そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

160 / 202
160.旅行出発しました。堪能して下さい。

休養日二日目。今度こそ用事も特にない、正真正銘の完全なる休養日だ。まぁ朝食の時間は固定なんだが。別に昼までぐっすりしててもいいんじゃよ?

第三小隊が外出する場合はヘスティア派が同行する予定だし、しない場合でも侵入禁止な場所には人形兵(ゴーレム)が配置されてるんで、放置しておいて大丈夫だろう。姉御辺りはノリで人形兵(ゴーレム)を蹴散らして禁止区域に連れて行きそうなのがやや怖いが。

 

「つーわけで一応希望を聞いておくか」

「私はダンジョンの勉強をしようかと」

「ほう」

「いい心がけだが、ちゃんと休めよ?」

「大丈夫です。途中で息抜きしますから」

 

真面目か。いやまぁ日常(ルーチン)ならそれもいいか。明日以降は深層旅行だし、未知の恐怖が見通しの甘かった恐怖に変わるのも一興な。

 

「本、読む」

「ボクも読書かな! 学区でもお目にかかれないお話がいっぱいだからね!」

「そりゃあ、ないだろうねぇ」

「ジル姉の書いた本は独特だもんね」

「指が汚れねェ摘まめるもンでも作っとくか……」

 

識字率が100%であろう学区の強みよな。オラリオでも共通語(コイネー)を読み書きできなくて、冒険者依頼(クエスト)を受けるに受けられないってのも割と珍しくない。まぁ仲間に一人は読めるやつがいるんだが。

そして独特なのはアタシが異世界の偉人達から拝借してるおかげなんだ。アタシが独特なわけじゃない。物語として好きな作品だからこそ記憶に残ってるわけだが、一部の作品についてそれを考えついたと思われるのは心外なんだ。

チーター並の速度で匍匐前進とかいうあたおか発想はアタシの頭じゃ出ねーよ。懐かしいなぁ、チーターが匍匐前進する速度って意味に捉えて頭の中が疑問符で埋まったあの頃の(じゅんすいな)アタシはもういないんだ。

 

「鍛冶をしたいがどこか使わせてもらえる場所はあるだろうか?」

「訓練場の下に工房区画があるからそこ使え。夕方までの通行許可は出しておく。案内と見張りは置くがな」

「感謝する! 素材に関しても幾つか売って欲しいのだが……」

「現物の前に在庫リストがあるから、持ち出す際に使用量を計測して書いとけ。人形兵(ゴーレム)側でもチェックするが忘れンなよ」

「ありがたい!」

 

休養とはいったい……まぁ、ドワーフらしいっちゃらしいのか? 危険物は置いてないはずだから放置でいいな。いや、塩と水は用意させておこう。水風呂と着替えもだな。汗だくでこの辺を歩き回られても困る。

 

 

んで、特に問題も起きずに昼が過ぎ、夕食時。成果報告をしていた時、それは起きた。

 

「ルビス様のご指導のおかげで、(わたくし)もスリケンを使えるようになりました!」

『春姫はあっしが育てやした』

「マジでか」

 

春姫、謎の方向に強化されるの巻。この場合のスリケンってアレだよ、魔力を直に操作して形作り出力できる様になったって事。エルフの先天的な魔法よりも先鋭化された、無詠唱で変幻自在な遠近両用の主に金属属性(アダマント)を持った魔力刃よ?

しかもダンジョンの壁が魔石に似た材質とか、そこから超硬金属(アダマンタイト)が出土する事実とか、ミノ角みたいな一部のドロップアイテムが金属属性(アダマント)を持つとか、そういう根源的な部分に関係してそうな技術よ?

ルビスはモンスターでも精霊でもある穢れた精霊の要素が備わってたからできるわけで……狐人(ルナール)も大概魔法というか妖術側だから魔力操作に関しては適性は高いのか。なお姉御(バグ)

いやしかし、第三小隊に注目してたら予想外の角度からぶん殴られたな。仮にこれが戦闘能力に繋がるなら育成が楽になるんだが……あ、ルビスがとても優しい笑顔でゆっくりと首を横に振っていらっしゃいますね。まぁ、慣れだよ、慣れ。

でもまぁ姉御の遠隔発動とか無詠唱とか可能性は見えてるから【ウチデノコヅチ】乱射できるようになればいいと思うよ。つーかそっちを誤射した事ないんだから、対象指定の誘導型スリケンとか開発してみたら? とりあえずイシュタルに要報告だわ。

 

「改めて……いや、念のため聞いておくか。第三小隊の面々はどうだ?」

「ダメみたいですね」

「明日の予定に変化はないな?」

「もち。テメーらも眠ってても引きずってくからな。起きたら深層とか初見だと心臓に悪ィからオススメしねェぞ?」

『こいつら監視が必要でやんす』

「この辺も歴代最底辺(ワースト)の原因なんだろうね……」

 

散々な言われようの第三小隊。何故ならそこにいたのは頭から煙を出してグロッキーなニイナ、疲労困憊で枯れ木のようになったイグリン、そしてキラキラを越えてギラギラしているクリス及びレギ。しかも最後の二人もさっきまで眼精疲労と肩凝りで萎びてたからな、春姫のスリケン発言で復活しただけなんだわ。

 

「とりあえずこの際だ、報告は飛ばしておこう。軽く食わせたらそのまま水着に着替えさせて、まとめて回復薬(ポーション)の湯船に突っ込むぞ」

「わかりました」

『了解でやんす』

「えぇ……効果あるのかい? それ」

「よし、第三小隊と合わせて我らがヘッスも漬け込むぞ」

「任せてください、お姉ちゃん!」

「なんでノリノリなのかな!?」

『是非効能を確かめて欲しいと思いつつも主神を相手に粗相を働くのはちょっと……というあっしらの気持ちを汲んだ結果でやんす』

「通じ合ってるなぁ【繋魂高次(ソウル・ファミリー)】!!」

 

と、いうわけで有言実行。おかげで次の朝には回復しきった第三小隊の姿がありました。

ちなみに、バルドルには深層旅行に連れて行く旨を伝えてある。めっちゃ悩んでたけど、最終的には許可が下りたからヨシ! まぁ竜の谷がどうこうってのを考えたらLv.4相当との戦闘は経験しておいた方がいいからな。確かそろそろアンフィス・バエナが生まれてるはずなんで、竜種との遭遇経験もできて実際お得。

 

 

 

「さて、それじゃあ実際にこれからダンジョンに入るわけだが、よくよく考えたらズレの修正があるンで学区のやり方に合わせて解禁された12階層から先15階層までを第三小隊のペースでやらせンぞ。問題ないと判断したらそのまま18階層まで運んで『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』を軽く観光、そのまま夜営の練習で一泊が今日の予定だ。何か質問は? ないな? あっても12階層に着いてから聞こう。それでは出発」

『第三小隊ぃ張り切ってぇ、ガンバルゾー!』

「「「「ガンバルゾー!」」」」

「【福音(うるさい)】」

『「「「「アバーッ!」」」」』

「オイ、これからダンジョンだぞ。気持ちはわかるが」

「貴様のやり方を見て、変に尻込みされても困るのでな。12階層までは運んだ方が円滑(スムーズ)だ」

 

とんだ出発式になったが、まぁ被害者(きぜつずみ)から文句が出てないからヨシ!

アタシ以外の面子でそれぞれ第三小隊を担ぎ上げると、バベルの螺旋階段を無視して跳躍。1階層の正規ルートを外れたら爆破移動を開始、あっと言う間に12階層。

早速、第三小隊を叩き起こして探索を先導させる……アタシがいると異常事態(イレギュラー)祭りになるので、アタシだけ先行しておく。

 

初見で12階層から15階層を抜ける事を考えて、全てを薙ぎ倒しながら正規ルートを通るなら昼前には着くだろう。ニイナが地図を覚えるか持って来るかしているはずなので心配はいるまい。ただ、どうせならボス戦みたいなのが欲しいよなぁ……。

 

「と、いうわけで用意しました。色合いが綺麗なのを選りすぐったクリスタル・マンティス強化種がこちらです」

「馬鹿なのかな!?」

「予測可能……回避不可能」

「同格か、やってやらぁぁぁ!」

「みんな、気は抜かないで!」

 

うむ、やる気は十分らしいな。そこそこ苦労して作った甲斐があるってもんよ。

いやね、適当に何かしらの強化種を作るまではすぐに決まったんだが、何を強化種にするかは少し悩んでな。ちょうど群れの最後に残ったクリスタル・マンティスを見て、そういやこいつ強化種にすると色鮮やか(カラフル)になるんだよなって思い出したんよね。そりゃもう狙うでしょ。

で、どうせだから戦隊も組ませたいじゃろ? 厳選の始まりよ。綺麗な一色にならなきゃ廃棄、一色でも濃淡が斑模様だとアウト、色被りは二者択一で片方を泣く泣く討伐……そうして完成したのが、それぞれ紅水晶(ローズクォーツ)紫水晶(アメジスト)黄水晶(シトリン)黒水晶(モリオン)乳白水晶(ミルキークォーツ)に見える五体である。玉髄っぽい個体は惜しかった……何割かはドロップアイテムとして回収できたが。

 

「というわけで行けェ! 数が一体多いのを活かすンだぞ!」

キシャアァァァ(がってんしょうち)!』

ギギギギギッ(いいとこみせますぜ)!』

「なんか普通に命令してるー!?」

 

こうして始まったボス戦だが、まぁいくら強化種になってLv.3相当の潜在能力(ポテンシャル)を得ようと連携できるわけでもないし、なんなら同士討ちを誘発されたりもして戦隊は敗北した。

技構成はそこまで悪くなかったと思うんだがな。きりさく、いやなおと、とびかかる、つるぎのまい……いやなおとの代わりにあやしいひかりにしておけば良かったか。

つーか、つるぎのまいを積んでる間に二体ほどボコられて数的優位を覆されたんだわ。しかもポケットなモンスターじゃないから実際は無駄行動だったのが痛い。いやなおとは聴覚にダイレクトアタック決めて間違いなく防御を崩したのに。

 

「か、勝てた……」

「なんだか無駄に疲れた気もするけど、さすがボク達だね! キラーン!」

「おっ、ドロップアイテムだ」

「周囲、敵なし……壁、壊す」

「あ、ありがとう。少し休憩しようか」

 

第三小隊の消耗は軽微なはずなんだが、同格相手を数で負けてる状況って事で精神的な負荷は大きかったのかね。とりあえずリーダーのニイナには後で賞金を渡そう。今は移動を優先で。

 

「休憩は18階層でするぞー」

「そうだね。そっちの方がいいと思う」

「え? え?」

『お体に触りやんすよ』

「……羞恥、恐縮」

 

そして爆破移動で18階層まで。意識のある状態で体験したのが初な第三小隊は、驚き七割感心二割、残る一割呆れてるって感じだった。

 

 

「……おぉ」

「ここが18階層……最初の安全階層(セーフティポイント)……」

「『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』と言うだけはあるな。圧巻じゃないか」

「これは凄いよ! ダンジョンの中だなんて信じられないね!」

 

口々に感想を述べる第三小隊。連れて来た甲斐があるな。アタシも初めて来た時は……もう思い出せねぇわ。最古の記憶でもゴライアスソロ討伐の後でボールスと話して、そのまま酒の席で絡んできた連中を吊るして周りの連中と指差して馬鹿笑いしてる場面だし。

この感じだと観光の企画を組んだのは正解かね。馴染みの商会連中に体験させて生の感想を広めてる最中だからまだ予約段階だし客も少ねぇが。

ただ、その商会連中からの意見だと、ダンジョンの雰囲気を体感した後だからこその感動って気もするから対策必要かも……って話だったんよな。まぁ後で他の連中も巻き込んで考えるか。

少人数なら精神異常対策と魔力壁の魔道具(マジックアイテム)を持たせて25階層まで案内するコースとかもいいかもな。その前段階の『大樹の迷宮』だって好きな人には堪らないシチュエーションだと思うし、秋の山菜採りみたいなツアー組んでもいいかもなー。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。