そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「はわっ、はわわわわわ……」
「げっへっへ、そう怯えるなよ……我慢できなくなっちまったら困るだろ?」
薄暗い地下空間に座り込む一人の獣人。ピンと尖った大きめな金毛の耳が、そして太くフサフサな尾が、彼女の種族を
少女と呼んでも差し支えのない顔立ちは、しかし怯えの表情に歪んでいた。それが目の前にいる人物の加虐心を掻き立てるなどとは露ほどにも思っていないあどけなさが見て取れる……自然と湧き上がる欲望が表情や動作に現れてしまう不徳を恥じる気持ちはあるが、だがしかし止められるものではなかった。
「滅茶苦茶脅しておいて何を言ってるんだい、君はぁッ!!」
「秘技、ルビスの護り!」
「グワーッ! ハリセン!」
「る、ルビスくーん!?」
「えぇーっ!?」
「勝った……戦いはいつも虚しい」
ヘスティア渾身のツッコミを手近にいたルビスで受け止め、用が済んだら投げ捨てる。まさかの
なお、一連の短くも怒濤の流れを見届けた獣人――春姫は困惑混じりな驚きの声を上げていた。
「……まー、こういうわけだ。因果応報、悪い事をすると悪い事をされるの。おかわり?」
「そこはおかわりじゃなくておわかりじゃないのかい?」
「あ、はい……頂きます」
「君も疑問に思わずおかわりするんだね……」
所変わって教会地下のダイニングキッチン。極東料理とは似て非なる日本料理でおもてなしの心を示しながら、誘拐に至った経緯を告げる。当の春姫は困惑を隠さないものの、とても正直なお腹の虫へ配慮した結果ご相伴に預かってるわけだ。さすがは寝惚けて供物を食った疑惑であっさり売られた女、割としっかり食べている。つーか所作がめっちゃ綺麗。あれか、焼き魚を食べたら残した骨で標本作れるタイプか。
「素直なのは美徳だぞへっちー」
「ヘっちー!? 何そのちょっとかわいい感じのくしゃみしたときに出た言葉みたいな響きの愛称!?」
「じゃあヘスっちゃン?」
「呼び方の問題じゃなくて、何で唐突に愛称を生やして来たのかを聞きたいんだよ!」
「ヘスティア様、ご飯の最中に叫んではいけません」
「あ、はい。ごめんなさい」
「お姉ちゃんも。そう言ったお話はご飯の後にして下さい。洗い物はリリがやっておきますから」
「はい、大変失礼いたしました。以後、気をつけます」
ふざけてたらリリに叱られた件。いや、それ以前の問題か。食事に集中させてやれって話よな。でも最低限の疑問を解消してやらんと食事に集中も何もないから、反省ポイントはおふざけに聞こえる部分に反応したヘスティアをからかってからだろう。
つまりはどのみち反省は必要。誠意を示すためのてへぺろは……痛々しいから止めておこう。リリに嫌われたら死ねる。黒竜討伐後にダンジョンを爆破移動して最深部まで辿り着いたらありったけの爆弾を使ってダンジョンと心中するしかなくなる。それはそれで上に乗っかってるオラリオ滅びかねないか?
ちなみに現在はメレンの騒動が終わった次の日の朝。昨日の帰宅は夜遅かったし、早速朝食のタイミングでメレンの顛末を報告してたら戦利品の事を思い出したので、それっぽいシチュエーションとして急遽地下室に移動して春姫を解放したわけだ。
姉御とオッサンは席を離れる気がなさそうだったんで放置しておいた。格上と闘える機会を逃したとご立腹らしい。いや、あの場に呼んだら姉御はともかく、オッサンは最悪今頃干物になってんぞ? むしろそっちの食事が狙いだったか? それとなくヘスティアにチクっておこう。
春姫は冤罪説が濃厚とはいえ、やらかしの果てに辿り着いた場所だから自罰的な部分があるし、とりあえず誘拐されて使われる立場になれば贖罪してるつもりになって気が楽にならんかね。あるいはそんな罪の意識に浸る余裕がないくらい忙しい日々を送らせるのも対処法としてはありだろうか。
まー王子様が現れて救ってくれて、その後は幸せに暮らしましたとさで終わる物語のヒロインって特別な立場に浸りたい願望は、まぁ女の子なら一度は持つし、実際にその立場になっちゃったら期待しちゃうだろうなーってのもわかるんよね。
男の子だって囚われのお姫様を救うために旅立ち冒険の果てに巨悪を倒して世界を救う勇者になりたいとか思った事はあるんじゃないか? まぁ二回目以降はお姫様を助けなかったり、抱えたまま巨悪を倒したりするかもしれんが。
場合によってはお姫様が破壊不可能オブジェクトだから盾として優秀だったり、バグを利用して装備と融合したりも……いや、さすがに春姫を対象にそんな事はやらんぞ? こいつにはちゃんと素でドジっ子メイドをやってもらう。このために技術水準をガン無視して食器を全部耐熱プラに変えたんだからな!
「さて、改めて説明しようか」
デザートと食後の
リリは洗い物をしてて、先に朝食を済ませてた姉御とオッサンは入れ替わりで地下の訓練場に向かっているので、参加者は
「あの日アタシは交易にやって来た商人との取引で港街メレンに向かったンだが、昼間アマゾネスのグループが問題を起こしてる場に遭遇したンだわ。アマゾネスの集団ってなったら
「はい」
「とはいえメレンにやって来たなら行き先なンざオラリオに決まってるだろ? アマゾネスの集団がオラリオ入りしたら、やっぱり同じアマゾネスの集団である【イシュタル・ファミリア】とぶつかるンじゃねェかと思ったンで見張ってたのよ。したら夜にメレンで暴れ始めた」
「……はい」
「高所から全体の状況を確認したらちょうど建物から怪しい光が漏れてたのを見つけたンで現場に急行、そしたらいるじゃねーのよ、屈強なアマゾネスの集団の中に? 一人だけ色白で気弱そうなモヤシっ娘が」
「も、モヤシ……」
「ピンと来たね。これは人質を取られたり脅されたりで泣く泣く従ってるに違いない。だから手早く救出した。事情に詳しそうな近くのアマゾネスにも同行願った。騒がれたら面倒だし説明の手間が惜しいから気絶させたのは悪かったと思うがな」
大人しく話を聞いていたが、まぁ前振り部分は割とどうでもいいから流してるっぽいか。とりあえずイシュタル派が関係する夜の襲撃に話題が及んだらビクッとしたな。実にわかりやすい。存在を知られるのがまずいからって箱入り娘を継続してるんだもんなぁ。
その意味じゃ、神なりの裁量ではあるがちゃんと大事にはされてるんだよな。魅了もしてないし。単にムッツリドスケベ狐の開発とか好みじゃなかったんかね?
でも特別扱いが半端なのも確かなんだよなぁ。順番的に殺生石と
でも一つ目の魔法に価値を見出だしたなら二つ目は、三つ目はもっと有用な可能性のが高いんよね。似たような体験を重ねたら上昇値が高い魔法とか対象が増えた魔法とかになりそうじゃん。もっと前のめりになって特別メニューを組むべきだろう。冒険をしろよ、冒険を。
具体的には他人に尽くす喜びに目覚めさせる環境を、命を対価にしても守りたい仲間や居場所を作って支援系の魔法を狙わんと。殺生石の儀式なんぞいらんだろうに。永遠を生きる割に我慢が足らんのはどうやったってマイナスなんだよ。
あとは単純に自己研鑽も足らんな。権能を使わずに相手を心酔させる技術を磨かない辺りに限界を見てしまう。どこかの傷だらけな喧嘩師リスペクトで性能に胡座をかいて努力を嘲笑うのを強者だと思ってるのかもわからんが。
春姫が自分の境遇を嘆き諦めているのを知りながら放置してる時点でアタシなら見限るし、玉座的な場所に一定以上の圧力がかかったら起動する爆弾仕掛けて事故死してもらって自由を掴む。知らない場合は爆弾じゃなく音と臭いの二段構えで笑いを取りに行くブーブークッションを仕掛けて社会的に死んでもらう。
「近くの……ま、まさかアイシャ様では!?」
「なるほど? 確か【
「アイシャ様は、今……?」
「眠ってるよ。少しばかり遠い所でな」
暫定異世界ですって言っても頭のおかしいやつ認定されて終わりだからなぁ。とりあえず手元に置いてるって言っとけば安心するやろ。
「そん……な……」
「うん? 会いたいなら会わせてやるか?」
「ジル
「……おォ」
「駄目だこいつ……早く何とかしないと……」
「あ、神様もあのお話を読んだんですか?」
「うん、子供たちの怖い面を知ってしまって夜も眠れなかったよ……」
「……徹夜して読んじゃったんですね?」
「……うん」
春姫がホロホロと涙をこぼしたんで、てっきり自由になりたい願いが叶いそうだって話かなーと思ったんだが。なるほど、言われてみれば死んだ人間の現在を表す言い回しにも聞こえるのか。言葉って難しい。
「ちゃンと生きてるから安心しろ。ただまァ、テメーはともかくアマゾネスの方はしっかり【イシュタル・ファミリア】に馴染ンでると思ったからな。すぐ自由に、ってわけにはいかンのよ」
「……はい、わかります。アイシャ様は【ファミリア】の実質的なリーダーをされていらっしゃいますから」
「ほォ、思った以上の大物だったわけだ。その割にゃあっさり落ちたが」
Lv.4に近いって言っても結局はLv.3でしかないからなぁ。ぶっちゃけ
「ジル
「第一級冒険者なんてオラリオでも数えるくらいって話だからねぇ。今は二十人ちょっとだっけ?」
「まぁ両手足の指じゃ足りないくらいにはいるな。もうじき四人増える予定だが」
「……うん、そうだね」
おー、発破かけられて燃え上がっておるわ。男の子だねぇ。春姫に興味津々な辺りも男の子だが。ハッキリスケベというかサッパリスケベなベル・クラネルの視線は……耳と尾ですね。あるぇー? まぁエルフスキーなら慎ましやかな方が好みだったりするのか? 別にデカいのが嫌いなわけじゃないのはヘスティアに顔面ダイブしたときとかで確からしいんだが。
その意味じゃむしろ外見はオッサンの好みだったりしねぇのかな。でも性格が現状だとうじうじ湿っぽいからパスって感じかね?
「それで、だ。まずはテメーの……いや悪ィ、名前交換してなかったな。アタシはラジルカ・アーデだ」
「僕はベル・クラネルです。こっちは僕らの神様で――」
「ボクの名前はヘスティアさっ、気軽にヘスティアと呼んでくれたまえ!」
「はい、ラジルカ様、ベル様、ヘスティア様ですね。サンジョウノ・春姫と申します。その、よろしくお願いいたします」
はい、これで名前を呼べるようになりました。別にRTAでもなんでもないのでガバではありません(鋼鉄の意志)。いやまぁ聞く前なのに名前を呼ぶとかでなけりゃガバも何もねぇよ。タイミングが遅かったのは認めるが。
「それじゃ改めて聞くぞ。春姫、お前はこれからどうしたい?」
「これから……
春姫はしばらく考え込むと、しっかりと顔を上げて自分の境遇を意見を述べた……覚醒早くない? なんかやらかしたかな。んー、わがんね。