そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

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Ex8-A.ひな祭り広めました。流行って下さい。

「ひな祭り……ですか?」

「あァ、その通りだ愛しいリリ。アタシとした事が、だ。商売(かせぎ)になる行事(イベント)を忘れてたなンて……しくったわー」

 

ホワイトデーを消化して数日が経った、ある日の事。

春姫を中心にタケミカヅチ派と【麗傑(アンティアネイラ)】を添えた面子にアンフィス・バエナの調理法と下層での稼ぎ方を教えた帰り道に、春姫の発現したらしい【洗罪形代(ミソギハラエ)】なる『ダメージや状態異常を指定した形代に身代わりさせる』トンデモ『スキル』を聞いて流し雛の風習を思い出した。

折角なので、春姫にはその場でお礼とお祝いを兼ねて不壊属性(デュランダル)が付与された最硬金属(オリハルコン)製の油揚げ型ストラップ――その名もずばりな『織春狐(おりはるコン)』を製作して渡しておいた。春姫以外からはものすご~く微妙な顔をされたが、春姫は喜んでいたのでヨシ!

で、流し雛からひな祭りが連想されるのは難しい話じゃないし、雛人形を飾り菱餅とひなあられを食いつつ白酒や甘酒を飲む祭としてならオラリオでも十分に流行させる事はできるとの結論に至ったわけだ。そのままだと甘いオンリーなんで味の改良に一手間必要かもしれんが。ロシアンひなあられ……これだ! いやこれだーじゃないが。

雛人形の厄を引き受ける要素に対しては、普通に片付けるだけでもいいが、いっそヘスティアを祭神にして燃やして浄化(おたきあげ)なんてのも有りに思えてくる。対象(ターゲット)となる健やかな成長を望まれる女の子とは未婚の――恐らくは処女だろうしな。相性は悪くないように思える。

時期的な問題は、旧暦と新暦の差を利用して来月頭を基準にしてしまえばいいだろう。極東面子の反応は気になるが、オラリオにおいては圧倒的少数だから下火どころか燃える機会すら与えずに済むはずだ。

つーか、むしろ宣伝して浸透させるまでの時期を考えればホワイトデーが終わって余韻をしゃぶり尽くし娯楽に飢え始めた今頃が最適解に近いのでは?

しかしそうなると端午の節句もいけるか。ある意味で一番の問題は、冒険者の街だから純粋な子供扱いされるチビッ子は少ない事だな。まぁ異世界の風習なんだしその辺はねじ曲げてしまっていいだろう。オラリオは神に毒されてる部分もあるから騒げるなら理由なんてどうでもいい現代日本人的な感性を持ってるしな。

実際問題、穏便な方法でのガス抜きができて経済も回るからギルドとしても助かるだろうし。

 

ちな、春姫は非情げふんげふん非常に愉快でやべー事になった。

紆余曲折あってイシュタルが殺生石を完全に選択肢から捨てた事で我慢していた魔法ガチャに挑んだ結果、原作同様の魔法が装填できる尾を顕現させる【ココノエ】の他にも【キツネビ】なる範囲内の味方には自動回復と微量の上昇補正(バフ)を与え続けるが敵には複数の『異常』とダメージを継続して与え続ける領域を生成するぶっ壊れ魔法を発現させ、一角の『妖術士』となったのだ。これにはイシュタルもドン引きしたとか。

自分中心に80M(メドル)という広範囲を、幻とはいえ炎で包み込む領域の展開。それはもう何を溜め込んでそうなったのかとイシュタルが心配して悩み相談を引き受ける程の出来事だったそうな。気持ちはわかるが。

恐らくだが、スリケンの技術を会得するも戦闘では今一つ振るわなかったせいで力になれない事を悩んでいた時に、指南役のルビスから敵味方を判別した上でまとめて範囲に収めてしまえばいいと助言を受けた事が関係しているのだろう。要はサイなフラッシュを言ったのだが、妖術側の適性なのか下手な攻撃よりもずっと役立つ化物級の魔法が芽吹いたわけだ。

巡り巡って責任の一端を担っている事実にアタシは震えた。何しろこの領域は()()()()()()のだ。【ココノエ】に三つも装填して放てば味方には『階位昇華(レベルブースト)』と変わりない量の上昇補正(バフ)を与えつつ、敵には適正とされる相手なら即死もあり得る速度の持続ダメージが入る上に恐らくは衰弱や鈍化あるいは麻痺といった逃走を許さない要素や持続ダメージを加速させる毒を含んだ複数の異常効果が襲うのである。恐らくなのは、試した相手が六十秒と持たずに灰と化したせいで確認しきれなかったからだ。

この魔法の凄いところは他にもあり、魔石やドロップアイテムは敵でも味方でもない扱いなので破壊してしまう事がないのである。こうなると身代わりスキルが厄払い扱いで幸運要素を持たない事が悔やまれるが、それは高望みが過ぎるとも言うね。なお【足長姉者(アタシのスキル)】。扱い的にはお姫様のが適当なんかもしれんが、成金(アタシ)からすれば貴族(みぶん)なんぞ大した意味を持たんし、癒し(モフられ)担当という価値の前にはメッキ(ぬがすもの)でしかねーのよ。なんなら一皮剥かずともわかるムッツリドスケベ狐やぞ。たまに妄想漏らしてるけど内容が……ね?

こんな有り様なので、春姫は格上狩りも当たり前にこなしてしまえてあっという間に【ランクアップ】を達成し、第二級冒険者の仲間入りを果たしていた。言うまでもないかもしれないが【キツネビ】以外の攻撃はポンコツなままなので安心して欲しい。さすがにゴブリンやコボルトは速度差ができたので家事の要領で片付けてしまえるようにはなったが。回避は相変わらず不思議なまでに高いのにな。

 

「それで、具体的にはどのようなものをお考えなのですか?」

「菱餅とひなあられ、そして甘酒を飲み食いするのがメインだァな。本来のメインは願掛けなンだが、オラリオ(ここ)は神が実在してあンなだからやるだけ無駄感が強すぎてな……」

「あぁー、えぇと、それは」

 

アタシの意見に同意できるししたい気持ちはあるけど神カス共にも畏敬の念を忘れず言い淀んじゃうリリが尊い(尊い)。

うん、考えてみたら雛人形の意義がちょっとね。代替案として、期間中は雛壇に日替わりで適当な神をコスプレさせて並べておくのも考えてみたが、飽きて居なくなったり衣装もそのまま借りパクしそうだから却下で。女神祭の二番煎じってのも頂けないし。

いっそデカめに作った見本をギルド本部かバベル前の中央広場(セントラルパーク)に飾って、雛壇だけ受注生産にして後は【ファミリア】で各主神の考えた『最強のお雛様』を実現させればいいんでねーかな。

写真コンテストとか開ければ良かったんだが、写真なんて実装したら深層の情報を撮って来いとかギルドに言われるのは間違いないんでパス。

学区のおかげで錬金学科と魔法大国(アルテナ)の共同開発らしい魔力映写機の存在が確認できてるんで、カメラ・オブスキュラのような人力での複写を可能とする装置はできているはずだ。恐らくはその先――感光させて画像を写す装置の開発も始まっていると思うが、地味にアタシの知る範囲だとカドモスの皮膜にポイズン・ウェルミスの体液を加工した物の組み合わせで懐かしのスリンガー閃光弾というかマグネシウムリボン辺りの強い光に当てると瞬時に焼き付くんだよなぁ。毒性は残ってるから流行させるわけにもいかんが、万能素材(カドモス)の酷使され過ぎ問題は終わらないんだなって。

カメラのフラッシュみたいな火事に繋がらない意味で安全な装置もダンジョン素材でどうとでもなりそうなんだよなぁ。それこそ【万能者(ペルセウス)】にでも頼めばもうありますとか取り出してくれそうな気配あるし。魔石灯の改良で何とかなりそうか?

 

「まァ、神はさておき。バレンタインデーで女から男、ホワイトデーで男から女のイベントやった後だしな。甘い物と人形だから女の女による女のためのイベントって打ち出し方が良いのかね」

「なるほど、女子会ですね!」

「女子会……言い得て妙だな。さすがは愛しいリリだ」

「えへへ……」

 

あらかわいい。こんなに可愛くていいんだろうか。アタシの妹だぞ。羨ましかろう。アタシもアタシに嫉妬するくらいの価値を感じている。リリは可愛い、可愛いは正義、つまりリリは正義。エレボスに聞かせたら泣いちゃいそうだな。どうしてこうなった、って。

 

「そうと決まればまずは適当な【ファミリア】に聞き取り調査と協力依頼だな。その後で試作品を酒場を流しつつ情報も流して広める。その時に大体一月後には男子向けの端午の節句(イベント)があるのも伝えておけばいいか」

「ほへー。まだアイデアがおありなんですか?」

「まーな。そっちの説明は追々な。ひな祭りの逆で男の男による男のため(意味深)の祭な予定だ」

 

メタ的な視点だと、概念そのものは街中に広まりつつもイベントのメインとしては豊穣の女主人かロキ派閥のネームド女性陣になるよな。そこにアタシが絡むとしたら臨時バイトかアイズに捕獲されるか。広めた時点で役割は済んでるんだし、全部から逃げてダンジョンこもって『異端児(ゼノス)』に布教もありかね。

ヘスティア派はアタシの主導で流行そっちのけな形だけの自由参加だな。甘酒だけじゃなく白酒も出す予定だが物足りないって普通の酒盛りしそう。ベルは豊穣の女主人(リューとシル)に拉致されそうだが、まぁ甲斐性な。そろそろ増えてもおかしくないし。

 

「ですが、今からで間に合いますかね?」

「神なンざ暇してる連中しかいねーからすぐに飛び付いてくれるとは思うンだがなー。女神連中は【ファミリア】とはまた別の派閥があるからクソめンどい」

「心中、お察しします……」

 

いやホント、人間と変わらんからな。本質とか言って人から外れた風を装ってもやる事は覚悟決めて感情殺した人間の枠を逸脱できてないし。もっと想像も理解もできない漢字で書くと七つの母くらいハジケないと代替可能な没個性でしかねーわ。

でも最近はアレが下界に来る際の強制デバフなんじゃないかって思い始めたんよね。神の感情や性格があんな人間人間してたら億年生きる間に体験し尽くして全てに飽きてるだろ。つーか人間に興味持つ前のン億年は何して暇潰してたんだコイツらって話で、思いつく限りのありとあらゆる娯楽をやり尽くした後と考えれば今更そんな人間のスキル魔法ガチャやら偉業の違いで一喜一憂できるとは到底思えん。そうなるとメインは力を手離す方向で、無力を噛み締めて不自由にテンション上げてるから箸が転がってもおもしろい可能性?

いやまぁ確かにいつまでも眺めていられるって表現はあるけどさ。神の千年なんて人間の数時間にも満たない感覚だろうし、そこからすると雰囲気としては特定ジャンルのゲームをやり尽くし極め尽くした人が最新機種に移植されたゲームを懐かしんで買ってプレイする気分なんかもしれん。

あるいは千回遊べるダンジョンを千回で済まない回数遊んだり、実際に展開は複数の選択肢に絞られるくらい予想できてしまうラノベ群を予想通りな事を確認しつつも楽しむ感覚か。個人的にはゲームや漫画、ラノベといった作品を楽しむ目的の一つに、それこそ神と変わらない未知の知識に触れて学習する事があるので、展開が予想できても特に社会人経験のありそうな作者の業界知識が散見される作品は好物だったりする。あと叙述トリックの類は上手く騙してくれると非常に嬉しくなる。おのれ猫耳猫。

 

 

 

そんなわけでまずは商人連中を集めて説明会を開き、次に食品を取り扱う連中にも声を掛けて協力者を募っていく。こういうときはネームバリューがあると便利なもので、アタシが何かすると相応の金額と名声が連動して動くと確信した連中が即座に動いてくれるので実に善き。

 

とりあえず都市外は神が少なくて、風習として一種のオカルトに縋る場合も珍しくない。山岳信仰や獣の神格化、一番多いのは精霊信仰か? 知らんけど。

まぁ要は入り込む余地があるわけで、金の流れが生まれる。年に一度の行事としてちょっとした贅沢だとか、大人は白酒でガス抜きとかな。

ついでにこっそり雛人形を人形兵隊(ゴーレム)にしておけば防衛力にもなる。地上のモンスター相手ならLv.2もあれば戦力として通用するし、十五体あれば下手な【ファミリア】より上だ。手乗りサイズでも頭を吹き飛ばしたり胸を貫いたりくらいはできるし、足を潰すだけでも防衛は楽になる。

命令の書き換えとかは出来ないように仕込んでおくが、まぁ元村人が盗賊になって帰って来たのを説得しようとしたら人形に殺されて破談なんて事態は早々ねがべさ。

この場合の問題は、製造がアタシのワンオペになる部分だな。手間はともかく職人の稼ぎ口が奪われてしょんぼりさせてしまう。目的を考えると価格もだが、まぁ他の食料とかで利益上げてもらう形で。

いつの間にかオラリオだけじゃなく都市外にも広める流れになってるが、まぁいいよね。田舎でガラパゴス的な進化を遂げた謎行事になってもネタ的おいしいし。節分の恵方巻きみたいなもんよ。

 

で、話を聞いた商人や飲食店の反応は上々だった。レシピはバラ撒いたし、白酒は熟成がギリギリ間に合わんから今年は酒粕から作る甘酒で代用させよう。初回のインパクトは大事なんだが、甘酒で流行してもそれはそれで大人も子供も楽しめるんで売上的においしいからな。アルコール度数は気にスンナ。

酒粕は在庫が大量にあるしな……一番古いのだと三年前か。当時Lv.5から6で倉庫内時間は五十倍または六十倍の遅さだったから、まぁ消費期限的には余裕あるな。いけるいける。綺麗な色とりどりの綿毛が生えてたら捨てろって話だが。輸送用の乾燥剤入れた木箱でも用意してやるべきか?

 

そんな感じに各方面への連絡と準備は進み、オラリオの風習にひな祭りという新しい風が吹く事になった。風習だけに(冷風の通り抜ける音)。

と、当日の様子はかみんぐすーんってやつで一つ。




UA110kと思ってたら111kも超えてました。閲覧ありがとうございます。
お気に入りも450を超えてました。ありがてぇ、ありがてぇ。略しててぇてぇ。
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