そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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151.帰って来ました。ゆっくりしていって下さい。

冬目前、学区の帰港が間近に迫る頃。オラリオに【アストレア・ファミリア】が帰って来た。

原作じゃ悲劇的な最期を遂げた面々だが、こっちでは健在。闇派閥(イヴィルス)壊滅の宣言が発せられたタイミングでまだまだ正義を示さなければならない場所があるとしてギルドを説き伏せ、都市外へと主な活動場所を移している。

奇しくも竜の谷から結界をすり抜けて里を襲う被害が増加している昨今、第二級冒険者が各地を巡るというのは大きな意味があった。とはいえ、被害を未然に防げる事は決して多くなく、被害者の行き場のない怒りは助けてくれた力ある者へと向けられる。善人揃いな派閥なのでしっかり受け止めちゃうし、相当に精神を削られながら行脚の旅をしている事になる。

反撃されたら死ぬんだがそんな事もわからないのかって言いたくなるが、思うにこの辺は生きたままモンスターに食われる恐怖に怯えるくらいなら同じ人間にサクッと殺してもらえる方がマシくらいの自棄を起こしてる可能性もあるんだよな。迷惑千万。

アタシは戦う力を求めなかった被害者の無知蒙昧をあげつらうのに余念がないタイプではあるが、同時にアタシがオラリオ生まれオラリオ育ちでありながら対黒竜を見据えているのは、前世知識があるからこそなのも確かだと自覚している。

いかにもなラスボス候補、いかにもな終末装置。どう考えても個人や少数の精鋭が相手にするもんじゃあない。本来なら人類の技術を結集する形でもいいから総力戦で挑むべき存在だが、この世界には文字通りに崖っぷちな世界の命運を賭けた物語が、もっと言えば失敗した先(ポストアポカリプス)の概念がない。つまり、この世界――正確にはこの時代の人々は、終末の恐ろしさを予想できない。

ぶっちゃけこれは神時代の到来により大穴がしっかりと塞がれ、人々が比較的平和になった世界で世代交替していく中で終末の恐怖と縁遠い生き物に成り果てたせいではあるんだわ。記録媒体も弱いし、悲劇であっても英雄譚に加工されて今がある=どうにかなるって楽観を撒いているし。吟遊詩人(バード)としても飯の種だから売れるように工夫するのはしゃーないが。絶望の中で希望を持たせる詩や歴史を紡ぐ詩は平和の中じゃ人気出ないんよね……。

 

で、都市外へと旅立った【アストレア・ファミリア】だが、当日末妹だったリューに関してはご存知の通り豊穣の女主人で働いている。連絡員も兼ねているらしいが。

これは正義の在り方こそ見出だしたが確固たる正義を見つけたわけではないという事でお留守番を命じられてしまい、そして生活能力が残念な事から一人暮らしも無理やろとアリーゼが抗争の最中に悩みを解決してくれたシルに預けたからなんだそうな。豊穣の女主人に関しては輝夜とライラも炊き出しで知ってたんで賛成に回り、アストレアもそれはもう丁寧なお願いをしたんだとか。

まー抗争中の民衆から浴びせられた悪意で折れる程度の繊細な心(ガラスハート)が都市外の比較にならない悪意(やつあたり)に耐えられるか微妙なのは確かだもんなぁ。むしろ戻って来た面子ですら見てて心配になる程度に疲弊してたし。

そんな【アストレア・ファミリア】は、かの剣製都市ゾーリンゲンで素材採取しすぎてた都市と堪忍袋ぬっくぬくな精霊の間を取り持って世界への武器供給を途切れさせなかった偉業を皮切りに、各地で問題を解決していた。その際に眷族を増やしたりもしたらしく、地元を守るって残った者を含めると三十名余りの中規模【ファミリア】へと成長していた。毎年またしても何も知らないリュー・リオンさんが見られるので初期メンバーは満足らしい。

 

とりあえず豊穣の女主人で歓迎会があるってんでバイトに駆り出され、ついでだからと【ヘスティア・ファミリア】を紹介しておいた。主要メンバーは姉御を見て白目剥きながら泡吹いて気絶してたので、撮れ高はバッチリだ。復帰後に輝夜がヴィトーにも反応してたが、悪人センサー的な直感が仕事しなくて混乱してた。

アストレアとヘスティアも積もる話があった模様で、聞き耳を立てた分では特に【アルテミス・ファミリア】壊滅の報に大層悲しんでいた。例の如く後日教会へ招待したら、大精霊と化したアルテミスを前に驚愕してたが。

あとついでなんでペガッサ星人のソフビ人形を装備とか保存食を詰め込んで渡しておいた。受け取ったライラからドン引きされたんで、追加で愛しの【勇者(ブレイバー)】が【怒蛇(ヨルムンガンド)】と親密になりつつある事と新たな悪い虫アルガナが現れた事を伝えておいた。某叫びみたいな表情してたのでみんなで笑ってやったとも。

余談だが、アリーゼと輝夜以外の主要面子も都市外のゴタゴタでLv.4に【ランクアップ】してる。なんでも剣製都市に中位精霊がいるらしく、そこそこ揉まれたんだとか。風の精霊って聞いた時はビクッとしたよね。アイズと合わせたらどんな反応が起きるんだろうか。

そんで今回も学区が来る辺りまで新人研修にダンジョンへ潜り、食料庫(パントリー)と強化種の洗礼を浴びせるらしい。開祖としては誇らしい限りである。

 

 

 

 

「『学区』が帰って来たぞぉおおおおお!!」

「荷物なんて捨てて早く逃げろぉおおお!!」

『はいはーい避難経路はこちらになりやーす』

「「「いや、なんでだよ!?」」」

 

そんなわけで正式名称:海上学術機関特区――通称『学区』がメレンに帰港した。三年刻みの帰港なので久々と言えば久々だが、毎回半年とか一年とか港に居座って点検修理してるんで個人的にはまた来たのかって感じだったりする。

いやだってオリンピックよりは期間が短いわけだし。しかも開催期間は長いし、場所も近所で固定だぞ。ありがたみ薄くない? つーか普通の感性なら慣れるというか、飽きるだろ。エルフじゃあるまいし。

まー、この時期は学区の生徒が特別実習とやらでダンジョンの上層~中層に出没するので、非常に厄介事が増える。暗黒期でも構わず帰港してたんで、大抗争前だとアタシが親父のサポーターやってる頃に一度、ソロダンやってる頃に二度か。

当時は向こうの方が格上な場合も多かったが、お行儀のいい坊っちゃん嬢ちゃんながらもペアまたはソロの小人族(パルゥム)ともなればそれなりに見下して来やがりまして。まー聞こえるような陰口叩いたりは普通にしてた。同じ小人族(パルゥム)であってもダンジョンに潜る条件について定石通りな知識をひけらかして無学な冒険者的な見下し方をしてくるのだから始末に終えない。

おかげで大抗争の前に帰港してた際は何度かパーティーが行方不明になる瞬間にも立ち会ったわけだが。いやはや、前途ある若者が醜悪な怪物共(モンスター)に命を奪われ、あるいは生きたまま食われる……実に痛ましい事件だったわ。

当時はリリに会えなくて相当に淀んでたし尖ってたからなぁ。いやまぁ怪物進呈(パスパレード)されたから自己責任砲を撃ち返しただけなんだが。助けてとか呪ってやるとか以外にも、本当にお母さーん(ママー)って言うんだなーとかぼんやり思いながら眺めてたわ。代わり言っちゃなんだが、(かたき)は即座に取ってやったとも。

今になって振り返ると、きっと向こうも当時は暗黒期真っ只中って事で都市外の治安も終わってた部分があったから心が荒んでたんだな。つまりみんな闇派閥(イヴィルス)が悪い。許さんぞ闇派閥(イヴィルス)

 

ちなみに三年前は講演(セミナー)を打診されたんだが、丁度ベルの村を魔改造して楽しんでたんで半年以上音信不通だったから知らんかったし、オラリオに来た後もダンジョン直行してリヴィラの街の門に貼られた冒険者依頼(クエスト)とも強制任務(ミッション)とも違う依頼文を見なかった事にして倉庫内食料が半分くらいになるまで39階層を拠点に狩りをしまくってた。

そうして地上に帰還した後も【ステイタス】の更新をして、強化種や深層種の素材をゴブニュ派に売り払い、豊穣の女主人に酒を卸し……それらの用事を済ませても学区が港にいたので、一応断るべくギルドに顔を出して尋ねたらそのまま学区まで連行され、臨時の講演(セミナー)を一度だけ行う羽目になったんだよなぁ。あれは失敗だったわ。酒配達以外は次回まで保留して村へ戻るべきだった。

で、求められてる物もロクに知らないまま連行されたから特に何も用意してなくて、仕方なく手持ちの魔道具(マジックアイテム)や装備品を例にちょっとした加工方法や化学式の計算を話した……はず。そこそこ好評だったが、質問が多すぎてうっとおしくなったんで現物をくれてやるから勝手に調べて発展させろってぶん投げて逃げたんよね。

その中には魔力壁の魔道具(マジックアイテム)――つまり『カーバンクルの秘晶』を加工した物もあったんで、単純に億単位の寄付をしたのと同じであり、態度でマイナス気味だった評価してた連中も手のひらクルーしてたんだとか。

なんか学区としては癖の強い人材には慣れてるから常勤講師として招きたいって話も出たらしいんだが、ギルドとしても個人で納税額ランキングに食い込む金蔓を手放すつもりはなかったので依頼自体が流れたって話を後で聞いたんだよな。確かミイシャ情報。

 

 

 

そして常勤講師の話を蹴った代わりに次回――つまり今回の帰港時に講演(セミナー)やらせるとか当時のギルドは確約したらしい。

 

「いや、知らンがな」

「そこを何とか……」

「本人のいねー所で勝手に決めてンじゃねーよ。講演内容ここ十二年の間で起きたギルドの隠蔽している汚職事件とかにすンぞ」

 

現在地はギルド本部の個室。呼び出されたんで向かったら個室に案内されて、『学区』での講演(セミナー)依頼をされたわけだが、報酬に魅力を感じなかったんで拒否したよね。したらまぁ三年前の口約束があると泣きついて来たってわけ。

 

「止めてくださいよ!? でも個人的に知りたいので後で売って下さい」

「一介の職員に払える額なわけねーだろボケ。ンで、仮に受けねェ場合の罰則(ペナルティー)は?」

「えーと、その、個人の全財産没収と所属【ファミリア】の活動無期限停止命令です」

「へェ。じゃあそれでいいや。個人の財産なンざくれてやるよ。【ファミリア】も抜けて無所属なるわ」

「……は?」

 

吹っ掛けてたつもりなんだろうが、実際毛ほども痛くないんだよなぁ。ギルドの把握してる財産なんてギルドの金庫に預けてる分と土地くらいのもんだし。土地は商会名義に変更済なんで、社長個人の罪に対して与える罰で会社の土地没収なんざできて堪るかって話なんだわ。ギルド長の横領暴露すればギルドを乗っ取れるって言ってるようなもんだぞ。

つーかこの場合、Lv.6の冒険者を手放す時点でオラリオの存在意義に反しててギルドの頭が疑われる。ついでにオラリオ西北西の一角は大抗争の後でギルドが復興を諦め見捨てた――実際には後回しだったのだろうが、底値だったタイミングでアタシに買い占められた――土地だ。そこを七年かけて開拓し、ましてや一部は精霊の住み着いた土地にまで発展させた途端に接収を狙ったとか噂を流されただけでもギルドへの抗議が殺到して仕事が止まるぞ。ただでさえ学区が滞在する忙しいタイミングなのに。ギルドが精霊の住む土地を確保するための出汁にされたとか学区としても黙っていられないだろうし、講演の約束も反故にされる……うーん、考えてたらテンション上がってきた。

 

「ダンジョンに潜れなくなるのは惜しいが、地上の素材も捨てたもンじゃねーしな。どうせだから『神の恩恵(ファルナ)』を封印してそのままオラリオも出て行くか」

「いやいやいや、待っ、勘弁して下さいよ!?」

「勘弁してやってンだろ。要求してきたのはそっち。罰を決めたのもそっち。要求飲まずに罰を飲むンだから何も問題ねーだろ」

「……ぜ、全国に指名手配して街や国に入れなくする事だって出来るんですよ!」

「すれば? 地図にも載ってない交易路も拓かれてないド田舎でのんびりスローライフでも送るのも悪かねェ。どうせなら竜の谷の封印に挑戦してみるのもありだな。英雄育てる猶予を稼げるならオラリオとしても文句はねェだろ」

「あ、う、お……おろろろろろろろ」

 

アタシが一向にやる気を見せないのでギルド職員は嘔吐してしまいました。上司のせいです。あーあ。

 

「いや、テメーが知ってるか知らねェがよ。学区の技術職連中ってひたすら面倒くせェのよ。血走った目で鼻息荒く迫ってくるドワーフとか相手にしてェと思うか?」

 

しかも一人や二人ではない……全員だ。そら艦から飛び降りてロログ湖の上を自走できるタイプのホバーボート使って逃げもするわ。途中怪魚(レイダーフィッシュ)に襲われて回避したはいいが転覆して、結局水上走りぬけてそのまま村まで逃げたんだよなぁ。

外伝で湖凍らせて通路を作ってたけど、実際やろうと思えばLv.5あれば沈む前に足を前に出せるし、水を強く蹴ったら反動で上と前に進めるんよね。体力の消耗は激しいから最後の手段に近いが。次にオラリオ行ったら怪異として噂話が広まってたのも今となっては懐かしい話だ。

 

「とりあえず高額納税者を相手に納税額どころか焼いた皿一枚にも劣る端金だけ提示してどうすンだよ。報酬考えた間抜けの面をそいつ以外の職員全員でローテーション組んで一人最低一回ずつは何がどう悪かったのかダメ出しの言葉と一緒にぶン殴っとけ」

「も、持ぢ帰っで検討しゃしぇで頂ぎまじゅ」

 

後日、報酬がヴァリス以外に深層52~58階層の情報と魔導書(グリモア)数冊、そして何より学区が集めて来た都市外の貴重な素材詰め合わせにグレードアップした。その上でギルド長直々の説得になったので折れてやった。都市外の貴重素材は秘境巡りに近いから報酬としては十分な価値があるし、集めて来たのが他ならぬ学区となれば対価として最適なんでねーかな。

 

なお、講演内容をオラリオのギルドにおける汚職の歴史にしようと考えている事を伝えたら真顔で絶対止めろって言われた。ウケる。

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