そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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132.披露しました。平和な日常下さい。

メレンの事件は二隻の船が尊い犠牲になったくらいで、戦闘の方は概ね正史通りに終わった。いやまぁカーリー派は帰る船がなくなった上にメレンから出禁を食らったんで強制的にオラリオへ移住する事になったわけだが。

打ちのめされたアマゾネスたちはロキ派の屈強な雄――特に第一級冒険者の三名――にお熱だから、オラリオへの一時移転は歓迎されてるっぽい。ウルガ運んで終わったせいでモテ期を逃したラウルは泣いていいと思う。あとテルスキュラ崩壊の足音が迫ってるカーリーも存分に泣き喚けばいいと思うよ。どっちも同情はしないが。

イシュタルは切り札の春姫が行方不明になって泡食ってんじゃねぇかな。恩恵の数が減ってないから諦めずに捜すだろうし、今後はぶつかったロキ派や、昼間に目撃例のあるアタシ周りに探りを入れてくるかな?

 

ちなみに、そこに至るまでの一幕としてちょっとした事件が起きている。

連中が帰るには出禁になってない別の街で造船して帰るか、誠心誠意謝罪と賠償を頑張るか……他の船を奪うしかない。そして早速最後の手段を試したわけだ。まぁ奪われた船が【イシュタル・ファミリア】と懇意な商会の船だったんで、自演に近いんだが。

そして船は湖内を出ない内に水中からのウォータージェットで櫂をピンポイントに破壊されて湖上から動けなくなり、最終的に白旗を上げて港まで戻された。その途中に養殖試験場予定地に船を牽引されて、透明な水の中に沈む自分達の思い出溢れる船の末路を見せつけられた連中が未来を悟ったりしている間にアタシが到着。三人用くらいのボートでギーコギーコと奪われた船まで向かったわけだ。前世のボート部が使ってるサイクリングマシーンのボート版みたいなやつで遊んだかいがあった……ごめん、嘘。割と勝手が違うわ。もうちょい真面目に取り組んでれば違ったのかね。

連中の奪った船に乗り込んだところ、昨日の昼に起こした一件が向こう(テルスキュラ)の価値観では情けをかけられた事になるから汚名をそそぐとアルガナが息巻いてたので死闘の末にトリモチと一体化させ、気が進まない風だが主神(カーリー)にけしかけられたので向かってきたバーチェを激闘の末にトリモチへ埋め、その他のアマゾネスは普通に気絶させて超硬金属(アダマンタイト)製の針金を編み込まれた縄で縛り上げた。亀甲縛りの腕を褒められたので発言者(カーリー)も縛って、ついでに神会(デナトゥス)用資料として撮影しておいた。幼女神(カーリー)は泣いた。

最後にカーリーと少しばかりの会話を経てから亀甲縛りを解いて、代わりに簀巻きにしてから船の先端にぶら下げて悠々と港に帰還した。途中、湖からカーリー巻きをジャンプアタックで食おうとした巨大魚(レイダーフィッシュ)がいたりもしたが、絶叫しながらも必死に体を振って攻撃を避け、反動を利用した動きで蹴り飛ばし返り討ちにしていた辺りは戦神の面目躍如といったところか。

しかしこうなると軍神または闘神らしいアレスがとことん低評価ならぬ底評価になるな。そりゃ世の中には弱いのに好戦的で無能なのに仕切りたがるやつもいるから、軍神で闘神で敗北者ってのも矛盾はしないんだろうが……。

 

で、帰還して早々、罪状が重なったので怒り心頭な街による簡易裁判が待っていた。

元より住民の不満や怒りは溜まっていて、気のいい一方で気性は荒くもある漁師や船乗りの街であるため、演技指導がなくても空気はそれなりにピリピリしていた。

とはいえカーリー派も毎日が同士討ちトドメもあるよな生活を送ってるので殺気を受けても平然としてはいたが。

とりあえずカーリー側がふてぶてしすぎて話にならないってんで、アタシが調停を頼まれた。やらせ感が半端ないが、誓って裁判の内容には要望を出してない。あくまでメレンとテルスキュラの外交問題って認識だ。まぁ船を破壊して陸地に取り残したのは他ならぬアタシなんだが。

ひとまず人死にが出なかった点から、カーリー派に賠償金を請求し落とし所にした。稼ぎ方は犯罪以外なら任せるとした上で、オラリオが近いんだから下層深層まで遠足して稼いで来いってヒントもくれてやったアタシの慈悲にカーリーたちは感じ入ったらしく、歯を食いしばりながら涙を浮かべてたな。拘束されてて暴れたくても暴れられないだけだったのかもしれんが。

 

ちなみにオラリオへの入場審査は当たり前に拘束されたままで行われたので、ガネーシャ眷族のみなさんは驚いたり引いたりしてた。そしてガネーシャはカーリーを見て顔を青くして震えていた。いやーすっかり失念してたわ神話の関係性。

まぁカーリー派はオラリオじゃまだ犯罪者扱いじゃないし、問題なく通った。要注意ではあるが、勝つまでは死んだものとして大人しく言いつけを守るそうな。一応、誇りを傷つけられた場合はその旨と理由を伝え、謝罪や配慮を欠かすようなら容赦なくやって構わないとは言ってある。オラリオの冒険者も民度は低いし、女子供を侮る価値観は割と浸透してるからな。ついでにロキ派の第一級冒険者に対する色んな意味のアタックも、少々刺激的な日常でしかないし許可しておいた。イベント潰してる分の補填になればいいなー、なんて思いつつ。

 

 

 

こうしてアタシは日常に戻った――そう考えていた時期がアタシにもありました。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の申し込み、ねェ」

「その場では突っぱねたけどね。なんかリリルカ君が言うには相当しつこいって噂だし、ダンジョン内でそれに関係してるっぽい襲撃をされたりとかもあったらしくて……」

 

はい、阿呆龍(アポロン)が動いてました。『神の宴』に眷族同伴。

原作と違ってヘスティアが異性として意識してない……とは言えない部分があったりもするが、原作みたいな肉食系ヘタレじゃなく遠くにあっては優しく見守り近くに寄ってはタオルと蜂蜜レモンを差し入れてくる先輩マネージャー的なスタンスになっている事もあり参加の必要性が全くない。むしろ招待が急な事もあり、既に予定が入っていると参加を見送る方向だったそうな。ちなみに予定とは眷族と一緒の食卓を囲むというものである。あったけぇ……。そういや前世の神話で炉の見張りって仕事を理由に会議の欠席をしたんだったか。いやまぁ参加中に何か起きて炉の火が消えたらガチでギリシャ世界の終わりに繋がるような設定だった気がしたから責任感の発露でもあるんだが。単純作業だけど気が休まらなくもあるよな、見張りって。門番とかも同じで真面目に取り組むと大変で大事な仕事なんだわ。

が、ここで待ったをかけたのがリリと姉御。リリはアポロンの眷族強奪やら襲撃等の嫌がらせやらの所行から、おそらくはベルが執着されている可能性を指摘して、可能性などない事をワカラセしておくべきだと主張した。

姉御はこの機会に他の神とも(コネ)を結んでおく事を進言した。具体的にはかつてゼウスたちと争った神々である。現在はほとんどが落ちぶれているらしいが、争える眷族を有していた実績は大きい。なんなら【ヘスティア・ファミリア】の面子が実質的にゼウスとヘラの遺児だと説明すれば再燃して乗ってくる可能性は高いと見ていた……まぁ、こちらはアポロンが零細ファミリアを招待していないという誤算から失敗したらしいが。そのせいもあって宴から帰って来て顛末を聞いた姉御は功城戦の攻めを条件に戦争遊戯(ウォーゲーム)を受けろと言ったそうな。戦争の作法を教えてやると言ったかは定かではない。

オッサンはうま味がなさそうなので興味は薄かったが、姉御の気迫に押さ(ヘタ)れて受諾に一票。

狙われてる可能性を告げられたベルはといえば、相手(アポロン)が有する戦力を考えると無駄な寄り道でしかないので避けたいが、逃げたと言われるのは英雄を目指す身として我慢がならない。調整に数名の助っ人を入れてはどうかと冷静に(ピキ)っていた。これには周囲もにっこり。

アタシとしては部外者なんで好きにしろとしか言えなかったが、その異常な【ランクアップ】速度で悪目立ちしてはいるんで実力を見(だまら)せる機会ではあるよなっても言った。これがベルたちの殺る気スイッチを押した、とはヘスティアの談である。ねーよ。

 

で、緊急神会(デナトゥス)というか後夜祭のような状況で提案したら、あっさり受け入れられた。続く助っ人もこの場で決めようぜって話になったら、アポロン側にはなんとイシュタルが名乗りを上げて団長の【男殺し(ガマガエル)】が参戦。ヘーイガイダナー。ヘスティア側には普段のパーティーを組んでるって理由でリリが参戦する運びとなった。

戦力比で言うと、Lv.3一人の百名余りな中規模集団にLv.5が追加され、Lv.4三人の小規模派閥に気心の知れたLv.4が一人追加でトントンでは? となった。計算に入れられなかったルビスは泣いていい。ヘスティアは眷族を大事にする主神としてちゃんと訂正を求めたらしいが。いいぞ、そういう部分が慕われるいい神の条件だ。

こうして戦争遊戯(ウォーゲーム)の開催は決定したんだが、人数が多いなら魔剣の連射で格上だろうと消耗させられるし、アポロンの本気度合いで勝敗は決まるとの前評判。そしてアポロン派が魔剣を買い漁っている情報が流れたので、商人主導の賭けは比率が10:1でアポロン側が優勢に。まぁ、原作と違って戦力比はそこまで大きくないし、実際のベルたちを知っている面子は軒並みヘスティア側に賭けたんで比率は割と小さい結果となった。

 

ちなみに、準備期間は舞台となる砦の整備を含めて五日間。移動時間を除いても間に合うんで普通に深層行って来た。今回は49階層まで行って来たんで、アポロン派やイシュタル派、またはそれらに依頼を受けた派閥からの襲撃は起こらなかった。帰り道は許可もらって倉庫に収納して、アタシ自身はいつもの姿隠しと、神酒をふんだんに使って嗅いだものを酔わせる効果を付与した新作ローブで移動したし。

それと何故かアポロン派は戦争遊戯(ウォーゲーム)が成立したにも関わらず、教会を襲撃した。遠距離から放った魔法は魔力壁にあっさり防がれただけでなく映像がバッチリ残ってたのでギルドに提出されたし、情報も流されたが……逆にアポロンの本気具合がわかって賭けの対象を選ぶ理由に影響したらしいな。こっちからすれば配当を上げてくれてありがとうって感じだが。

つーか持ち主(アタシ)の報復を考慮しなかったのは純粋にすごいと思う。他派閥で、第一級冒険者で、オラリオ外に名前が売れてる芸術家やぞ。ちなみに報復はしっかりとさせてもらった。具体的な内容は避けるが、貴重なルアンがこっちの世界でも不憫枠に押し込められた事を記しておく。

あと原作ならこのタイミングでリリやヴェルフ、命といったベルの築いてきた絆が『改宗(コンバージョン)』の形で結実するわけだが、まぁこっちじゃフラグはバキバキ、ベルたちムキムキ、援軍なんていらんやろって流れだからね……リリが不参加だと全体的にちょっぴり弱くなるんで人数以上の効果があるのはここだけの秘密。

で、当日になり、戦争遊戯(ウォーゲーム)が開始された。神の鏡を通してオラリオ中に、そして諸外国にも中継されているその内容は……まぁ知らない連中にとっては番狂わせ。知ってる連中にとっては予定調和。早い話、蹂躙(いつもの)である。

 

「おいおい向こうの団長はLv.4じゃなかったのかよ!? 【男殺し(アンドロクトノス)】が一人に押されてるじゃねぇか、何が助っ人だよ!」

「団長の妹とかいうのもやべぇぞ!? は? 【静寂】の関係者……ふざけんな勝てるかあんなの!」

魔剣(まほう)を……食ってる……もしかしてこっちも【暴喰】の?」

「巫女しゃま尊い……しゅき……」

「あの幼女Lv.1とか嘘だろ? つーかなんだあれ」

 

オラリオの各地から、主にアポロン派に賭けた連中から嘆きの声が上がる。そしてそれでも神々は規定路線を引っくり返す未知の大盤振る舞いに大笑い。

なお、バベルで観戦していたアポロンは途中から真っ白に燃え尽きており、ヘスティアは初めて見た戦場における眷族(こども)の実態にドン引きしていたんだとか。

補足しておくと、蹂躙といいつつ各々の切り札は完全に伏せたままの白兵戦オンリー。それを把握しているのが戦場にいる当人たち以外だと主神(おや)であるヘスティアとアタシくらいってのは優越感だよなぁ~。

あ、ベルが完封勝ちしたな。最後(フィニッシュ)は浴びせ蹴りを後頭部じゃなく頭頂部に決めて沈めたか……地味にあの(ブーツ)って最硬金属(オリハルコン)仕込んだ安全靴なんだよな。数値化したら攻撃力は神様の(ヘスティア)ナイフより高いんじゃなかろうか。材質の都合上そこそこ重いんで速さに影響あるはずなんだけど、ベルはトレーニングの一環として前向きに捉えて使ってる。強い。

いやね、ベルって武器がナイフだから大型相手にちょい不利なわけじゃん。強みである脚を活かす意味もあって、蹴りは蹴りでも地面を蹴る方の蹴りで敵の体を足場に使いつつ破壊できたら楽できるかなって思ったんよ。足技はアタシの体型が幼女(こんなん)だから上手く教えれてねぇんだが、そこは対モンスター想定だったから技術抜きに速度と硬さだけでも威力を出せるようにしたのよ。今回は体格差や相手の戦闘スタイルが力任せだったから教えが活きちゃったなぁ。頭部めり込んでるけど【男殺し(ガマガエル)】生きてんの? 生きてるのか。すごいね、人体。

 

他に接戦はなく【ヘスティア・ファミリア】の宣伝して終わった感じだな。アポロン派は団長の【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】が最後まで残された挙げ句に格上(ベル)と一騎討ちさせられて涙の敗退。他は指揮官がLv.2だからルビスの餌にさせられてたけど、基本的に【月桂の遁走者(ラウルス・フーガ)】も【悲観者(ミラビリス)】も見せ場なし。一蹴されて終わった。リッソス? 誰それ、知らん。

アポロン側の全滅で幕を閉じた茶番劇(ウォーゲーム)ではあるが、勝者(ヘスティア)から敗者(アポロン)への要求は今後一切の不干渉と、悪評である強制的な眷族の勧誘禁止。そこから遡って派閥を抜けたい者の解放とまぁ慎ましやかなものだった。これをヘスティアの甘さと見て、アポロン未満ではあるが中規模な派閥が連携して眷族の強奪を目論む動きもあったんだが……悲しい事に雑魚しかいなかったし、情報を集めるとアタシに辿り着くんで諦めちゃうっぽいんよね。ついでにカーリー派の存在とメレンでのやり取りも流れた。

 

なお、地味にデカい影響としてリリの活躍が明るみになった事で【ソーマ・ファミリア】の等級(ぜいきん)Sにな(あが)った。フェルズに尋ねてみたところ、ギルドの上層部で満一致だったらしい。おのれ金の亡者共。

まぁ、いくつかの不祥事を揉み消してやった代わりに公表させてる決算を見るに接待費や旅費、その他雑費は抑えられてるし、街並だけでなく路地裏も整って来ている。最低限と評価するのは難しいくらいしっかり仕事はしてるんで多少の小遣いになる程度は許しておくか。

ダイダロス通りはまだ貧民街のままだが、あの場所はまず九龍城砦も顔負けな建築を切り崩していかないとな。本音を言えば平和を勝ち取った暁には文化遺産に認定されてもいいくらいの価値があると思うんで、住民の衣食住が不自由しない程度に支援して放置が安定でねーかな。労働の対価って形はしっかりさせんといかんが。

ギルドとは別口で行う手に職をつける仕組みは考えてっし、それこそダイダロス通りの孤児院中心に展開予定。近く『異端児(ゼノス)』の雇用ができた後は人造迷宮(クノッソス)に孤児院を設立して情操教育も兼ねる予定だ。現在【ソーマ・ファミリア】の第二拠点を中心として試験的に行ってる成果を考えるに、そこそこいけると思う。

ナーロッパ御用達な読み書きできるだけで有能って水準はオラリオでも通じるからな。仕込む内容は前世で言う小、中の義務教育を若さに任せてギュッと凝縮するんで、部分的には学区よりも高等な教育をできるんじゃないかな。さすがに規模は負けるが。

十年先を見据える意味があるのかは知らんが、いつの世も事務員は引く手数多だ。誰にでもできる仕事とか言って見下してる視野が狭いやつは大抵ゴマすりで出世してるから見限り推奨な。一部尖りすぎただけの専門家(エキスパート)もいるにはいるが、人格者じゃない時点で距離を取った方がストレス少ないのは変わらんし。

つーかむしろ平和になればこそ管理社会になって事務員の仕事が激増するんだよ。記録とか言ってる余裕ある生活を保つためにも黒竜討伐やり遂げんとな。

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