産まれた推しの子の電脳物語   作:阿後回

99 / 130

活動報告の『あとがき』に書いたとおり、まだまだサイスル編は始まりません。
しばらくは、アクアの番外編を書いて、その後はサイスル編の前日譚を書かせていただきます。サイスル編のはじまりは……具体的に時間を表すなら、8月以降になると思います。

そして、重要なのは『主人公』をしばらく……うん、しばらく交代します。タイトの物語はいったん終わって、……主人公をバトンタッチになります。

今後ともよろしくお願いします。


伝説
4.1章 起 邂逅 


 

 あれは、茹だるような暑さが残る八月の終わり、星野家の方針の変換の相談が決まる頃の話。

 

 俺は約半月間悩んでいたことを決意した日の夜のことだ。

 

 

 2011年 8月27日

 

 

 

 

 

「「「えぇ────っ、アクア、子役辞めちゃうのっ!?」」」

 

 

 家族全員が、テーブルの椅子に座った俺を睨む。 

 

「……一時的に、仕事を休止するだけだ」

 

 俺はコーヒーに口をつけ、その話を濁した。

 

「おい、アクアっ、アクかなはどうするつもりなんだよっ!?」

 

(…………)

 

 一瞬だけ、相方の少女の顔が思い浮かぶ……、けれど、これはもう決めたことだ。

 

「それも解消だ。俺はしばらく、やりたいことができた。……そもそも、役者をやりたかったわけじゃない」

 

 そもそも俺は自ら進んで子役をやるつもりはなかった。

 アイの仕事を手伝うために、監督に頼まれて子役をやったのだ。俺自身がやりたくて始めたわけじゃない。

 しかもその後、『ストーカー事件』やアイの『隠し子発覚事件』で事務所の経営が傾いてしまったから、俺はウチの大黒柱であるアイの金銭面の補助をするために、子役を続けてただけだ。それを何も考えず流されて続けていただけだった。

 

『あの事件』が起こるまでは。

 

 

(それに、これはいい機会だ)

 

 

 芸能界から足を洗ういい機会だと思った。

 

 俺は子役をやりたかったわけじゃない。

 前世からの夢であった『外科医』に今世こそなるつもりだ。医学の知識に衰えはないが……、

 

(今は、特に気になること……が?)

 

 ふと、横を見ると、アイが悲しそうな顔をしていた。

 

「……役者、楽しくなかった?」

 

(…………)

 

「楽しくなかったわけじゃない……わけじゃないけど……」

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

「グルスガンマモン」

 

 俺はこの状況を静観してる陰に声をかける。

 

「……んぉっ? 俺に用事か?」

 

「頼みたいことがある」

 

 

 世間では土砂崩れとして報道された『あの事件』。

 

 

『ジャンボガメモン殺人未遂事件』

 

 

 アレを見て危機感を感じた。

 

 アイは狙われている。

 

 俺達も狙われている。

 

 だからこそ、簡単に、そして、確実に力を手に入れる必要があった。

 

 ……だから、

 

 

 

 2011年 8月29日

 

『EDEN』の中、『EDEN』で最も郊外にあり、最も荒廃としていて、最も危険なハッカー達が集まっているという噂がある『クーロン』……の近く、地域にあるポツン建てられた一軒家。

 

 ボロボロの看板には、

 

 

『EDENネットワーク教室『ハッヴァー』』

 

 

 と、書かれた看板が立てかけられている。

 

「……ここが?」

 

 グルスガンマモンに言われ、やってきたが……、

 

 

()()()、『E()D()E()N()』《『で一番のハッカーがいるのか》》?)

 

 

 甚だ疑問だった。

 俺は、『EDEN』で通用するようにハッキング技術を学びたかった。グルスガンマモンが得意だとアイから聞いていたから、グルスガンマモンに頼んだんだが……、

 

『……俺に頼むのかよ?』

 

『何か問題があるのか? 

 

『俺達デジモンは……感覚でやってんだよ』

 

『感覚?』

 

『なんとなくだが俺達デジモンには、ネットワークの穴だとか、抜け道だとかそういうのが、感覚的にわかっちまう……、簡単に言えば、『データ』から生まれた存在だから……としか言えないんだがな?』

 

『でも、今のこの世界なら、お前が一番ハッキングがうまいんだろ?』

 

『うまいんだけどなぁ……ああ』

 

『なんだよ』

 

 

『『ギュインッ』とやって、『ズガガンッ!』ってやる……って、言われて伝わんのか?』

 

『…………』

 

『伝わんねえよな』

 

『ここに『人間で一番のハッカー』がいる。会ってこい』

 

 

(…………騙されたの、か?)

 

『EDEN』がサービス開始一年と経っていないのに、ボロボロになっている看板。クーロンのような『EDEN』でも、郊外どころか危険地帯に近い地域に建てられているほったて小屋。

 

「明らかに人が来るような場所じゃない」

 

 頭が痛くなるのを感じながら、30分ぐらい『ハッヴァー』の前で立ち往生していると……、

 

 

「……ら、人……来ねえって!!!」

 

「来るかも……、だからこそ……技術……てるんだ」

 

 

『ハッヴァー』の中から声が聞こえる。

 男性らしき声と、声変わりしはじめた子供の声が言い争っているみたいだ。

 

 

「……だけじゃ、……ならねえって、……のかっ!?」

 

「そんな……ないっ、私はこの店で……EN』の良さ……だっ!!!」

 

 

 話の内容は店の経営についての話……みたいだ。やはり、経営は芳しくないようで……、でも、技術……って、聞こえたような気がする。

 

 

「第一、……シロ』の連中に……たアンタの店を、…………させるわけないだろっ!?」

 

「追い出さ……。自ら、……を書いたんだっ!!! ……では、……つもりは……いっ!!!」

 

 

 ……シロ』? 

 

 なんの話をしている? 

 

「第一、貯金を……現状、もっと金を貯めてから……べきだっ!!!」

 

「そんな時間は……っ!!!」

 

 

 郊外にあるのは、そのせいなのか? 

 話の内容が読めない……というよりも、何か理由があって、こんなところに立てたのか? 

 

 技術には自信がある……、ということは────

 

 

 ────バタンッ!!! 

 

 

「私はここで店をやる。それ以上口答えしてみろ? 出禁にしてやる、から……な」

 

「……あっ!?」

 

 

『ハッヴァー』の扉が開いた。

 壮年の眼鏡の男性と目があう……、うん、俺と完全に目が合ってる。俺がここのパンフレットのデータを握りしめてるのが見えているのだろう。目の色が変わった。

 

「出禁って……俺がいないとまわんねえくせにいったい……ん、何いきなり止まってんだ?」

 

 声変わりしはじめた声の少年の声が、男性の後ろから聞こえてくる……袖を見ると、蒼色のジャージが見えて……、

 

「……君、は?」

 

「……どうも」

 

 俺は手に持ったパンフレットの表紙が見えるように男性へとパンフレットを向ける。

 

(……あっ!?)

 

 猫背だった男性の背筋がピンっと伸びて、

 

 

「こんにちは、君もここで『EDEN』のネットについて勉強をしに来たのかい?」

 

 

 先程までのバリトンボイスから一転、無理にテンションを上げているような、昔一世を風靡したショッピングチャンネルの社長のような、そんな声を俺に向けてくる.

 

(……大丈夫、なのか?)

 

 不安を感じながらも、グルスガンマモンと先程の会話の内容を信じて、目の前の男性に向き合うことを決意する。

 

「……はい、俺はこのネット教室『ハッヴァー』に勉強しに来ました」

 

「────そうかっ!?」

 

 男性は喜ぶようなバリトンボイスの声をあげて、……いや、実際に喜んでいる。

 

(……これで、もう後戻りはできない)

 

 男の人の手が俺の手を掴む.

 

「中で話そう、着いて来て……」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────ッ!?」

 

 

 そんな声が聞こえた途端、俺の手と男性の手を無理矢理弾かれる。

 

(────なんだ、これっ!?)

 

 手は完全に繋いでいたはずなのに、誰かが叩いたわけでもなく、『手のひらが反発し合う』ように、バチンッと大きな音を立てて弾き飛ばした。

 

 ────ずてん。

 

 俺の背中が、扉から飛び出して地面に叩きつけられる。

 

(……いったい、何がっ!?)

 

 同じようにうつ伏せに床に倒れる男性……と、その横で手を『虚空』に動かしている誰か、が────、

 

 

(黒髪の子供っ!?)

 

 

 黒髪の癖っ毛の少年が俺の方を見ながら、指を動かしている……、って、なんだ、これは? 

 

「しかも、ガキかよ」

 

「アラタ、何するんだっ!?」

 

 俺の前に現れた緑色の壁、触ろうとするとなぜか弾かれて、思うように扉の方に近づけない。

 

「おい、おっさん……こんなガキから、金とれんのか、カ・ネッ!!!」

 

「コラッ、アラタ……いい加減にしなさいっ!!!」

 

「────いてっ、何すんだよっ!!!」

 

 俺を無視して、男性と少年が再び言い争いを始める。

 

(……アラタ?)

 

 少年の名前だろうか? 

 男性は少年の頭を叩いた後、指を動かした。

 

「…………」

 

 一瞬で消える緑色の壁……、間違いない。

『EDEN』のデータを書き換え(ハッキングし)て、俺が入らないドアを少年が作り出したんだ……そして、

 

「来てもらって悪いけど、アラタの言うとおり、……ここよりも大手の企業……特に、神城がやっている『EDEN』のネット教室に行ったらいいんじゃないかな? 特に、君みたいな子供は、あっちのほうが学ぶ環境は適していると思うよ?」

 

 強がりながらも……、優しくそう言った男性が緑色の壁を消したんだ。

 

「……いえ、俺は」

 

 正直に言えば、俺は今迷っている。

 このままここで学ぶことができれば、確実にハッキング技術を手にすることができるだろう……だが、

 

(……それで、カミシロに通用するのか?)

 

 

 ・『カミシロ』

 カミシロ・コンポレーション 社長健在 政府主導のもと、EDEN計画が始まる。岸辺リエに注意 社長に俺と同年代の兄妹がいる

 

 ・岸辺リエ

 性格最悪の女 化け物 社長を殺す 

 

 ・末堂アケミ

 要注意人物 カミシロの根幹 聖人 チートキャラ 味方につければ最強 敵になってもなんだかんだ手伝ってくれる優しい人 できれば、味方につけたい 

 

 

 タイトのメモに書かれていた『カミシロ』のデータ。ここで、それに通用するハッキング(技術)を手にすることができるのか? 

 

(このまま引き下がるか? ……それとも?)

 

 俺はふと、俺が中に入るのを止めた少年の方を目で追った。

 

「……んあ? 俺は別にどっちでもいいぜ。俺のレベルについてこれるんならよぉっ!」

 

 少年は俺の視線に気がついたのか、俺のことをバカにするような目で見ながら、俺を煽ってくる。

 

「……いや、別にお前のレベルに合わせる必要はないから」

 

「でも、教えられる教材は五つしかねぇぜ? 俺はひととおり覚えたからいいけどよ。あいつらの勉強はどうすんだよ」

 

 男性と少年が機材について話している。機材は五つしかなく、俺以外にも勉強を教えている子供がいるみたいだけど、様子がおかしい。

 

 ……あいつら? 

 

(それって、誰の────)

 

 

「……なに、なにぃ?」

 

「あれ、お客さん?」

 

「てんちょー、お客さんだっ!!!」

 

「でも、俺達みたいなガキだぜ?」

 

「お金どうすんだよ?」

 

 

「……子供?」

 

 たくさんの子供が『ハッヴァー』の中から出てくる。

 

(……お金?)

 

 子供の身なりは『なぜか』見窄らしい。

 最近できたばかりの『EDEN』を使えるような子供は、俺のように働いて通信機器を手に入れるか、高い通信機器を簡単に手にすることができるが富裕層の子供達だけだ。

 

 子供の発言を思い出して、……疑問はさらに深まる。

 

 

(まさか、『無料(タダ)』で子供に『ハッキング技術』を教えてあるのかっ!?)

 

 

 そんな『荒唐無稽』な妄想が頭をよぎる……が、

 

 

「この子の勉強も、他の子と一緒に教えればいい。ここで教えられるのは、基礎的な知識と身を守る術だけ……後は、自分で学ぶべきだ」

 

「……そーかよ。でも、『EDEN』は最新の技術で作られた『ネットワーク』だ。コイツみたいな新入り入れて、あんたの勉強はどうすんだよ? どんどん技術は発展してってんだろ?」

 

「それも含めて……だよ。彼が門戸を叩いたそのときから、僕はこの戸を開けた人を教えると決めているんだ……それに」

 

 

「僕がついていけなくなったときには、『君』がいるだろ?」

 

 

「……そーかよ。勝手にしろ」

 

「…………」

 

 少年と男性の会話から、『荒唐無稽(妄想)』は事実のように思えた。

 

「さて、話は中でしようか」

 

 男性が俺に手を差し伸べる。

 なぜかはわからないが、タダでハッキングを教える男性が、俺に家の中に入るように声をかけてきた。

 

 

「……あの、さっきから話を聞いていたのですが」

 

 

 俺は、まず初めに『大事なこと』を伝えなきゃいけない。

 

「……ん?」/「なんだ、やめんのかよ?」

 

 手元の『デジヴァイス』を弄って、キャッシュ機能から銀行を開いた。

 

 

()()()()()()()()

 

 

 子役時代に貯めに貯めた、総額2000万円。もしもの時のために貯めていた甲斐があった。

 

 

「「────えっ!?」」

 

 

 俺はすぐに機能を消して、男性と少年の方を向く。

 

「月額、いくら払えばいいですか?」

 

 パンフレットに書いてなかった内容を聞く。今日はそれが知りたかったから、ここにわざわざ足を運んだのだ。

 

「「…………」」

 

 ぼーっと俺を見る2人。

 

「……あの?」

 

 反応がない為、もう一度声をかけると……、

 

 

「おい、お客様だっ!? てめえら道を開けろっ!!!」

 

「えっ、あっ、……そうだね!?」

 

 

 少年と男性が道を開けるように、中にいる子供達に声をかける。

 

 

「「「お客様だ────っっ!?」」」

 

 

 散り散りになって、中に入っていく子供達。

 

「お前の名前はなんて言うんだよ」

 

 少年が俺に声をかけてくる。

 

「俺の名前は」

 

 俺はつい『アクア』と答えそうになるが、一呼吸おいて……、

 

 

()()()()()()()()』!」

 

 

 グルスガンマモンと一緒になって考えた名前を言う。

 

 

「『()()()()()()!!!」

 

「変な名前だなっ!!!」

 

「ほんとにそう思うっ!!!」

 

 視界に入る自分の『黒髪』に違和感を感じながらも、俺は中へと入っていく。

 

 中を見れば、ホワイトボードではない一昔前の『黒板』。

 

 木と釘で再現されたボロボロの机と椅子に座る子供達。

 

 白いチョークで壁に描かれた最新の『探偵漫画』の主人公。

 

 そして、扉の中に入ると教壇に男性が立っている。

 

(……あれは)

 

 数ある机の後ろ……一番後ろの椅子よりも、後ろのロッカーの前に立っている癖っ毛の少年が腕を組んで笑っている。

 

「……さて」

 

 扉の前で立ち止まっている俺を見て、男性や子供達がにんまりと笑って……、手に何か持っている? 

 

 

「「『ハッヴァー』へようこそっ!!!」」

 

 

 パンっ、と大きな音がなんども鳴ると同時に、紙吹雪が舞った。

 

「……クラッカー?」

 

 クラッカーで祝われた? 

 まだ、話もしていないのに、……どうして? 

 

「俺達流の新人祝いさ」

 

「……?」

 

 癖っ毛の少年が固まった俺の前に手を差し伸べる。

 

 

「ようこそ、『ハッヴァー』へ、歓迎するぜ、新入り」

 

 

 癖っ毛の少年、『アラタ』は俺を笑ってみせた。

 

「ああ」

 

 さっきとは違う、歓迎するような微笑みだった。

 




そう、これが俺の本当の始まり。

俺達2人は『ここ』から始まり、『あそこ』で終わった。

俺はもう『雨宮五郎』ではない。

『星野アクア』としての人生は、ここから始まったのだ。

これから始まるのは『俺達』の前日譚。

俺達はたった1人のバカの下に集まり、伝説だと呼ばれ有頂天になって、たった1日で失墜する。


()()()()()()()()()()()()()()()()

8/1に向けた番外編のif√再アンケート (if√ハッピーエンドに、if√ネタバレ含む情報開示あり)

  • 『√アポカリモン その手で掴む為』
  • 『√カオスドラモン 星に寄り添う月世界』
  • 『√??? 失望の果て』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。