そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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172.後ろからグサッとしました。成仏して下さい。

「うーん、もう『居る』って発覚したみたいなものだし……」

「下手に数を集められては進出も叶いません。ここは強行してでも先の様子を見ておくべきです」

「『氷河の領域』からの寒気が来ないのは不自然だ。様子を見ておきたい」

「まぁ、そういうことだ」

「よし、じゃあ進むか」

 

偵察部隊の満場一致で59階層の様子見が決定した。

反対意見どころか慎重論すら出ないのは、おそらく拍子抜けだったせいもあるのだろう。アタシとしても穢れた精霊に対する精霊の分身(デミ・スピリット)みたいな触手だったんじゃないかって疑念はあるし。素のスペックが高いのに情報を重要視する狡猾さも備えてたら割と厄介な。

 

「もう半年以上前だが【ロキ・ファミリア】が進出した際は密林っぽくて人造迷宮(クノッソス)でやり合ったデカブツのお仲間がいたらしいが――今回もいたか」

「あれが精霊だと……醜悪な」

「そういう問題じゃねェだろ羽虫」

『アラ、オ客様? ウフ、ウフフフ、オモテナシシナキャ、ネ?』

「……アリアはいないか」

「あれが怪人(クリーチャー)とやらか」

 

まさかの再演、といったところか。違いがあるとすればこっちの戦力が充実しすぎている事だが。つーかレヴィスいるじゃん……ちゃんと両腕生やしてるな。感心、感心。

とりあえずハンドサインで後ろにいる面子に指示を出しておく。極彩色のモンスターが姿を見せていないのは実に都合が良い。いつ呼ばれてもおかしくはないが、会話で時間稼ぎとかできるか試してみんべ。

 

『……? 貴方、変ナ気配ネ?』

「……あン? 何無礼(なめ)た口聞いてやがる頭が高ェぞテメー。下位精霊にしてやろうかよあァ?」

「なるほど、大聖樹(れい)の件か」

 

おそらく精霊の分身(デミ・スピリット)はコハクやネーゼムの方を言ってるんだが、白エルフは未来の大聖樹に集まった精霊たちと勘違いしてる感じだな。訂正の必要は一切感じないので放置しておこう。

 

「その口の悪さ……貴様、あの時の小人族(パルゥム)か!」

「どの時だよドサンピンが。記憶に残らねェ程度の大惨敗こいたンだろ? ンな雑魚が言葉だけでも強気になれるとかスゲーなオイ、都合のいい頭してるねって周りから良く言われねェか?」

「がああああああ!!」

 

レヴィス、キレた! でも襲いかかって来ない辺りはまだ足りてない感じか。

外伝の決戦時に感情磨り減ってアイズ関連でようやく戻って来た的な事を言ってた気がしたが、どうやっても常にイライラして見えるんだよなぁ。まぁ遭遇回数は少ないしアイズをアリアと認識した後しか知らんから何とも言えんが。

 

「どうしてそこまで淀みなく罵倒と挑発が流れ出るのだ貴様の口は」

「正論パンチと図星チャージあるいはショットしてるだけだっつーの。コツは品性を磨いた上で真逆に振る舞う事だ」

「磨くだけねぇだろうが」

「知性が足りてなさそうなやつにゃ皮肉が通じると思ってねェから使ってねーンだよ。足りてて良かったな『兄様』」

「殺すぞクソが」

 

呆れてるが精神攻撃は基本だぞ。怒らせて視野を狭くすれば正面からでも不意討ちになるし、士気を挫けば反撃される危険性を減らせて一方的に攻めれる。

 

「まーどうでもいいが、せっかく生やした両腕をまた失う前に逃げたらどうだよ、赤髪の? しかし今度は胎児じゃなく成長させた個体を献上してくれるとは随分と殊勝だァな? その献身には感心するわ」

「貴ぃ様ぁぁぁぁぁ!!」

 

レヴィス、キレた(三分振り、二度目)!!

今度も飛びかかっては来なかったが、表情は明らかに歪んでて血管も浮き出ている。相当に息も荒いし、リミットゲージの溜まり良さそうですよ、こいつぁ。

ご覧下さい、髪まで逆立って……え、なにそれ、怖っ。静電気? 子猫の尻尾じゃねぇんだぞ人間の頭髪は。まさか古代の英雄は野菜人か何かでいらっしゃる? 髪色そのままだから違うか。

 

「まァ、こうして会話してるとそれに意識を割かれちまうよなァ――間抜けにも程がある」

「カヒュッ」

『……エッ?』

 

正直な話、このどうやっても敵対してるのに会話してる当事者を気にしちゃうバグは何由来なんだろうな? まさか精霊の分身(デミ・スピリット)まで大人しく会話に耳を済ませてるとは思わんかったわ。そのおかげで不意討ち(アンブッシュ)も綺麗に決まったが。

 

「やったねジル姉」

「さすがです、お姉ちゃん!」

 

それなりの激闘が予想されるはずだった強敵二名があまりにも呆気なく魔石を破壊され灰になるのを見届けて、実行者のベルとリリが笑顔で作戦の成功を喜ぶ。うーむ、強い。

物語の盛り上がり的に考えて激闘を経て壊滅寸前にまで追い詰められながらも立ち上がった英雄たちに倒されるはずの強敵が、即死する弱点抱えてるばっかりにバックスタブで一撃必殺されるの現実なんだなーって思うわ。

 

「この調子だと60階層も様子見するか?」

「出来そうではあるな」

「階層の変化がどこまで続いているか気にはなるな」

「どうでもいいが、行くならさっさと行くぞ」

 

そういう事になった。

 

「……なるほど、これが例の極彩色か」

「醜悪な……」

「……ふん」

 

まぁ降りて早々にキモ虫の群れが迫って来たわけですが。60階層もバッチリ密林だったのを確認できたのは朗報……なのか?

まぁこれも59階層に精霊の分身(デミ・スピリット)がいた影響かもしれんが。ダンジョンが連中に気を遣う意味もないし、教会隣の倉庫に似た――精霊の奇跡に近い現象なんだろう。環境操作とかどこぞの新大陸にいる龍かって言いたくなるよなぁ。

まー意外と未開拓領域は影響を免れてそのまま氷の世界だったりしてな。その場合は温度差で死ねそうなのは極悪すぎるコンボなんだが。領域内を一定温度に保つ魔道具(マジックアイテム)を増産しておくべきだろうか。

 

「とりあえず偵察は済ンだし、危険性が確認されたから本隊に合流したらそのまま帰還で構わねェか?」

「足手纏いを連れて行く気にはならねぇ」

「同意するのは癪だが、あれを掻い潜りながら進むのは得策とは言えんな」

 

賛成二、と。むしろ【猛者(おうじゃ)】は黙ってねーで率先して喋れや、団長だろ。

 

「ですが、どうせなら帰還の前に全員が経験しておくべきにも思えます」

「あの溶解液に焼かれる痛みも知っておいた方がいいかも。【フレイヤ・ファミリア】の皆さんは不屈だし、トラウマになる心配はないと思う」

「あー、その辺はどうだ? 一応【経験値(エクセリア)】にはなると思うが」

「私はそれでも構わん。人相手に負う痛みとは別種だろうしな」

 

アタシもキモ虫の溶解液は浴びた事がねぇんだよな。何しろ数がやべーし。痛みの程度が動きに影響するならそのまま圧殺とか丸呑みされるコースだぞ。

 

「……チッ」

「お気に召さねェのもいるようだし、希望者のみにしとくか。代わりに希望しねぇやつらは51階層でカドモス巡りさせとけば稼ぎになンだろ」

「やらねぇとは言ってねぇ。だが足手纏いの面倒はてめぇらで見ろ」

「デレやがった……」

「死ね」

 

こえして戦車猫の(ツン)を受け流しつつ、50階層へ帰還した。途中で思い切り極彩色モンスターの群れに出くわしたんで、先行して溶解液を受けて見たが……前世の虫歯が進みすぎて神経が死ぬ直前くらい痛かったです。

他の面子も試してみたけど、めっちゃ表情豊かになってた。もう歯を食いしばるイケメン揃いだったわ、姉御とリリを含めて。むしろコミカル担当はアタシとベルだった。

 

 

「帰ったぞー」

「お帰りなさいー。ご飯にします? 食事にします? それともひ・る・げ?」

「全部で」

「はいーかしこまりましたー」

「何か報告は?」

「特にはありませんね。交代で49階層を荒らして来たくらいです」

「りょーかい。こっちが飯食ったら人を集めて報告する」

 

お約束のボケをしてきたムッツリ看護服に確認したが、どうやら襲撃はなかったらしい。なんなら暇すぎて狩りに出かけたとか。

危機管理の観点で見れば咎めるべきだろうが、モンスター相手の経験はダンジョンでしか積めないしな。アタシらが下を掃除してるのも合わせて考えればちょっとだけなら……ってのもわからなくもないし、まぁいいか。

 

 

で、食事を済ませて人を集めたら偵察の結果を報告し、ダンジョン踏破の障害として避けては通れそうにないキモ虫の危険性を体験しようという狂気の試みについて希望を募り、交代で52階層以降の正規ルート外を巡って遭遇したキモ虫の溶解液を被っては悶絶するを繰り返して脅威をその身でしっかりと覚えてもらった。

で、なんか最終的には全員が経験する事となった。後は帰るだけだからって、自分から痛い思いをしに行くとかガッツあるなフレイヤ派。

 

で、せっかく築いた陣地なんで一泊した。地味にカドモスチャンスや砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)の復活を狙ったのもあるが。

夕食前には模擬戦をしたが、普段から洗礼に勤しむフレイヤ派だけあって非常に白熱した。どんどん目が死んでいく満たす煤者達(アンドフリームニル)が不憫だったんで、軽く杖術と体術を仕込んでおいた。

つーか回復魔法を覚えるって事は他人を癒したいって優しさと気高さの現れなんだから、もうちょっと労るというか感謝をしろと言いたい。言った。したら当の満たす煤者達(アンドフリームニル)に泣かれた。こ、好感度の上がる音を聞いたからヨシ!

 

 

 

次の日。51階層でカドモス巡りを任せてる間に52階層の土を踏むも、砲撃は飛んでこなかったので50階層に戻り、そのまま帰還した。

アタシ基準では何事もなく、途中でこちらを見るや否や逃げ出した上半身が美人だけど傷だらけなアラクネを発見したので保護したくらいか。喋るモンスターの実物という事でフレイヤ派に紹介しつつ『異端児(ゼノス)』の講義をしておいた。

事前にフレイヤ派への教育をしておいたからか、自力で数を増やせない少数派の取れる道の少なさと険しさは理解してもらえた。理知を備えたばかりに先が見えている絶望なんかもな。当の保護アラクネがアタシの語る内容で表情をしわくちゃにしてたのは見なかった事にしよう。そのアラクネは途中でアタシが付き添う形で別行動を取って、リドに引き渡しておいた。

 

こうしてやや不満の残る結果ではあるものの、強制任務(ミッション)として見れば成果を出せた合同の遠征は終了した。

まぁ練習と考えればいいかな、と。フレイヤ派からの態度も存分に殴り合った後だから認めてる感じだったし。最強の看板下ろしたからロキ派にもトゲを引っ込めてくれたらいいなぁ……なんて。

 

ギルドへの報告はヘスティア派とフレイヤ派がするんで、アタシはロキ派へ連絡しに向こうの本拠へ向かった。

60階層到達の報を受けてめっちゃ悔しそうにしてるロキを横目に、三幹部へは怪人(クリーチャー)勢力に対抗するための合同遠征についてお誘いをしてみたら、前向きな返答を得られた。まぁここで独力だけでどうこう言うなら見切りをつけるところだったんだが。

とりあえず詳細は後日って言い残して退室。そしてアイズにもレフィーヤにも遭遇せずに帰還する事に成功した。なんか、真に遠征を終えた気分だった。

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