そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「……うーわ、厄介なのが」
「例の
「勢力としては、な。数頼みの雑魚だが、放置しても倒してもやべー溶解液を撒き散らす汚物だ」
58階層でしばらく狩りをした後、モンスターの湧きが段々と少なくなり、ついにはピタリと止むというダンジョンにあるまじき状況を迎えた。
深層に辿り着ける冒険者ならば自然と大量発生――
「【
「【ファイアボルト】!!」
事前にモンスターの特徴は流してたんで、対応も迅速だった。
さっきまでの狩りでは温存していた魔法を解禁して、目に見える範囲の迎撃……というか最早掃討になっている。ベルも姉御も無詠唱と超短文詠唱なんでガンガン連射して、密集しているキモ虫は自らの
「続けるか?」
「稼ぎにならンのよなー」
「俺が暇になる。帰ろうぜ」
「一応、ギルドに伝えておくべきかと」
「後は【ロキ・ファミリア】にも?」
そういう事になった。
せっかくなんで置き土産にジャガーノートを産み出させようかとも思ったが、
つーかモンスターの産出を止めたのって、地味にダンジョンが穢れた精霊対策として学習してたりするんだろうか? こう、水道の蛇口を閉めてチョロチョロ、ピタッな感じに思わなくもなかったんよね。でもそれ穢れた精霊が
いやまぁキモ虫他の極彩色モンスターじゃ相手にならない
「あれ、先生……?」
「よォ、今朝振り」
「早いね、何か
50階層に上ってきたら、夜営の準備を済ませた【ロキ・ファミリア】の面々が思い思いに過ごしていた。
「悪ィ知らせだ。58階層でキモ虫の群れ」
「きも……?」
「いつかの芋虫……極彩色のモンスターだね」
「例の赤髪は姿を見せてねェがな。ここまで上って来るかは割と微妙だ」
「そうか……情報提供感謝するよ。アイズ、みんなを集めてくれ」
「うん、わかった」
これでロキ派が即時撤退するなら【
「来ると思うか?」
「微妙なンだよなァ。追い払うだけのつもりなら目的は達してるが、餌探しなら来る可能性は高ェし」
で、結局ロキ派は残留。とはいえ、単純に壊滅の危機どころか人的被害の危険すらないから親指に反応がなかったり弱かったりな可能性はあるんよね。
つまりこちらとしては襲撃があるものと考えて動く。もちろん、向こうもそのつもりではあるんだろうが……。
「先生、戦おう?」
「すまない。本当にすまない」
「あー、まァいいか。魔法なしな」
「……うん!」
弾ける笑顔(ほぼ無表情)。模擬戦のお誘いは予想できてしかるべきってやつなんだわ。揃ってる面子が面子だし、即興程度の襲撃を切り抜けられない事もないだろうから、状況わかってんのかとは言うまい。
ベルたちはもちろん、フレイヤ派の幹部も前に進んでる昨今、ロキ派としても置いていかれてる焦りは感じているはずだ。
本来なら起きてた二度に渡る
その機会を奪った以上は埋め合わせするのもやぶさかではないといいますか。特にアイズは黒竜戦に巻き込む気満々なんで補填は必須なんだわ。
「珍しいな。いつもなら襲撃に備えるだのと理由をつけたり無駄と切り捨てるだろうに」
「そりゃなァ。テメーらがギルドにとって都合の良い子ちゃんやってたせいだとしても、だ。ヘスティア派がフレイヤ派を傘下に加えてオラリオの勢力バランス傾けちまった以上は、補填の一つもくれてやらな」
「……そう言われたら立つ瀬がないなぁ。こんなことなら五年前のタイミングで団長を譲って一介の冒険者に戻っておくんだったよ」
「あんのチビ……性懲りもなく団長に色目使いやがって……!」
「ケッ、色ボケしてんのはどっちだ」
「始まるぞ、お主らも見ておけ」
武器を取りに戻るためにテントへ戻り、長巻とナイフ六本を倉庫から取り出してアイズの元に向かったらすっかり観客が揃ってた。リヴェリアやフィンは呑気に応答してねぇで他派閥の第一級冒険者に喧嘩売る
アイズはそんな外野に反応する事なく、我慢できないとでも言いたげに《デスペレート》を構えた。すっかり
「お好きなタイミングでどーぞ」
「うん、行くよ」
言い終わる前に地面を蹴り、瞬く間に距離を詰めてくる。同じLv.6であれば目視はできても反応が間に合うかどうかの、残像が見える速度で剣を振るう。が、遅い。
「シッ!」
「嘘ぉ!?」
「アイズさんより速い……!」
「っていうか弾いたっすよ!?」
やった事は単純、こちらも袈裟に振るっただけ。まぁ柄を乗せた肩を支点に、てこの原理を利用して回転させたってのが正しいか。それでもアイズの剣がこちらに届く前にこちらの長巻が間に合い、かち合った結果アイズの剣だけが弾かれる。
「……ッ!!」
「まずは一回」
振り下ろされ、地面を砕く長巻を使って棒高跳びの要領でアイズの胸に蹴りを当てる。武器を弾かれ体勢を崩していたアイズは反応が間に合わず、モロに吹き飛ばされた。
「へ、わわっ!?」
蹴り飛ばされた先にいた【
「つっよ……」
「アイズさんが瞬殺……マジっすか」
「先生呼び、伊達じゃないのね」
そういやロキ派の第二級冒険者はアタシの戦闘をまともに見たのは初めてになるのか。割と驚いてるっぽい。一方で第一級の反応は色々。フィンとリヴェリアは小細工なしで突っ込んで返り討ちにされたアイズの真っ直ぐさに頭を抱えてんな。後はいつも通りっちゃいつも通りか。
しかし毎回疑問なんだが、なんで【
それか自分のいないタイミングで【ヴィーザル・ファミリア】がアタシに
つーかもしかしてこっちの世界じゃあの件が原因で【ファミリア】が解散かオラリオ出奔しちゃった系なんだろうか。アタシは間を置かずベルの村に帰って開拓楽しんでたから、いつ【
「実力差はわかったろ? 次からはしっかり頭使っていいぞ」
「わかっ、た……」
そこからは何度も何度も繰り返した。受け流しては関節を極め、弾き返しては殴り、避けては転がして踏みつける。
最終的には先に体力の限界を迎え、うつ伏せに倒れたまま動けなくなったアイズの背中に腰かけるアタシという、不良漫画みたいな光景がそこにあった。
「むきゅう」
「成長が足りねェなァ。ダンジョン以外に目を向けたりしなかったのか? 他で覚えた事を戦闘に応用できないか考えたりは?」
「………………じ、ジャガ丸くんの新作は欠かさずチェックした、よ?」
「ほォ、そいつァ何よりだ。で、戦闘にどう役立てたンだ?」
「………………おいしかった記憶を思い出すと、元気が出る……?」
「……ふんっ!」
「ミ゜ッ!!」
思わず逆海老固めに移ったアタシは悪くない。身長が足らん分だけ足を抱えても背中に座れないんで、割と股に近い部分の腿を抱き締める形で抱える羽目になったのはちょっと恥ずかしかったのは内緒だ。
ちなみに野郎共の視線はアイズの重力に負けて捲れそうになってるスカートに釘付けだった。近くの女性陣から制裁を受けていたのは言うまでもない。
「やっぱり、強いね」
「まだまだ若ェのに負けるわけにゃいかねーかンな」
「むぅ、私、子供じゃない」
「言ってねーよボケ」
「ぺぅ!?」
「テメーだってもう憧れを向けられる側なンだ。そいつらから見たら子供なンかじゃねーよ」
意識を取り戻したアイズが何やら感慨深げにしているが、まぁ成長自体はしてるんだ。性格が素直すぎるんで駆け引きは死んでるが、それでも体術を混ぜたりフェイントを覚えたりもしている。こっちはそれ以上に経験を積んで性格も一層捻くれた分だけ差が広がっただけで……駄目じゃね?
いやまぁアイズの本分は対モンスターにあるからな。でも黒い風から白い風になるイベントこっちだとどうなるんだろ。闇から掬い上げるというか救い上げるベルとの思い出に変わるサムシングなくない? これはもうエイジャにお願いするしかないのか?
「……先生は?」
「そーな、アタシより歳上になったら大人扱いしてやンよ」
「む、なら頑張る」
あかん(あかん)。こいつアホの子が極まってるじゃねぇか。見ろよリヴェリアが泣き崩れたぞ。
いやまぁアタシとアイズに当てられて始まった模擬戦という名の交流会で、姉御相手に詠唱させてもらえないまま完封されたから泣いてるんだが。魔法無効化なんていらなかったんや。つーかさすがに魔法ありなんか。怪我は治せる程度にしといてくれればいいけどさ。
「みんな、強いね」
「ベルたちはもうアタシより強ェからな。リリだってアタシに勝率四割だからほぼ互角だぞ」
「え……」
そりゃ天才や
考えてみればオッサンと姉御はほぼ死んだ状態だったし、第七感に目覚めてても不思議はないな。光速の拳とか繰り出し始めたらどうしよう。頼もしいだけだわ。
「ほれ見ろ。あの小人族に勇気を取り戻したいと表明してる英雄の【
「えぇ……」
基本アビリティの熟練度はスキル込みだと間違いなく四桁いってるリリのが勝ってるからなぁ。技と駆け引きはやや【
続けて襲撃してきた【
こんな感じで夜は更けていき、例外なくボロボロのヘトヘトになったロキ派をこっちの方でテントに運んで解散。でもって、休んだ後も
肩透かしではあるが、裏を返せばあの近辺で何か邪魔されたくない何かをしてるって事でもあるんだよな。色々準備したら突撃するかな。第二級冒険者辺りから仕事しなくなりがちな『隠形』にも日の目を見せてやらんとないし。なんかひどい矛盾を感じる。
つーか微妙に気になったんだけど、精霊って漆黒モンスターに対するセンサー的なものあったりするんかね? 今回のやつ、ジータに反応した穢れた精霊が差し向けた可能性ワンチャンない? レヴィスが幼体を捕獲というか発見できた理由が穢れた精霊の持つそれだったりしないかなーって、ふと思ったわけ。どちらにせよ、そこそこ短い時間で到達できる距離にいるわけだから排除せんといかんよ、うん。
そのまま18階層で忘れずに
ヘスティア派とリリはギルド本部に寄って換金や報告をしてるんで、もしかしたら帰り道で変なのに絡まれるかもしれんね。姉御が撃退して終わりだとは思うが。
あと、ルビスがヴェルフに装備の発注をしに行ったら、壊れない魔剣を完成させたって報告を受けたんだとか。そんでまぁ魔剣と向き合うきっかけの一つって事でアタシにも礼を伝えてほしいと伝言されたんだとか。
これは後で祝いの品でも持って尋ねるべきか。ちょうど砲竜とかの強化種から拾えた素材もあるわけだし。むしろ教会隣の倉庫に招待でもしてみるか? でも精霊的にはクロッゾの血を敵視してたりするんかな……ちょっと心配だからヘスティア経由で聞いてもらおうかな。
ついでに改めてパーティー狩りのお誘いしておくか。戦う鍛冶師を自称してんのは変わらんだろうし。今じゃ【タケミカヅチ・ファミリア】は全員Lv.3だから、追い越されて悔しい気持ちもあるはずだ。
少し遅れて帰還したロキ派は、どうやら三幹部と第二級のほとんどが【ランクアップ】してお祭り騒ぎになったんだそうな。模擬戦効果すごいですね。
学区が来ている中でのこれは、相当なアピールになった事だろう。
なお、数ヶ月前に【ランクアップ】したばかりな第一級組が残念そうだったそうだが……多分一番悔しいの参加できなかったレフィーヤだと思うよ。
私事ですが、今年は身内の不幸があったので新年の挨拶は控えさせて頂きます。