そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
その日は、良く晴れていた。
「お姉ちゃん」
陽光を浴びて白く輝くウェディングドレスに身を包むリリの姿は、
「先生」
続いてアイズ。こちらは黒いゴシックドレスだった。なんだかんだ【ステイタス】に燦然と輝いているらしい【
つーかコレどっちかってーと喪服なのでは。え、アタシ死ぬの?
「う〜、ら、ラディ……?」
そしてアーニャ。一人だけ色気の欠片もない猫のキグルミ姿でのご登場である。柄は手足の先や口元、腹が綺麗に白いキジトラ。本人の顔は露出してるので涙目なのが確認でき、こう、罰ゲーム感が半端ない。
つーか場面と時期的に考えてテーマは結婚だろうに、何故キグルミ姿なのかと小一時間問い詰めたい。いやまぁ基本的にオチ担当なんだろうが。
いっそ白無垢を着せて意外性をアピールする案もありそうだが、むしろ白無垢はリリに似合うと思う。てか先日の事件から続いてるなら本場極東出身の春姫もいそうなもんだが……あ、隅で目を回して倒れてんな。ラッキースケベでも起きたか?
「「「私達、幸せになります」」」
まぁ、しかし、なんだ。感慨深いものがあるな。目に入れても痛くない最愛の実妹と、放っておけない系近所の妹分と、餌付けしたら懐いて来た捨て猫が新しい道へと踏み出して行く様子を見るのは。
だから、一つだけ言わせてもらいたい。
「どーしてアタシを拘束するンだよ台詞的にはテメーらがお嫁に行くから涙ながらに見送る立場だろうがよおいィ?」
コラ待て胴上げしながら運ぶな。わーっしょい、わーっしょいじゃねぇよ抑揚なく棒読みなのはなんでだ怖えーよ。だのに周囲は当たり前に笑顔で祝福してるしフラワーシャワーとかしてるんだが。どうしてこうなった。
それと申し訳ない気持ちでいっぱいになる話だが、おめでとうを連呼されると旧
まぁいうて生贄の如く運ばれるアタシはタキシード姿なわけだが。記憶はないが着替えてるって事は十分ノリノリだったんだろうなぁ。いやマジどうしてこうなった。
「そんなのおミャー以外に責任取れるやつがいねーからに決まってるニャ」
「諦めて下さい、お姉ちゃん。根回しは済んでます」
「あらやだ強か」
贔屓目もあるが全員美少女じゃん。引く手数多だろうに。いやまぁ第一級冒険者な時点で尻に敷かれるというか頭が上がらないというか釣り合う相手が限られて来るのは確かなわけだが。
だからって同性に走るのはどうなのかと声を大にして言いたい。言ったところで性転換薬や種族変更薬の入った容器を頬にぐりぐり押し付けられる未来しか見えんが。
半ばif世界線に片足突っ込んだギャグエピソードの産物が……過去が殺しに来てるぅ!」
「人生の墓場的な意味ですか?」
「サラッと心の中を読まないでくれるか愛しいリリ」
「途中から声に出てたニャ」
「おっふ」
なんてこった、気付かんかった。年取ると独り言が増えるってのと関係あるんかな。でも神連中はそんなんなってないよな……アイツらは精神年齢がいつまでもキッズだからか?
「先生」
「おン?」
「
「
「?」
あら可愛い。こいつはどうしてこんなにも小首を傾げるのが似合うのか。まるでわかってない表情ありきではあるんだが。
しかし新しい事に挑戦する事は精神的な成長に繋がり上位の【
つーかロキはどうしたんだ。独占欲から反対するのが仕事だろ。アリアは普通に祝福側に回ってるしな。どう足掻いても手遅れ感が半端ない。
ちなみに夢から覚めて向こうで原作既刊19巻まで読んだんで原作知識はバッチリ。17巻は……辛かった……けどその分だけ後の展開が輝くんだよ。なお漫画版は変わらず未履修なので抜けがある模様。
「ア゛イ゛ス゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!! 」
いたわ。かーむばーっくとか叫んでるわ。バベルの二十階くらいにぐるぐる巻きの逆さ吊り。
いつからあぁされてるのかは知らんが、ギャグじゃなかったら死んでてもおかしくないんよな。この世界がギャグじゃなかった時があったかと言われれば首を傾げるしかできんのが悲しい。
なお、当のアイズはそんなロキに小さく手を振って応えていた。無慈悲。
「――っていう夢を見たンだ」
「とこらがどっこい夢じゃありません」
「現実、です」
「これが現実ニャ」
「ウゾダドンドコドーン!」
夢オチが許されなかった、訴訟。そのまま半日かけてオラリオ一周して教会の地下に戻って来ただけで就寝や気絶を挟んだりはしてねぇ以上は当然なんだが。
「まァそれはいいとしてだな」
「逃げましたね」
黙らっしゃい。隙を見せたらそのまま捕食されそうなんだからしゃーないやん。
「そンで六月って何かイベントあったか?」
「メタすぎニャ」
「そう言えば聞いたことがあります」
「知っているのか雷で……愛しいリリ!?」
「はい。なんでも六月六日の六時六分六十六秒に儀式を行うと異世界への扉が開くのだとか」
「いせ、かい……?」
「こいつぁくせぇニャ。ガセのにおいがプンプンするニャ」
「いやまず六十六秒をスルーすンなよ」
それだと六時七分六秒だろ。あと六十六分じゃ駄目だったのか。そっちなら六月六日七時六分六秒と七が中心に来てシンメトリーを確保できる分だけ美しいと思う。アシンメトリーの美はワンポイントとかじゃないと敷居が高いねん。
しかも儀式の初めを合わせるのか、それとも終わりを合わせるのか、あるいは途中に含まれてるならどこでもいいのか、まるでわからんぞ。
「そして偶然にも明日が六月六日なのです」
「おぉー」
「偶然なら仕方ないニャ」
「うーむ、作為的」
「そして儀式の内容がこちらになります」
「どれどれ……こ、これは……!」
準備が良すぎるってツッコミは今更だろう。リリが渡してきた書類を眺めると、内容としては以下の通り。
①、傘を持ちます。
②、畑の前まで移動します。
③、傘を開き、重い物を持ち上げるように体を動かします。
④、③を繰り返します。
……夢だけど夢じゃなかったやつ! 夢だけど夢じゃなかったやつじゃねーか! 生きて(?)たのか!
「と、いうわけで、明日朝一番にお隣の倉庫の畑で実践しましょう」
「え、本気でやンの?」
どう考えても効果ないだろ。いやまぁ楽しそうな雰囲気に釣られて精霊のテンションが上がれば成長速度が爆上がりしてあの夜のシーンを再現できちまいそうなのが怖いが。朝六時だけど。
「やらない、の?」
「おミャーには失望したニャ」
「お姉ちゃん……」
「あーもうちくしょうやればいいンだろ、やれば!」
「「「イエーイ」」」
泣く子と地頭にゃ勝てん。それはわかっちゃいるんだ。それでも思うところがねぇわけじゃねぇのよ、うん。
「そンじゃ明日は朝早く起きれるように今日は早寝すっぞー」
「「「えー」」」
「横暴です! 初夜ですよ!?」
「そうニャ、一人最低三発はハッスルする権利を要求するニャ!」
「くんれん……」
しかしコイツら仲良いな。原作じゃ接点少ねぇ面子だし性格も全然違うのに。いやまぁ基本的な性格はこっちでも変わんしそれぞれキャラが違うわけだが。
あとは発言内容がもう少し淑女だったら言う事ないんだがなぁ……実際にはそれ以前の問題なんだが、そこはもう諦めた。外堀が埋まるどころか市壁を築かれて都市内への閉じ込め政策が完了してるんよ。なおアタシ自身はバベルで蓋をされたダンジョン相当な模様。解せぬ。
ちな、押し切られて性転換薬飲みました。察しろ。
「と、いうわけで儀式するぞー」
「「「「おー」」」でございます」
「テンション低いなー」
朝六時起きは朝練や朝食を用意してる冒険者としてはむしろ遅い方なんだが。いやまぁ現在は余裕を持たせて五時五十分なんだが。大して変わらんだろとは言っちゃいかん。
つーか春姫増えてっし。いつの間に予定を連絡してたんだ?
「ほれ、テメーらも好きな色と柄の傘を選べ。開いた傘がぶつからんように気をつけろよー」
と、いうわけで微妙に金ローで見たあのシーンを真似するワクワク感を抱えながら儀式を実践した。六時六分六十六秒までまだ十分以上ある事実に気付いてるのはアタシだけな気もするが、まぁ誤差だ誤差。
てなわけで端から見ると怪しすぎる儀式が幕を開けたわけだが……予想外の事態というものはいつだって起きる。
「何の光!?」
「これは……いけません、リリとした事が!」
「知っているのかリリ電!?」
「五時五十五分五十五秒の儀式について忘れていました!」
「ちくしょう六十六秒より正当性も正統性も高そうな意見を持ち出しやがって!」
つーかそっちは五月五日まで揃えて並べんでも良かったんだろうか。こどもの日イベントを優先した? なるほどなー。
「それで、どうなるの?」
「異世界の扉が開きます」
「変わンねーじゃねェか」
いやまぁゾロ目で数字をその個数分だけ並べるって法則が同じなら、結果も近くなるのは納得できるんだが。とはいえ数を増やすほどに難易度が上がるんだし、ボーナスの一つや二つはほしいところだよなぁ。
「はい、いいえ、繋がる先が変わります。六時の方は歴史も舞台も全く異なる世界ですが、五時の方はお手軽な分だけ舞台はほぼ同じな別の歴史と言った方が近い世界と繋がるのだとか」
なんて軍人っぽく返事したし。地味に混乱中か?
「そ、それってつまり……どういう事ニャ?」
「賢くてお淑やかで魔法中心に戦うアーニャ様や計算高くてぶりっ子で表向きは常に媚びっ媚びなアーニャ様がいる世界に繋がります」
「おぉ、やはりミャーの可能性は無限大なのニャ」
「ポジティブシンキングの権化かな?」
「アーニャ様らしくはありますね」
「……来る!」
何故か戦闘モードでシリアスなアイズの声が響くと同時に強烈な風が巻き起こり、腕を盾にしながら薄目を開けて様子を見ていると、土煙の向こうに無数の人影らしきものが見えた。
なおアイズは風をまとい、リリは魔力壁の
そして我らが
つーかまだその格好なのはなんでだ。夜は
「ふぉぉ、目が、目がぁ〜うニャー!」
『ここは……』
『パッと見は覚えがある景色だなァ?』
『誰か、いるよ?』
そうして現れたのは、聞いた事のある声と見覚えのある姿……ぶっちゃけアタシらだった。正確に言えば向こうのが人数は増えてるが。
「これはどういう事でしょうか?」
「それこそ六時六分六十六秒の儀式と繋がったンじゃねーの」
つまり約一時間後にアタシらも呼ばれる可能性があるわけで。いやしかしそうなるとあっちはどうやって帰るのかって話が出て来るな。六時の儀式でこっちが呼ばれて代わりにあっちが元の時間に戻るとか? 何えもんの話だよ。
『あー、まァ、なンだ。情報交換といこうじゃねーの』
「よござンす」
『『『!?』』』
「お姉ちゃん、無理にキャラを変える必要はないかと」
『『『!!?』』』
「デスヨネー」
なんて事を思いながら情報交換してたら、両者の差異を発見した。向こうのアタシは、生まれた時から男だったらしい。いやね、一人称が俺な時点でおやおやおやってなったわけよ。向こうはリリのお姉ちゃん呼びで早期に気づいたそうだが。ちょっと悔しい。
しかし、なんだ。大抗争の前に【
「苦労してるなー」
『女のままハーレム築くやつに言われたかねーンだが』
「悪ィが耳にバナナが詰まってて聞こえンな」
『fu◯k』
しかし実際問題として、ハーレムの相手があるんでアタシよりスケジュールがカツカツらしく、ハードモードなご様子。周囲の目があるからオッサンと姉御も助けられず、代わりに
しかも直接その単語を使うのは避けてるが、向こうにベルはいないか、いても埋もれてるようだ。まーアイズやリューがハーレム要員なら残当かね。ベルとしても略奪愛はハードル高かろう、ギリシャ神話じゃあるまいし。まー【ファミリア】探しの際に外見でロックオンされてるはずなアポロン派との
で、その事に向こうのアタシが気づいてからは完全に主導する形でオラリオを掻き回して引っ張って、今はちょうど
クリア後じゃねーのかよ道理でハーレム要員が少しばかり実力不足じゃねーのと思うわけだよ。つーか黒竜倒せんのかコイツら。バッドエンドルートだったりするなら夢見が悪ぃぞ。
ちな、
話を聞いてて自分の知らないところで強敵をこっそり狩ってた事を察したアイズから無言でつんつんされながらも続きを促せば、ベル不在の代償で『
自分に向かって言うのもなんだが、爆発しろ。
とりあえず
つーかこっちは最終盤のイベントをリリとエイジャで消化試合の如き速度と気軽さでサクサク進めて終わったしなぁ。途中でメレンに手を伸ばしたりソーマ派の拠点を新設したり孤児院テコ入れしたりで寄り道したし、学区の
で、奇跡のような邂逅だったが、問題の六時六分六十六秒が近づいて来たんで例の儀式を――向こうの面子にドン引きされながらも――敢行したら、無事に送還できた。
そして終わってから気づいた。
「あれ、リリの話だと今のって完全な異世界と繋がったわけだよな?」
「あ」
「……そうですね!」
「そーゆーのは黙ってるニャ。おかげで感動的な場面が台無しニャ」
「いやまァ確かにやっちまった以上はどうしようもねェがよォ。気持ち的に、こう、あるだろ?」
「別にないニャ。ミャーはこれ以上人数が増えて取り分が減るのは嫌だから記憶を消したいくらいニャ」
「なるほど……」
「確かに……」
わーお辛辣ぅ。でも確かにアストレア派丸ごとはねーわ。多分だけど向こうじゃ【
なお、午後一のタイミングで多次元急便なる活動次元がどう考えても上な事業者から宛先不明の荷物としてまとめて返品されてきたんで、午後五時五十五分五十五秒に合わせた儀式で今度こそ元の(と思われる)並行世界に送還した事を追記しておく。
六月の、珍しく良く晴れた二日間の出来事だった。
秒まで指定できないので六時六分六十六秒に投稿する野望は露と消えました。
人生の墓場に入ったけど特に関係は変わりそうにない件。その上で七月は浴衣とか水着とか。