そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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134.営業しました。サイン下さい。

「てなわけで身柄は預かってる」

「なるほど……お前の動きが巡り巡って私の邪魔にばかりなっているなぁ……!」

 

イシュタル大激怒。ウケる。

はい、というわけで交渉のお時間。昼にメレンでカーリー派がやらかしたんで改めて鎮圧して連れて来て、ダイダロス通りの一角にひっそり佇む見た目オンボロ中身旅館三階建てな隠れ家にぶちこんで来た直後にこれ。つーか、この交渉が終わったら食料品とかの聞き取りと手配してやらんと。変に破壊活動されても困る。

 

「そうなりたくねェなら犯罪者を使うなよ。アイツらが計画の邪魔になるから潰して回ってるだけだっての」

「む、ぅ……お前にはうちのアホ(フリュネ)が先にやらかした負い目がある以上、多少の事は見逃そう。そうは思っていたが……だが、だが、だ!」

「あー、まァ、これに関しちゃ融通してもらうのに相当な投資したンだろうなーとは思う」

 

闇派閥(イヴィルス)経由でイシュタル派に流すはずだったって情報を得た体で、牛型との戦闘映像を見たイシュタルの怒りと悲しみの混じった何とも言えない感じ……愉悦(イエス)だね!

 

「だが言っちゃ悪ィが、アタシが様子見して全部引き出した上で倒せる程度だぞ? あっちにけしかけても猪に即粉砕されて終わりだ。それにカーリー派のトップもそのままじゃ幹部一人抑えるだけで精一杯。春姫使ってからぶつけても二人で猪を互角以上か白黒エルフコンビと四兄弟に猫を互角以上で、どっちもかなり粘られる。手が足りてねェよ」

「ぐぬぬ……」

「つーか向こうは無職でひたすら身内争いしてて、そっちは娼館経営で経済回してるンだからよー。有利なのは向こうなのわかるのに暴力で上に立とうとかいうのが間違ってンだろ。仮にダンジョンなくなったらどうやったって社会的に勝つのはそっちだがよ」

「むむむ……」

「それでも暴力で対抗したい……そうお考えの貴方に今回ご提案させて頂きますのがこちら!」

「流れ変わったな……だが、お高いのだろう?」

 

あらノリがいい。この辺はどれだけ気位が高くても神なんだなって。戦力分析も改めて言われると反論難しいのか唸ってるし、フレイヤ関わらんと普通に優秀なんだよな。

つーかそもそもだよ? ゼウスがいるのにヘラから潰されてない歓楽街の女帝って時点で間違いなく超有能だろ。普通ならゼウスが歓楽街で遊んでヘラの怒りを買って歓楽街丸ごと火の海、派閥は族滅。天界送還RTAできるレベルだぞ。

まぁ、ヘラとその眷族と言えども法則的に魅了には抗えないのかもしれんからお仕置きの規模が小さく済んだとか、ゼウス利用禁止が徹底されてた可能性もあるが。

いやでもヘラって神話じゃ結婚、貞節の神だからな。一夫一妻制度で身体を許すのは配偶者のみって古代ギリシャ文化での貞節、つまりは夫に一途である事を強制されている神でもあるわけだ。そりゃ神の誇りにかけて例え男から迫っても妻のいる男と交わった女を絶対殺す女神にもなるわ。もちろん不義の子も親の罪の証だから存在が許されない。これらを許したら自己否定だもん。

で、原作ベルの魅了無効化が一途由来なら、ヘラも無効化する可能性は非常に高い。つーかベルがヘラの系譜でもある事を示唆してるとも言えるのかな。

あとヘラと言えば何の因果か名前の由来は婦人とか女主人で、その点じゃフレイヤと同じなんだよな。片や貞節の神、片や愛の神。ここら辺、各々の文化――ただし権力を握っている男たち――の求める婦人像の違いなんだろうかね。

でもその上で自分を神の系譜に組み込みたい権力者のせいで逸話を増やされたギリシャ神話の男神が性犯罪者だらけにされてるのは滑稽極まるんだよな。一夫一妻制が尊ばれるって言ってんのに神との不義で生まれた子ですって主張してるの意味がわからん。

つーかベルが死んだら後を追うとまで言ったフレイヤの執着も、名前の由来という共通点から引っ張られた一途さだったりするのかもしれんな。

 

イシュタルのフレイヤに対する執着もなぁ。イナンナの系譜って事を考慮すると、こう、ぶっちゃけ何も考えずに毎日キャッキャしてる女子高生を見て羨ましがってる仕事漬けな社会人と、それを気にしないで学生生活謳歌してる子供に見えるんだよなぁ。

いやまぁその社会人だって子供の頃の苦労はあって、子供だった当時はそれが生死にすら関わる重大案件だったはずなんだが。選択肢次第で未来が左右されてた事態の連続でもあるしな、部活とか選択科目とか進路とか。ふんわり興味持ってたのが思ってたのと全然違って楽しくないとか地獄だし……何の話だっけ? 売り込み内容だったな、うん。

 

「まァ、簡単に言えば春姫に新しい魔法生やしてみようぜってのと、実質的な戦闘娼婦(バーベラ)のまとめ役やってる【麗傑(アンティアネイラ)】を鍛えてみようってののセットだな」

「……例の【ヘスティア・ファミリア】を使った実験とやらか」

「アイツらは最初からわかりきってた原石だから、どうやったって速度は落ちるがな。代わりに最近の神会(デナトゥス)でタケミカヅチ様とヘファイストス様のとこからLv.2が結構出たろ?」

「ほぅ? その様子だとあれにもお前が関係していると言うか」

「実験段階ではあるし、まだまだ煮詰めるところはあるがな。やり方そのものはサンプル数の少なさが足を引っ張るがLv.6までなら実績ありだ……で、何年待てる?」

 

そういや神会(デナトゥス)の内容報告は二つ名とアタシの実験だから詳細は本人に確認しろって乗りきったくらいしか聞いてないな。いやまぁそれだけで十分か。

それでもこうしてイシュタルみたいに知ってても、接触してくる神がいないってのは、つまりはそういう事だ。神様してるねぇ。

 

「……アイシャを第一級(Lv.5)に上げるのにかかる時間次第だな」

「Lv.3からLv.4は三ヶ月もあれば仕上げれる。そこからLv.5に上げる場合は資格だけなら四ヶ月。潜在(エクストラ)狙いでA以上まで狙うンなら追加で五ヶ月の計九ヶ月はほしいな。そう考えればLv.3からLv.5まで一年以内で仕上げれる計算だ」

「ほぅ、それが嘘ではないのか。驚きだな……まぁ、十分だ。春姫の魔法に関しては?」

「単純だよ。娼婦とはまた別の形で他者に尽くす仕事をさせる……自発的にやりがいを覚えるような環境を整えてな。使用人と秘書の兼任って感じか。この辺はアマゾネスと相性悪いからここじゃ難しいぞ。魔法は拠点で精神疲弊(マインド・ダウン)寸前までやらせるし、それとは別にダンジョンでサポーターと治療師(ヒーラー)をやらせる。単純に【ランクアップ】すれば『魔導』や『精癒』も増えるからな。なんなら個人的な趣味の話でもあるんで挑戦は確定だが……殺生石の互換品を開発しても面白いと思わねェか? 犠牲者を出さず、種族を問わず、魔法の種類も選べる。代わりに一度きりの使い捨てだが数でカバーできる……とかな。それができる前は下手に魔法を発現させないよう更新を避けるでもいいし」

 

聖剣3のコインや、FF5の属性ロッドみたいな魔法――厳密には素材から抽出した魔力を用いた魔法に見える現象――を放てる使いきりの魔道具(マジックアイテム)はいくつか実用化してるし、殺生石の儀式――狐人(ルナール)の魂を移すって仕組みはアタシの【追憶(まほう)】と近いからな。解析ついでに全部移動じゃなく部分的にコピペできるようにすればいけると思うんよ。実行するとハードが壊れるプログラムって考えると怖すぎるが。

 

「……ふむ、確かに【芸術家(ファイアワーカー)】と言えば単なる工芸品だけでなく、工芸品として通じる見た目の何故か自爆装置が組み込まれた魔道具(マジックアイテム)を作り出す魔道具作製者(アイテムメイカー)でもあったか。俄然興味が湧いたぞ」

「アタシの目標は明言してる通りに黒竜の討伐だ。手持ちの札だけで考えた筋道はあるが、春姫の魔法があれば札を増やせるからな」

 

現状だと計画練り直せるほどの劇的な成果ではないのが悲しいところよな。仮に春姫が【ココノエ】を覚えても数人の階位(レベル)を一つ上げるだけ。その一つで黒竜相手に立ち回れるようになる冒険者が何人いるかって話なんだよな。しかも慣らしが必要なんで、春姫を仲間に取り込めないとむしろ感覚のズレが致命的で邪魔になるのが問題。まぁ、その場合は物資の運搬だとかに使う事にするが。

 

「高くつくぞ?」

「ヴァリスで払っていいならこの宮殿を埋め尽くしてやるさ」

「ククッ……しかし、あの女神(おんな)が無職、か。言いえて妙だな。上から見下ろして気取っていても、それでは天界にいるのと変わらんではないか」

 

どうやら取引は成立しそうかな。簡単な成果が出たら裏切ったりしかねない怖さもあるが。どこまで我慢できるかって感じかねぇ。なんかフレイヤに対する憐れみっぽいの覚えた風もあるから数年は持つか?

 

「ありゃ趣味の人間観察が関係してる部分もあるからな。そもそもヘラのせいでオラリオって檻に閉じ込められた鳥みたいなもンだし、気にするだけ損だぞ。せっかく下界で不自由を楽しめンだ。神同士で争うなら酒飲みながら眷族(こども)自慢するくれェでいいのよ」

「……【芸術家(ファイアワーカー)】、お前……実は神威を抑えたどこぞの大神ではあるまいな?」

「それ流行ってンのか? 昨日の昼間にカーリーとロキも似たような事を言ってたンだよ。嘘がわかるなら人間じゃねェのか」

「お前が名声欲と無縁なせいで場所を移しながら魔道具(マジックアイテム)の研究を続けてきた変わり者の神に思えてな。だとすれば神を欺く術の一つや二つは開発していよう」

「ねーよ。ソーマ様に確認してくれてもいい。ちゃんとLv.1から始まってるし両親も小人族(パルゥム)だ」

「ふむ、正しく下界の未知よな」

 

まことに遺憾である。いやほんと神とか言ってるけど精神年齢30歳くらいあれば下界におけるエンジョイ勢の思考とか読めるだろ。

つーか原作ベルがゾッとしてたイシュタルの娼婦というか性に対する言い分だって、エルフ的なお高い自尊心を取り払った動物としての人間を評価した至極真っ当な内容だし。まー原作ベルの潔癖さは処女神(ヘスティア)の眷族ってのと無関係ではないだろうからな。ヘスティアが選んだ時点で許容できる範囲にある価値観をしてる証明になるというか。

ただまぁオラリオの衛生状態を考えると性病予防のアレコレが水準に達してるとは言えないから、性行為を忌避する方向もそう間違っちゃいないんだよな。その辺の教育も進言しておくか。神って病と無縁だし頭から抜けてる可能性あるやん? 風邪とかならともかく、命に関わる大病は無効化しちゃう気がするわ。あと『神の恩恵(ファルナ)』による免疫強化で防止できてたりするのか?

 

「いいだろう、春姫の身柄は一時預けてやる。だがアイシャはまとめ役でもあるのでな、そっちは適宜連れ出す方向にしろ。それと春姫も更新とは関係なく月に一度は顔を見せろ」

「あい、あい。そういや春姫な、何の因果か極東にいた頃から【タケミカヅチ・ファミリア】と割と深い縁があるらしいンだわ。連中うちでバイトしてるし、会わせても?」

 

経験則からすると精神が前向き、上向きに変化するのは自分の殻を破った扱いで【ランクアップ】――上位の【経験値(エクセリア)】と関係しそうだから、懐かしい顔ぶれとの再会は是非ともこなしておきたいイベントなんよね。

事前に【麗傑(アンティアネイラ)】から春姫の処女について保証してもらうだけでも下を向く回数は減るだろうし、その上でタケミカヅチ派と合わせれば上を向く回数も増えると思う。

まぁ、処女を保証されて娼婦として上手くやれてなかった事実にショックを受けてしょげそうでもあるが、その辺は姉御肌な【麗傑(アンティアネイラ)】のフォローに期待しよう。尻を蹴飛ばす感じになるんだろうなぁ。

 

「好きにしろ。だが殺生石を保留する方向とはいえ重要な事に変わりはない。引き抜きには応じぬぞ」

「そこは伝えておくさ。だがまァ、そのままだとおそらく身請けとか言い出すから立場は娼婦から移しといた方がいいぞ」

「ふん、その場合は対価として傘下に入って他の娘を戦闘娼婦(バーベラ)にしろと言うまでよ」

「それ間違いなく眷族全員改宗(コンバージョン)させてから武神が身一つで来るフラグじゃねェかよ」

「……つくづく厄介な子だな、お前は」

 

いやいや、アタシの入れ知恵なしでもやるだろ。それにその場合でも武神にちょっかい出すアマゾネスが強化されるから損にはならんぞ……稼ぎは減るかもしれんが。

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