そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

168 / 202
168.四日目終わりました。明日は休んで下さい。

「……てーのを考えてンだが、何か他に意見や希望の類はあるか?」

「ふむ、レオンはどうです?」

「いえ、こちらとしても望むところです……酒は勘弁してくれると助かるかな」

 

解散宣言して教会に戻ったら夕食を済ませ、通信用の魔道具(マジックアイテム)越しに幻の五日目(ロスタイム)の件で話し合い。

とりあえずこちらの提案に関しては特に不満はなし、と。自分で覚えてたのか他人に聞かされたのかは知らんが、さすがに初日ラストの醜態は教師筆頭として堪えたらしいが。

 

「まともな戦闘なンぞ堪能しきっただろうがよ。それに初日終わりから『レオン先生ファンクラブ』とやらの会員数が激増したって聞いたぞ?」

「またどこからそんな話を……いや、それは置いて、せっかくオラリオが誇る第一級冒険者と肩を並べる機会が得られるんだ。正々堂々とやらせてくれないか」

「まーそういう依頼だってンなら意向に沿うさ。ただ第一級冒険者なンざどいつもこいつも我の強ェ問題児だらけで連携も期待できねーぞ。そもそも【ステイタス】秘匿とかでロクな戦術組めねェし」

「あくまで模擬戦だからいいさ。それに剣を交えて大体の実力は把握している。それこそ問題があるとしたら、君の実力だけは未知数な事かな」

「ンだよ口説いてンのか? 大変だよなー生徒に手を出すわけにもいかねーだろうし。あ、色街行くなら優待券くれてやるぞ?」

「やれやれ……」

 

模擬戦じゃリリに頑張ってもらって後方支援しかしてねーもんなアタシ。オラリオはともかく学区からの評価は底辺だって自信がある。

実情は生徒人気ぶっちぎりトップなレオン先生の貴重な姿を発掘した功績で妙な株の上がり方をしてるっぽいが。ちょくちょく商会関係者で学区入りしてる生徒もいるらしくて、変に持ち上げられたりもしてるっぽいんだよな。まぁどうでもいいが。

 

「話はまとまりましたね。何か問題があれば明日のこの時間にでも話し合いましょう」

「あい、あい。おやすみさン」

 

通信を切ったら改めてプライベート時間の到来。とりあえずリリに突撃して構ってもらおう。そして癒されたら風呂入って歯磨きして寝る。これに限る。

 

 

 

四日目、本来であれば最終日なその日は、綺麗に各派閥の団長が集まった見所さんしかない一日となっていた。

 

まず【勇者(ブレイバー)】は団長仕事で前線から遠退き気味だったのと、本領である搦め手が活かせない状況の中でも技と駆け引きで格上相手に食らいついていた。

この領域まで来ると魔法による狂化のデメリットが痛すぎるんだよなぁ。使うと【ステイタス】の差はほとんど埋まるが、技と駆け引きが失われるから却って不利になるの噛み合わなくてめっちゃ辛そう。

怒りとか感情が限界突破すれば冷静なままらしいんで、いっそ恥ずかしいエピソードとかの地雷を多目に作っておけば良かったんじゃねーかな。でも計算高い面や英雄志望の外面取り繕う必要があるから無理か。こうなると要素がとことん噛み合わなくて草なんだ。

とはいえ模擬戦の範囲ではあるが全力の戦闘を何度も見せている【ナイト・オブ・ナイト】を誘導して、魔法を使った自分の行動まで予測して状況を整えたのはさすがと言うべきなんだろう。乾坤一擲の策を決めて一撃与える事には成功した……残念ながらアタシが事前に依頼を受けて製作、納品してた状態をリセットする(いてつくはどう)煙玉によって魔法の効果を解除されちゃって、命を脅かす深手を負わせるはずだった一撃が継戦可能な重傷になって不発っちゃー不発に終わったんだが。

で、そのまま理性を戻されるって意識の切替で生じた混乱の隙を突かれて剣を首筋に這わされたされた【勇者(ブレイバー)】の降参(サレンダー)で決着。

 

 

で、本命のベルは階位詐欺(いつもの)としか言えない変態的な機動性で撹乱しながら徹底的に関節や露出部を狙う暗殺スタイル。狙いがわかりやすすぎて弾かれちゃいるが。

つーか、いつの間にか分身し始めたぞコイツ。同格なはずのアタシの目にそう映るのどうなってんだ。スロー映像なのにワンシーンで五人くらいの輪郭を揺らがせたベルが映ってて解説の火炎魔法君が悲鳴を上げてる。ルビスのせいで忍者だってどよめかれてるけど、極東出身の皆さんは怒っていいと思うよ。

それでもカブ……守りは抜けません。って事でベル側の魔法まで解禁された。【勇者(ブレイバー)】戦の煙玉を警戒したらしく、上昇補正(バフ)としての効果は避けて攻撃としての【ファイアボルト】だ。火遁の術とか言われてるけど、逃げるためじゃねーが目眩ましに使ってるからニアピンなのすげーもにょる。

そんな感じでベルがギアを上げつつじわじわ削ってはいたんだが、時間が経過して【ナイト・オブ・ナイト】が速さに慣れてくるとベルは一転して防戦する羽目に。二刀流が抱える問題点の一つは片手持ちだから競り負ける可能性が高い事だよなぁ。

ただまぁベルの覚悟というかイカレた部分が顔を出しちゃって、片腕を犠牲に肉薄して鎧の継ぎ目から脇腹を抉る凶行に出ちゃったわけだが。切り飛ばされてくるくる回る自分の腕を回収して回復魔法としてのファイアボルトで繋いだし……回復力エグくね? あのアホ【英雄決心(スキル)】乗せたな、代償に何を捧げやがった。

しかしそこで【ナイト・オブ・ナイト】がスキルか魔法かわからんが急激に能力上がって、有利を取ったはずのベルが死角から放った攻撃に合わせたカウンターの一撃でベルを吹き飛ばした。

ベルは会場を球状に覆ってる魔力壁に叩きつけられ、反動だけでも地面にクレーターを作る速度で墜落。そして土煙が晴れると、その中心で煙を上げながら例のポーズ(ヤムチャしやがって)で倒れたまま動かなくなってたんで決着。割と呆気なかった。

見た目は軽装でヒョロいベルだけど、防具の性能も耐久の数値も悪くないはずなんだがなぁ。なんか一撃で意識を刈り取られて負けてるんだよな。頭部を保護する宝飾品系統の魔道具(マジックアイテム)渡しても動きについていけなくて外れちゃうし……アホ猫みたいにチョーカーかね? むしろ同系統な兎の着ぐるみを作るか。あるいは本人の意思以外ではフード部分が絶対に捲れないパーカー。ブリューナクくんみたいな生きた道具にしておくのも手か。

 

 

「つーわけで反省会だ」

「はい……」

 

控室の出入口には面会謝絶の貼り紙をしておき、派閥体験(インターン)を含めた派閥の面々にアタシとリリを加えてベルを取り囲み、見下ろす事で重圧(プレッシャー)を与えておく。ちな、ベルは正座させてる。

 

「まずは説教からだな」

「……はい」

「自分の腕を囮に使った部分のな」

「え? そこは普通でしょ?」

 

視線を下に向けて殊勝な態度を取っていたベルだが、自己犠牲に関しての指摘にはあっさり反論してきた。いやまぁ結果的にみれば後遺症なしで済んではいるんだが、どうしてこうなった。

 

「馬鹿を言わないで下さい。二度目は細切れにされて回収できなくされるだけですよ。与えた傷も万能薬(エリクサー)で回復されて終わりです」

「うっ、それは……確かに」

「そもそも向こうが模擬戦気分だからこそ不意を突けたンだよ。本気の殺し合いなら何か知らンが攻撃通ったラッキーって隙のすの字もなく膝蹴り辺りで迎撃されて終わりだっつーの」

「そうかな……そうかも」

「とはいえ負け前提の玉砕覚悟な最後の足掻きは参加者のほとんどがやった事ではある。それを勝つための布石として組み込んだ点では他の連中よりマシだろう……僅かでしかないがな」

「そういやお前……腕を繋げる時のアレ、スキルを乗せたな?」

「……黙秘します」

 

反省の色はないな。古株同士で視線を交わし、頷く。

 

「おしおきだべぇ~」

「へっ、ちょ、待っでぼばばばばばばばば」

「なんつー気の抜ける掛け声だ」

 

取り出した電気警棒(スタンロッド)を起動させてからそっと押し当てる。おぉ、すごいぞ。骨が見える漫画チックな反応と言えばいいのか現象と言えばいいのか……えっ、これアタシもこうなってた系? まぁいいか。

 

「とりあえず意気込み自体は間違ってねェし、観客とかは入場料を払ったわけでもねェ勝手に見に来た連中だから気遣う必要なンざなかったが……」

「な、なかったが……?」

ヘスティア(ヘッス)アルテミス(テミさん)を心配させるからアウトでーす」

「あ、またそんあばばばばばば」

「まァ、こンなところか。昼飯食って【猛者(おうじゃ)】と【ナイト・オブ・ナイト】の頂点(てっぺん)争い見届けようじゃねーの」

 

 

そんなわけで午後の部が開始され、世界で見ても最強を決める戦いとなるLv.8二人の試合が始まった。

姉御はどっちにも勝てる事実からはこの際だから目を背けておくべきだとアタシは愚考する次第。質量やら防御力やらで黒竜相手だと一撃の威力足らんかもだけど、対人だと事実上のトップなんよね。

で、昔馴染みの二人は様子見から始まって、徐々にギアを上げていく。恩恵を持たない連中はスロー映像でも目が追いつかないっぽい。まぁ動画が再現してるシーンと次のシーンの間に動作が終わってるからしゃーない。

むしろこれを認識してる『神の恩恵(ファルナ)』の影響すげーよ。ハッキリ視認できちゃうからサブリミナル効果が意味をなさないって事だぞ。

ちなみに戦闘が激しくなってったら魔力壁がヤバいんで、急遽エイジャに協力してもらった。スロー映像でも戦闘がよくわからん状況なせいでめっちゃ注目浴びたのは、まぁご愛敬ってやつで。

試合自体は互いの全力を受けきれちゃったんで膠着気味のまま進み、時間切れになった。

オッサンの時と違ったのは、全力の方向性が真逆だった事かな。おかげで魔力壁の魔道具(マジックアイテム)が稼働限界寸前だったわ。逆に言えば貴重なデータありがとうって感じではあったが。

なお魔道具(マジックアイテム)がギリ持ったので、エイジャの投入は取り越し苦労だった事になる。本人(?)は気にしてないが、たっぷり労おう。まずはお風呂とマッサージ、乾かしたらブラッシングだ。これは決してアタシの我欲を満たすための行為ではない事を明言しておこう。

 

「お姉ちゃん、よだれが垂れてます」

『そして僕が危険に晒されてるっす』

「悪ィ悪ィ。気が緩ンだ」

 

 

で、一通り終わったので閉会挨拶。参加者と依頼してる各方面への感謝を告げて、明日の予定へと話題は移る。

 

「とりあえず今回の模擬戦に参加した連中から希望者を募って、明日実際に集まったら即興の二チームに別れて時間が許すか飽きるかするまで戦う予定だ。前段階で怪物祭(モンスターフィリア)の宣伝にちょっとした芸を披露するが……まァ見に来るのは好きにすればいいと思うが、Lv.8同士でぶつかっただけでも魔力壁がヤバかったからな。それ以上の規模になるンで悪ィが観客の安全は保証できねェぞ」

 

安全が確保されないと聞いてざわつく会場。実際にはエイジャに魔力壁張ってもらったら何も問題ないとは思うんだが、いつだって奇跡は起きるからな。この場合の奇跡は一向に破壊される気配を見せないエイジャの張った魔力壁って事になるのかもしれんが。

 

「そンじゃまた明日ー。どンだけ集まりが悪くても【ナイト・オブ・ナイト】とヘスティア派とアタシら姉妹でドンパチやるから見学にくるLv.4未満は遺書を用意しとけよー」

 

ちなみに、この後リリと二人でギルド本部に赴き【ランクアップ】の申告をしておいた。担当してくれた職員は口から煙を吐いて動かなくなったんだが、これはアレだな、リリの愛らしさに魂が飛んだんだな。見所のあるやつめ。

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