そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「今日から三日ほど使って個別指導だ。昨日までと違って割と厳しくやる予定だが、代わりに【ステイタス】更新時は能力が向上しているのを実感できるはずだ。それまでの間でも課題を克服し、新しく設定し、また克服しを繰り返してもらうンで成長は保証する」
「厳、しく?」
「昨日までと……」
「違って……?」
「あはは、頑張ります」
引きつった笑顔を向けてくる第三小隊。しかし時は待っちゃくれない。つーか指導員が待ちきれない。
「振り分けはそれぞれニイナがアスピナ、イグリンがガルド、クリスがルビス、レギがベルだ。ヴィトーは並行詠唱の訓練な。そンじゃ食い終わったら適宜解散して、準備できたらリビングに集合で」
そんな感じに始まった四日目。今日の午前中を様子見して、大丈夫そうなら午後からは私用を済ませて来ないとな。
つーか今更だけど癖でアタシが取り仕切ってんのおかしくね? これ【ヘスティア・ファミリア】の
「おい」
「おゥ?」
「杖術を教えろ。やつに仕込む」
午前中の訓練が始まってすぐ、姉御がそんな事を言い出した。ニイナにはサポーターの役割を仕込みつつ、並行詠唱を叩き込むはずだったんだが。
「りょーかい。練習用の杖は何本要る?」
「二十本もあればいいだろう」
「多いなー」
まぁいうて倉庫からグランド・トレント強化種の
これが折られる前提なのは非常に悲しいが、必要経費って事で納得しておこう。余ったら傘下派閥に売り払ってもいいし。フレイヤ派の回復部隊とかなら需要ねーかな。
ちな、お値段の話をすると最低でも一本九千万ヴァリスは堅い。深層種の素材ってそんだけすんのよ。本来は加工の時点で
「ほい、完成」
「誰がここまでやれといった?」
「ちゃんと衝撃を吸収して与えるダメージを極限まで減らす
「……まぁいい。まずは打ち込んで来い。十分もかからん」
「あい、あい」
口では文句を言ってるが、軽く振り回して調子を確認したら小さく溜め息を一つ。そして動きを見せろとのお達し。うーむ、年単位の研鑽を十分あれば覚えられそうなの理不尽すぎない? つーかニイナ大丈夫かな。
なんて心配をしつつ、ひとまず型通りのを五分、応用を五分。まぁ完璧に
意識を取り戻した頃には模擬戦が始まってて、まぁ各自しっかり上手な手加減をしつつ巧さで翻弄してた。でもアタシ放置ってひどくない? いやまぁリリに膝枕してもらえてたんで役得だけど。
ベルは教える側に回る事が少ないから心配な部分もあったが、気遣いのできる性格が功を奏した感じか。
同じ理由でルビスは……本人はクリスの背後から助言して、実際の相手は大剣装備の
オッサンと姉御は元より教導慣れしてるんで心配は……ない、ですよ。うん。求める基準が高めだけど、見極めは完璧だろうし。いや本当に、ほんの少しだけではあるが限界を越えさせるんよね。
とりま、これなら大丈夫そうだぁな。
てなわけで午後は外出。ヘファイストスとゴブニュに強化種の素材を売りに行かんと。その前に先にヴェルフの壊れない魔剣完成祝いを届けに行かんとな。
「よォ、大将。やってっか?」
「あん? あぁ、あんたか。久し振りだな」
工房に向かったら、ちょうど一仕事終えたのか、外に出て背伸びをしてるヴェルフを発見。その表情は晴れやかだった。
「ルビスから伝言はもらったンだが、時間を捻出すンのに手間取ってなァ。これ、祝いの品な」
「気にしないでくれ。あんたこそ普段から忙しい身だろうに、わざわざ足を運んでもらってすまない……って多いな!?」
「喜びむせび泣け。深層から採集、採掘してきた素材と強化種のドロップアイテムと適当な合金の詰め合わせだぞ」
「は、ははっ……相変わらず金銭感覚が狂ってるな。慣れるしかないんだろうが」
驚き、呆れ、諦める。素晴らしい三段活用だぞ。オバチャン気分がいいからオマケしちゃおうかしら。
「どうせこれからヘファイストス様とゴブニュ様にも売りに行くからな。なんならもう一つ二つ目利きの練習に選んでおくか?」
「いや、さすがにもう腹いっぱいだ。むしろこれを十全に活かせるように【ランクアップ】を目指す必要が出て来た」
あら謙虚。しかし貪欲。いいねぇ。力と器用が上がれば製作時間も短縮されて効率上がるだろうしな。したら発展アビリティの段階も比例して上がりやすくなるっしょ。
全く太刀打ちできないわけじゃないなら、上等な素材ほど【
「ルビス経由で【タケミカヅチ・ファミリア】と合同でいいンじゃねーの? 連中Lv.3にはなったが、最近はばったり再会した昔馴染みにかかりっきりで足踏みしてっし」
「そうなのか? ならタイミングが良かったのかもな……例のやり方してるのか?」
「そりゃ、な。ゴブニュ派が喜ぶし」
強化種はいいぞ。能力は上がっても基本的にやり方は変わらねぇから戦いやすい。たまに初見技を繰り出してきて虚を突かれる事もあるが。
「ん? うちだって喜びそうなもんだが……」
「あー、団員の前で言う事じゃねェが、ヘファイストス派は主神も団長も押しが強くてマイペースだから拘束時間長ェのよ」
「……目に浮かぶぜ」
ヘファイストスは惚れた弱味で迷惑に思わねぇだろうが、逆に【
あいつ手持ちは何でも使えみたいな事を言ってる割に自分は気が乗らんとか
オラリオ一番の鍛冶師みたいな評判あるから安請け合いしないってのも……いや、考えなしで脊髄反射してるだけだわ。武器が絡まなきゃ都合良く忘れるタイプだから根に持つのもアホらしいし。
「そういや学区の機構武装って知ってっか?」
「ん? あぁ、こないだ噂は聞いたが、現物は見た事ないな」
「まー
「へぇ……まぁ、俺は
「そォか。余計なお世話だったみてェな」
ふむ……話振る相手を間違えたな!
まぁ、とりあえず渡すもんは渡したしってんでその場を後にした。ヴェルフとしても休憩は済んだって工房に戻っていった。
「つーわけで今回のリストだ。入札形式だからいつぞやみてェにはしゃいで折ったりすンなよ」
「おー任せろー」
「何年前の話よ……てゆーかなかった事にしたでしょあれは」
相変わらず信用の欠片もないおざなりな返事で、素材を舐め回すように検分するゴブニュ派の団員たち。第一級冒険者様の持ち込みやぞ、少しは物怖じしろや。
いやまぁだからって、
「深層の、それも50階層以降の強化種か。ついこの間だまでウォーシャドウを相手にしていたお前が……早いものだな。もうLv.6とは」
「十年の歳月はアタシにとっちゃ人生の半分なンすがねェ」
ごめんな、実際は既にLv.7なんだ。ピースピース。
「ウォーシャドウで思い出した。前の強化種素材からなんか面白いのできました?」
「そうだな、学区で研究が進んでいる機構武装だったか。あれの存在を知らずに造っていた」
「ほォ?」
「二股になった槍を突き刺し、あるいは押し当てて、股の付け根部分から魔力の刃で貫くというものだな」
「
「ん? 前例があるのか?」
「あー、頭の中にだけな。レバー引くと穂先を開いて傷口を広げれて、そっから内側に仕込んである魔剣を放つだけ。耐久性や整備性も使い捨てなら良いかと思ったンだが……」
「大きさと価格か」
「ご名答。往生際悪く投げナイフ型も作ったものの、火炎石でよくねってなっちまったンすわ」
使い勝手は悪くなかったんだがな。それ以上のお手軽な爆弾があったからお蔵入りよ。持ち運びに注意が不要な点では勝ってたんだが。
「ときに、今回の
「変わらんな。技術と柔軟性は認める部分もあるが、まず性根がなっとらん」
「あー、好きなもン作るのは同じでもオラリオで商売するって部分が頭にねェ感じか。つーか野蛮な冒険者を目の敵にする良い子ちゃん連中の作った自分のための武器じゃ、そらお眼鏡にゃ適わねェわな」
ゴブニュ派は
学区でも専属みたいな関係はあるはずなんだが、卒業の関係もあるから友達止まりで相方って感じにはならんのかね? つーか技術開発に寄ってる部分もあるのか。
「喋りすぎだ」
「あいにくと講演する側でな。最初に大海へ漕ぎ出す前の押し出しくれェはしてやらな」
「……ふん」
うーん、これは
まぁ物怖じせずにヒントをもらおうと食い下がれば、動きで答えてくれるんだがな。なまじ学区の生徒は賢しいから、嫌われたらどうしようって悪い方向の考えを捨てられなくて動けないんだろうな。
「んー、今回はこれで勝負だ!」
なんて考えながら雑談してたら買取り価格を記入し終えたらしい。用事は済んだので次はヘファイストス派だな。
「あいよ、確かに。そンじゃ明日を楽しみにしとけよー」
「贔屓してくれてもいいんだよー?」
「
「ぎゃー、待って、今のナシぃ!」
なお、おそらくは強く希望した――やたらと筆圧の強かった素材のほとんどはゴブニュ派が勝ち取っていた。この辺は資本力というよりは熱意の差なんだろうな。