そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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162.新規契約持ち掛けられました。たんと利用して下さい。

到達階層が12階層までだった第三小隊が今回の往路で経験したのは、まず15階層までの探索、18階層と25階層の観光、そして37階層の空気。

正直に言おう。詰め込みすぎたかもしれん。

 

「あわわわわわ」

「……うぇ」

「まるで夢を見てるようだね……」

「それもとびきりの悪夢をな」

 

闘技場(コロシアム)では、今日も元気にモンスターたちが終わりのない凄惨な殺し合いを繰り広げていた。

モンスターの同士討ち、そして減った端から即座に補充されるという珍しい現象を前に、第三小隊は混乱と恐怖がない交ぜになっているようだ。半ば呆然として見えるのは、必要以上に神経を使ってるからだろうか。悲鳴や怒声もあるかなーと思って遠めに見てるんだが、この分だともうちょい近づいて……いや、面倒が起きる可能性は減らしておく方がいいわな。

 

「まーこんな感じにパッと見て意味不明な事態になってるのがこの闘技場(コロシアム)だ。30年だか前にポンと現れたらしいんだが、おかげでダンジョン内の構造を変化させる現象が起き得るって証明になっちまって危機感を煽ってるな。幸い、他の階層じゃ大きな変化は確認されてねェが……」

 

うーむ、こちらの説明も聞こえていない感じだな。この分だと虐殺を見せても安心しそうにないなー。まぁドロップアイテムを回収する以上はやらない手もないんだが。

 

「つーわけで行って来るわ」

「ある程度見学させたら私たちは下がるぞ」

「頼ンだ。一時間も狩れば集まると思うんで、下がった後は上を目指して大丈夫だぞ?」

「なら、そうするか。歩みは遅くなりそうだしな」

 

そういう事になった。とりあえず今回も闘技場(コロシアム)のモンスターたちは戦意マシマシで突撃してきたので、入れ食い状態だったとだけ言っておこう。今回はアタシの影響か、補充される側にも強化種も混じってた。ある意味でタイミングが良かったんかな。納得はしたくねぇが。

普段から戦闘最優先で魔石を食う機会がモンスターに食らいついて殺すタイミングくらいな上に、無双可能な強さまで育つ前に数の暴力で圧殺されてしまうのが闘技場(ここ)だ。そこに普段から強化種が混じるとなれば、資源的な意味では大当たりなんだわ。

ダンジョンのリソース的にどうなのかは知らん。強化種って最低でも同種族の魔石五個は食ってると見て良さげだし、そう考えたら最低でも生産コストが六倍の計算やぞ。魔石単体で考えたらもう少しお安いか? とはいえ混じる割合そこそことはいえコスト悪化したモンスターを無限湧きさせるとか……その内に枯れるんでね? ちょっと我慢大会してみたくはある。

あとアタシがいる時だけならいいんだが、今後常に強化種も産み出される場合は天辺個体(チャンピオン)みたいなの生まれちゃう可能性あるんよな。闘技場(コロシアム)に来る酔狂な冒険者はそう多くないとは思うが、育成に使うのが難しくなるから遠慮したい。原作ベルとリューみたいなパターンも、可能性だけならあるんだし。

 

「と、いうわけで、第一級冒険者になったからってソロのLv.5が突撃しても物量に押されて殺されるんで、少なくとも逃走を実現させられる保護者同伴でないと挑むのは止めとくよーに」

「ジル姉、誰も聞いてないよ」

「スカルシープが一匹、スカルシープが二匹、スカルシープが三匹……」

「……暴力こそ真理」

「あっはっはっはっ」

「魔石を動力にした罠を仕掛けて置くことで出現と同時にモンスターを退治し、ドロップアイテムを自動で収納、運搬して回収する機構を作れば……」

 

駄目みたいですね。この感じだとルー・ガルーやスパルトイの相手をさせるのは酷か。まぁアタシが一緒だと強化種が生まれてくる異常事態(イレギュラー)が起きるんだし、下層探索中に格上相手する機会も事欠かないっしょ。

そんな判断をベルたちも否定する事はなく、深層は見学だけで終わらせて地上を目指す事となりましたとさ。

ちな、途中の戦闘はヴィトーとルビスに担当してもらった。同格以上が相手になるものの、駆け引きが通じるので戦士系モンスターを容易く翻弄するわ、人型であるが故に把握しきった急所を実に慣れた動きで突くわ……実力を発揮できないまま倒されていった戦士系モンスターたちは泣いていいと思う。

なお生ける屍(アンデッド)系やウーズはルビスのニンジャ第六感を欺けず、常に先手のエネルギー・スリケンめいた一撃で魔石を砕かれていた模様。魔石(じゃくてん)丸見えなんが悪い。

28階層で一泊したらさすがに復活したので、そこから先は改めて第三小隊を軸にして戻る事に。途中休憩を挟みながらなんとか18階層まで辿り着き一泊。そして次の日の夕方に地上への帰還を果たした。

教会でヘスティアの暖かな笑顔と言葉に迎えられた第三小隊は、そこで完全に気が抜けたのか泣き始めてしまい、ヘスティアを大いに焦らせ困惑させた。そして経緯を説明したアタシは流れるようにその場で正座させられ説教を受ける羽目になったのだった。解せぬ。

 

 

 

三泊四日の深層旅行は貴重な体験だったはずで、世間一般で言う小遠征でもあった。つまり次の日となる今日は丸々休養日であり、派閥体験(インターン)組もそれに倣う。そんな第三小隊の面々はリビングで真面目にレポートを書いていたが。

 

アタシはと言えば、いよいよ先延ばしにしていた講演(セミナー)の時間である。まー質問を含めて最長でも一時間の枠内に収める必要があるんで、資料を配布してさらっと流して質疑応答して終わりだ。

演目は以前決めた内容に追加して『上層、中層で集まる素材を用いた回復薬』と銘打っておいた。ミアハ派には確認を取っておいたので、開発中の新薬やその改良版を公表する事態にはならないはずだ。ディアン・ケヒト派? 取引先じゃないから知らね。

 

 

「――以上で説明は終わりだ。ご静聴には程遠い残念な受講者が多かったが、身内で騒ぐのが好きそうだし質疑応答はいらねェだろ。後は勝手に盛り上がれ」

 

はい、終わりました。アタシ、激おこ、なう。資料を渡したらざわつく、説明の最中も騒ぐ……それも私語がほとんど。もう今度から資料と音声データだけ提出でいいだろ。

引き留める司会の言葉を笑顔で手を振りスルーしながら退室。そして塔の最上階――校長室へとカチコミである。

 

 

「熱心っちゃ熱心だがよォ、考えた本人の話とか価千金なはずなのに資料持って勝手に議論してるやつが多過ぎて萎えたわ」

「ははは、彼ら彼女らは生徒ですからね。未熟なのは多目に見てあげて下さい。そもそもこの資料は劇的な薬なのですし」

「アタシが十年以上前、十歳やそこらで辿り着いてから使い続けてるもンばっかだぞ? それまでも、それからも、何してたンだ優秀な薬師(ハーバリスト)様方はよォ」

 

なお同環境(オラリオ)の連中。暗黒期だから、は理由にならんよなぁ。

つーか学区ってリヴァイアサン討伐時に足場として使った要塞を船に改造してから世界中を回り始めたんだったか。そう考えると歴史浅いし新薬の開発とか無理かな。魔法大国(アルテナ)も雰囲気にゼウス・ヘラが敗北してようやくやべーって学区と協力し始めてそうだしな。

 

「それはそうですが、その……怒らないでださいね。強化種の素材って流通してないじゃないですか」

「……おン?」

「しかもブルー・パピリオ(レアモンスター)の強化種とか普通に難易度おかしいですからね?」

「……おっふ」

「その上で断言できますが、例え入手できたとしても一個二個から万能薬(エリクサー)の類似品を作り上げるのは、かつて魔法大国(アルテナ)にいた賢者ですら不可能です」

「なん……だと……」

「というかですね、おそらく題目である回復薬よりも、それを実現させる強化種のドロップアイテムが秘めた可能性に注目が行っているのだと思います。私語はそれぞれ薬とは別の専門分野についてのアイデアが湯水のように湧き出たせいでしょう」

「そういうもンかねェ……どちらにせよアタシの話は聞く気がなかったって事じゃねェか。契約通り二回目以降はキャンセルすンぞ」

 

別に強化種を使わない調合とかも載せてあるんだがな。一度に試験管一つしか作れない上に約六時間拘束されるが。発展アビリティも専用器材も不要なのに重傷でも問題なく治せる薬が作れるとか破格じゃんよ。

つーか、強化種素材に目をつけたって事は、今後それ目的の冒険者依頼(クエスト)が乱発される可能性が出て来たな。価格競争みたいなのも始まるだろうし、強化種特需とでも呼べそうな状況が予測される。仮にギルドが冒険者の損失を嫌って受けない場合でも、ギルドを通さない酒場系派閥の依頼とかが横行するだけだし。

しかしそうなると、サポーターや子供、駆け出しが囮にされる事態も起きそうなんだよなー。そこまで含めて説明して、神からキツく言い聞かせてもらおう。学区の生徒が死んでも困るし。

ぶっちゃけ強化種の素材って、強化種自体が全身異常発達した部位しかないモンスターだからドロップ率は高いんだよな。部位で出現率の偏りはあるが。

そうなると問題は強化種を生み出す手段なわけだが、怪物進呈(パスパレード)がまかり通る治安の悪さというか冒険者の色んな意味で低い質を考えると、最悪殺されてもいい囮に魔石を運ばせるパターンが一番お手軽なんだよなぁ。自分たちは離れた物陰から見学してるだけでいいし。

つーか怪物進呈(パスパレード)するのって自分の実力を把握できてるんだかできてねぇんだかわからんのよな。いやまぁ異常事態(イレギュラー)を込みで安全を取ったら冒険にも稼ぎにもならんのは確かなんだが。

 

「契約書に明記されている以上は履行されねばなりませんね。ところで新しく依頼を受けるつもりは……」

「内容次第だァな」

 

講演(セミナー)に関して再契約か? 流れ的にそんなん受けるわけないってわかるはずよな。なら、一体どんな無理難題が飛んでくるのやら。

 

「そうですか。では、レオンとの模擬戦をお願いします」

「……なんて?」

 

つまりこうだ。先日行われたヘスティア派とフレイヤ派の戦争遊戯(ウォーゲーム)は、都市外の希望者にも『神の鏡』を通して流されていた。普段のゲームならばいざ知らず、救界(マキア)を建前に降臨してる以上は、対黒竜の期待を一心に寄せられるオラリオの――下界のトップが交代するかもしれない一戦を見せない訳にもいかないって話らしい。もちろん外交的な、牽制の意味もあるんだろうが。

そんで、今までは自分と【猛者(おうじゃ)】しかいなくなったLv.7が最強になってたところに期待の新人(ベル・クラネル)が現れた。しかも【猛者(おうじゃ)】と一騎討ちをして、更には事実上勝利していた。

これには【ナイト・オブ・ナイト】も悪童と呼ばれた部分が顔を出し始め、最近は一人でじっと剣を見詰めていたりするらしい。

トドメに【猛者(おうじゃ)】は先に進ん(Lv.8)だし、オッサンと姉御も隣に並ん(Lv.7)だ。何ならフレイヤ派の四兄弟以外の幹部とロキ派の三幹部まで並ん(Lv.7)だもん。一歩リードしてるとは言え焦るだろうな。

 

「まァ、どうせなら、だ。Lv.6(アタシ)だけじゃなく他のLv.7(どうかく)連中とも総当たりさせとけよ。どうせどっか途中で【ランクアップ】するだろうし、そしたら満を持して【猛者(おうじゃ)】とやり合ってくれ」

「おや、よろしいのですか?」

「そりゃーな。ヘスティア派は黒竜ガチ勢だから強さには貪欲だし、フレイヤ派もヘスティア派の傘下に収まったとはいえ負けたままで済ます連中じゃねェ。ロキ派だって最強看板は下ろしたわけじゃねェんだ、むしろ率先して噛みついてくるだろ」

 

リリも近くLv.7になるし、最後の仕上げに使うべきか、上げた後の糧にするべきか。初戦ボーナス考えたらリリもナイナイも上がった後がいいな。元よりリリはスキルの都合で潜在値(エクストラポイント)が存在しねぇし。

よし、どうせなら円形闘技場(アンフィテアトルム)を貸し切って参加者Lv.6以上限定で【ナイト・オブ・ナイト】に戦いを教わろうキャンペーン開催しよう。一日二~四試合、勝っても負けてもレオンは固定。個別の勝敗と何勝するかで賭けをして、ついでに勝利数で景品の質を変えるか。最大でベヒーモス素材の装備でえぇやろ。

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