていたから、少しだけ肩の荷が降りる。

 

「できれば、『タイトくんの側近として手伝いたい』んやけど……、やっぱできへんか?」

 

 顔を赤らめながらそう言った寿。

 

(……それは、ちょっと難しいな)

 

 自分の仕事の内容を思い出した時、1人の少年のことを思い出した。俺に仕事を任され、他企業に情報を売ってしまったクラスメイト。残念な結果に繋がってしまったことから、簡単に頷くことはできない。

 

「手を汚すし、たくさんの人を自分の手で傷つける。ジャリモンにもそれを押し付ける……それでもやるか?」

 

 覚悟がないとできない仕事だ。

 

「……ジャリモン」

 

「ジャリモンはミナミの為ならなんでもするっ!」

 

「そういうことや、よろしく頼むでっ!」

 

 どうやら2人の腹積りは決まっていたらしい。

 

「……わかった。家族には?」

 

「伝えんでいいよ。どーせ、何もできへんから」

 

 …………、やっぱり家族に関しては結構ドライなんだな。

 

「そっか、……教授はどうしますか?」

 

「……そうか、『なんでも』、か……むむむっ」

 

 少し悩んだみたいだけど、教授はすぐに手を挙げた。

 

「では、『この世界やデジモンのことを世界に発表したい』んだけど、良いかな?」

 

 教授の願いの内容を聞いて、肩透かしだと思ってしまった。

 

「……時間はかかりますが、然るべき場を整えましょう。五年以内に、返答を送ります。立場も権威もこちらで用意したものを使ってください。それにかかる費用も、研究にかかる費用も俺のポケットマネーから出しますね」

 

「ポケットマネーからっ!?」

 

 ……そんなに驚くことか? 

 

「腐るほどあるんで大丈夫ですよ」

 

「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、億、駄目だ数えきれない……って、君は、どれだけ……っ!?」

 

 1人で世界恐慌を起こして、終わらせるぐらい……ですかね。

 

「デジタルワールドで稼いだお金、元の世界で使えてよかったでありますな」

 

「そのおかげで、先進国一つ建てられるぐらいには貯蓄があるんだけどな」

 

「────使い道なくて、草なのですぞ」

 

「逆に使い道があったら困るだろ。俺のポケットマネーのせいで経済が崩壊するんだよっ!」

 

「────あいてっ!?」

 

 こんなにあっても『金』しかないのだ。

 アプリドライブでいろいろと物は買えるが、それでも腐るほどあるのだから、現実の物には全額使えないんだよ!!! 

 

「……ですので、資金に関しては問題ないので、好きなだけ使ってください」

 

「……ありがとう。実の姉まで救ってもらったというのに、なんか申し訳ないな」

 

「いえ、金の使い道ができたぐらいなので、問題ありません」

 

 教授は申し訳なさそうな顔をするが、俺としての本音を言わさせてもらえば、『ただでさえ、仕事関連で現実でも金が有り余ってんだから、多少は使わせてくれ!!!』というぐらいである。

 

 

「……で、次は私ですか」

 

「……少し悩ませてください」

 

 水瀬ミユキさんが頭を悩ませている。そんなに難しいことか? 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 だいたい5分くらい悩んでいただろうか? それでも迷いながら彼女が手を挙げたのが見えた。

 

「決まったかな?」

 

「はい」

 

 頷く彼女の言葉を待つ。

 

「私は、『私があちらの世界に戻った後も、落ち着いて暮らしたい』……ですね」

 

 うん、これも簡単な願いだ。

 

「マスコミに圧力をかけて、メディアには流さないように別のニュースで上書きしよう。

 約五十年前に行方不明になった人間が当時の、行方不明になった10代の時の姿で見つかったなら、大ニュースだ。世間が混乱しないように、村の新聞の小さな一面に取り上げられるぐらいに、情報操作させてもらう……それでいいかな?」

 

「…………はい、それでいいです」

 

 金をかければ容易く叶えられる願いだ。あとは、テトとシンとユイが死ぬほど情報操作をすれば問題ないだろう。

 

 

「ねえみなみ、……タイトがさっきから、さらっとすごいこと言ってるけど、本当にあれでいいのかな?」

 

「……この世界に来てから驚くことが多すぎて、別になんともないわ。それよりも、ルビーは自分の願いについて考えた方がいいんやないか?」

 

「……そう、だね」

 

 

 おい、何をコソコソ話してんだよ。

 

「……で、最後に」

 

「ルビー、お前はどうする?」

 

 お前の番だぞ。一番めんどくさいの。

 

「……私は……私は、……私の願いはっ!!!」

 

 

「私は『タイトにママに会って、話してほしい』っ!!!」

 

 

 うん、知ってた……というか、

 

「……今は無理だな」

 

「……えっ!?」

 

 驚くなよ。何度も言ってるだろ? 

 

「俺は基本的に『監視』がつけられてる。四宮や四条に喧嘩を打ったし、俺の身元を保証してくれてる2人のうち1人……岸辺リエは俺の弱みを握ろうとしている。ただの弱みじゃない。手駒にして好きに操れるようにする為の、手段としての弱みだ」

 

 リエさんに弱み握られたやつがどうなるか知ってるのかよ。

 カミシロの社長に社長派の社員一同、リエさん派の一部や政府の何人か相当困ってんだぞ!!! 

 自殺に追い込まれたり、左遷させられたり、首になったり、記憶奪われたり、汚職に手を染めたり……それはやってたから、弱み握られたのか。そんな相手に真正面から戦いを挑むのは無謀すぎる。むしろ、関わらないことで守っているまである……と、こんな理由は話せないので、

 

「四宮と四条の監視網は簡単に突破できるが、リエさん……、岸辺リエだけは、手段を選ばなければいけない今の俺にも難しい。だから、会うのは『今すぐ』は無理だ」

 

「……そっか」

 

 そう、無理だからこそ、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────っ!?」

 

 

 お前が頑張るんだよ。

 

「ルビー、一年以内に『アイドル』になれ」

 

「アイドルにっ!?」

 

「お前の好きだったアイドルになれば、お前の事務所に案件を持って会いに行ける」

 

「本当っ!?」

 

 俺はその言葉に頷く。

 

「理由はそうだな、表の理由は『お前がカミシロエンタープライズの幹部関係者にコネを持ってて、結成直後のアイドルグループのスポンサーになり、そのアイドルグループがカミシロの番組を任された』ということにしよう」

 

「────本当にそれっていいのっ!?」

 

「金と権力と暴力なら腐るほどあるから大丈夫だ」

 

「そのセリフには不安しかないけど」

 

「リエさんに話す裏の理由としては、『無名のアイドルグループの後ろ盾になることで、カミシロを裏切らないようにする』ってことを伝える。だから、他の企業とかに俺達の機密を話すなよ」

 

「────わかりましたっ!!!」

 

 よし、これで話はまとまった。

 あとはテトとシンに合流して、どうなっているのか確認をしなくちゃいけないよな。 

 

「……とりあえず話は全部終わったみたいですし、帰りましょ────

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「────っ!?」

 

 鳴ったっ!? 

 

「これ、タイトのバッグの中から響いてるけど……、その歌って────

 

 ルビーの声が届く前に、俺の背後に大きな黒い穴が空いた。

 

 

「悪い、迎えが来たみたいだ」

 

 

 ────ひとりぼっちのところに、突然飛び込んできた

 

 

 俺とユイとクダモンの体を巨大な三本の腕が掴んでいく。

 

 

 ────少し痛かったとこ優しく包んでくれた

 

 

「────えっ!? 

 

 

 ────こんなにホッとすることは初めてだから、その温もりをそっとポケットに詰め込んで歩いて行きたい

 

 

 黒く染まった三本の腕は、俺達の体を優しく掴んで穴の中に引っ張った。

 

 

 ────ずっとずっと一緒にいるとあの夕陽に約束したから

 

 

「ちょっと待ってっ!!!」

 

 

 ────寂しい時も広がるオレンジを眺めて

 

 

 ルビーが、寿が、教授が、ガブモンが、水瀬ミユキが、レナモンが走り出すのが見える。だけど、もう遅い。

 

 

 ────きっときっと大丈夫だよ。あの夕陽がささやいてくれる

 

 

「じゃあな」と一言、俺の体は穴に吸い込まれていった。

 

 

 ────今すぐ会いたい。その気持ちをお願い伝えてね

 

 

 そして、ケモノの世界に夕陽の歌が鳴り響いた。

 

*1
レベル:幼年期I タイプ:スライム型 必殺技:『酸の泡』

 小さくて青い色をした竜型デジモンの子供。小さくて非力だが、あらゆる竜型デジモンへの進化の可能性を秘めている。そのため、竜型デジモンの研究者やテイマーには非常に貴重がられているデジモンである。幼年期デジモン特有のひとなつこさと好奇心旺盛な性格で可愛がられている。他の幼年期デジモンと同じで、酸性の泡を吐いて攻撃するが相変わらず威力は無い。

*2
レベル:幼年期I タイプ:スライム型 必殺技:『熱気を帯びた泡』

 個体数が少なく、非常に希少なデジモン。竜系のデジモンの幼年期は絶対的に数が少なく、そのほとんどが成長する前に捕獲や死滅してしまうと言われている。見た目では分からないが、口の中にはびっしりと細かい牙が生えており、力強い竜系のデジモンに成長することを予見させる。非力ではあるが、自分より体の大きなものに向かっていく性質をもっており、そのことが生存率の低さの理由にもなっている。体内が常に高温で熱気を帯びた泡で攻撃する。




お久しぶりです。
アンケートについて、情報が少ないと思ったので少しだけ開示します。

『√アポカリモン その手で掴む為に 』

『√カオスドラモン 星に寄り添う月の世界 』

『√??? 失望の果てに 』

『√ハッピーエンド IF』

上から順に発生する可能性が減って行きます。

√アポカリモンは高い確率で発生。

√カオスドラモンは他人の選択ミスで√分岐。

√???はテトではなく……。
タイトが星野家に執着するイベントが軒並みなくなります。

√ハッピーエンドはそもそも発生する確率がないに等しい。
タイトにとってはハッピーエンド。

ちなみに、本編以外の全ての√は、『バッドエンド』、『メリーバッドエンド』、『グッドエンド』以外に到達しません。タイトル通りに話が進むことはほぼないに等しいです


上記の情報を吟味して、アンケートへの投票お願いします。もう一度アンケートを出しなおしますので、投票のほどよろしくお願いします。
3/29投票締め切りです。
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