そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「つーわけなンだが、要るか?」
「もう少し穏便にできんのか、貴様は」
「あはは……心の広さと器の大きさに定評のある美人姉妹の妹の方なアーディちゃんでも、さすがにこれは……ちょっと擁護できないかなぁ~」
はい、『
まぁね、ギルドとしては
で、当の【ガネーシャ・ファミリア】に持って行ったらこの反応である。大きく騒がない辺り、事前に話を通してはいるか。肝心のガネーシャは外出中だったが。
「亡くした相手に会いたい連中の執念を甘く見ンなや。手足がなくても這いずってのしかかればスイッチは押せるし、噛み砕いて起動させるやつだっているぞ」
「……その割には怯えて涙している様に見えるが?」
「事前に聞き取り調査してっからな。飴と鞭の鞭をやった結果だ。だから後はお宅らで飴をやれって言ってンの。わかれ?」
そう、予め三人ほど夢を叶えるお手伝いしてあげたので感動に打ち震えてるだけだよ。その意味じゃこいつは覚悟がなかったと言うべきか。
こいつら冒険者を巻き込んで自決しなきゃ会えないとか本気で信じてたからな。論破しても良かったんだが、精神崩壊して情報抜けなくなったら困るし止めといた。代わりに『
でもまぁ、これは口止めしてなかったタナトスが迂闊なだけだ。あるいはどうでもいいのかも知れんが。
タナトスって前世の神話的には職務にマジのガチで真摯な堅物なんだけど、ダンまちにおける天界と神の設定的に元ネタの存在を全否定されてる神の筆頭でもあるのよな。
いやだってさ、神話だと死神として死する運命にある凡人または罪人の魂を回収しに行くお仕事してるんでしょ? ヘラクレスにボコられて魂奪われたりもしてるけど。おのれアポロン。
だのにこの世界だと魂の方から勝手に天界へ昇って来ちゃうっぽいからね。つーか下界に干渉できない死の神って何すればいいのって感じ。いやまぁ死の概念そのものなんだし存在するだけで意義を果たしちゃいるんだろうが。だがまぁ仕事に関しては大真面目なわけで。そりゃもう下界に降りてきて全知から寿命を計測して淡々と死ぬように差し向けて存在意義を全うしようとしても不思議ないわ。
もっと死が溢れるべきって言ってるのもイソップ童話のヤブ医者由来の思想だろ。そのままの意味なら魔法を含む医療技術の発達を否定してて未知否定してんじゃん自分の領分だけは守りたいとか器ちっちゃって思うところだが、こっちじゃ主にダンジョンに蓋をした部分を言ってるわけだし。それも人間じゃなく
つーかその辺の落とし所を決めてから降臨して来たんだろうか。今でこそロキだフレイヤだガネーシャだって台頭してるけど、
いやまぁ単なる自然現象だけじゃなく人々の精神活動にまで細かく深く切り込んで都合の悪い面までそれぞれ神として設定して話を膨らませた古代ギリシャ人の功罪なんだが。そして信仰が廃れても慣習に根を張りすぎて一神教が潰しきれなかったし潰す価値もあんまり感じなかったつよつよ文化の誇る『面白い物語』だしなぁ。
そんな仕事に真面目っぽいタナトスの素の性格が軽いのは、公私の区別って考えりゃ珍しいもんでもないし、休みのなさそうな仕事だからこそ極端な二面性を備えてハジケるのかもしれん。ヘスティアを見ろよ。現代のオリンピックにも通じる絶える事のない聖火を燃やし続ける器も含めた竈の女神だぞ。休めない女神筆頭みてぇな役回りなのにのんびりしていたとかプラトーンに言われちゃう癒し系お姉ちゃん処女神やぞ。クロノスに最初に呑み込まれて最後に吐き出されたから長女なのに最年少とか言われたりもするからこっちでロリ巨乳になってるんじゃねぇのか。なんだこの性癖破壊神。
そういや最初はアタシが臨死体験する度に出て来るアイツがタナトスなのかと思ってたくらいなんだよなぁ。翼生えてたし、死神っぽいし、美形だったけど声が愉悦麻婆だったし。声真似だったらしくてものっそいむせた後で女性の声になったが……ダミ声だったからあれも声真似なんかね。
「……まぁいい。それで、貴様の事だ。治せるのだろう?」
「そりゃな。本人が死に魅入られてる限りは治すつもりなンざねェが」
「えーと、先に治すなら話すって場合は?」
「我慢比べの始まりにでもなるンじゃねェの? そもそもアタシからすれば聞き取り調査が終わった時点で用済みに等しいからな。一応オラリオを脅かしかねない勢力を発見したんで憲兵に知らせておくって都市民の義務を果たしてるだけで、念のためな証拠品の提出でしかねェのよ。シャツ捲って背中の『
「【
「勉強不足だな。何年オラリオいるンだよ」
なお、情報を与えておきながら近い内にアジトと言えそうな
バルカの主神だし、タナトスの送還は考えてなかったりする。
人間の精神構造が前世のと大して変わらない以上、前世の歴史は嫌になるほど参考になる。こっちの連中もそれこそ古代ですらアルゴノゥトしかり、フィアナ騎士団しかり、現代ですらラキア王国しかり、オラリオ内での抗争しかり、絶対に同じ事を繰り返す。だからあたしがやりたい事をやり遂げたらタナトスの願いは比較的すぐ叶うし、その内にまた裏切られる。
つーか永遠を生きる神からすればこの千年なんてトイレ休憩並だろうに、
「お前というやつは、本当に……【ロキ・ファミリア】の遠征予定は聞いているだろうに」
「わーったわーった。今度からはガネーシャにこっそり伝えるだけにしとくっての。今回のこれも
「そんなわけに行くか。はぁ、頭が痛い」
「どうせならガネーシャ様に説得してもらおうよ、お姉ちゃん。ぎゅっとされたら【
「なるほど……」
「なるほどじゃねーよ。もしやらかしたらセクハラで訴えて
「んもーアーディでいいって、いつも言ってるのに。堅いなぁ【
「はいはい。そこで気安く名前を呼ばねェ部分は好ましいよ、アーディ」
「えへー、私もそういうちゃんと応えてくれる優しいとこ好き―」
地味に何度かガネーシャに熱い抱擁を受けた事はある。そしてその度に投げ飛ばしたり顎を打ち抜いたりした。
まー『
ちな、ガネーシャは群衆の主を自称して事実人々のために動いているので、変な神様だが性的な意味で変態ではないと信用を築き信頼も寄せられている善神だ。なので半裸の大柄なムキムキ男が幼女を抱えて抱き締めながら感涙にむせび泣いていても、父性や保護欲の発露に見えて事案を疑われずに済んでる。
もっとも、暇してる神々にとってはスクープでしかないんで、
補足しておくと、第一回の処刑方法はザリガニにガネーシャの顔を挟ませて何匹まで吊るせるかの実験だった。トリビアかな? 第二回は休憩挟まずわんこそば何杯まで食えるか。第三回は……なんだっけ。ひよこの性別鑑定して、ミスの数だけ神連中からしっぺ受けるんだったか? そんな感じに以降も似た風なアホらしい罰ゲームみたいな処刑が続いてる。
「まぁいいや、ガネーシャ同席の上でしっかり調書取ってくれ。一応
「あぁ……いや、やはり治療は今してくれ。さすがに牢屋に入れるにも外聞が悪すぎる。動きを封じるのはこちらのやり方で、しかし逃がさんと主神に誓おう」
「……ふーン。じゃあ少し貸せ。部屋もな。治したら連れて来る」
「あぁ」
てなわけで、まず
さー胎児の実験だ。準備は入念に。まずは教会地下にある訓練場の一角を
次に胎児を置く台を密室内の中央にドン。その周りに寄生しそうな、そしてして欲しい物を設置するスペース。こちらは強化ガラスで覆っておこう。胎児が殻破ってアイキャンフラーイだのアイワナビーフリーだの叫びながら飛び込んだのに透明な壁にべちゃってなるの見たい……見たくない?
悩むのはベルたちに見せるかどうかだな。ダンジョンの中にいるかもしれないって考えたら教えておくべきだが、変な正義感から探し始めても困る。でも今のままだと勝てないって奮起する可能性も高いか。うーむ。
ヘスティアには見てもらいたい。上手くいけば元の精霊を遣わした神に辿り着けるかも知れんし。その意味じゃアリアの名前を尋ねてみてもいいのか。
傾向的にアリアの上司はギリシャ神話の古い神だと思うんよね。それこそ風や大気の精霊なら天空神のアイテルやウラノスが怪しいっていう。こじつけだけど
そんなこんなで準備を済ませたんで、説明をして見学希望者に見守られながら実験に移る。
「ラジルカくん、この格好は何とかならなかったのかい……?」
「危険はねェはずだが、万に一つってのは考えられるからな。対策しておくに越した事ァねェだろ」
「だからって何でこの格好……」
ヘスティアは服こそ普段のあれだが、それにヘルメットと軍手、そして
『いざとなったら僕らで守るから安心して欲しいっす』
『……(ぷるぷる)』
「あぁ、うん。よろしくお願いするよエイジャ君、ラピス君。頼りにさせてもらうぜ」
「最終関門に身代わり用の
説明の段階で、胎児がモンスターに寄生して乗っ取る現象はみんなに報告してある。その兼ね合いで胎児が何に反応して何を寄生先に選ぶのかを確認するための協力者としてエイジャとラピスを紹介し、補足として『
唯一またしても何も知らないヘスティアさん(ン億)だけは、情報の暴力に晒されて瀕死になっていたが、当のエイジャの毛並みとラピスの感触に癒されて復活した。下界に降りて一年も経っていない