そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
「海で巨大な怪物の影……ねェ」
「メレンに着いた商業系【ファミリア】が途中で見かけたらしいんだ。蛇みたいに細長かったって」
七夕を終えて数日後、ギルドに呼び出しを受けて帰って来たベルからそんな話を聞かされた。
「アクア・サーペント辺りじゃねェのか? いやまァ普通に脅威だがよ」
「最初は目撃者もそう思ったみたいなんだけど、影しか見えない時点で結構な深さにいるはずでしょ? なのに影だけで船よりも大きく見えたんだって」
「なるほどなァ。そりゃ不自然だわ。最悪を考えるなら……ベヒーモスを復活させたみてェにリヴァイアサンも、ってか。ノウハウ活かして劣化を抑えてる可能性もあるわァな」
元より海――水中は人間が住めない領域だが、この世界における海とはモンスターの支配領域である。
今でこそリヴァイアサンの死骸を埋め込んだ蓋で封をされてるが、約十五年前と最近の出来事でしかない。それまではダンジョン27階層にある滝壺の底から大量の水棲モンスターがメレンの
しかも場所的に元は下層のモンスターなわけで、ダンジョン外で繁殖した代償に魔石が小さくなり弱体化した今でも並の海洋生物よりは強い。ニョルズ派に犠牲者が出ている事から、上層並だとしてもダンジョンと遜色ない危険度だと推測できる。
そんなわけで、海路を渡るには頑丈な船や屈強な護衛が必須であり、その意味ではダンジョン以上の未知と冒険が待っている
裏を返せば、適当な島に隠れ潜めば滅多に見つからないので後ろ暗い研究や悪巧みをしてもバレない。なんなら水棲モンスターを
「そうだね。それに近頃は海のモンスターの様子もおかしいって【ポセイドン・ファミリア】からも報告が上がってるみたい」
そんな危険地帯を活動場所に定めて日々モンスターを狩っているのがポセイドン派だ。海の広さとモンスターの数や繁殖スピードを考えれば、国家系を上回る連合系とでも呼ぶべき規模で動かなければ焼け石に水な気もするが……やらないよりはずっとマシだろう。
現にリヴァイアサンの討伐前はメレンでモンスターの間引きを必死にやってくれてたっぽいからな。それがなかったらモンスターの密度が一番高くなるロログ湖の水産資源は枯渇してたに違いねぇのよ。
「ほォ? そンで? そンな話を持って来たテメーの魂胆は?」
「モンスターの様子がおかしい地域から、近くに怪しい島を割り出したから調査して欲しいってギルドから……」
「本音」
「可愛い女の子たちの水着姿が見たいです!!」
「素直で結構。どうせギルドからは
「うん、わかった。ありがとうジル姉!」
こうして複数の無人島を調査する事になり、ついでに海水浴も楽しもうって話になったわけだ。
面子としてはまず任務を受注したヘスティア派がメインで、そこに全員ではないがベルハーレムが追加。あとアタシとリリ。更には合計で四十人程度になるよう傘下派閥から希望者を募った。
予定では
でもってシルの護衛にフレイヤ派の幹部勢が名乗り出て内部闘争が起きたらしいが、最終的には船上戦闘を考慮して遠距離攻撃持ちが優先されたらしい。それだけを聞けばあの脳筋集団にあるまじきスマートさだが、恐らくはオラリオ有数の頭脳を持つ白エルフが自分をねじ込むために使った方便のが強いと思われ。
まぁ海と雷は好相性だし、例の置く雷撃は対象から数
「……まァ、遭難したがな!」
「
「
「「グワーッ!」」
はい、最初の島に向かう途中で突然の嵐により船が航行不能になりました。しかし幸運にも船体は無事なまま近くの無人島に流れ着いて、搭乗員も全員無事。ただし船は岩場に座礁して軽微ながらもダメージあり。持ち出しの食料とかも被害なしで、諦めて帰るほどじゃねぇのも幸運の内か。
調査を続けるためには船を修理する必要があるんで、ついでに強化も視野に入れながら、海に潜って沈没船から使えそうな金属類やお宝を探したりモンスターを狩ってドロップアイテムを集めよう。そんないかにもな季節イベントが開催された感じの状況なわけよ。実際はベルが水着の女の子とキャッキャウフフするイベントなんだろうが。今回はこっち側の面子リリと春姫しかおらんし。
うーむ、しかしこんな事ならギルドの側で用意した船じゃなく、自前で金属製の頑丈な艦船を造っておくべきだった。学区のある世界なんだし、多少時代を先取りしたところで上がいるから問題にはならんやろ。ちょっとビーム砲と弾道ミサイル積むくらいはするが。むしろ空路を、飛行船とか飛空艇とか、なんなら学区に対抗して超時空要塞をだな。資材的にも技術的にも世間体的にもちょっと無理だが。
つーかシミュレーターの初回報酬だった側のアリアも同行してんのにこれか。精霊はガチの自然現象相手じゃ意味ないのかね。さすがにわざと巻き込ませたとは思いたかねぇが、アタシの能力を把握した上で致命的にならないよう収めた感もあるんよ。神々やアルテミスが何も言わない以上は偶然であれ。切実に。決して打ち合わせ済じゃありませんように。
ぶっちゃけリリが平穏無事に暮らせる世界を目指してたから、黒竜を討伐してダンジョンの意思とも適度に殺し合うなぁなぁな関係に落ち着いた事で自分に課してた役目は済んだなーってまったり気分だったわ。一度は時間切れって明言された夢が続いてる点には物申したくもあるが。
さておき、船の修理自体は【
「つーわけだ。振り分けはそっちで決めてくれ」
「いいの?」
「待て。まだ安全が確保されたわけでもない。非戦闘員は待機、護衛も残すべきだろう」
「あー、ただ待ってるのも暇だろうし、魔力壁の
「いいだろう。こちらは請け負った……さて、愚兎。全力を持ってシル様を楽しませろ」
「はい、任せて下さい」
仲のいいこって。白同士で何か
とりま方針が決まったんで、軽く掃除をしてから魔力壁の
安全の確保された遊び場も作ったし、そのまま場所を移動して船の改修作業を開始する。
いうて乗り上げてる部分も穴が空いたわけじゃねぇから浸水してねぇし、修理って言ってもスキルで厚みを均等にする程度で済むんだわ。改造も船体に
「……あっさり終わったなー」
【
この後は島の内部に
いうて海岸にブルークラブはいたし、海からマーマンが襲撃して来たりはあった。魔力壁に阻まれてる間に処理されてたが。島中央部は山だし、それこそ大樹の迷宮と近い分布のモンスターがいそうなんだがな。
「調査に誘うべきか、もう少し遊ばせとくべきか」
船の上から見下ろせば、すっかり海水浴に夢中な参加者の姿。
オーダーメイドで作り上げた水着は水中での行動に補正が入る
あ、見た目はちゃんとセクシー路線からかわいらしいタイプまで個々の希望を叶えたぞ。シルの
うーむ、水着回なんだし、ベル視点ならさぞかし肌色が多く谷間やら腋やら臍やら桃げふんげふん腿やらの部位とシチュエーションに合わせたラッキースケベを合わせて破壊力の高い描写があったんだろうが……生憎とアタシ視点なんよね。
「……ありゃ?」
よく見たらミアハ派がいねぇな。薬草探しに山側へ向かったか?
まぁ連中は仮にもLv.4間近だし、
「つーわけで移動手段は復活したぞ。内装の一部は変更になったが居住区は変わりなしなんで使い心地は変わらンはずだ」
「えっと、それじゃ島の内部を探索する感じ?」
「まートラブル遭遇の上で移動疲れがあるだろうし、明日からでいいさ。ミアハ派が先行してるっぽいから話を聞いておきてェのもあるし」
「えぇと……僕たち思い切り遊んでたんだけど」
「性能試験だ、問題ねェさ。少なくとも拠点を建てて来るまでは遊ンどけ」
「わかった、気をつけてね」
そんな感じに恐縮するベルを女たちの元へ帰し、ちょうどいい感じの高台があったんで植生とかを調べて貴重な薬草とかが群生してない事を確認した後、軽く整地してから……ノリで作り置きしてあったコテージハウスを二つ繋げる形で設置した。一から作るとかめんどい事する気にならんし。
まぁ、そもそも拠点の作り置きとか頭おかしいのは認める。それでも一棟の収容人数が二十四人でベルハーレムを一部屋にまとめても一棟じゃ足りんかったのは悔しい。二階建てから三階建てに増築する手もあったが、まぁ後でだな。
しかし日がまだ高い内に準備を終えちまったな。海側はそれこそ復刻リヴァイアサンでも来ない限り安全だろうし、山側――ミアハ派の様子でも見に行くか。その後は洞窟やら地下湖やらがないかの調査を先行しつつ果物や山菜を探したい。動物はモンスターがいたら絶滅してそうだし期待できん。蟹や半魚人が陸に上がって来てたくらいだし、飛行できるモンスターが巣食ってる可能性もある。
「儲かりまっかー」
「何それ?」
「ナァーザよ、そういうときはぼちぼちでんなーと返すのだ」
「えぇ……?」
ミアハ派は比較的あっさり見つかった。何せ草を刈り枝を払いと道を作って歩いてたもんで後を追いやすかったし、作業しながらなもんで進行スピードも遅かったかんな。
「そンで? 成果としてはどうです?」
「貴重ではないが数種類の薬草が見つかっている。遠出する価値があるかは微妙だがな」
「ブルー・パピリオもいたけど、地上のモンスターはドロップアイテムを期待できないからね……」
「
蝶の中には海を渡る種もいるらしいし、モンスターなら飛行能力は高いはずだ。島の正確な位置はわからんが、うっすら大陸は見えてるから飛んで来れるだろう。それにダンジョン内の話だが、ブルー・パピリオは群れを作って移動する事もある。元がモンスターだけに襲われる機会は少なそうだし、そのまま辿り着いた先で繁殖して定着する可能性はありそうだ。
「
「いや、ダンジョンから取って来る方がずっと早いから」
「危険度も海を渡るこちらの方が高いぞ」
「……そうだね」
前向きなナァーザだったが、ダフネとミアハのごもっともすぎるツッコミコンボに尻尾が垂れ下がった。
「まァ、大陸にも似たような土地はあンだろ。つーかダンジョンがいつまで使えるかわかンねェからな。一部の神は約束の刻を待たずにダンジョンが暴走するとか口にしてたし、ウラノスに抑えられ続けて溜め込んできた千年分の反動なンざ受け止められるとは思わねェぞ」
「嫌な想像しないでくれる? 萎えるんだけど」
「ま、それもそうな。絶望する期間は
「あのねぇ……」
「だ、ダフネちゃん、構うと面白がるから流さないとダメだよ……!」
「おぉ、言うねぇ」
「ハハハ、すっかり打ち解けているな」
契約の内容とかはダンジョンの意思側が記録も記憶も失われててわからんままだが、モンスターが地上に進出して来た歴史からするに、現在のモンスターが出現階層付近でしか活動しないのは不自然極まりない。
原作の中層から上層まで階層を駆け上がる偉業を達成した
なのに地上を目指さないのは、神々の結んだ契約とやらに関係しているだろう事は想像に難くない。そうなると、満了になった場合、モンスターの大移動が始まるわけだ。
つーかバベルがダンジョンの蓋とか意味わからんのよな。抑止力として見るなら黒竜の鱗を集めて設置しとけばダンジョンの蓋としては十分だと思うんよ。でもって都市外にバベルの建築ができる量の資材を回して砦作れば地上のモンスターに対する防衛施設としてはかなり効果高いだろ。
まさかバベルに黒竜由来の部位が練り込まれてたりするんだろうか。それなら仮に塔が崩れても黒竜部位は無事だろうし、自爆テロ対策の一つもしないわけだ。いやマジで。
におい漏れを防止する加工を施した火炎石持ち数人で同時多発ヒャッハーとか防げるもんじゃねぇだろ。何年もうだつの上がらない冒険者やサポーターとして活動してて、バベル内部の端に集まって打ち合わせする習慣を付けていつものかって監視の目を外れて、ある日そっと懐で起爆スイッチオン。バベル住みの神々大量送還でキラッキラだろうな。なお
ウラノスの祈祷だってバベルの上じゃなくわざわざ距離を離したギルド本部からしてるって事は、アレが普段自然と垂れ流してる量だと検知されないけど力んだら検知される絶妙な距離なんだろうし。でもその割に原作じゃ内部で少量(?)の神威を敏感ダンジョンが検知して
でもってその少し後にイシュタルが地上で肉体の損傷をなかった事にする自動修復で『
話が逸れた。むしろ終わってた。離脱すんべ。
「ブルー・パピリオに関してはこっちでも調べてみるわ。日が傾く頃までには最初の海岸に戻っとけよ」
「いってらっしゃーい」
「気を付けてな」
で、ぐるっと見て回ったが特にこれといった収穫はなし。明日一日で探索したら切り上げて別の島だな。
その後は初日なんで定番のバーベキューで腹を満たしつつ部屋割りを決め、風呂はコテージに備え付けられてるんでそれぞれ女風呂と混浴に――男風呂にするはずだったのにシルが魅了まで使って意見を統一しやがったので――振り分け、食後は自由行動という事にして解散。
アタシは海に入らなかったんで、風呂や歯磨きの身嗜みを【
そして特に襲撃とか行方不明とか殺人とかの事件が起きる事もなく迎えた次の日。前日の内に軽く見回って危険はなかったんで、総動員して島の隅々まで探索したが、特に何も見つかりませんでしたとさ。漂着したのは何者かの
一応、島そのものがモンスターの可能性を考慮して時限爆弾をセットしてから島を離れる。幸いな事に昨夜は雲一つ無く、星の位置から島の位置を算出できたんよね。
そこから判明したんだが、流れ着いたのは当初の予定より一つ先の目的地だった。戻ると二度手間になるし、本来の一番手は帰りに寄る事にして三つ目の目的地へ……なんかフラグが立った気がしないでもないが、調査の旅は続くのであった。
ウェミダー言わせたかったけど遭難スタートで機会を失った悲しみ。原作読み終わったんでこつこつ書き始めてるHSDD側で言わせます(鋼の意志)。
一応、続きます。後半は二十日予定です。