そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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170.遠征始めました。慣れてって下さい。

そんな感じで何度かぶつかり合って交流を深めて予備日は終わり、平和な日常がやって来た。まぁ【麗傑(アンティアネイラ)】や春姫、ヴェルフ他の間で起きた【ランクアップ】祭だとか、最終兵器(レフィーヤ)を伴って道場破りに来たアイズだとかのイベントは隙間なく起きてたが。

 

 

 

その内に派閥体験(インターン)の第一期に終わりの時がやって来た。第三小隊の面々は無事にLv.4まで上げられたので、成果としては十分だろう。

ぶっちゃけ都市外の表世界だとトップクラスなんで権力闘争に巻き込まれる可能性が高く、最後の方は冤罪や毒殺に注意が必要だろうと座学を中心にしたよね。軽く人間不信になってたけどしゃーない。人間は怖いんだよ。

ちな、アタシらが同行するって建前で進ませた第三小隊の到達階層は最終的に30階層。Lv.4揃いとはいえ、やはり四人で探索するのは負担が大きく、サポーターありでも飲食物の厳しさはあったらしい。アタシが同行すると難易度が上側にバグるし、リリが同行すると能力の底上げが起きるんで、あくまで付き添った【ヘスティア・ファミリア】からの伝聞ではあるが。

 

「寂しくなるなぁ。学区に戻ってもボクたちの事は忘れないでおくれよ」

「もちろんです、神ヘスティア。皆さんと過ごしたこの一ヶ月は、私達にとってかけがえのないの宝物です」

「いつか、また……」

「僕の名声はきっとオラリオにも届くからね! 期待しておくれよ!」

「私はすぐに会えるかもしれないな」

 

昨日時点でお別れ会を済ませ、今日はもう学区へ帰るだけ。とはいえ週一ペースで帰ってたので、そこまで久し振りとか懐かしいって感じはないんでねーかな。急激な変化に周りは戸惑うかも知れんが、その辺は適用外なんで知らん。

 

「おぉ、イグリン君はヘファイストスの試験(テスト)に挑戦するんだっけ。頑張っておくれよ!」

「もちろんです。この一ヶ月で得た知識と経験を活かして全力でぶつかりますとも!」

 

イグリンは鍛冶師として【単眼の巨師(キュクロプス)】を尊敬(リスペクト)してるらしい。そんで試し切りうんぬんって話から戦技学科に進んだんだとか。

うーむ、現状で最高峰なのは間違いないんだろうが、参考にするには微妙な人選だよなぁ。つーか武器の扱いに関してはダンジョン内で槌一筋だったじゃんイグリン。まぁいいか。

 

「えっと、それでは改めて、お世話になりました」

「「「お世話になりました!」」」

「バイバーイ! 元気でねー!」

 

手を振りながら第三小隊を見送るヘスティア派とアタシたち。その姿が見えなくなるまで教会の前に佇んでいた。

 

「……行っちゃったねぇ」

「アタシらはアタシらでフレイヤ派と規模のデカめな遠征あるし、神ヘスティアには少々寂しい想いをさせる事になっちまうなァ」

「そこは割りきるよ。アルテミスやネーゼム君もいてくれるからね」

「あー、うン。仲良くしてもらえて助かってるわ」

 

第三小隊の身を守る意味でも、精霊たちの情報は遮断させてもらったからなぁ。滞在してた一ヶ月間は教会隣の倉庫に建てたログハウスで過ごしてもらってたし、窮屈な思いをさせてしまったと思われる。

 

 

 

そんなこんなで【ヘスティア・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】のLv.4以上で向かう深層探索がスタートした。

なんだかんだ傘下に収まった以上は多少派閥の体質を変更してもらう必要があるってんで、それなりに揉んだんよね。したら割と壁を越えた連中が出て、最終的に今回の遠征は四十名を超す大所帯となった。

ちな、内容としては単純に対談形式でフレイヤの求める英雄像を直にご教授(レクチャー)してもらい、最強の看板を手放したなら美の神として品を求めたい旨を語ってもらった。

そして品性と言うからには言葉遣いや気配りだよねーとなったので、洗礼の時間を多少削って眷族の道徳(マナー)研修を開いた。幹部勢を生贄に容赦ないダメ出しを行い人格の矯正を並行で試みつつ、ついでに学を身に着けろと勉強会を開いて四則演算と組織の運営に関する簡単な知識を叩き込むのを忘れない。それと怪人(クリーチャー)勢力を含むダンジョンの知識も。

そうしてできあがったのが、学園ものなら生徒会長や学級委員、あるいは風紀委員を任されてそうな優等生たちである。

一見すると美神の魅了を受けたんだろうなって思われそうな変わり具合だったわ。女神第一主義の信者だからこそ、女神の言葉は滅茶苦茶効いたわけだな。学習意欲が違った。ちな、満たす煤者達(アンドフリームニル)からめっっっっっっちゃ感謝された。あと白エルフからも。

まーそんな教育の成果として道徳が備わり考え方も矯正された面々には精神的な変化が起き、上位の【経験値(エクセリア)】ガッポガッポだったようで空前の【ランクアップ】ラッシュになってたわけだ。

 

そして遠征当日。一応はギルドに連絡し、どうせだからと強制任務(ミッション)を出させたのでそれなりに話は広まっており、見送りというか見物人も多かった。

挑むのが現存する【ファミリア】の最深到達階層である59階層――実際にはもっと先――な割に荷物が少ない事に疑問を浮かべる者も多かったが、事前に予定や準備については連絡済みなので出発式の類もなく粛々とバベル内部、そしてダンジョンへと進んだ。

 

そうして辿り着いたのがまずは37階層。フレイヤ派のLv.4滑り込み勢の中には深層未経験者もいたので軽く慣らしをしてもらう。

とりあえずLv.6以上をリーダーに五、六人程度のグループ分けをして、適当に二、三時間探索してもらったら最後に集合場所の名所――闘技場(コロシアム)を観光してから徒歩で38階層、そして安全階層(セーフティポイント)の39階層を目指す予定。

 

 

「ジル姉ー来たよー」

「おー、そのまま全員集まるまで警戒しつつ休憩しとけ」

「わかったー。それじゃみなさん、軽く休みましょう」

「えぇ……」

「あの、なにあれ……」

「え? あぁ、ジル姉の武器は鞭なんですけど、長さが500M(メドル)あるんだそうです」

「なにそれこわい」

「しかもレアスキルで武器の形や性質を割と自由に変えられるらしくて、その結果があれなんですよね」

 

一番乗りしたベル班を皮切りに、続々と各班が到着する。怪我人や気分の悪くなった者はなし、と。まぁリーダーがいる時点で怪我はどうとでもなるから大して心配してなかったが。

 

「見てわかる通り絶えずモンスターが湧き続けるンだが、侵入者がいねーと同士討ちし続ける地獄みてーな場所が闘技場(ここ)だ。遠くから眺めてるだけでもペルーダ辺りが壁伝いに襲撃して来たりすっから基本は近づかないようにな」

「基本と言うか厳禁ですよね!?」

「何言ってンだ、対人に飽きたらLv.4はここ連れて来て限界までやらせるのが最高効率だぞ」

「これだから【芸術家(ひじょうしき)】は……!」

 

酷い風評被害を受けた気がするものの、全員集まったので撤退を開始する。ベル班が到着した時点で観客席に移って高所から迎撃してたんであっという間だった。

 

「こうやってある程度の距離を離れると、自然と追わずに同士討ちに戻るからある意味では楽だな」

「でも闘技場(コロシアム)以外で産まれたモンスターと挟み撃ちにされるからやっぱりオススメはできないんじゃないかなぁ」

「常識人だ……」

「やっぱりやるなら食料庫(パントリー)がいいよ」

「非常識人だった……」

 

矯正後のフレイヤ派は割と愉快な常識人系ツッコミ枠が揃ってるんで、中々に新鮮な反応をしてくれるな。よきよき。

 

「で、ここが玉座の間……三ヶ月の次産間隔(インターバル)を持つ階層主のウダイオス君の湧きポイントだ」

「めっちゃスパルトイ湧いてますけど……」

「階層主がいるとある程度削って呼びつけるまでは湧いて来ねーンだがな。留守だと勝手に湧いて来やがる。まァ留守番でおもてなし役なんだろ」

「なんて物騒なおもてなし……ッ!」

 

 

はい、スキップして39階層。サクサク倉庫からテントやら調理器具やら食材やらを出して夜営の準備をさせる。

ここでもフレイヤ派から新鮮な反応を頂いたが、食事関連は目の死んだ連中(アンドフリームニル)に任せておいたのでいつものメニューだって喜べばいいのか嘆けばいいのかわからん感じになってて笑った。遠征中って考えれば豪華だけど食い慣れた味でもあるもんなぁ。アタシらは猪肉とか珍しいなーとか言いながら馳走になったが。

まぁ調理は任せたんで、食器の片付けはこっちで請け負った。厨房は戦場であるって認識らしくて【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】使えるんで洗浄は楽ではあるんよね。

 

「まさかダンジョン内でお湯に浸かれるとは……」

「疲れの取れ方が違ェかンな。浄水の魔道具(マジックアイテム)を動かす魔石も確保してたし黒字の範囲だ」

「お姉ちゃんの常識はしばしばリリたちにとっても非常識ですが、毎回こうですから。慣れて下さい」

「ひどくね?」

「そういうものなんですね。わかりましたー」

「そこで納得すンなや【女神の黄金(ヴァナ・マルデル)】」

 

そして寝る前には入浴ですよ。実際の探索は二階層分だし、戦闘は軽くしかしちゃいないが、初深層で精神的に疲れてるLv.4勢はな。

ちなみにどことなくカピバラチックな様子でのほほんとしてる【女神の黄金(ヴァナ・マルデル)】は、組織改革の余波で洗礼の時短が起き満たす煤者達(アンドフリームニル)に余裕が生まれたんで徹底的に休ませ気分転換させたらすんなりLv.5に【ランクアップ】した。嘘みたいな本当の話だが、治療師(ヒーラー)薬師(ハーバリスト)は軒並み過労を解消したらグンと伸びたし、それなりの人数が【ランクアップ】してた。

なお、見た目が看護師(ナース)だからって調子に乗って注射器型の魔杖や聴診器型の装飾品(アクセサリー)を作って渡したが……後悔はしていない。

 

「どうぞヘイズとお呼び下さい。【芸術家(ファイアワーカー)】には魔杖の事といい、組織の改善といい、お世話になりっぱなしですからー」

「依頼の結果だ、気にすンな。それでもと思うなら、地道な広報活動で改革の必要性を訴え続けて来たシルに感謝しとけ」

「ふふ……えぇ、えぇ。それはもう。シル様には感謝し通しですとも」

 

フレイヤ個神とはあまり接点がないものの、シルとはそれなりにある。仕事終わりの軽い飲みとかに付き合う事もあったんで割とぶっちゃけトークもあって、その中で【フレイヤ・ファミリア】の現状に対する不満はそこそこ聞かされてたんよね。

こっちから売り込むわけにもいかんしなー、って話をしたら話を通しておきますよー、なんてトントン拍子に進んでフレイヤ派の改革に至ったというね。マッチポンプとは言うまい。

 

「ちなみにですがー、その、マッサージとかは……」

「今日はそこまでじゃねェだろ。明日以降にしとけ」

「そんなー、明日以降だと回復で忙しくなりそうじゃないですかー」

 

言われてから少し考える。爆破移動してる以上は50階層まで直通みたいなもんだが、Lv.4勢には環境の変化に慣らす意味でも経験を積ませておく必要があるわけで。そうなると狙うのはやはり階層主か。

 

「あー少し前の中層崩落が影響したのかウダイオスが次産間隔(インターバル)無視して早湧きする異常事態(イレギュラー)あったから、多分49階層もバロール生まれてるはずなンだよなァ」

「え、ちょっとそれ滅茶苦茶重要な情報じゃないですか。さらっと爆弾投下しないで下さいよ」

「【猛者(おうじゃ)】とベルには伝えておいたンだが……まさか?」

「あ、んの……団長はぁ~!!」

「急に立ち上がんな、揺れてンぞ」

「この流れでセクハラしないでくれません!?」

 

元々フレイヤが関わらなきゃマトモな部類に入るヘイズ・ベルベット。アタシからすれば割と遊べる相手である。

しかし【猛者(おうじゃ)】は伝達忘れなのか、それともあえて伝えなかったのか。故意にならその理由は……その謎を解き明かすつもりのない我々はそのままその日は就寝を決めたのだった!

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