そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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146.観戦しました。少しは配慮して下さい。

「はぁぁぁぁッ!!」

「ぐっ……」

 

今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は、総力戦の名前通りに眷族全員のぶつかり合いだ。なまじ戦場(フィールド)が遮蔽物のほとんどない広い平原で、事前に拠点を構築するような準備期間も特になかった事から、戦術も相応に限られる……というか、ぶつける戦力の分配とタイミングくらいのものだ。それだけでもやり方次第で覆るのが戦術というやつでもあるが。例えば規則に場外したら復帰不可能ってあるし。

とはいえ、だ。【ヘスティア・ファミリア】は眷族が五名しかいないんで、ハッキリ言って戦術も何もあったもんじゃない。対する【フレイヤ・ファミリア】の眷族が百五十名を越えている。層の厚さも含めて考えれば公開処刑と呼ばれるのも無理はない……そう思っていた連中も、開始数分で『神の鏡』が映し出す光景に意見を撤回する事となる。

 

「止まらない、止まらないッ! 止まらなぁぁぁぁいっ! 都市最強への挑戦状を叩きつけて既に五分、一向に攻撃の手が緩まない! こいつの体力は底なしか【処女雪兎(スノー・ラビット)】ォォォォォッ!?」

「俺が! ガネーシャだぁぁぁぁぁ!!」

 

開始前までの特訓でベルの【ステイタス】は力と敏捷をD、他はEまで持って行けたが、それでも数値上は【猛者(おうじゃ)】のが高い。スキルを含めればその差は更に広がる可能性もある。潜在値(エクストラポイント)を含めれば逆転している可能性もあるが。

ついでに言えば自分のできる事への造詣が深いのも【猛者(おうじゃ)】側だ。なんだかんだでベルはまだ14歳の少年で、冒険者になってからはたったの半年程度。村で戦闘訓練した期間を含めても実は三年半しか経っていなかったりする。ゼウス・ヘラに叩き潰された経験持ちな以上は最低でも十五年は冒険者やってる【猛者(おうじゃ)】と比較すると、実に五倍以上の差があるのだから仕方ない。

それでは何故【猛者(おうじゃ)】が攻めに転じないのかと言えば、まぁ選択ミスったからとしか言えないんかね。異常な成長速度のおかげで情報がほとんど出回っていないベルたちを前に、絶対防御と評される技と駆け引きに自信ニキな【猛者(おうじゃ)】は、初見の敵を前に情報収集を選択した。そして現在もその最中と言える。

実況の漬物みてぇな名前した長いけど一言でいうと炎な二つ名を持つ別名喋る火炎魔法が言うように、ベルはひたすら連撃を加え続けている。同格である以上は一撃一撃に傷を負わせる威力を持った攻撃が、秒間六十回(フレーム単位)という間隔で、しかし多角的に降り注ぐ。控えめに言って地獄だ。

アレに斬り刻まれた経験を最も多く持つアタシとしては、大剣一本でほぼ捌ききってる【猛者(おうじゃ)】も停滞とかなんだかんだsage気味な評価してるけど化物なんだなって実感してる。こいつらと階位(レベル)自体は並んでるけど一緒にされたくないわー。

ただまぁ、とても不幸な原作破壊(ブレイク)の余波を受けて【猛者(おうじゃ)】はウダイオス産の武器を入手できてないんよね……おかげで神様の(ヘスティア)ナイフと黒獣(ベヒーモス)の短剣の二刀流を前に武器の耐久が持たなくなる時が近づいている。切り札である『獣化』も魔法も使わないのは、隙がないからか、あるいは武器破壊による油断を突くためか。

 

あ、ベルの二つ名は前回の神会(デナトゥス)で変わったやつ。最初にもらったのも原作とは違って【超速兎(ラピッド・ラビット)】だったが。オッサンと姉御は前世の身内判定で近い名前を与えられて継続。ルビスは……うん。この話もう止めようか。

ちなみにアタシは例の如く豊穣の女主人でバイト中。シルの抜ける穴を埋めろと当事者二柱からの神意なんで仕方ない……いやまぁアタシの秘密(そうこ)を知ったミアさんがこの掻き入れ時(イベント)を前に逃すはずもないよねっていう。しかし、なんだ。アレだな。

 

「何が起きてるのか全然わからん」

「なんか辛うじて白い影が【猛者(おうじゃ)】の武器を削ってるのはわかるんだけどな」

「これ何かの間違いで三十倍速とかになってんじゃね?」

 

そう、一般人はおろか第二級冒険者(Lv.4)にすら見えていないのである! 全く動画映えしない。実況も見えてないから予想しかできないのウケるんだ。ロキ幹部辺りは現場に急行して解説して差し上げろ。

 

で、他の様子を見ると、こちらも実質Lv.6同士の戦いなので目に優しくない感じなのだが……フレイヤ派は戦力の振り分けを誤ったな。白エルフの意見が無視されたのか?

オッサンに小人四兄弟と猫戦車、姉御に白黒エルフ。せめて逆の方が、叶うなら猫と白を交代した方が良かったんじゃなかろうか。いやまぁ幹部の仲とか知らんから相性あるかもなんだけど。どちらにせよ、真の階位(レベル)詐欺を前にしては二人がかりでも厳しいだろうさ。

 

「うわぁ」

「これはひどい」

「何でできてんだあの鎧」

 

悲しいかな、オッサンの防具は劣化版とはいえベヒーモス製。なもんで個々で見るとLv.5な小人四兄弟の攻撃が全く通らない。しかもダメージを受けないからと、止まない連携攻撃を強引に突破して、生け捕りにした一人を盾……いや、武器にして連携を崩した。

四人で一人扱いだろうと四肢を一本もがれたらそら戦力ダウンしてそのまま押し込まれるわな。つーかある意味オッサンのこれはボトク・ジツなのでは? アタシは訝しんだ。

 

「に、兄様ー!?」

「ミンチよりひでぇニャ」

 

残された猫が魔法を使って長く助走を稼ぎ自滅覚悟の一撃を加えるも、これまた残念な事にはいはい急所狙い急所狙いとばかりに大剣(ぶき)でガッチリ受けられて無傷。猫自身は反動で槍も体もひしゃげて跳ね返っていった。そしてヴィトーの牽引している雑魚を盛大に巻き込んでた。

 

まー小人も猫もフレイヤ派である以上は洗礼で瀕死なんて慣れたもんだろうし、回復されたら再び襲ってくるんだろう。フリーになったオッサンが回復役の集まっている部隊に向かって突撃してなきゃ再起の目もあったかもしれん。人の夢と書いて儚いってやつだ。

で、回復部隊の前に護衛が立ち塞がるも、Lv.6しかも数値以上なオッサンは簡単に止められるものじゃない。むしろ駆け抜けるオッサンに護衛が武器を当てた瞬間に撥ね飛ばされる愉快な光景が繰り広げられてたんだわ。当然、魔法も飛んできたけど……その鎧アホみたいに魔法防御力も高いんよね。当たっても跡すら残らんかったわ。

ノーダメで終了したけど、実はこっそり武器も防具も再生能力までありますとか言ったら泣いちゃうんじゃなかろうか。

 

「粘ったなー」

「いや、頑張ったよ、うん」

「邪王は滅びぬ……何度でも蘇る……」

「見えなかったけどあれ集中砲火されてたんだろ? 怖くね?」

 

姉御の方は音の魔法(サタナス・ヴェーリオン)について情報を得ていたらしく、そこから【静寂】との戦闘経験を持つリヴェリア辺りに頭でも下げたのか、耳栓の魔道具(マジックアイテム)で対策を取っていた。しかし同時に姉御も雷、炎への対策が万全だったので、魔法剣士三名による魔法を放棄した接近戦が始まった。

黒エルフが姉御にビビりまくりで、魔法使って性格矯正してたけど……逆に姉御の癇に障ったらしく、効果が減じていようと知った事かと言わんばかりに魔法を全方向から叩き込まれまくった挙げ句に爆散鍵(スペルキー)魔道具(みみせん)の限界を超えた大爆発により陥落した。魔法を放棄したとは一体なんだったのか。

その後は残された白エルフ一人だけで相当に健闘したが、戦闘時間の経過と共に太刀筋を学習されていき、勝ち目が潰えたと悟ったらしく最後は意趣返しの如く至近距離で相討ち狙いの全力魔法を放ち、見事『精霊の護布』を破損させ姉御にもダメージを与える事に成功した。魔法を放棄したとは一体……傷の深さ? 聞いてやるな。

姉御はオッサンが回復役を仕留めに行ったのを見て、自分は第二級冒険者狙いに移行していった。さすがに耳栓は数を用意できなかったらしく、魔法で面白いくらいに吹き飛ばされてたな。

 

「やっぱりおかしいだろ【似非忍者(レッサーニンジャ)】のやつ」

「何あれ、すっげー」

 

ルビスはアタシの用意した大型の人形兵(ゴーレム)に乗り込みつつ、大型の背負っていた六体の人形兵(ゴーレム)を操作しながらフレイヤ派のモブを相手に獅子奮迅の活躍を見せた。途中、人形兵(ゴーレム)の頭部が吹き飛ばされた際に神々が声を揃えて「「「中に誰もいませんよ」」」と震える場面もあったが、やはり多勢に無勢。操作している人形兵(ゴーレム)が一体、また一体と戦闘を継続できなくなり、劣勢に。そこでルビスはかくなる上はと切り札を出した。

 

「「「へ、変型合体ロボだー!!」」」

 

テンション爆上げな男神共の言うように、切り札とは戦闘不能になっていない人形兵(ゴーレム)が腕や脚に変型し、胴体兼任の大型に連結合体(ドッキング)。階層主並の大型になっていた。

なお、身も蓋もない事を言えば小型化したファイナルに至ったほぼビッグなモスさんを模した姿である。いや、なんか格闘の強そうなロボって考えて作ってたら【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】セレクションでこんなんなったんよ。アタシは悪くない。なお武装はないので心にて悪しき空間は断てない。カラテあるのみ。

 

「何だアレ!?」

「知るか! ゴライアスだと思って陣形(フォーメーション)を……」

『イヤーッ!』

「「「グワーッ!」」」

『イヤーッ!』

「「「グワーッ!」」」

『イィィィィィィィ、イヤーッ!』

「「「ンアーッ!」」」

 

強い(強い)。サイズがデカいからまとめて吹き飛ばせて雑魚狩りには便利だな。巨体だから鈍く見えるけど実際はLv.5相当だし。ただ幹部が残ってたら最優先で排除しに来て、瞬殺されてただろうな。的がデカいし。

戦闘特化型数十体分のコストでルビスの操縦があってギリギリLv.5を達成してる感じなんで、コスパは悪いしワンオフの専用機だしで要改善の塊っすわ。地味に空は飛べるから人間相手ならかなり有利なんだがなぁ。黒竜の前じゃ盾にもならんし有人機だから使えない……悲しい。

 

ちなみに影のMVPは命名式を受けてない期待の新人ヴィトー。スリンガー引き撃ちで香辛料やハッカ油といった『耐異常』持ちにも通る嫌がらせで調子を崩し、魔剣使って地面を凍らせた上で水浸しにし、突っ込んできた相手を転ばせる。そして雷でまとめて葬る。更には油を撒いてから火を放つ始末。いやまぁアタシの教えたやり方なんだが。

階位(レベル)どころか『神の恩恵(ファルナ)』すら関係なさそうな方法に、フレイヤ派のモブ一同も大層お怒りで、しかし腰に着けた推進機を使いLv.4並の速度で逃げられる。そうこうしている内に回復部隊から護衛以外を離しきり、最後は追い詰められた振りからのLv.4に至った【ステイタス】を存分に発揮しての不意討ち、乱戦、煙幕からの離脱と、そこへかっ飛んできた戦車だったもの(アレン)による追突事故。実にいい仕事だった。

だから滅茶苦茶良く響く大声量でアタシを大々的に称えるのを止めるんだ。店内の連中から向けられる視線が冷たい。

 

幹部も回復役も粗方が片付いたんで、残るは団長の【猛者(おうじゃ)】のみ。ここまで来ると観客としては応援先は半々くらいになっていたように思う。

結局二十分に渡るベルの連撃を受けて、大剣が破壊される。好機(チャンス)だと思わずベルが攻めっ気を出してしまったところに、突き刺さる拳。ベルの速度と癖を把握し、その上で獣化による能力上昇でベルの予測を超える速度のカウンターだった。

ベルの体はものっそい速度で吹き飛んで、ルビスの合体人形兵(ゴーレム)に追突、人形兵(ゴーレム)は分解された。まるでギャラティックなノヴァみたいな時間差でバラバラになったのでアタシは満足です。まぁ、おかげでベルは場外判定にならずに済んだし。

 

「……次はどちらだ。いや、二人まとめてか」

「甘く見るなよ、Lv.7」

「その通りだ。勝ち誇るには……」

「「まだ早い」」

 

直後、着弾。

戦域の半分近い距離を一瞬で詰めたベルによる返礼の拳が【猛者(おうじゃ)】の頬に突き刺さる。画面外だったんで目撃者はいないだろうが、発現したばかりの【ファイアボルト】での回復と上昇補正(バフ)。加えて、おそらくはルビスからの付与魔法(エンハンスメント・ジツ)も得てもいるだろう。僅かな魔力光の粒子を帯びた拳は、獣化している【猛者(おうじゃ)】を確かに押し下げた。

 

「なるほど、謝罪しよう……続きを」

「……はい」

「待て、それじゃ締まらんだろう」

 

第二ラウンドが始まるかと思ったところに、オッサンからの制止。そして……【猛者(おうじゃ)】の前に突き刺さる大剣。

 

「使え。ただし、相当なじゃじゃ馬だぞ?」

「……感謝する。礼は後ほど」

「いらん。精々喰らい合え」

 

これには【ヘスティア・ファミリア】に賭けていた観客から悲鳴の嵐。なお今回のオッズはフレイヤ:ヘスティアで1.6対2.5だとか。割と接戦だと思わん?

 

「……なるほど。確かに。だが……」

 

そうして何度か素振りをして、おそらくはじゃじゃ馬の意味を理解、納得したのだろう。それでも【猛者(おうじゃ)】は御してみせる。オッサンもこれにはニッコリ。

 

「待たせたな」

「いえ、今度はそちらからどうぞ」

 

ベルの言葉は、慢心に聞こえたかもしれない。都市最強を相手に勝ちたければ、騎士道や武士道のような礼節を持ち出さずにどこまでも卑怯とは言うまいな精神でかかるべき……そう観客は思うだろう。

だが、ベヒーモスの大剣を知っているのなら話は変わる。武器の強度はほぼ同じ、武器破壊などは夢のまた夢。しかもこの状態で先程までの絶対防御なんてのをされた日には、溜まりに溜まった衝撃を解放してのカウンターで間違いなく即死する未来が見えるんだな、これが。

だからベルは勝つための最善手を打っている。これからは相手に攻めさせて避け、流し、合わせて削る。恐ろしくか細い綱渡りの開始だった。

 

なお、当然ながら【猛者(おうじゃ)】の攻撃もLv.7の極まった【ステイタス】から繰り出されるため、観客の目には映らなかった。避けるベルの姿も映ったりブレたり消えたりで、もうどうしようもなく『神の鏡』の前の空気は冷えっ冷えだった事を述べておく。視聴に集中しなくなって飯や酒の注文には繋がったのでヨシ!

 

結局、獣化の度に体力を激しく消耗する【猛者(おうじゃ)】がジリ貧になり、より慎重に――あるいは臆病になったベルが関節を狙い確実に相手の戦力を削いでいって、最終的には【猛者(おうじゃ)】が武器を取り落とした。

今度こそトドメの一撃を放とうとするも、相手が立ったまま気絶していると気付いたベルが武器を寸止めしたタイミングで、気絶したまま繰り出された【猛者(おうじゃ)】の拳が……という天丼っぽい流れでベルが場外負け。

まぁ相討ち(ダブルノックアウト)ではあるんだが、執念の差で最後まで二本の足で立ってた【猛者(おうじゃ)】の勝ちだろ。

 

そんな感じで今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)における勝者は【ヘスティア・ファミリア】となった。【フレイヤ・ファミリア】は今後ヘスティア派の傘下になり、フレイヤはヘスティアの従属神に。

早い話、都市最強派閥の看板が変わったわけで、しかも最強より強いのに最強だった派閥を取り込んだ……おかげで、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)における一番の敗者は最強から二番目に格下げされた感のある【ロキ・ファミリア】だと専らの噂である。ウケる。

直接戦ってないのに負けを決められた気持ちはいかなるものか。早速取材班はオラリオ北区――黄昏の館へと飛んだ!

 

「行かせるわけないだろ馬鹿たれ!」

「グワーッ!」

 

ミアさんからは逃げられなかったよ……。




しっと団の年行事があるので明日以降の投稿が遅れるかもしれません。
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