そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「それじゃ始めるか。【吐け】」
「うっ、これは……」
「これが……これに、精霊が関係して……?」
倉庫から取り出して台の上に安置された胎児in卵っぽいのは、一応生物扱いなのか、意識を失っているらしかった。体躯に対して比率が大きい目を閉じて、安らかに呼吸しているのが見える。つまり生卵の保存方法に倉庫は最適って事か。無精卵だと物扱いだろうか?
『あ、動いたっす』
ややあって、胎児はスッと目を開ける。そして目の前にいるアタシと目が合うと、驚いた猫のように瞳孔をキュッと絞って髪らしき部位をぶわりと立てて広げた……威嚇だろうか?
「あー、言葉はわかるか?」
『……』
無反応だな。周囲の様子を確認するでもなく、こちらと目を合わせたままじっとしている。まさかとは思うが
「反応がないですね……って、神様!? 大丈夫ですか?」
「わ、顔が真っ青です」
背後では何やらヘスティアが気分を悪くしている模様。果たしてどういう理由からの反応なのか、本人の言葉が欲しいところだ。
「とりあえず今のところ自分から動きはしねェ、か。じゃあ順繰りに餌の候補を目の前に差し出して様子見だ。まずは動かねェ物から」
そうして魔石を置くが無反応、極彩色の魔石には小さな手をバタバタさせて反応するも、殻を破って来たりはしない。続いて
「さて、それじゃ次は生き物だ」
『出番っすね!』
『――祈って(うにょーん)』
現状、胎児は基本的にアタシをガン見して、アタシが目の前に物を持ってくる事でそちらに注目するようになる。つまり、周囲で見守ってる面々には視線すら向けていないわけで、特別な反応を見せるのか実に微妙なラインだったりする。
ついでに、殻を破って飛び出してきた場合に保護しないでどれだけ生き延びられるのかわからんし保護する方法が合ってるかも微妙なんだよなぁ。まぁ初回でぶっつけ本番しかも凡人の考えならそんなもんだが。
「何も……起きなかったね……」
「……うっす」
「それも成果だぜ、ラジルカくん」
「うっす、あざす」
「気を落とさないで下さい、お姉ちゃん」
「優しさが染み渡るゥ……」
はい、慰めの言葉を頂いている事からおわかりなように、例のごとく手を伸ばしたりバタバタさせたり、瞳孔を拡げたり絞ったりの反応は起きましたが殻破りは起きませんでした。実験は、まぁ無事に終わって成功っちゃ成功です。
『平和が一番っす』
『――これは……匹敵するか……(ぷるぷる)』
神にも『
「……そういやいたなァ、精霊の血が流れてるやつ」
「……まさか、貴様」
「あー、クロッゾだよ。ラキア王国の没落した鍛冶貴族。アルゴノゥトにも出てくる初代が精霊に血を分けてもらって魔剣打てるようになったのに、子孫が間接的に精霊の住処でもあるエルフの森を焼き払っちまったせいでそっぽ向かれて魔剣打てなくなった間抜け一族。精霊の血を引いちゃいるが、一部の精霊にとっちゃ敵でもある」
「……なるほど」
姉御はアイズの事を言ってると思ったんだろうが、そっちは外伝で魔法に反応して活性化するのわかってるからなぁ。失敗確定の実験はする気にならん。
だからってクロッゾに精霊との繋がりを演出させるってもなぁ……ヴェルフに魔剣打たせるのが一番近いか。でも確実に本人からは反発されるし、話を通す段階で
そういや魔剣じゃなくてもスキル乗せて打てねぇんかな。乗せると嫌でも魔剣になりそうだが。
物語的に前世とガッツリ絡むんだし、初代クロッゾが助けた精霊って多分ヘファイストスの精霊なんでしょ? 鍛冶の精霊って属性としてニッチだから火か土か金辺り、もしくは複合の精霊になるんだろうけど。どうせなら血の効果で魔剣解禁だけじゃなく鍛冶の腕も自然と良くなってくれればよかったのに。ヴェルフの性格からすると初代クロッゾも偏屈で、精霊の力で鍛冶が上手くなってもダメとか言いそうだけどさ。
まーそもそも魔剣拒否ニキだから魔剣の生まれる可能性があるだけでも実験協力は拒否られて無理かね。
つーかアタシ個人としてはゲーム的な耐久値が存在すると考えれば魔剣は極端に耐久値が低い……ファイアーなエムブレムやいきもののサガに登場したガラスの剣とかの類って事なだけなんで、全く違和感がないんだよなぁ。いやまぁ修理システムがあって壊れた武器シリーズが実装されてる中でも問答無用にロストするって考えれば特別感はあるが。
武器は相棒的な考えは愛着の問題だし分かるんだけど、魔剣は先に逝くから嫌ってのは、こう、若いよなぁ。自己犠牲精神があるなら武器の側として使い手を守れる事を誇りながら砕ける幸せってもんに辿り着けそうなもんだが。守れず死なれるのと守り切って死ぬのと二択だってんならアタシは後者を選ぶし。つーか武器より人命のが大事って大前提じゃねぇの。天秤壊れてねぇか。
もちろん残される側の悲しみに目をやれば守り切って全員で生き延びるのが最善ではあるんだが、そのためにはただただ強くならなきゃないわけで。そして間に合わないかもしれない恐怖に怯えながら適度に死ぬ気にならなきゃないはずで。その意味じゃ縛りプレイの舐めプしてる口だけマンとか腹は立つよな。持てる者の余裕ではあるんで、見返してやりたきゃ自分が上に行くしかなくて、結局は努力に走るしかないんだけど。
つーか壊れない魔剣ってさ、この世界だとゴブニュ側でとっくの昔に実現してるんだよな。ゲーミングウォーシャドウの腕使った魔石製品でもある武器。魔法効果が武器の強度補正だから微妙ではあるし、素材依存ではあるけど、外部からの魔力供給システムは完成済なんだよな。持ち手の魔力じゃなくダンジョン内で自給自足できる魔石を使った壊れない魔剣。まぁ、あれ以降ゴブニュ側でも音沙汰ないから失伝してたりしないか心配ではあるな。後で確認しよう。そういやアレってダンジョン内で武器作って実験してなかったっけ? ヴェルフの初めてが色々と崩壊してんな。わはは、やべーい。
やっぱり胎児の実験を理由に【
つーか拗らせたままだと最悪ソロで無理して死ぬか、変なパーティに混じってクロッゾバレから問題起きて殺される可能性もある。後はラキア出兵に合わせて侵入してきた家族に連れ帰られる可能性も。でもその場合は眷族を奪われたヘファイストスがキレてラキア王国に逆侵攻が起きるんだよなぁ。主神が戦争の狂乱を司る悪い意味で頭のおかしいバカだから仕方ないのかもしれんが、もう少し考えて欲しいよね。神話だとヘファイストスの妻がアフロディーテで、それを恋人にして子をなしてるからなアレス。下手すると戦争じゃなく駆除になる可能性ワンチャン。
アレスと言えば従属神にフォボスがいたが、あれもギリシャ神話の親子でもあり、天体の
まぁ貴重な胎児ではあるが、栄養が供給されてない状態でいつまで耐えられるかわからんし、ヴェルフの成長なんぞ待ってられん。さっさと浄化の実験に移るか。
いざとなれば穢れた精霊本体に生んでもらえばいいし。なんとなく本体を浄化したら新規に分身生み出したりとかできなくなりそうだから浄化前に生んでもらわんとな。モンスターの生け贄が必要になるからダンジョンには嫌がられそうだが。
「それじゃ浄化を試すぞー」
【
「で、この子が生まれたってわけ」
「えぇ……」
「……そうか」
結局アタシは
「じゃあ、挨拶を」
『ドーモ、ルビス・ニンジャです』
「「アイエッ!?」」
うん、そうなんだ。ガッツリ第四の壁を突破してるラピスの同類が誕生しちゃったんだ。生まれた瞬間から主従契約済。原作リリかな? その代わりと言ってはなんだが、穢れた精霊との繋がりだとか記憶だとかは押し流されて残ってない。おかげで情報で有意に立つ作戦は失敗だ。
とはいえ穢れた部分を除いたら最早みそっカスにもほどがある脱け殻状態だったらしく、原型を留めない大手術で命というか存在を繋ぐしかなかったのだとか。つまり胎児を奪って浄化するのは得策ではないって事だな。
ちなみにヘスティアが顔を真っ青にしてたのは緊張してるところに割とグロテスクな胎児の姿を見て酸欠気味になったらしく体調不良を引き起こしたらしい。うーむ、この締まらない感じはヘスティアだなぁ……と、言いたいところではあるが、割と――ベルにすらバレバレな嘘を吐いてます感が漂っていた。つまり何かしら勘づいた事があるっぽい。アタシらには伝えない方がいいと判断した、何かが。まぁ、原作や外伝と違ってシリアスぶっても割と大した事ないのがこの世界における通例なんで無理矢理聞き出す必要もないっしょ。
とりあえず今は