そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

122 / 202
122.相談しました。落ち着いて下さい。

あの後、『異端児(ゼノス)』だと発覚した竜とは穏便というか和やかに会話は進み、倉庫経由の輸送を快諾してもらえた。なので気絶中な元精霊の分身(デミ・スピリット)と寄生先にされていた竜を倉庫に収納。目標は達成された。

帰り道にもう一体くらい精霊の分身(デミ・スピリット)を奪いたい気持ちはあったが、欲張りすぎるのもまずいので帰還を優先……したらタナトスが闇派閥(イヴィルス)や極彩色モンスターを生け贄に使って六円環を実行しちゃいそうだったから一体潰しておいた。それでもまだイシュタルの雄牛を代用して六円環される可能性もあったが、エニュオはそれに使った胎児を不良、ちがうな、劣化……粗悪品だったっけ? とりあえず不出来な感じのコメント残してたから半端な結果に終わるっしょ。そもそもそんな心配をし始めたら胎児がいくつあるかもわからないアタシはおちおち夜しか眠れなくなっちまう。

 

「まぁ、そんな心配を台無しにしてくれる素敵なプレゼントが目の前にいるわけだが」

『フフ……ネェ、遊ビマショウ?』

「門限が近ェからテメーが泊まりに来いや。ルビスもご新規様も仲間が増えて喜ぶだろーよ」

『ウフッ、アハハハ……素敵ネ! トッテモ素敵!』

 

牡牛か雄牛か統一してくれねぇから記憶が混同して大変だが、とりあえず前世記憶だと古戦場のお肉な印象が一番強い名前のグガランナちゃん。次点はリョーゴのFAKE。フワワだとふわふわもふもふでかわいい印象あるけどフンババだとゴリマッチョで厳つい印象あるよね。どうして差がついたのか……慢心はともかく、翻訳は環境の違いではあるか。

こちらとしては監視カメラの前で浄化するわけにもいかないんで、適度にボコって返すのが穏当か? 暴れさせたら床とか壁の修復まで請け負う羽目になるしな。カメラ破壊も手だけど、カメラに気づかれてるって察知されるのは避けたい。こういうのは最高のタイミングで台無しにしてやらないとね。

 

「ちなみに外へ連れ出せるかもしんねー方法あるが試してみるか?」

『イラナイ! スグニ叶ウモノ!』

「交渉決裂、か。なら、コイツを食らいな」

 

しかしコイツ、寄生先のモンスターが思い切り前衛だけど、精霊の分身(デミ・スピリット)自身の適性は後衛。好意的に見れば前線を掻き乱しながら大規模な魔法で一掃できるんだが、中立的な視点から見た場合のコイツって弱点丸出しのままわざわざ前線に出てくる馬鹿なんだよな。ACTやSTGみたいなゲームに出てくるボスとしては弱点がわかりやすいけど狙いにくくて崩しが必要になる良ボスになるかもしれんが。射撃で魔石砕かれて瞬殺されそうとは言うまい。

一応、剣だの槍だので戦う連中相手になら大きさと質量と勢いで上半身はある程度までなら守れるし、遠距離攻撃に対しても障壁の一つや二つは張れるだろうが……中、遠距離攻撃からの飽和攻撃を防ぎきれるデザインではないんだよな。イシュタルに絡めた結果がこれだよと言いたくなる。

食人花に寄生したやつみたいに盾代わりにできる触手を多く持つわけでもないし、障壁頼りじゃ攻撃魔法が撃てないどころか最悪牛部分で別個に詠唱できても思考リソースまで削られて棒立ちまであるだろ。胎児の時点で酷評されて、それでもめげずに精霊の分身(デミ・スピリット)として羽化までしたのに報われないグガランナちゃんかわいそう。

 

『バーリバーリ、ムーシャムーシャ』

「手持ちはこれだけだから大事に食えよ。近い内にまた来るから今日は大人しく元の場所に戻ってな」

『ワカッタ、マタネー!』

 

上機嫌な様子でのっしのっしと元の場所に戻っていく牛型。いいのかそれで。

やった事は単純で、さっき仕向けられたモンスターから引っこ抜いておいた極彩色の魔石を小袋ごと渡して取引を成立させただけである。餌付けにしか見えないって? 奇遇だな、アタシもだ。

んなアホなと言いたくなる気持ちはわかるが、ついさっきも無反応かと思ったら極彩色の魔石を食った例があるからなぁ。試しに取り出した時点で動きが止まる程度には効果あったんで、そのまま友好的な態度で懐柔したわけだ。

信じて送り出した大型兵器が壁ぶち抜くだけぶち抜いて特に何もせず帰ったとか、今頃は闇派閥(イヴィルス)も頭抱えてるんじゃなかろうか。バルカ発狂してそうだし、監視カメラ潰してからここ一枚だけでも壁の修理しておくか? いや、元はと言えば未だに人造迷宮(ここ)を拠点に使う闇派閥(イヴィルス)が悪い。少なくとも抗争後にアタシがオラリオで活動し始めた辺りで始末しに来なかったのは楽観的すぎるだろ。思い切りダイダロス・オーブ持ってて限定的だけど地形も把握されてんのに。いやまぁこっちも残党狩りとかには動かんかったし、12階層も18階層も放置してたから何かしら勘違いしたのかもしれんが。

しかし、なんだ。精霊の分身(デミ・スピリット)は邪悪ではあるが無垢でもあるんだよな。良くも悪くも子供っぽい。泣き叫んだりするの見てキャッキャする辺りの残酷さはどっかのくじらの姿した創造神を思い出すが、人間の幼児も派手な動きに反応して喜ぶ傾向はあるんだわ。これが穢れた精霊もなのか、生まれて若い個体だからなのかは微妙に気になる。怪人(クリーチャー)の頭の中に響く声も本体なのか直系の親に当たる分身なのか不明だったはずだし。

つーか、ぶっちゃけ下界で邪神に区分されるような連中が混沌目的で派遣した精霊とかいたらほぼ同質なんじゃねぇの? 正規の精霊だとモンスター食って強化はできないかもしれんが。

 

そういやレヴィスに会わなかったな。両腕なくして絶望中か? いうて自己再生で生やせなかったっけ怪人(クリーチャー)って。戒めに傷を残したとしても両腕なしはキツいだろ。まぁこっちが楽できる分にはいいけど。

 

 

 

「――てな事があったわけだ」

「ベル君、胃薬を持って来てもらえるかい? ボクはお水を用意して来るから」

「あ、あはは……」

 

夕食を囲みながらの報告を聞いて、ヘスティアはシクシクモードなご様子。胃薬よりも回復薬(ポーション)のがよくね?

 

「それで、精霊の六円環とやらは発動を警戒しなくていいのか?」

「古の大精霊が六つだろ? 元の格はわからんが、おそらくは格下になる精霊の分身(デミ・スピリット)六体で真似するには出力不足に思えるな。推定供給元になる貯蔵庫(タンク)も分解して丸ごと回収して来たし」

「新しい『異端児(ゼノス)』ですか。仲良くなれるといいのですが」

「邪竜とオラリオの街とじゃ、必要な力も変わるだろうよ。しかも街相手なら動きを押さえる役目も要らねぇだろ」

「それは確かに考えたが、なら最初から六円環じゃなくてよくねーかって気もすンのよ」

 

外伝じゃディオニュソスが壁画から着想を得た的な感じだったと思ったが、その意味じゃあの神って嘆く人間を見続けて来たんだし、当時の事件もリアルタイムで見て余計な真似しやがってとかキレてたんだろうか。

ニーズホッグだから対処したのはきっと北欧系の神だよな。それこそヴィーザルとかバルドルとかラグナロク後も生き延びたり復活したりで人間を見守る系の神じゃね? でもこの世界って神も転生するせいでラグナロクが何度も起きてそうなんだよな。『神の力(アルカナム)』あるからすぐ元通りになるし、自力で転生というか復活できそうだし。

関係ないけど、ずる賢い神なせいでラグナロク起こしておきながら自分はヘイムダルと相討ちになって抱き合うように倒れて眠るロキのヤンホモ説がアタシの中にはあるんだよな。この世界だとロキが女神だから世界丸ごと道連れ――生け贄に捧げる激重メンヘラ女の可能性がワンチャン?

 

「……遊び半分か」

「残る半分は本気って事でもあるがなァ。少なくとも成功する分にゃ、一矢報いる以外は考えてなさそうな連中の目的は達せられるわけだし」

闇派閥(イヴィルス)か……元よりオラリオが敗北した場合は責任を持って皆殺しにするつもりだったゴミ共だ」

「皆殺し!?」

「そうだな。本来なら託した側が出しゃばるのもアレだが、こうして今がある以上は責任を果たすべきか」

「にやけてンぞ先輩方。本音は?」

「「【経験値(エクセリア)】が得られる好機(チャンス)だ」」

「「「ですよね~」」」

「納得しちゃうのかい!? 君ら英雄を目指すんじゃなかった!?」

 

姉御とオッサンがやる気だけど、なんだかんだ使ってくる呪詛(カース)がうっとおしいんだよな連中。多分だけど他人を妬んだり恨んだり足引っ張ろうって考える後ろ暗い人生送ってると生えてくるんだろうし。解呪用の聖水的なのって何かあるっけ? みんな大好き【戦場の聖女(デア・セイント)】なら持ってるんだろうけど。

 

「まー今回は情状酌量の余地があるやつはほとんどいねェし、改心の可能性に至っては皆無だ。そンな連中でも黒竜討伐の悲願を叶える礎になれるってェなら、少なくとも生まれてきた価値くれェにはなンだろ」

「うーむ、間違いなく賛同しちゃいけないタイプの意見なんだけど、それだけ堂々と主張されると流されてしまいそうな……」

 

ヘスティアは情報処理に手間取って本調子じゃないみたいだな。本来ならキレのあるツッコミで場を沸かせてくれただろうに。お労しやヘス上……。

 

「決行日時は?」

「明日の午前中でよくね? 多分今頃はアタシの置き土産相手にどったんばったんしてるだろうし」

「置き土産ですか?」

「そうだぞ、愛しいリリ。行きと帰りで微妙に違う道を通り各所に仕込んできた罠……まぁ破壊されると圧縮空間から戦闘特化型の人形兵(ゴーレム)を20体程度解き放つ魔道具(マジックアイテム)と組み合わせた時限爆弾がな、えーと、15分くらい前に爆発したはずだな」

「ほへー」

 

通路や広間――迷主の間とかにも。見た目はどこにでも落ちてるような小さなゴミに擬態している爆弾だ。あの薄暗い部屋に黒塗りのビー玉やら針金やらが転がってても気づけるやつはほとんどいねぇだろうな。極彩色のモンスターに掃除担当がいたら処理されるかもわからんが。キモ虫の溶解液なら……床まで溶けるから使わんと思いたい。

 

「戦闘特化型だと性能はどんな感じなの?」

「基本的にLv.4程度で、片手槍または弩と大盾で武装した全身鎧だな。腕、脛にそれぞれ弩が内蔵されてて下手に接近すると至近距離から射撃してくる。一応、各部12発しか装填されてないから弾切れはそれなりに早いんだが……胸部には魔剣に近い魔道具(マジックアイテム)を仕込んでて、今度こそと接近してきたやつを焼いたり凍らせたり感電させたりするぞ。腹部には捕縛用のワイヤーアームも仕込んであるからチェーンデスマッチに持ってく事もできる。頭部には神酒(ソーマ)入りのカプセルを練り込んだトリモチが詰まってて、当てたら体も頭も動きを阻害するから無力化にお役立ちだ。当然、火炎石も仕込んであるからいざという時は……自爆する」

「ひたすらエグい……」

「さすがです、お姉ちゃん!」

「それで、設置した数は?」

 

ベルとヘスティアはドン引きし、リリは全肯定。姉御は考え事をしているようで、代わりにオッサンが不足している情報を尋ねてくる。さすがのベテラン、冷静だった。

 

「大体30個」

「「えっ」」

「えっ」

「「なにそれこわい」」

 

ベルとヘスティアが仲良しすぎる件。姉御、事案ですぜ!

 

「Lv.4相当が600体ともなればあの抗争よりも上、最早オラリオを呑み込める戦力だが……闇派閥(イヴィルス)はそこまでしなければならない規模なのか?」

「いンや。向こうの主神がいるだろう部屋にも置いてきたからな。普通に確保できるだろうし、それなら取り返されないようにって思って守り抜くために少し多く置いてきた」

「ふむ……幹部辺りは主神を置いて逃げるのでは?」

「ギルドのブラックリストに入ってる似顔絵は記録させてるから優先的に狙うし、その上で無力化を第一に動くようにしてあるンだが……正直自信はない」

 

姉御が鋭い指摘をしてくるが、確かに可能性を排除できない部分ではある。それでも一番逃がすと面倒な【殺帝(アラクニア)】用の仕込みはしてあるんだが。

 

「え、そ、それじゃ危険人物が野に放たれちゃうんじゃ!?」

「そうだぜラジルカくん、いくら主神を送還してしまえば『神の恩恵(ファルナ)』が封印されるって言っても、最短で明日のお昼とかだろう? 半日もあったらそこそこ遠くの村とかに逃げ込めちゃうぜ?」

「あー、まぁLv.5のままだろうし、初手逃走を防ぐために伝言(メッセージ)を流すようにしてるから大丈夫じゃねェかな」

 

そう、闇派閥(イヴィルス)としてはまず大混乱に陥るだろう。そこに音声が流されたらどうだろう。一度静まって反応をうかがっちゃうのが人間ってやつじゃないか?

そして流れてくるのは裏切り者と呼ばれたアタシの自己紹介と大抗争の感想。そしてその後は名指しで【殺帝(アラクニア)】を煽りに煽る。まぁ収録したのがオラリオに再度定住した頃なんで七年前までと外伝知識を参考に想像が多分に含まれる内容なんだが、いっそ正誤は関係ないからね。ひたすらに罵り貶め尊厳を踏みにじる。たったそれだけではある。

が、周囲には闇派閥(イヴィルス)がたくさんいるわけで。人前で侮辱されるって相当に恥ずかしいから怒りも比較にならないくらい高くなって、多分キレ散らかす。逃げるとかの選択肢が消えてその場で激昂する。その隙にトリモチやワイヤーアームで動きを封じられたら御の字かな。

 

「つーか気になるなら映像見るか。ポチッとな」

「あ、やっぱりあるんだ」

「ボク驚き疲れたんだけど。もう寝てもいいかい?」

「ダメ」

 

さてさて、上手く映るかね。

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