そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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171.変なのに会いました。安らかに眠って下さい。

遠征二日目。ヘイズが【猛者(おうじゃ)】を淡々と――やや楽しげに――問い質し縮こまらせる場面もあったが、概ね順調に朝の準備が終わった。

移動自体は爆破して落ちるだけなんでサクサク進み、本日の夜営先50階層……の直前、49階層そのものである大荒野(モイトラ)を目指す。ついでにアタシが同行するとどうなるかの実演も兼ねてまったりと進行。

 

「まったりとか言ってられないんですが!?」

「やる事が……やる事が多い!」

「ぎゃーっ! 何だこいつ、明らかに他のやつより強いぞ!?」

「色違い……強化種!? 何で壁から!?」

「通路から増援多数! つーか広間(ルーム)の壁は壊しとけ!」

「あぁ! ジャン・ルイがやられた!」

「こいつ、壁の中から直接……!?」

 

何やら後ろが騒がしいが、とりあえず前方から来る分はこっちで処理してるんで負担は半分……とまではいかんか。だがまぁ慣れだ、慣れ。

 

「前より酷くなっているぞ、どうなっている小娘」

「強化種生えるようになったのは最近になってだが、出現率は大して変わってねェだろ。これがアタシの日常だ」

「こんな日常があってたまるか」

「そのせいで色々と狂ってるのか【芸術家(こいつ)】」

「むしろダンジョンが狂乱してるんだが」

「とりあえず本隊から離れてほしい」

「「「それな」」」

 

第一級冒険者は本隊の前後に配置している。その中で指揮能力に優れたリリと白エルフは双方に分けているが、人数的に主体となるのがフレイヤ派なんで前方に白エルフが配置される事となり、リリと離れ離れになってしまったのは遺憾としか言えない。

いっそアタシも後方に配置されたかったが、爆破移動の都合で最前を進んでるんだわ。まー仮に分断されたら物資の都合ですぐ引き返さなきゃならんしな。

 

「迷宮すらも作品とするか、混沌の申し子」

「ほざいでンじゃねェ。テメーの口から出すもン省みてから言えや」

「……ヘディン、俺この()が怖い」

「黙ってろ。作品にされるぞ」

「ヒェッ」

「してどうすン……いや、待てよ。魔法少女ヴァナディースリーの第二作としてレッドとホワイトとブラックか……」

「【永伐せよ、不滅の雷将――ヴァリアン・ヒルド】!」

 

軽口の応酬をしていたら降りた天啓に近いアイデア。しかし待っていたのは危険を察知した白エルフによる過激なツッコミだった。これにはどつき漫才に飢えていそうな黒エルフも満足」

 

「してないよ!?」

「これでも足りねェのかよハードル高ェな……あァ、充電ご苦労」

「チッ……」

 

ツッコミのときはテンパってるから素に戻るっぽいんよな黒エルフ。関係性としては標準語を話す若者がツッコミのときだけなんでやねんと発言してしまうのに近いんだろうが。勢いと鮮度って意味じゃ黒妖精(ダーク・エルフ)語は向いてないし。好感度が足りてないだけ? それはそう。

唐突な大規模砲撃に後列がざわついてるが、歩みが止まったわけじゃないんですぐに収まる。いやまぁLv.4連中は激闘続きで喧騒が絶えないわけだが。強化種が出て来るだけで格上混じりの死闘に段階(グレード)上がるしな。

 

 

「この先が49階層――大荒野(モイトラ)だ。階層主のバロールとタイマン張りたいやつは挙手……思ったより多いな。だが早い者勝ちだ、ベルは先行して速やかにバロールを討伐する事。当然だが流れ弾に注意してもらうし、あいつ真上に撃ってから雨みてェに降らす攻撃持ってるからちゃんと止めろよ」

「うん、了解」

「他はまァ、そこそこボチボチ周りの雑魚を枯れるまで好きなだけ。アタシの影響で変なの湧くかもしンねーし第一級連中は気を配ってやれ。何か質問や意見があるやつは挙手してくれ……ねェな。よし、行けっ、ベル!」

 

君に決めた! なんて冗談はさておき、ベルの後に続いてボス部屋しかない階層へと突入。全員が入場する頃には既に出入り口から大きく離れ、射線が出入り口を通らない位置を保持しつつ遠くに見えるデカブツへと駆けていた。

 

「うーん、見渡す限りフォモールだらけだな。さすがケルト」

「そういった部分もまたダンジョンの配慮なのでしょうか?」

「さてなァ。ミノだのアラクネだの個体を差すもンでも種族になってっし、前世(あっち)の知識を持ってっと物申してェわ」

「それはそうですが……あ、お姉ちゃん。ベル様が決めました」

「マジで? おー早かったな。ドロップアイテム回収に行こうか、愛しいリリ」

「はいです、お姉ちゃん。ベル様に早いと褒めて差し上げませんと」

 

微妙にリリの発言がセクハラっぽいが、ベルなら素直に受け取って礼を言うだろう。それはそれで無知無垢な相手を気づかれずに汚しているようで背徳感が……いやいや、リリに限ってそんな。

 

 

遠足気分で荒野を制圧して、安全階層(セーフティポイント)の50階層へ到着。時間的にはまだまだ余裕があるものの、夜営に向けた陣地(キャンプ)を張ってもらう。

 

「つい一ヶ月ちょっと前に58階層で狩りをしてたら出てきたからな、今回も下に向かうと接敵するだろうし、下手したら襲撃の可能性もある」

 

そして軽く怪人(クリーチャー)勢力に関して説明をしつつ、キモ虫用の弓や魔剣を並べておく。不壊属性(デュランダル)付与の武器はそこまで数が揃ってないんだよなぁ。こんな事なら人造迷宮(クノッソス)に卸す量を減らして武器を揃えておくべきだったか?

まぁ代わりっちゃー変だが、こっそり作った機構武装が役に立つはず。スリケン技術を用いて魔力の塊を撃ち出す弩砲(バリスタ)(クロスボウ)、そして短杖(ワンド)。ぶっちゃけ第一級冒険者は走って斬ったり突いたりした方が速いが、Lv.4連中の自衛にはそこそこ有用なんでねーかな。慣れない武器を使わせる危険性のが高かったりしそうでもあるが、同士討ちとか。

 

「とりま、先行して偵察して来ようと思うんだが希望者は挙手……だから多いンだよ。どンだけ張り切ってンだテメーら」

「僕たちは対処の実績があるし……」

「逆に我々は一度見ておきたい」

「言っとくが超硬金属(アダマンタイト)だろうと武器は溶かされるから、不壊属性(デュランダル)持ちか非実体の攻撃持ち限定だぞ。見学ならその限りじゃねェが」

 

と、いうわけで帰りに追われながらだと狩れない可能性のあるカドモスを強化種にしてから狩り、52階層から58階層までは直通する側と階段移動する側に別れて偵察する。アタシは当然直通側……だったんだが、ここで異常事態(イレギュラー)発生。

 

「砲撃が来ねェな?」

「やられてる可能性があるか」

「もしくは前回以降ダンジョンが産むのを止めている可能性もあるな」

「……そんな事があり得るのか?」

「こいつがいると常識が壊れる」

「……あぁ」

 

甚だ遺憾である。が、事実として狙撃されない以上は仕方がないので……爆破移動開始である。代わりに58階層から上りRTAを開催するが。

で、きっちり飛竜(イル・ワイヴァーン)には襲われながら58階層に到達した。

 

 

「ほぅ、来るなら【ロキ・ファミリア】だと思ってたが……まぁ、いい。例え【フレイヤ・ファミリア】だろうと不足だぜ? この俺……グラン様の相手をするにはなぁ!!」

「「「いや誰!?」」」

 

いや、まじで。そこには堆く積もった大量の灰と大剣を持った禿頭をした大男の姿。そいつが魔石を噛み砕き飲み込んだ事から、間違いなく怪人(クリーチャー)なんだろうが。ポッと出の無名キャラじゃどうにも締まらねぇな。

ちな、ツッコミをしたのはアタシ、リリ、ベルの三名であり、当のフレイヤ派――同行している白エルフと【猛者(おうじゃ)】と戦車猫は無反応である。うーむ、温度差。チラ見した【猛者(おうじゃ)】が首を横に振ってたんで、知り合いではないらしい。

 

「……ンン? あー、思い出した。こいつアレだ、確か【イケロス・ファミリア】だ」

「知っているのジル姉!?」

「ほぅ、俺を知っているとは情報通だな。いや、闇派閥(イヴィルス)の関係者か?」

 

テメーがそうなった主原因ですが何か。知らぬが仏ってやつなんかね。まぁ大抗争前に一度すれ違ったくらいで面識ほぼねぇもんな。

つーかやっぱダンジョンに潜むのを選んだか。主神はどうなったんだろ? 穢れた精霊ならぬ穢れた神が生まれたりしてんのかね? あるいは怪人ならぬ怪神? 宇宙的脅威な神話生物になっちゃーう。神だけに。

 

「ンな事ァどうでもいい。アタシとしちゃ、てっきり【暴蛮者(ヘイザー)】くらいしか適性がなくて他は全滅コースかと思ってたンだがな。テメー以外に何人が成ったよ?」

「く、ふははははっ! 懐かしい名前だ。ディックスは『彼女』の恩情を拒み、逆らって殺されたよ。他は耐えられずに死んだ。残ったのは俺……そう、俺だけだ。俺こそが! 『彼女』に選ばれたのだ!!」

「ほォ」

 

暴蛮者(ヘイザー)】死亡済、と。頭の回る敵が増えてないのは朗報だな。目の前のは嘘を吐けるタイプじゃなさそうだし。なんなら懐かしの原作【白髪鬼(ヴェンデッタ)】互換に見えるわ。

いや待て、【暴蛮者(ヘイザー)】は呪詛(カース)持ちだったし、新呪詛に目覚めて記憶違いを起こさせてたりする可能性もあるか? 悪夢の応用的な感じで。だとしたら相当に厄介だが。

 

「おい、わかるように話せ小人族(パルゥム)

「ナチュラルに種族名を罵倒語として使ってなきゃ応じたかもなァ、ブラック」

「ぶち殺すぞ……」

「話が進まん。それで、敵なんだな?」

「敵でもあり敵の敵でもある。ぶっちゃけこいつ個人は殺しても問題ねェ」

「そうか――【永伐せよ、不滅の雷将――ヴァリアン・ヒルド】」

「は?」

 

ごんぶと雷撃が怪人(クリーチャー)を直撃する。思い切り間抜け面を晒してたが、仮にも怪人(クリーチャー)だしな。果たしてこれで倒れるだろうか。

なんて思ってたが、なんと跡形もなかった。キモ虫やら食人花やらをけしかけて来なかった辺り、深層ソロしてたんじゃないのかとツッコミたくなるんだが……まぁ倒せたならいいか? 大丈夫? いつから鏡花水月を使っていないと錯覚していたとかない? あっさり過ぎてあやしいんだが、証明手段が先に進むくらいしかないんだよなぁ。

 

「あ、イケロスの行方確認してねェな。仮にも神なンで保護が必要なンだが」

「……いずれわかるだろう」

 

白エルフ、痛恨のミス! いやまぁ常識的に考えて神が入ダンしてるとは思わんしな。そもそもイケロス派の情報とか興味もないだろフレイヤ派(こいつら)

 

とりあえず怪人(クリーチャー)勢力の存在を確認したようなもんだ。後はこのまま戻るか、それとも59階層の様子見だけでもしておくか。うむ、多数決でも取るかね。




すまぬ、お布団は強敵でござった。
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