そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「てなわけで三日くらい不在になるかも知れません」
「そうか。アーデの事は任せておけ」
「はい、頼みます」
出陣と言ったな。あれは嘘だ。
いやまぁ寝床からは出たから間違ってはいないんだ。ちょっと先に寄る場所があっただけで。挨拶は大事。とはいえ、今生の別れなんてのはいつだって起きかねないから特別な言葉は不要だ。
「しかし、その香水……なるほど、考えた物だな」
「えぇ、まぁ。本来の飲んで楽しむ道からは外れてますけど……つーかまだ蓋してるのにわかるンすね」
「鍛えているからな」
「不変の存在でしょーに……まぁ、それじゃちょっと行ってきます」
「あぁ、土産を楽しみにしている」
こんな感じに、実に気軽なものだ。恐らくだが、原作世界のソーマはこの時期もう眷族ちゃんのファンを辞めてると思う。少なくとも、完成形に近付く実感からテンションを上げる姿は原作じゃ見れねんでね? 原作への影響はリリ以外に出なそうではあるからヨシ!
挨拶も済んだし、今度こそ姿隠しと香水で擬似的なステルスを発動させてダンジョンへ向かう。事前に確認した見廻りの担当は【ガネーシャ・ファミリア】だったはずだ。たまに街中ですれ違うとき監視役の【アストレア・ファミリア】と話し込むんだが、こっちをチラ見して小声で喋るから実はあんまり良い印象を持ってなかったりする。間違いなく平和に貢献してる善玉なんだけどね。
なんてことを考えている内にダンジョンへ到達。第一段階はクリアってことで。
なる早で現状ソロで潜れる最深階層である11階層まで駆け足で。途中10階層から
序盤のコボルトからして嗅覚が鋭いので、ダンジョン内で姿隠しは効果が薄い。フェルズどうやってんだろ。とはいえ何故か出現率は抑えられるので、使い捨てな事もあって解除はしない。道中でこちらに気付くモンスターは、更新後の【ステイタス】に慣れる目的と最近すっかりご無沙汰なダマ鞭の感触を確かめながらサクッと。うむ、懐かしい。長巻きと違って手元に来る感触が薄いのは、強敵相手にして倒し損ねても気付かないで反撃食らう事態になりかねないか?
事実、体当たり中のハードアーマードを斬れるようになってないので多少心配はある。実は最近になって力を伸ばすために何も考えず思い切り殴るだけの棍棒で戦ってみたり、筋トレしてみたりと試行錯誤した結果、それなりに評価されたのか力も伸びてきたんだが……まぁ今後に活かせば良いだろう。欲しいのは今だが。
なお、防御より体力でタフさを演出するオークは頭を狙えば問題ないし、胴体も両断できる……少しだけ抵抗を感じて一手遅れてしまうのでやらないようにしているが。これも力を伸ばす前なら胴体の半ばまで食い込んで終わり、確実な無力化のために仕方なく内臓を引きずり出すグロシーンを披露していた可能性があるので無駄ではないのだ。多分。
そうして11階層。ギルドの推奨する基準アビリティがB~S。器用と魔力で達成してるからやれるな……ソロな上に魔法は発現してないが! ついでに言えばそれ以前は未達なのに長巻で戦ってたんだぜ。さすがに階段から余り離れない感じで軽く感触を確かめるにとどまって、
進みながら遭遇したシルバーバックの群れを相手に立ち向かった結果――掴まれて振り回されて大変な目に遭った。一確できないとこうもなるか。スリンガー閃光弾で怯んでくれて助かったわ。というか今更ながらに脳筋気味になっていた事を自覚した。単純な軌道で斬るだけって、鞭らしさがないもんなぁ。ちな、姿隠しは効果時間が切れた。
しかし、こうなると中層の進行はやはり相当に厳しい。上層ラスト12階層から
なになに、ふむふむ、なるほど。ヘルハウンドの皮を剥いで魔石を裏側に縫い付けて簡易耐火装備を作る……今更? しかもそれ初回に群れと遭遇して乙るやつでは? 君のせいで出現率が上側に狂ってるのがアタシなんだぞ?
ほれ見ろまたモンスターのお代わりがやって来た。とりあえず弁明はこいつらを片付けてから聞こうじゃないか。
なんて感じでそこそこ被弾しつつ11階層を踏破し、到達した12階層の探索中、アタシは運のなさにげんなりする羽目になっていた。
「ついてねェな……ある意味じゃ
『インファント・ドラゴン』襲来。体高150C、体長4M。四足歩行する地竜型。翼こそ持たないが――雰囲気的にはドラゴンの冒険者依頼のガメゴン○ードから甲羅を取っ払った感じに近い――歴とした
「これで小竜……まぁ、首と尻尾切り落としたら小型自動車サイズだし、
首と尾が長いので全長にしたらもう少しそれらしい数字になる。テイムして乗り回したい感あんね。これでもミノタウロスよりは弱いらしいので、ファンタジー世界はこれだからと言いたくなる。つーか、ソロでコイツ討伐したら偉業として十分なんじゃ。
『――オオオオオッ!』
「くそっ、モタモタしてる暇はねェンだぞ!」
当然ながら向こうはやる気満々だ。こちらとしては舌打ちして文句を言うしかないが、とりあえず逃げ場の少ない通路から引き返し部屋の壁を傷付けながら中央に陣取る。速度じゃ一応勝てているらしい。出入り口の上に隠れて不意討ち脳破壊も試したかったが、クライミングの練習をしていないのでパス。うん、最初から急所狙いではあるんだ。勝率的にも、時短のためにも。
足音を響かせながら近付いてきた小竜が通路から覗かせた頭部の、半開きな口から小さく漏れるのは――炎。
(――
原作じゃ尻尾ビターン、モブあぼーん、リリピンチからの偶然溜まってたアルゴノゥト乗せファイアボルトーで終わったから詳細は知らんのだけど、どうやらちゃんと小なりに竜らしい。ヘルハウンドの予習にもなってるんだろうか。ダンジョンのお気遣いィ。
幸い、炎が吐かれたのは体全体を部屋に入れてからで、吐く前に一度上を向いて溜める謎の仕草で隙を晒してくれたので、比較的余裕を持って横に……ではなく直感に従って斜め前に飛び込む。種として見れば未熟だからなのか、弱者の相手はこれで十分だと判断したのか、吐かれた炎は収束が甘くやたらと広い。フーッじゃなくハーッな感じ。真横に避けたら直火で炙られていた。つーか直撃こそ避けたが、すぐ近くを通った炎の余波で軽い火傷したな、ヒリヒリする。これだけの炎を吐くなら耐性も高そうだし、爆弾の効果も薄そうで困る。あと爆弾が誘爆しなくて良かったなってヒヤヒヤしたわ。これが体は熱く頭は冷静に……って体じゃなく心だ。
前転して受け身を取ったらそのまま駆け出し、せめて正面は避けるべきだと回り込むが、小竜は体の向きを変えながら尾の一撃を放ってきた。地面を擦りながらこちらを吹き飛ばそうと近付いてくる、遠心力が乗ったそれ。何となく対抗心からダマ鞭で対抗してみる……当然のように打ち負けたが、痛みはあったのか小竜が小さく吠えて身動ぎした。勢いを弱め軌道をずらした尾が掠って吹き飛ばされながら、タンスの角に足の小指ぶつけた感じだろうかと冷静に推測した。いやこれ冷静じゃねぇな。掠った左肩が上がらん。しかもめっちゃ痛い。脱臼か?
空中で体勢を立て直し、勢いに負けないよう地面を靴底で削りながら着地する。その間も視線は敵から外さない。向こうは痛みを与えられた事に怒り狂っているが、炎による追撃はなかった。連発は出来ないと考えていいのだろうか。
なんて事を考えていたら、目の前で小竜が屈み始めた。
「嘘だろお前」
次の瞬間、小竜が跳んだ。
空を飛べなくても跳ぶことで空中機動は実現できる的なやつを思い出した。みるみる内に近付いて来る巨躯は現実感が薄く、変な事を思い出してたせいもあって反応が遅れた。いやまぁギリ避けたけど……スリンガー閃光弾の置き土産しながら。スリンガーが使えないなら直接叩きつけたり踏ませたりすればいいじゃない。しかし飛び散る破片が痛いザマス。
『グオオオオン!?』
おー、怯んだ。着地に失敗してダメージ入ったか? 今のうちに左肩入れてポーション飲んでおこ。よっしゃ治った。けどすぐに立ち上がって顔振ってるな。立て直しが早い。今から近付いたら立て直しが間に合って踏まれたり尻尾で薙ぎ倒される未来が見える。じゃけん離れた位置から鞭でビシバシしばきましょうねー。
狙うのは、あえての前足。目を押さえてる方じゃなく体を支えてる方。そして爪の付け根の鱗に差し込んでテコの原理じゃよ。軌道ムッズいな。じゃあどうせなら伝統の漁法ムツカケをイメージして剥ぎ取るか。釣竿を思い出しながら先端の形状をフックにして……あ、ほい。
『ギャン!』
すまんな。アタシはゲルググ派だ。もっと言えばドム派だ。ホバー最高。そうか、ホバーブーツやホバークラフトを作れば移動が楽になるな。目立つわアホ。
しかし
小竜は地面に突いていた手を離して体を仰け反らせたので、不完全ながら二本脚で立っている。この状況、このままだとそのまま両前脚を地面に叩き付けて床が大変な事になりそうなので、後ろ足の鱗も剥いで邪魔するかね。そい。
重心的に考えてもバランスが崩れ気味な後ろ足立ちに追撃で足の鱗を剥がされた小竜は、その足も地面から離す。気のせいかシェーのポーズ取ってない? 悲鳴もそんな感じだったし。
残った後ろ脚一本だけでは体を支えきれず、バランスを保とうと足掻くが叶わず地に伏した。つまりダウンを取ったわけで、隙ができたという事。
手早く鱗を剥がした部分にゲーミングウォーシャドウにも使ったとっておきの毒弾を撃ち込んでおく。サイズ差で効果は薄いかもしれんが、数発撃てば効きも早いだろ……良し、当たった。ちゃんと刺さってる。後は顔にスパイシー弾と道中使わなかったハバネロパウダー煙玉もぶつけておこう。おぉ、地面をのたうち回ってる。振動やべぇな床は大丈夫か。さっさとトドメさせって話よな。
ダマ鞭を先端だけ鋭くして、打ち据えるのではなく突き刺す。狙うのは眼、その先の脳。あるかはわからんが、脳がないとしても体の内側を掻き回されたらしんどいなんてもんじゃないはずだ。現にビクンビクンしたらぐったりして無事な方の目から光が失われたし。口も半開きで舌がだらんとだらしなく出ている……死んでんなこれ。
終わってみれば戦闘時間は15分ちょっとか。本来なら頑丈でタフで長丁場を覚悟するんだろうけど。つーかアタシは覚悟してた。武器の強さと便利な小道具に感謝だな。閃光弾はMHにて最強、一部のモンスターに対しては。おかげで脳内で例のテテテテーってテーマ曲アレンジなファンファーレが鳴り響いてるぜ。怪我もポーションで間に合う範囲なら無かったも同然だし上々だ。ダマ鞭の形状変化とかで
つーか解体面倒なんだけど。魔石のサイズどんなもんなんこいつ。ないとは思うがドロップアイテムとか絶対かさばるし、そんなん持ってミノの群れ相手とか嫌だぞ。