そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
自分が戦犯候補だと結論が出た翌日。早速親父に連れられてダンジョンへと向かった。
普通であれば6歳児を連れてダンジョンに向かうなんてのは見咎められても不思議はないが、そこはファンタジー世界。パルゥムという種族は成人でも背格好が大して変わらないので、子供であってもスルーされがちだ。
アタシからすらば都合の良い事この上ないが、逆にそれを利用する形――ヒューマンの子供に種族を詐称させて労働させる輩がいたりもするので一長一短という奴なのだろう。
思ったんだけど、これ年齢不明で通して冒険者登録すれば良くね? ダメ? そう……。
子供の足では長い距離を進み、ようやく洞窟内部といった景色のダンジョン一層に到着した。
「空気が変わったな」
「あぁ、これがダンジョンだ……む、見なさいラジルカ」
「ありゃあ……ゴブリンか」
どうやら先人は道中を急いで進んだらしく、最弱の呼び声高いモンスター、ゴブリンが一匹で通路をうろうろしている。緑色の肌を持ち、小太り体型をした小鬼。いかにもな雑魚感が溢れているのに、あんなのでも恩恵なしなら鍛えた兵士でもなければ余裕で負けそうになるんだから、ダンジョンは魔境だ。
「……ハァッ!」
「グギャァァァ!?」
それを見た親父は素早く駆け出して、手にした槍でゴブリンの胸を突く。深々と鉄の穂先を突き入れられたゴブリンは悲鳴を上げて、何とそのまま暴れ出した。
まだ死なないのか、あの状態で動けるのか、と感心と驚愕で動けないアタシとは逆に、親父はすぐに槍を手放し後ろに下がると腰から短剣を抜いて様子を伺う。
正直、その判断ができた親父にも驚きを隠せなかった。どこぞの【勇者】に憧れていると言ってはいたものの、何年も梲が上がらないLv.1サポーターをしていたのが親父なので、てっきり戦闘経験は無きに等しいと思っていた。
ゴブリンは背中から槍を生やした状態でも親父を追おうとして足を踏み出したが、力が入らなかったのかそのまま倒れ込み、親父を睨み付けながら手足をばたつかせた後で動かなくなった。
「よく覚えておくんだ、ラジルカ。これがダンジョンだ。最弱のゴブリンですら、こちらを殺すために限界を超えて来ないとも限らない」
「……りょーかい。油断はしねェ」
たかが最弱のモンスター一匹を倒しただけ。他の冒険者なら鼻唄混じりに、戦いの意識すらなく屠る様な雑魚だ。それでも親父の声は真剣だった。
事実、ダンジョンへの、モンスターへの認識が甘かったと言わざるを得なかった。あるいは非力なパルゥムの悲哀なのか知らんが、探索開始早々に冷や水を浴びせられたのは間違いない。もちろん、手遅れにならない内に是正できたので幸運だったと思うべきだろう。
「これが『魔石』か」
死体となったゴブリンの胸部を切り開き、核である『魔石』を取り出す。こちらは手本なしに指導を受けながらアタシ自身の手で行った。
ファンタジー世界によっては亜人扱いな存在の体内を暴いているという認識や血の臭いは中々にきつかったが、これから何千何万と繰り返す事になるはずの作業だ。その内に慣れる事を期待したい。
魔石を失った死体は色を失い崩れていき、やがて灰となって消えていった。その光景に無情感を覚えたが、これから何千何万と(ry
「では次だ。一体ずつ現れるとは限らないからね」
その後は半日がかりで2層まで行ってダンジョンリザードを試してから戻って来た。
親父は油断なくゴブリンとコボルトを仕留めていき、アタシはひたすら死体を切り開いては魔石を引っこ抜いた。成果は欠片のような魔石が袋一杯に、ドロップアイテムは無し。こうして見ると
そんな感じで初日を終えたが、本日の稼ぎは1800ヴァリス。内訳は不明。同じ種類のモンスターから採取できる魔石の形状や大きさが微妙に違ったりするし、ダンジョンに入る冒険者の数と質に依存するから産出量が安定せず相場自体が変動するのだろう。
それでも原作の
今回は親父が初めての戦闘、アタシが初めてのダンジョンに初めての解体に初めての荷物持ちに……と初めて尽くしだったので次回以降はもう少し稼げるだろう。
そして次の日、そこには
いや草。笑ってる場合じゃなかったけど。3階層でコボルトの群れに追われて必死に逃げて行くおっさん三人のパーティとかむしろ真顔になっちまったけど。
「……いいかい、ラジルカ。
「アタシらは逃げンでいいのか?」
呆れ声で忠告してくる親父に尋ねたら、親父は槍をくるりと回してから構える。地味に決まってたけど、こいつ昨日冒険者なったばっかりで万年サポーターだったんすよ。
「まぁ、コボルトだし……」
「! ラジルカ!」
「余所見すンな! できればこれ以上通すのも勘弁してくれ!」
けど、複数体が同時に攻撃して来たのを構ってる内に一体がすり抜けてこっちに来た。
こちとら解体用のナイフオンリーだ、リーチが違う。恩恵貰いたてのパルゥムとかゴブリンと分けてもおかしくないのに、初戦闘はちょっと格上のコボルトが相手。こんなことならゴブリンとタイマンさせてもらうんだったと嘆いても後の祭りだわな。
「……死ぬなよ!」
「お互いにな!」
とりあえずサイズ差を活かして爪を懐に潜り込んで避けつつそのままナイフで腿肉を抉ろうとしたんだが、普通に蹴られた。頭にターバンを巻いてなかったのが敗因だな、間違いない。
幸い……幸い? 吹っ飛ばされた方向は主戦場とは逆だったから不幸中の幸いか。蹴りも実際には脚を振っただけみてーで勢いは乗りきってなかった。それでも骨折したがな!
さすがにマイボディが貧弱すぎて泣いたわ。恩恵仕事しろって愚痴ったアタシは悪くない。
それでもナイフを手放さなかった自分を褒めながら、どうしたもんかと考えて、近付けないなら仕方ないよなと思ってナイフを投げた。同時にコボルト目掛けてまっすぐ最短距離を走り出す。
「シッ!」
「キャン!」
残念ながらナイフ投げの極意とか持ってないんで、投げたナイフはくるくる回りながら飛んで行った。今度からダーツを携帯しようと心に決めた瞬間である。
それでも割とビビったっぽくて、コボルトは悲鳴を上げて体を縮こませて、だから怪我してるアタシでも何とか間に合った。
「っしゃあ! ラッキー!」
「ギャイン!?」
そのままタックル……正確には膝の皿を目掛けて飛び込み気味に肘打ちしたわけだが。
今度は上手く決まって、向こうは尻もちをついたら腕をやたらめったら振り回してた。ちな、アタシの肘は骨にひびが入ったらしく腕を軽く動かすだけでもいっそ清々しい程に痛い。
その隙にアタシはナイフを取りに戻って、今度はちゃんと狙った。リーチギリギリで立ち止まって相手の振り回してる指先をこう、ナイフでスパっと。しっかり握ってるだけで向こうから刃を滑らせてくれてなぁ。
「ギャワン! ギャッ、ギッ……」
「無事……とは言いがたいけど、命に別状はないみたいだね」
「満身創痍だがなー。てか、片付いたのか」
「まあね。魔石の回収はこっちでやっておくよ」
「あざす。そうだ、槍貸してくれ」
「あぁ。立ち会いは要るかい?」
「いンや、大丈夫」
そうして無効化してる内に親父が他のコボルトを片付けて応援に来てくれたんで、槍を借りて自分の手で止めを刺した。
こうしてアタシは恩恵受けて僅か二日目で【ランクアップ】を……なんて上手い話はさすがになかった。初戦闘に初討伐、それに伴う大怪我とドロップアイテムが本日の成果だ。ハハッ、生き抜ける気がしねぇ。