そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

199 / 202
Ex24.クソシナリオ走らせました。救済下さい。

「遠路はるばる、よーこそオラリオへ」

 

ギルド協賛の月見イベントが無事に終わったんで、迎えに来てくれたリリを伴い教会へ帰宅。そしてお客様へ挨拶。

 

「オラリオは……恐ろしい所だな」

「さすがの私も面食らったぞ。黒竜は討たれてもまだ大穴が残っているだろうに」

「まァ、エッピィのショック療法にはなったろ」

「誰がエッピィだ」

 

エピメテウス。前世の神話じゃプロメテウスの兄弟神で、プロメテウスの犯した罪のとばっちりによりパンドラの箱で有名な最初の女(パンドラ)を妻に迎える数奇な運命を辿った存在だ。能力を他の兄弟に奪われたとかの少々純朴(おばか)すぎる逸話もあるが、大洪水を生き延びてる上にギリシャ人にとって直系の祖に相当するから、下手な神々よりよほど勝ち組な神と言える。

それはそれとして、このダンまち世界ではアルゴノゥトの出現よりも前の古代から活躍する人物で、天界のプロメテウスが下界へ向かってシュートした原初の火との交信器にもなっている神創武器『炎鷲の嘴(エトン)』を手にした男だ。そんで責任感が強すぎて周囲に殺された都合の良い人(えいゆうさま)の見本みてぇな堅物でもある。

原初の火、あるいは天の炎と呼ばれている神授物(アーティファクト)の影響で三千年経った今でも若く溌剌とした青年の姿を取っちゃいるが、少し前まで中身は一度擦り切れて諦観やら復讐心やら力ある者の責務やらでぐっちゃぐっちゃになってた。

そんでリリにボコされベルに説得されアタシに改造された事で今ではすっかり真人間に更生したんだが……その結果が今の(バニー)姿かと思うと、いっそ解放(ころ)してやった方が良かったのではと考えを改めそうになるな。

そう、この男。現在もバニーガールのコスプレをしている。元ネタを超越した筋肉モリモリマッチョマンの変態状態なのである。大英雄は格が違った。なんで平気なん?

あと炎の恩恵なのか、無駄毛/Zeroだったりする。細かい傷跡とかは残ってるんでつるつるお肌とは言えないのが惜しい。

 

「ちなみにこの祭はアタシ主導で企画したが、バニー姿は神々のノリに合わせた悪戯みてェなもンだからな?」

「……そうか。着心地は悪くないが扇情的すぎて羞恥心を煽るのが難点だと思っていたが……なるほど、悪戯か」

「ちくしょう全く動じてやがらねェぞコイツ」

 

最悪この場で(エトン)限界解除(リミット・オフ)もあるかと身構えてたら、華麗にスルーされた。おのれ助平心を喪失して久しい三千歳超えおじいちゃんめ。まさか感情まで焼けて壊死したんじゃねぇよな?

 

「私は楽しいぞ? 思わず跳ねたくなるな」

『私もです』

「そりゃ用意した甲斐があるってもンだ」

 

そう答えたプロメテウスは金色でラメ入のバニー姿で、パンドラは上から下まで赤バニーだ。誰が用意したんだ金ラメとか。話からすればタイミング的にはガネーシャ派から手渡されたか? ガネーシャなら仕方ない。あの神はやる。地味にオープンスケベだし。

多分【象神の杖(アンクーシャ)】辺りに着せようとして蹴られてる。なお見回りしていたガネーシャ派はバニー姿で、スタンダードな黒バニーが主流だった事を補足しておく。地味にアタシの命も危うい気がしてきた。

 

「それで、今回はダンジョン攻略していくのか?」

「まぁ、本腰入れるには拠点がないのでな。街の下見と観光だ」

「ほォ、なら祭と被ったのは良かったンかね?」

 

エピメテウスとしちゃ後出しの漆黒モンスターで盤面をひっくり返された以上、大穴への恨みや憎しみは大きいだろうしなぁ。いうてオリンピアの一件で吹っ切れた部分もあるか。どうせなら自分が繋いだ未来の世界を見て回る旅をしてからでも良いとは思うんよね。十年二十年なんざ三千年からしたら誤差だろ。

プロメテウスはそれを晴らしてやりたくもあり、復讐に囚われてはほしくない感じもあるか。長生きしすぎたし休ませたいとは思ってそうだが、それはある意味でプロメテウス自身の責任から逃げる行為にもなるからな。家族の魂が天界で待ってるかは神の仕事次第だから微妙だが、この千年は神時代で多少遅れが出てるしベル達の世代が今に集中してる以上は転生済でもおかしくはねぇのよな。

 

「ところで一つ頼みがある」

「頼み?」

 

はて、エピメテウスの頼みとな。オラリオでの活動拠点を紹介しろとかだろうか。空き部屋があるから教会(ここ)の賃貸もできるが。料理の味付けとかはあるか。それでも下手な宿よりは融通きくはず。

 

「ほれ、なにやら精度の高い幻を見せるというあれよ」

 

違ったわ。恥っず。つーかプロメテウスも知ってる話なのか。話し合えてるようで何よりなこったぁな。

言ってるのは多分シミュレーターの事だよな。しかしまぁ的を得てるが、幻とも言えんのよな。報酬持ち帰れる不思議仕様で無から有を生み出してるまである代物だし。

 

「あァ、シミュレーターか。仮初のでも黒竜に挑んでみる感じか?」

「そうだな。未練というわけでもないが、どれだけ高い壁だったのか確認しておきたい」

 

うーむ、真面目。だがわからなくもない。こじらせてる頃に拳を振り上げようとしてるところでリリが黒竜討伐しちゃったから最大の目標を失ったみたいだし。

その後はエピメテウスこそ抜け殻に近かったが、穢れた天の炎は限界が来てるから浄化の必要はあって、ヘスティアが呼ばれて一悶着した。

まさか穢れた炎も概念系遠心分離機で穢れ成分だけ分離させられるとは夢にも思わんかっただろうし、穢れが形をなして祟り神じみたラスボスに成り上がったと思ったらサブカル汚染されたベル達に展開をメタ読みされててヘスティア派総出の元気玉みたいな協力技で出落ちするとはやはり思わんかったろうなぁ。

神のやらかしだからって抱えんで事前に相談してきたヘスティアはマジお手柄だったと思う。実はアタシが神扱いで責任の分散を狙ったとは思いたくない。

あ、ラスボス後のエピローグイベントっぽくエピメテウスが最後の英雄の実力を見たいって挑んできたらしいが、リリに完封負けしたそうな。その場で黒竜との比較をされて心を折られ、しかしベルがゼウス著の物語を読んだ感想で支え、オッサンと姉御の感謝で持ち直してた。

あとは数日後に遅刻したアタシが浄化済の天の炎を検分して、いつも通り【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】をドン。

 

おめでとう! 天の炎は女の子(パンドラ)になった!

 

エピメテウスは宇宙を背負ってたしプロメテウスはエネル顔してたらしいけど、アタシは親指立てながらビーズクッションに沈んでったから見てないんよね。まぁ精神疲弊(マインドダウン)程度でデミ・アルカナムと呼べるおそらくは上位の神授物に干渉できるのが判明したんで結果には満足よ。

現在のパンドラは上位精霊の更に上で、名付けるなら亜神といった存在だ。神時代史上初と思われる未知なんで、プロメテウスは内心喜んでるに違いない。

それをこねこねした【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】も亜神相当になるんだろうか。それの所持者なアタシの扱い? おん?

ちな、パンドラの性格はエピメテウスのアニマを参考にして学習機能をオンにしたもの。かつての奥さんや娘さんの影響もあるかもしれんが、おおよそ優しく責任感があり、ちょっぴり見栄っ張りで意固地になりやすい。一言で表せば、委員長タイプだな。

 

「まァ、別に構わンぞ。だが動きの確認をしてからだな。人によっては違和感を覚えて本領を発揮できないとかの場合も確認してる」

「わかった。ではまず試験か訓練のようなものを頼む」

「りょーかい。ちょうどいいのがあるから体験してみてくれ」

 

こうしてエピメテウスはシミュレーターを経験することになった。今回はオペレーターの側でミッションを選択する事になり、アタシが選んだのは……これだ。

 

 

『童話:エピ太郎 朗読:能登げふんげふん

「おい、なんだこれは」

 

初手から質問が飛んでくるが、この時点では無視しておく。なんだと言われてもなんだろうと返すしかない事実を隠すためにも。

いやね、本来の目的はエピメテウスの名誉を回復する事なんよ。炎剣を引き抜いて当時の絶望的な状況にあった地上で唯一モンスターを殲滅できる火力を得た存在になり、実際に人類の救済ができるか体験してもらう事で現代の人々が嘲り蔑む愚物の実像を知り思い直させるわけだ。

神の恩恵(ファルナ)』を持たない事で戦えと言われないよう周囲の人間相手に無力アピールをするようなゴミカス余裕ある人類には響かんかもしれんが、モンスター相手にしのぎを削る冒険者なら一向に減らないモンスターや休みなく次々と課せられる出撃にこんなの正気じゃねぇ、無理だ、コイツすげぇよ。となってくれるだろう。

特に目標は達成してるのに救いきれなかった命の関係者から攻められ罵倒されるシナリオは、こんな連中は見捨てちまいてぇなぁと思わせてくれる事請け合い。ちゃんとその場で一般人殺害できるし、そのまま暴君になるルートもあるから安心して欲しい。人類滅亡エンドになるけど。

 

『昔、昔のそのまた昔。あるところに一人の男がおったそうな』

「おい!」

『ある日のこと、神官だった男がアクロの丘で祈りを捧げていると、空から光る何かが落ちてきおった』

「人の半生を何だと思って……ん?」

『選択肢:A.このまま祈りを捧げる。B.危険なので退避する』

「……Aで」

 

基本的に特定ルートに入るまでのシナリオは一本道なんで、こんな感じに選択肢で彩りを添えてある。何しろリアルの人生は一度きりだ。仮想現実を謳うならやり直しやIF(もしも)は必須だろう。

 

『男は動じる事なく祈りを捧げ続け……空から降ってきた炎の剣に貫かれて死んでしもうたそうな』

「はぁ!?」

 

叫ぶエピメテウス。気持ちはわかるぞ、うん。

実はこれ、気が付いたらAIが随所に仕込んでた数あるクソイベの一つだ。仮想であっても現実であり、現実とは時に理不尽な偶然を起こすものだという、微妙に反論しにくい理論を展開されたんで消せなかったんよね。許せカツオ。

 

『しかし炎の剣が落下した衝撃で辺りは大きな大きなクレーターができとったのじゃから、逃げても無駄だと悟っておったのかもしれぬ。動じなかった男の胆力を褒めるべきだと、天界から見ていた神様は思ったそうな』

「いや、いやいやいや……責任者ー!」

 

キャラ崩壊著しいエピメテウスの叫びが響き渡る中、中継されてるプレイ画面には黒背景に赤くYOU DIEDの文字が浮かんでいる。そして画面を眺めていたプロメテウスは目を点にして口を半開きにし、髪の毛が数本飛び出したり丸まったりしてた。

見たい光景が見られたので個人的には満足です!

 

「あい、あい。呼ンだか?」

「貴様、あれは一体なんだ!?」

 

なおも憤るエピメテウスに対して、外部からオペレートするための機能を使って返事をすれば、まぁ予想通りの質問が飛んできた。つーわけでアタシも受けた説明をそのまま流用させてもらう。

 

「ランダムで発生する強制バッドエンドイベントだな。開幕だからギリギリ許される発生確率脅威の15%を誇るクソ仕様だ」

「馬鹿者! どうしてそんなものを入れた! 言え! 何故だ!」

「シナリオ生成AIが現実はどうしようもなく理不尽に溢れてるって言って聞かねェのよ。まー今後の展開される理不尽でプレイヤーが心を病む可能性もあるから、アホらしい出来事で耐性付けに使えるかと見逃したのはアタシだ。開始直後だしコンテニューは受け付けてンぞ」

「えぇい微妙に反論できん理屈を!」

 

そう言って、エピメテウスはシミュレーターに向き直った。投げ出さない辺り、真面目だよなぁ。

 

『昔々(中略)ある日、男が祈りを捧げようと丘に向かうと、そこに炎の柱のようなものが立って燃え盛っているではないか』

「これは創作、これは創作。過去と違っても文句は言わない……」

 

「エピメテウス……」

「飲み込みが早いですね。さすがは古の大英雄」

 

凄まじい精神力でツッコミを自制するエピメテウス。これにはプロメテウスも涙がホロリ。

で、今回は炎の柱の前に何故かある立て札には「勇気ある者は炎の中から剣を取り出してみよう(意訳)」って挑戦的なメッセージが書かれてあり、そうするかしないかの選択肢が出てきた。

エピメテウスは皺の寄った眉間を揉み解し、プロメテウスはあんな手の込んだ意地悪などしていないと憤り抗議してきた。もちろんアタシは無視した。

そして、最終的に男は勇気を示す道を選んだ。炎へ手を伸ばす男。そして――

 

『ボタンを交互に連打しろ!』

「は?」

 

唐突なメッセージと二つのボタンが表示され、ミニゲームが始まる。それを見たプロメテウスは、飲んでいたお茶を吹き出し、宙に綺麗な虹を描いていた。

しかし、うーむ、ミニゲームは最速タイミングでもモンスター相手のチュートリアル戦闘で、コンテニューする際に難易度を下げる選択を何度も続ける事で導入されるはずなんだが。デバッグ後に追加されてるとか、もうAI使わん方が良い気がする(手遅れ)。

なお、ゲームなどした事のないエピメテウスは呆気に取られ、指示の内容も理解していないようだった。そして無常にもタイムアップ。

 

『男は炎へ手を差し入れ、剣の柄らしきものを握り、しかし腕を焼く炎の熱さと痛みに耐えかねて手を離して腕を引き抜いてしまった。不思議な事に火傷は一切なかったが、再度挑戦しようと視線を炎に向けると、炎に映る剣の影が崩れていく光景が見えた……GAME OVER

「……責任者、説明を」

 

今、私は冷静さを欠こうとしていますと言わんばかりの押し殺した表情で天を仰ぎ見るエピメテウス。感情コントロールもバッチリやん。もっとも、我慢強すぎて溜め込みに溜め込んでから爆発した結果がアレなわけだが。

 

「特定イベントではミニゲームが始まる事もある。指示に従って条件を満たすと先に進めるぞ」

「つまり今後もこのように変な要素が詰まっていると?」

「……まァ、そうなる」

 

微妙に気まずい思いを抱えながら肯定すれば、エピメテウスはそっと目を閉じ、かすかに微笑んで、コンテニューではない選択肢――即ち、ギブアップを選択したのだった……動きの確認してねぇな。まだやる気が残ってるなら次は普通に戦闘系のミッションにしよう。

つーか今更だが英語通じるんな? もしかして古代って天界訛りも結構な割合で混ざってた?

 

「お疲れ様です。こちら、気分の落ち着くハーブティーになります」

『はい、どーぞ』

「頂こう」

 

シミュレーターから出てきたエピメテウスは、リリに連れられたパンドラの差し出したハーブティー入りの紙コップを受け取り、一気にあおった。

シミュレーション中、パンドラは無言だが鼻息荒く見守っていて、しかし段々と熱を帯びていた。そこで、リリが気を利かせてシミュレーションを終えたエピメテウスへの労いにとお茶を用意する手伝いを頼んだようだ。さすリリ。

 

「馳走になった」

『私が淹れたんだよ! 凄いでしょ?』

「あぁ、驚いた。上手いものだな」

『えへ……ふ、ふふーん! 当然だもん!』

 

尊い(尊い)。そんな心が一つになる出来事を経て、エピメテウスはとても穏やかな顔と声でこちらに言った。

 

「体を動かしたいが、場所はあるか?」

「地下に訓練場がある。炎なしでも問題ねェか?」

「あぁ。ここ最近は改めて体の動かし方を確認している最中だからな」

 

それはつまりモンスター相手の炎頼りに大雑把で済ませてた技術が補強されて手が付けられなくなってるって意味なんだが。

それに英雄がぼちぼち生まれては消えてった時代の移り変わりで失伝した古の格闘技術を持ってるから、たまに予想外の動きをしてやり(にき)ぃのなんの。オマケに『神の恩恵(ファルナ)』なしの素で鍛えられた肉体な分だけ信号の伝達速度にラグがないのか、冒険者より明らかに速いんだよなぁ。単純な戦闘経験の積み重ねによる反射まで高まった動作なのかもしらんが。

一応、こっちがLv.8で向こうはLv.7相当なんでスペック上はこっちが上。だが発揮できる割合を考えたらこっちが100%だとしても向こうは120%とかなんだわ。おのれ自前マッチョ。

いっそキレ散らかしてくれた方が楽なんだが、怒りのスーパーモードじゃなく明鏡止水の境地になってんのも辛い。デコイ(ベル)も帰らんし、大人しくいい訓練だと前向きに受け止めるしかねぇな。

 

このあと滅茶苦茶ボコられた。




秋分の日は彼岸の中日で墓参りネタだとエレジアと被るしネタにはならんかったよね。いやまぁエレジアそのものを扱うしんみり話でも別に良かったのかもだけど。でも架空の知人を悼む話を考えたら架空の親戚殺して休暇取る話が頭から離れなくなって困ったので投げ捨てました。

追記:合計UA170kとお気に入り750達成。ありがとうございます。それと次で200話ですってよ奥さん。特にネタがないとハロウィーンになっちゃうんですが、さてはて。
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