そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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Ex1.黒竜を倒してみよう

「つーわけで色んな状況(シチュエーション)を用意してみた」

「唐突過ぎて全くわからないよジル姉」

 

ロスタイムに入ったが当初の計画通りに進めようとは言ったものの、ならばクリア後のオマケ要素があってもいいだろうと張り切って【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】してみたらできあがったのがこちら、俗に言うシミュレーターである。

 

「要は実感を伴う夢を見るための装置だな。例えば自分と戦うとか、七年前の暗黒期真っ只中なオラリオにいたとか、むしろ目が覚めたらアルゴノゥトになっていたとか……そんな感じでな」

「ほへー」

「まー状況を再現するための情報が欠けてたり間違ってたりする部分もあるンで完全な再現とはいかねェが、その辺は勘弁してくれ」

 

各種データは【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】任せなんだが、おかげで自動更新される優れもの……らしい。

つーか【異界信仰(こいつ)】も後天的に強化されてチートになった能力なんだよなぁ。言われてみればここまで便利じゃなかったし、意思を持ってる気配もなかった。まずスキルの名前からして違ったし。知らされるまで記憶になかった辺りアタシの自我も怪しいもんだわ。

 

「えーと、それって時間はどんな感じなの? 夢での一日は現実でも一日とかないよね?」

「その辺は状況次第だが、アルゴノゥトの物語を追体験したら十分ちょいで終わったな」

「あの王位簒奪事件ですか……」

「なにそれ怖い」

「移動時間が長いのはだれるからな、イベントの起きねェ道中や街中の一部を縮めてあンのよ」

「そのおかげで英雄募集の情報を得てから王都までの移動が戦闘込みでも五分程度で終わりまして、しかもそこから王城に乗り込み王の身柄を確保したらそのまま地下迷宮(ラビリンス)へ突撃、ミノタウロスへ向かってシュートのちミノタウロスを屠殺してムービーエンドです」

「えぇ……僕の知ってるアルゴノゥトと違う……」

「ゼウス監修、おとぎ話じゃない隠された歴史の一幕だからな」

「ほへー」

 

こっちのベルは祖父がゼウスだって知ってるんだが、アタシの洗のuげふんげふん教育と姉御(けつえん)の存在があって実の祖父でない事にショックを受けてどうこうってのはなかったし、むしろ志を継ぐ決意を強めてたからな。

ついでにヘルメスの事も祖父(ゼウス)使い走り(パシリ)だから親しくすると周囲にゼウスの生存がバレてゼウスに追っ手がかかるかも知れないって伝えてるんで、ベルは自然と避けるようになってるんだよね。いい仕事したわぁ。

 

「ちなみにミノタウロスは強化種で、一応アステリオス相当にしてある」

「やります」

「後でな。今回やってもらうのは別のだ」

「……はぁい」

「わかりやすく拗ねましたね」

 

キリッとした表情で希望するもすげなく却下されてしまい唇を尖らせてそっぽを向くベル・クラネル(14)。とりあえず写真に収めておこう。後でシルに高値で売りつけるんや。

ちなみにシルは子孫の都合を考えてベルのハーレムを画策してて、リューも巻き込もむつもり満々らしい。何せアストレア派の帰還を祝う集いで双方向のラッキースケベ起こした事で手を握るどころかワーオな部位に顔を埋めても大丈夫な人物しかも異性では初って発覚したから、友人としてこの機を逃したら喪ぞって思ったわけだな。本人としても特別って意識はありそうだし。

つーか散々主神と先輩眷族に囃されたら割とその気になってて、逆にチョロ過ぎてやべーって心配がられてたし。そのせいで残留決定してて笑ったわ。

 

「とりあえず今回やってもらうのはこちら、『ぼくのかんがえたさいきょーのじずじす』となっております」

「何そのすごい棒読みな題名(タイトル)

「早い話が目撃情報から想定される仮想の黒竜と戦ってみようという試みですね」

「黒竜と……!?」

 

ぶっちゃけ死んでもゲームオーバー扱いで持ち越しなしのまま夢から覚めるだけらしくて、しかも現状はクリア後のオマケ期間なんでモラトリアムに過ぎないわけだから実物を見に行っても良かったんだが、まぁ惜しむ気持ちがかなり強い。この夢を見る事になった犯人連中の性格を考えると、実はまだ持ち越しできたのに……とか平然と後出ししてくるからな。精一杯アタシは最後まで生き抜くぞ。

 

「四人まで同時プレイできっから、今回は案内(ナビ)も兼ねてアタシとリリとエイジャ同行で挑むぞ」

「う、うん。わかった。あ、先にトイレ済ませてくるね」

「おぉ、そこに気がつくとはベル様賢い。というわけでリリも行って来ます」

「いてらー」

 

オムツ持参でお供します、とはさすがに言えなかったか。一時間もせずに終わるとは思うが、姉御に監修してもらったら軽くトラウマ呼び起こされちゃう程度には威圧感あるからなぁ。

まー姉御は見栄というか意地というかで何度も挑戦して恐怖を克服してたが。多分アレ自分が参戦しない事で妹の子(ベル)が死んだらって気合と根性の賜物なんでねーかな。

そんでオッサンはベヒーモス装備でかなり粘れる事がわかった。回復すればかなりの長丁場持つはずだ……設定通りの強さなら、だが。

そんな二人は何故か単独(ソロ)で挑んでたが、アタシらは普通にパーティーで挑戦する。別にソロとマルチで強さが変わるわけじゃないし。

当初の計画通りアタシが魔道具(ミサイル)ぶっぱして、オラリオや都市外に散った商人経由で指揮下に入ってる人数を水増ししたリリが魔石の位置を探り、ベルが【英雄決心(スキル)】を乗せた最大火力の一撃で魔石を砕く流れだ。エイジャにはリリのサポートをお願いする。

 

「お待たせ」

「ただいまです」

「おかー」

『おかえりっす』

「そンじゃこのゴーグルを着けて寝転がって安静にしててくれ。エイジャはこっちの揺りかご型に寝転がって目を閉じててな」

『了解っす』

 

トイレを済ませて戻って来たので、デバイスを渡してそれぞれ準備ができたのを確認したので早速始める。ホストがアタシなんでステージと難易度を選択して、と。

 

「よーし始めるぞー接続開始(リンクスタート)、ポチっとな」

 

意識が薄れるような、あるいは軽いめまいにも似た感覚の後で目を開くと、そこはもう広い平原だった。

 

「うわ、ぁ……」

任務(ミッション)の説明をします』

「え、エイナさん!?」

「NPC……あー、あくまで夢の登場人物だ。本人じゃねェ」

「えっと、そうなんだ?」

 

これは半分くらいしかわかってない顔だな。仮に本人だとしても通信用魔道具(マジックアイテム)越しだから身の安全は確保されてるって。実装内容的にもオラリオまでマップ続いてねェし。だがまぁ、要は勝てばよかろうなのだ。

 

『竜の谷の封印が破られ、ついに隻眼の黒竜が世界に解き放たれてしまいました。飛び立った黒竜は、ほぼ一直線にオラリオを目指しています。皆さんはこれを撃退して下さい』

 

ナレーション監修は【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】なんだけど、やっぱりというかガバガバご都合展開だよなぁ。

 

『このままオラリオに到達してしまえば人も神も犠牲となり、人類の希望は失われると言っていいでしょう。そしてバベルは倒壊し、ダンジョンからモンスターが溢れ出す……そこから先は人類が淘汰される古代に逆戻りするも同然です。お願いします、どうか黒竜を打ち倒し……世界を救って!』

「わかりました、エイナさん! 僕たちが必ず黒竜を倒します!」

 

ベルはロールプレイが上手だなぁ。でも演出でしかないからNPCエイナさんは言いたい事を言ったら通信切ってるよ。この後もHP半分切ったりするとお知らせの通信入るけど。

あ、普通のNPCには会話AI積んであるから、何に対してもここはオラリオの街だよとしか返さない都市民はいないぞ。俺はガネーシャだしか言わない神はいるが。

 

「ンじゃ、作戦は前々から言ってる通りだが、問題あるか?」

「リリは大丈夫です」

『僕もっす』

「えっと、ジル姉が狙撃して、リリが魔石の位置を探って、僕が全力の一撃……だよね?」

「ソレデヨイ。とりまアタシは撃ち落とせたらラッキー、注意を引けたら及第点だが、被害が軽すぎたら無視される可能性もある。その場合は第二陣が食い止めてくれるのを期待して追いかける事になるンでよろしく」

 

さて、とりあえず倉庫の中身は開始時点のが反映されてるんで望遠鏡で黒竜を探して、角度を確認したらミサイル型人形兵(ゴーレム)を在庫放出大セールだ。

 

「後ろ向いてしゃがんでー耳塞いでー口開けてー大きく叫び声ー!」

「「『あー!』」」

「いや聞こえてるンかーい!」

 

次々と飛び立って行くミサイル達。うーん腹に響く。気圧差で内臓破裂だっけ? 本番は少し後ろに離れた場所から放つ方が良いかも。

 

『―――――――!!?』

「あ、落ちた」

「割と遠いですね……いえ、堪えました!」

 

アナウンスが出ないって事はそこまで削れてないか。そんでダメージはさておき、意識が一瞬飛んでたのはモンスターを生物として見すぎな気もするな。

 

「注意は引けたな。リリとエイジャは準備を。アタシはもうちょい撃つ」

「わかりました! 行きましょうエイジャちゃん!」

『了解っす! ネキも引き際を心得るっすよー』

「あい、あい」

 

肺呼吸してるならいっそ無酸素状態作れば殺せそうだけど、火を吹く連中ってその辺に関係する空気弁みたいな仕組み働いて生き延びそうよね。黒竜が火を吹くかは知らんが。

とりあえずまだ距離あるし残りのミサイルも撃ち込んでおこう……あ、迎撃された。咆哮して衝撃波、か。黒ゴライアスを思い出す。

つーか賢いじゃないか黒竜。アリアか? アリア取り込みで知恵がアップして大気にも干渉できちゃう系か? そういやその辺(アイズ)のイベントってどうなってんだろ。本人は第二陣に配置されてる設定か?

 

しかしまぁ、大して消耗させる事もできんかったな。課題としては第一射に混ぜるデバフや状態異常を目的としたミサイルだな。本物に通るかは不明だが、ダメージ目的のミサイルがアナウンスを引き出せない誤差程度じゃ話にならん。それならリリの戦いに助けとなる方がずっといい。

もしくは【連鎖地獄(ケッテン・ヘレ)】に期待してもっと物量で攻めるか。

 

「リリ、すごいね」

「黒竜相手にしっかり攻撃通ってンな。サイズ差と刺突メインなンで傷が与えた先から再生されちゃいるが……守りに関しちゃエイジャが完璧に防いでっし」

「後は魔石の位置、か。僕も準備しておくね」

「おー、決めろよ男の子」

「ここ一番でからかわないでよ」

 

ベルも前線に向かったし、電磁ネットでも設置しておくか。マフティー捕獲の方じゃなく地球がリングだするためのロープをイメージしてるんで、地味に頑丈さが最硬金属(オリハルコン)超えしてるんだよな。ダマ鞭から乗り換える主力武器にできそう。

しかし普段の条件だとベルのが速いんだが、今のリリは指揮下に収まってる人数が数百万人になってて劇場版強化形態みたいな事になってるからなぁ。【ステイタス】換算でも各種基本アビリティ万単位なんじゃなかろうか。そう考えたらすんげー今更だけどリリってアタシ以上に最速タイミングで【ランクアップ】するべきだったんかね? 潜在値(エクストラポイント)が変換されて繰り越し熟練度になるんだし。

 

「……あっ」

 

速報。隻眼の黒竜、リリに魔石を砕かれたらしく無事灰に(しぼう)

 

『や、やりました! 隻眼の黒竜撃破です! 皆さん、世界を救ってくれて、本当にありがとう……!』

 

NPCエイナさんのアナウンスが響き渡り、背後から微かな歓声らしきものが聞こえてくる。第二陣なんだろうな。まぁ出番がなくても喜ばしい事だし騒ぐか。

とりあえずアンタレスとアルテミスみたいな感じで黒竜に上位精霊(アリア)融合してて、パワーアップした結果として魔石を砕かれても復活する想定してたけど、その辺はデータになかった感じか。いやまぁ隻眼の時点で再生どうしたって話なんだが、そこは多分アリアが埋まってて邪魔してるとかなんだろうな。

古代の上位精霊を通常モンスターが食うとモンスターが乗っ取られて穢れた精霊。精霊の分身(デミ・スピリット)を黒竜に連なる系譜な竜の幼体へ寄生させたらモンスターに侵食されて取り込まれてる感じの七番目(ニーズホッグ)。アンタレスはアルテミス捕獲融合で『神の力(アルカナム)』ブンブンなチートモンスター。これらの事例(サンプル)を参考にすれば、当時は隻眼じゃなかった黒竜と仮定上位精霊アリアだとそりゃ順当に行けば黒竜が勝つよなぁ。つまり古代の――漆黒のモンスターは歩く捕獲装置(モンボ)なんだよ!

つーか初代クロッゾの雰囲気的に精霊の奇跡は消費分を回復が不可能か滅法遅いかだし、案外ゼウス・ヘラのおかげで現代の黒竜は十五年前より弱体化してるのかも。

つーかモンスターの強化種や繁殖を考えたら、本来は黒竜って弱る一方なはずなんよね。魔石文明でダンジョンから地上に魔石を運んで来る人間とかいう実に都合のいい餌いるとはいえ。あるいは竜の谷から下りてくるモンスターって精霊の分身(デミ・スピリット)と極彩色モンスターみたいな関係なんだろうか。ちょっと学区に仮説を提唱してみようかな……いや、めんどいわ。

 

「おつかれー」

「お姉ちゃん。ちょうどいいところに」

「おン?」

「ベル様を慰めてあげて下さい。リリでは、その……」

「あー、わかった。任せておけ」

 

出番がなかったベルはしゃがみこんで木の棒か何かを持ち、地面に積もっている黒竜だったもの――灰をツンツンしている。ちょっと夏の思い出が蘇るムーブやめてもらえませんかね?

 

「あー、ベルや。今回は……ってうォッ!?」

「うわぁっ!?」

「……?(こてん)」

 

話しかけたタイミングで灰の一角が勢い良く巻き上がり、そこから姿を現したのは一人の女性ヒューマン。

 

「あれ……アイズさん?」

「……!(パァッ)」

「いや、母親のアリアじゃねェかな」

「……!(コクコク)」

 

どうやら正解のご様子。言葉を喋らない理由はわからんが、とりあえず何故かたまに見える幻覚の幼女アイズを縮尺変えた感じの幼女スタイルなんよね。力を失ってるアピールか何かか?

 

「お姉ちゃん、こちらの方は?」

「詳細は不明だが、アタシらの認識する範囲で適当なのは黒竜を隻眼の黒竜に変えた大英雄の傍らに添い続けた精霊アリアだろうな」

「なるほど。アンタレスや穢れた精霊に近いパターンで囚われている可能性ですか」

「愛しいリリは賢いな」

「えへへ……」

 

落ち込んでるベルへの気まずさとか言ってる場合じゃねぇとばかりに合流してきたリリと言葉を交わしながら、当人(?)を見る。アイズの名を呟いたベルにご執心らしくべったりくっついていますね。

これあるあるネタで最弱の英雄(アルゴノゥト)から最強の英雄(アルバート)を経て最後の英雄(ベル)になったオチはないよな? アルバートって言語変わるとアルベルトだし、そっからアルゴノゥトとの共通点アル・トを引っこ抜くとベルになるし。いやまぁアイズの反応的にあり得ないんですがね!

 

「まー色々と考察するべき内容があるのはさておき、目標を達成したンでこれで終了だ。直に夢から覚めンぞ」

「そうなの?」

「そーなの」

「実物と強さが変わらないならとっとと倒しに行きたいところですが……」

「あー、これ難易度ノーマルだからな。ハードやベリハ、エキスパートって上があるからそれも試してみるべ」

 

なんて言ってる内に、目の前に数字が表示されカウントダウンが始まる。

 

「わっ、なんか出たんだけど!?」

「本来ならこの時間でドロップアイテムの回収とかするんだわ。リザルト次第だが現実に持ち帰れる可能性があるかンな」

「……へ?」

「そういうものだとご納得下さい、ベル様」

「アッ、ハイ」

 

そう、何を隠そうこちらのシミュレーター、アタシが見せられてる夢の規模縮小(スケールダウン)版なのである。クラフトチートである【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】の面目躍如というか本領発揮だな。

本当は世界を創造(これくらい)できてしまえる能力なのに、常識が邪魔をして欠片ほどしか使ってなかったから宝の持ち腐れとか豚に真珠とか散々に貶され指差さされてケラケラゲラゲラ笑われるあの屈辱……アイツら百遍殴る。

 

こはん、さておきリザルトはSSSで持ち帰れるアイテム候補は黒竜の遺灰、黒竜の牙、黒竜の飛翼に黒竜の尾、初回ボーナスの精霊アリア(分身体)だそうな……なんて?

 

 

 

このあと現実に戻ったら、アタシのアイズ初対面時とほぼ変わらない見た目の幼女がバッチリ出現していた。そしてアイズと引き合わせたら感動の再会からの白い風が解禁されたり、半生を語るアイズの言葉を聞き届けたアリアがロキへの説教に並々ならぬ意欲を抱いたりしてた。

そんでアタシらは難易度ハード、ベリハ、エキスパートとクリアできたので、署名を集めて数百万人を指揮下に置いたリリを主力に現物へ挑んでみた。肝心の強さはなんと難易度ノーマル程度だったので、結果はお察し。そして出番がなかったベルは凹んだ。

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