そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

21 / 202
21.しくじりました。救援下さい。

クールに去ったのも束の間、ギルドを出たら変なのが絡んできた。

 

「おい、最近景気がいいらしいじゃねぇか」

 

気付かない振りをして通り過ぎるのが一番だな。人混みに紛れちまえば簡単に撒けるべ。こういうときは小さいって便利よな。

つーか本当ならリリを抱き締める力加減とか間違うわけにもいかねー事情があるんで体のズレってやつを確認したいんだが、さすがに今からダンジョンには潜れない。今日は予めギルド行ったら帰るからって同行を遠慮してもらったけど【アストレア・ファミリア】からの監視は継続中だし。寄り道もなー、したいけど今も普通に陰から監視してるのよ正義の眷族(アスタとイスカ)

 

「てめぇ無視するんじゃねぇ!」

「あん?」

 

馬鹿野郎こっちは【ランクアップ】直後で力加減が難しいんだぞ。なんて文句を往来で叫ぶのも恥ずかしいし、掴みかかって来たので避けながら振り向く。そこには、筋肉質なハゲのオッサンがいた。

 

「誰だてめェ」

「お、俺様を知らねぇだと!?」

 

知るわけねーじゃん。影も形もなかっただろこんなデカ顎眉なしギョロ目下の牙突き出し奴とか。人間……だよな? でもこんだけ限界ギリギリだと……まさか変装した『異端児(ゼノス)』か?

そんな訝しむアタシの態度が気に入らなかったのだろう。そいつは憤慨しながら殴りかかってきた。

 

「なめやがって! ぶっ殺してやる!!」

「うわーやられたー」

 

とりあえず自分から派手に吹き飛んでみたが、うん、こいつLv.1だわ。まず動きが遅い。当たってないから威力はわからんが、多分ウォーシャドウの爪のが痛い。

つーか地面との摩擦が全然痛くない。これがLv.2の世界なんだなーってようやく実感湧いた気がする。これがLv.1の頃だと……もう少し大袈裟に避けてたんじゃないかな、うん。とりあえず正当防衛成立だな。

にしても、こんな人混みで仕掛けるとか相当アホなんだが……少し試してみるか。

 

「ぐわーほねがおれたー。いてーよー。いしゃりょーはらえー」

「はん、調子に乗ってるからそんな目に遭うんだよ! 俺様には逆らわねぇこった!」

 

マジかよこんだけ棒読みの大根演技で引っ掛かるとか呪い系のスキル発現してんじゃねぇの? 【ステイタス】に知力の項目はねーもんなぁ。かわいそ。

 

「さぁて、それじゃまずは有り金全部寄越しな! その後はギルドの金庫から全額引き出して来いや!」

 

すげぇ、本物の、天然物の馬鹿を見た。でもこの一連の流れ描写する必要あった?

とりあえずギルドに行けとか言ってるし報告しに行くか。

 

「おう、じゃあすぐそこだから少し待ってろ」

「は、え、なんじゃこりゃあああ!?」

 

帰ったらワイヤーアート作ろうと思って行きに買った針金ですが何か。前世で掛け布団相手に練習しまくった亀甲縛りがこんなところで役立つとは……人生何があるかわかったもんじゃねぇな。荒縄じゃないから食い込まないけど、逆に見苦しさは軽減されてると信じたい。ぶっちゃけ両手親指と足首だけ結ぶのでも良かったんだが、まぁサービスだ。端を使って平面だけどチューリップの形にしておいたから許せ。

 

「すいませーん、暴漢に襲われました」

「はぁ?」

 

上級冒険者が何言ってんだって顔された。それはそう。

 

結局、現場に職員のお姉さんと守衛っぽく待機してくれてる【ガネーシャ・ファミリア】の団員を連れていったら、殴られる瞬間を露店だとか屋台だとかの人が目撃してたから証言多数でアタシの訴えは聞き入れられ、暴漢は連行されていった。何か俺様は被害者だとか喚いてたけど、せめて一人称直してもろて。

あとお姉さん。爆殺されますよって脅し文句はアカンとアタシ思うんだ。

 

 

 

帰ってから早速試作してみるワイヤーアート。せっかくなので【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】なしで挑戦してみたのだが、『神の恩恵(ファルナ)』によって補正を受けた器用がいい感じに働いたらしくすんなり完成した。出来も初めてにしてはいい感じなのでは?

 

「お姉ちゃん、これは……」

「あぁ、おとぎ話のアルゴノゥトだ」

「すごいです……まるで生きてるみたい」

 

はい、アルゴノゥトと言いつつベルをモチーフにしたワイヤーアートです。平面だけどな! でもほんの少しふっくらさせてるから完全にただの線に見える角度はないんだぜ。ちゃんとミノタウロスに挑ませてやりたかったんだが、その場合はアリアドネ王女とケーキ入刀の図になってしまうので手間が膨れ上がってしまう。却下だ、却下。

欲を言えばフィアナを作りたかったんだが普段の姿を知らんしリリの姿そのままはまずいし、自分の腕を信じきれなかったから下手な状態で見せるのは気が引けたというか。

 

「まぁ、存外やれるな」

 

この感じなら他の物も設備を借りればいい感じに売れそうな物が作れるんでねーかな。陶磁器で酒飲むコップなり保管する龜なり作ってソーマに渡しておくか。日光通すとまずいから陶器かなぁ。体験工房やってるとこ探すか、あるいは土地買って作っちまうのもありか。この辺の情報はギルド行けば教えて貰えそうだ。

話はまとまったので気持ちを切り替える。ここからはリリとのフィーバータイムだ。

 

「よし、リリ」

「なんですか? お姉ちゃん」

「工作の時間だ。遊ぶぞ」

「はい!」

 

この後めちゃくちゃ工作した。

 

 

 

「つーわけで土地が欲しいンだが」

「突然ですね……」

 

次の日、さっそくギルドで情報収集。お前が始めさせた物語だぞ、責任取って面倒見ろオラッ!

 

「落ち着けって言われたから副業に手ェ出してみるンだよ」

「はぁ……どうしてそう極端な発想を」

「異なるアプローチを得たのさ」

「何ですかそれ……資料を持ってきますので、あちらでお待ち下さい」

「へーい」

 

指定されたロビーの一室に向かい、念のためノックをして、少し待機してから改めて挨拶と共に入る。当然無人だった。

 

「お待たせしました。こちらが現在借地や売地になって……何ですか、これ?」

「あぁ? 暇潰しに作ったやつ。欲しーならやるから受付カウンターにでも置いとけば? それより資料くれ、資料」

「え、えぇ、どうぞ」

 

待ってる間に暇だったから作ったデフォルメ気味の冬季仕様シマエナガの編みぐるみと引き換えに資料を受け取る。

 

「さ~て、どんな場所が……うん、買うのは分割払いしねーと無理あるな。土地は借りる方で済ませて設備は依頼して……って、ここ……」

「気になる物件が?」

 

何件か見た後で目についたのは、原作初期の【ヘスティア・ファミリア】が拠点にしていた廃教会と思われる場所。へー、この時点で寂れてるのにここから十年以上経っても崩れてないんだ……根性すげぇなこの建物。ガチで祝福とか加護とか残ってんじゃねぇのかこれ。

こういうのって何かしらの設定(意味)が隠されてたりするんよな。原作開始直前までヘファイストスが確保してて、ヘスティアに与えてる。つまりギリシャ系の女神に関係するって線が濃厚よな。あるいはベルも関係する神と考えるべきか。うん、ヘラじゃね?

派閥の規模からすればサイズ小さいけど、あるいはオラリオ降臨時からそう時間が経たない内に建てられた文化財的な価値もあったんじゃなかろうか。そう考えると原作アポロンマジアホロン。

でもヘラに関係するなら追放される前後でフレイヤとロキに荒らされそうだし、失望から怒りに転じた民衆や恨みを抱えた闇派閥(イヴィルス)だって荒らしそうだよね。原型残ってるのすげぇよ。

まぁ、ただのそうだったら面白いなって妄想でしかねーんだが。重要なのはアタシに有用かどうかだし。

 

「あー、まぁ。安いなーと思って」

「えーと、こちらは……あれ? 引っ張り出した覚えがないですね。混入したのでしょうか」

「へー、ボロいけど立て直す予定とかあるの?」

「そういった事は滅多に行いませんね。実際に崩れて付近に迷惑を掛けそうな場合は更地にする処置も取りますけど」

「なる、ほど……? いや、だったらアカンだろ。なに勧めてンのよギルドが」

「…………」

 

そこで黙るんかい。まぁ、混入って事はフェルズの差し金か何かか? でもそんな勝率低い手段は取らんやろ。ただ、条件的には合致してるんだよな。立地的に丁度良いし、崩れそうな廃教会の見た目は人気を避けられて隠れ蓑としても機能するからプラスに働く。ここの情報そのものが厄介事の気配はするが、精々人気のない場所で話し合いくらいしか思いつかん。殺されるいわれは……ないわけじゃないのか。爆弾の危険性があるし。警告くらいはされそうだ。

 

「ちなみに下見って出来ンの?」

「えっ……あ、はい。付き添いはできませんが鍵は……こちらですね。終わったら施錠して返して頂ければ問題ありません」

「りょーかい。じゃあ少し借りるわ」

 

こうして聖地巡礼的な気分で下見に行ったんだが……

 

 

 

「貴様、何者だ!」

「知られたからには生かして帰すわけにはいかんな」

「ンだよここァ浮浪者の巣窟かァ? いい加減な仕事しやがるなギルドも」

「ギルドだと……ならば貴様も゛ッ!?」

「な、なんだこれアバッ!?」

「助ッ……」

「運が悪ィンだよなァ、アタシはよ~」

 

現場には揃ってボロい黒ローブの集団が屯してた。口では浮浪者と言ったが動きが『神の恩恵(ファルナ)』持ってるやつなんだわ。どう見ても闇派閥(イヴィルス)です本当にありがとうございました。おのれフェルズめ許さんぞ。例え冤罪だとしてもな!

 

「バベルのお膝元でよくもまぁコソコソと……オラ、さっさと歩け子供(ガキ)未満の大人(クソガキ)共」

 

とりあえず縛ってギルドまで連行だ。持ってて良かった針金と毛糸。八人程いたがタイミングが良かったのか下っ端(Lv.1)ばっかっぽかったから助かった。同格以上相手でも一個上(Lv.3)までは煙幕と粘着罠で時間稼いで人通りのある場所に行ければそれで逃げ切れるはずなんだが、楽に済むならそれに越した事ねーもんな。まぁ、もっともそんな上手くいくとも思えねぇが。

 

「……ッ!」

 

ゾワ、と背中が粟立つ心地。本能的な恨みと憎しみから来るモンスターには出せない、淡々とした暗殺者ただし二流以下が思わず漏らすような殺気を感じて、反射的にその場を飛び退く。直後、地面に突き刺さる大量の矢。なにそれアローレイン? 出所が一人じゃねぇから連携してアローアローアローアローレインとかになってそう。

 

「……クソがッ!」

 

連行していた連中は捕縛の有無以前に反応できなかったようで、軒並みハリネズミかヤマアラシみたいなオブジェに変わっていた。言うまでもなく即死だ。

相手は複数、動きを止めて狙われるのは避けたいので即座に煙玉を地面に叩き付けて、煙に紛れながら罠もバラ撒いて後退、メインストリートへと抜ける。

 

そのまま今度は人混みに紛れてギルドまで駆け込んだが、幸運にも追手はなかった。廃教会を放棄するために色々運び出すのを優先してるんだろうな。つーことはそれなりに重用な何かがあったわけで。しくじった感が半端ねぇ。今日の監視役(アストレア・ファミリア)が助けに来なかったのは事前に相手して足止めか撃退かされたんだろうか。そっちも心配っちゃ心配だ。

 

「アーデさん!?」

「よー、やべーもん出したいんだけど個室とグロ耐性あるやつよこせ?」

 

手間賃代わりに下っ端三人近い順の生首から顔だけ分かるよう適度にスライスしたもん持って来たけど、提出先はギルドでいいんだろうかこれ。つーかやらかしてるのは他ならぬアタシなんだが、やってる事がサイコパスなんよ。疑惑深まるぅ!

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