ラキア王国、撤退!
と、いうわけで壮大に何も始まらない侵攻作戦が終わった。いやね、オラリオ側の総指揮官やりそうな【勇者】から独断専行する許可もらったんで、進軍ルートに罠を張って一網打尽にしつつ中枢に切り込んで主神と副官を捕縛して帰って来たのよ。
その際に気絶した主神に代わって副官から直々に兵を引き上げて日常業務に戻れって号令をかけてもらったんで、軍はあっさり退いた。うーむ、実力はともかく統率は取れてるんだよなぁ。いいなぁ軍人。ほしい。人形兵で代用できそうなんでやっぱいらん。
なお、当の副官からは出費が最小限になると感謝までされる始末。帰り道に雑談してたら割と際どい苦労話がぼろぼろ出てくるんで、いっそ国を捨てないのかって尋ねたら、主神が許してくれないから無理だそうだ。まぁ『神の恩恵』を待機状態にしてもらえないなら出奔しても改宗できなくて【更新薬】の世話にならなきゃないし、それ使ったとしても【ランクアップ】やスキル魔法呪詛の発現はできんもんなぁ。
とりあえずご愁傷様って言っておいたら、泣きながら巨蒼の滝も真っ青な勢いで愚痴を吐き始めたんだが、まぁ酷いの一言だったよね。面白かったんで新しい方の神酒を飲ませたら更に口が軽くなってもう出てくるわ出てくるわ。もうこれラキア王国の転覆どころか無血開城が見えてくるレベルのスキャンダル大連発なんだが。半分以上は知らん話だし、扱いに困るなぁ。どのタイミングでどこに売りつけるのがいいか考えておこう。
とはいえ、だ。仮に許可が出てもなんだかんだ責任感強そうだからそのまま民を捨てられるかって話よな。弟妹はいるだろうから継承権放棄しても問題は少ないだろうが、引き継ぎ完璧に済ませないと出られんだろうし。
つーか主神に逆らってマトモな運営できる人物を同じマトモな神経した文官連中が引き止めないはずはないし、それを振りきれる非情さを発揮できはしまい。
いやまぁこれだけ言っておきながら主神や父親――現国王辺りには愛想が尽きてそうなんで、思いきる可能性も低くはないんだわ。口ではオラリオで冒険者やるのが夢だとか、家を捨てて自分の道を進んだクロッゾの倅が羨ましいとか言ってるし。でもその倅めっちゃ最近まで燻ってたんよ。
なお、オラリオに到着したら東側の門を出た辺りで戦争の準備だけは済ませていたロキやフレイヤから、つまらない事に時間を取られずに済んだとしてお礼を言われた。商人たちからは恨めしそうな目をされたが、参加賞として自作の銀食器セットとか配ってやったら諦めて退散していった。
とりあえず戦後処理に関しては形式上ギルドに一任されるんだが、そもそも開戦してるんだろうか。宣戦布告届いたん?
そんな事を考えていたらら現場責任者らしいギルド職員が現れて捕虜の身柄の引き渡しを要求してきたんだが、これがまぁわかりやすく外見と態度が三下悪役なんで色々とテンプレ的な癒着を察したよね。ただまぁここで第一王子殿がヴェルフ誘拐計画のための工作員引き込みは不要になったと陽気に暴露したもんだから空気が凍った。アタシや神々は思い切り笑ったが。
言い訳しようとしたのか、それとも罵倒しようとしたのか、口をパクパクさせている暫定責任者だったが、見苦しい真似されても白けるんで声を上げる前に捕縛して転がしておいた。当の告発者は「悪い事なんてするもんじゃないですよー」と、まぁ呑気に酔っぱらっていた。いやー、実に居たたまれない。褒美に追加で神酒渡したらロキがなんか叫んでたが、笑顔の【勇者】に肘鉄砲されて悶絶してた。
この一連のやり取りは、ギルドの信用失墜に繋がり引いては治安の悪化を引き起こしかねないとして箝口令が敷かれた。失墜するだけの信用なんてあるか? 一応あるのか。現場組の奮闘があるもんな。
アタシに至ってはマリウスやらかし事件も撮影したんだろ証拠を破棄しろとか悪魔の証明じみた脅迫をしてきたんで、もちろんその場面を撮影してウラノスとギルド長に提出しておいた。詰め寄ってきた職員は一番の下っ端にまで降格される処分を食らったそうだが……それはちょっと甘くない? つーか撮影されるってわかってるのにガバムーブするのなんで? こんな連中でもいなくなると不具合出ちゃうとか人材不足にも程度ってもんがあるだろギルド。
まぁ黙認してもらう代わりに貸し二つって話になったんで、その場で返してもらった。早い話、戦後処理に口出ししておいた。
一つはマリウスを最低一年オラリオに人質として差し出す事。これだけだと止める役がいなくなってラキア王国は再度侵攻を企てるんで、追加で今回の主目的であるヴェルフとの繋がりを絶つためクロッゾ一族の貴族位及び『神の恩恵』の剥奪、そして国外追放処分も盛り込んでおいた。
数日後、何も知らないままオラリオ入りしてそのまま流れるように牢獄へ案内された別動隊にいたヴェルフの親父さんが、その時点で調印されていた文書の処分内容を聞いて完全に心折れてたそうな。かわいそ。なんならヴェルフじいじショックで心停止とかしてないか心配になったよね。こっちはむしろどこか肩の荷が下りたような雰囲気だったそうだが。
つーか、そもそも戦争遊戯にヴェルフ参戦してないし、クロッゾの魔剣は明るみになってないはずなんだが。どうしてこうなった。修正力くんやっぱ仕事してるんじゃなかろうか、これ。つまりウィーネの誕生確定ってことか。小まめにベルたちを派遣しよう。
リヴィラの街にも情報流しておくかな。ゼノリンガルの存在と、あとは実験の影響で知能が高く積極的に襲ってこないモンスターを放し飼いにしてるから気になったらアタシの二つ名を出して確認してねって感じで。なんかもう最近は何やってもまたアイツかで済む気がしてきたから自重しなくてもいい気がするんだよな。
ヴェルフに話を戻すが、一応ギルドから【ランクアップ】についての情報は発表されちゃいる。だが、心変わりは情報が流出するようなもんでもないよなぁ。その辺の聞き取り調査どんな感じなんだろ。
あるいは【単眼の巨師】辺りがヴェルフ本人から言葉を引き出して、所構わず吹聴して回った可能性も零じゃないが……アイツってなんか口が軽いし、お気に入りの相手を自慢して火種を撒くというか、負の信頼があるんだよな。秘密持ちとしては余り近くにいてほしくないキャラだわ。直情傾向が強くて酔っぱらうと口が軽くなりがちなドワーフの血がハーフになって半分くらいの軽さになったけど酔う必要もなくなったって思えば型通りではあるのかね。
いやまぁ単純に初対面時に【異界信仰】産の装備を勝手に検分して、技術はともかく魂がこもってない鈍らだって酷評されたのもあるんだが。なお紆余曲折あって打ち合ったが普通にこっちが勝った模様。こちとら前世が日本人なんで、武器の性能よりも使い手の技量に比重を置く変態共のミーム継いでんだわ。つーか魂込めた武器がどうこう言い始めたら魂そのものの延長な素手が最強になるだろ。つまりカラミティなエンドしちゃう大魔王様は正しいんやなって。
ちなみに、マリウスの身柄を預かる先は競売形式での決定を提案したが一蹴された。無念。話では【ガネーシャ・ファミリア】が監視しつつコキ使うらしいが、余計な火種抱えた【象神の杖】の胃は平気だろうか。今度なんかしら差し入れしておこう。
【ガネーシャ・ファミリア】で思い出したが、ゼノリンガルを調教済済のモンスターに装着してもらったところ、問題なく喋れるようになった事が確認できた。
まぁ、調教されても『異端児』と違い理知があるわけではないので、非常に野生的というか、基本は飯と暴力たまに望郷の念みたいな感じではあったが。地上生活の長い個体になると繁殖に関する話題も出てきたので、割と貴重な情報が得られたのではなかろうか。実際にガネーシャからは感謝の言葉をもらったし。
ちな、人間に怪物趣味なんて性的嗜好の概念があるように、モンスター側にも人間趣味的な嗜好を持つ個体も見受けられた。自分がそういう目で見られていた事にショックを隠せない【象神の詩】がいた気もするが、保険適用外なので残念ながら諦めてほしい。そもそもそんな内容をカバーしてる保険なんてないが。
とりあえずゼノリンガルは調教済の――そしておそらくは調教前も含む――通常モンスターにも使えるって事が判明したので、【ガネーシャ・ファミリア】にいくつか預けておいた。モンスターの生態調査って建前にも役立つし、モンスターの思考や嗜好について傾向を把握できれば調教技術の向上にも繋がるだろうしな。
そういやふと思ったけど、タイミング的に出番のあったバーバリアンの『異端児』ってどうなったんだろ。イケロス派が人造迷宮を利用できん以上は地上にいるとは思えんが。そうなるとリドたちに保護されたか、モンスターに殺されたか……冒険者に討たれたかだろうな。尋ねるにしてもピンポイントで指定するのは不自然だよなぁ。新顔か古株かすら知らんし。この前の顔合わせじゃ確認できなかったけど、各隠れ里の留守役とか見回り組とかいたしな。
うーん、開発頓挫してるけど『異端児』かどうか判別する魔道具ほしいよな。顔合わせの時に『異端児』から魔力波長のサンプル取ってみたけど、通常種と違うからいけるかなーと思ったのに強化種とほぼ変わらんからご破算だったんよね。まぁその強化種も強化部位とかの獲得した特性で波長の傾向が変わるんだが。
現状だと理知の有無を確認する方向で考えて、装着するんでなく相手に向けて翻訳するゼノリンガル改善を開発できないか試行錯誤を繰り返すも難航中な。
で、今度は【タケミカヅチ・ファミリア】とルビスにヴィトーを加えて中層探索。ヘルハウンドの炎やアルミラージの石斧投げのような魔法や遠距離攻撃がポンポン飛んで来る環境に慣れてもらいつつ、18階層を案内して初の外泊に挑戦してもらう。
まぁタケミカヅチ派はサバイバル能力高めなんで心配はいらなかった。ルビスはニンジャ野伏力のおかげで完全適応してた。ヴィトーに関しては【ステイタス】こそニューゲームだが、中身はベテランなんで心配するだけ無駄……と、思いきや、キャンプ側の食料とかは興味の欠片もなかったため割と知識が欠けていた。
で、特に次の日には何事もなく帰還。いやまぁアタシからすれば既に日常でしかなくなって久しい怪物の宴や怪物進呈も、常識からすればダンジョンや人の悪意がてんこ盛りなんだろうが。少なくとも同行が初のヴィトーはげんなりしてたし。Lv.1で何度もミノタウロスの咆哮受けるのはキツいわな。
なお、ルビスは全項目がS999になったので晴れてLv.2に【ランクアップ】した。発展アビリティは悩んだそうだが、最終的に『拳打』を発現させたらしい。
まぁ耐異常は種族特性として持ってるようなもんだし、狩人はうちのやり方や考え方とは合わないし……魔導もジツに適用されるか不明な上に、適用されたらされたで睡眠時も発動してるマガリ・ジツがあるから常時魔方陣が出っ放しで通報されるっていうね。つーか候補に出る時点で適用されるんだろうなぁ。
あと、ヴィトーも孤児院の手伝いくらいで日常生活をエンジョイしてた状態だったのに、そこから一度の探索だけで一気にFまで到達してた項目があるのを見て大層驚いていた。
さて、原作ではラキア云々が終わったらいよいよ異端児編ともいうべき事態が起きるわけだが、何しろベルたちは既に『異端児』と友誼を結んでおり、オマケに外伝の人造迷宮攻略イベントも済んでいる。
問題になりそうなのは、強いて挙げるなら【イケロス・ファミリア】だが……最悪の事態を想定した場合は趣味の虐待をするために『異端児』捜しをしてたら精霊の分身に出会って怪人勢力に取り込まれるとかか? その場合は【ステイタス】の更新用にイケロスもワンチャン保護というか監禁されてるんかね。
つーかダンジョン内で神が死んだらさ、外伝のタナトスが人造迷宮で起こしたみたいにお漏らしした『神の力』でダンジョンから地上直通の大穴が開通させちゃってそのままモンスター地上進出劇が始まっちゃったり、あるいはアンタレスみたいな感じでダンジョンが『神の力』に耐えつつも漆黒モンスター差し向けて神とモンスターによる奇跡のコラボ第二段――今回も変わらず『神の力』使いたい放題ですよ――みたいな事態が起きちゃったりしそうなんよね。どっちに転んでも詰みに近いっていう。
しかしそう考えたらつくづく原作のヘスティアはものっそい戦犯候補だったんだなって。アイツ18階層まで行く迷惑行為だけじゃなく、派閥結成当時にサポーターの真似事しようとしてベルとダンジョン潜ってた事もあったよな。堂々と無警戒に接近したせいでゴブリンパンチ食らってるし、あのタイミングで死んでたら浅い階層だからジョバった『神の力』でダンジョン貫通余裕でしたからの巻き添えでバベル崩壊して終末がやってくるエンドやぞ。バベル在住の神々も撃ち抜かれて連鎖送還始まって、あんまりな出力の『神の力』を察知したダンジョンも大興奮しながらリソース全部注ぎ込んで漆黒モンスターの百鬼夜行しちゃうんじゃねーの。最早どうやっても弁護できなくて天界でもハブられたり処刑されたりするレベルのやらかしだろ。迂闊にすぎるんだわ。ギャグ補正と主役補正がなかったら普通に死んでるわあんなもん。ベルも敬うべき神様を相手に恐れ多いとか思ってる暇じゃねぇよとっとと地上に返せその足手まとい。
まぁこっちのヘスティアはその心配ないんですがね。眷族は最初からパーティー組んでるし、本神も趣味の領域に近い労働で日々が充実してるみたいだし。
話が飛んだけど『異端児』にイケロス派――特に怪人をやれそうな【暴蛮者】の情報を聞いてみるのがよさげだな。
なんて事を考えたのでリドたちに連絡を取ってみたが、ここ最近は合流済の『異端児』から犠牲者を出さずに済んでいるとの返答が得られた。
いくつか特徴を挙げて【暴蛮者】との面識を尋ねてみたら、何度か襲われ仲間を失った事があり、しかし魔道具を受け取ってからは逃げ切れるようになり、ここ最近は見かけなくなった事が判明した。魔力壁の魔道具は役立ってるらしい。
その魔道具なんだが、なんか解析用にフェルズが一つ拝借してったらしい。後でお仕置きしておこうと思う。粘土で肉づけして生前の姿を再現してからコスプレ撮影会してやる。そんで複数のルートから魔法大国に流す。かつての主神にまで届いたら御の字よ。
あとアステリオスとも魔道具越しに挨拶した。言葉少なでこちらへの興味は薄そうだが、それでもリドたちへの配慮として最低限の付き合いはする感じかな。まぁベルしか映らないタイプの一途なヒロインだろうから気になるもんでもない。人間敵対派ってわけでもないからちょっかいかけなきゃ比較的安全だし。