そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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152.墓穴を掘りました。入る用の穴下さい

学区での講演(セミナー)を請け負ったわけだが、今更ながらに納得いかない事が出てきてしまった。

講演者としてのアタシは冒険者じゃなく商会――魔道具(マジックアイテム)や合金の製作や加工をする工房主として登録(エントリー)されるらしい。これは一部の勤務年数が長い講師または生徒が、九年前に行方不明となった生徒たちに関してアタシに抱いてる複雑な思いへの配慮がうんぬん。

まぁそんな理由はどうでもいいんだが、今回の依頼に当たりギルドは拒否した場合の罰則に所属する【ファミリア】の活動無期限停止を盛り込んだ。つまり登録区分が探索系である【ソーマ・ファミリア】を指定している以上はダンジョンに潜る冒険者としてのアタシに対する依頼でなくてはならないはずだ。

まぁ元より学区が求めてるのは魔導作製者(アイテムメイカー)としてのアタシなんで、冒険者と工房主のどっちの肩書きを欲してるかってーと後者なのはわかる。ついでにソーマ派が半分商業系であるのは事実な上にアイデア使用料が入って来てる以上法人の活動と絡めて考えられなくはないんだが……でもアイデア使用料の契約は最初から【ファミリア】と結んでるし。アタシはそのアイデア法人の活動に一切利用してねぇし。やっぱ無理矢理で横暴やらかしてるわ。

要は今回ギルドが完全に適用範囲を越えた裁量をしたわけで、裁判を起こして闘う事も可能なはずだ。もちろん契約の内容が不適切だと認められた場合は罰則を受ける代わりに契約を遡って受けてなかった事にできる可能性もあるんで、結果が出るまでは講演もしない。

 

「てな感じにごねて来たところだ」

「なるほど、相変わらずの悪童(ワルガキ)振りですね」

「特例で済ませても肝心なときに痛ェ目見るだけだかンな」

「それは例えば今回のように?」

「肝心かはギルドに聞いてくれ。少なくともアタシにとっちゃ蹴ってもいい話だ」

「やれやれ……」

 

はい、こちら学区の校長をしている神バルドルになります。

困った事に【ヘスティア・ファミリア】は学区の帰港に当たり『眷族募集(リクルート)』及び『派閥体験(インターン)』の強制任務(ミッション)が課せられるという横暴をやらかされたんで、今回は『募眷族官(リクルーター)』であるルビスの付き添い――ヘスティア派の本拠(ホーム)の持ち主として挨拶に来た形だ。しかしホント連中(ギルド)は足を引っ張る事しかしねぇな。

まぁ募集条件が黒竜討伐ガチ勢。アットホームな職場で馴れ合い上等ただしプライバシーは尊重。他派閥眷族(アタシ)の事実上支配下を容認かつ従順でいられる事。機密の漏洩は知り得た者の知人の知人まで口封じと見せしめに処す。以上の四点に同意が必要だからな。学区に通う頭があるなら希望するとは思えん。いやでも条件は学ぶ意思だから実が伴わないのもいるのか?

つーか本拠(ホーム)の時点で共有賃貸(シェアハウス)だから格好がつかねぇのよな。家賃は実質無料だが。同居人の機密に触れたら良くて記憶喪失、最悪は事故死とか好奇心旺盛な学区の生徒にはちょーっと難易度高いんじゃねーの。知らんけど。

あと現在のヘスティア派は誰が引率しても学区の生徒が廃人になりかねない高いどころか壊れ基準なんだよなぁ。人当たりと優しさが抜群なベルですら仮にLv.1を引率するとしたらって質問に最初は7階層の食料庫(パントリー)をソロで狩るところからだよね。って笑顔で言うんだぞ。そうしたのはアタシだが。

 

「しかし残念です。わずか半年で第一級冒険者を三名も輩出する【ヘスティア・ファミリア】のノウハウは喉から手が出るほど欲しいのですが」

「まずゼウスとヘラの子または孫を見つけます」

「……ふむ、スタートラインに立つ時点で敷居が高い事は伝わりました」

 

微笑みを絶やさないバルドルがスンッ……ってなっちゃったの草なんだ。

いやまぁベルは前例のない気持ちをスキルにできちゃう真性のバグで、オンリーワンな主人公だからな。原作とこっちでベルの性格に変化あるけど成長促進スキルは発現したくらい特別なんよ。火力スキルはチャージの代わりに生贄の儀式になったが。

オッサンと姉御は、なんていうか、チートで改造されちゃった部分あるからまた話は変わる。つーか一ヶ月もすればヴィトーもLv.5いけるんでねーかな。ルビスは比較的まったり成長してほしいというかコイツが重要視するのは階位(レベル)じゃねぇからな。それこそマガリ・ジツで新人冒険者の引率に最適っていう。

 

「やり方自体はギルド強請れば冒険者記録として出て来るがな。まァ読み込めば傾向は掴めるぞ。実行できるとは言わねェが」

「つまり隠すつもりは特にないと?」

「ハッキリ言って再現性に欠けっからな。指針にはなるが劇的な変化になるとは思わねェよ。そこにゃどこまでも残酷な才能の差って個性の壁が横たわってンだわ」

「ふぅ……君が誰よりも早く強くなっていないのもそれですか」

「そーゆーこった」

 

ご納得頂けたようで何より。しかし中性的を通り越していっそ女性的ですらある清楚系男神が悩ましげにするのは罪悪感パネェな。おのれ光の神。闇属性(陰キャ)のアタシには眩しいがすぎるんだわ。

 

「説明会の日時が決まったら連絡しますが、連絡先はどうすれば?」

「ホレ、直通の通信用魔道具(マジックアイテム)だ。ある程度まで解体しようとしたり走査(スキャンニング)を検知すると自爆して半径50M(メドル)位を呑み込んで消滅させるから変態技術者共に見せるなよ」

「気を付けましょう。使い方は……このボタンですか?」

「いや、そっちは偽物(ダミー)だな。タイマーが起動するけどゼロになっても何も起きないタイプだから安心してくれ。あ、筐体の内側に空いてる穴は自爆ボタンだから気を付けてな」

「……説明書を頂けると嬉しいのですが」

「いや、液晶をタップすると電源が入って、後は文字と絵で直感的に理解できるから心配せンでいいよ」

「はぁ、貴女は本当に……レフィーヤやエイナ、ミイシャまでもが悪戯に巻き込まれていますし」

「校長ってのも大変だねェ」

「やりがいはありますよ」

 

こんな感じでお開きになった。この十数分でかなり疲れてるなー、表情に翳りが見えていらっしゃる。なぜこんなことになってしまったんだ。

なお、本来用事があるはずの派閥体験(インターン)眷族募集(リクルート)の当事者である募眷族官(リクルーター)を務める予定な【ヘスティア・ファミリア】所属【似非忍者(レッサーニンジャ)】ルビス=サンは最初のアイサツ以外は一言も口を開かないままの退出となった。プロだな。

 

 

「お? なんや奇遇やなー」

「あァ? なンだ夢か。バルドル様の学区に殺神未遂犯の神ロキがいるはずねーよな」

 

ギルド情報じゃ一方的に毛嫌いしてるはずなんで来ると思ってなかったんだが。つーかもしかして本来ならヘスティアが付き添いに来なきゃなかった系? あるいは主神の雇い主だからいいかって判断だったんかね。

 

「うちかて好きで来てへんわ!」

「だろ、うな……」

「? ……あっ、ちょ」

 

視線の先にはレフィーヤ。学区出身で初の最強派閥入りを成し遂げた俊英。そしてここは古巣である学区。さっきの会話でバルドルが漏らした噂の浸透具合……後はわかるな?

 

「ほ、ほほ本日はお日柄も良く【千の妖精(サウザンド・エルフ)】様におかれましてはぁ↑まァすますご健勝の事と存じ上げ候へばァッ!!」

「ブッフォ!」

「止めて下さいってば!!」

「平に! 平にご容赦を! ご挨拶が遅れました事、誠に! 申し訳ござらぬ! かくなる上は腹を切ってお詫び致す!!」

「いぃ~やぁ~!?」

「ほ、ホンマに斬りよった……」

 

土下座と挨拶、そして謝罪からのダイナミック切腹! ついでに頸動脈も切っとこう。廊下もレフィーヤも血飛沫を被る中、素早くレフィーヤを盾にしたロキの外道ムーブが光る。

 

『仮にも第二級冒険者、目の前で切腹されたくらいで騒いじゃ駄目でやんす』

 

以心伝心なルビスにより素早く万能薬(エリクサー)による治療が行われ、アタシは一命を取り留める。だが一度飛びかけた意識は戻るつもりがないらしい。阻止限界点を突破したスペースコロニーの如く意識、落ちまーす。最後の力を振り絞り、回収されないよう【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】で血液をお掃除して、いざぐっどないと。

 

 

 

なお、この刃傷沙汰を理由に派閥体験(インターン)受け入れが強制的に決まった模様。巻き込まれたヘスティア派にはしっかり頭を下げておいた。

まぁ何事も経験だし、失敗しても影響のない範囲で済ませればいいっしょ。とりあえず探索系に希望するって事は冒険者志望だろうし、ヘスティア派に求められるのは初見をなくする知識よりも初見を突破できる強さ。つまり教会地下訓練場で揉んで、ルビス引率でダンジョン潜って、トドメに深層旅行でいいか。

期間は……最初半月と各組の間一ヶ月の空白を挟み一ヶ月ずつを三組かぁ。まぁ今はフレイヤ派の準備もあるし、合同探索の予行をしてから未到達領域を目指さんとないからな……いやまぁ経験者いるが。それでもその経験者から準備は怠るなって厳しめの助言が入った以上は従わんと。

 

そんなやらかしに分類される事件ではあったが、レフィーヤ最強伝説に新たな一ページが生まれたのでヨシ!

そしてちゃっかり連絡用小動物型人形兵(ゴーレム)を置いてきたルビスからの情報では、なにやらレフィーヤが教導者(インストラクター)をする事になったらしい。噂話に周囲がガッツリ騙されて本人の精神状態はやや不安定らしいが。かわいそ。

 

 

で、学区の特別(ダンジョン)実習が始まった。ヘスティア派が巻き込まれた派閥体験(インターン)は半月後からなので、受け入れ準備でわたわたするのはもう少し先になる。今頃は学区の側がこちらの出した条件を確認した上で、それでも希望する怖いもの知らずを選定してるんでねーかな。

 

ちなみに本日の【ヘスティア・ファミリア】はそんな学区(キッズ)をガン無視して留守番のルビス以外で深層探索。アイズの依頼通りにロキ派の幹部と候補も移動に引っ付いて来るが、参加者に組み込まれていたはずのレフィーヤは約一週間前に急遽決まった教導系(こもり)のお仕事があるんで今回は参加できない。後日それこそレフィーヤ用の特別実習でも組んでやった方がいいだろうか。

言うまでもなく、バベルの前で最強派閥が幹部勢揃いしてるのは非常に目立つ。普段の野次馬に合わせて学区の生徒も足を止めて見ようとしているので混み混みだ。

 

「どけ」

 

そこはまぁ、ちょっと威圧的に声をかけてやるだけであら不思議、人垣が海の如く割れて通れるようになるではありませんか。もしくは自動ドア。

ところで毎回思うけどこれ押し潰されたり押し倒されたりする人って出ないんかね? 前世なら怪我人が出たとかって軽くニュースになったりするんだけど、こっちじゃ特にそういった話は聞かないんだよな。

 

とはいえ最強を下し傘下に加え新たな最強となった【ヘスティア・ファミリア】と、直接矛を交えていないが実質二番手に転落したように見られているもう片方の最強の遭遇というのは、中々にハラハラさせてくれる場面なのではなかろうか。プチ抗争始まったら巻き込まれた周囲は命ごと吹き飛ぶし、最悪バベル折れるまであるしな。実際はただの待ち合わせで依頼が通るくらいに仲は良好だから杞憂でしかないんだが。

 

「【芸術家(ファイアワーカー)】だ……」

「あの片手間でLv.6に上り詰めたっていう真性の狂人?」

「あれが三年前に湖の上を走り抜けてった変態か……」

「やべぇよ、今日の【ロキ・ファミリア】には【千の妖精(サウザンド)】の姿がねぇぞ」

「まさかこのタイミングを狙って襲撃を!?」

 

おかしいな、【ヘスティア・ファミリア】だぞ? オラリオが誇る最新最強なんだが? なんならロキ派と合わせて最強看板が二枚揃った記念すべき場面なはず。なのになんでか別の話題しか聞こえないんだが。カクテルパーティー効果かな?

 

「やぁ、【芸術家(ファイアワーカー)】。今日はよろしくお願いするよ」

「仕事だ、気にすンな。それより、予定よりか早ェが準備はできてるって事でいいンだよな?」

「もちろん。そちらさえ良ければこちらはいつでも出発できるよ」

「じゃー行くか。仕事しねェ野次馬共に泣かされる職場の連中が可哀想だ」

 

せめてもの意趣返しとして、周囲に向けて遠回しに仕事しろって言ってから、バベルに向かう。当然のように割れる人垣。アタシを先頭に悠々と進む集団。そこに飛び出して来た小さな影。

 

『イヤーッ!』

「グワーッ!」

「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

なんという事でしょう。小さな影はそのまま先頭にいるアタシ目がけ突進、しかもカタナを腰だめに構えながら! これには周囲も悲鳴より先に驚愕の声を上げた。

 

『ドーモ、ラジルカ=サン。ルビス・ニンジャです』

 

華麗なアンブッシュを決めたのは……留守番をしているはずのルビスだった!!

 

「ドーモ、ルビス・ニンジャ=サン。何かあったのか?」

『ゴッド・ヘスティアより言伝てでやんす。「帰りに雲菓子(ハニークラウド)を取って来てくれ給え」と』

「りょーかい。そンじゃ留守を頼むぞ。学区の技術者連中は必ず精霊由来の素材を狙いに侵入を試みるはずだ」

『ハイヨロコンデー。それでは皆様、幸運を。オタッシャデー!』

 

まぁカタナと言いつつ刃が引っ込むオモチャなんですがね、初見さん。なおいざというときはカラテで刀身を形成するので実用に足る模様。学区や神が見たら機構武器だビームソードだと大興奮間違いなしだろうが、本人由来の技術なんよね。

とりあえず念話で済むのにわざわざ姿を現して直接ヘスティアからの伝言を渡して来たのは、多分仲間外れが寂しかったんだろう。お土産を忘れんようにせんと。あとニンジャは実際モータルを支配していた者であり目立ちたがりな存在である故しゃーなし。

 

「悪ィな、足止めちまった」

「いや、構わない」

「え? え? なんだったの?」

「うちの子がすみません……」

 

この後は特に問題らしい問題もなく深層へと移動し、ロキ派と別れた後は51階層をスルーして52階層へ。

そして例の如くショートカットの道を通じて移動する途中の飛竜(イル・ワイヴァーン)をダマ鞭で捕獲、殺害しながら58階層へ到着。協力者の砲竜(ヴォルガング・ドラゴン)にダマ鞭を使い感謝の魔石を投入していく。こうやって少しでも【経験値(エクセリア)】にしていかんとね。とりあえず強化種が変異した辺りからはリリに、その前段階のはヴィトーに相手させる。ついでに強化種たちの魔石はエイジャとラピスがガリゴリジュワジュワしてる。どっちもヴィトーの防具扱いになってるんで正当な報酬だ。

せっかくの深層なんで元名もなき竜(ジータ)も倉庫から出し、起こしてご飯を食べさせておく。割と普段の生活も眠ってばっかりで、月単位を経て起きたと思ったら数日の間で餌を探しつつ食事を採ったらまた眠る生活だったそうな。

倉庫内の時流を遅くしてある場所にいるんで、本来の生活からするとまだまだ寝足りないかもしれんが、特に文句も言わず――半分寝ぼけながら――ご飯を食べた。魔石もあげたが、味がしないのとサイズ的に物足りないのでお気に召さなかったご様子。

その後は軽く背伸びをしたり翼をはためかせてみたり、転がってみたりと体の調子を確認したら体の手入れを始めたんで、みんなでそのお手伝いをした。とても深層とは思えないほのぼのとした時間だったと言えよう。抜け落ちた鱗とかヒゲとか割と採れたんでこっちは内心ホクホクっすわ。

本格的な運動は面倒だからしないと眠る構えだったので、そのまま素材と一緒に倉庫に収納しておく。そしたらそのタイミングを待っていたかのように怪物の宴(モンスター・パーティ)が始まり、塞がってなかった天井の穴からの乱入も続き……と午後の部が開催されましたとさ。

もしかしてジータって地上における黒竜の鱗みたいな忌避効果あったりするのかね? 外伝の描写的には竜の幼体で古代のモンスターに連なるらしいし。姉御が言うには黒竜に似てなくもないが段違いって評価だったけど、そこは【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】の影響かもしれんしなぁ。

というか確認する術なんてないけど、漆黒モンスターの時点で特別仕様だから『異端児(ゼノス)』になるわけが……でも来世ならワンチャンないかな。幸運持ちのベルが放った自分を滅ぼす一撃を浴びながら最期の瞬間だけ奇跡的に意識を取り戻して白い光を綺麗だと思いながら消えたりすればさ。それにほら、猛牛系ヒロイン(アステリオス)だってミノタウロスだけど黒くて短期間にLv.7相当って割と非常識だしさ。いけるいける。

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