そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「――知らない天井だ」
「バレバレの嘘はやめようか。ちなみにだけど、君が意識を失ってからまだそんなには経ってないぜ」
「ほォ、三度目だし慣れたのかね?」
「さて、ね」
ヘスティアが肩をすくめるのを視界に納めながら、体を起こして背伸びをしたり肩を回したりしてみる。うむ、倦怠感とかはないし本調子だな。
「しかし、まさか本当に
「これって神の存在意義が危ぶまれたりすンの?」
「ハハッ、それはないと思うよ? そりゃ、間違いなく驚かれるとは思うけど……それでも下界から昇ってくる魂の数を考えたら、とてもじゃないが一人でやれる量じゃないよ?」
前屈みになってこちらに顔を近づけながら、愛らしく首を傾げて上目遣いに答えるヘスティア。だがその反応は、正直に言えば随分と落ち着いて……淡白に思えた。実はこれガチギレしてるとかじゃねぇよな? 微妙に怖いんだが。
「そんな事より、途中で魂の加工を始めたときの方が驚いたからね。思わず止めそうになったけどあんまりにも表情が真剣だったから――」
「ちょちょちょ、ちょい待った」
聞き逃せない用語が飛び出してきたぞ。姉御やオッサンのときは立会人がリリだけだったから判断できなかっただけで実は何かしらの加工してたのか? あるいは姉御の病気が軽くなってた理由なんかね。
「うん?」
「魂の加工is何」
「えっ……あぁ、半ば無意識に動くんだっけ。あのね、ラジルカくん。君はヴィトー君の魂を取り出して、足りないって呟いてからどこからともなく取り出した何かで補強し始めたんだ」
「なにそれこわい」
「ボクたちのやり方とは違うアプローチだったけど、最終的にこれでもかってくらい綺麗に整えてから移し変えてたよ。でもそっか、だから終わってすぐに意識を失って倒れたんだね」
「ンンンンン、わがンね」
どこからともなくは【
えー、まさか倉庫内の生存競争で命を失った植物っぽい生命体たちの魂とかじゃねぇよな。ヴィトミン始まっちゃうん?
あるいはニンジャソウルの可能性も……あかん。これ以上トンチキを増やしてなるものか。場合によっちゃ処分を検討だ。仮にニンジャソウル憑依者なら爆発四散して跡形もなく消え去ってくれるし。
とりあえず
「その結果がこれか……」
「おかえりなさいませアスピナ様、ガルド様、ベル様、リリルカ様」
「なんか、輝いてる……」
「先日までとはまるで別人のようです」
新生ヴィトーによって出迎えられた、ダンジョンから帰って来たベルたちの評価がこれである。
外見は15歳を目安に調整してあるが、魂の側に手を加えたせいなのか後光が差しているというか聖人オーラのようなものをまとっている。こう、視覚的に。
あ、アタシが悪いってのか……? アタシは……アタシは悪くねえぞ、だって(中略)こんなことになるなんて知らなかった! 誰も教えてくんなかっただろっ! 俺は悪くねぇっ! 俺は悪くねぇっ!!」
「お姉ちゃん、元ネタに引っ張られて一人称そのままになってます」
「ありゃ、声に出てたか?」
「それはもうバッチリと、声真似までされていました。似ているかは、わかりかねますが」
「僕の知らない物語だよね、それ。後で聞かせてよジル
すまねぇが元ネタの作品はテーマ曲と極一部のネタ以外マイソロでしか知らねぇんだ。むしろシリーズでプレイした事あるのマイソロ三作とサモナーズリネージとなりきりダンジョン以外は響き合うがキャッチフレーズのせいか何度も残響のごとくリメイクされるアレだけだし。GCは我が青春。動物番長よ永遠なれ。あ、やっぱなしで。普通に【
「だが欠陥は埋まったらしいな」
「えぇ、ガルド様の仰られる通り。今や世界は色づき声は祝福の音色。香りに関しては少々刺激が強く慣れないですが……何よりも感動したのは食事ですね。あれは……筆舌に尽くしがたい。五感の全てを使って楽しむ美食はまさに神の言う未知でした」
回想にふけってたら話が進んで……ないな。
ちな、感動を口にしている新生ヴィトーだが、五感が正常に機能したのと15歳の思春期ボディが合わさった結果、においフェチと声フェチに目覚めたらしい。
寝かされてた寝台や布団がね、洗剤と柔軟剤使ってるから割とふんわり優しい甘めの香りを発してるわけで、誤解を承知で言えば女の子の部屋の香りなんよね教会地下の各部屋。嗅覚の初仕事がそれってのは中々に、こう、体の一部がホットになられた様でして。反射的に前屈みになったのを具合が悪いのではと心配したヘスティアが支えようと身を乗り出して更に刺激がドン。平気だからと神の前で嘘を吐いたせいで余計に話がこんがらがり、最終的に性癖が開拓された事実を告白する羽目になったのは泣いていいと思う。むしろ涙声だったから泣いてはいた。
まぁ、この処女神に思春期男子の性欲を察しろと言うのも酷だろうな、うん。アタシの周りはシャワーだけで済ませず香りつきの石鹸シャンプーコンディショナー揃ってるし、毎日お湯を張り替えて入浴剤使った湯船に入るし、基本的にはフワッとさりげなく甘い香りがするのだ。オッサンでもフローラルな花の香りやぞ。字面はひでぇが肉体年齢的には14だし不自然でもない。
「まァ、今までの不遇を取り返す形で青春を謳歌してもらうんで『
「私としては黒竜討伐を目指す皆様の力になれるよう、かの【
「準備だけはしとくから、少なくとも二週間は遊び呆けてろ」
「はぁ……では、お言葉に甘えさせて頂きますよ」
ちなみにこの後、プチ歓迎会――といっても普段より数品多いだけの夕食をした。ガチ泣きしながら食われると何とも言えない気持ちになるんだが、これまでの境遇を思えば止めろとも言いづらいのがまた扱いが難しい。まぁその内に慣れるだろ。ヴィトーが食事に慣れるか大袈裟な反応にアタシらが慣れるかは知らんが。
で、どうやら冒険者の間でもチラホラ【ロキ・ファミリア】の遠征が噂になってるそうだ。どうなるのかねぇ。
階層主はゴライアスをリリが倒してるし、アンフィス・バエナとバロールはアタシが倒してるんで
まーそんなのを引っくり返すのがダンジョンの
しかし59階層に
つーか精霊魔法と精霊の護布による反発現象を考えたらさ、精霊の血が影響して撃てるようになったクロッゾの魔剣って精霊の棲む森焼けなくね? いやまぁ森だから火気厳禁とかで火精霊がいなかった可能性も高めかもしれんが、最初の被害が起きた時点で精霊ネットワーク的な噂が駆け巡り対策の一つ二つ取りそうなもんだがなぁ。護布が発火するわけじゃないならむしろ積極的に備蓄するだろ。自然サイコー自分たちサイコーな頭エルフじゃプププなライドが許さんか。まぁどうでもいい。
とりあえず喋る上に魔法を使う元精霊の疑いがあるモンスターの存在を知ってるなら、仮にもモンスターを狩り続けてうん十年な【
そんなこんなで二週間。各々がやるべき事をやってたらあっという間だった。
アタシは【タケミカヅチ・ファミリア】や【ヘファイストス・ファミリア】の面々を【ランクアップ】させるべく強化種をけしかける日々を送り、休養日は工芸品や
ヘスティアは精霊二名と農作業に従事する毎日。夜も一緒に眠っているのでベルたちのプチ遠征にも耐えたらしい。成長と呼べるかは微妙だが、まだまだ下界降臨から一年もしないヒヨッ子の
ヴィトーは食い道楽に目覚めたと思ったら、何やら自分の好みの味を追求するとか言い出して料理を学び始めた。あとは偶然辿り着いた孤児院で孤児と戯れながら教育者の真似事していたそうな。定番のクッキー差し入れとかもしてる。そしたら孤児院に分かりやすいテンプレ地上げ屋が来て一悶着あったので、結局は余計に力を欲していた。問題行動は見られないので、引き続き経過観察は必要だがヘスティアの眷族にしてもいいんじゃなかろうか。
ベルたちはLv.4に到達したのでついに深層へと挑戦し、到達階層を39階層に伸ばしたそうな。過酷な環境に対する慣らしのために探索もそこそこしたらしいが、途中からは37階層の
数字の上では互角になる相手だし、人型の相手も出てくるので結構な苦戦をする冒険者が多い中、ベルたちはむしろ拙い技だったので与しやすいとまで言ってのけた。模擬戦の相手を考えれば当然ではあったが。
ちなみにパーティー相手で武器のみ縛りだと既にアタシは勝てなくなってる。タイマンだとまだ余裕、ペアでも優勢。トリオだと互角よりの劣勢になる。
特に姉御の魔法って、
そこから数日して、遠征中だった【ロキ・ファミリア】が到達階層を59階層に更新して無事に帰還した。
外伝――正史との違いは細かなやつが数点。一番大きいのは
ベルたちの18階層行きもないし、
いうてメレンも
ギルド支部の不正もあるが、ニョルズとの取引ついてはバルカに尋ねたら肯定されたんで間違いない。フェルズにポロっと漏らしちゃったりすれば、その調査に誰かしら派遣されたりはあるかね? 【カーリー・ファミリア】はアマゾネス姉妹がいなきゃ比較的大人しいだろうし。なんかさっきからフラグが立ってる気もするが、さすがにギルドの汚職なんだし内々で済ますやろ……漁師とはいえ【ファミリア】が絡むから戦力が必要? それはそう。
いやガネーシャ派がおるやろ、不正の取り締まりなら。つーか引き渡した