そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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113.引き渡しました。ご利用下さい。

「つーわけなンだが、要るか?」

「もう少し穏便にできんのか、貴様は」

「あはは……心の広さと器の大きさに定評のある美人姉妹の妹の方なアーディちゃんでも、さすがにこれは……ちょっと擁護できないかなぁ~」

 

はい、『異端児(ゼノス)』を介してフェルズと連絡を取ったところ、【ガネーシャ・ファミリア】への引き渡しを命じられました。

まぁね、ギルドとしては闇派閥(イヴィルス)壊滅の公式発表して久しいし、今になって新鮮な残党が見つかりましたーなんてのは表沙汰にされたくねぇわな。

で、当の【ガネーシャ・ファミリア】に持って行ったらこの反応である。大きく騒がない辺り、事前に話を通してはいるか。肝心のガネーシャは外出中だったが。

 

「亡くした相手に会いたい連中の執念を甘く見ンなや。手足がなくても這いずってのしかかればスイッチは押せるし、噛み砕いて起動させるやつだっているぞ」

「……その割には怯えて涙している様に見えるが?」

「事前に聞き取り調査してっからな。飴と鞭の鞭をやった結果だ。だから後はお宅らで飴をやれって言ってンの。わかれ?」

 

そう、予め三人ほど夢を叶えるお手伝いしてあげたので感動に打ち震えてるだけだよ。その意味じゃこいつは覚悟がなかったと言うべきか。

こいつら冒険者を巻き込んで自決しなきゃ会えないとか本気で信じてたからな。論破しても良かったんだが、精神崩壊して情報抜けなくなったら困るし止めといた。代わりに『神の恩恵(ファルナ)』を授かった時点で一般人じゃなく冒険者みたいなもんだからそのまま自害してもタナちゃんの真意に沿った形になるよって言いくるめてから先着三名様限定で火炎石噛み砕く権利をくれてやったら我先にとべらべら喋りやがんの。こいつ含めた数名は喋らなかった。命を惜しんだのか、義理を果たそうとしたのかはわからん。

でもまぁ、これは口止めしてなかったタナトスが迂闊なだけだ。あるいはどうでもいいのかも知れんが。

 

タナトスって前世の神話的には職務にマジのガチで真摯な堅物なんだけど、ダンまちにおける天界と神の設定的に元ネタの存在を全否定されてる神の筆頭でもあるのよな。

いやだってさ、神話だと死神として死する運命にある凡人または罪人の魂を回収しに行くお仕事してるんでしょ? ヘラクレスにボコられて魂奪われたりもしてるけど。おのれアポロン。

だのにこの世界だと魂の方から勝手に天界へ昇って来ちゃうっぽいからね。つーか下界に干渉できない死の神って何すればいいのって感じ。いやまぁ死の概念そのものなんだし存在するだけで意義を果たしちゃいるんだろうが。だがまぁ仕事に関しては大真面目なわけで。そりゃもう下界に降りてきて全知から寿命を計測して淡々と死ぬように差し向けて存在意義を全うしようとしても不思議ないわ。

もっと死が溢れるべきって言ってるのもイソップ童話のヤブ医者由来の思想だろ。そのままの意味なら魔法を含む医療技術の発達を否定してて未知否定してんじゃん自分の領分だけは守りたいとか器ちっちゃって思うところだが、こっちじゃ主にダンジョンに蓋をした部分を言ってるわけだし。それも人間じゃなく神々(ウラノス)が降臨して手を出した。その時点で戦争案件ではあったんだろうな。

つーかその辺の落とし所を決めてから降臨して来たんだろうか。今でこそロキだフレイヤだガネーシャだって台頭してるけど、闇派閥(イヴィルス)側は壊滅したルドラくらい? 他は基本的にギリシャ連中が中心だからアイツらホントさぁ……。

いやまぁ単なる自然現象だけじゃなく人々の精神活動にまで細かく深く切り込んで都合の悪い面までそれぞれ神として設定して話を膨らませた古代ギリシャ人の功罪なんだが。そして信仰が廃れても慣習に根を張りすぎて一神教が潰しきれなかったし潰す価値もあんまり感じなかったつよつよ文化の誇る『面白い物語』だしなぁ。

そんな仕事に真面目っぽいタナトスの素の性格が軽いのは、公私の区別って考えりゃ珍しいもんでもないし、休みのなさそうな仕事だからこそ極端な二面性を備えてハジケるのかもしれん。ヘスティアを見ろよ。現代のオリンピックにも通じる絶える事のない聖火を燃やし続ける器も含めた竈の女神だぞ。休めない女神筆頭みてぇな役回りなのにのんびりしていたとかプラトーンに言われちゃう癒し系お姉ちゃん処女神やぞ。クロノスに最初に呑み込まれて最後に吐き出されたから長女なのに最年少とか言われたりもするからこっちでロリ巨乳になってるんじゃねぇのか。なんだこの性癖破壊神。

そういや最初はアタシが臨死体験する度に出て来るアイツがタナトスなのかと思ってたくらいなんだよなぁ。翼生えてたし、死神っぽいし、美形だったけど声が愉悦麻婆だったし。声真似だったらしくてものっそいむせた後で女性の声になったが……ダミ声だったからあれも声真似なんかね。

 

「……まぁいい。それで、貴様の事だ。治せるのだろう?」

「そりゃな。本人が死に魅入られてる限りは治すつもりなンざねェが」

「えーと、先に治すなら話すって場合は?」

「我慢比べの始まりにでもなるンじゃねェの? そもそもアタシからすれば聞き取り調査が終わった時点で用済みに等しいからな。一応オラリオを脅かしかねない勢力を発見したんで憲兵に知らせておくって都市民の義務を果たしてるだけで、念のためな証拠品の提出でしかねェのよ。シャツ捲って背中の『神の恩恵(ファルナ)』見てみろよ。笑えねェ名前が刻まれてンぞ?」

「【神聖文字(ヒエログリフ)】じゃん! 読めないよ!?」

「勉強不足だな。何年オラリオいるンだよ」

 

なお、情報を与えておきながら近い内にアジトと言えそうな人造迷宮(クノッソス)の大掃除に乗り出す模様。情報もらってあたふたして必死に搔き集めた頃には全部終わってる可能性がね。

バルカの主神だし、タナトスの送還は考えてなかったりする。人造迷宮(クノッソス)は引き続き建築し続けて欲しいし。そのための説得材料は考えておかんとなー。ぶっちゃけやつの言う死が足りない状態の解決を何年待てるかって話なんだけどさ。

人間の精神構造が前世のと大して変わらない以上、前世の歴史は嫌になるほど参考になる。こっちの連中もそれこそ古代ですらアルゴノゥトしかり、フィアナ騎士団しかり、現代ですらラキア王国しかり、オラリオ内での抗争しかり、絶対に同じ事を繰り返す。だからあたしがやりたい事をやり遂げたらタナトスの願いは比較的すぐ叶うし、その内にまた裏切られる。

つーか永遠を生きる神からすればこの千年なんてトイレ休憩並だろうに、労働中毒者(ワーカーホリック)め。

 

「お前というやつは、本当に……【ロキ・ファミリア】の遠征予定は聞いているだろうに」

「わーったわーった。今度からはガネーシャにこっそり伝えるだけにしとくっての。今回のこれもなし(キャンセル)だ。忘れろ」

「そんなわけに行くか。はぁ、頭が痛い」

「どうせならガネーシャ様に説得してもらおうよ、お姉ちゃん。ぎゅっとされたら【芸術家(ファイアワーカー)】も考え直してくれるかも」

「なるほど……」

「なるほどじゃねーよ。もしやらかしたらセクハラで訴えて神会(デナトゥス)を裁判に早変わりさせてやンぞ。それと【象神の詩(ヴィヤーサ)】は人を勝手に抱きかかえンな」

「んもーアーディでいいって、いつも言ってるのに。堅いなぁ【芸術家(ファイアワーカー)】は」

「はいはい。そこで気安く名前を呼ばねェ部分は好ましいよ、アーディ」

「えへー、私もそういうちゃんと応えてくれる優しいとこ好き―」

 

地味に何度かガネーシャに熱い抱擁を受けた事はある。そしてその度に投げ飛ばしたり顎を打ち抜いたりした。

まー『異端児(ゼノス)』関連で偏見を持たず人間相手と変わらない姿勢で接してるし、エイジャとラピスに至っては連れて歩いてるしな。そりゃもう一足先に融和してるのを見たら感動もひとしおではあったんだろう。その後も基本的に現行犯を証拠つきで引き渡してるし、調教(テイム)済だったり予定だったりなモンスター用の食材や調教師(テイマー)の安全確保用魔道具(マジックアイテム)なんかも融通してたりするし、主神からの評判は上々なのよな。なお団員。

ちな、ガネーシャは群衆の主を自称して事実人々のために動いているので、変な神様だが性的な意味で変態ではないと信用を築き信頼も寄せられている善神だ。なので半裸の大柄なムキムキ男が幼女を抱えて抱き締めながら感涙にむせび泣いていても、父性や保護欲の発露に見えて事案を疑われずに済んでる。

もっとも、暇してる神々にとってはスクープでしかないんで、神会(デナトゥス)では槍玉に上げられ有罪無罪を論じられ、おおよそ全会一致で有罪判定が下るので続いて処刑方法を検討され、そしてその処刑は有志の手により大々的に告知された上で執行される。なお会場を借りたりビラを製作及び配布したりといった事にかかる諸経費というか処刑費はアタシ持ちな模様。解せぬ。

補足しておくと、第一回の処刑方法はザリガニにガネーシャの顔を挟ませて何匹まで吊るせるかの実験だった。トリビアかな? 第二回は休憩挟まずわんこそば何杯まで食えるか。第三回は……なんだっけ。ひよこの性別鑑定して、ミスの数だけ神連中からしっぺ受けるんだったか? そんな感じに以降も似た風なアホらしい罰ゲームみたいな処刑が続いてる。

 

「まぁいいや、ガネーシャ同席の上でしっかり調書取ってくれ。一応火炎石(ばくだん)とか毒の類を持ってねェのは確認したからそこは安心していいぞ」

「あぁ……いや、やはり治療は今してくれ。さすがに牢屋に入れるにも外聞が悪すぎる。動きを封じるのはこちらのやり方で、しかし逃がさんと主神に誓おう」

「……ふーン。じゃあ少し貸せ。部屋もな。治したら連れて来る」

「あぁ」

 

てなわけで、まず闇派閥(イヴィルス)の構成員を倉庫に収納します。即座に取り出します。手足も取り出します。そっと合わせて幹部に万能薬(エリクサー)モドキを振りかけてから【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】で錬金術そぉい! はい、治りました。念のため包帯巻いて患部は隠しておきます。ではこのまま【象神の杖(アンクーシャ)】に引き渡して、ついでにお土産の焼き菓子を【象神の詩(ヴィヤーサ)】に渡してから帰りましょう。任務完了です。

 

 

 

さー胎児の実験だ。準備は入念に。まずは教会地下にある訓練場の一角を最硬金属(オリハルコン)の分厚い仕切りで密室にして、その仕切りに魔力壁を張る魔道具(マジックアイテム)埋め込んで置こう。多分これで見物人には届かなくて胎児の寄生は起こらない……はず。

次に胎児を置く台を密室内の中央にドン。その周りに寄生しそうな、そしてして欲しい物を設置するスペース。こちらは強化ガラスで覆っておこう。胎児が殻破ってアイキャンフラーイだのアイワナビーフリーだの叫びながら飛び込んだのに透明な壁にべちゃってなるの見たい……見たくない?

悩むのはベルたちに見せるかどうかだな。ダンジョンの中にいるかもしれないって考えたら教えておくべきだが、変な正義感から探し始めても困る。でも今のままだと勝てないって奮起する可能性も高いか。うーむ。

ヘスティアには見てもらいたい。上手くいけば元の精霊を遣わした神に辿り着けるかも知れんし。その意味じゃアリアの名前を尋ねてみてもいいのか。

傾向的にアリアの上司はギリシャ神話の古い神だと思うんよね。それこそ風や大気の精霊なら天空神のアイテルやウラノスが怪しいっていう。こじつけだけど天王星(ウラヌス)の衛星アリアルとウンブリエル――ポープの髪盗人に登場する、守護妖精をする大気の精と悪霊でもある土の精――なんてのもあるし。でもその理屈だと女の精霊を遣わしたウラノスにドスケベ説が……神話の去勢エピソードあるから精霊の性別はどっちもいけるって事か? でもそのエピって、そこに至る流れが醜いからって実の子(モンスター)ポイ捨て事案……よし、考えるの止めよう。こっちでやってるとは限らんし。

 

 

そんなこんなで準備を済ませたんで、説明をして見学希望者に見守られながら実験に移る。

 

「ラジルカくん、この格好は何とかならなかったのかい……?」

「危険はねェはずだが、万に一つってのは考えられるからな。対策しておくに越した事ァねェだろ」

「だからって何でこの格好……」

 

ヘスティアは服こそ普段のあれだが、それにヘルメットと軍手、そして防護盾(ライオットシールド)で防備してもらってる。どうしてなかなか似合うなぁ。とりあえず写真撮って、後でヘファイストスに活動報告の名目で渡しておくべ。なんなら神会(デナトゥス)のネタに使ってもらうんや。

 

『いざとなったら僕らで守るから安心して欲しいっす』

『……(ぷるぷる)』

「あぁ、うん。よろしくお願いするよエイジャ君、ラピス君。頼りにさせてもらうぜ」

「最終関門に身代わり用の人形兵(ゴーレム)置いてるから大丈夫だと思うがねェ」

 

説明の段階で、胎児がモンスターに寄生して乗っ取る現象はみんなに報告してある。その兼ね合いで胎児が何に反応して何を寄生先に選ぶのかを確認するための協力者としてエイジャとラピスを紹介し、補足として『異端児(ゼノス)』の存在についても教えた。

唯一またしても何も知らないヘスティアさん(ン億)だけは、情報の暴力に晒されて瀕死になっていたが、当のエイジャの毛並みとラピスの感触に癒されて復活した。下界に降りて一年も経っていない新神(ニュービー)だけあって、先入観――固定観念は打ち壊しやすかったらしい。こうして常識が非常識になっていくんだなって。

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