そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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143.噂を流しました。届いて下さい。

千の妖精(サウザンド・エルフ)】が【芸術家(ファイアワーカー)】を下し従えたという噂は、驚くべき速度でオラリオ中の隅々にまで広がった。当然、そこから商人たちが都市外の国々へと運んで行く……真相の判明と訂正の機会を待たずして。

レフィーヤの古巣である学区に伝わるかは微妙だが、そこは運任せでいいだろう。数ヶ月後のお楽しみってやつである……多分アタシは忘れてると思うが。

レフィーヤ、君はいい玩具(おもちゃ)だったが、君の派閥(かぞく)がいけないのだよ。プークスクス。

 

学区狙いって事で、先日エイナさんに呼び止められて個室に引き込まれたのも実はオラリオを裏から牛耳る【影の支配者】である彼女から密命を下されたからであり、何を隠そう【芸術家(ファイアワーカー)】は彼女の走狗であるって噂も流しておいた。

こっちが広まれば、アイナさんから聞いたエイナさんの妹ちゃんも偉大な姉を誇らしく思うのではなかろうか。姉妹で面識ないとかすげーもったいない境遇らしいしな。妹はいいぞ。妹を愛でよ、崇めよ、慈しめ。

でも会った事のない優秀すぎる姉って逆にコンプレックスになったりもするか? 憧れて後追いしたら比較され続けて折れる、なんてのはよくある話だし。実物を知らないからこそ際限なく膨らみ高く分厚い壁となって押し潰して来る感じ。

そう、どれだけ優秀な成績を出そうと周りからもらう言葉は「さすがアイツの妹だな」的な感じなんだよ。そこは「さすがお前だな」でえぇやん。兄姉が飯食って弟妹の腹が膨れるかボケ。本人が努力したから結果出せとるんじゃい。なお一部の天才。

で、連中からすれば褒め言葉のつもりだから厄介なんだよなぁ。アタシからすりゃ無意識な僻みや妬みの発露にしか思えねぇが。凡人の理屈にお前が成績を出せたのは優秀な身内がいたからだってのがあるんよな。

遺伝子の話を考えりゃ掠りはしてるだろうが、大抵は発言者自身の努力不足や努力の方向音痴から目を逸らしてる面があるから腐っていく一方。最終的には自分を認めない世界が悪いとか言ってテロや心中するんだよ、くっそ迷惑。

あ、ミイシャに対してもちゃんと悪ノリしておいたぞ。世間では【芸術家(ファイアワーカー)】土下座事件と呼ばれる事になる一件も、エイナ・チュールの親友であり裏では右腕でもある【奇跡の女】ミイシャ・フロットが裏で手を回し――仲のいい担当冒険者である【道化の魔書(ロモワール)】を経由して、彼女のルームメイトである【千の妖精(サウザンド・エルフ)】を差し向け――て懲らしめたって事にしてある。

どれも無理のある設定だが、前世のまとめブログを思わせる暇神共の改悪癖(ノリ)をアタシは信じていたし、実際仕込んだサクラ以上に肯定しながら尾ひれを足してくれた。持つべきものは(コネ)と顔も名も知らぬ病原体(かみがみ)である。実は病原体→病原菌→菌類って流れで『醸造』が働いたとかないよな? 人心ならぬ神心の操作とか洒落にならんぞ。いやまあまさすがに考えすぎっつーか突飛すぎて、ねーよとは思うが。

 

 

「つーわけだ」

「何でそんな事するんですか! あの後、って言うか今も大変なんですからね!? 街を歩くと人混みが割れるんですよ!? こう、サーって感じで」

「ひええ、お許し下さい【千の妖精(サウザンド・エルフ)】様! 貴女様のお怒りはこの矮小な身には耐え難い暴威にて……どうかお鎮まり下さいませ!」

「だ~か~らぁ~!」

 

先日は聞かないままお開きになったレフィーヤの用件は、早い話がパーティーの斡旋依頼だった。どうにも安全に死にかける事ができるので【ステイタス】の伸びが非常にいいとレフィーヤの中で評判らしい。強くなるためにもう一度……という依頼の経緯を語る姿は、どこか薬物依存にも似た雰囲気を醸し出していた。

うーむ、しかし並行詠唱はすっかり物にしたらしいし、リヴェリアの後釜としては十分な土台ができてるとは思うんだが……弓か? それとも杖術か? そういやコイツが弓を使ってるの見た事ねぇわ。でも尖らせるか丸くするかは派閥の意向を聞かんと無理かなぁ。

いやまぁ弓術は教えられるほどの腕を持ってねぇんだが。真っ直ぐ飛ばすしかできんし。曲射する場合は【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】使うと矢が狙った軌道を描くように微調整してくれるし。

そういや最近じゃコハクが練習がてらすっかり出番の減った(ダート)付与魔法(エンチャント)を施してくれるんよね。スリンガーから撃ち出された衝撃で鏃に込められた魔力が解放、そのまま矢を焼き尽くして一条の稲妻になるとかいうカッコいい仕様にはなったんだが、最寄りの金属であるアタシの装備に向かう残念仕様なので封印措置が取られたっていう。白エルフ――【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】のお株を奪う野望は秒で潰えたよ。

 

で、レフィーヤの依頼に関しては派閥の違いがあるから主神と三幹部(バカ)に許可を取って来いって複数コースの見積り書を渡して解散した。

支払いを済ませた喫茶店のテラス席から、去り際に大仰な言葉遣いでとことんへりくだり、悲鳴じみた叫びで反応するレフィーヤに腰を抜かしながらも背を向けて這いながらも必死に逃げ去る小物ムーブを決めて周囲の印象操作をするのも忘れない。振り返って見たレフィーヤは泣いていた。ごっつぁんです。

 

 

 

「えっと、よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく頼むよ【千の妖精(サウザンド)】」

「挨拶は済んだな? じゃあ進むぞー」

 

まぁ予想通りというか、レフィーヤは上層部の許可をバッチリもぎ取ってきた。なんなら潜在値(エクストラポイント)を諦めたのか、あるいは達成したのか、Lv.4に【ランクアップ】しての参加である。

つまりは【麗傑(アンティアネイラ)】と行く深層探検ツアー。やる事は変わらず37階層の闘技場(コロシアム)で耐久戦闘なんで、同行者(みちづれ)が増えた【麗傑(アンティアネイラ)】は嬉しそうだった。目指せ百体斬りって応援したら一瞬で目が死んじまったが。 

多対一に慣れれば割といけるんだがなぁ。闘技場(コロシアム)産の相手が同士討ちを厭わない事に注意する必要はあるが。羊の骨とかバーバリアンの舌とか狙撃もあるからいい訓練になるよ、うん。

 

 

さて、到着したんで突っ込ませ、戦闘を見守りながら思考に耽る。

前世記憶とオラリオの暦を照らし合わせてはみたんだが……前倒しされるイベントがあるとして、記憶にあるのがベルとシルのデートくらいなんだよな。もうお先真っ暗の手探りだよ。

まぁ、ただでさえアンタレスやベヒーモスみたいな未知が突っ込んで来る可能性もあるから気は抜けないわけだが。

 

つーかウィーネ誕生前の短い平和の間でもミアハの依頼でベルたちが無人島に薬草収集に行ってひどい目に遭ったらしいし。なんならそのひどい原因を持ち帰って来たし。寄生キノコは強敵でしたね……いやマジで。一連の流れは割と思い出したくない記憶だわ。今となっては思い出として語れるけど、当時はマジで忘れたくて仕方なかった。リリのキャラ崩壊が辛すぎるんよ。みんなで声揃えたエセ外国人風日本語やめーや。ハブられてめっちゃ悲しかった。それはそれとしてしっかり撮影して『異端児(ゼノス)』とかにお裾分けしといたが。

しかもベルたちの側を解決したと思ったら、実はロキ派も同じ島に行ってて、同じようにキノコに寄生されたまま帰って来てて、見事に感染爆発(パンデミック)を起こしたからな。こっちは派閥の人数が多いから封じ込めに失敗して、街中に解き放たれちゃったわけだ。検疫仕事しろ。

最終的にアタシがロキ派の治療してる間にキノコが歓楽街まで広がったんで、イシュタルが数日かけて都市を練り歩きながらキノコを魅了しまくって、人間を元に戻してからキノコも無力化して事態は収束した。

ここで終わればよかったんだが、イシュタルがどさくさに紛れて対フレイヤの手駒十分なんじゃねとか欲を出したんよね。それで差し向けた魅了された軍勢をフレイヤが魅了し返して……ってやってる内にキレたヘスティアが大規模な儀式で神殿を疑似再現する大技を決めて、オラリオ中の魅了を解除してからいよいよ第二級冒険者とかが投入されてぶつかり合う直前の二神に説教かまして一段落した。

ここで終わってたら、まだおイタがすぎたねって話で済んだのかも知れんが……何故か最上級の神威がちょっとダンジョン内にまで届いちゃったわけでして。うん、迷宮爆発(スタンピード)とでも言うような事態が起きちゃったんだな。もう劇場版三部作か何かだろこれって当時は思ったもんよ。束の間の平和とは……記憶を封印してたからしゃーない。

なんかダンジョンの活発化はアンタレスの時も起きてたらしいが、あっちは長時間発動し続けてた『神の力(アルカナム)』だからわかるっちゃわかるんよね。ダンジョン内部の神威感知もわかる。でも外から漏れてきた神威に反応はちょっと……むしろオラリオ内で神が送還される度に発生してる『神の力(アルカナム)』に対しても近くに神がいる殺せって暴れそうなもんなんだが。ダンジョンは謎でいっぱいだわ。思えばジャガーノート四体ってこれの余波とか残滓でダンジョンも警戒体制中だったんかね? お労しやダンジョン上。

てなわけでモンスターとオラリオの総力戦に移行した。けどまぁ、正規ルートに第一級冒険者を置くだけでオラリオへの進出は防げたんだ。代わりにしばらくの間は階層を無視した強さのモンスターがうろうろしてて、ギルドの強制任務(ミッション)を受けた面子による掃討が一段落するまでダンジョンが封鎖される憂き目に遭った。

あとその最中、上層で黒いクリスタル・マンティスとかいうカッコよさげな個体が産まれてて、現場移動中のルビスがニンジャ第六感を発揮して寄り道、複数の派閥に加勢してキンボシ・オオキイを成し遂げたんだとか。ルビスに連行されたヴィトーも治療師(ヒーラー)として活躍し、それでも手が足りないって無力感と力の渇望が噛み合って終了後に回復魔法を発現していたそうな。

キノコに始まった一連の事件、特に封鎖のおかげでオラリオ中が経済的に大打撃を食らったのは言うまでもない。他にも活性化した当時ダンジョン内にいた冒険者は異常事態(イレギュラー)で死にかけたりもしたし。まぁこっちはダンジョンに潜る以上、自己責任ではあるんだが。

その補填として、発端のキノコを持ち込み広めてしまったロキ派、魅了で都市を救ったがその後が不味すぎたイシュタル派、魅了を解除して都市大戦的な事態を防いだもののダンジョンを刺激して危機を引き起こしたヘスティア派はやべー額の罰金を課せられたんだとか。揃ってお金が必要なんですってしわしわな顔してる連中を深層に運んだのはいい思い出(めいわく)だったわ。

 

話を戻そう。時期の決まってる年間行事(イベント)は、一番近いのが挽歌祭(エレジア)と女神祭のセットになっている二大祭。しかし祭まではそこそこ猶予がある。色々とやるなら今がチャンスってわけだな。ランダムイベントさえ発生しなけりゃ、だが。

つーかデートって別に女神祭を待つ必要なくね? むしろ人混みのない平時のが巻き添え減ってマシな気すらする。暴走したフレイヤ派とかモンスターとほとんど変わらんから民衆や建物への配慮を望めないし。

でも原作のフラれたシルがここから先はR指定だとか言ってたから、間違いなくそのまま流れでフレイヤ派がヘスティア派に喧嘩売るよな。仮にここでもフラれるとして、そこからフレイヤ派が喧嘩売って来る場合は即座に抗争となるのか、それとも戦争遊戯(ウォーゲーム)の形を取るのか……微妙だな。どちらにせよヘスティア派は確定で勝つが。

だが、やらかしたばかり――しかも敗北者の立場で女神祭に豊穣の神として参加するのは、ちょっと、こう、品性が疑われるよね。フレイヤとしてはそれを見据えて終わるまでは待ちたいはず。でも恋は衝動だから、ついつい()()()()()真似をする可能性がなきにしもあらず。

つーかメタい意見だと、派閥間の抗争ってアポロン派の焼き増しにしかならんしインパクト弱いよなぁ。攻城戦じゃなく決闘なら……? うーん、わがんね。

 

まぁいいや。原作開始より前だってほぼ知識なしで切り抜けてきたんだし、出たとこ勝負でいくしかねぇわ。どうせ基本的には暴力で解決していく羽目になるんだし、その意味じゃこうして黒竜前のゴタゴタ解決を手伝ってくれそうな戦力を育てて繋がりを作っておくのは悪い手段じゃねぇっしょ。

 

「あーもう無理! さすがにキツいね」

「し、死ぬ……死んじゃいます……がくっ」

「五十九体。同格の集団相手に即席の二人で初めてにしちゃかなり頑張ったな」

 

ギブアップ宣言が出たので一旦休憩。二人を引っ張って離脱してから、後を追ってくるモンスターを殲滅する。レフィーヤが精神疲弊(マインドダウン)したのでそのまま最寄りの広間(ルーム)まで移動し、壁を傷つけて休憩タイム。一名先んじて気絶して(やすんで)いるが、まぁ誤差だ。

 

「しかし【千の妖精(サウザンド)】は大したもんだね。火力もそうだけど、この若さであれだけ自然に並行詠唱できるなんて」

「まァ、並行詠唱に関しちゃそこそこ頑張らせたからな。押しつけられて面倒見たのはとっかかりまででしかねェが」

「ふぅん? 他派閥でも平然と技術を叩き込むんだねぇ」

「対価を払える見込みのあるやつだけだ。鍛えても意味のねェ有象無象は相手にせンよ」

 

どうやら【麗傑(アンティアネイラ)】から見てもレフィーヤの評価は高いようだ。確かに動きを見るに前衛もやれそうな感じあるからな。使ってる杖は近接戦闘に向かないし、慣れも必要だが。本人が望むなら魔法剣士……それこそ外伝よろしく【白巫女(マイナデス)】のイメージで?

まぁ、尖らせるが極振りじゃない程度って注文なんでまずは度胸からかね。少なくとも攻撃されて身をすくませて目を閉じないところからだな。そこらの子供(ガキ)じゃねぇんだぞ。

 

「そろそろ休憩終わるぞ」

「あいよ。また闘技場(コロシアム)か」

「安心しろ、やってる内に慣れるから。そら、いつまでも寝てないで起きな【千】」

「はぶぉ!? えっ、あれっ? あ、ダンジョン……」

「休憩終わり。ほれ、二属性回復薬(デュアルポーション)だ」

「デュアル……? あ、すごい、どっちも楽になりました」

「ヘスティア派の傘下になったミアハ派で開発した新薬だな。金の亡者(ディアン・ケヒト)ンとこでも取り扱わせてるンだったかな」

「ほへー」

「まァ、とりあえず闘技場(コロシアム)だ。行くぞ」

「あ、はい」

 

このあともひたすらギブアップするか、引き際を誤って命の危険に陥るまで粘っては撤退、休憩、出撃を繰り返して、一日が終わった。

夜営のために39階層へ向かおうとしたら、意外な事にウダイオスが次産間隔(インターバル)を無視して出現したので、ありがたく狩らせてもらった。出て来るなら例のスタンピード後に深層へ来たタイミングだと思うんだがな。リソース足りなくて周期無視じゃなく半減くらいの効果になってたのかね?

闘技場(コロシアム)連戦をさせてないなら二人にやらせてもよかったんだが、さすがに歩くだけでも辛いほど心身ともに疲れが溜まってるので無理はさせられない。てなわけで今回は取り巻きが出たら相手しとけって言い残してソロ討伐。

咆哮を無視してダマ鞭を九股に分かれさせてから肋骨を八本で固定、残る一本を肋骨の隙間に通して魔石に絡めたら形態変化で魔石の表面を覆い、引っこ抜いて終わり。スパルトイなど呼ばせるものか。同行者二名が宇宙猫顔してたけど、コイツは特に相性が大きいから気にしなくていいと思うんだがな。

 

で、39階層で夜営をして、寝て起きたら地上に向けて帰還。下層の浅い辺りからはレフィーヤに杖術を見せて、やらせて、慣れさせた。やはり飲み込みがいい。

せっかくなんで並行詠唱させながら、詠唱時間内に杖のみで倒すって目標を与えてみたりもした。魔石破壊ありならできるようになったが、中層まで来てたんで技術の上達とは言えないか。

あとついでに18階層で果物狩りしてから帰った。水晶飴(クリスタル・ドロップ)の群生地の一つを教えたら二人ともテンション上げてたな。あらあら女の子だわねー。どっちかってーと【麗傑(アンティアネイラ)】は金策的な意味っぽかったけど。

 




UA70k突破、毎度ありがとうございます。
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