そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
さて、
まず強さもそうだが、一騎討ちの状況も無理がある。ミノタウロスを上層に持って来る手間はまだしも、モンスターの増援が部屋の中で発生しないのは余りにも不自然だ。つーかあの場面ってダンジョンが空気読みすぎなんだよな。見学メンバーまで安全確保されてたんだぞ。アタシなんて部屋にいると徘徊してる奴の襲撃と壁から生まれて来るの合わせて一時間に五回はエンカウントするのに。先に通路襲撃来るから壁からの誕生を阻止したり先制したりさせてもらえねーんだぞ。戦闘七分解体三分残る二分で休憩、準備だぞ。壁に八つ当たりするのもやむなしっしょ。
そんなわけで強化種ミノタウロスなんてLv.3近くなってそうなやつとのタイマンは却下。ならばどうするか……まぁ、質で足りないなら数で補うのが常道か。
というのも、発展アビリティの『狩人』の内容だ。一度倒した敵種に対する能力補正。穿って見れば、一度倒せた相手なんだからもういいよ、と二度目以降は見る価値が薄いからとっとと片付けろと言われている可能性もあるわけだ。極めればスキップ機能になったりしてな。
逆に考えれば初回は未知との遭遇的な感動みたいなものも予想されるわけで。ミノタウロスを倒した実績を持たない状況から、最初の一回で明らかに格上しかいない群れを同時殲滅する。これなら単なる格上討伐に加え初回討伐ボーナス、複数同時撃破ボーナスとかリベンジボーナスなんかもついて、それらが乗算されたらウハウハな数字になる。その意味じゃ初遭遇でも図鑑登録ボーナスみたいなんがありそうだけど、ある程度は戦って情報を得ないと駄目かもな。
「お前馬鹿だろ」
「命を捨てに行くと仰られるのならここで刈り取って差し上げますが?」
「知ってた」
まぁ、
「普通、才能があると言われても三年は掛かるものよ。だから一年頑張っても駄目だったなんて焦る理由にはならないの」
良く知ってる。足手まといのサポーターを引率しながら三年頑張った、槍術が遥かな高みにいた親父は、それでもLv.1だった。
「それとも、何か急ぐ理由があるのかしら?」
あるに決まっている。アタシは平和を知っている。殺しや事故、紛争なんかはあってもテレビの向こうで、漫画やアニメみたいな遠い世界の出来事でしかなかったんだ。人を殺せる道具は持って使ってたけど、殺すための道具なんかじゃなかったんだ。
それが今じゃ、力が全てみたいな世界だ。意思の疎通ができないモンスターがいて、わけのわからん理屈で人殺しする化物みたいに強い人間がいて、前世以上に下らない理由で分かりやすく弱者を食い物にする馬鹿なゴミ共がうようよしてる。
「ねぇ、アーデ」
そんな場所で安全を求めるのはおかしいのか? 安心できる場所を、人を、守りたいと思わないのか? 力がなければ奪われるだけだ。アタシは奪われたくない。失いたくもない。奪われるくらいなら奪う方がマシだなんて思ってはいても言わないが、奪わずに済ませるなら余計に力が要るだろうがよ。
そのための
「私達はそんなに頼りにならないかしら」
頼るつもり満々だから計画を話したのを頭ごなしの否定から入られたんだが? まぁ、違うそうじゃないってのは分かるがな。でも覚えてる内は忘れねぇからな?
秘密に関して教えた所で裏切るとはあんまり思わないが、漏らさないとも思わない。日常的な情報保護に関しては無きに等しいオラリオであっても【ステイタス】の話――特に詮索は
しかも冒険者は基本的に猫よりも頑丈で殺される心配も少ないため、好奇心も隠さない。そして抑えない。相手の秘密は知りたがるし、知った後はこれくらいならと軽く見て、噂話の体でぼかす場合もあるがここだけの話をしてしまう。
そうでなくても身内で固まってるからと公共の場でポロっと漏らすなんてのは枚挙に暇がない。割と【アストレア・ファミリア】はうっかりポンコツやらかすので、凄く心配。あと目の前で死に掛けがいたら人混みの中でも迷わずエリクサーモドキ作ってくれとか言いそう。凄く言いそう。それされたらリリ連れてオラリオ脱走するからな。地図にない隠れ村を探し出してベルとゼウスと暮らすんや。北の山間部だって話だし【
まー、最初からこの世界しか知らないやつらにその辺の心境の理解を求めるのは酷だわな。別にこいつらが悪いわけじゃない。アタシが異物なだけだ。
心配してくれる連中の厚意は受け取っておくべきだろう。原作的に考えて、こいつらは死ぬ。アタシ程度じゃどう足掻いても変えられない大きな流れだ。むしろ自分達を磨く時間を削ってアタシに付き合ってるんだから早死にさせる可能性すらある。そうなったらどんなバタフライエフェクトが起きるかわからない。そしたらどうなる? 主にリリが。だから、こいつらの時間を奪う計画は――
「……わーッた、今回は見送るわ」
「……本当に?」
「一人じゃ辿り着くのも無謀だかンな。変な噂が立ってっからマトモなパーティーにゃ混ぜてもらえねェし。今はまだ」
今までからすると物分かりが良すぎると思われたのだろう、アリーゼは説得の成功を疑っている。だが、アストレアの前でも嘘判定は出なかったろうさ。今回は見送る。一人で行くのは無謀。変な噂もギルドの換金所発のが広まってるし、そのせいで周囲からは危険視されてる。この場は引くしかなかった。
「そう、ならいいの。大丈夫よ、アーデならきっと強くなれるから」
「はいはい、嘘吐きにしねーよう努力しますよ」
多少の落ち込みはあるが、互いの手札がトランプとUNOみたいなところあるからな。ある程度は共通してるし頑張れば変換して対応できるが根本的に別物でしかない。だからその辺の差異を改めて認識しておこう。今回の計画は凍結だ。
まぁ帰ってすぐに気が変わったんで夜にリリを寝かし付けたら書き置き残してソロでダンジョンへ乗り込むんだがな!
既に計画は
まー、なんてーの? 無謀って事はよぉ、それだけで『冒険』って事だべ? 舌の根も乾かぬ内に? いいや違うね、鮮度が命ってやつだ。アイツらを巻き込まないでアタシは冒険する、正に完璧な作戦だ。終わってから心配されても知らんがなって話なのでこっそりやればへーきへーき。難しいが無傷や軽傷ならなお良し。
一応、あのお人好し集団の事だから監視してる可能性はある。そこで、こんなこともあろうかと作ってある使い捨て姿隠しですよ。リリとお揃いなので使用するのは断腸の思い。これそのものは嗅覚探知に対応してないから、非殺傷タイプの
神酒のアタシに対する影響だが、最近解析が進んだというか徐々に情報を開示するようになってきた【
つーか、アイテム製作のときに香りだけからでも神酒の作り方めっちゃ浮かんできたから焦った。『醸造』の効果にしてはおかしいから、その他に含まれる何かの仕業なんかね。ここを直せここも直せこの工程はカットしろむしろ土壌のph値の微調整からだとまぁ出るわ出るわ。一応メモして寝床に残してあるが、上手くいって【ランクアップ】したら直に教えてやろう。また勝手に運営費使い込んでノルマが厳しくなりそうだが、元より酒造りが趣味のダメ男にハマった呑兵衛共だ。億単位の
で、爆弾も火炎石製を9個、動きを制限しない範囲で持っていく。謙虚な数なので縁起も良さげだ。苦と同じ音だから不吉な数でもあるらしいが、前世の話というか気の持ちようだ。若い内の苦労は買ってでもするんだよ。ダマ鞭も忘れずに。ダートは両手のリストバンドにフル充填。閃光弾とスパイス弾も持てる分だけ。エリクサーモドキとポーション、ハイポ、解毒薬も専用バッグに。
いざ、出陣である!