そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
残念だったな。
「そんなわけで振替休日です」
「前触れもなくメタに走るのはいけません、お姉ちゃん」
「ぶっちゃけ16日の金曜日も休暇取って連休延ばしたい」
「誰もがお盆休みをもらえるわけではないんですよお姉ちゃん。しかも学生に至っては夏季休暇なので通じません。未知を予想するのは難しい事なのです」
「こんなに苦しいなら、悲しいなら……仕事などいらぬ!」
「お給料や信用まで投げ捨てる羽目になるんですが……あ、でもそんなお姉ちゃんを養ってリリに依存させるのはアリな気もします」
「オーケー愛しいリリ、アタシが悪かったから瞳のハイライトを消して包丁が似合いそうな笑顔を浮かべるのはやめようか」
『nice boat.っす』
『領域を離脱しました、作戦行動を中止します』
茶番を終えた事だし改めて現状を確認しよう。
エルフの聖地と呼ばれる霊峰アルヴ山脈を人の手に取り戻したとの宣言から二週間。別段エルフが威信をかけて集落を構え直したわけでもなし、そろそろ空白地帯となった事を察知して他所からモンスターが縄張り確保に動いてるだろうとの予測に基づきモンスターの再掃討が計画された。
具体的には例の如く
『進行ルート付近を除く周囲30
「ご苦労、ルビス」
はい、というわけで依頼ほぼ達成。後はシルの「ベルさんのかっこいいところが見たいです!」って要望に応える形で残党を探して壊滅すればいいだけの自由時間みたいなもんなんで、景観を楽しみイチャイチャしつつ頂上を目指すが良い。
まー地上のモンスターとか古代から生き続けてる老害以外は第二級冒険者が無双できる強さだし、基本的に群れて暮らしてるんで魔力探知とかいう謎技術を開発運用してるルビスがLv.4相当の
一般人並の身体能力しか持ち合わせていない神様勢の体力に合わせてこまめに休憩を挟みつつ、雑談したり植生を確かめたりキャーベルサーンしながらも前回の時点で【
「そう言えばラジルカさん、変なモンスターが出たのってどの辺りなんですか?」
珍しい事に、こういったタイミングではベルとの時間を優先させるはずのシルが近づいてきた。いやまぁベルを伴ってではあるが。服だけ溶かすスライムを警戒してる感じか? まぁ、今回は白黒エルフを筆頭にベル以外の男性も多いしな。生き残りがいたら不意に溶かされる危険はある。流石にフルアーマー良質街娘なんつーもんをロールアウトするわけにもいかんし……魔力壁の
「もう少し先のはずだが、アタシは別行動してて途中から合流した口だからな。本隊に同行してたリリのが詳しいンじゃねェか?」
合流時にはリリとアイズ達がヒャッハーしてたしなぁ。詳細も聞き出してねぇし、ようわからん。
「はい、ここから神ロキのペースで一時間ほど歩いた辺りですね。特に目印のない緩やかな傾斜の原っぱがありまして、特に隠れたりする事もなく割とのんびり過ごしているように見えました」
「へぇ〜」
そんなわけでリリが語り始めたのだが……なんか渋い表情になってんな?
「それを見たエルフの方々が魔法で一掃しようとしたのですが、魔法が通じないので無傷のまま吹き飛ばされた個体が何体かこちらの集団に来まして。偶然キャッチしたとあるエルフが体液の犠牲になった事でその危険性が判明したのです」
遠い目をするリリ。まぁ単なる魔法無効化のみの殺意マシマシウーズだったら余裕で体内に潜り込まれ溶かされる凄惨な殺され方をしてただろうしな。ぶっちゃけ連中の厄介さは体質で、
しかしそんな洒落にならんが愉快な遭遇だったとは、見抜けなかった、この節穴アイをもってしても。
「それは……でも、亡くなられた方がいなかったのは何よりですよね」
「……報告には載せてませんが、実はパニックに陥ったエルフが魔法で同士討ちしかけたんです。とっさに神ロキを担いで混乱する集団を抜け出さなければ眷族の魔法で神ロキは送還、そのまま【ロキ・ファミリア】も『
「ほ〜ォ? そりゃちょっと後でロキに話を聞く必要が出てきたなァ?」
リリが機転を利かせなきゃ最悪
「ですが少なくともリリは対策法を持っていますし、前回の遭遇分は全滅させましたから……」
そんな風に話を締めたリリだったが、そこへ恐ろしいほどぴったりなタイミングで、件のモンスターが飛んできた。軌道的にはシル一直線。
「あ」
「ピェ」
「シルさんっ!」
リリは当時を思い出して若干気もそぞろになっていたのだろう。聞いてたアタシらもそれぞれ考え事してて注意が散っていた事実は否めない。
それでも次の瞬間にはシルを抱え込むようにしてベルが庇った事で守り抜いたが。だがその代償に、ベルの肩にはべちゃりと音を立てて例のウーズ――リリ命名スライムベルが乗っかってしまった。
ベル×ベルとか腐の集いが盛り上がる流れだなーなんつー頭悪い事を考えながら含み針を吹いてモンスターの魔石を砕いたが、
「シル様!」
「ご無事で……よくやったぞ愚兎」
そこへ推定犯人グループの一員な白黒エルフが駆けつけるも、衣類は無事。しかし真っ先に駆けつけるだろう猪と猫がいないのは不自然だな?
「シルさん、泣かないで下さい」
んーと……あ、猫は妹を守ったのか。シスコンの本懐遂げてんじゃん。ナイスセーブ。槍は構えてるが衣類へのダメージは小さく穴があいてるくらい。風車で水滴を弾いた系か?
「だってベルさん……服が!」
この感じだと残る【
「安いもんです、服の一枚くらい……無事で良かった」
ところでなんでアイツら『腕が』ごっこしてるん? 確かワンピは再現してねぇはずなんだが。むしろアタシが続き読みてぇ。象の辺りまでしか読んでなかったんだよな。
「ところで何がどうなってンだ?」
騒動の原因を問えば、白黒エルフは気まずそうな表情を浮かべながら見つめ合い視線で会話をすると、小さく頷いてから話し始めた。
まぁ、まとめるとフレイヤお手製の弁当を貪り食ってたフレイヤ派男性陣がスライムベルの奇襲を受けて衣類を溶かされ、慌てて武器を手に応戦したらなんと硬化して攻撃を耐えた個体が混じってたんだそうな。で、ソイツに【
ちなみに硬化して耐えた個体は見事に潰れて死んだらしいが、飛び散った体液の被害で周囲は騒然。真近にいた【
「なるほど、つまりこうだ……今回は女性向けに男性陣があられもない姿を大放出するサービス回」
「お前は何を言っているんだ」
「ジル姉ェ……」
「今までに見た事のないキメ顔でしたね」
うん、自分でも頭悪い事を考えてるなーとは思う。アレか、標高の高さから前回の時点で酸素欠乏症になって後遺症が……的な。夏の暑さで脳が茹だったのもありそうだが。だがここは勢いで乗り切るべきだ(錯乱)。
「アタシは至って真面目に考えたンだが」
結果のみを語り詳しい描写を避ける事で逆に理想的な半裸集団のアレやコレやを想像しやすいようにという配慮をだな。決して野郎の裸をつらつらと描写する気にならねぇとかそんな事は決して。いやだからって逆にノリノリで書いたはいいが読み直したらドン引きしてカットしたとかそのような事実があったかは全く記憶にございません。おかげで文字数足りねぇの。そんな毒電波。
「使い物にならなそうなお姉ちゃんはさておき、向こうでオッタル様が孤軍奮闘なさっているようです。誰か男性の方に新しい服を渡しに行って欲しいのですが……」
【悲報】アタシ氏、最愛の妹に産廃認定される【残当】
「例のモンスターが溶かすのは植物や動物の繊維で金属は効果がない、そうだな?」
「少なくとも前回のリリたちが討伐した時点ではそうでした」
「進化、あるいは別種の可能性もあるか。だが検証の意味も込めて今回も倣うべきだろうな」
白エルフの懸念は当たっているんじゃなかろうか。少なくとも前回は硬化して耐える個体なんていなかっただろうし……リリが担当した場合は誤差にしかならなくて気づかれもしなかった可能性はあるが。
「はい。つまり出番です、ガリバー兄弟の皆様!」
「汚れ役かぁ……」
「まぁ猪の服が溶けたところでな」
「獣は元から服を着ないしな」
「最近は
そしてまた都合の良い事に、普段から全身鎧で武装する
まぁ、本人たちも出番がもらえて嬉しいのか忌避感は薄くて割と乗り気っぽいし。大浴場は頑張って地下にスペースごと作った。元は
「と、いうわけだ」
「持って行ってやるから」
「服を出せ」
「俺の台詞が残ってない!?」
「「「真面目な場面だぞふざけるんじゃないアルフリッグ」」」
「畜生〜ッ!!」
おーおー嬉しそうにはしゃいじゃって。でもコイツら年齢的にはアラサーというか三十路目前なんだよな。まぁ男はいつまでも子供っぽいとは当の男性が語るくらいだし、気にする部分でもねーか。極論、コイツらが大人でも子供でも大して変わらんし。
「む、なんか失礼な事を考えてるな?」
「気のせいだろ。ほれ、下着と肌着、あと溶解液対策にアタシの
前回の時点で試してみたら生体判定で無効化してたからな。むしろ体液を吸収して糧にしてたし。強い。
「なにそれ欲しい」
「兄弟の分いらんから俺だけ欲しい」
「それを言うなら俺だって」
「え、じゃあ俺も」
「「「ノー、ノー、ノー」」」
「そこはどうぞどうぞどうぞだろぉが!」
「いいから受け取れや」
「あ、うん、ごめんな。じゃあ行って来ます」
こうして唯一非常にデリケートな格好になってしまった男が原状復帰可能な姿になったので、ハイキングが再開された。
なお、この後もめっちゃ大量にスライムベルが発生してる場面に遭遇した。それも多種多様な進化を果たした亜種のバーゲンセールで、毎回服を溶かされるメンバーが出る大激戦。最終的に下着だけでもなんとかならんかって話になったんで金属製の男物パンツを大量生産する羽目になり、アタシは病んだ。
「つーわけだ。まーそンだけ大量に発見されたって事は、まだ何か根本的な原因を解決する必要がありそうだって話になったンで、準備をちゃんと済ませた後で改めて調査しねェいとな」
「ふむ、前回のアレが氷山の一角とはな……頭の痛い話だ」
オラリオに戻って来たんで
「しかしアレだな、生命の危険が少ないのもまた問題と言えば問題か。目撃者が触れ回ったらヤバくねェか?」
「それに関しては他方から流れてきたモンスターだと説明できるので問題はあるまい。むしろ連中も誇り高い種族だと言うのなら自ら試行錯誤して倒す術を編み出すくらいの苦労や貢献はするべきだ」
あら厳しい意見。必要なのは同意だが。
「へェ? 為政者としての方向性が固まったか?」
「さて、な。ともあれ苦労をかけた。報酬はそちらの希望通りロキの貸出で頼む」
「あい、あい。また何かありましたらご贔屓に」
まぁ、リヴェリアの選択で変わるかどうかはさておき、エルフの行く末とかどうでもいいしな。とりあえず今回の旅行も楽しく終わって良かったね、って話にまとまるんだわ。