そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱)   作:夜月工房

27 / 202
27.移動しました。素材下さい。

「さて、感動の再会に水を差すようで悪いが――」

「リリ、あれは?」

「はい、邪神様です。お名前は教えてもらえませんでした」

「なるほど。だが名前を呼んでもらえないのはかわいそうだから、リリが付けてあげたらどうだ?」

「リリがですか?」

「あァ、アタシじゃ全身蓮コラ野郎とか魚の食い方汚そうな顔とか脇の下と袖の下言い間違い奴とかしか思いつかねェからな」

「なるほど……うーん」

「おーい、俺の話聞いてくれないかなー。流れるように出てくる罵倒でしかない名前は聞かなかった事にしてあげるからさー」

「あ、お姉ちゃん。邪神様が何かお話したいみたいです」

「マジか、気付かなかったわ。そんな細かい事にも気付けるなんてリリはすごいなー」

「えへへ……」

「泣くぞ!? みっともなく泣き喚くぞ!?」

 

嗚呼、素晴らしきかな愛しいリリと過ごすこの至福の一時。しかも邪神ごときですら無視をしないで自分の時間を譲るという慈悲深さ。前世のフィアナが架空の女神に奉り上げられて信仰されるんだから、そこから転生というファンタジー体験を経て現世に生まれ落ちたリリは実際化身(アヴァターラ)。よってリリは半女神なのだ。つまりそれって精霊では? なんてことだ精霊信仰(アニミズム)が生活習慣に根付いた日本人だぞこっちは。リリを崇めよ。讃えよ。誉めよ。愛でるのはアタシの特権なので許さん。

 

 

「それじゃ、改めて。ようこそ闇派閥(イヴィルス)へ、【芸術家(ファイアワーカー)】?」

「ぶっちゃけテメーを人質に取ってリリと一緒にオラリオを抜け出したい気持ちでいっぱいなんだが?」

「止めろよ? 前回のアレだってマジで気が気じゃなかったんだからな?」

 

つーか闇派閥(イヴィルス)に入るとは一言も口にしてねーんだが。人の話聞かねェ神だなこいつも。

 

「まぁ、ほら、俺が口利したから妹ちゃんの自由はそこそこ保証されてるんだし。多少は協力してよ」

「爆弾か?」

「そ、爆弾。ただ強いだけじゃなく、ちゃんと使った子が生きて帰って来られるような、ね」

「……仕様書と発注書作って持って来い。それまではこっちで好きに作る」

「助かるよ。実は割と無理を通したから周りから睨まれちゃってね。妹ちゃんの扱いとか。だから結果を出してくれると嬉しいな」

「うっかり幹部の面子が丸ごと変わるようなやつ作ってやンよ。さっさと作業場に案内しろ」

「うん、話聞いてた? 自滅、同士討ち、ダメ、絶対」

 

とりあえずこんな感じで不安を煽って、性能評価は自分でやる方式にするか。ブリューナク再誕させたらリリもダンジョン連れてくのもありだな。原作とか既にどうでも良くなって来てるし、オラリオにいようが外に出ようがダンジョンの知識は持ってて損しねーし。

なんて事を考えながら、アタシは背後から抱き締める形で堪能していたリリをお姫様抱っこして、先導を始めない邪神を待たず先に歩き出す。背後から静止や待機を求める声が聞こえるが、駆け足の音も聞こえるので無視して進む事にした。つーか、ここまでずっと沈黙を保ったままの護衛っぽい闇派閥(イヴィルス)構成員プロいな。

 

 

「えーと、ここが作業場だね」

「……ここが?」

「何にもありませんね……」

 

案内された先はそこそこの広さを持つ袋小路で、しかしリリの言葉通り設備等は一切置かれていないただの空間が広がっていた。

 

「だって俺、爆弾の作り方とか知らないし。何が必要かも分からないんだもん」

「分かるやつに聞けばいいだろ……さてはテメーぼっちか。天界でもさぞや盛大に引きこもってたんだろなァ?」

「グワーッ!」

 

理解も納得もできるが稚拙に過ぎる言い訳に、つい今後を心配して対応策を授けちまった。アタシの慈悲深い対応に邪神は感動の余り泣き崩れている。やれやれ闇派閥(イヴィルス)相手だってのに善行を積んじまうとはな。アタシの徳の高さは止まるところを知らないぜ全く。これも愛しいリリのおかげだ。

 

「まー、仕様書ができてくるまでは好きにするって言ったところだ。好きにやるさ」

「そ、そう? 助かるよ、うん」

「だが貸し一つだ。後で返してもらうぞ?」

「うへぇ、お手柔らかに」

 

どうにもアレだな。対応が緩いというか邪神ってこんなもんか感が強い。協力的な姿勢(当社比)を取ってるからか?

 

「そうと決まれば作業に移るか……人足は?」

「あー、欲しいもの言ってくれれば運ばせるよ。建築系の連中もいるから」

「ほーん。ならリストアップするのが先だな。まずは……居住スペースの確保か」

「仕事場は!?」

「そっちも考えちゃいるが、火薬使うから湿気対策が必要だな。誤爆したときの事も考えれば金属張りにして魔道具(マジックアイテム)付けて……」

「わお、もしかして結構な手間とお金が掛かる感じ?」

「ッたりめーだ。火薬やら金属やらがテメーらの都合に合わせて融通してくれると思ってンのか。ちゃんとした爆弾が欲しいなら変に惜しまねーこった。つーか地下水路とか湿気やべー場所で火薬取り扱わせるとか馬鹿じゃねーの」

「わーい出費で立場が更に危うくなるー」

 

取り扱うのが危険物な以上、少しでも快適に過ごせる環境は必要だ。その上で、人質や脅しを持ち出しても材料が駄目なら作れない。そしてそれら材料は往々にして化学的に不安定(デリケート)なのだ。生命体なんぞ使う側と言いつつ所詮は尽くして頼み込む弱い側でしかねーのよ。そういや石炭の自然発火とか知らないんだろうかこいつら。オラリオじゃ魔石産業の発達で失伝してたりしてな。それとなく発注して運び込ませてみるべ。

 

「言っとくが保管場所が同じ地下水路なら何の対策もしてなきゃゴミに変わってるからな? それ使えるようにするのに一手間二手間加わって金も時間も膨れ上がるぞ」

「あー、場所変えた方が良い系?」

「できるンならな」

 

呆れに呆れたアタシの言葉に、邪神は少し考え込むと軽く頷く。一人で納得できるしてんじゃねーよと脛を蹴ってやりたいが、リリの手前どんな悪神相手だろうと気軽に暴力を振るう姿は見せられない。

 

「じゃ、別の場所に行こっか。俺の秘密基地にご案内~」

 

へらりと笑った邪神に連れられて、アタシ達は移動を開始した。護衛が頭抱えてるけど放っといていいのアレ。

 

 

 

「と、いうわけでここを使うといいよ」

 

地下水路を練り歩き、地上――周囲の煩雑な感じは恐らくダイダロス通り――に出た後で少し歩き、目立たない建物に入って奥まった場所から地下に。何階分も階段を降りて、それが意味する事を考えて頭が痛くなった辺りで趣味の悪い謎の門に辿り着く。

門番っぽいチンピラ然としたやつと邪神が言葉を交わすと、何やら魔道具(マジックアイテム)っぽい物を使って開閉していた。めっちゃ厳重やん。つーか人造迷宮(クノッソス)じゃんよここ。ダンジョンへの直通ルート使って狩りさせてもらえねーかな。

で、内部に入って迷宮らしい複雑な道を進んだ先、地下水路の指定場所と同じような行き止まりになる部屋へ案内された。

 

「さて、ここならどうだ?」

「どうだって言われてもな……環境としては上等過ぎるわ」

 

周囲の壁は金属製で、【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】経由の鑑定ではオリハルコンやアダマンタイトが使われている。あと魔法防御高い系モンスターのドロップアイテム。これなら携帯できるサイズの爆弾が爆発してところで傷一つ付かないだろう。

空調設備は見えないが、地下であっても湿度は高くない。気温も抑えられているので個人的には過ごしやすい。火薬や金属にとっても良環境だろう。

 

「ふっ、ようやく一本取れた気がするね」

「これ壁剥がして設備にしたら駄目か?」

「扱いがぞんざいッ!?」

「いやだって爆発の被害を心配しなくてもいい環境とか詰まらねーし」

「面白さなんて優先しないでくれ……なんか時々神々(俺達)みたいになるよな」

 

ぶっちゃけ壁剥がして武器作りたい。破損した新生ブリューナクの再誕に使いたい。つーか後でこっそり使おう。剥がすんじゃなく薄くするだけだから見た目上は変化しないな、ヨシ!

 

「まー、ここなら部屋の中に新しく作業部屋を作る必要はないな。広すぎるし出入りに許可が要る辺り煩わしいが我慢するさ」

「感想が一々厚かましい……結局資材は運び入れなきゃないんだろう?」

「そりゃーなァ。無から有を生み出せるならそれに越した事ァねェが現実的じゃねェ」

「下界の子にそれされたら(俺ら)泣くぞ」

「マジかよ全力出したら『スキル』にならねーかな」

 

軽口で冗談なのだが、【異界信仰(ヴェルト・グラオブ)】は張り切ってるのでいつかは到達できる領域なのかも知れん。今でも詐欺(ペテン)でいいなら空気中から重水素と三重水素集めて核融合反応起こせるっぽいが、加減を間違えて余波で死ねる気しかしない。重量辺りのエネルギー量とか知らんし。

 

「止めろよ? 絶対止めろよ?」

「あ、それ前にやれって意味だよって邪神様が教えてくれたやつですね!」

「うおぉぉぉぉやっちまったぁぁぁぁ過去の俺の馬鹿ぁ!?」

「え? え?」

「よしよし、偉いぞリリ」

 

置いてけぼりにされて寂しいから理解できる部分に反応して話に混ざる……愛い愛い。リリのナイスツッコミに邪神は後悔と自責の念で押し潰されそうになってるぞ、トドメオサセー!

 

「とりあえず鍛冶と調合に使う設備一式が必要だな。それと爆弾の材料になる火薬と金属、火薬はあるなら火炎石が欲しいとこだな。後は住み込みだから干し藁と布でもいいから布団……食事はどうすりゃいいんだ?」

「各自調達だねー。一応、食料調達部門はあるからヴァリス払えば買えるよ……食材は」

「へー、それを虜囚のアタシにも使えるってンなら上等だ」

「大丈夫、大丈夫。構成員の顔なんて有名どころじゃなきゃ割れてないし、入れ替わりも激しいから誰も気にしないよ」

 

つーわけで食料庫になってる部屋を尋ねたら、邪神の言う通り何事もなく利用できた。割高ではあったが、こんな僻地というか吹き溜まりや掃き溜めみたいな場所だし、チップと思えば呑み込める程度でしかない……嫌な観光地価格もあったもんだとげっそりさせられたが。やっぱ地道に壁薄くしてやるわ、得しかねぇもん。

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