そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
夢の中では一文節ごとに頭部が開いて中からちょんまげが出て来たり、先端が花のように開いたり、陽気に揺れたり、どこからともなくルンパッパの群れが現れて盛り上げて帰って行ったりと、とにかくかなりシュールでした。それなのに誰も反応しないのが最高にクールでした。
「――あン?」
気がつくと、街の中に立っていた。周囲を見回せば、すぐに見慣れた
「――妙にヒリついてやがる。どうなってやがるよ、コイツは」
空はどんより曇り空。漂っている空気はどこか張り詰めており、遠くで少し強めな奴らが戦闘をしている気配もある。明らかな
どうやらここでも戦闘が起きたばかりらしい。ここがオラリオだとして、じゃあ今はいつの時代だ?
――もしもーし。誰か聞こえるかー? 返事なーし
(倉庫は……
念話で呼びかけるも、リリたちからの返答はなし。倉庫内のラインナップからも綺麗にリリたちの名前だけが消えている。
何がどうなってこうなっているかは不明だが、とりあえずは情報が欲しいところだ。
(見覚えがあると思ったら、第七区画だな。だが少しばかり昔、か?)
位置的には丁度いいと言うべきか、拠点である教会のすぐ近くだった。よって事態の確認に役立てるべく足を運ぶのは、まぁ必然ってやつ?
(――誰かいるな? つーかこのボロ具合はアタシが改装する前か)
辿り着いた教会の外見が懐かしさを覚える廃墟寸前な事から、ここが過去であると確信する。
ところでLv.8の聴力には何やら邪神エレボスとか叫ぶ声が聞こえてきたんだが。聞き覚えはあるが、誰だったか……とりあえず発信源の教会まで歩み寄り、扉にそっと手をかける。めっちゃギィーって鳴りそうだわ。
「リオン、お前の『正義』とは?」
内部から漏れてくる声。これはエレボスか……記憶にねぇわ。イケメン寄りにしたベルみてぇな声してんな。これってリューがベルに惚れた理由と関係してたりします?
「…………な、ぜ…………わたしに、問う……?」
「俺がお前を――」
「待て――姿を現せ。そこに居るのはわかっている」
おっと会話を遮られた。これはポイント高い。無駄にシリアスだから話の腰を折ってくれてサンキュー姉御! でもめっちゃ気まずいから逃げたいんだよなぁ。
「あー、オ邪魔シマス」
「……何者だ?」
「通りすがりの未来人だよ、クソが」
姉御が大人の姿で、エレボスがいて、リューが若いというか幼い。これもう完全に七年前じゃん。そりゃ空気もピリピリするわ。
「……驚いたな。嘘を言ってはいない」
「ほぅ」
「だが、どうやら未来は未来でも枝が分かれた後だな、こりゃ。アタシの知らねー過去だ」
アタシの知ってる世界なら教会の周りにはちょっとした妨害というか迎撃装置があるはずだしな。地下にLv.6がいる風もないし、そもそもコイツらが初対面な反応だし……あれ、原作の世界線ってやつか?
「興味深い話だが……生憎と取り込み中でな」
「わーってンよ。口は挟まねーから好きに進めてくれ」
しっしっ、と手を振って続きを促してから、倒れている長椅子を【
「待て待て待て。今、何をした?」
「るせーな。好きに進めろとは言ったが口挟まねーっつっただろうがよ話しかけてくンな」
「おい」
「あァ?」
「こちらも直しておけ」
「……りょーかい」
姉御がマジで姉御な件。でもまぁ確かにアタシだけ座ってんのも不公平か……いや別に背景だからよくね?
とりあえず姉御相手に言い訳しても無限ループしそうなんで、指パッチンを一つ。【
「……便利だな」
「ごほん、さて、考える時間は十分だろう? もう一度改めて問うぞ。リオン、お前の正義とは何だ?」
エレボス、とても居心地が悪そう。リュー目線だと神聖な教会の空気に当てられた邪神みてぇになってない?
つーか精々三年しか正義の眷族やってねぇ
「う……あ……」
問われたリューは口を半開き瞳孔をガン開きにして呻くだけ。
つーかやめろ、すがるような目でこっちを見るんじゃない。迷子の子猫かよテメーは……原作準拠なら
「なぁ、リュー。俺は知りたいんだ。ゼウスとヘラが敗けたあの日から、混沌は勢いを増し秩序とせめぎ合っている。光か、闇か。世界の縮図とも呼べる今のオラリオで、どちらが勝つのか。暗黒期と呼ばれたこの時代でも、光は――正義は剣を掲げて闇に、悪に立ち向かえるのか」
ご高説賜ってるけど
「お前が言った正義を、俺は一言一句覚えているぞ。今のお前は、前と同じ答えを言えるか?」
「や、やめ……」
「なぁ、リオン。この数日でお前たち正義が受けた仕打ちはどうだった?」
「やめろ……やめろっ!」
「自分たちの期待を裏切ったと唾を吐き石を投げる理不尽に耐え、守っても返ってくるのは感謝ではなく罵倒と怨嗟。お前の価値観は揺らいでいないのか? 今のお前はそんなにも弱っているじゃないか」
「――やめ、て」
エレボス、怒涛の言葉責めです。録音したけど持ち帰れるんかな、これ。ベルと同席してるタイミングでリューに聞かせたい。
もしかしたらアタシのいる世界でも近いやり取りしててトラウマになってるかもしれんけど、シルも同席してたら上手くフォローして新しいプレイに使ってくれんべ。
「やれやれ。期待外れだな――興醒めついでに折角だ、未来からの客人に答えを訪ねようじゃないか」
「生憎と耳にバナナが入ってて聞こえねェわ」
「この空気でそれやれるの凄いな」
いやだって話しかけて来んなってアタシ言ったじゃんね。通じてなかったのかな。呆気なく素に戻りやがって。
つーか
「まァ、なんだ。正義とは何か、だったよな?」
「あぁ、そうだ。お前にとっての正義だ」
でもアタシって根本からオラリオと価値観が食い違ってんだよね。何がデカいって世界を焼く人間同士の大戦が起きてて記録されてて人々が平和とは何かを考え続けて発信し続けて来た歴史を知ってる事よな。まぁ、それでも実体験があるわけでもなし、結局は借り物の言葉による
「完全平和主義」
「……うん?」
「武器を取らず言葉で以て融和を成す信念。対話を諦めないどこまでも強固で揺るぎない芯。お綺麗に過ぎるお花畑としか言いようのねェ思想だ」
なお武力による戦争がなくとも平等は実現しないし貧富の差とかが解決するわけじゃない。空間を含めた資源が有限だから奪い合いはなくならないし、余波で命が失われるのも絶えないんよ。
「……それは、お前の世界では普遍的な考え方なのか?」
「アタシ個人の考え方だよ。正義はな、武器を手にした時点で単なる暴力に成り下がる」
「……馬鹿な! そんなはずがない!」
「……では、武器を手にした者を言葉で止められなかったら、正義はどうする?」
「既に言ったが? 諦めねェよ。どこまでも言葉を尽くして、手を差し伸べ続ける。敵の排除なンざ正義の味方が済ませてくれるに決まってンだろテメー頭沸いてンのか」
途中でリューさんがインターセプトしてきたけど華麗にスルー。ついでに割と虚を突かれた感じのエレボスくんが間抜け晒しちゃったな。アタシは悪くねぇ。
「正義の、味方……」
「……馬鹿な。なんだ、それは……」
「正義は尊いからな。自然と惹かれて味方をする連中は出て来るさ。そンで正義を気に食わねェって襲って来る連中を、狙われてる正義の代わりに武器取って立ち向かい止めるのよ。手を汚すのも自分がやるってな。当の正義から武器を捨てて話を聞いてと懇願されても、それじゃテメーを守れねェって振り切ってな。事が済んだ後は汚れた自分が側にいてはならないって身を引くか、下手すりゃ自害までする覚悟を決めてな」
月光仮面だったっけか。まぁ言われてみれば、正義の味方が正義そのものな味方なら、じゃあ誰の味方だよってツッコミいれたくなるもんな。察する文化は日本の美徳かもしれんが、変数を入れて答えを出せなくする問題とかクソオブクソだろ。
名詞として考えれば正義を守るために味方する人の方が過不足なく説明できている分だけ美しいとは思わんかね。法則とかは知らん。日本語難しいねん。自分、第一母国語は方言なんで。
「それは、それでは、余りにも報われない……」
「正義は見返りを求めない。正義の味方も
そして決してそうはなるまいと考えているものでもある。夢より先に現実を見ろ。ものすごいブーメランが刺さった気がするが致命傷なので問題ありません。あふん。
つーかなんかエレボスが後ずさってよろめいて長椅子に座り込んじゃったんだけど。リューも力なく地面にへたりこんでっし。アタシの話が長すぎて疲れたとか?
「聞いたか、アルフィア」
「あぁ、
「俺もだよ……全く。何が絶対悪」
なんかすげーへこんでいらっしゃる。ここは一つ向こうに景気よく語らせて調子を取り戻してもらおう。うん、それがいい。
「さて、対価を払えよエレボス。テメーの掲げる悪はどンなだ?」
「ごはぁっ!?」
「邪神エレボスが血を吐いた!?」
「……この人でなしが」
あるぇー、なんかアタシが悪者にされたんだが。なんだ、何が起きてる? まさか既にスタンド攻撃を受けている?
「いいから言えよ」
だがこのラジルカ容赦せん! いやマジ一方的に聞いて終わりとか許されるわけねーだろ。
「……き」
「き?」
「『気持ちのいいもの』……」
「ほォ」
「……な、ぁ」
そこはかとなくエロス。これはポイントお高いですよ奥さん。いや誰だよ奥さん。誰かの妻って立場だけじゃなく、名字が奥の人なパターンもあるんだぞ。
しかし気持ちのいいもの、と来たか。まぁ
しかしある意味じゃ人間の繁殖を悪と言い切ったわけだが、悪を自称するならそっちのが都合はいい事になるのか? よぐわがんね。
「つまり何か、エレボス。生まれつき不治の病を患い常日頃から絶え間ない苦痛と疲労に苛まされている者が家族を心配させまいと笑顔を浮かべ明るく振る舞い、それを察した家族が騙された振りをして浮かべた笑顔を見て良かったと満たされた気持ちになる事をテメーは悪と断じるのか」
「がはぁっ!?」
「いやまァ否定はしねーがな。優しい嘘でも吐かれた側はつれーのよ」
「嘘は悪……優しい嘘も悪? でも、そんな、あぁ……」
「心が、心がひび割れそうだ……」
「メーテリア……私は……」
姉御まで長椅子にもたれかかっちゃったんだが。どうすんだこの空気。
「おン?」
困ってたら空気が、地面が微かに揺れた。この馴染み深い感覚は……爆弾じゃな?
「おーおー、派手にやってんな。この空気も爆破してくれりゃいいのに」
「……行かなくては。襲撃が、正義……」
「動くな、リオン」
「あ、っ……」
リューがふらふら立ち上がったと思ったら、エレボスの神威で押さえられ再度へたり込んだ。空気にシリアスが戻って来たな、ヨシ!
「アルフィア、お前はザルドと周囲の封鎖を。俺は今のオラリオに正義を問いたい」
「……あの煩わしい雑音を助長しろと言うのか?」
「なる早で計画を進める事を約束する……そこの
「したらかわいそうだろ。こちとら第一級冒険者だぞ。Lv.8なンぞはヘラからすれば珍しくねェだろうがな」
「アッ、ハイ」
「……では、私は行くぞ」
姉御が何とも言えない苦み走った表情で足早にそそくさ退場するの草なんだが。エレボスは……まぁリューがこんなだし、ここからでもまだ立て直せるか。
「ちなみにこの襲撃って予定してたやつ?」
「いや、俺は待ちの時間だと言い含めておいたんだが……オリヴァスめ」
「ほーン。両親の仇じゃンね?」
「ちょ、待て!」
「待たねェよ。一人だけだ、諦めろ、正義でもねェやつ」
予定変更。介入して拐って苦痛に漬け込むわ。かつてはできなかったあの夢を実現とか飛びついちゃうよね。アタシは正義なんかじゃねーわけだし。
「
エレボス、呆然。リューの前で素が出てるんだが大丈夫かこれホント。まぁ黒竜もダンジョンも解決するから明るいっちゃー明るいわな。その先の人間同士の戦争が勃発する可能性を考えたら花火みてぇな輝きかもしれんが。
なお、オリヴァスの髪を掴んで現場から離脱する途中で夢から覚めた模様。まぁ、突然変化した自分の状況と近く訪れるであろう未来に対して浮かべた驚愕と恐怖に歪んだ表情は見れたから良しとするか。アタシの姿が消えてそのまま続くとしたら亜音速で空中に投げ出されて市壁に突っ込むか外に投げ出されるかだし。
さて、今日は予定を変更だ。倉庫内に録音した魔道具があったし、音質もバッチリだったからな。ベルを連れて豊穣の女主人に突撃せんと。待ってろよリュー。
あ、ヴィトーにも聞かせてやらんとだから複製しとこ。つーかそれならもっと色々と喋らせておけば良かったわ。
なお夢から覚めた後で耳にバナナの下りを披露したらまさかのアルフィアからメーテリアがよくやっていたと懐かしむ反応をされてベルのママ転生者疑惑が持ち上がったとか。