そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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139.出会いました。好きにして下さい。

平穏な日常ってやつが崩れるのはいつだって唐突で、呆気ない。

 

「こいつ……速い!」

『オオオオオオオッ!!』

「アスピナ様、ご無事ですか!?」

「ふん、魔法を跳ね返すとは味な真似を」

『――ハァ、ッ』

「相性が悪いな。だが、やりようはある」

『アアアアアッ!』

『邪魔を……するなぁぁぁぁ!!』

 

恐竜の化石を思わせる三体の大型モンスターを相手に、冒険者と、先ほどまで行っていた決闘相手の『異端児(ゼノス)』が立ち向かう。

 

『ベル……みんな……』

「エイジャ、こいつの守りを」

『了解っす。ネキは?』

「劣勢のところの助力(ヘルプ)だな……心配はいらねぇっぽいが、万に一つってやつだ」

 

前回はその辺に撒き散らしたまま放置してしまった紫紺の灰を倉庫に回収しながら、アタシは心の中で叫ぶ……どうして、どうしてこうなった!?

 

 

 

炎鳥(ファイアーバード)の大量発生が起きていると冒険者に助力を乞われたのは、深層からの帰りだった。

ついに来たかと現場へ急行する振りをして、全力でウィーネ――今はまだ一介の、名もなき竜女(ヴィーヴル)の『異端児(ゼノス)』――を捜す。いやまぁ、殊の外あっさり見つかったんだが。幸運三名は伊達じゃないって事なんだろうか。

 

「ヴィー、ヴル……?」

「例の『異端児(ゼノス)』だな。本来ならもっと怪物らしい顔つきをしてるさ」

「「目を閉じろ(ゴスペル)」」

「「グワーッ!」」

 

傷だらけではあるんだが、剣や弓による綺麗な傷口が見えなかった。発見が早かったのか、喋るモンスターにアタシが関与してるって情報が出回ってるのか。まぁ一般冒険者からすれば下手に関わると漏れなくアタシからの口止めとかありそうだし、見ない振りをするのが妥当って判断になるだろうしな。

でも同族を守り助けようとする人間に憧憬を抱き孤独なままの自分を省みて泣いた前世記憶を持つであろう暫定ウィーネに対して助けを求めたのに逃走、放置されるのは割と精神的なダメージがデカかったんじゃなかろうか。実際に今も手早くリリに高級回復薬(ハイポーション)を振りかけられて傷が癒されていくのを感じて安心したのか、静かに嗚咽を漏らし始めたし。いやしかし救助に文句が出ないのは助かる。予め顔合わせしててよかったわー。

とりあえず『異端児(ゼノス)』特有の麗しい見目でありながらモンスターの仕様により全裸を晒している状態を改善するため、ベルとオッサンが姉御に仕置きされるのを横目に【異界倉庫(ドラッヒエン・マーゲン)】から衣類一式を取り出して、体格的にはアタシたちより大きい暫定ウィーネをあやしながら服を着せる。

体格差から苦戦するのを見かねた姉御が途中から参戦してくれたおかげで、最終的には無事全身型鎧(フルプレート)に身を包む暫定ウィーネが誕生していた。正体を隠すならこれに限る。

 

で、リドたちに連絡はしたんだが、生憎と見回りに散ってるのと19階層が騒ぎになっているのとで迎えに行くのは難しいって事になり、暫定ウィーネにはベルたちと一緒にのんびり焼き鳥(ファイアーバード)を楽しんでもらった。

幸運な事に、暫定ウィーネは知能が高く性格も素直なので、足手まといには全くならなかった。通常の同胞(モンスター)に関しても『異端児(ゼノス)』の説明を聞いた後は敵対を避けられないので生きるためには仕方がないと割りきったようだし。

 

 

騒ぎが収束したのを見計らって、他の面子は地上に返しアタシだけ残って暫定ウィーネを引き渡すべく20階層の食料庫(パントリー)を目指す旨を伝えたんだが、返って来たのは同行するという意思表示だった。

 

「――懐かしい場所だ」

「?」

「少しばかり因縁のある場所なのさ」

 

超硬金属(アダマンタイト)で作られた四角い豆腐型建築……かれこれ築八年は経過している休憩所は、しかし全く朽ちる様子も見せず今なお健在だった。

自動で生産されるカリカリが供給される給餌箱にの前には何故かモンスターが礼儀正しく列をなして並び、人間がいるというのに襲いかかって来る気配を見せない。一体何がどうなってこんな事になってるのかは知らないが、ダンジョンの謎ってやつなのだろう。チラッと鑑定したカリカリの説明文に明記されてた、進化の果てに使用したモンスターに対する従属(テイム)効果を得たとかいう一文は記憶から消したい。進化とは一体……調教じゃなく従属ってどういうことなの……? いや、忘れよう。自棄酒しても無意味なのこういうとき辛いわー。ダンジョン内で泥酔するわけにもいかんが。

まぁ気にするだけ無駄だろうと当初の予定通り休憩所に入る。人数的に余裕があるってわけじゃないが、一応全員で座れるだけの空間はあるし寛げはするはずだ。今後タケミカヅチ派のグループを連れて来る可能性を考えれば拡張した方がいいだろうか。

 

「ダンジョン内――しかも食料庫(パントリー)にこんな場所があるなんて」

「わかるぞ。俺らも目を疑った」

「会った当初からこいつは異常だったな」

 

褒めてるんだか貶してるんだかわからんが、姉御とオッサンはどこか懐かしそうに語る。二人からすれば再誕した場所だかんな、思うところはあるんだろう……ちなみに、二人の遺体は外に出てから個別に火葬して、遺骨は冒険者墓地から獣道みたいな道を抜けた先にひっそりと立てられてある墓の下に納めてある。立てたのはやっぱりヘルメスとかアストレアなんかね。

この世界に邪悪な死霊術師の類がいるなら利用されないようにと骨を本人たちの専用装備にでもしちまうんだが、幸い魂は天界でリサイクルに回されるから悪用される事はないと考えていい。掘り出すようなやつもいないだろうし……つい先日ベヒーモスの復活とかあったんで微妙に心配なのはここだけの内緒な。

 

「さて、リドたちの方で迎えに行くのは来るまでに情報交換といこうか。テメーは雰囲気的に擦れてねェし、生まれたてって事でいいンだな?」

『えーっとね、気がついたらここ……知らない場所にいたの。それで、同じだなって思った相手がいたから、ここはどこって聞いたら……同じだと、思ってたのに』

「あー、うン。悪かった。辛ェ事を思い出させちまったな」

 

座り込んで話し始めるも、おそらくは原作通りに同胞たるモンスターから襲われ続けたのだろう。涙を浮かべ声を震わす様子に一旦中止させる。

立ち話してたら届かんだろうが、人をダメにするクッションに座らせてたんでアタシでも余裕で頭に手が届く。うーむ、髪の毛さらっさらやぞ。何をどう考えてモンスターにこんな器官実装したんだダンジョン。

上半身が人間に近いモンスターに限って女性なせいで、ダンジョンの人格オッサン女子疑惑あるんだよな。いやまぁ『異端児(ゼノス)』はダンジョンにとっても特大の異常事態(イレギュラー)なはずで、通常のデザインは人間目線だと醜悪なんだが。それはそれで僻み根性のやべー根暗サイコ女になるんだよなぁ。いやまぁモンスターの元ネタがギリシャ神話でやらかすのは女神だから自然ではあるんだが。その意味じゃダフネは植物系モンスターにされなくてよかったねと言っていいんだろうか。と、心の中のメガテニストが申しております。

そうこうしてる内に携帯魔導コンロにかけた薬缶までもがピーピー鳴いたので、そのままココアやコーヒー、紅茶を作って配る。甘くて温かい飲み物に暫定ウィーネもにっこり。あたしらはほっこり。いかんな、原作無視して主従契約からの倉庫暮らしさせたい。アタシの手で幸せを実現させたい。けど性格が汚染されるのは忍びないというかもったいない。我慢ぞ。忍とは心臓に刃物を突きつけられても動じず意思を貫くものなのだ。

その後はまぁ少しずつ語らせて泣きそうになってはクッキーを渡し、また少し語らせてはチョコレートを食べさせ、語り終えたのでアイスクリームをご馳走した。ぶっちゃけわかったことは生まれて間もない事と、アタシらに会って保護されるまでの短い時間ではあるが出会う連中みんなから襲われ続けて辛い思いをしたって事だけだったが、まぁ無害アピールにはなったし慰めたり褒めたりで好感度は稼げたと思うからヨシ!

あ、名前も正式にウィーネで決定しました。ベルが用意して姉御が整えた。アタシは候補を上げようとした時点で暫定だったウィーネを除く全員から止められたよ。ふっ、残当だ。

つーかリドたち遅くない? 19階層が片付いた後そのまま探索に出た連中が多くて思うように動けないとかか? リヴィラの街に住んでなけりゃ噂止まりだもんな喋るモンスター放流。知らなかったり知ってても気にせず襲う冒険者のが多いからしゃーない。

仮に記憶がほぼ残ってる『異端児(ゼノス)』がいたとしても、ダンジョン内で倒れた以上は基本的に名もなき英雄って事になるんだよなぁ。お客様の中にインパクトのデカいネームドの転生体はいらっしゃいませんかー!?

 

『おーい、ネキっちー』

「お、来たか。悪ィな」

『あー、いや、こっちはもう少しかかりそうなんだわ。よくわかんねーけどいくつかの階層で同胞が生まれてるのが見つかってさ。それで今そっちにアイツが向かってくれてるんだ』

「アイツ? いや、まさか、おい?」

『おう、アステリオスなら一匹でも問題ないからな。片手で同胞を担いでも残った片手だけで大抵の冒険者をあしらえるだろ?』

 

暇だからってウィーネに魔石ポリポリさせながら共通語(コイネー)の文字を教えてたら、ようやくリドから連絡が来たんだが……まぁ、聞いた通りだ。

やべーい。原作との差異がわからんが、おそらくは因縁持ち(ベル)がここにいるんだぞ。アタシやリリ以外まだ誰も知らないし察せない爆弾に火が着いちまう。

 

「オーケー、じゃあ懐かしの食料庫(パントリー)なんだが、新入りに通じるか?」

『そこの(カリカリ)にはオレっち達もお世話になってるからなー。いつからかあの場所でだけは同胞(モンスター)も襲ってこねぇし』

「アッ、ハイ」

 

本当に食べてしまったのか?

なんだろう、これ『異端児(ゼノス)』内の人間アンチ勢も原作より大人しくなってたりするんだろうか。いやだって従属やぞ。古き良きファンタジー作品における調教師(テイマー)じゃなく最近の無双系ラノベにおける従魔師(テイマー)やん。道具じゃなく家族(むれ)に近いわけだから、うーん、結果的に摩擦が減るならいい、のか? わがんね。

 

 

しばらくして、当のアステリオスから音声のみの通信用魔道具(マジックアイテム)で連絡が入ったので、ウィーネを引き渡すために休憩所の外で待つ事にする。

 

「アステリオスかぁ。強そうな名前だね」

「最強の『異端児(ゼノス)』がどれほどなのか、見てみたいのは当然だろう?」

「男は馬鹿だからな。変な流れになったら止めねばならん」

 

うん、ベルたちも顔合わせにいなかった相手なら挨拶しないとって表に出て来ちゃったんだ。アタシと、アタシを通して原作知識を知るリリは、半ば予想できてしまう運命(ヒロイン)との出会いから始まる過激な事態に、名探偵らしい黄色い例のアレみたいな顔してるけど。

つーかこっちのベルは【ファイアボルト】覚えてないんだが、アステリオスは名前の由来をどっから取ったんだろうな。アタシが聞いてないだけでアルゴノゥトとミノタウロスを思い浮かべながら【英雄決心(スキル)】乗せたりしたんかね? でも英雄マニアに変わりはないベルなら、その場合はアリアドネ姫も一緒に……うん? 何か今、繋がりかけた気が……ダメだな。所詮は閃き、つかみ損ねたらあっという間に消えちまったわ。

 

ちなみに、ウィーネは全身型鎧(フルプレート)を脱がせてある。代わりに白いワンピースに黒のオペラグローブとサイハイソックス、それとローファーに麦わら帽子で仕立て(コーデし)たぞ。清楚なお嬢さんスタイルだが、露出の少なさに反して妙に色気を感じるな?

麦わらとローファー以外はデフォルミス・スパイダーの糸を使った、本来とは違う意味のスパイダーシルク製なので防御力は高い。少なくともヴィーヴルの鱗や爪じゃどうこうできない程度には強靭だ。もちろん、今後強化種として潜在能力(ポテンシャル)を上げてったらわからんが。ローファーもヴァルガング・ドラゴンの紅鱗とカドモスの皮膜だし。唯一麦わら帽子だけは防御力を持たないに等しいが、小型化の限界に挑戦した結果リボンに加工された魔道具(マジックアイテム)が貴方をしっかりお守りします!

 

 

で、まぁ詳細は省くが無事に到着するも役割を忘れてトキメキを押さえきれなかった黒牛(ヒロイン)と童顔イケメン英雄卵の決闘(デート)が始まっちゃいまして。とりあえず場所だけは移動させる事に成功したアタシをどうか褒めてほしい。

オッサンと姉御は元より過激派だし、因縁を察して思わぬ好敵手の出現を歓迎してるんで止めずに観戦。リリは何で二人が戦うのって地味に自分のせいで二人が出会った部分に思い至り泣いてるつよつよ新ヒロイン(ウィーネ)を慰めるのに忙しいから止めらんない。そんでアタシはリドたちに経緯を説明しながら、周囲にも実験なうとお知らせして回る役目を果たしてたよ。正規ルートから遠い場所なんで人なんざほとんどいなかったが。むしろいた方に驚いたくらいだ。

 

そうこうしてる内に、まぁ、壁や床が壊れ続けてダンジョンが哭きまして。それでも全く意に介さず互いの事しか見えなくなってる二人は更に激しく燃え上がった(ヒートアップ)。ついには一向に止まない体内の破壊に、こう、ダンジョンがキレた。哭いたは哭いたけど、アレは怒りも多分に含まれてたと思うわ。

そんで広間の壁――その四方からそれぞれジャガーノートが現れた。なんでやねん。

いやまぁね、アタシもまさか戦闘の余波で床を崩すこと七回、27階層まで落ちるとか想像できるわけないやん? 一応ウダイオスとかバロールを殺し尽くす爆撃でも崩れないんだぞダンジョン。爆破移動は範囲を狭く指向性を与えた分だけ威力の高い爆弾で貫通させてるんであって、力任せに分厚い岩盤を破壊して崩落まで持っていくのとはワケが違うんよ。階層移動する度に慣れてきたのか、25階層からは崩落しそうになったら部屋を移して――その移動で地面を蹴りつけたのがトドメになり崩落させながら――戦闘したのだけはGJと思うが、逆に階層へのダメージは大きくなっちゃったんだな。

要は原作の25階層から27階層までダメージ共有するってアレに引っかかったんだろう。ぶっちゃけ途中から予感はしてたんだが、どうせ一体だろうし余裕やろって思ってたら四体同時だぞ。これはいくらなんでもねーわ、どうしてこうなった。

 

しかし現実は非情であり、時間も敵も待ってはくれない。周りと違って存在を知ってるアタシは一足早く行動を開始――現場で最弱なウィーネを守ってもらうべく倉庫からエイジャを出しながら、一番近いジャガーノートを有刺鉄線状に形態変化されたダマ鞭で削り殺し、残った灰がベヒーモスの遺灰と同じく【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】を介すれば素材に使える事を確認して内心小躍りしながら倉庫に回収したところで、冒頭に至る。

その間にベルとアステリオスは横恋慕する新ヒロイン候補に横槍を入れられ、姉御は即座に魔法を放つも反射されたので魔法を追加で放ち相殺し、オッサンはベヒーモス原種の角から作られた大剣で破爪を防ぎ、逆に破壊していた。

 

あ、キレたアステリオスの突貫で一体がバラバラになりましたね。この時点で推定Lv.7に到達済なだけはあるわ。でもこの後残り二体無視して決闘(イチャラブ)再開しちゃうんでしょ? 知ってる。

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