そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

106 / 202
106.怪物祭迎えました。極彩色の魔石下さい。

――去年より腕を上げてるっすね

――冒険者、あるいは芸人(エンターテイナー)としての、だがなァ。心を折るンなら四肢を使い物にならなくしてから高級回復薬(ハイポーション)で治すのを繰り返せばいいってそれ一番言われてるから

――それ言ってるのネキだけっすよ。それに、そんな拷問シーン見せちゃったらさすがのお客もドン引きするっす

――市民がモンスターに対して同情的になるってンなら一石二鳥じゃねェか

――ネキって定期的に人の心どっかで落っことして来るっすよね

 

怪物祭(モンスターフィリア)当日。祭の会場――オラリオの東側にある円形闘技場(アンフィテアトルム)の控え室の一つで、エイジャと戯れながら魔道具(マジックアイテム)越しに調教(テイム)ショーを鑑賞なう。

遂に完成した眼晶(オクルス)相当、立体映像(ホログラフ)で映像を音声ごとお届けしてくれる手のひらサイズな便利アイテム。ただし有効距離が直線距離で500M(メドル)と比較的短い。まぁ盗難された際に追える距離って考えたら自然とね。同様に、悪用を避けるため受信側は干渉し合って混線させる仕様にして複数箇所からの映像を一ヶ所に集めるのが無理な設計に。それでも今回みたいな壁越しに様子を確認できるのは十分に有用だ。もちろんそれらを解決(クリア)した本命もあるけど、周囲には内緒。

 

この怪物祭(モンスターフィリア)は、基本的な内容としては調教(テイム)ショーだ。ダンジョンや地上から生かしたままのモンスターを連れて来て、【ガネーシャ・ファミリア】名うての調教師(テイマー)たちに相手をさせる。

ウラノスたち『異端児(ゼノス)』を知る者にとっての目論みは、モンスターへの恐怖や不安の解消、軽減。どこぞのハイエルフが故郷でユニコーンを飼っていたように、人とモンスターが共にある可能性を見せる事で、いつか人々の側に『異端児(モンスター)』がいる日常を迎えるための布石。

一方で『異端児(ゼノス)』の存在を抜きにした周囲から見た場合、モンスターという人類の天敵が屈服する姿を見る事で溜飲を下げるガス抜きになっているのが現状ではある。あるいはモンスターの脅威を見せつけて、冒険者の価値を高め横暴を黙認するよう脅しているようにも見えてしまうが……その辺まで回る頭を持ってるやつは自衛手段を確保してるっていうね。末端まで教育を浸透させられるのはいつになるのやら。

 

調教師(テイマー)役の【象神の杖(アンクーシャ)】が相手をしているライガーファングの攻撃を避けて、避けて、弾いて、鞭で叩けば、痛みに叫ぶモンスターの悲鳴を耳にした観客が沸き立ち、大地を揺るがすような歓声が飛んで控室(ここ)にまで響いて来る。必要な工程を進めている調教師(テイマー)はともかく、観客に関しては悪趣味だなーと思う。

冒険者を野蛮だ暴力的だと罵り陰口を叩く市民や商人の実態は自分より弱い者をいたぶる趣味をお持ちのご同類以下でしかない事を自ら証明しているんだが、その辺をどう思っているのだろうか。隣の子供が顔を真っ青にして涙を浮かべながら震えてるのが見えないくらい興奮して夢中になるのはどうなんだ。家族関係にヒビ入るぞ見知らぬおばさん。

つーか、こんな連中でもエイジャの出番では黄色い声を上げる辺りが一層、こう、度しがたいんよね。あとファンクラブの存在を知らなきゃエイジャの人気にほっこりするだけで済んだんだが、今では邪推する部分も出ちゃったんだよなぁ。

そんでエイジャは渋い顔してどうしたん? 毎年見てるし特に含むところはないって言って……え、あの虎ありがとうございますとかご褒美ですとかって叫んでんの? わーお知りたくなかった。後でアーディに教えておこう。直接伝えるのは怖い。

ちなみに今回からラピスも参加させたい旨をガネーシャに伝えたんだが、残念ながら却下されてしまった。理由としては、見た目からして原種から離れすぎてる事。非常に納得できてしまったのが悲しい。

その代わりと言えばいいのか、ガネーシャ自身はラピスとめっちゃ戯れてた。【神聖文字(ヒエログリフ)】で筆談できるからなラピスは。ネタ塗れの台詞を解読できるガネーシャマジガネーシャ。あと全身を覆ってフルアーマーガネーシャとか言って他のテイム済モンスターに突撃して強引に交流を試みてた。微妙に反撃というか攻撃というかされてたが、当然無傷。強化種でもない下層のモンスターじゃラピスは傷つけられんよ。

ちな、そのラピスは倉庫内の新しい区画(エリア)で発見した謎の生物を引き連れ、これまた新しく発見された蛙や虫といった敵性体を相手に戦いながら、不時着したとされる宇宙人の船を修理している。謎の生物は宇宙人曰くピクピクなんちゃらってのに似てるらしいっすよ。

 

――あれ、予定と違うっすね?

――モンスターが脱走したみてェだな

――ほへー

 

原作イベントが始まったようだが、成長著しいという共通点こそあれど原作の駆け出しLv.1ソロ冒険者とは似ても似つかないLv.3トリオに最大Lv.6相当の協力者が加わった面子なんだよなぁ。果たしてフレイヤは何を仕向けたのやら。今回の祭用モンスターには下層種が数種類いたけど、ベルたちにとっては適正でしかないから移動の手間省けてやったぜ程度なんよね。

 

「【芸術家(ファイアワーカー)】、少しいいだろうか」

 

なんて事を考えてたら、さっきまで舞台に立っていたシャクティがやって来た。どっちに転ぶかね。

 

「どーぞ。ショーとは別に慌ただしいのと関係あンの?」

「隠せはしないか……モンスターが脱走した。見張りの団員は外傷こそないが、意識がハッキリしないので聞き取りができていない」

「ほォ、ンで、アタシにして欲しい事は?」

「観客に気取られないよう夢中にさせてやってくれ。モンスターは残念だが冒険者に討ち取らせるしかない」

「あい、あい。じゃあ今の調教(テイム)が終わったら出るし、時間も延ばすぞ」

「あぁ、頼む」

 

モンスター退治じゃなく混乱回避を選んだか。箝口令は敷けないし、【ガネーシャ・ファミリア】の名声に傷が付いたな。来年以降の開催にも響くし、経済効果を考えたら割と損失でかいよな。

どうせモンスター控えさせてる倉庫の監視魔道具(カメラ)犯神(フレイヤ)映ってるんだし、去年のデータを二倍にした罰金とギルドに三つガネーシャに一つ貸しくらいにしておけばいいんでねーかな。魅了効果だから安全性は確保されてたって言い訳は通るし。

まぁ、どうせ来年には『異端児(ゼノス)』が一部の冒険者に知られるし、そのタイミングで民衆に向けてエイジャの正体って形で暴露した上でアタシたちのような関係を築けるかもって言ったら民衆なんぞ勝手に都合のいい夢見るだろ。でもどうせなら今回の件を教訓に、祭の締めは避難訓練にするようプログラム変更の提案でもしておくか。

つーか今やってる調教(テイム)の目玉で時間稼ぎしてる間に捕獲した方がコスト的には好ましいと思うんだがな。あのケージ護送って結構な手間じゃね?

 

「つーわけだ、少しばかり冒険しようか」

――具体的には何するっすか?

――魔力壁を薄め広めに展開させて害意のある連中を包む。そんでここまで持ってくる。冒険者は途中でポイしていいぞ

――識別はできないっすよ?

――無念

――え、どうするんすか?

――どうせフレイヤの目的はベルたちなんだし、せっかくだから闘技場本来の使い方って事でデビュー戦にするか。フレイヤの望みも叶って一石二鳥だろ

――二鳥ってよりは蝶々な気分っす

 

そんなわけで出番を待ってたんだが、中々調教(テイム)が終わらない。調教師(テイマー)がわざと引き延ばしてるってよりは、集中しきれてない感じだな。

 

「最悪は介入するか」

――今の内から薄く魔力壁張っておくっすか?

――よろしく

――了解っす

 

はい、事故ってピンチになりました。観客の悲鳴が上がる中、エイジャの魔力壁がドーン。平和は守られた。

調教師(テイマー)を下がらせて、ついでだし選手交代の演出だと誤解させるために調教(テイム)に挑戦しますか。

 

「行けっ! エイジャ!」

――僕っすか!?

―― いや、冗談。多少はおどけて見せんとな。魔力壁は解除していいぞ

――ほっ、了解っす

 

いいアイデアと思ったんだけどな。小さいエイジャが大きいドラゴンを従えるのはロマンだし、モンスターがモンスターを調教(テイム)ってちょっと倒錯的だし。

はい、それでは模範的な調教(テイム)のお時間です。まず竜の後方に回ります。次に尾を持ちます。そして振り回します。途中何回か地面で擦ったり、叩きつけるのもいいかもしれません。しばらくしたら動きを緩めていき、そっと下ろします。ぐったりした竜の頭をゆっくり地面に押し付けていき、力強さが微塵も感じられない甲高い声が上がったら完了です。

念のため手を離し自由にした上で回復薬をあげてみましょう。まれに勘違いしたモンスターが再び戦闘態勢に入る場合もありますが、そんな時はにらみつけてあげましょう。伝説の火の鳥がLV51で覚える技ですので素晴らしい効果を発揮するに違いありません。なんであんな不遇だったんかね初代。

はい、起き上がってすぐにスフィンクス座りして頭を垂れましたね。尻尾も股の間に挟まれてますので成功したと言えるでしょう。

 

しかし調教(テイム)って相手を屈服させてるわけだし、された側の心に与える影響は割と大きそうだよな。基本的には檻の中とはいえ人との暮らしに慣れた個体がダンジョンで力尽きたら『異端児(ゼノス)』になる確率上がるんじゃなかろうか。

その意味じゃ原作のシルバーバックくん魅了されてフレイヤに心酔してたしベルとは雌を巡る雄の闘いしたし『異端児(ゼノス)』ポイント高かったよな。惜しむらくは地上で倒された事か。

それとも地上で倒れてもモンスターの魂はダンジョン側に還るんだろうか。それなら別にダンジョン内で死んだ人間の魂を流用したんじゃなくても『異端児(ゼノス)』は生まれるのか。夕陽の記憶とかも地上産だったり調教(テイム)済だったりすれば起きる。抱き締めて欲しいはモンスターよりも原作リリみたいな恵まれない……普通ですらない環境のサポーターなんかが抱く想いな気もするが。そう考えるとやっぱ人間の魂も使われてるか。

でもその論が広まったら来世はつよつよモンスターに、とか言ってダンジョンで集団自殺する宗教団体とか生まれそう。

 

後は調教(テイム)完了したドラゴンを控え室に戻すために元の調教師(テイマー)に引き継いだら、改めてエイジャとアタシの出番だ。

 

「前座は終わりだァ! お待ちかねのエイジャがやって来たぞ、声挙げろテメーらァ!」

「「「わあぁぁぁぁぁ!!」」」

 

この後めちゃくちゃパフォーマンス見せた。

 

事前に提案した移送も成功したし、そのまま冒険者を説得して拒否する連中にはそのまま帰ってもらって、残った面子に一騎討ちやチーム戦を実践してもらった。一気に血生臭い催しになったが、一応引っ張るだけ引っ張って魔石破壊の流れでお願いしてたんで被害は最小限に食い止められたと思う。案の定と言えばいいのか、観客の大半は沸いたままだったし。民度の低さに感謝ですわー!

これで普通の戦闘が人気になったら怪物祭(モンスターフィリア)は……いや別に本命の『異端児(ゼノス)』関連はこっちでどうにかしちまうんだし、後は普通のモンスターがいくら惨殺されようとどうでもいいか。普通のモンスターとは違うってのを嫌になっても分かるまで叩き込めばいいわけだし。漫画やアニメによる文化侵略の怖さを思い知らせてやる。

食人花は極彩色の魔石がバレると面倒だから、力加減を間違ったって言い訳でエイジャに圧殺ならぬ圧搾してもらった。灰しか残さんかったけどね。叩き属性に強いとか言われても、ねぇ。魔力壁ギザギザにして振動させれば突も斬も乗ってとってもお得。まぁ、植物の見た目してるのが悪い。

つーか魔力壁で梱包するの便利すぎてやべぇ。フィン辺りが遠征で同行させようとガネーシャに交渉しないか心配になる程度には便利。薄く張ったのに第一級冒険者(Lv.5)の攻撃も耐えて引っ張って来れちゃったし。エイジャの潜在能力(ポテンシャル)ってどんくらいなんだろな。

 

なお、フレイヤはオッタルにお姫様抱っこで運ばれて来たけど【ガネーシャ・ファミリア】に魅了の件がバレてたからこっそり追われてた模様。やっぱ策ってのは溺れてナンボだよな! まぁベル個人に挑戦させた対集団戦の難易度上げに護衛対象として引っ張って来て、間近で見せてやったらめっちゃ満足して、終了後は大人しく逮捕されてたが。ウケる。

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